<<目次へ 【声 明】自由法曹団
一九九九年一二月九日、定期借家制度導入を目的とする「良質な賃貸住宅等の供給促進に関する特別措置法案」は、国民世論の大きな反対の声を無視して参議院本会議で可決され、成立した。
この法律は、定期建物賃貸借制度(定期借家制度)を創設することを目的としており、既に前国会で廃案となった借地借家法「改正」案と同一の内容を有するものである。
定期借家制度導入を目的とする借地借家法「改正」案は、一九九八年六月五日に提出されて法務委員会に付託されたものの、反対世論の強い批判などのため全く審議されることのないまま再三継続審議となっていた。自民・自由・公明の定期借家制度推進勢力は、この法務委員会を回避して定期借家制度法案を建設委員会で審議させるため、既に提出されていた法案と同一内容のものを「良質な賃貸住宅等の供給促進に関する特別措置法案」と衣替えして提出し、既に法務委員会に付託されていた従来の法案を廃案にするという国会のルールを無視したなりふり構わぬ手法により、この法律の成立にこぎつけたものであった。
定期借家制度は、その制度導入の理由である良質賃貸住宅等の供給効果が期待できず、他方、この制度を導入するならば、借家人の居住の安定、零細業者の営業の基盤がははなはだしく害されるという重大な問題をかかえた制度である。
この法律は、批判を回避するため、良質な賃貸住宅等の供給促進のために必要な措置をとるべき努力義務を国と自治体に負わせることにより弱者に対する手当をしたとするが、既に国、自治体の公共住宅政策の後退ははなはだしく、公共住宅政策は縮小されて予算は削減される一方である実情を鑑みれば、このような単なる努力義務には何の効果もない。
また、従来の借地借家法「改正」案に対してなされていた批判を受けて、「当分の間」既存の居住用賃貸借からの切り替えにはこの法律は適用しないとされているが、しかし、不適用は居住用建物に限定され、しかも「当分の間」というにすぎず、いずれ切り替えは自由となってしまう。そうなれば、営業賃貸借とともに居住用賃貸借についても、家主により既存の賃貸借契約の切り替えが迫られるおそれが強い。
しかも、この法律の施行は二〇〇〇年三月一日からとされた。これは、国民にこの制度を周知させる期間をおくことより、来春の転勤時期に間に合わせることを重視した経済的利益至上のご都合主義である。このように周知期間をほとんど設けないに等しい国民無視の施行にも、この法律の本質が現れているといわなければならない。
以上のとおり、この法律は、賃借人の権利を著しく弱体化させ、居住の権利と零細業者の営業の基盤を奪い、国民の間に新たな混乱をもたらすものである。
したがって国は定期借家制度の問題点を国民に周知させ、国の義務とされている公共住宅の充実を必ず実現すべきである。さらに、国は附則で規定された四年後の同法律の見直し時期において、必ずこの制度を廃止すべきである。
自由法曹団は、このような法律を可決成立させたことに対して、強く抗議するとともに、この制度により借家人や零細業者に不当な権利侵害がなされることのないよう監視し、今後とも定期借家制度の廃止を求めて闘う決意である。
一九九九年一二月一八日
自由法曹団常任幹事会