<<目次へ 【声 明】自由法曹団


国家的リストラ誘導・強制法「産業再生法案」の衆議院可決に抗議する

一、七月二一日、閣議決定され国会に提出された「産業活力再生特別措置法案」(以下「産業再生法案」という)が、わずか一週間の衆議院商工委員会での議論を経て、七月二九日、衆議院本会議で可決された。しかし、産業再生法案は、@企業自らが積み上げた「負債」を国民の血税により尻拭いさせる平成版「徳政令」であること、Aしかも「公的資金」の投入の前提条件がリストラ合理化促進である点で国家的なリストラ誘導・強制法であることの二点において、国民にとってとうてい容認できない法案であると言わざるを得ない。

二、まず産業再生法は、「特別の措置として、事業者が実施する事業再構築を円滑化するための措置」という名の下に行われる大企業の借金の「徳政令」であることは間違いない。主務大臣に「事業再構築計画」を提出し、その結果、大臣が認定した「認定事業者」は、借金帳消しのため、「債務の株式化」(法案第一三条)、「税制上の優遇措置」(法案第一七条)、「産業基盤整備基金の活用」(法案第一四条)などの様々な優遇措置を受けることになる。労働者や社会的弱者に対しては「自助努力」を強調する財界が、自らの借金については実際には国民の血税を使っての「徳政令」により帳消しにしてもらうというのは、大変虫のいい話しと言わざるを得ない。

三、産業再生法案のもうひとつの重大な問題点は、以上に述べた「徳政令」による恩恵を受ける前提条件として「認定事業者」によるリストラ合理化を誘導し、かつ強制するところにある。二で述べた「支援措置」を受けようとする企業は、「事業再構築計画」を主務大臣に提出せねばならない(法案第三条)が、この「事業再構築計画」の本質はリストラ人減らし計画に他ならない。主務大臣は企業から申請があった場合に、「当該事業再構築計画に係る事業再構築の目標として、生産性を相当程度向上させることが明確であること」(法案第三条六項一号)を認定の条件とするとされており、人減らし計画の「明確性」が要件となっている。金融二法の際に再生委員会に「合理化計画」を提出、承認を受けることを条件にし、大手一五行で、二〇〇三年までに約二万人の人減らしを行うことの引き替えに約七兆五〇〇〇億円の公的資金が投入されたことを考えると、産業再生法案が「税金で首切りを奨励」(「夕刊フジ」七月八日号)するものであることは明らかである。
 産業再生法案は、こうした雇用破壊を国家が奨励・強制する法であることを覆い隠すために法案には、若干の「労働者保護」に配慮したかの規定が設けられているが、こうした規定は全くの尻抜けの規定である。第一八条には、雇用の安定等の規定が設けられているが、この規定は内容は抽象的でしかも努力義務にすぎない。違反しても罰則もないし、何ら「認定企業」に対する法的拘束力を有するものではない。こうした無意味な規定を設けたこと自体、産業再生法案が国家的リストラ奨励・強制法であることをむしろ自白したに等しいものと言えよう。
四、七月三〇日の総務庁発表によれば本年六月の完全失業率は四・九%と過去最悪の数字となった。今、政府に求められているのは産業再生法案が目指す国家的リストラの推進・強制ではなく、横行する無法な大企業のリストラに歯止めをかけ、大幅な時短を実現することで長時間過密労働を改めさせ新たな雇用を創出することである。
 以上に述べた産業再生法案は、人間らしく生きる権利(憲法二五条)、働く権利(憲法二七条)を法律によって大きく奪おうとするものに外ならない。  われわれ自由法曹団は、産業再生法案の衆議院可決に断固抗議すると共に、良識の府参議院では、産業再生法案の反国民的性格に十分配慮され、同法案を廃案とされることを強く望むものである。

一九九九年八月二日
自 由 法 曹 団