<<目次へ 【声 明】自由法曹団
NATO(北大西洋条約機構)軍のユーゴスラビア爆撃は、市民のための重要な施設である道路、橋梁、病院、工場、空港などが無差別に目標とされ、さらに難民列車までが攻撃されるに及んで非戦闘員の死傷者を急速に増加させている。最近ではテレビ局などが破壊され本格的な戦争状態に突入している。
NATO軍のこの爆撃は、国連の決定や決議もないままに始められ、国際法や国連憲章を無視したまま拡大の一途を辿るもので、ユーゴスラビア市民の生命・人権を踏みにじる無法な暴挙といわなければならない。
アルバニア系住民によるコソボ独立要求は長い歴史的な背景を持つといわれ、アルバニア少数民族によるセルビアボイコット、隣国の援助を得ての武装勢力による無数のテロ・ゲリラがある一方で、セルビア政府のアルバニア系住民に対する非人道的行為や自治権の抑圧などがあって紛争は緊迫していた。そのため米国をはじめNATO諸国は「ミロシェビッチ政権のコソボでのアルバニア系住民抑圧をやめさせるためのやむを得ない手段」と宣伝している。
しかし、この紛争は基本的にユーゴスラビアの内部問題であり、本来的には紛争当事者の政治的対話や自治権の確立などによって解決されるべきである。したがって、外国軍隊の駐留を一方的に押しつける和平案にユーゴスラビア政府が同意しないからといって、一方の当事者に全面的に加担して、相手方を武力で攻撃するなど言語道断である。その行為に対して世界中の人々が非難の声を上げているのは当然である。
国際紛争の解決手段としての武力による威嚇又は武力の行使は断じて容認することができず、民族と国家主権の尊重は二度にわたる世界大戦がわれわれに与えた最大の教訓である。それは、戦後の国際法と国連憲章に結実しており、今日の国際秩序の基調でもある。ある国の国内で民族紛争が発生しそれに伴い人権抑圧が行われていても、それを解決するためにいわゆる「人道的介入」を武力で行うことは国際法・国連憲章に対する重大な挑戦であるばかりか、問題の解決を一層困難にするであろう。
こうした国際秩序を全く無視したNATO軍の今回のやり方はまさに侵略行為であり、ユーゴスラビア市民に対する殺人行為である。
今日日本においては、新ガイドラインのもと、日米安保条約が事実上改悪され、日本の安全とは何のかかわりもない極東以外の地域における米国の戦争行為に「後方地域支援」(rear area support )というかたちで加担する法律が立法化されようとしている。米国のひき起こす無法な戦争に軍事同盟国が引きずり込まれる危険をこのユーゴスラビア爆撃は如実に示している。
平和と民主主義と人権を何よりも大切にすることで結集している法律家団体、自由法曹団は、NATO軍のユーゴスラビア爆撃に厳重に抗議するとともに、NATO諸国が不法な武力行使をただちにやめて、交渉による解決の道を得るよう努力すべきことを要求するものである。
一九九九年四月二八日
自 由 法 曹 団