<<目次へ 【声 明】自由法曹団
一 小泉首相は、近隣諸国や多くの国民の反対を無視して、靖国神社への参拝を強行しようとしている。
二 靖国神社は、戦前、陸軍省と海軍省が共同して管理してきたものであり、天皇の裁可を得た戦死者を「英霊」として合祀し、天皇のために命を投げ出すことを求め、国民を侵略戦争に駆り立てる、その精神的支柱となっていた。戦後は、一宗教法人とされたものの、侵略戦争を推進した直接の責任者である東条英機らA級戦犯を「殉職者」として美化し合祀している。
こうした靖国神社へ首相が参拝することは、日本政府が日本国憲法の平和主義の原点である侵略戦争への反省を投げ捨て、これを美化する立場に立つことを公然と表明することに他ならない。日本政府によって有事立法の検討が進められている今日、首相による靖国神社への参拝は、新たな戦争に備えるためのものとの危惧を抱かざるを得ない。
アジア諸国からきびしい批判の声があがるのは当然である。首相の公式参拝の強行は、日本とアジア諸国との間に決定的な亀裂をつくりだし、信頼関係を大きく損なわずにはおかない。
三 また、首相による靖国神社への参拝は、侵略戦争の痛苦な反省のうえに立ち、政教分離の原則を定め、信教の自由を基本的人権として保障している日本国憲法にも明白に違反する。愛媛玉串料最高裁判決は、13人の裁判官の圧倒的多数で、知事の靖国神社などへの玉串料等の奉納を政教分離原則に違反し、違憲とした。既に確定している岩手靖国訴訟仙台高裁判決は、靖国神社は宗教団体であり、拝礼は宗教的行為そのものであり、国又はその機関が特定の宗教への関心を呼び起こす行為であって、憲法20条3項が禁止する宗教的活動に該当する違憲な行為と判断した。
四 政府自身、1986年8月14日の官房長官談話では、首相の靖国参拝について「過般の戦争への反省とその上に立った平和友好への決意に対する誤解と不信さえ生まれる恐れがある」と懸念を表明していた。小泉首相の参拝はこの政府言明をみずから覆すことになる。
五 以上のように、小泉首相による靖国神社への参拝は、名目の如何を問わず、日本国憲法の定める平和原則と政教分離原則を踏みにじり、アジア諸国・民衆との信頼関係を破壊するものであって、私たちは、これを断じて許すことはできない。
小泉首相の靖国神社参拝の取りやめを強く求めるものである。
2001年8月6日
自由法曹団 団 長 宇 賀 神 直