<<目次へ 【声 明】自由法曹団


「日産リバイバルプラン」と村山工場閉鎖の抜本的見直しを

  1. 十月一八日に日産自動車がリストラ計画「日産リバイバルプラン」を発表してから二ケ月になろうとしている。「プラン」は、東京村山工場をはじめ京都、愛知など五工場の閉鎖、関連・取引企業の一一四五社から六〇〇社以下への削減、そして直営デイラーの二十パーセントおよび営業所の十パーセント削減を内容とし、在職者三五、〇〇〇人を削減して約一兆円の「コスト」をカットするとしている。

  2. 「プラン」の内容は、関連企業の労働者及びその家族を含む二〇〇万人におよぶ労働者・国民の生活と権利に重大な影響を及ぼす。まず、「プラン」は労働者の基本的な権利を著しく侵害する。三〇〇〇人が働く村山工場の閉鎖により、多くの労働者が単身赴任や退職を余儀なくされる。子どもの教育、老人介護さらには家庭破壊など、深刻な影響をもたらすことは必至である。また、職場労働者には、生産能力向上の名のもとに、年間労働時間二千数百時間に及ぶ長時間過密労働、あるいは深夜・早朝勤務を含む交替制のいっそう苛酷な労働が待ち受けている。これらは人間らしく働く権利を真っ向から踏みにじるものである。
     また、「プラン」は、一一四五の取引先を六〇〇以下にするという。これは、日産自動車関係の直接の取引先の数字であるが、さらに二次、三次下請けを含め関連企・業者は、膨大な数になる。「プラン」は、この関連企業を一方的に切り捨てるものであり、そこで働く多数の労働者・家族にも多大な犠牲を強いることになる。
     さらには、この労働者と家族が生活する地域社会にも重大な影響を及ぼす。これらの人々の生活必需品の購入や飲食について考えただけでも、地域の商店や飲食店へ影響は深刻である。そして、教育や医療、居住環境を含む地域社会そのものが変容を迫られることになる。

  3. 従来の労使関係において、こうした大規模な企業「合理化」については、労使協議を重ねて労働組合の意向を聞き、その納得を求めることが当然とされてきた。まそれは、今日の国際労働基準が求めるところでもある。日産の工場閉鎖と関連企業の削減が、労働組合や関係自治体との協議もなく一方的に決定、発表されたことは、許されない。
     会社は表むき「雇用はまもる」と表明しているが、「東京に戻れる見通しのない単身赴任やマイホームを売っての転居の強要は、事実上会社をやめろということ」と工場労働者の声に明らかなように、「プラン」は、二三〇〇名の労働者の働く権利とその家族の生活を真っ向から蹂りんするものである。
     重要なのはこの人員削減が、職場に残る労働者の労働基準法に違反する長時間過密労働を前提としていることである。労働省が企業に守らせるとしている年間残業時三六〇時間を大幅に超える長時間残業を労働者に強いる生産計画と、これを前提とする大規模な人員削減計画は許されない。これは働き続ける権利をまもる面からも、労働時間の規制により人間らしい労働を保障する面からも、憲法と労働法を踏みにじって、「去るも地獄、残るも地獄」の苛酷な事態に労働者を追いやるものである。ルノー本社のフランスでは週三五時間労働法制で雇用を拡大しようとしているこの時、まさにその逆をいこうとするこの「プラン」は許されない。また年間労働時間一八〇〇時間の国際公約を一日も早く実現し、過労死を一掃するためにも、政府には大企業のこの違法な生産計画と人員削減計画を見直させる責任がある。

  4. いま「隣の家を取り壊してでも、自分の家の火を消すというやり方は受け入れられない」(秋山関経連会長)など財界人を含め各界から「プラン」への批判がたかっている。これらの批判は、多国籍企業ルノーの当面の利益のみを追求して、労働者、関連下請企業・業者と地域経済、地域社会を犠牲にする「プラン」について、企業経営のあり方や企業の社会的責任を問うて、その見直しを求めている。
     企業はひとり経営者と株主だけのものではない。なによりも生産と販売を担う者の額に汗した労働と、関連下請企業・業者の努力が、日産の技術と信用を担ってきた日産の未来も、これらの人々が希望をもって働き続けることのできる条件をつくりだすことにかかっている。
     今日の事態を招いた原因の正確な解明と、これをふまえた再建のための改革が求められている。改革は「栃木へも追浜へも行けない。村山工場に仕事を」という労働と家族の切実な声をふまえ、労働者の雇用と関連下請企業・業者の経営をまもり、地域経済の発展と結びつくものでなければならない。
     全国の弁護士の約一割、一千五百名の弁護士が参加する自由法曹団は、以上の見地から、日産「リバイバルプラン」と村山工場閉鎖の抜本的見直しを求める。それともに、現地に入り労働者、関連取引企業、地域住民の意見を聞き、これらの人々の生活と権利をまもるため全力を尽くす決意である。

1999年12月23日 自由法曹団
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