事件ファイル-3
世代をこえて引き継ぐもの
環境問題最前線

愛知支部
籠原隆明 かごはしたかあき
39 期
主な受任事件─京都の市民問題、京都大文字ゴルフ場事件、水俣病京都訴訟弁護団、奄美「自然の権利」訴訟、諫早「自然の権利」訴訟など。日本環境法律家連盟事務局長、「自然の権利」基金事務局長

 環境的正義という言葉を知っていますか。環境汚染地域が黒人などのマイノリティの居住地区に集中したことから、環境問題は自由や平等などの社会的正義の問題と結びつけられて議論されるようになりました。クリント ン政権の時代には環境的正義を実現するための法律も制定されています。この環境的正義の考えは、現在では自然保護問題も含めて広く環境問題全般に使われています。

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 環境問題は自然発生するものではなく、人の活動によって生じるものです。従って、環境問題解決の鍵は人の社会の中にあるというのが私たちの認識です。人々の活動によって生じる環境への負荷は、社会的に抵抗力の弱い地域、あるいは物言わぬ自然に押しつけられていく傾向にあります。藤前干潟の事件はその典型でした。名古屋市のゴミ処理場が限界に達しているということで、名古屋市は新たな廃棄物最終処分場を求めていました。その処分場候補地として選ばれたのが藤前干潟だったのです。当然のことながら、野生生物は自らを守る力はありません。名古屋市の処分場はこうした最も抵抗の少ないところが選ばれて計画されたのでした。廃棄物処分場が農山村部に集中することも、こうした理由のあることだと考えられます。このように、マイノリティの人権侵害や市民参加の欠如といった問題が環境問題に伴うのは必然性を持っていると私たちは考えます。環境問題には必然的に法の正義による解決が求められており、私達法律家の役割はけっして小さなものではないのです。

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 さて、21 世紀を目前に控えて、私達は何を未来世代に引き渡すことができるか考えるときが来ています。ふるさとの山河は荒れ果て、メダカすら絶滅が心配されている日本の現状にあって、環境問題分野で私達がなさねばならない課題は少なくありません。国際社会全体が様々な立場でこれをとらえ、人間と自然との新しい関係が模索されています。憲法の秩序は、これまで自然の価値に冷淡でした。しかし、それでは現代国家は通用しなくなっていると言えます。環境国家実現に向けて、自然の価値を正当に位置づけた憲法論が必要になっています。環境国家にむけた新しい憲法解釈は、自然の価値、安全な環境、個人の尊厳、NGO の活動などをキーワードに展開していくことでしょう。
 日本国憲法は多くの歴史的試練に耐え得る内容を持っています。環境問題の視点から憲法の新しい分野を開拓していく、それも私達環境派弁護士の役割です。
 こうしたことのひとつである「自然の権利」訴訟というのはこんな訴訟です。
 奄美大島に生息する野生生物を保護するためにアマミノクロウサギを原告として表示した奄美「自然の権利」訴訟を提起しました。内容はゴルフ場開発許可の取り消しを求める通常の行政訴訟ですが、ウサギを原告とした事や「自然の権利」という考えを中核に据えたことから全国的に有名になりました。自然生態系の保護のために活動することを「自然の権利」を守ると定義し裁判を進めています。人間はおごらず自然の一部であると言うこの考えは多くの市民の共感に支えられています。また、野生生物が原告という行動は、多くのマスコミの注目を浴びメディアワークとしても成功しました。ゴルフ場開発は実質的に中止となり、運動は実質上勝利しました。メディアと市民運動と裁判が非常によい連帯をとることで、運 動の勝利へと結びついた典型的な事件となりました。

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 自由法曹団は戦前より、新しい人権課題に取り組み、成果をあげてきました。その手法は、事件を通して何が必要か考え、社会を説得してきた過程でもあります。
 自然保護訴訟も例外ではありません。全国各地で自然保護訴訟が闘われています。廃棄物処理場事件の多くに自由法曹団員がたずさわっています。私自身も、奄美「自然の権利」訴訟、諫早湾「自然の権利」訴訟、徳山ダム事件などにかかわっています。
 この機会に是非、自由法曹団を知っていただき、私達に参加していただければと思います。

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