「働き方改革」一括法の成立強行に抗議し、働くルールの確立を要求する声明

1 自民・公明両党による「働き方改革」一括法の成立の強行

  安倍政権の与党の自民・公明両党は、2018年6月28日、参議院厚生労働委員会で、「働き方改革」一括法案の採決を強行し、自公両党と日本維新の会の賛成で、同法案を可決した。次いで、自民・公明両党は、6月29日、参議院本会議で、一括法案の採決を強行し、自公両党と日本維新の会、希望の党などの賛成で、「働き方改革」一括法の成立を強行した。

  自由法曹団は、審議不十分なまま、労働者の命と健康、雇用と労働条件を破壊する「働き方改革」一括法の成立を強行した安倍政権、自民・公明両党、日本維新の会、希望の党などに対して、満身の怒りをもって抗議する。

2 立法根拠がないことが明白になった高度プロフェッショナル制度

労働基準法「改正」により創設された高度プロフェッショナル制度は、労働基準法第4章の「労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金」に関する規定を一切適用せず、残業代をゼロにし、超長時間労働を可能にする「残業代ゼロ・過労死激増」法であるが、この間の国会審議で、立法根拠のないことが明白になっている。

  厚生労働省が高度プロフェッショナル制度の審議資料とした「平成25年度労働時間等総合実態調査結果」は、2割強の事業所分の労働時間データに異常値が発見され、削除されたが、その後も、「同一の調査票をコピーして二重に集計する虚偽データ」が6件発見されるなど、残りの8割弱の事業所分の労働時間データの信用性もまったくない。これに加えて、厚生労働省は、高度プロフェッショナル制度のニーズ(必要性)を労働者からヒアリングしたというが、ヒアリングした労働者はわずか12人である。しかも、いずれのヒアリングも、労働政策審議会で高度プロフェッショナル制度についての法律案要綱についての答申がまとめられた2015年3月2日より後に行われたものである。このように、高度プロフェッショナル制度は、労働者のニーズはなく、立法根拠がないことが明白になっている。それどころか安倍首相は、6月26日の参議院厚生労働委員会で、「経団連等の経済団体の代表からは高度プロフェッショナル制度を導入すべきとの意見をいただいている。」と答弁し、同制度が財界の要求に基づく制度であることを認めている。

  高度プロフェッショナル制度は、労働者の要求ではなく、財界の要求に基づいて創設された制度であり、一刻も早く廃止することが重要である。

3 過労死を合法化し、長時間労働を促進する「時間外・休日労働の上限規制」

  労働基準法「改正」により設けられた残業時間の上限は、時間外労働と休日労働をあわせて、「単月で100時間未満」、「2〜6か月で、1か月当たり平均80時間」、「12か月連続80時間・1年960時間」を容認するものとなっている。これは、厚生労働省の過労死認定基準が定める「発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間に1か月当たりおおむね80時間」との過労死ラインの残業を認めることである。

  また、労働基準法「改正」案が「年間の時間外労働の上限を720時間」と明記したことを受けて、三井住友海上火災保険株式会社は、2018年4月から、年間の時間外労働の上限を350時間から540時間に190時間も引き上げている。「改正」労働基準法の時間外・休日労働の上限規制は、過労死を合法化するのみならず、長時間労働を促進する役割も果たしている。

  労働基準法「改正」により設けられた「時間外・休日労働の上限規制」は、過労死を合法化し、長時間労働を促進するものであり、とうてい容認できない。

4 格差を固定・拡大する「人材活用の仕組みの温存」

  一括法は「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」の題名を「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」に改め、同法及び「改正」後の労働者派遣法は、「派遣・パート・有期労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、(派遣先の)通常の労働者の待遇との間において、@職務の内容、A職務の内容及び配置の変更の範囲、Bその他の事情を考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。」と定めている。また、前記各「改正」法は、「職務の内容が(派遣先の)通常の労働者と同一の派遣・パート・有期労働者であって、派遣就業もしくは雇用関係が終了するまでの全期間において、職務の内容及び配置が(派遣先の)通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されることが見込まれるものについては、派遣・パート・有期労働者であることを理由として、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、差別的取扱いをしてはならない(不利なものとしてはならない。)。」と定めている。

  しかし、派遣・パート・有期労働者には(派遣先の)通常の労働者と同様の配転や昇進の機会はほとんどなく、「職務の内容及び配置の変更の範囲」(いわゆる「人材活用の仕組み」)を不合理性の考慮要素にすることは、(派遣先の)通常の労働者と派遣・パート・有期労働者の間の格差を固定・拡大することになり、とうてい容認できない。また、「職務の内容及び配置の変更の範囲」の全期間における同一性を差別的取扱い禁止の要件にするのでは、差別禁止規定が適用される機会はほとんどなく、同規定の実効性は期待できない。

5 雇用対策法をリストラ促進法へ変質させる労働施策総合推進法への「改正」

  一括法は、雇用対策法の題名を「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」に改め、同法は、「目的」を「労働に関し、労働生産性の向上を促進」等へ変更し、「国の施策」を「多様な就業形態の普及」等へ変更すると定めている。

  「労働生産性の向上等の促進」は、リストラや労働強化の促進を容認する言葉である。また、「多様な就業形態の普及」は、非正規雇用や非雇用型の働き方の普及を意味する言葉である。これでは、労働施策総合推進法の下で、リストラ解雇や正社員の非正規労働者や請負委託への置き換えが促進されることになる。雇用対策法をリストラ促進法へ変質させる労働施策総合推進法への「改正」は、とうてい容認できない。

6 人間らしく働くルールの確立を!!

  以上のとおり、「働き方改革」一括法は、残業代ゼロと過労死を促進し、正社員と非正規労働者の間の格差を固定・拡大化し、正社員の非正規労働者や請負委託への置き換えを促進する法律であり、とうてい容認できない。

  今、求められていることは、「高度プロフェッショナル制度の即時廃止」、「時間外労働と休日労働をあわせた残業の罰則付きの上限規制を1週間15時間、1か月45時間、1年間360時間等とすること」、「始業後24時間を経過するまでに11時間以上の連続した休息時間を付与する勤務間インターバル制度の創設」、「労働者派遣法、パートタイム労働法、労働契約法の改正にあたっては、不合理性の判断要素から『当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情』を削除し、『同一価値の職務に従事する労働者に対しては、同一の賃金を支払うことが原則であること』を明記すること」などである。

自由法曹団は、高度プロフェッショナル制度の即時廃止を要求し、人間らしく働くルールの確立のため、全力をあげて奮闘する決意である。

 

    2018年7月3日

                     自由法曹団

                       団長 船尾徹