若手団員 TALK OVER
やっぱり自由法曹団なのだ 1999.10.24 in 米子

八王子合同法律事務所 45 期斉藤園生さいとうそのお
関西合同法律事務所〔大阪〕47 期篠原俊一しのはらとしかず
東京合同法律事務所48 期泉澤 章いずみさわあきら
岡山合同法律事務所45 期則武 透のりたけとおる(司会)

司会 どうして自由法曹団に入られたのでしょうか。
斉藤 正直に言うと、そういうものだと思っていたから。学生の頃から自由法曹団の弁護士が周りにたくさんいて、青年法律家協会(青法協)と自由法曹団は入るもんだと思っていました。それが本音です。青法協は、いろいろな事件活動をやっていて楽しそうだったんだけれども、自由法曹団は政治活動ばっかりやっている集団に見えたのね。あまり入りたくないなと、実は思っていました。
篠原 子どもの頃に、親父が労働争議をやっていて、自由法曹団の弁護士にお世話になっていた。家に「自由法曹団物語」【*1】という本があって、「お前、読め」と渡されて、いまだに読んでないんですけれど(笑)。それで、名前くらいは知っていました。親父が知っていたから、きっと、お金のない人の味方なんやろなというイメージはありましたね。
泉澤 法律家を目指すときに、どういう法律家になりたいかということを、一応考えるじゃないですか。その時に、大体本を読めば、「闘う弁護士」みたいに出てくるのは、青法協の弁護士か自由法曹団の弁護士です。だから、自分も弁護士になったら、たぶんそういうところに入るのだろうなという予感はするわけですよ。斉藤さんと同じで、自然な流れで入ったということで、とりたててどうのというのはなかったですね。ただ、修習生から見たイメージは、よくないというわけではないんだけれども、何ていうのか、爽やかじゃない(笑)。

 自由法曹団に入って

司会 実際に自由法曹団員として弁護士活動をしてみての感想を伺いたいのですが。
泉澤 昔はもっといろいろな事件で団員が活躍しているというイメージがあった。今もたぶん、そうなのだろうけれども、自由法曹団の活動としては、事件活動というよりも、「悪法阻止」とかにすごく重点がある。僕はそれはすごく大事だと思うけれども、そこになかなか入りきれない人もたぶんいると思います。なかなか取っつきにくいかもしれません。いきなり国会に行くというのは、嫌だという人もいるかもしれないし。
篠原 自由法曹団に入ったらたぶん、いろいろな地方の先生方と仲良くなれるんやろなというイメージがあって、それはそのとおりになって大変楽しくやらせていただいております。
僕は何だかんだいっても甘ちゃんだから、本当の国家権力のずるさとか恐さを知らない。だから自分のやっている国賠事件でも「写真もいっぱいあるから勝てるやろ」みたいな安易な発想に立つんですが、ベテランの団員から「いや、そういうもんじゃないんだ」という話をされる。いくつもいくつもそういう事件をやって苦渋もなめてこられた方から、具体的な法廷での闘いに「こうするべきや、ああすべきや」という話をしてもらうことによって、その知識を伝えていただく、経験を伝えていただくところがすごいんだろうなと思いますね。子どもが泣いたときどうするか、若い夫婦はわからないけれども、おばあちゃんがいると「こうするんやで」と教えてもらえる。そんなものですかね。核家族化ではなくて、大きな集団のなかで、活動している。若い人は機動力があるけれども経験がない。全体でひとつの大きな力になっているかなという気がします。
斉藤 私たちの1 年目は非常にイメージが悪かったのね。弁護士というよりも、政治集団のようなイメージができてしまって。自由法曹団にはほとんど関与しないというか、やらないと決めた時期があるんですよ。
何で変わったのかというと、弁護士になって3 、4年は事件活動が非常に面白くて一生懸命やるんですけれども、例えば水俣病裁判なんかをやっていても、事後救済でしかない。法律というのは所詮そんなもんだというところがだんだんわかってきた。それで、社会構造というか、その仕組みをどうにかしないと世の中は変わらないのだということが、だんだん感覚的にわかってきた時期だったのかなという気がします。そういう意味で、団活動に参加してよかったなとは思っています。
司会 個別救済を越えたレベルでの、法や社会を変えていくという運動をするためには、自由法曹団の活動が有効だという……。
斉藤 弁護士としてそういうことができるというのが、ひとつわかったというところですね。

 「悪法阻止」について

司会 「悪法阻止」との関係で実感されたこととか、思っていらっしゃることはありますか。
篠原 僕の場合は、東京のお膝元にいないのですけれども。本部の対策委員会はいつも意見書【*2】などをつくるから、あれはすげえなと思って。短い時間に集中的にやっておられるのだろうなと。日常の事件を抱えながらと、あれには感心します。
泉澤 労働法制は改悪されて、周辺事態法は通る。盗聴法も通ったということで、結局全部通ってしまいましたよね。弁護士になって「悪法だ」というものの成立を阻止した経験がないんですよ。やってもやってもだめと。それでむなしいといってやめるわけにもいかないしという状況で、いろんな工夫は必要だと思うんです。
篠原 やめるわけにはいかないでしょうね。僕らがしなかったら、他にしてくれる人がいないからね。一般に知られていない問題を、少しでも伝えていかないと。やっぱり放っとかれへんなと思うから「やらにゃ、しゃあないな」という気ですね。それがやっぱり一番大きい。
泉澤 ただ運動が悪法を押し返せないという状況の下では、確かにむなしいというのがあって……。これがたぶんあと10 年くらい続いたら、ちょっと。
斉藤 ちょっと嫌になっちゃうよね。引退しようかなという気分になるよね。(笑)
泉澤 憲法改悪になっちゃったときにはね。
斉藤 そしたらもう辞める。日本人辞める。9 条改悪されたら本当に辞める。
司会 悪法反対・阻止の闘いは、弁護士が取り組む課題ではないと言われることもありますが。
泉澤 やっぱり弁護士しかやれないことがあると思う。自由法曹団で意見書とか、法案のコンメンタールを作っているけど、結構、国会議員に読まれている。僕らが議員会館の部屋を回ると「ああ、もらっています」とか言って。
斉藤 やっぱり法案の問題点だとか、何がどう変わるからどう問題なんだというところを分析できるのは、法律家しかいないんじゃないかな。
一部の人は別だけれども、学者はできてからの解釈。学校の先生は判例講釈しかしないじゃない。そうじゃなくて、「現場はこうなんだからこういう制度が本来必要なのに、今度の改正点はここをもっとこういうふうに悪くするんだよ」という、現場との接点で弁護士はものを言うでしょ。それが一番強いと思う。
泉澤 だから、僕らが担っている部分というのは、一部ではあるけれども重要な部分だとは思いますけれどもね。

 「憲法判例をつくる」

司会 今回、自由法曹団で「憲法判例をつくる」【*3】を出版しましたが、ああいう先輩達の仕事についてどう思われますか。アピールを含めて。
泉澤 読むと本当にすごいですね。簡単に言えないですけれども、よく闘ったなという気がします。僕らは先例がだいたいあるから、これで闘えるというのがむしろ弁護士の仕事ですよね。あの頃は、判例調べても、全てほとんどの事件がないわけですから。文章になればきれいになっているけれども、相当ドタバタしながらやっていたんだろうなという気がするんです。そういう時代に、泥まみれになりながらやっていったという姿や生き方にる意味ではうらやましいと思う。素直に、カッコイイなと思うわけです。それに憧れますよね。
斉藤 普通に事件やっていて、「こうこうこういう点は違憲である」なんて恐くて言えない。それをああいうふうに大胆にいって創ってきたというのは、勇気がある。まだ積み重ねがなかったというのもあるかもしれないけれども、弁護士としては本当に勇気があるというか、カッコイイなと思う。
泉澤 それこそ、自由法曹団の魅力じゃないのかな。

 修習生へのメッセージ

司会 修習生に対する呼びかけ、メッセージを一言ずつ伺いたいのですが。
斉藤 難しいですね。最近感じるのは、法律というのは、基本的には事後救済システムだと。事後救済として労働事件だとか公害事件だとか、いろいろな分野で弁護士が活動できるということはいいと思うんです。でも、所詮は事後救済にすぎない。憲法とか人権だとか平和とか、そういう基本的なものをより積極的に実現していくというのは、個々の事件そのものでは限界があると私は思います。自由法曹団は、ダイレクトに事件活動プラス悪法阻止運動や社会的な運動を通じてそういうことができるから、非常に私にとっては大切な分野だと思っていますので、楽しいよと言っておきます。
篠原 偏頗な集団ではないので、色眼鏡で見ずに興味の対象にどーんと入ってほしいなと思います。嫌ならやめればいいのだから、とりあえず。僕らがやっていることは、普通の感覚で見たら変だなと思うことに対して「それじゃだめなんとちゃうの」ということをやっているだけの話で、みんな理解してもらえることだと思う。ぜひとも色眼鏡で見ずに、一度なかに入って、みんなのやっていることを見てくださいと言いたい。そうしたらどういうところかよくわかってもらえるし、楽しいこともいっぱいあるし、いいこともいっぱいあるし、いい人間集団がここにはあるということが言いたいですね。
泉澤 僕はむしろ修習生の頃、青法協を一生懸命やっていて、色眼鏡で見ないでくださいという感じだった。けれども、弁護士になって、自由法曹団の活動をして、実際に偏頗な団体だと思っている。ただ、篠原さんと同じところは、やっていること自体はおかしくないし、納得はみんなしてくれると思う。ただ、自分で入って活動するかといったら、そこはやはり色眼鏡で見てしまうと思うんですよね。自由法曹団に入っている弁護士は、それぞれ特徴的な人が多いですよね。薬害とかハンセン【*4】とか、沖縄問題もそうだけれども。むしろ修習生の人たちに聞きたいのは、そういう特徴的なことを、ある意味では人生をかけてやってみたいという気がなんでしないのかなと。そっちの方が僕は不思議なんです。特徴的なこと、ある意味で偏頗と思われることだって、むしろ楽しいんじゃないのという気がすごくするんです。弁護士になったのだったら、特に努力してなりたくてなったのだったら、そのなかで人生かけるなり、そのあと変わるような事件に出会ったりしてみたいと思わないかと、こちらからむしろ問いかけたい気がします。それに反応するかどうかは全然わかりませんけれども。
斉藤 契約書1 本書いて100 万もらって、お前、それで嬉しいのかと。そんな技術屋になって、そのために何年も勉強してきたのかと言いたい。でも、そういう人は残念なことに最近多いみたい。
泉澤 「優秀なサラリーマンプラス法曹資格を持っています」という人が増えるわけでしょ。昔みたいな「僕はエリートだぞ」というのも嫌いだけれども、だからといって「サラリーマンプラス法曹資格」というのも、ちょっとあまり…。なりたくてなった弁護士がそうなっていくというのは、個人的には耐えられないという気がするよね。
斉藤 そういう人が多くなってきているような雰囲気を感じるから嫌だなと思う。金を稼いで何が楽しいのか。全然楽しくない。100 万もらったのと200万もらったのと、どっちが楽しいといわれても、全然私は楽しさが分からない。
泉澤 僕はやっぱり200 万の方が楽しいな(笑)。

 自由法曹団の未来は…

司会 最後の質問になるのですけれども、21 世紀の自由法曹団の未来はどこにあるのでしょうか。
泉澤 自由法曹団はでかいでしょ。5 月集会や総会【*5】で500 人で食事するのはスゴイと思う。大家族主義もちょっとあるけれども。個々人が核家族化していくなか、年に2 回は500 人で飯が食えるという大家族主義。経営法曹会系の人はそういう食い方はしないだろう。お年寄りも若手もいるという、失われたよき伝統があるわけですよ。
篠原 私も同意見で(笑)。団員名簿を見ると、地方にいくとぱらぱらなんです。しかも期が何期の方かなと調べると、相当上の人が多い。地方の団員のところに若い人がぐわっとくるといいだろうなと思います。眠っている問題の掘り起こしもできるだろうし。
斉藤 やっぱり若い人にかかってるでしょ。本を読めば、先輩達の活動は本当にカッコイイと思うし、「憲法判例をつくる」を読んでも、ああいう活動をしてきたことはカッコイイと思う。若手から見ると、そういうカッコイイ活動をこれからも団員がきちんと実践できるかどうか。そういう意味では、今いる団員がもう少し集中して、一言で言えば魅力ある活動ができるかどうか。若手がそういうのに参加してくれるような雰囲気がつくれるかどうかだと思いますけれどもね。
泉澤 カッコイイ弁護士ね。
斉藤 カッコイイ人もいるんだけれども。
泉澤 カッコイイ生き方。
斉藤 そうね。カッコ悪いのもいるから。

【*1】 「自由法曹団物語」戦前編・戦後編全2 冊 日本評論社・1976 年10 月初版・2060 円
【*2】 国会で審議される様々な法案に関し、各専門委員会で法案を検討し、逐条解説、意見書、Q &A などを発表している。国会議員、マスコミなどから期待されている。
【*3】 「憲法判例をつくる」日本評論社(39 頁参照

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