<<目次へ 【声 明】自由法曹団
本年6月14日、教育改革関連三法(学校教育法、地方教育行政法、社会教育法)「改正」案が衆議院で可決された。戦後初めての抜本的な教育改革を目指す法案であるにもかかわらず、十分な審議、特に教育にたずさわっている教師や父母・子どもたちの意見を全く聴くことなく、かつ、以下に述べるような問題点を含んだまま国会提出から3か月という拙速な成立が図られようとしている。
衆議院文部科学委員会において、「社会奉仕体験活動」を「ボランティア活動など社会奉仕体験活動」に修正し、また、出席停止制度等に関する付帯決議が行なわれたが、法案の持つ問題性は少しも変わっていないと言わざるを得ない。
とりわけ以下の点は看過することが出来ない。
第一は、地教行法(地方教育行政法)に新設された指導不適切教員の免職・不採用の規定である。この規定は教育内容にかかわる「指導の不適切」という事由をもって、重大な身分変更、職業変更となる免職・不採用を強いるものであるから、国や地方自治体による教育内容への干渉・侵害となる危険が高く、このような条項の新設自体きわめて問題である。また、この法案では、どのような事由が「指導不適切」に該当するのかについて、全く明示がなく、その内容が曖昧模糊としていることは明らかである。このような曖昧な定義・基準では、そこに処分者の恣意が介入することは避けられないのであり、かつその処分が重大な身分変更・職業変更を予定していることをも総合すると、本法案の文言は、その定め方自体に問題を孕んでいると言わざるを得ない。
更に、このような法案は職場の教師に対し、例えば、困難な子どもを抱えて学級崩壊の現状にある担任教師を、指導不適切と判断するのであれば、困難な子どもの教育に立ち向かう教師はいなくなるであろう。また教師が、指導不適切という烙印を押されないために目先の成果を追い求め、子どもに対し管理的指導を強める恐れもある。また、創造的な指導を試みる意欲をそぐ結果を与えかねない。
第二は、地教行法の高等学校の通学区域の指定が撤廃されたことである。そもそも、通学区の指定は、かってのトップ校を頂点とする学校間格差から生ずる過当競争を緩和し、教育の機会均等を図るために定められたものであった。しかるに、過去の反省も手当ても無く、再び学区を拡大しようとする姿勢は無責任極まりないものである。
第三は、学校教育法「改正」法案の出席停止措置についてである。確かに付帯決議で、一定の手続き的保障が要請された。しかし、出席停止となるような行動の背後には、必ず子どもなりの理由があり、教師はその理由を問いかけ・話し合い・ともに考え、理解し・信頼し合うことから、人を育て教育するという営みが始まるはずである。したがって、まずそのような子どもひとりひとりに行き届く、きめ細かな指導が可能となる少人数学級の実現が必要であり、かつ、教師が困難な生徒の指導を行なえる余裕を確保することが先決である。このような学校全体の体制の変更を抜きにして、出席停止措置だけを定めるとするならば、それは「トカゲのしっぽ切り」となり、教育的措置と言うことができないし、出席停止を受けた生徒が、再びクラスに適応できるようになるとは到底思えない。
第四は、同じく学校教育法「改正」案の社会奉仕体験活動についてである。「ボランティア活動など」という文言を加えたからといって、奉仕制度の押しつけであるという本質には何ら変わりは無いということである。大体、ボランティア活動というものは、個人の自発性によるものであって、法律や国家によって強制されるものではない。
今回の教育改革は、21世紀の日本や、日本人のあり方までも左右する重大なものである。このような重大な内容を含む法改正に強く反対する。また、これが国民の間で十分な議論をする時間と機会を与えずに私的諮問機関にすぎない教育改革国民会議の答申のままに、法制化されようとしている現状に抗議すると同時に、参議院では、以上の問題点を踏まえた慎重な審議を行なうよう要求するものである。
2001年6月21日
自 由 法 曹 団
団 長 宇賀神 直