<<目次へ 【声 明】自由法曹団
一、少年審判手続きの見直しを検討してきた法制審議会は、一九九九年一月二一日、「要綱骨子」を多数決で採択した。今後、早ければ一九九九年二月の通常国会に提出される見込みである。
しかし、本案は基本的な手続きの面で重大な変更を行っており、その変更が少年法の保護・育成の理念に極めて大きな変容をもたらすものであるから、到底容認できるものではない。
二、まず、本案では現行審判構造を前提として、検察官を関与させ、抗告権も与えるとしている。しかし、現行少年法が検察官関与を認めていないのは、審判廷においても教育と福祉の理念に基づき、ケースワーク機能を中心として、事案の解明と少年の立ち直りを図ろうとしたからである。ところが、今回の少年法部会の議論では、この点が全く看過されている。
しかも、現行の職権主義構造のもとでの検察官関与は、伝聞・再伝聞証拠を始めとするあらゆる証拠資料をもとに有罪方向への立証を許す事になるのであるから、少年を大人の刑事事件より不利な立場に置くものである。
また、検察官が関与しうる対象は、長期三年を超える懲役・禁固まで含む広範囲なものであり、窃盗や交通事故も含まれる事になる。さらに、被害者が死亡した事件については、少年が事実を全く争っていない場合でも検察官の申出により関与する事ができる。これは、最高裁判所が当初要請した「否認かつ困難」な事件への検察官の関与という要請をはるかに踏み越え、実際上要保護性に関しても影響を与えようとするものである。
三、その上、本案では最高一二週間の身柄拘束を認めているが、これは「子どもの権利条約第三七条(b)項に反するばかりでなく、現実にも少年の学業や職場復帰を阻害し、更生の機会を奪う恐れがある。また、早く釈放されたいがための虚偽の自白と冤罪を招く事になる。
四、少年法「改正」問題は二一世紀の国民に深く関わる問題であって、少年法の基本理念、現行法改正を必要とする少年犯罪の量的増大と質的変化があるのか、少年犯罪の防止と非行少年の更生のために国家は何をすべきかなどにつき深い考察と幅広い論議を必要とするのであり、法制審議会の結論はあまりにも拙速であったと言うべきである。
もっと、現実に少年手続きを支えている現場の声、すなわち家庭裁判所調査官・保護司などの矯正関係者・心理臨床家や教育関係者などの、こどもたちに関わる多くの人々の意見を幅広く求め十分に議論を尽くすべきである。
五、自由法曹団は、より慎重な論議を国民に提起するとともに、「要綱骨子」に基づいた少年法「改正」案の国会提出には断固反対するものである。
一九九九年一月二三日
自 由 法 曹 団