<<目次へ 【声 明】自由法曹団


日の丸・君が代を国旗・国歌とする法案は廃案にすべきである

  1. 政府・自民党は六月一一日、今国会に「日章旗(日の丸)・君が代」を国旗、国歌と定める「国旗及び国歌に関する法律案」を提出した。
     君が代は天皇主権を定めた明治憲法下で天皇の統治が永久に続くことを讃える歌として国民に強制され、日の丸は日清戦争以降第二次世界大戦に至るまで、日本軍国主義のアジア諸国に対する侵略戦争のシンボルとして使用されたものであり、いずれも国民主権および非軍事平和主義を基本原理とする現憲法と相容れない。
     また、政府は、一方で侵略戦争を推進した高級軍人に高額の恩給を支給し、他方で被爆者をはじめとする日本国民はもとより、強制連行された外国人労働者や従軍慰安婦等の侵略戦争による犠牲者に対し、日本国政府による行為であるという事実すら認めないばかりか犠牲者が受けた被害の補償を拒んでいる。このようにアジアに対する侵略戦争を真摯に反省しようとしない政府・自民党が、日の丸・君が代を国旗・国歌と定めようとしている。このことは、侵略戦争の被害国であるアジア諸国民の強い反発を招き不信を買うものであると同時に、国際社会において名誉ある地位を占めることを目指している憲法の国際平和の理念にも反する。
     とりわけ、今国会で成立した新ガイドラインー戦争法のもとで、日本の軍事大国化と日の丸・君が代の法制化とは一体のものとしてすすめられることは見過ごすことができない。日の丸・君が代を国のシンボルとして再び権威づけることにより、国民を戦争体制に駆り立てる道具として利用するための法案といわざるをえないのである。
  2. 国旗・国歌の強制は憲法が保障する思想・良心の自由を侵害するものであり、憲法違反である。
     政府は法案の提出にあたって、日の丸・君が代を強制する条項を規定しておらず国民に強制はしないという。
     しかし、これまでも日の丸・君が代が法的根拠を持たないにもかかわらず、政府は「学習指導要綱」を根拠に教育現場において日の丸の掲揚、君が代の斉唱を強制して混乱を招いてきた。本年二月には広島県の高校の校長が卒業式での日の丸・君が代の問題を巡って自殺に追い込まれるという痛ましい事件まで発生している。そして、日の丸・君が代を強制した事実について政府は何ら反省もしていない。
     このような経過に照らすと、法制化によって公務員に課せられている法律遵守義務を根拠に、これまで以上に公務員個人の思想・良心を無視して日の丸・君が代の掲揚、斉唱を強制するであろうことは火を見るより明らかである。政府の強制に従わなかった公務員は懲戒の対象とされ、教育現場により一層の混乱がもたらされることになる。また、公務員が日の丸・君が代を強制されることにより、一般国民もあらゆる場面で事実上強制から免れられなくなる。
  3. 政府・自民党は日の丸・君が代が国民に定着しているなどと説明している。しかし、法案についてのNHKの世論調査結果によれば、法案に反対及び賛成出来ない人が合計四八lにのぼり賛成を上回っている。これをみても国民に定着しているなどとはいえない。これまで法律家や教育関係者などをはじめ各界の人々が日の丸・君が代に強く反対してきているという事実もある。
     日の丸・君が代を国旗・国歌として法律化することについて国民の間で何らの議論を経ず、今国会の会期末に突然法案を提出した点からみても、国民に日の丸・君が代を法律化してこれを強制し、新ガイドラインー戦争法の具体化を推進する狙いがあることは明らかである。
     憲法の国民主権と非軍事平和の基本原理に反し国民の思想・良心の自由を侵害する日の丸・君が代を国旗・国歌とする法案は廃案にすべきである。

一九九九年六月一九日
自由法曹団常任幹事会