<<目次へ 【声 明】自由法曹団


職業安定法「改正」案に反対する談話

 一、政府は三月二六日、「職業安定法等の一部を改正する法律案」(以下「法案」)を閣議決定し、同日国会に提出した。一昨年の労働基準法の女子保護規定の撤廃、昨年の裁量労働制の大幅拡大などを内容とする労働基準法の全面改悪、更には昨年一〇月に国会に上程された労働者派遣法「改正」案と、労働法制の全面的な改悪が実施、議論されてきたが、今回の法案もこれらと軌を一にするものである。以下、法案の具体的問題点を指摘するが、一言で言えば、今回の法案は労働者の雇用機会の拡大や職業選択の自由の拡大などといううたい文句とは逆に、労働者派遣法「改正」案とセットとなって安定雇用を破壊し、正規雇用から非正規雇用への置き換えを大規模に促進し、人件費コストを大幅に削減しようとする、いわば使い捨て自由の労働者を作ろうとするものである。
 二、第一に、法案の最大の問題点は、職業紹介事業への民間業者の原則参入自由化(法案第三〇条以下)と民営職業紹介事業の取扱職業の原則自由化(法案第三二条の一一)にある。これは、強制労働や中間搾取、人身売買など、有料職業紹介事業が惹起しがちであった弊害から労働者を保護するとともに、職業選択の自由や職業紹介における均等待遇を実質的に担保する現行職安法の制度趣旨を全面的に没却するものである。
 三、第二に、法案の労働者保護規定が、@最大のポイントとされる個人情報の取り扱いについて、罰則によって禁止されているのは個人情報の漏えいのみ(法案第五一条、五一条の二)で、個人情報の収集や保管についてはその具体的内容を法的強制力を持たない指針で定めることとしていること、A労働者保護を真に実効あるものにするためには、中間搾取の排除(紹介手数料の適正な設定)や職業紹介を行う民間業者に十分な情報(特に求人情報)開示義務を課すなどの措置が不可欠であるが、これらについての明確な規定を欠いていること、B現在でも虚偽あるいは不正確な情報をめぐってトラブルが生じている文書募集(求人情報紙誌)に関して、法案では現行法第四二条の「平易な表現を用いる等その的確な表示に努めなければならない」を超える新たな規制は盛り込んでいないことなど全く不十分な内容に止まっている。
 四、第三に、法案では、営利法人による無料職業紹介事業も認めることとしている(法案第三三条一項)が、これはリストラを望む企業自身が職業紹介事業を行うことに道を開くもので、移籍出向(事実上の解雇・再就職あっせん)の強要を合法化することになり、大企業を中心に行われているリストラ「人減らし」を一層促進することになる。中職審「建議」では、「社会貢献等の目的から無料職業紹介事業を行う場合も想定される」ことを容認の理由としているが、実際にはそれとは逆に、正社員の追い出し策として悪用される危険性を持つものと言わざるを得ない。
 五、労働者保護措置を実効あるものとするためには、公共職業安定機関の体制と権限が決定的に重要である。しかし、実際の行政体制はこれとはほど遠いものである上に、「行政改革」の流れの中で現状維持さえ厳しい状況にある。
 日本では、ヨーロッパ諸国でも民営職業紹介事業や労働者派進事業に関する規制が緩和されていることは紹介されるが、他方で、これらの国では労働者保護のための規制が日本とは比較できないほど高い水準にあること、さらに日本の職業安定行政機関と比べると実質的には数倍の職員を擁し、労働者保護措置を実効あるものとして担保していることなどはほとんど顧みられることがない。ILO第一八一号条約採択の重要な要因として、民間職業紹介事業による弊害から労働者を保護することがあったことを考えれば、とりわけ日本においては、労働者保護のための法制度を充実させることと、これを実効あるものとするための公共職業安定機関の抜本的な体制強化こそが不可欠である。
 従って、いま本当に必要なことは、右に述べたような問題点を持つ職業安定法や労働者派遣法の「改正」を行うことではなく、職業紹介の場における労働権保障が徹底されるよう、労働者保養規定を少なくともILOの定める水準に到達させることである。以上の観点から、職業安定法及び労働者派遣法の「改正」案に反対しその廃案を求める。

以 上

一九九九年四月五日
自由法曹団幹事長 鈴木 亜英