<<目次へ 【声 明】自由法曹団
1 はじめにー調査会の目的
国会に憲法調査会が設置されて3年が経過しようとしています。調査会の設置目的は、「日本国憲法について広範かつ総合的に調査を行う」こと(国会法102条の6)です。また、憲法調査会の設置に際しては、議案提出権がないこと、調査期間は概ね5年程度を目途とすることが議院運営委員会理事会において、申し合わせ事項として確認されています。
この間、衆議院憲法調査会では、主に「日本国憲法の制定経緯」や「21世紀の日本のあるべき姿」をテーマに、2002年からは、4つの小委員会に分かれて、順次、参考人から意見を聞く活動を行ってきました。参議院憲法調査会では、日本国憲法の制定過程や文明・歴史論等の観点から参考人の意見を聞き、その後は、国民主権と国の機構や基本的人権をテーマとして、順次、参考人から意見を聞き、調査会の委員と質疑応答してきました。
しかし、調査会が設置された前記の目的からいえば、現実の日本国憲法の運用実態を調査、検証しなければならないはずです。そのような活動は、十分行われてきたのでしょうか。
2 調査会のテーマと活動
国会の各憲法調査会の活動が、その設置目的に則したものといえるかについては、疑問を抱かざるを得ません。
例えば、「21世紀の日本のあるべき姿」のテーマについては、調査会に出席した参考人らが思い描く21世紀の国家像について論じ、それに憲法をどうあわせるかを議論する傾向は否めませんでした。テーマ設定自体に改憲へのムード作りが意図されていたといわざるを得ないのです。しかも、昨年11月1日、衆議院憲法調査会が発表した「中間報告」では、論点整理の総論的事項について、「憲法の規定と現実の乖離」と「憲法の改正」を中心にまとめるなど、改憲を指向したなどと指摘されています。
しかし、すでに6回行われた衆議院憲法調査会の各地方公聴会では、公述人の多くが憲法の積極的意義を強調しました。いずれの地方公聴会でも改憲を求める意見はむしろ少数であり、国会内の議論とは相当のギャップがあります。国民に身近な立場から出された意見として、軽視することは許されません。また、GHQのスタッフとして憲法案の作成作業に携わったベアテ・シロタ・ゴードン女史が、参院調査会の参考人として述べたように、日本国憲法には、人類の歴史的な到達点が生かされていることが明らかにされています。
むしろ、いま必要なことは、憲法の積極的意義をあらためて確認し、憲法を現実に活かすための調査活動こそ求められているのではないでしょうか。
3 今後の運営について
調査会の法に定められた設置目的からすれば、はじめに改憲ありきではあってはらないのであって、調査会は、まず、憲法の運用実態について調査し、憲法の内容を実現するのに必要な法律が十分整備されているかを検討することです。それが不十分であればその原因を解明し、憲法を現実の政治にどう生かすかを議論すべきではないでしょうか。
そのためには、国民の権利や生活の実態から考える視点は不可欠です。例えば、憲法に基づいて保障されている権利を侵害されたと訴え、行政や大企業に否定されていた権利を実現していった例も数多くあります。私たちは、1921年に設立されて以来、国民の自由と権利、平和と民主主義を実現する活動に取り組んでいる弁護士の団体ですが、私たちがまとめた「憲法判例をつくる」(自由法曹団編・日本評論社)にも様々な事例(51事例)が掲載されています。一つ一つの事例が、調査検討の対象となるといっても過言ではありません。
少なくとも、国民の現実や実態そのものを直視し、その原因や対策を憲法を積極的に活用する視点で、調査・検討することこそ、憲法調査会の果たすべき役割です。このような活動を抜きにして、これまでの参考人の意見を中心とした活動をまとめて、憲法の各条項ごとに「改正」論議ないしは「改正」に結びつけるような議論を指向することのないよう申し入れる次第です。