<<目次へ 【声 明】自由法曹団


司法制度審議会設置についての見解と要請

1999年1月
自由法曹団 団長 豊田 誠

 政府・自民党は、次期通常国会の早い時期に、この司法制度審議会設置法を国会に提出する動きと伝えられています。
 この設置法については、まだ法案要綱もなく、したがって、その設置目的と審議項目、審議会委員の人選と構成、運営方法等の詳細は明らかではありません。しかし、極めて重要な問題ですので、自由法曹団は次のとおり見解を明らかにし、その実現を求めます。

一 司法の抜本的改革をめぐる諸提言と司法制度審議会設置の動き

1 自由法曹団の司法民主化提言案の発表
 自由法曹団は1921年に創立され、全国で約1500人、全国の弁護士の約1割が加入する法律家団体です。私たちは、戦後、日本国憲法の下で、権力や大企業などによる人権侵害の犠牲になった人々の権利をまもり発展させるために、数々の裁判にとりくんできました。これらの裁判にかかわった国民と弁護士は協力して、事実と道理を法廷の内外に明らかにして多くの国民に訴え、幅広い方々の支援と協力を得て、権利を実現し、擁護してきました。わが国の国民の権利が不十分であれ、この間確実に向上し、現在の水準に至っているのも、これらのとりくみの成果に負うところが少なくないと考えます。
 しかし、さまざまな要因で、現在の日本の司法は国民の期待に反してその機能を十分に果たしておらず、その病弊は小さくありません。諸外国と比べても、日本の人権後進国ぶりは著しく、その問題点は歴然としています。その根本的原因は日本の遅れた司法制度そのものにあります。この司法のゆがめられた体質と遅れた現状を放置していては、国民の権利を十分にまもり、発展させることができないばかりか、日本を平和で自由な民主主義が徹底して貫かれる社会にすることはさらに困難です。したがって、一日も早く司法制度を抜本的に改革して、21世紀に向けて日本の人権水準を飛躍的に向上することが求められています。また、必要な人的、物的体制を整えることも必要です。
 そこで自由法曹団は、これまでの討議を集約して、1998年10月の総会で「21世紀の司法の民主化のための提言案―財界や自民党のめざす司法改造か、国民のための司法の民主化か」を採択しました。この提言案では、@判事補制度の廃止と法曹一元制度の実現、A国民の司法参加の実現、B裁判を受ける権利の経済的保障と司法予算の大幅な増大、C抜本的な制度改革を支える法曹人口の大幅な増大、の4本柱を掲げ、これを実現することをめざしています。私たちはその後、これを各界各層に提案し、議論を開始したところです。

2 財界や自民党の動きと司法制度審議会設置の動き
 他方、この数年来、財界は、財界にとっても現在の司法は十分に機能していない、と考えて、司法改革の提言をくり返してきました。
 自民党も、政務調査会司法制度特別調査会が、1997年11月11日「司法制度改革の基本的な方針―透明なルールと自己責任の社会へ向けて―」を発表したあと、急ピッチで各界各層からの意見聴取を経て、昨年6月16日には、「司法制度特別調査会報告、21世紀の司法の確かな指針」を発表しました。そして、その第五「提言」の(1)項で、「21世紀のあるべき司法の全体像を構築していくため、政府において、最終ユーザーである国民各層の意見を幅広く汲み上げて議論する場を設置し、明治以来、また戦後創り上げてきたわが国の司法について、抜本的な検討を行うことが必要である。」として、「司法制度審議会」(仮称)の設置を提言しています。
 これらの財界や自民党のめざす方向は、多国籍企業が国境を超えて世界の経済を支配しようとするいわゆる「大競争時代」を目前にして、日本を規制緩和型の国家社会へ改造する計画を立て、日本の司法をさらに多国籍企業、大企業に奉仕するしくみに作り替えようとするものです。この点は、自由法曹団の司法民主化提言案できびしく批判しています。

二 司法制度審議会設置に対する私たちの見解

 自民党の指針には、国や大企業を相手とする裁判などで、行政追随、大企業擁護、司法消極主義といった問題点や、社会的弱者の権利が十分に守られていない、といった現在の司法の深刻な現状と、裁判のキャリアシステムと最高裁判所による統制など、その原因についての問題意識が不十分です。また、財界と治安に奉仕する司法改造をめざすなど、私たちと基本的に立脚点を異にしています。その結果、今設けられようとしている司法制度審議会も、そのための司法改造計画をきわめて短期間で審議し、結論を導き出す機関とされるおそれが強いといわなければなりません。
 そこで、自由法曹団は、このような方向での審議会の設置、運営に反対するとともに、この審議会のあるべき設置目的と審議項目、審議会委員の人選と構成、運営方法等について見解を明らかにし、その実現を求めます。

1 設置目的と審議項目について
 自民党の前記指針の設置理由は抽象的ですが、少なくとも日本国憲法の国民主権のもとでの21世紀の日本を展望するにふさわしい設置目的と審議項目が構想されなければなりません。
 すなわち、安い費用で迅速な裁判を受ける権利が真に保障され、公正な裁判所が正しく権利を守る裁判を行う、違憲立法審査権の行使や国際人権法の適用にも消極的にならないなど、現在の日本の司法のあり方を大きく転換する必要があります。決して、財界の利益と治安強化に偏した司法制度の改造をめざすものであってはならないと考えます。また、国家権力や社会的強者、多数者の横暴から社会的弱者、少数者の権利をまもるための制度的保障の一つである弁護士法1条や弁護士自治の見直しを目的とすることには反対します。
 審議項目としては、司法予算の増大など、緊急性があり、かつ、意見の一致する論点については早急に審議を始めることはあり得るとしても、これに先立ちあるいは併行して、現在の日本の司法の深刻な現状とその原因について議論することを避けるべきではありません。こうした議論を通じてはじめて、正しい改革の方向が明らかになるというべきであり、いきなり個別の論点に入り込むことは、真に国民主権にふさわしい改革の方向を見失うおそれがあります。

2 審議会委員の人選と構成について
 自民党の指針では、「最終ユーザーである国民各層の意見を幅広く汲み上げて議論する」とされています。審議会委員の人選と構成においても、文字どおりそのような民主的構成に努めるべきであり、財界などに偏った人選は避けるべきです。。
 司法は、憲法と法律、社会正義の原理に基づいて社会的弱者や少数派の権利を、国家権力や社会的強者、多数派の横暴からまもることを大切な使命としています。したがって、審議会の構成にあたっては、社会的弱者の立場を代弁したり、支援している団体、これに対する理解のある団体からの人選にも意を用いるべきです。具体的には、労働界、消費者団体、女性団体をはじめとして、文字どおり国民の各界各層の意見を幅広く聞く人選が必要です。労働界については、日本労働組合総連合会(連合)だけでなく、全国労働組合総連合(全労連)のように、多数の労働裁判を担当し、あるいは支援していて、日本の司法の現状と問題点についてよく認識している団体の参加が求められます。
 また、司法制度の抜本的改革を議論するのですから、自らこれに携わっている法曹三者からも参加を求めるべきです。

3 審議会の民主的運営と情報公開などについて
 これまでの審議会のほとんどは、密室で審議が行われ、国民からの意見が反映されないとか、短期間に強引な運営がなされる、といった問題点を抱えています。この審議会がそのように運営されてはなりません。
 そもそも司法は、国民の人権を守ることをその使命としており、21世紀の司法のあり方をめぐる審議会を設置しようというのですから、拙速を避け、十分な審議時間と民主的運営が保障されなければなりません。
 自民党の指針でも、「最終ユーザーである国民各層の意見を幅広く汲み上げて議論する」とされており、審議の経過については、マスコミをはじめ国民に対する情報公開が必要です。具体的には、マスコミによる傍聴など、審議の公開を求めます。また、民事訴訟法改正作業の中では、二度にわたって各界各層に意見照会し、意見照会先となっていない団体からの意見も幅広く受け入れましたが、同様に各界各層に意見照会し、広く意見を受入れるべきです。