「働き方改革」一括法案の国会提出に抗議し、廃案を要求する声明

 

1 議会制民主主義に反する「働き方改革」一括法案の国会提出

  安倍内閣は、2018年4月6日、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案」(以下「『働き方改革』一括法案」という)を閣議決定し、国会に提出した。

  「働き方改革」一括法案は、@雇用対策法の一部「改正」案、A労働基準法の一部「改正」案、B労働者派遣法、パートタイム労働法、労働契約法の各一部「改正」案を含む8本の「改正」法案からなっている。それぞれ内容も性格も異なる重要法案であり、一つ一つの法案を個別に審議し、採決も別々に行うべきである。8本もの「改正」法案を一括法案にし、審議を簡略にし、採決も一括で行うことは、国会の審議を形骸化し、議会制民主主義を否定する暴挙であり、とうてい許されない。

2 ねつ造、隠蔽に基づく「働き方改革」一括法案

  「働き方改革」一括法案は、「裁量労働制の方が一般労働者より労働時間が短い」との労働時間データのねつ造や、「同じ労働者の残業時間が1日よりも1か月の方が短い」などの異常な数値が350件以上も発見された「平成25年度労働時間等総合実態調査結果」に基づいて作られた法案である。東京労働局は、男性社員の過労自殺を隠したまま、2017年12月26日、野村不動産に裁量労働制の違法適用について特別指導したことを公表し、安倍内閣は、特別指導したことを裁量労働制の対象業務拡大への批判をかわす材料に使っている。データのねつ造や過労自殺の隠蔽など、虚偽の答弁や宣伝を繰り返す安倍内閣に、「働き方改革」を唱える資格はまったくない。安倍内閣は、「働き方改革」一括法案をただちに撤回すべきである。

3 雇用対策法をリストラ促進法へ変質させる労働施策総合推進法への「改正」案

  法案は、雇用対策法の題名を「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」に改め、同法の目的を「雇用に関し、労働力の需給が質量両面にわたり均衡することを促進」等から「労働に関し、労働生産性の向上等を促進」等へ変更し、「国の施策」を「多様な就業形態の普及」等へ変更すると定めている。

  「労働生産性の向上等の促進」は、リストラや労働強化の促進を容認する言葉である。また、「多様な就業形態の普及」は、非正規雇用や非雇用型の働き方の普及を意味する言葉である。これでは、「働き方改革」一括法の下で、リストラ解雇や正社員の非正規労働者や請負委託への置き換えが促進されることになる。雇用対策法をリストラ促進法へ変質させる労働施策総合推進法への「改正」は、とうてい容認できない。

4 特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)を創設する労働基準法の一部「改正」案

法案の「特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)」は、金融商品の開発業務、金融商品のディーリング業務、アナリスト業務、コンサルタント業務、研究開発業務等の特定高度専門業務に従事する年収1075万円以上の労働者に対して、労働基準法第4章の労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金等に関する規定は一切適用しないとする制度である。高度プロフェッショナル制度は、1年間365日のうち5日の年次有給休暇と104日の休日を除いた256日は、休憩をとらせず、残業代や深夜割増賃金を支払うことなく24時間働かせることができる制度である。しかも、安倍首相らは、将来、年収要件が緩和され、対象労働者が拡大されることを容認している。高度プロフェッショナル制度は、「残業代ゼロ・過労死促進法」そのものであり、とうてい容認できない。

5 きっぱり「断念」すべき企画業務型裁量労働制の対象業務の拡大

  安倍内閣は、労働時間データのねつ造や異常値の発覚により、一括法案から企画業務型裁量労働制の対象業務の拡大を削除したが、2019年以降に再提出することをもくろんでいる。「ただ働き」の長時間労働と過労死を増大させる企画業務型裁量労働制の対象業務の拡大は、きっぱり断念すべきである。

6 過労死ラインの時間外休日労働を容認する労働基準法の一部「改正」案

  法案は、時間外・休日労働の上限規制を導入するとしているが、その上限は、時間外労働と休日労働をあわせて、「単月で100時間未満」、「2〜6か月で、1か月当たり平均80時間」、「12か月連続80時間・1年960時間」の残業をさせることを認めるものとなっている。これは、厚生労働省の過労死認定基準が定める「発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間に1か月当たりおおむね80時間」との過労死ラインの残業を労働基準法で認めることであり、とうてい許されない。

7 格差を固定・拡大化する労働者派遣法、パートタイム労働法、労働契約法の一部「改正」案

  法案は、派遣・パート・有期労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、(派遣先の)通常の労働者の待遇との間において、@職務の内容、A職務の内容及び配置の変更の範囲、Bその他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならないと定めている。法案は、また、職務の内容が(派遣先の)通常の労働者と同一の派遣・パート・有期労働者であって、派遣就業もしくは雇用関係が終了するまでの全期間において、職務の内容及び配置の変更の範囲が(派遣先の)通常の労働者と同一の派遣・パート・有期労働者に対して、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、差別的取扱いをしてはならないと定めている。

  しかし、派遣・パート・有期労働者には(派遣先の)通常の労働者と同様の配転や昇進の機会はほとんどなく、「職務の内容及び配置の変更の範囲」(いわゆる「人材活用の仕組み」)を不合理性の考慮要素にすることは、(派遣先の)通常の労働者と派遣・パート・有期労働者の間の格差を固定・拡大化することになり、とうてい容認できない。また、「職務の内容及び配置の変更の範囲」の全期間における同一性を差別的取扱い禁止の要件にするのでは、差別禁止規定が適用される機会はほとんどなく、同規定の実効性は期待できない。

8 人間らしく働くルールの確立を!!

  以上のとおり、「働き方改革」一括法案は、リストラと労働強化を促進し、非雇用型の働き方を拡大し、残業代ゼロと過労死を促進し、格差の固定・拡大化をもたらす法案であり、とうてい容認できない。

  今、求められていることは、「時間外労働と休日労働をあわせた残業の罰則付きの上限規制を1週間15時間、1か月45時間、1年間360時間等とすること」、「始業後24時間を経過するまでに11時間以上の連続した休息時間を付与する勤務間インターバル制度の創設」、「労働者派遣法、パートタイム労働法、労働契約法の改正にあたっては、不合理性の判断要素から『当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情』を削除し、『同一価値の職務に従事する労働者に対しては、同一の賃金を支払うことが原則であること』を明記すること」等である。

自由法曹団は、「働き方改革」一括法案の廃案を要求し、人間らしく働くルールの確立のため、全力をあげて奮闘する決意である。

 

    2018年4月24日

                     自由法曹団

                       団長 船尾徹