<<目次へ 【声 明】自由法曹団


共謀罪の創設に断固反対する


 「犯罪の国際化及び組織化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」が今国会に提出された。法律案には、組織的な犯罪の共謀罪の新設が盛り込まれている。
 組織的な犯罪の共謀罪は、死刑または無期もしくは長期4年以上の懲役もしくは禁錮の刑が定められている「罪に当たる行為で、団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行なわれるものの遂行を共謀した者」を処罰するとしている。対象犯罪の罪名は、実に540にのぼる。
 政府は、2000年11月15日に採択された「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約」に基づき、国内法化を図ったと説明する。もともと国内に必要とする立法事実があったものではなく、国内法の原則との整合性は慎重に検討されるべきである。
 政府は、この条約の背景として、近年急速に複雑化、深刻化している国際的な組織犯罪に効果的に対処するために、各国が自国の刑事司法制度を整備・強化し、国際協力を推進することを目的として採択されたものである、と説明する。しかし、法律案の共謀罪は540もの刑罰規定を対象とするが、その個々の刑罰規定と国際的組織犯罪との合理的関連性、現行法ではどこが不十分なのか、について明確ではない。
 条約第3条1項には、条約の適用範囲として、「性質上国際的(越境的)なものであり、かつ、組織的な犯罪集団が関与するもの」と明記されている。しかし、法律案にある共謀罪においては、「国際的な犯罪」という限定は全くなされていないし、「組織」性も極めて希薄なものにされ、「犯罪集団」という限定もない。すべての純粋な国内犯罪に適用が可能な一般的規定となっている。
 条約第34条2項は、「第5条(組織的な犯罪集団への参加の犯罪化)・・・の規定に基づいて定められる犯罪については、各締約国の国内法において、第3条1に定める国際的な性質又は組織的な犯罪集団の関与とは関係なく定める。ただし、第5条の規定により組織的犯罪集団の関与が要求される場合はこの限りでない。」と規定している。
 法務省は、これにつき、共謀罪については2つの要件と無関係に立法しなければならない、条約を批准する以上他の選択肢はない、という解釈意見を述べている。
 しかし、条約第34条1項が「自国の国内法の基本原則に従って、必要な措置をとる」ことを明記し、同条2項は、国内法に2つの要件を盛り込む必要がないことを示したとするのが条約の正確な解釈である。法務省の見解は、条約の正当な解釈に違背する。
 法律案は、犯罪の実行着手に至らない、共謀それ自体を処罰の対象とする。犯罪が処罰されるのは、法益侵害という結果の発生、もしくは法益侵害の差迫った現実的危険性があるからにほかならない。共謀による合意成立後の打合せや電話での連絡、犯行手段や逃走手段の準備等のいわゆる「顕示・助長行為」を一切必要とせず、合意成立のみの段階を処罰の対象とすることは各国にもほとんど例を見ない。合意の成立だけで犯罪の成立を認めることは、まさしく「意思」を処罰するものであって、わが国の刑法の基本原則に反する。
 また法律案は、単に「団体の活動として」と規定しており、犯罪行為を行なうことを目的としているものに限定されず、政党・労働組合・各種市民団体のみならず、要するに2人以上いればすべて「団体の活動」として捕捉される。
 「当該行為を実行するための組織により行なわれるものの遂行」という要件も、文言自体あまりにもわかり難く、不明瞭に過ぎる。
 本法律案で提案されている共謀罪は、立法事実がなく、犯罪構成要件があまりにも広汎かつ不明確であって、刑法の人権保障機能に反し、絶対に認められない。

2003年6月21日
自由法曹団常任幹事会