<<目次へ 【声 明】自由法曹団


イラク派兵法案に断固反対し、その撤回を求める声明

1 政府は,6月13日,日本の自衛隊をイラクに派兵するための「イラク派兵法案」(イクラ特別措置法案)を閣議決定し国会に提出した。
 同法案によれば,派兵された日本の自衛隊は,イラク国内において,人道・復興支援活動及び米英軍に対する安全確保支援活動の任務を担うことになる。米英軍に対する安全確保支援では,医療,通信,補給などのほかに,武器・弾薬の陸上輸送も想定されている。
2 法案はイラク戦争を国連決議に基づくものとしている。しかし,イラクに対する武力攻撃を容認する安保理決議案は,安保理で可決される見込みがなかったために,米国自らが取り下げたのであって,イラク戦争を正当化する国連決議は存在しない。
 米国は,イラクが国連査察を無条件で受け容れ,査察による武装解除が現実に進んでいるもとで,それでもなおイラクが大量破壊兵器を保有し,フセイン政権にそれを破棄する意思がないと断定し,国連決議のないままにイラク攻撃に踏み切ったのである。しかも,米国がイラク国土の軍事占領を始めて2ヶ月。いまだに大量破壊兵器は発見されていない。それどころか,戦争前に米国国防総省がまとめた機密報告書には,大量破壊兵器の存在に関する信用できる情報はないと記述されていたことも判明している。米国のイラク攻撃が国連憲章違反の無法・非道な戦争であったことは,いまや誰の目にも明らかである。
 このような国連憲章違反のイラク戦争に引き続く米英軍の軍事占領を支援するのがイラク派兵法である。日本は,過去の侵略戦争の反省にもとづき,一切の戦争を放棄するとともに,その精神を徹底するために,戦力を保持しないこと,そして,交戦権を認めないことを日本国憲法に定めている(憲法9条)。憲法にいう「交戦権」には敵国領土の攻撃,船舶の臨検・拿捕のほかに他国領土の軍事占領も含まれるのであり,米英軍の軍事占領を支援するための自衛隊派兵が憲法違反であることは明白である。
3 自衛隊のイラクへの派兵は占領軍である米国の強い要求によるものである。米国は,日本に対し,「ブーツ・オン・ザ・グラウンド」(地上部隊の派遣)を求めた。法案は,「非戦闘地域」での支援に限るとしているが,現に全土で戦闘が続き死傷者が発生しているイラク国土で「戦闘地域」と「非戦闘地域」の区分などできるものではないし,いずれにしても,派兵された自衛隊は事実上米中央軍司令官の指揮下に組み込まれ,米軍の武力行使と一体化した支援活動をすることになる。しかも,自衛隊の活動に関しては組織として武器使用することまで想定されており,自衛隊が米英軍などと共同して武力行使を行う危険性を指摘せざるを得ない。結局,本法案によって,日本は米国の無法・非道な侵略戦争に軍事的に加担することになるのである。そのことが憲法の禁じる「武力による威嚇又は武力の行使」にあたることは言うまでもない。
4 米英軍の攻撃によって国土が破壊されるとともに,無政府状態のイラクに対しては,人道的な立場からの支援が不可欠である。しかし,その支援は,国連を中心とした国際社会全体で担うべきである。日本は平和憲法をもつ国として,非軍事の分野での人道・復旧支援にこそ力を尽くすべきである。
5 自由法曹団は,イラク派兵法案に断固反対し,その撤回を求めるとともに,無法・非道な侵略戦争を行った米英軍がイラク領土から撤退し,国連がイラク復興の中心的役割を果たすことを求めて,平和を願う世界の人々とともにたたかうものである。

2003年6月16日
自由法曹団 団長
宇賀神 直