<<目次へ 【声 明】自由法曹団
政府は、三月一三日、「国際連合平和維持活動等に関する法律の一部を改正する法律案」(以下、単にPKO法「改正」案という)を国会に提出した。
まず、この法案で問題なのは、PKO活動に部隊として参加した自衛官及び海上保安官が武器を使用するのは原則として上官の命令によらなければならないとしている点である。自衛官の個別判断による武器使用は原則的に許されず、上官の「命令」があったときは、隊員は「命令」を遵守する義務を負う。上官の命令による武器使用というのは、部隊として組織的に武器を使用することであり、武力行使となることは明白である。
現在のPKO法が法案として国会で審議された当時も、「部隊としての武器使用」は「武力の行使」として違憲だが、個々の自衛隊員の個別判断による武器使用なら「武力の行使」にあたらないというのが政府答弁であった。これに対して、そのような武器の使用を想定することは、現実的ではなく、かえって事態の混乱を招くものであり、結局、組織的な武器の使用、すなわち武力行使は免れえないものであり、憲法に違反することになるというのが、PKO法に反対する当時の世論と野党からの批判であった。しかし、政府は、組織的な武力行使ではなく、あくまで個人の個別的な判断であり、かつ防衛的行為であるから憲法九条に抵触しないとして、PKO法を強引に成立させたのである。
今回のPKO法「改正」案は、政府自ら憲法違反としてきた自衛隊による海外での武力行使を公然と認めるものに他ならない。
しかも、最近のPKO活動は、ボスニア紛争、ソマリアなどでの活動に端的に示されているように、武力行使を伴う活動に傾斜、変質している。それは、従来と異なり、アメリカやフランスなど軍事大国が紛争に介入し、その政治的意図に左右されるものとなっている。また、内戦への介入など一部政治勢力に加担し「不偏不党の活動」とも言い難いものとなっている。今回のPKO法「改正」案は、自衛隊がこのような活動に参加して、海外での武力行使の突破口をつくろうとするものである。
他方、政府は、昨年九月二三日に合意された新ガイドラインのもとで、在外邦人の救出活動や船舶の臨検、機雷の掃海、遭難した米兵の捜索・救難活動をはじめ、自衛隊の海外での活動をいっそう拡大し、戦争行為と一体となった様々な後方支援活動を展開するなど日米共同での軍事行動を進めようとしている。
PKO法「改正」案は、このような軍事活動拡大の動きと軌を一にするものであり、戦争を放棄し、武力の行使も武力による威嚇をも禁止した憲法の平和原則と全く逆行する。
また、今回の「改正」案は、停戦合意が成立していない場合にも、海外の紛争地域における物資協力を行うものとしている。しかし、武力紛争が現に行われ、あるいは行われる危険のある状態の地域で、物資協力を行うことは、海外での軍事紛争に介入し、軍事活動に加担することにもなる。
さらに、「改正」案は、国連及び国連以外の国際的地域機関の要請により実施される選挙監視活動に対し、要員の派遣及び物資協力を新たに認めている。これは、武器を保有した自衛隊員の参加を含むものであり、自衛隊の海外での活動をさらに広げることにもなる。
以上のように、今回の「改正」案は、憲法の平和原則に照らしてとうてい容認できないPKO法の重大な「改悪」である。私たちは、PKO法「改正」案の成立を阻止するために全力を挙げるものである。
一九九八年三月一六日
自 由 法 曹 団