憲法判例を創る自由法曹団

元裁判官
下村幸雄 しもむらさちお
1929 年12 月8 日生 9 期 1957 年任官(大阪・高知各地裁、高松・東京各高裁、浦和地裁歴任)
1987 年退官、弁護士登録(大阪)
著書に『刑事裁判を問う』『刑事司法を考える』『共犯者の自白』

大田立看板事件のこと

 自由法曹団の諸賢による『憲法判例をつくる』というすばらしい本の中に、大田立看板事件の東京高裁判決が紹介されています。私はこの事件の主任裁判官でした。
 電柱に立看板を立てかけ、上の方を紙ひもで結びつけた行為が軽犯罪法1 条33 号前段の「はり札」をする行為に該るとして起訴され、一審で有罪となった事件の控訴審でした。「立看板、ひもで結べばはり札か」ということで、マスコミが事件を大々的に取りあげ、自由法曹団の皆さんも相当に力を入れて弁護活動に取りくまれていました。その多彩な論証活動については「憲法判例をつくる」を見て頂きたいのですが、私達の判決は「このような行為についてまで軽犯罪法を適用するのを許さないことに最大の目標を置いた」弁護活動に応えて、本件行為は「はり札」をするという構成要件に該当しない、という極めて簡単な無罪判決でした。とはいえ、憲法論に立脚した多彩な論証が無駄になったわけではありません。
 私は事件を終りの方で引き継いだ関係で、最後の大弁論のほか余り記憶していることはありませんが、全国的規模の立看板写真撮影報告書は迫力があり、事実をもってする有効な弁護になったと思っています。

自由法曹団通信のこと

 弁護士になって大分経った頃、同期の石川元也弁護士(前自由法曹団団長)から「自由法曹団通信」の購読をすすめられ、愛読者になりました。団員諸賢のさまざまに個性的で、時宜にかなったエッセーの花束が旬刊で届けられ、自由法曹団が一枚岩でないことを知りました。
 そして、91 年、NLG のアーサー・キノイ氏の来日以来「民衆の弁護士」という言葉が重要なコンセプトになっているらしいことが、多くの文章から感じ取れるように思います。
 文字どおり、憲法判例を「創る」自由法曹団に今後も大いに期待しています。

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