<<目次へ 【声 明】自由法曹団
一月二〇日、国会の衆参両議院において、憲法調査会が設置された。
この調査会は、昨年七月成立した国会法「改正」(第一〇二条の六)により、「日本国憲法について広範かつ総合的に調査を行うため」、両議院に設置することになったものである。憲法調査会については、議案提出権がないことが確認されているが、概ね五年程度を目途として、報告書を提出することとされている。
最近でも、自由民主党の中曽根元首相などの一部幹部や自由党の小沢党首その他の政治家が憲法九条の「改正」を主張しており、憲法調査会において憲法改悪に向けての世論形成と案文調整のための策動を行おうとするねらいがあることは明らかである。私たちは、右国会法「改正」案の提出が準備されていた当時からそのことを指摘し、その設置に反対してきた。
例えば、新ガイドライン関連法は、自衛隊の海外派兵と武力行使を認めて日本を「戦争する国」につくりかえようとするものであり、武力行使の禁止はもとより、戦争を放棄し軍隊を保持しないと定めている憲法九条との矛盾は誰の目にも明らかとなっている。また、労働諸法制の改悪が進められて長時間過密労働が助長され、過労死が後を絶たないなど働くものの権利がいっそう侵害されている。警察による電話盗聴をみとめる盗聴法により市民のプライバシーすら危うくされている。このように政府与党は、憲法を踏みにじる幾多の法律をつくり、人権侵害の現実を放置し、「憲法と現行法制との乖離現象」の原因をつくってきた。その乖離を為政者に都合のよいように解消するために、憲法を変えようとするのは、立憲政治の否定に他ならない。このような改憲の足がかりに憲法調査会を運用することはとうてい許されない。
日本国憲法は、戦争放棄をはじめ具体的な人権保障規定など世界でも先駆的な憲法である。昨年五月に行われたハーグ世界市民会議では、「公正な世界秩序のための基本十原則」の第一に「各国議会は、日本の憲法九条のように、自国政府が戦争をすることを禁止する決議をすること」が確認された。日本国憲法、とりわけその平和原則は、世界各国の政府が実現するべき模範とされている。
世界に誇るべきこの憲法は、日本においてどのように機能し政治や国民生活の場で実現されているか、また実現するために何をするべきか。そのことをまず明確にするべきである。憲法を実現するために必要な調査を行うことこそ、憲法を尊重し擁護する義務(憲法九九条)を負っている国会議員の果たすべき責務である。
私たち自由法曹団は、憲法調査会で改憲論議を進め改憲の足がかりとする動きに断固反対するとともに、平和、民主主義、人権など憲法が政治や国民生活に生かされる社会を実現するために、全力を挙げるものである。
二〇〇〇年一月二二日
自 由 法 曹 団