<<目次へ 【声 明】自由法曹団


戦争動員法案に反対する

 4月16日、政府は有事法制関連法案(武力攻撃事態法案など3法案)を閣議決定し、本日国会提出に踏み切った。

【米軍のための戦争動員法案】

 有事法制関連法案は、政府の認定ひとつで軍官民あげての戦争態勢に突入し、地方自治体や民間企業・国民を戦争に動員するものである。
 発動要件になっている「武力攻撃事態」は、「事態が緊迫し、武力攻撃が予測されるに至った事態」まで拡大されており、現実の武力行使がなくても政府の判断でどうにでも認定ができる。国会の承認は「対処措置」が実行に移された後のことであって、政府の認定を追認するだけのものにならざるを得ない。
 「武力攻撃事態」と政府が認定すれば、自治体や「指定公共機関」(ほとんどが民間企業)は戦争態勢に組み込まれ、「対処措置」の実行を求められる。内閣総理大臣は自治体や「指定公共機関」に対する「指示権」や「直接執行権」まで認められ、全権が内閣総理大臣に集中される。国民にも「対処措置」への協力が義務づけられ、「改正」される自衛隊法によって「徴用」「徴発」が命令・罰則で強制される。自衛隊は法律の規制を除外する特権を与えられて、武力行使がない段階で自由自在に陣地の構築などができるようになる。
 事態への対応は機能が強化される安全保障会議で検討されるが、米軍への「物品、施設又は役務の提供」を含む「対処措置」は、米軍との調整なしには検討できない。新「ガイドライン」で設けられた日米両軍の「メカニズム」(包括・調整)で入念な調整が行われるに違いない。米軍の行動が「円滑かつ効率的に行われるための措置」についての法律(米軍支援法)を、「捕虜の扱い」などの措置とともに2年以内に法制化するとされているから、米軍の特権も明記されて陣地構築も自由自在ということになるだろう。
 米軍の特権を明文で保障した有事法制関連法案は、「米軍のための戦争動員法案」と断定せざるを得ない。

【平和憲法を蹂躙し、米軍の侵攻戦争に加担】

 日本国憲法は平和的生存権を宣言し、陸海空軍その他の戦力の不保持と交戦権の否認を明確に規定するともに、国民主権・基本的人権・地方自治などの基本理念を掲げている。政府の認定ひとつで戦争態勢に国民を動員しようとする戦争動員法案は、この平和憲法と全く相容れない。
 平和憲法の理念は国民の圧倒的な支持を得ているのみならず、世界各地で紛争が発生しつつあるいまこそ、世界に広げることが求められている。その平和憲法を持つ日本が、率先して戦争の道に踏み出す戦争動員法を制定することは、憲法を蹂躙するばかりか、世界やアジアの期待を裏切る暴挙以外のなにものでもない。
 日本に「本土上陸作戦」などの武力攻撃が行われる事態が想定できないことは政府ですら認めており、「侵略に備えるための有事法制」などという説明はまったく成り立たない。今回の有事法制問題はアメリカの強い要求・圧力によって浮上したものであり、「悪の枢軸」を叫び戦争の拡大を企てるブッシュ政権に追随して米軍の戦争に加担しようとするものであることは明らかである。
 小泉政権はテロ特措法を強行してアフガン報復戦争に参戦し、いまなおアフガンの民衆を殺戮する米軍への後方支援を続けている。ブッシュ政権が「悪の枢軸」のひとつとする北朝鮮への武力行使に走ったら、周辺事態法によって日本に参戦が求められるだろう。そのとき「武力攻撃が予測される」として戦争動員法が発動され、軍官民一体の戦争態勢に突入することになる。それは、この国がブッシュ政権の武力侵攻に加担して、再びアジアの民衆に銃を向けることを意味している。

【戦争の道にNOを 戦争動員法を直ちに廃案に】

  小泉首相が「有事法制の制定」を表明して以来、広範な国民から反対・批判が表明され、3月16日には日本弁護士連合会も法案提出反対の理事会決議を行った。報復戦争がテロ根絶を果たせないばかりか、「暴力の連鎖」によって世界各地に紛争を拡大していることが明らかになっているいま、日本に求められているのは、ブッシュ政権が企てる戦争の道にきっぱりとNOを表明することである。
 自由法曹団は、政府の戦争動員法案閣議決定と国会提出に強く抗議するとともに、国会が戦争動員法案の審議・採択を拒否し、法案を直ちに廃案にすることを強く要求する。
 自由法曹団と1600名の団員弁護士は、平和を願う広範な国民とともに全力をあげて廃案のために奮闘するものである。

 2002年 4月17日

自  由  法  曹  団
団長  宇 賀 神  直