生活保護の生活扶助、母子加算の引き下げに断固反対する声明
1 安倍政権は、都市部を中心に生活保護の生活扶助の金額が一般の低所得世帯の生活費を上回っていることを理由に、生活扶助費及び母子加算を2018年10月から段階的に減額することを決定した。生活扶助費の減額幅は最大5%、母子加算の減額幅は平均2割とされ、厚生労働省は、都市部・単身世帯を中心に約7割の世帯で減額となると発表している。
2 しかし、生活保護基準は、現状でも社会的必需を満たさない「最低限度の生活」以下のものになっている。近時厚生労働省が示した「『家庭の生活実態及び生活意識に関する調査』に関する分析について」によれば、「食事の頻度(1日2回以上)」、「携帯電話(スマートフォン、PHSを含む)の保有」等といった「社会的必需項目」について、一般世帯と異なり、生活保護利用世帯の大半に不足が見られ、特に子供のいる世帯において深刻である。
そもそも、日本の生活保護の補足率は20%程度といわれ、ヨーロッパ諸国の補足率50〜90%程度より顕著に低い。収入が低い方から10%以内の低所得者世帯と消費水準を比較するようになった現在の手法によれば、「低所得世帯」に生活保護基準以下の収入しかない世帯が多く含まれることになり、低所得世帯の消費水準を生活保護基準が上回ることになる。このように年間収入階級第1・十分位層と比較する現在の水準均衡方式は、とどまることのない生活保護基準の引き下げをもたらすと従前から多くの批判が寄せられてきたところであり、そのような手法による生活扶助、母子加算の引き下げは不当である。
また、生活扶助費は、恣意的な指標を用いて導いた「物価下落」を口実に、2013年度から2015年度にかけて平均6.5%減額されたばかりであり(加えて2015年度には住宅扶助費や冬季加算の減額も行われている)、多くの生活保護利用者が生活できない切実な実態を訴え、憲法25条に違反するとして訴訟が提起されている。しかも、消費税の8%への引き上げや円安等の影響による物価上昇によっても、生活保護利用者の生活は悪化している。
このたびの生活扶助・母子加算の引き下げは、すでに「最低限度の生活」に足りない生活保護の水準を、生きていくことや子育ても困難な水準に、さらに引き下げようとするものである。
3 加えて、生活保護基準は、就学援助や高校生の奨学金、大学の入学金・授業料の減免や国民健康保険の保険料の減免等多くの社会保障制度の基準となっている。療養費の負担限度額に影響する住民税の非課税限度額や、最低賃金額など、生活保護基準が参照されている社会保障制度も多い。
生活扶助をはじめとする生活保護基準の切り下げは、生活保護利用者の問題にとどまらず、広く一般の生活に悪影響を与えるものであり、格差と貧困をいっそう深める。
4 安倍政権は、自助・共助を強調し、社会保障費の抑制を掲げて年金カットをはじめ幅広く社会保障制度の改悪を行い、他方で大企業・富裕層に大きく恩恵をもたらす株高、法人税減税等の経済政策を行ってきた。いま、働く人の賃金はほとんど上がらず、生活保護の利用者数は毎月過去最高を更新する一方で、大企業の内部留保は400兆円を超え、上位2%の富裕層に20%を超える資産が集中し、また莫大な利益を挙げてもほとんど法人税を払っていない大企業や、タックスヘイブンへの大企業・富裕層の投資等不公平税制を指摘する声が高まっている。
格差と貧困をさらに深刻化させる生活扶助・母子加算の切り下げは、すべての国民に「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を保障し、国に社会福祉、社会保障等の向上・増進の責務を負わせる憲法25条に悖るものであり、断固阻止されなければならない。
いま求められている政策は、都市部の生活扶助費や母子加算を引き下げることではなく、低所得のもとで困難な生活を余儀なくされている層の賃金や社会保障給付を全体的に底上げすることにより、格差と貧困を克服することであり、地方の生活保護基準の底上げ、生計費を満たす最低賃金の大幅な引き上げ、各種の社会保障の給付水準の引き上げ等を行うべきである。この間の経済政策により恩恵を受けてきた大企業や富裕層に対する不公平税制を改めることにより、そのような政策の財源を調達することは十分可能である。
5 自由法曹団は、今般の厚生労働省が提示した生活扶助・母子加算の引き下げ案に断固反対するとともに、生活保護制度をはじめとする社会保障制度全般を改善し、格差と貧困を克服することに全力を尽くす。
2017年12月27日
自 由 法 曹 団
団長 船 尾 徹