<<目次へ 【声 明】自由法曹団


会社分割制度を導入し労働者の労働する権利を奪う商法「改正」法案及び労働者に転籍を強要する労働契約「承継」法案の衆議院本会議採決に抗議する

 五月一一日、衆議院本会議において、会社分割制度を導入する商法「改正」法案が可決された。すでに意見書において指摘してきた通り、この法案は財界の強い要請で準備されたもので、しかも興銀、第一勧銀、富士銀行が計画しているみずほファイナンシャル設立に間に合わせるために、自民、公明、保守、民主、自由五党合意の若干の修正を施した修正案が、十分な審議もないまま可決されたものである。
 商法「改正」法案は、会社分割制度を新設することにより、あらゆる営業を分社化して、元の会社との関係を切り離すことを認める法案である。都銀懇話会の席上では、親子会社の場合と異なり、不採算部門の完全な切り離しができると、その導入目的を語っていることが審議の中でも明らかになった。
 現実には、大企業による歯止めのないリストラ合理化のなかで、労働者の安易な解雇が公然と行われている。そのリストラ、解雇のための手法が、営業譲渡や分社化という事業再編である。他社に営業を譲渡するときに、転籍させた労働者の労働契約を一方的に変更して賃金を切り下げる、転籍に従わないものに対しては解雇をするなどして、労働者の労働条件を切り下げ、また大量の労働者を解雇してきている。この雇用破壊というべき状況は会社分割制度導入により一層深刻なものとなる。「新設分割」では、営業を受け継ぐ会社の株式を親会社に割り当てず、親会社の株主に割り当てる場合には、親子会社とはならず、完全に不採算部門を切り離すことができる。「吸収分割」では、吸収会社が大企業で、営業を譲渡する会社が中小企業の場合、優良部門だけを吸収して残った会社は赤字会社として倒産させるということもできる。 労働者との事前協議の規定は、商法「改正」法案のなかでは労働者保護という政策を入れ込むべきではないとの理由でわずかなものとなり、しかも附則のなかという形となった。そして協議しなかった場合の効果について何ら規定がなく、労働者保護のため には極めて不十分なものになっている。修正による「改善」もその実効性ははなはだ疑問である。
 労働契約承継法案は、民法六二五条一項の適用を譲渡される営業に「主として」従事した労働者については除外し、転籍を強制するもので、労働者の権利を根底から覆す法案である。一部の労働者には異議権が認められていることや労働契約を引き継ぐことなどで労働者に有利とみられる条項もあるが、事前の情報開示がないままであれば労働者の異議権を認めたとしても、労働者の意思を尊重したことにはならない。労働契約承継法案は、あらゆる事業再編を理由とした解雇を禁止するものではなく、現に多様な形で進行している労働者の雇用破壊という人権侵害を防ぐ力にはならない。この法案についても、ほとんど審議のないまま、本会議での採決が行われた。
 我々自由法曹団は、労働者の雇用を破壊し、労働者の働く権利を侵害する両方案の採決に強く抗議し、参議院での廃案を求めるものである。

二〇〇〇年五月一五日
自 由 法 曹 団