<<目次へ 【声 明】自由法曹団
2002年9月9日
自由法曹団
団長 宇賀神 直
1 政府の司法制度改革推進本部・仲裁検討会は、新仲裁法制定に向け「仲裁法制に関する中間とりまとめ」を発表し、9月13日を期限としてパブリックコメントを求めている。この「中間とりまとめ」によれば
@適用範囲につき、国際商事仲裁に限らず、「外国仲裁及び内国仲裁並びに民事仲裁及び商事仲裁について統一的に規律」するものとし
Aまた仲裁契約の意義として、「契約に基づくものであると否とを問わず、一定の法律関係について既に生じ、又は生ずる可能性のあるあらゆる紛争・・を仲裁に付する旨の当事者の合意をいうものとする」としている(なお「消費者保護に関する特則について」等が定められている)。
このように「中間とりまとめ」は、適用範囲が非常に広範であり、対象も広く将来紛争を含むものとしている一方、保護の特則は消費者契約に限られ、労働契約、借地借家 契約その他社会的経済的に対等性が認められない分野(たとえばフランチャイズ契約など)まで新仲裁法の適用を予定している。
2 新仲裁法による仲裁契約は、将来発生する可能性のあるあらゆる紛争を対象とするものであり、中核的紛争解決手段である裁判を提起する権利を予め放棄する合意であるから、その合意が合理性を有するのは、仲裁制度が国際商取引において発展してきた歴史に示される通り、当事者間において社会的経済的に対等性が確保されている場合であり、この対等性を欠く場合、特に権利規定や規制立法が設けられている分野にまでこれを適用することは背理でさえある。
とりわけ労働契約においては、使用者が定める就業規則の規定が契約内容を構成するものと判例上理解されていることから、採用時に実質的に諾否の自由すらもたない労働者に仲裁合意が押し付けられることになり、後に紛争が生じても使用者は仲裁手続きを理由として団体交渉に応じないことも予想され、そうなっては憲法等の定める労働者・労働組合の団体交渉権その他団体行動権も否定されるに等しい事態となる。またこれまで労働裁判が果たしてきた事実を解明する役割及び解雇権濫用法理や整理解雇法理などの判例理論を発展させる機能も失われてしまうのである。
3 私たちは、新仲裁制度において、社会的・経済的に対等性が認められない国内取引、とりわけ労働契約(これに類する請負契約等を含む)、消費者契約、借地借家契約、フランチャイズ契約などには、適用対象から除外することを明示するするよう強く求めるものである。
以 上