<<目次へ 【声 明】自由法曹団
1 9月11日午前(現地時間)、アメリカにおいて、民間航空機4機が短時間のうちに次々とハイジャックされ、そのうち2機がニューヨークの世界貿易センタービル2棟に、1機がワシントンの国防総省に突入し、他の1機もピッツバーグ付近に墜落して、おびただしい数の犠牲者を発生させた。これは、恐怖と不安を世界に広げた残虐きわまりない行為であり、いかなる宗教的信条や政治的見解に基づくものであっても、断じて許されるものでない。この許し難い犯罪に対してはすべての知恵と力を集めて、犯罪者をを探しだし、法によって、厳正に処罰すべきでそのことは巨大な組織犯罪である本件では可能であると確信する。、
私たちは、人権と平和・民主主義のためにたたうことを目的とし、日本の全弁護士の1割近くの約1600名の弁護士で構成する法律家の団体として、今回の同時多発テロ事件を満身の怒りを込めて糾弾するとともに、犠牲となった方々に心から追悼の意を表する。そして、今回の事件の全容が一日も早く解明され、法と理性によって、処断され、正義が実現することを強く求め、力を尽くすものである。
2 ところが、今回の事件に関して、ブッシュ大統領は、「犯人だけでなくこれを匿い、支援する者も許さない」とし、報復のために空爆や地上軍の派遣も検討し、その準備に入っている。アメリカ上院及び下院の両議会も、報復のための武力行使を容認することを決議した。誰が真の犯人であるかを証明することもなく、多くの国と地域で多数の民衆を武力で殺傷することを当然視して報復戦争が実際に開始されようとしている。
3 しかし、こうした報復戦争がひとたび実行されれば、罪のない多数の人々が犠牲にされることは明らかである。私たちは暴力による報復に断固として反対する。これは国際法の原則であり、人類が多年の苦難の上に築き上げたルールである。これは国際関係を規律する国際法の中に結実している。すなわち、国連憲章は、武力の行使及び武力による威嚇を原則禁止し、紛争の平和的解決を義務づけており(2条、33条)、「国連憲章に従った諸国間の友好関係及び協力についての国際法の原則に関する宣言」(1970年国連総会採択)は、「武力の行使を伴う復仇行為を慎む義務を有する」としている。 このように、報復による武力行使を前提とした「戦争」の論理ではなく、「国際犯罪」として対処し、法により裁かれることが国際法上も、求められているのである。武力による報復は国際法違反である。
そして、加えて言えば武力による報復はかえってテロリストを利し、新たな報復を呼ぶだけである。そしてテロ根絶のためにはすべてのテロの温床となっている暴力による諸国人民の迫害や支配、貧富の格差を抜本的に是正していく粘り強い努力が求められる。
4 国際法の原則を無視して、一気に武力行使に突き進もうとしているブッシュ大統領に対して、小泉首相は、「米国の姿勢を強く支持し、日本としての援助、助力は惜しまない」との態度を明らかにしている。そして、今秋の臨時国会において自衛隊を海外派兵してアメリカの武力行使を支援するための新法づくりを指示し、米軍基地防衛を自衛隊の正式任務とするなどの法「改正」、さらには有事立法の準備をも急速に進めようとしている。しかも、すでにアメリカ艦隊の出航に際して自衛艦を出動させ事実上米艦船の護衛にあたらせている。
いうまでもなく、アメリカの武力行使に対する日本の軍事支援はアメリカ同様に暴力による報復に加わる参戦行為であり日本もアメリカとともに国際法を無視することになるのみならず、戦争を放棄し武力による威嚇及び行使を禁止している日本国憲法9条をも踏みにじるものであることは明白である。
5 日本国憲法は、「政府の行為によって再び戦争の惨禍の起こることのないやうにすることを決意し」て制定されたものであり、暴力を否定することこそ平和を追求する唯一の方法であるとして次のように高らかに宣言した。
「日本国民は」「平和を愛する諸国民の公正と正義に信頼してわれらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において名誉ある地位を占めたいと思ふ。」(前文)
平和的解決に力を尽くすことこそ日本の役割である。暴力的報復に手を貸してはならない。
私たちは、今回の同時多発テロに対して軍事力による暴力的な報復に断固反対するとともに、日本政府がこれを支援し、加担することがないようにするとともに、世界各国に向け、国連憲章と国際法に基づく法と理性による解決のため、軍事力によらないあらゆる外交努力を尽くすことを強く求める。自由法曹団は、平和を求めるすべての国民を広汎な世界の人々と力を合わせて全力をあげてたたかうものである。
2001年9月22日
自由法曹団 団長 宇賀神 直