団長 豊 田 誠
Think globally, Act locally!
「地球規模で考え、足元の公害と闘おう!」
このスローガンは、地球環境が問題となった時期から公害闘争の分野で用いられてきているものだが、自由と人権をめぐる今日の闘いにあっても活用されるべきキィワードのように思う。昨今の政治状況からすると、世紀単位で世界史の発展を考えつつ、当面する足元の人権課題に取り組んでいくことがきわめて肝要なことだと痛感させられるからだ。
昨年一年間をふりかえってみただけでも、新ガイドライン、日の丸・君が代法、憲法調査会設置法、盗聴法、地方分権一括法、労働者派遣法、職安法改悪、住民基本台帳法改悪、定期借家制度など、目白押しの反動立法ラッシュとなってしまった。国会では自自公三党の枠組みの中でこれらの諸悪法が推進されているが、その直接的契機が、アメリカの軍事的、経済的世界戦略に日本が組み込まれ、国家主権と国民主権の喪失状態にあるためである。従って、国民との矛盾は、まぎれもなく増大している。にもかかわらず、未来への展望は必ずしももち切れていない国民的状況のように見える。
現在の政治志向が決して長くつづくことはない。この百年、人類は、いくつも世界大戦をくりかえしたし、広島・長崎での大量殺戮の凄惨な歴史的体験もした。日本国憲法九条が、昨年のハーグ平和アピールの第一原則にとりいれられるところまで、平和を希求する国際世論が進展してきた。また、この百年、帝国主義列強の植民地支配による他民族抑圧、人種・性別・思想信条等によるいわれなき差別の苛酷な体験もしてきた。民族の自主独立、差別を克服する人権の拡張は、今世紀後年における世界史の象徴でさえある。
二〇世紀という百年の世界的潮流が、蛇行をしつつも、平和と人権、自由と民主主義の確立の方向に向かっていることは、何人も否定できない歴史の事実である。
団は、昨年の米子総会で@攻勢的な憲法運動の構築A大衆的裁判闘争の旺盛な展開B司法の民主的改革の推進などを運動の基調とする方針を決めている。アクト・ローカリィの実践であるといってよい。
暮れの一二月八日。二八年ぶりに勝利的解決をかちとった関西電力人権闘争のニュースは、人権侵害とリストラに苦しむ労働者たちをどれだけ励ましたか、測り知れない。まずなによりも、私は、苦難に耐えぬいて二八年間闘いつづけてこられた関電労働者・弁護団に、心からの敬意と連帯の拍手を送りたい。そして、最高裁判決すら無視して人権侵害をしつづけてきた大企業の横暴も、労働者と国民世論の不屈の闘いによって屈服させることができるという勝利の確信は、何ものにもかえがたい貴重な財産となっている。こうした現場の人権闘争、攻勢的憲法闘争が、アクト・ローカリィとして何よりも重要であり、こうした闘いを無数に掘りおこし、組織し、運動をつくっていくことが、いま何よりも求められているのだと思う。
沖縄・改憲問題対策本部 事務局長 吉 田 健 一
憲法の平和原則をなし崩しにする動きが顕著であり、改憲をめぐって重大な時期を迎える。
昨年成立した新ガイドライン関連法ー周辺事態法に関しては、自治体協力などその具体化が進められている。同じく「日の丸・君が代」法についても、その意味があらためて問われる年となる。
今年一月に開会される通常国会では、いよいよ有事立法の検討に入るという。また、PKO法「改正」案も提出・審議される見通しである。この「改正」は、PKO法成立当時凍結されていた歩兵部隊による国連平和維持軍(PKF本体業務)に自衛隊が参加し、海外での武力行使を認めるものである。沖縄では、サミットを前にして普天間基地の移設ー名護での基地建設を強行しようという動きが急である。さらに、一漫画家の描いた「戦争論」が侵略戦争を美化し日本の戦争責任を免罪する世論づくりを訴え、歴史の教科書を全面的に書き換える論議(「国民の歴史」)も提起されている。右翼を含めて運動を広く進めようという「日本会議」にくわえて、財界や連合などをまとめて改憲の動きを促進しようという「新しい日本を作る国民会議」(「通称・二一世紀臨調」・亀井正夫会長)も昨年七月に発足している。いわば小選挙区制導入を推進した「民間政治臨調」の改憲版ともいえる体制がつくられようとしている。
しかし、このような動きは、平和を求める国際的な流れからみても逆流に他ならない。昨年のハーグ世界平和市民会議(HAP99)では、「公正な世界秩序のための基本十原則」の第一に、各国議会は、日本の憲法九条のように、自国政府が戦争をすることを禁止することが決議されている。
私たちは、いまこそ、平和・人権・民主主義という憲法の原点を国民とともに考える必要があるのではないだろうか。「いまさら」といわれるかもしれない。けれども、平和でなければ人権保障は実現できない、民主主義がなくなれば平和は守れない、人権が保障されなければ民主主義は実現できない・・・侵略戦争の反省のうえに立ったこのような原点は、いま、自自公路線のもとでないがしろにされ続けている。そして、国民や自治体との矛盾がますます明確になっている。新ガイドライン法案や盗聴法、「日の丸・君が代」法案に反対する国民共同の運動は、これまでになかったような新たな広がりをみせている。
団の出版した「憲法判例をつくる」には、団員が国民とともに、憲法を守り、現場で生かしてたたたかってきた足跡と成果が示されている。いま、私たちから積極的に、憲法の原点を国民に発信すること、足をふみだすことが必要となっている。団としては、新たにタブロイド版宣伝物を作成・普及するなどして、学習・宣伝活動などに積極的に取り組む予定である。自衛隊の海外派兵や安保・基地、有事立法など平和の問題のみならず、具体的な人権・民主主義や地方自治など多岐にわたる課題で様々な活動を全国各地ですすめている団員・弁護士が、あらためて憲法の原点を多面的にとらえなおし、広く国民に訴えかけることが求められていると思う。
―ここにも団の目と力を注ぐべき対象がある
沖縄支部 金 城 睦
一、今年(二〇〇〇年)七月二一日〜二三日に沖縄県名護市で開催される予定の沖縄サミットを当面の終着駅の如く、今、普天間基地の県内移設をめぐって、沖縄はその推進派、容認派と反対派との間の攻防で湧き返っている。前者の頭目稲嶺知事は、一一月二二日、移籍先を「キャンプシュワーブ水域内名護市辺野古沿岸域」とする「苦渋の選択」を発表した。これを受けて、岸本名護市長も近々のうちに、受諾の意思表明をすると見られている。
二、普天間基地の県内移設は、九五年の少女暴行事件を契機として、燃え上がった島ぐるみ的な基地反対闘争の最中に、日米両政府が、沖縄基地の整理、統合、縮小に取り組むとして、日米安全保障協議委員会の中に設置されたSACO(Special Action comitte on Faciltiesand Areas in Okinawa ,沖縄における施設及び区域に関する特別行動委員会)の最終報告で確認された一一施設の返還合意のひとつである。普天間飛行場を含む一一施設約五〇〇〇ヘクタール(在沖米軍専用施設の約二一パーセント)の返還が合意されることになっているが、いずれもほとんど移設条件付きであることが問題である。
当初はまるで県民の要求に添った形の普天間飛行場の返還と報道された。それが県内移設条件付きとわかって、日米両政府のペテン的方法が露呈されたが、そのペテン的性格は、その後の調査と事態の推移のなかで一層明らかになった。
三、アメリカは普天間基地にあるCH40型ヘリコプターにかえて、垂直離着機MV22オスプレイという最新鋭機の配備を九四年頃から計画し、具体的には二〇〇六会計年度に三機、二〇〇七会計年度に二四機を新基地に配備する計画という。
このオスプレイというのは垂直離着陸も水平離着陸も斜めの離着陸も可能で、CH46ヘリと比べて巡航速度が二倍、搭載能力三倍、航続距離は五〜一〇倍の機能を持つ。
このような最新鋭機を配備するには老朽化した市街地にある普天間基地では不都合で、新基地が必要というのがアメリカの本音であり、日本政府が隠している重要な背景である。
しかも、普天間基地とともに返還が予定されている北部訓練場や安波訓練場、ギンバル訓練場といった沖縄本島北部の基地も、新たに海への出入りのための土地や水域を提供するとか、ヘリコプター着陸帯の移設などが条件とされていて、それがどう見ても普天間基地の移設が予定されている名護市辺野古の新基地と連動しているらしいのである。辺野古への移設が実現すると、この北部一体は巨大な海兵隊基地と化することが、ほとんど見え見えといっていい。
四、大田前知事の海上ヘリ基地反対表明以来、しばしなりを潜めていたSACO合意の実施(基地の県内移設)は、日本政府の強力な後押しで当選した稲嶺知事の登場によって、徐々に動き出し、沖縄サミットの開催決定によって急速に展開してきたものである。
国は「普天間飛行場のオペレーションプラン」と呼ばれる文章化された国のシナリオまで作り真正面から総力をあげた名護市民投票に敗北した経緯をふまえて、正攻法(?)の正面作戦ではなく、水面下の裏工作を中心として、地元利益集団に振興策なるアメをちらつかせて懐柔し、地域を分割しながら、下から積み上げる作戦に出てきていて、その現段階の彼らなりの成果が知事の表明である。
五、しかし、知事の表明も、一五年期限付きの軍民共用空港といっていて、その場合は巨大空港となって基地の形式的な縮小にもならず、期限は日米両政府がのむわけないし、具体的な工作も全く示されていないなどの問題や矛盾が多い。
それより何より、ジュゴンの住む美しい環境が破壊され、基地被害が増大するのみならず、沖縄の米軍基地の強化、固定化が一層進められ、名護市民投票、県民投票によって示された市民、県民の意志を踏みにじるものである。
このような日米両政府の沖縄への基地押しつけを許さず、平和な沖縄の建設を目指す沖縄の民衆は、今度、統一組織を結成して全県的基地反対闘争に立ち上がっている。
団のような法律家団体を含む県内の平和、人権、環境、女性など三立の市民団体が結集して「軍事基地の県内移設に反対する市民団体連絡協議会」がつくられ、また、沖縄サミットを視野に入れた「沖縄から基地をなくし世界の平和を守る市民連絡会」も結成され、このような市民団体も政党(社民党、共産党、社大党、自由連合)や労働組合中心の運動団体(平和センター、統一連など)などが構成員となった統一組織として「普天間基地、那覇軍港の県内移設に反対する県民会議」も結成され、県内総人口一三〇万人の半分以上を目標とする七〇万署名運動にも取り組んでいる。
六、サミットを念頭においた運動としては、フィリピン、プエルトルコ、韓国など米軍基地と闘っている代表や著名な平和運動家などの参加する平和会議(他に環境会議、女性会議、ジュビリー二〇〇〇、先住民会議など)、音楽、舞踏、映画などの芸術・芸能祭あるいは基地包囲行動、哀服をつけての戦跡地における集会なども企画中だ。沖縄という小さな基地の島における世界を視野においた、この大きな取り組みに、団と団員のアイディアを含むあらゆる連帯的協力がのぞまれる。
労働法制対策本部
担当次長 中 野 和 子
情勢
昨年は、労働法制の改悪が次々に強行された。
女性労働者を巡る情勢は厳しいものとなっている。女子保護規定の撤廃は四月一日から施行された。均等法の改正があったものの、日航客乗組合員女性差別事件の調停は紛争解決処理機関としての役割を一向に果たそうとせず実効性に乏しい現状である。一方厳しい就職難の中で特に女子高校生の就職難は男子高校生との差別もあり、より一層厳しいものとなっている。
企業の倒産および大量解雇の影響も深刻なものがある。失業率が四・八パーセントに上昇し、過去最悪を更新している。中高年労働者の自殺も急増し、男性の平均寿命を引き下げている。
従来は労働法制とは考えられなかった倒産法制改正が行われ、新たな労働者への権利侵害も進められようとしている。
産業再生法・商法改悪(会社分割法)が第一四五回通常国会で成立、民事再生法も臨時国会で成立し、「過剰債務」「過剰設備」「過剰雇用」の解消の掛け声のもと、「国家的大リストラ」が強行されようとしている。
企業再編に伴い、一旦労働者を解雇し、再雇用する場合も賃金を大幅にカットし労働条件を切り下げている。
日産では、「コスト・カッター」と悪名高いルノー社のゴーン氏が最高経営責任者として乗り込み、日産「リバイバルプラン」と称してグループ企業全体で二万一〇〇〇人(一四パーセント)の人員削減(国内一万六五〇〇人)を発表した。日産の大規模リストラに対しては、国内のリストラの象徴として団は総力を挙げて闘うことを決定した。
労働者派遣法改悪、職安法の全面改悪が可決され、昨年一二月一日から施行された。営業職や事務職の派遣労働も始まっている。
個別的労使関係については、個別の労働事件の増加に対し、労働委員会など行政権などが強権的に解決する紛争処理機関を設けようという動きが急速に出てきている。
他方、長野の高見沢電機、大阪の弘容、紀北信和、大同信用組合など、既にリストラ・人減らしの攻撃を跳ね返す闘いが始まっている。
裁判所でも、丸子警報器事件のように、パート労働者の権利についても前進した和解が行われている。
日航就業規則無効確認訴訟も乗員・乗客の安全性を重視して勝利判決を勝ち取った。関西電力思想差別事件も、人間関係を会社に妨げられないで自由に築く権利を認め、企業の露骨な思想差別政策を断罪した。
年金法案も、労働組合・国民の強い反対により臨時国会での採決をくい止め、継続審議とした。
課題
1 企業倒産と雇用確保の労働者の闘い
従来、私たちは整理解雇の四要件を武器に闘ってきた。
しかし、産業再生法、民事再生法の構造の中では、破産事件と同種の優先債権者としての地位を確保できるかどうかという問題に切り替わってしまいかねない状況となっている。四要件を引きつづき整理解雇の必須の条件として守らせる闘いとともにこの問題にとどまらず、同一労働条件での雇用の確保をどう獲得するかの法的構成を新しい観点で工夫し、構成していくことも検討しなければならないであろう。また、再雇用の確保の課題も重要なものとなっている。「企業、事業、または企業、事業の一部の移転の際の労働者の権利保護に関する加盟国法の接近に関する77/187/EEC指令」(九八年改正)は、移転元企業が清算目的で企業移転を行う場合には適用除外が設定されている(第四条a)。
2 再建を目指す企業の労働者の闘い
企業の一部譲渡や営業廃止が一方的に行われる場合に、雇用契約の強制的承継義務を認めさせる法理論を構築する必要がある。
法人格の分割の要件として、労働契約はどちらかに帰属するとか、法人格の継承のない営業譲渡の場合は、労働契約は譲渡元企業から移転しないとか、解雇は認めないという法理論が必要である。
さらに、解雇規制法の制定を求める必要がある。
3 利益を上げている企業の労働者の闘い
内部留保を吐き出させる闘い、長時間労働を解消し雇用を確保する闘いが必要となる。
雇用条件の切り下げに応じない、無理な転籍、出向に同意しない、隔離部屋などの人権侵害を告発するなど、労働組合だけでなく、人権擁護のために法務局や弁護士会への持ち込みも有効である。
4 不安定雇用拡大をくい止め、不安定雇用労働者と連帯する闘い
正規雇用を破壊する動きは急速である。特に、弱者である女性労働者、未組織労働者などは、一旦労働契約を終了させて再雇用されるときに、労働基準を切り下げられてきている。また、パート労働者は、時間給が最低賃金をも下回る例があり、未払残業も強要され、その甚だしい権利侵害が放置されている。
5 個別紛争処理制度については、都労政事務所に五万件の相談が寄せられるなどしており、早急に処理機関を設ける必要に迫られている。連合は、労働委員会に設置を求めているが、団としても、より相談をしやすく公平な解決を図れる行政組織としての処理機関を提言すべきである。
以上、情勢と課題についての私見を述べてみた。二〇〇〇年は、レッドパージ五〇年にあたるが、それだけに二一世紀に向けた差別のない労働環境の構築にむけて決意を固める機会としたい。
定期借家制度対策本部事務局長
赤 沼 康 弘
一 法案可決
一九九八年六月五日定期借家制度導入を目的とする借地借家法「改正」案が提出されたものの、反対世論の強い批判などのため、全く審議されることのないまま再三継続審査となっていた。推進者は、これに業を煮やして、九九年七月三〇日、同じ定期借家制度導入のための法案を「良質な賃貸住宅等の供給促進に関する特別措置法案」と衣替えして提出し、法務委員会を回避して建設委員会で審議させようと図った。このため、前の借地借家法「改正」案は九九年通常国会で廃案となった。
政治情勢は、自・自・公の連立が成立し、盗聴法を初めとして自自公で何でもやってしまおうという状況に至っていた。その結果、世論の大きな反対の声にもかかわらず、「良質な賃貸住宅の供給の促進に関する特別措置法」は、最終的に九九年一二月九日、参議院本会議で可決成立した。
このような成立に至るまでの推進側のなりふりかまわぬ強引な手法は、現在の政治情勢を如実に表していた。また、推進側の制度導入の説明は、弱者を切り捨てて際限なく経済的利益を追求しようというアメリカ流の価値観を臆面もなく示した。
二 政治情勢の激動、豹変
もともと借地借家法「改正」案は九八年六月、当時の与党であった自民・社民・さきがけの議員により議員立法として提出された。当初これに反対していた社民法務委員の議員は非常に苦しい立場に追い込まれていたが、その後社民が連立から離脱し、反対の姿勢を明確により鮮明にすることができた。ここで、この法案に対しては、共産、社民は全体として、民主、公明は法務委員を中心にこぞって反対することとなった。野党法務委員の議員は反対集会にもたびたび出席して法案阻止の決意表明をした。その結果、この法案は法務委員会で塩漬け状態になり、継続審議が繰り返されることになった。
ところが、自・自・公連立が成立するとともに、急遽、「良質な賃貸住宅等の供給促進に関する特別措置法案」が提出されたのである。驚いたことにこの提出議員には、それまで反対集会にもたびたび出席していた議員が名前を連ねていた。盗聴法のときとほぼ同一の経緯をたどることになったのである。
さらにこの推進側の手法の特徴は、法務委員会を回避するために既に提出され法務委員会にかかっていた法案を廃案にし、この新法案を建設関係法案に衣替えして建設委員会に付託させようとしたことである。実は、民主党議員のなかでも建設族議員はこの法案に賛成していたという事情があった。ここには、この法案を経済学者が推進し、法律家・法学者が反対していたという図式がそのまま当てはまっていた。このように自己の有利な委員会を利用してなりふりかまわず法案を通過させようという手法は、国会のルールをも無視するものであった。
三 法案の内容
無条件で定期建物賃貸借が認められ、正当事由の適用は排除されることとなった。
しかし、批判を回避するために、
ということになった。加えて参議院では、賃借人に対して不当な権利侵害がなされないよう一一項目にわたる付帯決議がなされた。
しかしながら、既存の営業用賃貸借については、合意解約して切り替えることも自由とされていることに注意しなければならない。今後この部分での紛争が最も懸念される。
さらに重要なことは、施行期日が二〇〇〇年三月一日からとなっていることである。来春の転勤時期にまにあわせようというわけで、周知徹底期間などないに等しい強引なやり方である。
四 闘いの教訓と今後の課題
当初の法案を長期にわたり阻止し続け、推進側がなりふりかまわぬ方法をとるしかないという状況にまで追い込んだことは、運動の大きな成果である。賃借人の保護のために衆議院では九項目、参議院では一一項目にわたる付帯決議をさせたことも注目されると考える。
しかし、反対運動は、居住者団体からなかなか広げることができなかった。そのためか、今回の法案では、零細業者に対する配慮は全くない。古いビルの建て替えのため、特に零細業者に対する契約切り替え、立ち退きの要求が強まるものと予測される。
今後の課題は、この定期借家により賃借人が不当な権利侵害を受けないよう情報を提供し、監視することである。施行までの期間が短いこともあり、緊急に、普通借家と定期借家の違いを一般国民に知らせ、さらに不当な契約切り替えなど定期借家制度の濫用から自己を守れるような情報を提供する必要がある。
ちなみに、定期借家推進の最先鋒であった森ビルの社長と何人かの学者が、今度は「司法改革フォーラム」なる組織に入り込んで、財界側の司法改革を推進しようとしている。看過しえない動きであり、彼らの実態を解明していくことも必要なことであろう。
警察問題委員会 委員長 宮 川 泰 彦
昨年はかつてなく国民の関心が警察に寄せられた年
神奈川県警本部長をトップとする県警幹部が外事部警部補の覚醒剤取締法違反事件を組織的に握りつぶした事件は、犯罪を捜査する最高責任者が犯人隠避罪で起訴されるといった事態を招き、昨年はいやが上にも警察の不祥事・腐敗が国民の関心を集めた。神奈川県警の腐敗・不祥事は警察全体の問題であること、警察の不祥事の背景には秘密体質などがあることが多くのマスコミでも指摘された。
昨今の警察不祥事の特徴
従来から警察の不祥事はあった。従来の不祥事は、「職務熱心の余り」、「飲酒の上での不始末」、「暴力団との癒着の結果」などの事犯が多かったように思う。昨今の事件は、押収品のネガフィルムに写っていた女性にフィルムの買い取りを迫る、捜査に藉口して情報を収集する、収集した個人情報を業者に提供するなど、警察官の職務に関連した不祥事、業者と癒着した不祥事が目立つ。勿論、元県警本部長が在職中の事案について被告人となったのは前代未聞。
いろいろと指摘されている腐敗・不祥事の背景
「警察の秘密体質」が共通して指摘されている。たしかに、警察の秘密主義は警察の威信保持・治安維持に支障が生じる危険を呼び起こさないためとして徹底されている。不祥事についても同様。警察に傷がつくからだ。神奈川県警作成の九一年のマニュアルで、警察官の不始末が発見された場合の処理について「直ちに幹部に報告する。なるべく外部に発覚しないように処理する」旨が記載されているとして問題にされたが、他の県警における幹部登用試験の「県警警察官の不祥事が発覚した場合どのように対処すべきか」との問題に対する模範解答は、「マスコミに知られないように。もし知られている場合は、反省と謝罪を含んだ適切な対応をとる」と記載されているように、不祥事は徹底的に隠すのが警察の「模範的」な基本姿勢と言える。
不祥事を隠すのは警察の威信を保持するためだけではない。警察特権官僚の保身のためでもある。警察は、約二二万人の警察官の内、約五〇〇名の一握りのキャリアによって上命下達の運用・人事が実行される徹底した階級序列の組織であることは周知の事実である。キャリアは署長などの職を歩き出世をしていき、部下の昇進にも心を砕くとのこと。キャリアの署長在任中に警察署での不祥事が発生・発覚すればキャリアの出世に傷をつける。部下が不始末を犯せば監督責任もあるが、自分を支えてくれた部下の昇進にも傷がつく。警察は、このような徹底した階級序列社会のもと、保身と昇進の障害とならぬよう不祥事を隠す体質になっていると指摘されている。
警察官の不祥事・犯罪行為との関連で警備公安警察の存在が指摘されている
神奈川県警と警察庁の警備公安の組織による共産党国際部長宅電話盗聴事件に端的に見られたように、警備公安警察は普段から違法あるいはダーテイーな調査を繰り返している。非合法活動を行う四係も存在する。さらに警備公安組織は徹底した秘密主義であり且つ徹底した中央集権的組織である。この警備公安警察の部署の捜査費は潤沢、昇任も早いなど、警備公安警察は警察全体を人事、予算の両面で支配していると言われている。違法行為を秘密裏に行うことの多い警備公安警察主流の体質は警察官の職務についての清廉性を失わせる。
警察官には、団結権もなく、徹底した階級社会のもと人権保障も極めて不十分であることはこれ又周知の事実である。自身に人権がない者には市民の人権を擁護するために邁進する姿勢は生まれ難い。警察内部で人権を尊重する風潮も薄れる。厚木署集団警ら隊の新隊員が集団暴行を受けたり陰毛を焼かれるなど辱めを受けた事件は、仲間の人権を重んじるかけらもなく、人権を侵害されてもそれを告発する状況にない実態が見て取れる事件である。
右の指摘は概ね異論ないところと言って良い。
二〇〇〇年 団と団員は、警察の改革を求める運動に立つ年
国民は、警察をどう評価するかの違いはあっても、警察の不祥事を許さない点では一致した認識である。不祥事を誘発するような警察の体質を改めることでも一致している。警察庁も国民のこの声に耳を傾けざるを得ない立場にある。
しかし、このまま改革の進捗がなく時が推移していくと、外部の声には耳を傾けない警察の本性に逆戻りする危険もある。
警察を管理する公安委員会に本来の役割を果たせるような法体系の整備・公安委員人選の民主化、公安委員会・警察を情報公開の対象とする、警察に外部監査を導入する、警察特権官僚(キャリア)の官僚統制と警備公安優先の体制をあらため、警察官に対する人権教育を実施する、等々を求める運動を全国各地で起こす年にしよう。