「働き方改革」一括法案の
国会提出の断念を要求する意見書
2018年3月20日
自 由 法 曹 団
〔目次〕
1 はじめに…………………………………………………………………
1頁
2 安倍政権と財界が主導する「公労使3者構成原則」を蹂躙する
法案作成過程……………………………………………………………… 4頁
3 高度プロフェッショナル制度(特定高度専門業務・成果型労働制)
の創設はただちに断念を………………………………………………… 7頁
4 企画業務型裁量労働制の対象業務の拡大は「先送り」ではなく
ただちに「断念」を………………………………………………………12頁
5 「過労死ライン」を容認する「時間外・休日労働の上限規制」…16頁
6 格差を固定化し、拡大するパートタイム・有期雇用労働法案と
労働者派遣法「改正」案………………………………………………
20頁
7 労働法の保護をなくす「雇用関係によらない働き方」の
普及拡大…………………………………………………………………
24頁
8 おわりに……………………………………………………………… 27頁
「働き方改革」一括法案の国会提出の断念を要求する意見書
2018年3月20日
自由法曹団
1 はじめに
(1)「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案要綱」の概要
労働政策審議会は、厚生労働省が2017年9月8日に労働政策審議会に諮問した「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案要綱」(以下「法律案要綱」もしくは「要綱」という)について、9月15日、厚生労働大臣に対して、「厚生労働省案は、おおむね妥当と認める。」と答申した。この答申を受けて、安倍内閣は、2018年の通常国会に「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案」(以下「『働き方改革』一括法案」もしくは「一括法案」という)を提出し、その成立を図ろうとしている。
「働き方改革」一括法案は、下記の8本の法律の「改正」案を一括した法案である。
@ 労働基準法の一部改正
A じん肺法の一部改正
B 雇用対策法の一部改正
題名を「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」(以下「労働施策総合推進法」という)に改める。
C 労働安全衛生法の一部改正
D 労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(以下「労働者派遣法」という)の一部改正
E 労働時間等の設定の改善に関する特別措置法の一部改正
F 短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律の一部改正
題名を「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(以下「パートタイム・有期雇用労働法」という)に改める。
G 労働契約法の一部改正
本意見書では、法律案要綱に基づいて一括法案を検討し、批判する。各文章の末尾の括弧内にある符合は、要綱の各条項につけられた符合である。
(2)国会審議の軽視と議会制民主主義の否定
一括法案には8本の法律の「改正」案が含まれている。本来、一つ一つの法案を丁寧に審議し、別々に議決すべきである。8本の法律の「改正」案を一括で審議し、議決することを求める一括法案は、国会審議を軽視し、議会制民主主義を否定する法案である。
(3)一括法案の基本法の位置を占める労働施策総合推進法案
雇用対策法から題名を改めた労働施策総合推進法案は、その題名からも、また、その内容からも一括法案の基本法の位置を占めている。
ア 目的に「労働生産性の向上等を促進」を規定
労働施策総合推進法案は、雇用対策法の時の目的「労働力の需給が質量両面にわたり均衡することを促進して、労働者がその有する能力を有効に発揮することができるようにし」を「労働者の多様な事情に応じた雇用の安定及び職業生活の充実、労働生産性の向上等を促進して、労働者がその有する能力を有効に発揮することができるようにし」に変更している。これは、「働き方改革実行計画」の「働き方改革こそが、労働生産性を改善するための最良の手段である。(中略)働き方改革は、社会問題であるとともに、経済問題であり、日本経済の潜在成長力の底上げにもつながる、第三の矢・構造改革の柱となる改革である。」(2頁)を受けた変更である。
要綱は、憲法27条2項の「適正な法定労働条件の保障」には一言も触れていない。この点において、一括法案が、労働者の雇用と労働条件を守ることを目的とする法案ではなく、企業の労働生産性の向上の促進のために、労働強化やリストラ解雇も容認する法案であることが明白である。
イ 国の施策として「多様な就業形態の普及」を規定
労働施策総合推進法案は、国の施策として、「多様な就業形態の普及」を規定している。これは、「働き方改革実行計画」の「安倍内閣は、一人ひとりの意思や能力、そして置かれた個々の事情に応じた、多様で柔軟な働き方を選択可能とする社会を追求する。働く人の視点に立って、労働制度に抜本改革を行い、企業文化や風土を変えようとするものである。」(2頁)を受けた規定である。
上記の「多様な就業形態の普及」は、有期契約労働者、派遣労働者、パートタイム労働者等の「非正規雇用の働き方」の普及だけではなく、「雇用関係によらない働き方」=雇用の請負委託化の普及を含む考え方である。一括法案の下では、正社員の非正規労働者化だけではなく、雇用の請負委託化も促進されることになる。これが、安倍政権と財界が描く今後の雇用社会の姿である。
(4)ねつ造データに基づく法案作成
安倍首相は、2018年1月29日の衆院予算委員会で、厚生労働省の「平成25年度労働時間等総合実態調査結果」をもとに算出されたという一般労働者の労働時間・平均9時間37分、企画業務型裁量労働制の労働者の労働時間・平均9時間16分というデータの存在を前提にして、「裁量労働制で働く方の労働時間の長さは、平均的な方で比べれば、一般労働者よりも短いというデータもある」と答弁した。
しかし、上記データは、一般労働者の労働時間について、「1か月で最も残業が多い1日の残業時間」を「平均1時間37分」とし、これに法定労働時間の8時間を加えて「平均労働時間9時間37分」を算出している。これに対し、企画業務型裁量労働制の労働者の労働時間の方は、「通常の1日の労働時間」として「平均労働時間9時間16分」を算出している。このように、一般労働者のデータと企画業務型裁量労働制の労働者のデータは、算出する前提が異なり、そもそも比較できないものである。また、「平成25年度労働時間等総合実態調査結果」で公表されている平均的な一般労働者の1週間の残業時間は「平均2時間47分」であり、「1日平均33分」である。前記の一般労働者の残業時間「1日平均1時間37分」は、これとの比較でも1日1時間以上過大である。しかも、一般労働者の労働時間に加算した法定労働時間の8時間は、実際に働いたか否か不明な労働時間である。これらのことからして、上記データは、一般労働者の労働時間が長くなるように、企画業務型裁量労働制の労働者の労働時間の方が短くなるようにねつ造されたものと断ぜざるを得ない。上記ねつ造に加えて、「平成25年度労働時間等総合実態調査結果」に同じ人の残業時間が1日よりも1か月の方が短いなどの異常な数値が350件以上も発見されるに及んで、安倍首相は、3月1日の参院予算委員会で、一括法案から「裁量労働制にかかわる部分は全面削除する」と、今国会での提出を断念することを表明するに至った。
安倍首相は、引き続き、@「残業代ゼロ」の高度プロフェッショナル制度、A「過労死合法化」の100時間未満・80時間の残業上限、B正社員と非正規労働者の格差固定化、C雇用の請負委託化等を内容とする一括法案の国会提出に固執している。しかし、350件以上の異常な数値を含む「平成25年度労働時間等総合実態調査結果」は、「今後の労働時間法制の在り方について」を議題とする2013年10月30日の第104回労働政策審議会労働条件分科会に提出され、高度プロフェッショナル制度の審議の資料にもされている。この点からしても、高度プロフェッショナル制度等を含む一括法案の国会提出は、とうてい許されない。安倍内閣は、一括法案の国会提出をただちに断念するべきである。
2 安倍政権と財界が主導する「公労使3者構成原則」を蹂躙する法案作成過程
(1)高度プロフェッショナル制度創設と企画業務型裁量労働制の対象業務拡大のための労働基準法の一部改正のための「改正」案作成過程
ア 廃案になった労働基準法「改正」案を引き継ぐ
安倍内閣は、2015年4月3日、高度プロフェッショナル制度の創設や企画業務型裁量労働制の対象業務拡大を定める労働基準法「改正」案等を国会に提出した。その後、同法案は国会で一度も審議されないまま、2017年9月28日、衆議院が解散されたことにより廃案となった。
高度プロフェッショナル制度創設や企画業務型裁量労働制の対象業務拡大を定める法律案要綱の労働基準法「改正」部分は、わずかの修正を除いて、基本的に廃案になった労働基準法「改正」案及び同「改正」案のもとになった労働政策審議会の2015年2月13日付「今後の労働時間法制等の在り方について(建議)」を引き継いでおり、建議のための労働政策審議会の審議を再度行ったわけではない。
イ 労働政策審議会を内閣の下請機関化
高度プロフェッショナル制度と企画業務型裁量労働制の対象業務の拡大を含む労働時間法制の見直しは、「日本を企業が世界で一番活躍できる国にする」「労働規制をはじめとする岩盤規制にドリルで穴をあける」ことを方針として掲げた安倍政権のもと、安倍首相を議長とし、閣僚や財界代表や有識者からなり、労働者代表は一人もいない産業競争力会議と規制改革会議で議論されたうえ、2013年6月14日の「日本再興戦略」及び2014年6月24日の「『日本再興戦略』改訂2014」で閣議決定され、政府方針となった。
上記閣議決定を受けて公労使3者構成の労働政策審議会が開催され、労働政策審議会は、2015年2月13日、閣議決定どおりの法案作成を認める建議を行い、安倍内閣は、同年4月3日、高度プロフェッショナル制度の創設や企画業務型裁量労働制の対象業務拡大を定める労働基準法「改正」案等を国会に提出した。
安倍内閣の上記のようなやり方は、内閣で基本的な在り方と枠組みを決定し、労働政策審議会に追認させるやり方である。このように労働政策審議会を内閣の下請機関にするようなやり方は、ILO(国際労働機関)条約等で確認されている「労働政策に関する重要事項は労使公益の3者構成で調査審議すべき」との3者構成原則の趣旨を踏みにじるものであり、とうてい容認できない。
ウ 労働者代表委員の異議を抑圧して強権的にとりまとめ
(ア)2015年2月13日付建議
労働政策審議会の2015年2月13日付「今後の労働時間法制等の在り方について(建議)」には、「なお、労働者代表委員から、企画業務型裁量労働制の対象業務に新たな類型を追加することについて、みなし労働時間のもとに長時間労働に対する抑止力が作用せず、その結果、長時間労働となるおそれが高まる労働者の範囲が拡大することとなることから認められないとの意見があった。」、「また、労働者代表委員から、高度プロフェッショナル制度について、既に柔軟な働き方を可能とする他の制度が存在し、現行制度のもとでも成果と報酬を連動させることは十分可能であり現に実施されていること及び長時間労働となるおそれがあること等から新たな制度の創設は認められないとの意見があった。」と記載されている。
(イ)労働政策審議会の2017年9月15日付答申
厚生労働省の2017年9月8日付法律案要綱についての諮問に対する、労働政策審議会の2017年9月15日付答申には、「労働者代表委員から、(中略)企画業務型裁量労働制の対象業務の拡大及び特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)の創設については、当分科会で指摘してきた懸念点について、労働者の健康確保の重要性に関する公労使三者の共通認識の下、対象業務の範囲の明確化、健康確保措置の強化といった修正がなされたが、長時間労働を助長するおそれがなお払拭されておらず、実施すべきではないとの考え方に変わりはない、との意見があった。」と記載されている。
(ウ)公労使3者構成原則の蹂躙
このような労働者代表委員の異議を抑圧して強権的にとりまと めるやり方は、ILO条約等で確認されている前記の公労使3者構成原則の趣旨を踏みにじるものであり、とうてい容認できない。
(2)時間外労働の上限規制のための労働基準法の一部改正、雇用対策法の一部改正(労働施策総合推進法への改題等)、パートタイム労働法等の一部改正のための「改正」案作成過程
安倍政権は、2016年9月26日、安倍首相を議長とし、閣僚や財界代表や有識者からなり、労働者代表は連合会長一人しかいない「働き方改革実現会議」を設置し、同会議で、同一労働同一賃金、長時間労働の是正等を検討し、同会議は、2017年3月28日、「働き方改革実行計画」を決定した。
上記実行計画を受けて、時間外労働の上限規制、同一労働同一賃金それぞれについて、労働政策審議会が開催された。労働政策審議会は、2017年6月5日、実行計画の内容に沿った「時間外労働の上限規制等について(建議)」との建議を行った。次いで、労働政策審議会は、2017年6月16日、実行計画の内容に沿った「同一労働同一賃金に関する法整備について」(建議)との建議を行った。法律案要綱は、これらの建議を受けて作成されている。
なお、雇用対策法の一部改正は、働き方改革実現会議でもまったく議論されておらず、実行計画にも書かれていない。それが、突如、2017年9月1日の労働政策審議会職業安定分科会に、厚生労働省から「改正」案の概要が示され、9月8日諮問の法案要綱の中に盛り込まれたものである。
安倍内閣は、時間外労働の上限規制のための労働基準法の一部改正、パートタイム労働法等の一部改正においても、内閣の下の「働き方改革実現会議」で基本的な在り方と枠組みを決定し、それを労働政策審議会に追認させている。このように労働政策審議会を内閣の下請機関にするようなやり方は、ILO条約等で確認されている前記の公労使3者構成原則の趣旨を踏みにじるものであり、とうてい容認できない。
3 高度プロフェッショナル制度(特定高度専門業務・成果型労働制)の創設はただちに断念を
(1)労働時間規制の適用除外制度
―「残業代ゼロ・過労死促進」法案
高度プロフェッショナル制度とは、高度の専門的知識等を必要とする一定の業務に従事する労働者のうち、一定水準以上の賃金が支払われると見込まれる労働者について、「労働基準法第四章で定める労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定」を適用しないとする、すべての労働時間規制を適用除外する制度である(第一 六)。
したがって、高度プロフェッショナル制度の下で働く労働者には、1日8時間、週40時間の労働時間規制が適用されず、かつ、休憩時間や週1回の休日を与えなくてもよく、残業代を支払わなくてもよいとされている。また、深夜労働に対する割増賃金も支払わなくてよいとされている。その結果、高度プロフェッショナル制度の下では、長時間労働が蔓延することになる。
高度プロフェッショナル制度は、究極の「残業代ゼロ・過労死促進」法案である。
(2)使用者の指揮命令権、業務指示権
労働基準法第38条の3の1項1号は、専門業務型裁量労働制について、その対象業務を「当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をすることが困難なものとして厚生労働省令で定める業務のうち、労働者に就かせることとする業務」と定めている。また、労働基準法第38条の4の1項1号は、企画業務型裁量労働制について、その対象業務を「当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする業務」と定めている。
これに対し、法律案要綱は、高度プロフェッショナル制度の対象業務について、上記のようなことは一言も定めていない。要綱では、使用者が、高度プロフェッショナル制度の下で働く労働者に対して、指揮命令権、業務指示権を有し、際限のない長時間労働や深夜労働を命ずることができる。
(3)際限のない長時間労働
使用者は、高度プロフェッショナル制度の下で働く労働者に対して、年5日の年次有給休暇を時季を指定して与えなければならず、また、年間104日以上の休日を与えなければならないが、これ以外の時間に労働させることは一切禁止されていない。したがって、使用者は、1年間365日のうち、これらの109日を除いた256日は、休憩を取らせず、かつ残業代を支払うことなく24時間働かせることができ、年間6144時間(256日×24時間)働かせることが可能である。
また、要綱は、健康確保措置として、4週間で4日以上の休日の付与を定めているが、これでは、4週間の最初にまとめて4日の休日を与えれば、残りの24日間は休日を与えず、かつ休憩も与えずに1日24時間働かせることが可能である。また、それに続く4週間については、最後にまとめて4日間の休日を与えることも可能であり、この場合には48日間連続して1日24時間働かせることが可能であり、連続1152時間の労働を強いることも適法である。
高度プロフェッショナル制度は、上記のような常軌を逸した長時間労働を適法とする制度である。使用者は、何時間働かせようが残業代を一切支払う必要がないため、労働者に高い成果をあげさせるため際限のない長時間労働を命ずることになる。この様な法制度は、まさに「残業代ゼロ・過労死促進」法というべき制度である。
(4)高度プロフェッショナル制度導入の要件
高度プロフェッショナル制度導入の要件は、以下の4つである。
ア 使用者及び労働者の代表を構成員とする委員会の設置(第一 六 1)
この委員会は、賃金、労働時間等の労働条件に関する事項を調査審議し、事業主に対し当該事項について意見を述べることを目的とする委員会とされている(企画業務型裁量労働制の労使委員会に関する規定が準用されることになっている。)。
イ この委員会が委員の5分の4以上の多数による議決により次の9つの事項について決議をすること(第一 六 1)
➀ 労働者に就かせる対象業務(第一 六 1(一))
対象業務は、高度の専門的知識等を必要とし、時間と成果との関連性が通常高くないと認められるものとして厚生労働省令で定める業務のうち、労働者に就かせる業務
A 次のいずれにも該当する労働者で、対象業務に就かせようとする労働者の範囲(第一 六 1(二))
@ 職務が明確に定められている労働者
A 見込まれる年収額が基準年間平均給与額の3倍の額を相当程度上回る水準の額以上の労働者
上記年収額について、平成27年2月13日付労働政策審議会の建議は、「労働基準法第14条に基づく告示の内容(1075万円)を参考に、法案成立後、改めて審議会で検討の上、省令で規定することが適当である。」としている。
B 対象労働者の健康管理時間を把握する措置を使用者が講ずること。(第一 六 1(三))
C 対象労働者に対し、1年間を通じ104日以上、かつ、4週間を通じ4日以上の休日を使用者が与えること。(第一 六 1(四))
D 対象労働者に対する次の4つのいずれかの健康確保措置を使用 者が講ずること。(第一 六 1(五))
@ 始業から24時間以内に継続した一定時間以上の休息時間(インターバル時間)を確保し、かつ、1か月あたりの深夜業の回数を一定の回数以内とすること。
A 1か月または3か月あたりの健康管理時間(対象労働者が事業場内にいた時間と事業場外において労働した時間との合計の時間)を一定の時間を超えない範囲内とすること。
B 1年に1回以上の継続した2週間(労働者が請求した場合においては、1年に2回以上の継続した1週間)の休日を与えること。
C 厚生労働省令で定める要件に該当する労働者に健康診断を実 施すること。
E 健康管理時間の状況に応じた、有給休暇の付与、健康診断の実施等、厚生労働省令で定める措置を使用者が講ずること。(第一 六 1(六))
F 苦情の処理に関する措置を使用者が講ずること。(第一 六 1(七))
G 同意をしなかった対象労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしないこと。(第一 六 1(八))
H その他厚生労働省令で定める事項(第一 六 1(九))
ウ 使用者が委員会の決議を行政官庁に届け出ること
エ 書面等の方法による対象労働者の同意
(5)いくらでも拡大される対象業務
高度プロフェッショナル制度の対象業務について、平成27年2月13日付労働政策審議会の建議は、「具体的には、金融商品の開発業務、金融商品のディーリング業務、アナリストの業務(企業・市場等の高度な分析業務)、コンサルタントの業務(事業・業務の企画運営に関する高度な考案又は助言の業務)、研究開発業務等を念頭に、法案成立後、改めて審議会で検討の上、省令で適切に規定することが適当である。」としている。
このように対象業務の定めについては、厚生労働省令で定めるものとされており、国会で審議されることなくいくらでも拡大することができる仕組みになっている。
(6)歯止めにならない年収要件
―年収要件切下げの危険
安倍首相は、2014年6月16日の衆院決算行政監視委員会で、「5年後も10年後も1000万円から下がらないということでよろしいですか」との質問に対して、「経済というのは生き物ですから、将来の全体の賃金水準、そして物価水準というのは、これはなかなかわからないわけです。」と答弁し、将来年収要件が切り下げられる可能性を否定していない。
経団連の榊原会長は、前回の、高度プロフェッショナル制度を含む労働基準法「改正」案が国会に提出された直後の2015年4月6日、「最終的にこの制度を実効性あるものにするには、年収要件を緩和して、対象職種も広げないといけない。」と述べている。
日本経団連は、2006年6月21日付「ホワイトカラーエグゼンプションに関する提言」で、ホワイトカラー・エグゼンプションの年収要件を「当該年における年収の額が400万円(又は全労働者の平均給与所得)以上であること」と提言している。
以上の発言や提言からして、年収要件切下げの危険は、明白かつ現実の危険である。
(7)実効性のない健康確保措置
ア 1年間104日以上、かつ、4週間で4日以上の休日の付与(第一 六 1(四))
1年間104日間の休日の付与とは、週休2日だけ付与すればよいということである。あとの261日は、正月、盆、祝祭日も休まず働くことになる。十分な健康確保措置とはとうてい言えない。
4週間で4日以上の休日の付与とは、4週間の最初にまとめて4日の休日を与えてしまえば、残りの24日間は休日を与えず、かつ休憩も与えずに1日24時間働かせることが可能である。また、それに続く4週間については、最後にまとめて4日間の休日を与えることも可能であり、この場合には48日間連続して1日24時間働かせることが可能であり、連続1152時間の労働を強いることも適法である。健康確保措置と呼べるような制度ではない。
イ 4つのいずれかの健康確保措置(第一 六 1(五))
使用者は、4つの健康確保措置のうちのいずれかの措置を講ずることとされているが、実際には最も簡便かつ負担の少ない「一定の要件に該当する労働者に対する健康診断の実施」を選択することになると指摘されており、「4つのいずれかの健康確保措置」が労働者の休息の確保や長時間労働の制限につながる保障は全くない。
ウ 健康管理時間の状況に応じた、有給休暇の付与、健康診断の実施等の措置(第一 六 1(六))
この措置は、使用者が講じなくても高度プロフェッショナル制度の適用は否定されず、その実効性は疑わしい。
(8)高度プロフェッショナル制度が強要される危険
高度プロフェッショナル制度の導入に当たっては、労使委員会の決議と当該労働者の書面等の方法による同意が必要とされている。しかし、現在の日本の職場の労使状況からして、使用者の意向を反映した労使委員会の決議がなされるであろう。また、使用者から同意を求められた場合、昇進等への影響も考えられ、労働者が同意を拒否することは極めて困難であろう。同意しない労働者に対する不利益取扱いは禁止されているが、同意を拒否した労働者を不利益取扱いしても高度プロフェッショナル制度の適用は否定されない上、不利益取扱いの立証やそれが同意しなかったことによるとの立証は労働者がしなければならず、不利益取扱い禁止の実効性は乏しい。
(9)濫用の危険
法案要綱には、高度プロフェッショナル制度の濫用的導入や運用を規制する定めはない。高度プロフェッショナル制度は、制度導入の要件や健康確保措置等が複雑多岐にわたっており、これらの要件や措置等が厳格に適用される保障はなく、職場で濫用的、拡大的に運用されるおそれがある。
(10)おわりに
以上のとおり、高度プロフェッショナル制度の下では、残業代ゼロの下で際限のない長時間労働が強いられ、健康確保措置の実効性もない。まさに、究極の「残業代ゼロ・過労死促進」法案である。政府は、高度プロフェッショナル制度の創設をただちに断念すべきである。
4 企画業務型裁量労働制の対象業務の拡大は「先送り」ではなくただちに「断念」を
(1)法案要綱に盛り込まれた企画業務型裁量労働制の対象業務の拡大
裁量労働制とは、一定の専門的・裁量的業務に従事する労働者について事業場の労使協定において実際の労働時間数にかかわらず一定の労働時間だけを労働したものとみなす制度である(菅野和夫「労働法(第十一版補正版)」519頁)。例えば、一日のみなし労働時間を9時間と設定すれば、12時間働いても残業代は1時間分しかでず(3時間は「ただ働き」)、使用者からみれば定額のわずかな残業代で「働かせ放題」、労働者からみれば無限定(やればやるほど)の「ただ働き」制度と言わざるを得ないものである。
法案要綱は、企画業務型裁量労働制の対象業務の拡大として、次の業務を追加することとしている(第一 五 1)。
@ 事業の運営に関する事項について繰り返し、企画、立案、調査及び分析を主として行うとともに、これらの成果を活用し、当該事業の運営に関する事項の実施状況の把握及び評価を行う業務(第一 五 1(一))
A 法人である顧客の事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析を主として行うとともに、これらの成果を活用し、当該顧客に対して販売又は提供する商品又は役務を専ら当該顧客のために開発し、当該顧客に提案する業務(主として商品の販売又は役務の提供を行う事業場において当該業務を行う場合を除く。)(第一 五 1(二))
現行の企画業務型裁量労働制の対象業務は、「事業の運営に関する企画・立案・調査・分析の業務であって、その性質上その遂行方法を大幅に労働者に委ねる必要があるため、その業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする業務」というように狭く限定されている(労働基準法第38条の4の1項1号、要するに「企画・立案・調査・分析の業務」に限定されている)ことから、使用者にとって「使い勝手」が悪く、その採用企業もごくわずかにとどまっている。企画業務型裁量労働制の対象業務の拡大は、上記の現状に対して、その対象業務を大幅に拡大して広く事務系・営業系社員等に対して適用できるようにしたいという財界の強い要求に応じた改定案である。例えば、新経済連盟は、2017年1月27日付の意見書で、裁量労働制の対象業務について、「例外的に認める業務を列挙する形(ポジティブリスト)から、裁量労働制を認めない業務を列挙する形(ネガティブリスト)へ転換することも検討が必要と考える」と述べて、対象業務の抜本的な拡大を提言している。
この企画業務型裁量労働制の対象業務の拡大については、前述したとおり、比較データのねつ造や労働時間調査結果における異常値の発覚により、安倍内閣は、今回の法案からは削除することにしたが、2019年以降に再提出しようとしている。しかし、無限の「ただ働き」長時間労働を生み出し、過労死・過労自殺を増大させる企画業務型裁量労働制の対象業務の拡大は、「先送り」ではなく、今ここできっぱり「断念」すべきである。
(2)法案要綱による対象業務の大幅拡大の懸念
ア 実施把握評価業務
今回の改定で追加される業務の一つ目は、従来、「企画・立案・調査・分析の業務」に限定されていた企画業務型裁量労働制の対象業務を、「これらの成果を活用し、当該事業の運営に関する事項の実施状況の把握及び評価を行う業務」に広げるものである。
「事業の運営に関する事項の実施状況を把握して、その評価を行う業務」というのは、企画・立案等にとどまらず、その結果を用いて施策を推進ないし遂行する業務を広く含めようという意図のものであり、その定義自体が、抽象的かつあいまいであることもあって、それが具体的にどのような業務を指すのか、その外縁、限界はどこにあるのか全く不明確である。
その不明確さを補うために、要綱では、この業務が「事業の運営に関する事項の実施方法の改善を行うものである」ことを指針に定めることとしている。しかし、そのように限定してもなお、「実施状況を把握して評価し、実施方法を改善する業務」というのは、生産・販売・物流・設備計画の担当者、人員・安全計画の担当者、予算・事業計画の担当者等の業務を幅広く包摂しうるものであり、その対象が無限定に広がるおそれは払拭されていない。
また、そもそも、具体的にどの業務が、この「実施把握評価業務」にあたるのかを決めるのは事業場の労使委員会であり、このようなあいまいかつ抽象的な定め方では、その恣意的、濫用的な拡大解釈・適用を防ぐことはできない。
イ 法人提案型営業
今回の改定で追加される業務の二つ目は、従来の「企画・立案・調査・分析」の業務とは全く異質の法人顧客に対する提案型営業の業務である。
法人顧客の運営に関する事項について企画、立案等を行ったうえで、当該顧客用の商品を開発して提案する業務は、今日いわゆる「法人営業」「ソリューション営業」として、どこの企業でも幅広く行われているものである。こうした顧客相手の営業業務は、そもそも裁量性が乏しいのであって、このような業務を企画業務型裁量労働制の対象とすることは許されない。社内における企画・立案・調査・分析の業務であれば、その遂行方法を大幅に労働者にゆだねたり、その業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととすることもありうるところであるが、顧客相手の営業にそのような裁量が認められるとは考えられない。
法案要綱では、対象業務の範囲を限定するために、この提案業務が、法人である顧客の事業の運営に関する事項を改善するために行うものであること、既製品やその汎用的な組み合わせの営業は対象業務になり得ないこと及び商品又は役務の営業活動に業務の重点がある業務は該当しないことを指針に定めることとしている。しかし、事業の運営に関する事項を改善するために行う業務だからといってその裁量性の有無は不明確だし、既製品の組み合わせなのか新製品の開発なのかの境界はあいまいであり、また、重点が営業にあるのか企画・立案等にあるのかも客観的に判定することは困難である。これらを指針に明記したからといって、対象業務の無限定な拡大に対する歯止めとはなりえない。
また、具体的にどの業務がこの「法人提案型営業」にあたるのかを決めるのは、「実施把握評価業務」の場合と同様に、事業場の労使委員会なのであって、このようなあいまいかつ抽象的な定め方では、その恣意的、濫用的な拡大解釈・適用を防ぐことはできない。
ウ 結論
したがって、法案要綱にあるような対象業務の拡大を行えば、企画業務型裁量労働が無限定に事務系・営業系社員等に広がっていくことは避けられない。裁量労働制の導入には年収要件が設定されていないこともあわせ考えれば、仕事に裁量のない広範な労働者に対して、「企画業務型裁量労働」の名のもとに、無限の「ただ働き」長時間労働が押しつけられていくことは必定である。
(3)現行の裁量労働制に対する監督・規制が急務である
ア 通常の労働時間制の労働者よりも著しい長時間労働
裁量労働制で働く労働者の実労働時間は、通常の労働時間制の労働者よりも著しく長くなっている。1か月の実労働時間をみると、「企画業務型」「専門業務型」ともに200時間以上の労働者が「通常の労働時間制」より大幅に多くなっている。「通常の労働時間制」では200時間以上の労働者は32.6%に過ぎないのに対して、「企画業務型」では44.9%、「専門業務型」では54.8%となっている(労働政策研究・研修機構の2014年5月30日公表の「裁量労働制等の労働時間制度に関する調査結果・労働者調査結果」)。
イ 著しい長時間労働
そればかりか、裁量労働制では使用者が厳格な労働時間管理をしていないケースが多く、実際には著しい長時間労働が蔓延しているのが現状である。
たとえば、裁量労働制を適用され、2013年7月に心疾患でなくなった証券アナリストの男性(当時47歳、2015年3月に労災認定)は、毎日午前3時に起床して業務を開始し、亡くなる1か月前の時間外労働は133時間、発症前2〜6か月前は月平均108時間であったとされている(岩波ブックレットNo.980「裁量労働制はなぜ危険か」44頁)。また、専門業務型裁量労働制を適用され、2004年2月に過労による精神疾患で労災認定されたシステムエンジニアの男性(20代)は、発症直前の1か月の時間外労働が123時間に及んでいたとのことである(同書45頁)。
ウ 裁量労働制の違法適用
さらに、本当は要件がないのに裁量労働制だと称して無限定の長時間労働を強いているケースも後を絶たない。
不動産大手の野村不動産は、本来は裁量労働制の適用が認められないマンションの個人向け営業などの業務に就く社員に対して、全社的に裁量労働制を適用していたと報じられている。報道によると同社は、全社員約1900人のうち、課長代理級の「リーダー職」と課長級の「マネジメント職」の社員合計約600人に裁量労働制を適用し、違法な長時間労働をさせ、未払い残業代が発生していたとのことである。
同社では、このような違法適用をされた50代の男性社員が、過労自殺し、2017年12月26日に労災認定を受けていたことも判明している。報道によれば、この男性社員は、2015年11月後半からの1か月に180時間を超える残業を行い、長時間労働が原因で精神障害を発症し、自殺に至ったとして労災が認められたとのことである。
裁量労働制の適用をめぐり争われた裁判例は、公刊されているものが6件あるが、いずれも要件が欠けるためその適用が否定され、時間外割増賃金等の支払いが命じられている(東京地裁平成12年2月8日判決、京都地裁平成18年5月29日判決、大阪高裁平成27年7月27日判決、東京高裁平成26年2月27日判決、大阪地裁平成27年2月20日判決、京都地裁平成29年4月27日判決)。
エ 監督・規制の徹底が重要
このように裁量労働制は、現行制度においても、歯止めなき長時間労働、違法適用、過労死・過労自殺をもたらしているのであって、今なすべきことは、裁量労働制に対する監督・規制を徹底して労働者の命と健康を守ることであって、企画業務型裁量労働制の対象業務を拡大することでは決してない。
(4)結論
企画業務型裁量労働制の対象業務の拡大は、仕事に裁量のない広範な事務系・営業系社員等への裁量労働制の適用拡大をもたらし、長時間労働の蔓延、過労死・過労自殺の増大を招くものであって、絶対にこれを許してはならない。
企画業務型裁量労働制の対象業務の拡大は、「先送り」ではなく、今ここできっぱり「断念」されなければならない。
5 「過労死ライン」を容認する「時間外・休日労働の上限規制」
(1)「過労死ライン」の容認
ア 法律案要綱の上限規制
要綱では、36協定で設定しうる時間外労働の限度時間について、「1箇月について45時間及び1年について360時間とする」こととしている(第一 一 3 4)。
しかし、これには大きな抜け穴があって、要綱は、その限度時間の定めのすぐあとに、「当該事業場における通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い臨時的に『限度時間』を超えて労働させる必要がある場合において」は、「1箇月について、100時間未満の範囲内」での時間外・休日労働を、「1年について、720時間を超えない範囲内」での時間外労働をさせることができるものとしている(第一 一 5)。
この特例を活用できる月(1箇月45時間を超える時間外労働をさせることができる月)は、1年について6箇月以内とされており(第一 一 5)、特例を活用しない月については、原則どおり、時間外労働の上限は月45時間となるが、この時間数には休日労働時間数は含まれていない。
他方で、36協定に定めるところによって時間外、休日労働をさせる場合であっても、時間外・休日労働の実績の上限は、「1箇月について時間外・休日労働あわせて100時間未満」、「2ないし6箇月について時間外・休日労働あわせて1箇月当たり平均80時間以内」とされている(第一 一 6)。これに違反した使用者は、所要の罰則が科されることになる(第一 七)。
結局のところ、特例の活用及び時間外労働と休日労働の組み合わせによって、「単月100時間未満、月平均80時間以内、最大年間960時間以内」の時間外・休日労働が許容されることになる。
なお、以上の各要件に適合しない残業協定(36協定)は無効となり、労働基準法第32条等の違反を構成することになる(第一 七 注)。
イ 過労死ライン
要綱に示された時間外・休日労働の上限である「単月100時間未満、月平均80時間以内」は、働きすぎによる脳・心臓疾患で人が死亡してもおかしくないとされる過労死ライン(発症前1か月間でおおむね100時間超、発症前2〜6か月で1か月当たりおおむね80時間超の時間外・休日労働)をそのまま許容するものにほかならない。
厚労省の平成22年5月7日改正の「脳血管疾患及び虚血性心疾患の認定基準について」(以下「過労死認定基準」という)では、まず、長時間労働と発症の関係について、「恒常的な長時間労働等の負荷が長期間にわたって作用した場合には、『疲労の蓄積』が生じ、これが血管病変等をその自然経過を超えて著しく増悪させ、その結果、脳・心臓疾患を発症させることがある。」(6頁)とされている。
そして、上記過労死等認定基準では、長時間労働があった場合の業務と発症との関連性、その場合の時間外労働の時間数の評価については、「疲労の蓄積をもたらす最も重要な要因と考えられる労働時間に着目すると、その時間が長いほど、業務の過重性が増すところであり」「発症前1か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど、業務と発症の関連性が徐々に強まると評価」でき、「発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症の関連性が強いと評価できる」とされている(7頁)(なお、ここでいう時間外労働時間数は、1週間当たり40時間を超えて労働した時間数であり、休日労働時間数も含むものである。)。
今回、法案要綱に盛り込まれた時間外・休日労働の上限の「単月100時間未満、月平均80時間以内」は、労働者の脳・心臓疾患を引き起こす可能性が極めて強くなる異常な長時間労働なのであって、過労死・過労自殺を防ぐ観点からは、到底、認めることのできないものである。
(2)過労死・過労自殺の現状とその対策
ア 「単月100時間未満、月平均80時間以内」での発症
実際、時間外労働・休日労働が「単月100時間未満、月平均80時間以内」であっても、業務上の脳・心臓疾患(死亡を含む)または精神障害(自殺を含む)が発症するケースは多発している。
平成26年度では、脳・心臓疾患の労災認定件数277件中、時間外労働100時間未満のものは125件(45.1%)、80時間未満のものが20件(7.2%)、平成27年度では、認定件数251件中、100時間未満のものが117件(46.6%)、80時間未満のものが12件(4.8%)となっている。
精神障害については、平成26年度の労災認定件数497件中、234件が100時間未満(47.1%)、207件が80時間未満(41.6%)となっており、平成27年度では、労災認定件数472件中、222件が100時間未満(47.0%)、202件が80時間未満(42.8%)となっている。
イ 過労死等の実例
実例として、過重労働による疲労と睡眠不足により帰宅途中に交通事故死した男性労働者(当時24歳)のケースは、2018年2月8日、横浜地裁川崎支部で会社側が過労事故死の責任を認め和解が成立したが、1月の残業時間は91時間49分(100時間未満)であったと報じられている。
また、報道によれば、2014年6月に脳梗塞で死亡した「いなげや」の男性店員(当時42歳)は、長時間労働による過労等がその原因だったとして労災認定されたが、労基署が認定した男性の時間外労働時間は、発症前4か月の平均で75時間58分、1か月当たりの最大は96時間35分(単月で100時間未満、複数月の平均で80時間未満)であったとのことである。
このように、1か月あたり100時間未満、複数月の平均で80時間以内の時間外労働であっても、過労死等は実際に発生しているのであって、「単月100時間未満、月平均80時間以内」という「過労死ライン」の時間外・休日労働を許容する要綱の上限規制は、過労死・過労自殺防止の趣旨に真っ向から反しており、とうてい許されない。
(3)多すぎる「上限規制」の例外
法案要綱の上限規制は、それ自体、過労死ラインを容認する極めて大きな問題のあるものであるが、さらに、その上限規制には、多くの業種についての例外が設けられている。
ア まず、「新たな技術、商品又は役務の研究開発の業務」については、そもそも上限規制を適用しないものとされている(第一 一 11)。
イ 次に、工作物の建設の事業については、法施行日から5年間は上限規制を適用しないものとされている(第一 一 12)。
ウ さらに、自動車の運転の業務については、上限規制の適用を法施行日から5年間猶予した上で、5年経過後にも、「1箇月について時間外・休日労働あわせて100時間未満」及び「1箇月45時間を超える時間外労働をさせることができる月数は1年について6箇月以内」の制限を適用しないものとし、「1年について労働時間を延長して労働させることができる時間の制限を960時間以内に限る」としている(第一 一 13)。
エ また、医業に従事する医師については、上限規制の適用を法施行日から5年間猶予した上で、5年経過後に別途厚生労働省令により上限時間等を定めるものとされている。この場合でも、「1箇月について45時間及び1年について360時間」の上限規制は適用しないとしている(第一 一 14)。
以上のいずれも業務も過労死・過労自殺等が多発している業務であり、上記のような例外を設定することなく、他の業種と同様の上限規制を原則とすべきである。
(4)結論
過労死、過労自殺の続発を容認する「単月100時間未満、月平均80時間以内」という時間外・休日労働の上限規制を認めることは、とうていできない。
前記過労死等認定基準は、長時間労働による過労と脳・心臓疾患の関係について、「発症前1か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど、業務と発症の関連性が徐々に強まると評価できる」としている。このように、過労死等防止の観点からすれば、時間外・休日労働の上限は月45時間以内とされなければならないのである。
以上のとおり、過労死、過労自殺等を防止するためには、繁忙期の特例等の例外を設けることなく、時間外・休日労働の上限時間は「月45時間以内、年360時間以内」とすべきであり、これを罰則付きの上限規制とすべきである。
6 格差を固定化し、拡大するパートタイム・有期雇用労働法案と労働者派遣法「改正」案
(1)パートタイム・有期雇用労働法案
ア 不合理な待遇の禁止
(ア)不合理性判断の3つの考慮要素をそのまま引き継ぐ
現行のパートタイム労働法8条、労働契約法20条は、正社員と短時間労働者、有期契約労働者との間の待遇・労働条件の相違について、不合理性判断の3つの考慮要素(第1要素:業務の内容と責任の程度=職務の内容、第2要素:職務の内容と配置の変更の範囲=人材活用の仕組み、第3要素:その他の事情)を考慮して不合理と認められるものであってはならないと定めている。
法律案要綱は、「事業主は、パートタイム・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、通常の労働者(いわゆる「正社員」のこと)の待遇との間において、(中略)当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない」と、各待遇のそれぞれについて不合理性を判断するとしている点が現行規定と変わっているが、前記の不合理性判断の3つの考慮要素をそのまま引き継いでいる。また、要綱は、不合理性の立証責任を労働者側に負わせたままである(第七 四)。
(イ)格差の固定化
不合理性判断の「第2要素:職務の内容と配置の変更の範囲(人材活用の仕組み)」は、将来の配転、昇進等の人事異動の可能性の有無、範囲によって待遇に相違を認めてよいことを意味する。正社員には将来の配転、昇進等人事異動の可能性があるが、パートタイム労働者や有期雇用労働者等の非正規労働者にはそのような可能性はほとんどない。これでは、現実の職務の内容が同じでも、基本給等で、正社員と非正規労働者を差別してよいことになる。
現に、働き方改革実現会議が2016年12月20日に決定した「同一労働同一賃金ガイドライン案」は、「問題とならない例」として、「B社においては、定期的に職務内容や勤務地変更がある無期雇用フルタイム労働者の総合職であるXは、管理職になるためのキャリアコースの一環として、新卒採用後の数年間、店舗等において、職務内容と配置に変更のないパートタイム労働者であるYのアドバイスを受けながらYと同様の定期的な仕事に従事している。B社はXに対し、キャリアコースの一環として従事させている定型的な業務における職業経験・能力に応じることなく、Yに比べ高額の基本給を支給している。」(2頁)という例をあげている。
一括法案では、賃金の中で最も重要な基本給における格差が温存されることになり、正社員と非正規労働者の間の格差が固定化されることになる。
(ウ)求められる改正内容
現行のパートタイム労働法8条、労働契約法20条、要綱(一括法案)の「第2要素:職務の内容と配置の変更の範囲(人材活用の仕組み)」は、削除すべきである。「職務の内容と配置の変更の範囲(人材活用の仕組み)」を3つの考慮要素の一つとすることは、正社員と非正規労働者の格差を固定化することになり、妥当でない。
また、現行のパートタイム労働法8条、労働契約法20条、要綱の「第3要素:その他の事情」は、無限定に過ぎ、格差を広く認めるために利用される危険があり、削除すべきである。
これらの考慮要素を削除することによって、職務の内容が同一であるにもかかわらず、正社員と非正規労働者との間に温存されてきた基本給、住宅手当、家族手当、賞与、退職金等における格差を撤廃する道筋が開けることになる。
また、待遇の相違の合理性判断の立証責任を使用者に負わせるようにすべきである。
イ 通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者に対する差別的取扱いの禁止
(ア)人材活用の仕組みをそのまま引き継ぐ
現行のパートタイム労働法9条は、「通常の労働者(いわゆる「正社員」のこと)と同視すべき短時間労働者について、短時間労働者であることを理由として、賃金の決定等の待遇について、差別的取扱いをしてはならない。」と定めている。ここで、「通常の労働者と同視すべき短時間労働者」とは、「職務の内容が正社員と同一であって、雇用関係が終了するまでの全期間において、職務の内容及び配置が正社員の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されると見込まれるもの」のことである。
要綱は、「基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、差別的取扱いをしてはならない」と、各待遇のそれぞれについて差別的取扱いを禁止するとしている点が現行規定と変わっているが、差別的取扱い禁止の要件である「職務の内容及び配置が正社員の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更される見込み(人材活用の仕組み)」の同一性をそのまま引き継いでいる(第七 五)。
(イ)乏しい実効性と必要な改正内容
人材活用の仕組みが雇用関係が終了するまでの全期間において正社員と同一である短時間・有期雇用労働者はほとんどおらず、差別的取扱い禁止規定が適用される機会はほとんどなく、禁止規定の実効性は乏しい。
差別的取扱い禁止規定から「人材活用の仕組みの同一性」を削除すべきである。
ウ 格差の拡大の危険
要綱は、「事業主は、短時間・有期雇用労働者(通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者を除く。)の職務の内容、職務の成果、意欲、能力又は経験等を勘案し、その賃金を決定するように努めるものとする」(第七 六)と定めている。
しかし、「職務の成果、意欲、能力、経験」は、使用者の主観的・恣意的な運用を許す考慮要素であり、格差を拡大することになりかねない。このような考慮要素は導入すべきでない。
エ まとめ
パートタイム・有期雇用労働法案は、待遇の相違の可否を判断するうえで、前記の考慮要素の「第2要素:職務の内容と配置の変更の範囲=人材活用の仕組み」を残すことによって、正社員と非正規労働者の格差を固定化し、さらには、賃金決定の要素に新たに「職務の成果、意欲、能力、経験等」を導入することによって、その格差を拡大する法案である。要綱のパートタイム・有期雇用労働法の下では非正規労働者の待遇改善は期待できない。法案から上記の考慮要素の「第2要素:職務の内容と配置の変更の範囲=人材活用の仕組み」を削除することが是非とも必要である。また、待遇の相違の合理性判断の立証責任を使用者に負わせることが重要である。
(2)労働者派遣法「改正」案
ア 不合理な待遇の禁止
(ア)不合理な相違の禁止
―3つの考慮要素をそのまま採用
要綱は、「派遣元事業主は、その雇用する派遣労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、派遣先に雇用される通常の労働者(いわゆる「正社員」のこと)の待遇との間において、不合理性判断の3つの考慮要素(第1要素:業務の内容と責任の程度=職務の内容、第2要素:職務の内容と配置の変更の範囲=人材活用の仕組み、第3要素:その他の事情)を考慮して不合理と認められる相違を設けてはならない」と定めている。また、要綱は、不合理性の立証責任を派遣労働者側に負わせている(第五 二 1)。
しかし、配転、昇進等、人材活用の仕組みが派遣先の正社員と同一である派遣労働者はほとんどおらず、基本給、賞与等の待遇の相違の不合理性が認められる派遣労働者はほとんどいないであろう。「人材活用の仕組み」や「その他の事情」は、パートタイム・有期雇用労働法案の場合と同様、削除すべきである。また、待遇の相違の合理性判断の立証責任を派遣元事業主に負わせるようにすべきである。
(イ)不利益取扱いの禁止
要綱は、「職務の内容が派遣先に雇用される通常の労働者(いわゆる「正社員」のこと)と同一の派遣労働者であって、派遣就業が終了するまでの全期間において、職務の内容及び配置が派遣先の通常の労働者(いわゆる「正社員」のこと)の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されると見込まれるものについては、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、派遣先の通常の労働者(いわゆる「正社員」のこと)の待遇に比して不利なものとしてはならない」(第五 二 2)と定めている。
しかし、人材活用の仕組みが派遣就業が終了するまでの全期間において派遣先の正社員と同一である派遣労働者はほとんどおらず、不利益取扱いの禁止規定が適用になる場合は、ほとんどないであろう。ここでも人材活用の仕組みは、削除すべきである。
(ウ)労使協定による待遇決定
要綱は、「派遣元事業主は、(派遣元の)過半数労働組合又は過半数代表との書面による協定により、派遣労働者の待遇について、同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金の額と同等以上の賃金の額となる賃金の決定方法を定めたときは、その定めによる」(第五 二 3)旨を定めている。
上記労使協定方式では、派遣先の正社員との均等待遇・均衡待遇は、保障されていない。また。「同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金の額」は一義的に明確でなく、労使協定を労働局等の監督官庁に届け出ることも義務づけられておらず、すべて労使の話し合いにまかされている。このような点において、上記労使協定方式は、均等待遇・均衡待遇を確保する上で、実効性に乏しいと言わざるを得ない。
イ 格差の拡大の危険
要綱は、「派遣元事業主は、派遣労働者の職務の内容、職務の成果、意欲、能力又は経験等を公正に評価し、その賃金を決定する」と定めている。
しかし、「職務の成果、意欲、能力、経験」は、使用者の主観的・恣意的な運用を許す考慮要素であり、格差を拡大することになりかねない。このような考慮要素は導入すべきでない。
ウ まとめ
労働者派遣法「改正」案は、派遣先の正社員との待遇の相違の可否を判断するうえで、前記の考慮要素の「第2要素:職務の内容と配置の変更の範囲=人材活用の仕組み」を残すことによって、派遣先の正社員と派遣労働者の格差を固定化し、さらには、派遣労働者の賃金決定の要素に新たに「職務の成果、意欲、能力、経験等」を導入することによって、その格差を拡大する法案である。要綱の労働者派遣法「改正」案の下では派遣労働者の待遇改善は期待できない。「改正」案から上記の考慮要素の「第2要素:職務の内容と配置の変更の範囲=人材活用の仕組み」を削除することが是非とも必要である。また、待遇の相違の合理性判断の立証責任を派遣元事業主に負わせることが重要である。
7 労働法の保護をなくす「雇用関係によらない働き方」の普及拡大
(1)「雇用関係によらない働き方」を拡大しようとする政府財界の動き
「国の施策」として「多様な就業形態の普及」を規定する労働施策総合推進法案の成立に先だって、政府財界は、「雇用関係によらない働き方」を精力的に普及しようとしている。
ア 厚生労働省の「『働き方の未来2035』〜一人ひとりが輝くために〜報告書」(2016年8月)
「以上見てきたように2035年には、個人が、より多様な働き方ができ、企業や経営者などとの対等な契約によって、自律的に活動できる社会に大きく変わっていることだろう。」、「今までの労働政策や労働法制のあり方を超えて、より幅広い見地からの法制度の再設計を考える必要性が出てくるだろう。前の章で述べた、より多様な働き方も、何らかの形での契約が結ばれ、活動が行われている。その点から考えれば、すべての働くという活動も、相手方と契約を結ぶ以上は、民法が基礎になる。当事者間の自由で対等な契約が存在する場合には、その枠組みの下で、自由な経済活動と競争が起こり、それぞれが、精神的な充実感等の非金銭的なものも含めて、多様な目的をもって充実した活動ができるのが、理想的な形であろう。」(14頁)
イ 経済産業省の「『雇用関係によらない働き方』に関する研究会報告書」(平成29年3月)
(ア)「そういった『日本型雇用システム』を見直す契機として、『雇用関係によらない働き方』をはじめとした柔軟な働き方が重要である。すなわち、これまでの“常識”であった、雇用関係による働き方、1社のみでの就業、オフィスでの勤務のそれぞれを変化させるものとして、『雇用関係によらない働き方』、『兼業・副業』、『テレワーク(在宅就労)』の3つが互いに折り重なり、『時間・場所・契約にとらわれない、柔軟な働き方』につながっていき、日本型雇用システムを見直す契機となるものである。」(5頁)
(イ)「近年、企業が不特定多数の人に向けて業務委託先を募集する“クラウドソーシング”と言われるような就労形態の活用が広がるなど、請負を中心として、雇用契約によらない形で(企業の指揮命令を受けず)働く働き方が普及してきている。プラットフォーマーと呼ばれる事業者を介して、インターネット上で企業と働き手のマッチングが容易にできるようになったことが普及に拍車をかけている。また、プラットフォーマーを介さず直接企業と請負契約を結ぶ働き手や、複数の働き手で連携して企業の仕事を受注する働き手も存在する。」(6頁)
(2)雇用の請負委託化は不当
―労働者保護法の適用の重要性
ア 「『働き方の未来2035』〜一人ひとりが輝くために〜報告書」に対する疑問
「『働き方の未来2035』〜一人ひとりが輝くために〜報告書」は、「以上見てきたように2035年には、個人が、より多様な働き方ができ、企業や経営者などとの対等な契約によって、自律的に活動できる社会に大きく変わっていることだろう。」と述べる。
しかし、労働力を使用する企業等と、労働力を貯めることができず、生活のためには日々労働力を売るしかない労務提供者の関係が、「対等な契約によって、自律的に活動できる社会に大きく変わっていることだろう」との予測は、事実の裏付けを欠くのではないのか。
イ 「『雇用関係によらない働き方』に関する研究会報告書」に対する疑問
(ア)「『雇用関係によらない働き方』に関する研究会報告書」は、「『雇用関係によらない働き方』、『兼業・副業』、『テレワーク(在宅就労)』の3つが互いに折り重なり、『時間・場所・契約にとらわれない、柔軟な働き方』につながっていき、日本型雇用システムを見直す契機となるものである。」と言う。
しかし、「時間・場所・契約にとらわれない、柔軟な働き方」と言っても、そこでは、働く人の企業等への経済的従属等何らかの従属が存在するのではないのか。
(イ)「『雇用関係によらない働き方』に関する研究会報告書」は、「近年、企業が不特定多数の人に向けて業務委託先を募集する“クラウドソーシング”と言われるような就労形態の活用が広がるなど、請負を中心として、雇用契約によらない形で(企業の指揮命令を受けず)働く働き方が普及してきている。
しかし、“クラウドソーシング”と言われるような就労形態をただちに「請負」と決めつけるのは誤っている。むしろ、企業と“クラウドソーシング”で働く人との間に従属性が存在し、「雇用」と見た方が実態に即しているのではないのか。
ウ 働く実態に即した取扱いの重要性
まず何よりも、政府財界や経営者の取扱いにとらわれず、当該働き方に関する事実関係に即して、当該労務提供者が労働基準法上、労働組合法上等の労働者に該当するか否かを判断することが重要である。1985年12月19日の労働基準法研究会の「労働基準法の『労働者』の判断基準」は狭すぎ、見直しが必要である。働き手に経済的従属性等の従属性が認められる以上、安易に「雇用関係によらない働き方」を認めるのではなく、労働者として処遇することが重要である。
8 おわりに
350件以上の異常な数値を含む「平成25年度労働時間等総合実態調査結果」に基づく審議により高度プロフェッショナル制度が策定されたことからも、また、残業代ゼロ、過労死合法化、格差固定化、雇用の請負委託化等、労働者の雇用と労働条件を劣悪にするその内容からも、安倍内閣は、一括法案の国会提出をただちに断念すべきである。
以上のとおり、自由法曹団は、安倍内閣に対して、「働き方改革」一括法案の国会提出をただちに断念することを強く要求する。それと同時に、自由法曹団は、過労死・過労自殺を根絶するための真に実効性のある長時間労働の規制、非正規労働者に対する待遇差別を是正するための真の同一労働同一賃金と均等待遇の確立等、人間らしく働くルールの確立を要求するものである。
以上