<<目次へ 【声 明】自由法曹団


無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律案(仮称)に関して

本日小渕内閣は、無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律案(仮称)を閣議決定した。この法案は、破防法と結合させることによって団体に対し報告聴取や立入検査ができる「観察処分」と既存施設の使用などを禁止できる「再発防止処分」を柱としている。
もとより自由法曹団は、「オウム問題」に不安を抱く地域住民の心情を理解するとともに、「オウム真理教」の過去の行動については、その責任を厳しく問うべきものと考えている。そして、「オウム問題」への対策は現行法でも十分可能であり、国税・労基署等行政手段をも使った対応により信者の正常な社会復帰を促すべきである。しかし自由法曹団は、破防法が、国民を政府の監視下に置き、その自由を縛る憲法違反の悪法であって、一貫してこれに反対してきた。今回の「オウム問題」を理由とする右団体規制法案についても、左記の理由で断固反対する。

 1 「団体の活動」の不明確性
 本法案においては、「当該団体の活動として」行為をした場合が対象とされている。しかしながらここに言う「団体の活動」とはどの程度の要件が揃うとそのように認定されるのか極めて不明確である。まず客観面では団体の意思決定機関が決めた活動のみが団体の活動なのかという疑問がある。他方主観面では、「団体のためにする意思」が必要となる。その調査を名目に「オウム真理教」の信者のみにとどまらず、一般国民に対する思想調査・スパイ活動が大手を振ってまかり通ることになる。

 2 処分手続の過度の簡略化
 本法案では、破防法が定めている弁明手続すら省略され、公安調査庁長官が請求した場合は、公安審査委員会が対象団体から行政手続法に基づく意見聴取を行い、三〇日以内に決定をするように努めなければならない(法案二一条)とし、極めて簡易な手続で憲法上の権利たる結社の自由を制限できるものとなっている。

 3 「観察処分」の問題性
 法案第五条第一項第三号では「当該無差別大量殺人行為が行われた時に当該団体の役員(団体の意思決定に関与し得る者であって当該団体の事務に従事するものをいう。)であった者の全部又は一部が当該団体の役員であること」と規定され、たとえ一人であっても当時役員であった者が役員となっている団体(宗教団体に限らない)であれば、「オウム真理教」という名称を用いなかったとしても処分の対象となりうるという極めて広範な内容のものとなっている。また、たとえば「オウム真理教」の場合、出家信者であれば団体の意思決定に関与し得ると解釈される余地があり、役員か否かの認定自体も極めて曖昧なものである。信者の社会復帰を実現させなければ、この「オウム問題」の真の解決はあり得ない。これでは信者の脱会の道を閉ざし社会復帰そのものを否定することになりかねない。
 また、右第五号では当該団体が無差別大量殺人行為に及ぶ危険性を言うが、この「危険性」が具体的にどのような状態を指すのかも曖昧であり、これまた結社の自由を侵害するおそれが極めて高いものである。

 4 「再発防止処分」の問題性
 本法案の再発防止処分は、土地等の取得・使用の禁止、団体への勧誘禁止、現金・貴金属等の贈与禁止及び一定の場合の当該団体の活動への参加禁止等であり破防法よりも広範な規制となっている。このように広範な規制を破防法よりも緩い要件で認めることは、結社の自由等へのより広範な侵害であり到底許されるべきものではない。

 5 警察に立入検査権を認めることの問題性
 本法案第一三条第一項本文は、「警察庁長官は、前条第二項又は第三項の規定に基づき意見を述べるために必要があると認められるときは、第五条第一項又は第四項の処分を受けた団体について、相当と認める都道府県警察に必要な調査を行うことを指示することができる。」(立入検査等)と規定し、警察が立入検査をすることを認めている。これは警察権限の拡大に他ならず本来犯罪捜査を本業とする警察に、その端緒になり得る捜索とほぼ同じ効果を持つ立入検査権を与えることは、令状主義の実質的な潜脱に他ならない。
 右声明する。

一九九九年一一月二日
自 由 法 曹 団
団 長  豊 田   誠