新潟支部 小 川 和 男
一 火を見るより明らかな不当労働行為
新潟県内で最も多くの歯科技工士を雇用している会社。歯科技工士は七四名。その会社で、歯科技工士六名が突然解雇された。
会社は、再建のためにやむを得ず行ったもので整理解雇と主張したが、これまでの経緯を見れば、本件解雇が整理解雇に名を借りた不当労働行為であることは明らかであった。
会社では従前、賃金の切り下げ、長時間残業、残業手当の未払い等の問題が山積し、労働意欲を失わせるような状態が長い間続いていたが、このような状態を打破するため、平成一〇年に組合が結成され、組合は労働条件の向上と権利実現のために様々な問題に取り組み始めた。特に未払い残業手当の問題については、二回にわたり労働基準監督署に労基法違反を申告し、平成一一年一月に一〇〇〇万、一一月に一五〇〇万円の未払い残業手当を会社に支払わせるなどの成果をあげてきた。
このような組合活動に対して、会社は団体交渉を拒否するだけでなく、露骨に組合活動を批判してきたが、今度はさらに組合員六名を解雇したのである。
解雇された六名全員が組合員であり、そのうち、三名が組合役員であることからも、今回の解雇が組合活動に対する報復・組合潰しとして行われたことは明々白々であった。
そこで、私たちは四人で弁護団を結成し、平成一二年二月一〇日、地位保全・賃金仮払いの仮処分を申し立てた。
二 仮処分決定
五回の審尋の結果、平成一二年九月二九日、仮処分決定が出た。「本件解雇は、整理解雇として充分にその要件が備わっているとは言いがたく、むしろ、債権者らに対する解雇の経緯をみると、債権者らの組合活動を嫌悪して右解雇がなされたことが窺われるので、本件解雇は、解雇権を濫用したものとして無効というべきである」と断じたのである。
決定は、一応整理解雇の四要件に沿った形で判断したが、その要旨は次のとおりである。
@人員整理の必要性
一応認められる。
A解雇回避のための努力義務
希望退職者の募集はしているものの、考慮期間が五日に過ぎず、解雇前にさらなる希望退職者の募集はしておらず、役員報酬等の削減も解雇の意思表示の直前にしたものにすぎず、必ずしも摘示に万策を尽くしたとまではいいがたいと認定。
B被解雇者の選定基準及び選定の合理性
解雇基準自体に合理性がなく、さらに「本件解雇の対象者は、組合役員として団体交渉にあたっている者が多くを占めていること」などの理由をあげて、本件解雇の対象者の選択は、恣意的に行われていた可能性を否定できないと断じた。
C解雇手続きの妥当性
「解雇手続きとしてあまりに性急に過ぎる感があり」、「この基準が解雇基準として使用される可能性があることは告知されていないこと、以上を総合すれば、本件解雇手続きには不相当な面があるといわざるを得ない」と認定。
以上のように、整理解雇の要件を充たさず解雇は無効という結論であるが、「組合活動を嫌悪して右解雇がなされたことが窺われる」とあることからも明らかなように実質的には会社の不当労働行為を認めたのである。
三 職場復帰
決定からまもなくして会社の方から職場に復帰するようにという通知が届いた。会社が仮処分決定を受け、解雇を撤回したのである。平成一二年一一月一日、六人全員の職場復帰が実現した。
四 決定の意義
長期不況と企業のリストラが続き、労働者に対する攻撃が強まっている中、今回の新潟地裁の決定は、労働者の権利を擁護するすばらしい決定である。本件のような組合潰しの解雇など言語道断であるが、長期不況の下でも労働者のクビを安易に切るなという警鐘を鳴らした点において評価されるべきである。
今後、ますます使用者による解雇、賃金切り下げ、不払いといった労働者に対する攻撃が強くなると考えられるが、今回の決定が、他の多くの労働者や弁護士を励ますものになってくれればと思う。
五 今後の課題
職場復帰を果たしたものの、解決金(慰謝料)等の問題はまだ解決しておらず、劣悪な労働条件は以前とほとんど変わらない状態である。これらの問題を解決して本当の意味での解決になるのであり、これからが本当の闘いである。今後の組合活動に大いに期待したい。
千葉支部 高 橋 高 子
一、仙台高裁第三民事部は、九月二七日、福島県双葉郡広野町の東京電力広野火力発電所のボイラー設備建設工事現場に、千葉市から単身赴任して現場監督をしていた被災者の過労死に関する労災不支給処分についての行政取消訴訟において、「業務と脳出血による死亡との間には相当の因果関係がある」と判決を下し、被控訴人である富岡労働基準監督署長は上告を断念したため、逆転勝訴判決は確定した。本件の発症は一九八八年一一月である。
二、高裁判決は、被災者には、基礎疾患として高血圧症が認められるとしたうえで、@被災者は、重い職責を負い現場監督が一人であったための業務が集中ししかも業務は代替性がなく、常に現場に作業終了時まで勤務している必要があった。A倒れる前日までの八十九日間のうち実質的な休日が四日しかなく、連日深夜までの残業が続いた。B単身赴任生活を続け、作業員と寝起きをともにするプライバシーのない生活を送り生活環境も芳しくなかった。C天候不順による工事の遅れや職人不足による工事の遅れがあり、工期が迫るなかで、職人の手配がスムーズにいかず、焦燥感を募らせるなど多大の精神的負担を伴う工事であったこと、D危険性の高い、高所での勤務を伴う職務であるうえ、多数の職人を取りまとめて予定どおりに仕事を進めなければならず、また、関係各社の担当者との折衝等気苦労の極めて多い職務であったことから、被災者の現場における業務は、精神的ストレスや疲労、身体的疲労を極度に蓄積する業務であったとし、このような過重な業務の継続によって被災者には慢性の疲労や過度のストレスが蓄積され、そのような精神的、肉体的負荷が、相対的に有力な原因となり、これと被災者の基礎疾患である高血圧症が協働原因となって、脳出血を発症させたものと認めるのが相当であり、業務と被災者の発症した脳出血による死亡との間には相当因果関係があるとした。
三、本事案では、被災者側の医証は全くない。被災者には会社での健康診断はなされていない。偽造の「診断書」が元請けに提出されていた。被災者には治療の事実もない。一方、労基署側からは、県立医科大学医学部教授と、国立病院の医師二名が証人とされた。
被災者は残業手当の支給をされない現場監督という管理者であるということで、被災者自身の残業時間を正確に記載した文書はない。被災者は一九八八年一一月一五日(当時四〇歳)に死亡したが妻と二人の子(中学生と高校生)が残された。単身赴任であったため、妻は夫である被災者がどのように生活しどのように働いていたのか全くわからない。同僚労働者の協力もなく手探りで事実をあきらかにしなければならない状況のもとで労働実態と労働環境をあきらかにし、各証人の反対尋問には力を入れた。
「大衆的裁判闘争」を、知らないわけではありませんが、そのようなとりくみもなく諸々の事情から、代理人は私一人。会社に対する損害賠償請求訴訟は千葉地裁において和解が成立している。
四、判決言渡の日は、私は長野の上田支部にいて、立会えなかった。判決言渡のあった仙台高裁の法廷に、弁論のためにおられた名古屋の水野幹男団員が判決の意味が分からずボーっとしていたという控訴人(被災者の妻で、私の依頼者)に、判決内容を、親切に、ていねいにわかるようにご説明をしてくださったとのことで、水野先生には恐縮でしたが感謝いたします。
奈良支部 宮 尾 耕 二
一、本日(二〇〇〇年一一月一五日)、奈良地方裁判所は、大和交通株式会社が奈良支部の佐藤真理弁護士に対し「違法なストライキを指導した」として提起していた損害賠償請求を棄却しました。
二、本件は、争議に立ち会った弁護士までをも被告にするという前代未聞の裁判でしたが、同判決は、
「佐藤の本件ストとの関わり合いは、自交総連奈良地本の顧問弁護士として(同地本執行委員長の)小林から依頼され、カイナラ労組に対するストライキに際しての前記精神的鼓舞を担うとともに、主として客観的にストライキの状況を観察していたというべきで、本件ピケに自ら参加していると認めることは困難である。前示のとおり、佐藤はスト当日、合計四回にわたり演説をしたのであるが、右演説の内容も、ストライキを支援しているに過ぎず、本件ピケを教唆、あるいは積極的に助長しているとは窺われるものではない。また、会社の敷地内に進入した行為も、現場の情況を観察する態様に止まり、ストライキに立ち会う弁護士としては、不法行為を構成するほどの違法性があるとも言えず、会社役員とのやりとりも、相手方から一方的に抗議してくるのに対して反論しているだけで、交渉となっておらず、カイナラ労組から会社との賃金改定の問題やストの解除等についての交渉依頼があったとも、また現場において組合員らに対してピケ等に関し具体的な指示を出したとも、いずれもそのような事実を認めるに足りる証拠はない。
そうすると、佐藤が本件ピケに関し、会社に対し不法行為責任を負うとまで認めることはできない。」
と判示し、会社の請求を明確に否定したのです。
三、また、同判決は、本件スト(タクシー会社におけるピケを伴うストライキ)についてはこれを違法として当該組合の不法行為責任を肯定しましたが、会社に生じた損害はわずか約一八万円と認定しました。他方、同判決は、組合らが対抗して提起していた損害賠償訴訟について、このストライキなどを理由とする会社の檀執行委員長に対する懲戒解雇処分は不当労働行為であって違法・無効であると認め、さらに会社の不誠実団交の事実も認め、会社の不法行為に基づく損害賠償責任(組合に対して五五万円、檀委員長に対しては三三万円の慰謝料等)を肯定しました。つまり、総体として見れば、組合側のほぼ完全勝利と言える内容となっています。
ちなみに、檀委員長の解雇処分の有効性については、本件に先行する地位確認請求事件で、大阪高等裁判所が原審奈良地裁判決を覆し「懲戒解雇は会社の裁量に属する」という特異な法的見解を前提に解雇を有効とする不当判決を下し、現在事件は最高裁に係属しています。今回の損害賠償事件の判決は、右高裁不当判決の論旨を否定し、改めて解雇を無効とした点でも重要な意味を持つものです。
四、本件につきましては、全国各地の団員の皆様方に「被告佐藤弁護士」の訴訟代理人となっていただき、かつ様々な支援を戴いてまいりましたが、ここに勝利の報告をさせていただくものです。事件の最終解決に向けて、組合及び弁護団としては最後まで奮闘する所存ですので、今後ともなお一層のご指導・ご鞭撻をいただきますようよろしくお願い致します。
司法民主化推進本部副本部長 鈴 木 亜 英
一、かねて予定されていたとおり、一一月二〇日司法制度改革審議会が中間報告を公表した。「司法制度改革の基本理念と方向」と題する総論部分と「人的基盤の拡充」及び「制度的基盤の整備」の各論部分から構成され、六六頁にわたり我が国の司法制度全般に言及したものとなっている。ある程度予測できたとはいえ、一歩前進と評価できる部分が見受けられる反面、看過できない重大な問題をそのまま残しているため、引き続き批判的視点を堅持しながら運動を一層強力に進めていかなければならないことを痛感する。
中間報告に対する団長声明にも明らかなように、(1)裁判官の給源、任命手続、人事制度の見直し、(2)弁護士や裁判所へのアクセスの拡充、民事法律扶助制度の拡充、(3)公的費用による被疑者弁護制度の導入、(4)陪審・参審を視野に入れた国民の司法参加の拡充など団のこれまでの提言に沿う抜本的制度改革へ通ずる積極的な側面が認められる反面、到底是認できないいくつかの問題がある。
とりわけ、これまでの「政治改革、行政改革、地方分権推進、規制緩和等の経済構造改革」などを手放しで評価し、司法改革を「これら一連の諸改革の根底に流れる基本的な考え方をうけつ」ぐものとして展開している点は到底受け入れ難い。これが今後の改革の方向を示すものだけに総論に過ぎないといって軽視することは些かも許されないであろう。またこれまでの裁判が行政と大企業を優遇・偏重し、これらによってもたらされる人権侵害をきちんと救済してこなかった背景に最高裁事務総局を中心とする裁判官に対する中央集権的な官僚統制があったという司法の病理にメスを入れることなく、現在の司法が国民の高い支持と理解に立脚しない要因を別のものに求めている点も承服しがたい。そして、中央集権的官僚統制を打破し裁判を国民の手に取り戻すには法曹一元と陪審制の実現という抜本的制度改革を強力に押し進める以外にはないという動かしがたい方向があるにもかかわらず、中間報告は裁判官制度の改革や国民の司法参加について触れているだけで、法曹一元及び陪審について導入を明確化できないでいる。この中間報告の不徹底さは、今日の司法に対する根本的批判を欠いていることと無縁ではないと思われる。
二、団は厳しい討議を経て「司法改革に関する当面の行動方針」を総会で確認した。司法改革をめぐる情勢をどうみるか、とりわけ審議会の性格をめぐって常幹会議では度々激しい議論が闘わされた。この議論は司法改革がどのような力によって動かされてきたかをめぐる議論と連動するものであり、これをどう考えるかは行動方針を左右することにもなる。政府と財界がこれまで進めてきた政治改革、行政改革、経済改革等の国家改造計画の一翼を司法改革が荷負うものであり、今日の司法が国民的改革を必要とする点については異論はないものの、政府・財界の進める「司法改革」には強い警戒と厳しい批判を怠ってはならないとする見方と、そうした背景があることを概ね肯定しながらも、国民の司法改革要求は切実であり、司法改革の動きは滅多にないチャンスであり国民の力量と闘い如何で国民のための司法改革を実現しうる契機があるとする見方が対立し、ほとんどすべての論点にわたって意見の違いとなって現れた。ここに議論の全体を紹介する余地はない。しかし、議論を通じて意見の違いはあっても、徹底した裁判批判を通じて今日の司法を国民の立場に立って抜本的に改革してゆく点では国民とともに運動に踏み出すことの大切さを誰もが理解していたといってよい。
こうして総会直前に作られた「行動方針」は先の異なる見方のそれぞれからは満足ではないにせよ、団員が行動するうえで情勢をどう見るかを大筋で一致させたものとなった。審議会の置かれた状況は国民の目からみて厳しいものがあるが、審議会が打ち出す方向に些かなりとも改革の芽があるならば、それは評価し、積極的な提言をしながら後押ししてでも実現させていく必要がある。審議会がどのような力によって設置されたか、審議会がどのような状況にあるかはあるにせよ、審議会のなかにも闘いがあり、国民の望む方向の改革が一部にせよ打ち出される可能性は充分ある。しかし国民の期待する改革の芽があるにしても、前進が一直線であるとは限らない。現に様々な勢力がこれを妨げ、後戻りさせようとする動きは顕著であり、これには批判が必要であろう。行く先には落とし穴や迷路もあるだろう。充分な警戒が必要であろう。いずれにしても民主的で抜本的な改革を実現してゆくためには国民の力強い監視とバックアップが必要である。そして、いくつかの意見が対立するなかでまとめられた「行動方針」も実は国民のための改革要求を実現するうえでの不可欠の視点を提供していることに確信を持ちたい。「行動方針」はいくつかの具体的な提案をしている。それはこれまでの各地の運動の成果を踏まえたものであると同時に、運動を大きく発展させてゆくうえで不足のあったところも指摘している。また中央の運動の発展とともに、各地の実情を生かした取り組みを求めて、各地の創造的なたたかいを期待している。いずれにしても、審議会が最終報告を出すまでにもう一年はないのである。冒頭で述べたとおり、前進の方向は評価しながらも、一層明確で徹底的な改革路線を打ち出させるために、団の奮起が求められるのである。審議会の中間報告に対してマスコミは総じて肯定的評価をしている。そうした見解からみて、団の見解はいささか厳しすぎるのではないかとの意見もあるかもしれない。しかし、改革に向けて審議会の打ち出す方向を厳しく批判することは改革の芽を潰すことではなく、国民のための改革を一層明確に打ち出させ、審議会を誤った方向に歩ませないための不可欠の作業なのだということを理解する必要があろう。
国民の権利擁護のために真剣に闘ってきた団と団員ひとりひとりがいまこそ国民の立場に立って司法制度を改革し裁判を変えていく気概を持とうではないか。これまで「行動方針」をまとめてきた立場から様々な分野での司法改革運動の一層の強化を呼びかけたい。
東京支部 笹 山 尚 人
私は今秋司法修習を終え、弁護士登録したばかりの五三期の若造です。修習終了後、事務所にも行かず遊んでいたものだから、先日出席した団総会では、同期のみんなが入団申込者として次々と名前が呼ばれるのに、私はその手続きを怠り、事務所のみなさんをやきもきさせてしまった不届き者です。
そんな不届き者が、団の総会に出たとき、驚きとふるえが身体を襲いました。東京・大阪両地裁の驚くべき実態についての報告。最高裁が一連の就業規則の不利益変更の問題で労働者の不利益性をリアルにとらえない傾向にあることや、企業再編的なリストラが進む中で完全失業率四・七%と言われることと合わせ考えると、正に容易ならぬ事態が進行しているとの危機感を覚えました。その一方で、これらの潮流をどう打開するのか、自由闊達に討論する諸先輩たちの勢いにはただただ圧倒され、身がすくむ思いがしたのです。
国民の自由と生活を守る自由法曹団とは、このようなすごい集団だったのか。
自分がそこに加わり、揉まれ、励まされるのかと思うと、嬉しさがこみあげていました。団総会終了の翌日には、事務所で早速入団申し込み書を書きました。
最後に一言だけ苦言的問題提起を。団では、法曹人口増員問題、ロースクール問題がこれまでまともに議論されてこなかったという実態を知ったときは、正直、その対応の遅さに呆れました。また、ロースクールに手放しの賛成論があることにも驚きました。私は学生時代の経験から言っても、また近時の国立二小問題などを見ても、文部省が介入することへの警戒感が、どうしても先に立ってしまいます。現在は、日弁連総会の結果が出た以上、反対派の問題意識をきちんと受け止めて具体化を考えていくべきだと前向きに考える私ですが、どうも、執行部派は安易な感じがして、それが出来るか不安です。民主的法曹の後継者が少ないことへの危機感からといった賛成意見もありましたが、団のみなさんはこれまで、青法協修習生部会の活動支援を中心とする、後継者養成活動にどれだけ真剣に取り組んできたのでしょうか?まずは、自分たちのできる後継者養成運動もしましょう。修習生の抱える問題を見据えてこそ、問題点も見えてくると思います。
それなしの、ロースクールや増員に手放しに賛成するのって、司法改革に他に適切な対案がないからのっているだけで、安易な発想だなあ、という気がして不安です。
こんな生意気な若造ですが、喜んで団の戦列に加わり、みなさんと共に、世の中を明るくすることに少しでも貢献できたらという気持ちです。よろしくご指導下さい。
大阪支部 原 野 早 知 子
私は四七期なのですが、弁護士六年目にして、最近自由法曹団に入団しました。それで、一回位きちんと総会に行ってみようと参加した次第です。
私がこんな時期に自由法曹団に加入したのは、自分が事件活動を続ける中で、一地域での限界というものを感じ、全国組織の必要性を痛感したからでした。大阪で取り組んでいる女性差別事件で、非常に不当な判決が出て、これに対抗する運動を広げて行かなければならないと考えたとき、頭に浮かんだのが自由法曹団だったのです。
今回総会に参加して、全国の様々な地域で、あるいは様々な分野の問題で活動する弁護士が組織された集団が存在するということはやはり大したもんだというのが率直な感想です。その意味で、自由法曹団に対する私の期待は間違っていなかったと思っています。
司法改革については、正直なところ、自由法曹団の中でも意見が全面的に一本化されるとは思いませんが、各地域での取組や実情を反映しながらのけんけんがくがくの議論は、あまり情勢についていっていない私には面白いものでした。また、二日目の各地からの報告で、コスタリカでの平和教育の話や、刑事再審事件の話などを聞きながら、「こんなに頑張っている弁護士がいるんだ」と心が温かくなりました。
ただし、弁護士の常ではありますが、どうしても話が長くなってしまい、人数の多さもあって「議論」という形にしていくのは難しいなとも思いました。
地方から見ていますと、自由法曹団は全体の組織が大きい分、個別の課題に臨機応変に対応して動ききれない面があるように見えます。「個々の課題」への即応と、「全体の意見を反映する」ということのバランスをはかりながら、いかに運動を進めていくかが問われているのだろうと思います。
新米なのに、生意気な意見を述べてしまいましたが、私は大阪の一隅で細々とでも自由法曹団の一員として活動していこうと考えております。これからもよろしくお願いします(総会の感想ではなく自己紹介になってしまいましたが)。
東京支部 飯 田 美 弥 子
先日の富山総会で、入団を承認された飯田です。よろしくお願いします。
宇奈月温泉は、大学で権利濫用の判例を習って以来、訪れてみたい土地でした。富山総会のおかげで、思いがけなくも修習終了直後に訪ねることができ、トロッコ電車に乗って引湯管も実際に見ることができました。
あのように峻険な自然までも利用して、暴利を貪ろうとした人がいたことには、いつの時代にもどこにでも、自分の利益ばかりを考える人間はいるものだな、とむしろ感心してしまいました。
さて、われわれ新入団員は、総会前日に、新人研修として先輩団員のお話をうかがいました。女性団員の座談会では、「団的生活」と家庭生活や地域社会との折り合い方についての工夫が語られ、女性であることに甘えず、しかし、女性としての「しなやかさ」(近頃、流行の言葉ですが)も忘れないでおられる様子に、これまた感心してしまいました。
松波先生のお話では、事前のレジュメを拝見したときから既に感服しておりましたが、さらに駄目を押されました。どうしたらあんなに準備ができるのか、と小柄な先生の秘められたパワーに驚き、それに引き比べ、わが身の怠惰さや大雑把さを思って自信を無くしかけました。
が、そうした諸先輩を近くに見ることで、私のようなものでも、怠惰に流れず初心を忘れず、少しは人権擁護のために働けるかと気を取り直しました。
翌日からの総会では、なんと言っても司法改革での議論が白熱し、議論を聞くうちにだんだんと論点がわかってきたと思われたところで、時間が足りなくなってしまったのは残念でした。いろいろな意見が出、議論が活発だったことは、評価に値すると思いますが、団として「法曹養成」に関する意見をまとめることができなかったのは、現時点での限界だと思いました。日弁連総会でも指摘されましたが、実証的に増員数の目安を設定することと、そのための養成手段を具体的に提唱することは、急務であると思います。
「経済的自由」に関する制約について、裁判所は、立法府の調査能力・政策立案能力に譲歩した二重の基準を採っていますけれど、司法に関する政策まで立法府主導でいいはずがありません。三権分立の名が泣くではありませんか。
法曹三者は、いずれも日々の仕事に追われていますから(それに経験も乏しいし)、司法改革の青写真を作り上げるのはかなり困難であると思われますが、「制度を考える」という新しい経験を通して、もうここから、立法・行政にも対峙し得る新しい法曹界のあり方を探っていくべきだと感じました。
続く労働裁判の現状についての討論でも、その思いは強くなりました。市民のための裁判所改革は是非必要でしょう。その必要性を周囲にも訴えていくつもりです。
最後に、大広間での夕食は壮観であったこと、「風の盆」の踊りも大変興味深かったこと、坂本都子さんのモニュメントに参ったときには改めてオウム真理教への怒りを覚えたことなどを付け加えて、感想といたします。
大阪支部 愛 須 勝 也
松波先生のお話は凄かった。とにかく自分には絶対まねが出来ないだろうと思ってしまった。松波先生の書かれた本(「ある反対尋問」)は書店で立ち読みしただけだったが、科学証人に対する反対尋問に対する極めて専門的な尋問内容で、多分理系出身の弁護士さんだろうと高をくくり、「どうせ自分とは違う人種だから」と最初から相手にしていなかった(失礼しました)。しかし、実は松波先生は理系とは縁もゆかりもない人で、郵便局に勤めながら、中央大学の二部を出られて弁護士になったという苦労人と聞いてびっくりした。また、松波先生は、理系の話を小難しく話をする人物を想像していたのだが、お会いしてみると、まったく予想に反して穏やかな人だった。松波先生の科学証人に対する反対尋問の準備活動のすごさは、私が想像していたような科学的知識に対する造詣の深さとか興味関心ではなく、イタイイタイ病、水俣病、スモン訴訟、もんじゅ訴訟という訴訟における中心争点での勝利のため、必要性に駆られたものであったということがよくわかった。が、しかし、そのような必要性を感じてもここまで徹底して出来るものだろうか。自分にはまったく自信がない。松波先生との頭の構造の違いなのだろうか。いや、頭の違いはもちろんだが、事件にかける情熱の違いだろう。私は科学文献や自分の不得手の文献を見るだけでも嫌気が差してしまっている。何としてでも、その事件を解決しようと思えば、自分の能力のせいには出来ない。自分にも、事件にかける情熱だけはまねできないわけではないだろうと思う。事件解決の必要性に駆られたとき、人間はその潜在的な才能を十二分に発揮できるのではないだろうか。そんな気もしてきた。やる前に諦めてしまっては、団に加わっている意味がない。民衆のために全力を尽くす中で、諦めずに闘って初めて問題は解決するのだろう。その意味で取り組み方、心構えを教えていただいたと思う(しかし、実際自分が情熱を持って真剣に事件に当たったとき、本当に松波先生のすごさが実感できるのような気がする。豊田前団長が、しみじみと松波先生のすごさを漏らしておられたのは、私とは次元の違う意味での感想であろうと思う)。
宮城県支部 庄 司 捷 彦
民主的詩人集団・詩人会議が、渾身の力を込めて編んだ一冊の詩集です。
今年の春、一六人の詩人から全国へ一つの呼びかけが発信された。
「憲法が危ない。憲法を詠い挙げよう。全国の詩人たちよ、心ある人たちよ」
この声に応えた人は三七二人。詩人会議内外からの大きな反響。この全国にわき上がった、憲法への愛の声を一冊にして、この詩集が生まれた。憲法を語り継いできた自由法曹団の各位に強く推薦いたします。盗聴事件の緒方靖夫さんも寄稿されています。座右の書として、学習会や集会で活用していただければと切に希望いたします。
最後に、小生が「みちのく赤鬼人」との筆名にてこの詩集に寄稿した作品を記します(これを書いたら本が売れないよ、傍で呟く声あり)
憲法九条・考 みちのく赤鬼人 春 桜吹雪の嵐の中で あなたを思う、 「桜に錨」の歌を 若者達に歌わせてはならぬ。 夏 積乱雲と酷暑の中で あなたを思う、 爆風と死の灰での 理由知らぬ絶命は許せない。 秋 篠つく雨に濡れた球場の中で あなたを思う、 死地への行進を 若者達に強いてはならぬ。 冬 凍てつく小樽・坂の歩道で あなたを思う、 若者の崇い志操を圧殺した 理不尽な権力は許せない。 あなたは この国の 血まみれの歴史の中から現れて 宣言したのだ、 「戦争は放棄する、軍も武器も持たない」と。 いま 世界が あなたを 求めている。 あなたに 新しい生命を注ぐのは わたしたち。 (二〇〇〇・六・三〇)
東京支部 尾 林 芳 匡
一 自治労連・地方自治問題研究機構が地方自治の総合理論政策誌「季刊 地方自治」を創刊しました。
昨年設立された地方自治問題研究機構は、地方自治及び自治体における運動の前進に寄与する調査研究活動等を行うために自治労連の運動及び政策活動と組織的に密接に結びついて、各分野の第一線の研究者の幅広い協力と参加のもとに研究活動を進めてきました。
創刊された「季刊 地方自治」は、この研究活動と成果の上に立ち、自治体労働運動や住民の運動の発展を促進し、日本国憲法の平和的・民主的諸原則を擁護発展させるための理論政策誌です。
二 今日、地方自治・自治体は深刻な岐路に立っています。「臨調行革・地方行革」路線の下で、政府は国庫支出金削減など財政負担を自治体へ転嫁し、自治体も住民本位の施策を切り捨てつつ企業主義的運営を強める一方、民活型の大型公共事業の推進により自治体の財政は深刻な圧迫を受けています。各地の団員にも、ヘルパー、保育園、学童保育や自治体関連労働者その他多くの分野で、雇用、労働条件や公務災害をめぐる相談や紛争が多数持ち込まれています。また「地方分権一括法」や新ガイドライン法により自治体が戦争協力を強制される可能性も大きくなっています。「新自由主義的」政策の台頭と強権的な大国化への再編の動きに連動した公務員制度「改革」の動きも急です。
しかし他方で、基地や米軍機の被害の救済を求める運動、「市民オンブズマン」など住民による自治体行政への監視・参加、大型公共事業に歯止めをかける環境運動などが各地で発展しつつあり、「住民こそが主人公」という地方自治の本旨の実現をめざす革新・民主の自治体建設も広がっています。各地の団員もこうした自治体の民主化の運動に関与・参加されていることと思います。「季刊 地方自治」は、こうした活動にとっても最良の理論政策誌です。
三 「季刊 地方自治」創刊号には、宮本憲一・大阪市立大学名誉教授と神野直彦・東京大学教授の対談「地方分権と21世紀の自治体・自治体財政」、愛知の山田万里子弁護士の保育園業務士の公務災害判決レポートの他、公務員制度改革、福祉行政、労働組合運動、行政評価、瀬戸の海上の森を守る運動の報告や各種データブックなど、興味深い記事が満載されています。今後の号でも、憲法と地方自治、住民参加、市町村合併、産業振興など現在の最高水準の特集記事と研究報告が掲載されていきます。ぜひ全国の団員のみなさんに、創刊のこの機会に定期購読をしてくださるようお願い申し上げます。「季刊 地方自治」は年四回発行で各千円です。購読ご希望の方は、各地の自治労連組織か自治労連・地方自治問題研究機構(FAX・〇三ー五九四〇ー六四七二)にお申し込みいただいても結構ですし、八王子合同法律事務所の尾林にご連絡いただいても取り次ぎをいたします。 【自治労連弁護団(研究機構運営委員)】