<<目次へ 【決 議】自由法曹団
一 茨城県東海村の核燃料工場(ジェー・シー・オー東海事業所)で起きた臨界事故は、国の内外に大きな衝撃を与えた。作業員を含む六九名が被曝する国内の原子力事業上最悪の事故(国際評価尺度でレベル四)となった。いったい何故こんな事故が起きたのか、日本の原子力行政はどうなっているのかという声がわきあがっている。
二 今回の事故の根本には、原子力に対する「安全神話」が牢固としてあることが浮き彫りとなった。二〇年前にアメリカでスリーマイル島事故が起きた時に、ケメニー事故調査委員会は、「安全に対する過信、思い込み(マインド・セット)が事故の最大の原因である。」と結論づけた。旧ソ連のチェルノブイリ事故も、安全に対する過信・慣れがあって引き起こされたものであると指摘されている。
日本の原子力行政当局・産業界は、これら事故から何らの教訓を得ることなく、原子力発電を推進するために「原子力は安全です。」と盛んに宣伝に努めてきた。原子力は本来危険なものであり、原子力技術は未成熟なものだという当たり前の事実を意図的にかくしてきた。「安全神話」という作り話に固執するからこそ、臨界事故を未然に防止する安全対策が全くとられず、事故が発生した場合にそれを制御・抑制するシステムもつくられていないのである。事故後の通報・避難体制も全く不備であった。
三 この事故を教訓として、今こそ「安全神話」を投げ捨て、安全性を最大限に追求する原子力行政に転換すべきである。例えば、原子力安全委員をサポートする技術職がわずか四人しかいない状況を早急に改善すべきである。科学技術庁は、バックに二〇〇名の科学者グループがいると説明するが、このグループはパートタイマーにしか過ぎない。現状では、安全審査といっても申請書の書類審査しか出来ず、申請者のデータに依存するしかない。このことは、施設設置後の検査体制においても同様である。独立した充分な数の専任スタッフを置くことが最低必要である。そして、原子力を推進する立場ではなく、安全面からチェックする立場で審査することを徹底すべきである。
四 また、原子力に偏重したエネルギー政策を転換して、再生可能なエネルギーなど新しいエネルギーの研究・実用化を本格的に進めるべきである。原子力発電の新増設、特に世界各国が撤退した危険なプルトニウムを利用する方式の原子力発電を直ちに止めるべきである。今回の事故も「常陽」というプルトニウムを使う試験炉のための材料を造る過程のものである。日本の原子力利用長期計画は、今後も年に二基増設することになっている。このままでいくと、原子力施設が日本列島至る所に造られることになる。原発が増えれば、核燃料製造加工施設や核廃棄物処理施設、再処理施設などが連動して増えることとなるからである。
原子力の危険から身を守るためには、今の原発推進政策を見直さないと解決の方向は出てこない。ウラン資源がほとんどない日本で、外国のウランに依存するのは危険である。いままで原子力開発に向けられた膨大な国家予算の額を考えれば、同様な位置づけをすれば新しいエネルギーの研究・実用化は十分に可能であると考える。
五 日本の原子力行政・エネルギー政策を根本的に転換することこそ、今回の事故の最大の教訓というべきであり、事故の再発を防止する重要な要素となるものと確信する。
私たちは、この根本的転換のために力を尽くすことを決意する。
一九九九年一〇月二五日
自由法曹団一九九九年総会