<<目次へ 【声 明】自由法曹団
本日衆議院は現在構造改革特別区域法案を本会議において可決し、参議院に送付した。 この法案の中で、社会保険労務士法に係る特例措置として、構造改革特別区域内において、一定の要件の下に、社会保険労務士が、同区域内に居住する求職者又は労働者の求めに応じて、同区域内に事業所を有する事業主との間の労働契約の締結、変更及び解除について、当該求職者又は労働者の代理(弁護士法72条に規定する法律事件に関する代理を除く)をすることを業とすることができる旨を定めようとしている。
これは「労働契約の締結、労働条件交渉又は労働契約の解除に不慣れな求職者又は労働者の代理人として、企業との間に立って交渉を行う者がいれば、円滑な労働契約の締結等が促進され、雇用のミスマッチの解消に大きな効果を発揮する」ことを口実として、中間搾取を禁止している労働基準法第6条の特例を定めることにより、社会保険労務士に私的労働者斡旋業を認めようとするものである。
しかし、そもそも政府が今まずもってなすべきことは、ますます深刻化している企業の無法なリストラ「合理化」をやめさせ、また労働のルールを確立することによって、悲惨な失業者や過労死・過労自殺者を出さないようこれを何としても食い止めることである。特例を設けて中間搾取(ピンハネ)を可能にし、労働者の地位をも不安定にする労働者斡旋業者を増加させることでは断じてない。
また社会保険労務士法は、社会保険労務士のみが労働社会保険に係る業務を業として行うことができるものとし、労務管理等の相談・指導は付随的業務として位置付けている。すなわち、社会保険労務士は労働社会保険業務の専門職として社会的に評価されるものであるが、労働契約締結等の交渉事については格別の教育・訓練が予定されている訳ではない。今回の特例措置は、一定の要件の下、社会保険労務士に労働契約関係において弁護士業務を行う権限を認めるに等しく、非弁護士の法律事務の取扱等を禁止する弁護士法72条に抵触すると言わざるを得ない。
更に開業社会保険労務士は、依頼者である使用者から委任を受けて継続的に労働社会保険業務の代行をするものであって、本質的にも実質的にも使用者の利益を擁護する立場に立つ。このような社会保険労務士が使用者と労働者との間の仲介的行為を行うことは、当事者双方の代理人となること(双方代理)を禁止する民法108条を潜脱するものといえる。
政府は現在、司法制度改革推進本部・労働検討会において、労働裁判改革のため検討作業を重ねる一方、仲裁検討会において労働契約をも新仲裁法制の対象に含める「中間とりまとめ」を公表したり、司法アクセス検討会において弁護士報酬敗訴者負担制度を執拗に導入しようとするなどして、労働者の裁判を受ける権利を形骸化しようとする動きを顕著に示しているが、今般更に労働者の権利をゆるがせにしようとする施策を実行しようとしている。今回の特例措置を認める法案もそのひとつである。
わたしたちは、これらの一連の動きに断固抗議するとともに、社会保険労務士法に係る特例措置を設けることにつき反対するものである。
2002年11月21日
自 由 法 曹 団
団 長 宇 賀 神 直