東京都迷惑防止条例改正に反対する声明

 

警視庁は、2018(平成30)年第2回都議会定例会に、「公衆に著しく迷惑をかける暴力行為等の防止に関する条例の一部を改正する条例案」(以下、「改正案」という。)を提出し、 同改正案は同年3月22日に都議会の警察・消防委員会で可決され、今後、本会議に上程される見込みである。

改正案では、現行の規制に加えて、5条の2第1項第1号に「住居等の付近をみだりにうろつくこと」、同第2号に「監視していると告げること」、同第3号に「電子メール(SNS 含む)を送信すること」、同第6号に「名誉を害する事項を告げること」、同第7号に「性的羞恥心を害する事項を告げること」をそれぞれ付け加え、新たにこれらの行為を規制の対象として、罰則を重くすることとされている。 しかしながら、迷惑防止条例は罰則規定があるにもかかわらず、改正案は対象行為や目的の限定がない部分が多くあり、明確性を欠くことから、その捜査の構造は過度に広汎なものとならざるを得ないものであり、国民の言論や行動の萎縮を招くおそれが大きい。特に、その捜査が民主主義の基盤ともいうべき政治的言論・表現におよぶとき、その弊害は回復不可能なほど重大なものとなる。

具体的には、改正案のうち、「住居等の付近をみだりにうろつくこと」(第1号)は目的の限定がなく、報道機関が取材活動として取材対象の住居等の付近で数回待機しただけでもこれに当たるとされて、報道の自由が制約されるおそれがある

「監視していると告げること」(第2号)、「電子メール(SNS 含む)を送信すること」(第4号)は対象となる行為や目的が限定されていないことから、市民によるオンブズマン活動や、市民による行政機関に対する監視行動、意見表明も対象となるおそれがある。

「名誉を害する事項を告げ、その知り得る状態に置くこと」(第6号)も方法の限定がなく、市民が路上で政治家などを批判する内容のビラをまく行為、消費者が企業に対して不買運動をする行為も含まれてしまう。SNSで発信する行為も、反復すればこれにあたるとされてしまう可能性がある。また、「名誉」も社会的評価(外部的名誉)に限定されておらず主観的な名誉感情まで含まれると読み取れるため、刑法の名誉棄損罪と比べて処罰範囲が極めて広範である。

  このように、改正案は、法律によって禁止されていない行為を禁止し処罰するものであり、憲法94条の「法律の範囲内で条例を制定することができる。」という文言に反する。

したがって、改正案は国民の言論表現の自由、知る権利、報道の自由、労働組合の団体行動権を侵害する点、対象等が不明確であり言論の萎縮を招く点など憲法21条に違反するものであり、また法律の範囲内で条例を制定できるとする憲法94条に違反する点で大変な問題がある。

この問題は、東京都だけではなく、全国の問題として捉えるべきである。この条例では、東京都以外に居住する者が加害者とされ、不当な身柄拘束や刑罰を受けるおそれがある。また、既に、宮城県など複数県で今回の改正案と同様の条例が制定されている。今後、東京都を皮切りに全国各地で問題のある改正が行われ、市民の言動の制約が強化されることが懸念される。首都・東京都で迷惑防止条例の改正案を阻止することは全国への波及の歯止めにもなる。

自由法曹団本部は、自由と民主主義を擁護する法律家団体として、東京都迷惑防止条例の改正案の危険性を指摘するとともに、改正に断固として反対する。

2018年3月28日

自由法曹団 団長 船 尾