NLG INTERVIEW
ナショナル・ロイヤーズ・ギルドインタビュー 99.10.30 in 東京

National Lawyers Guild (NLG )
1937 年創立。アメリカ合州国において、反人種差別、及び先住民・女性・ゲイ等少数者の人権擁護の活動を積極的に行うとともに、公民権運動、反戦・反核運動、労働運動への支援、冤罪事件の弁護等幅広い人権擁護活動を行ってきている民衆の弁護士(People's Lawyer )の組織。会員約7,000 名。

ウィリアム・ミッチェル・ロースクール教授 専門憲法的刑事法
ピーター・アーリンダーPeter Erlinder
刑事法弁護士としても活動しており、特にPTSD 〈Post Traumatic Stress Disorder 〉(精神的外傷後ストレス性障害)の専門家として知られ、ベトナム帰還兵が戦争体験の後遺症として犯した殺人事件などの弁護でも成果を上げている。一昨年まで、NLG の議長を勤めるなど、NLG の中心的活動家の一人であり、刑事法ばかりでなく、アメリカ社会の諸矛盾について、幅広い識見を有している。そして、NLG が階級的、進歩的立場を堅持すべきことを、常に機関紙や総会などで発言している。また、1992 年に自由法曹団がNLG のシカゴ総会に代表団を送ったとき以来、日本との交流に参加し、緒方盗聴事件の支援に来日するなど、アーサー・キノイ弁護士と共に、NLG の中では、最も日本の進歩勢力との固い絆を持っている。
聞き手
自由法曹団幹事長
三多摩法律事務所〔東京〕
20 期
鈴木亜英すずきつぐひで

通訳
自由法曹団国際問題委員会委員長
金沢合同法律事務所〔石川〕
20 期
菅野昭夫 すげのあきお

鈴木:今年(99 年)ナショナル・ロイヤーズ・ギルド(NLG )から4 名の代表団が自由法曹団総会へ参加されました。心からうれしく思っております。NLG が自由法曹団の総会へ正式に代表団を送ってくれたのは初めてですね。
P ・アーリンダ:そうですね。とても印象深い交流ができました。
鈴木:交流はまだ始まったばかりですが、私たちには共通の課題があります。なかでも米軍基地・多国籍企業の活動・規制緩和などの問題点について討議していけると思います。
自由法曹団とNLG とは、歴史も、とりまく状況ももちろん異なりますが、平和・民主主義・人権の課題については共通の目的をもっていると思います。それぞれの組織が、共通の認識を持つこと、共通の課題をかかえていることを相互に認識しあうことがとても大切だと思います。
P ・アーリンダー:私も同じように思っています。他の国にも民衆の弁護士が存在することを認識しあうことがまず大事だということですね。特に言えることは、グローバリゼイションが進行している今日の資本の状況からみても、私たちが国際的に交流しあうことが不可欠だと思いますよ。
自由法曹団が7 年前からNLG との絆を深めてきてくれたことによって、私たちにも交流しあうことの重要性が分かってきたと思います。自由法曹団の国際的活動が、アメリカのわれわれを教育し、交流の必要性を認識させてくれました。
鈴木:互いに代表団を正式に迎えるまでになりましたが、私たちの次の課題は何だと思いますか。
P ・アーリンダー:今後更に多くの分野の共通の課題を、ともに闘うことができるようになるでしょう。例えば、99 年の11 月末にシアトルでWTO (World Trade Organization 世界貿易機関)に関して、民主法廷が開かれます。多国籍企業による人権侵害を糾弾し、訴追を行うのです。日本の大企業がいったいどのような人権侵害をしているのか情報・資料を是非提供してほしいと思います。WTOを基盤とした、多国籍企業支配に対抗していく組織が必要です。
今度の来日で、私たちは互いに情報を交換しました。互いの国の法制度の実際のねらい、働きにつ いて知ることが今後も必要ですね。日本の法制度について、アメリカの国民にも分かるものを作る。逆にアメリカは日本の国民に分かるものを作ることが必要ですよ。
私は今回、日本の企業の労働者を奴隷的扱いにする労働法制改悪の戦略を知りました。それに対し、アメリカの法制度を踏まえて何が出来るのだろうか。国際的に人権を守る武器としての法律を共有しあうことが必要だと感じています。今回の訪日でいくつかのシンポジウム(規制緩和問題・労働問題・刑事司法)をやりましたが、これを出発点として今後一層の絆を深めていきたいですね。
鈴木:代表団のみなさんの自由法曹団への印象はどうでしたか。
P ・アーリンダー:自由法曹団員は国境を越えて共通の課題を闘っている同志だという印象ですね。アメリカの進歩的な法学教授でも、日本の法制度について何の知識も持ってないということが分かりました。
自由法曹団は、国連人権委員会に提出するカウンターレポート作成の活動など日本における人権侵害を国際的に提訴する活動をしていることも今度の訪日で知りました。
鈴木:ピーターはロースクールの教授でもありますが、私がサンフランシスコでNLG の総会に参加した時、ロースクールの学生が多数参加していたのを見ました。若い学生がこのような場へ参加することは素晴らしいことですね。
P ・アーリンダー:アメリカでは近年、学生の間で政治的高まりが起こってきています。社会的不安状況を解決するのはグローバリゼイションでも市場原理を尊重することでもないことが認識されはじめているからです。学生のなかにも問題の解決に取り組もうとする動きがでてきました。弁護士になってNLG へ参加してくる者が増えてきています。問題の本質を明確にすること、学生が問題の本質を認識できるように選択肢を提供することがわれわれの役目のひとつでしょう。
鈴木:日本においても法曹養成の問題としてロースクール構想が今後問題となってくる状況にありますが、ピーター、あなたの意見を聞かせてください。
P ・アーリンダー:日本でも政府の諮問機関などで審議が進んでいるようですが、アメリカの現行の法制度についても進歩的立場で分析して欲しいです。司法制度・ロースクール制度についても様々な意見があって、進歩的な弁護士のコメントを抜きに一面的な意見や報告のみをもって論ずるのはやめて欲しい
鈴木:わたしたちが司法問題でアメリカの司法制度を調査するときは、まず民衆の立場の弁護士から話を聞くことにしましょう。アメリカでは、若い法律家の人権活動に対する関心はどうですか。
P ・アーリンダー:関心は確かに高まっています。複雑な社会状況の中で人権問題が多発していますから、若い人も無関心ではいられないのです。
鈴木:NLG ならではの活動は何でしょう。
P ・アーリンダー:NLG は国内最初の人権団体としてあらゆる人権課題を闘ってきましたが、今日では人権を扱う法律家団体や運動体も増え、NLG だけがということもなくなりました。しかし、警察や国家権力の違法の追及、戦争と平和の問題ではNLGが何といっても最も強力な組織です。
鈴木:NLG は若い法律家をどのように組織に招き入れていますか。
P ・アーリンダー:私たちはロースクールの学生に、私たちの活動を実際にできるだけ多く見てもらうことから始めています。NLG の総会にも参加してもらい、共に学ぶということを重視しています。
鈴木:若い法律家に何を期待しますか。
P ・アーリンダー:21 世紀は若い法律家が担うのです。私たちの苦難の歴史を踏まえ、これを乗り越えて闘ってもらいたいと思います。
鈴木:本日のインタビューを通じてもっともっと交流を深めることの重要性を互いに確認できたと思います。今日は本当にありがとうございました。

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