<<目次へ 【声 明】自由法曹団


対北朝鮮「経済制裁法案」に反対する

 自民党・公明党・民主党の与野党3党は、1月28日、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)に対する経済制裁を主として念頭においた「外国為替及び外国貿易法(外為法)」の改正案を国会に提出し、同日、衆院財務金融委員会において可決、翌29日、賛成多数で衆議院を通過した。また自民党は、引き続き万景峰号などの入港禁止を目的とする「特定外国船舶の入港の禁止に関する法律案」の国会提出を準備している。
 自由法曹団は、以下の理由により、経済制裁法案等の制定に強く反対する。

2 外為法を有事法(戦時法)化するものである。

 今回の外為法「改正」案は、「我が国又は国際社会の平和および安全の維持」を外為法の目的に新たに追加し(第1条)、我国独自の判断により、送金の停止や輸出入の制限を内容とする対応措置をとることができるとしている(第10条)。
 通商経済法である外為法は、国際収支の均衡、通貨の安定、我国経済の発展を目的に、資金の移動等に対する規制は必要最小限とし、その管理・調整は例外的扱いとされてきている。即ち、国際収支の均衡を維持するため特に必要がある場合や国際条約の誠実な履行等の国際社会と協調しての制限に限られてきた。
 しかるに、本「改正」案は、「我が国の平和および安全の維持のために特に必要があるとき」には経済制裁を発動できるとするものであり、外為法を、我が国の安全保障の手段として活用とするものである。これは外為法本来の性格を根本から変え、いわば通商経済法を有事法(戦時法)に変容させるものである。

3 拉致問題解決に「経済制裁法」は役に立たない。

 新聞報道等によれば、日朝間における拉致事件の解決のカードとして今回の外為法「改正」が提案されたとされている。
 しかし、内閣が経済制裁=対応措置を決定できるのは、(1)我が国の平和および安全の維持のため、(2)特に必要があるときとされており、日本という国家の平和や安全上において看過しがたい事態であって、かつ、特別の必要のある場合に限定されているのである。したがって、北朝鮮が拉致被害者の家族を日本に返さない等の拉致事件の未解決をもって我が国の安全が脅かされたとはいえず、対応措置の発動それ自体が不可能なのである。

4 経済制裁法は北東アジアの平和に新たな緊張を持ち込む。

 日朝平壌宣言において日朝両国は、「国際法を遵守し、互いの安全を脅かす行動をとらないことを確認」(3項)し、「北東アジア地域の平和と安定を維持、強化するため、互いに協力していくことを確認」(4項)した。また、昨年8月の第1回6カ国協議における「平和的解決のプロセスの中で、状況を悪化させる行動をとらない」旨を合意している。
 今回の外為法「改正」は、支払や資本投資等の送金停止に加え輸出入の制限をも含む広い範囲の経済制裁を内容としており、かかる経済制裁の実施は、その後の「海上封鎖」や「武力攻撃」に連なるきわめて危険な選択である。
 北東アジアの平和を維持・前進させるための二国間合意や多国間協議が進行している中で、我が国が「経済制裁法」を定めることは、日朝平壌宣言や6カ国協議という平和の努力に逆行し、新たな緊張を北東アジアに持ち込むものに他ならない。

5 経済制裁は非人道的である。

 さらに自由法曹団は、経済制裁の持つ非人道性を指摘しなければならない。
 イラクのフセイン政権に対し経済制裁が実施されたが、結局は大きな成果を上げることができなかったばかりか、病人や子どもたちに犠牲をもたらしただけであった。このイラクの教訓にてらせば、経済制裁はきわめて非人道的手段であり、かかる手段を北朝鮮に対し実施することに自由法曹団は反対せざるをえない。

6 拙速に過ぎる。

 最後に、提案から可決までわずか2日間という、ほとんど実質的審議をなさないまま衆議院を通過させたことに対し、自由法曹団は強く抗議する。
 外為法を有事法制化することが妥当か、対応措置によって拉致問題が本当に解決できるのか、北東アジアの平和にとって支障とならないか等、解明されるべき論点は数多い。にもかかわらず半日の委員会審議で可決するなど、ほとんど暴挙といって等しい。
 自由法曹団は、参議院においては、慎重に審議をしたうえで、本改正案を廃案とすることを求める。

2004年2月4日

自由法曹団
団長 坂本 修