大阪支部 藤 木 邦 顕
七月一三・一四日の両日、ハインズ氏を広島と大阪に案内し、一四日、大阪では嘉手納基地訴訟弁護団の会議に出席してアメリカ政府相手の訴訟の可能性について論議に参加してもらいました。
私は、ハインズ氏の来日をかなり以前から知っていて、できれば大阪での企画が組めればいいなと思っていましたが、当時私は、総選挙をめざして比例近畿ブロックと大阪九区の候補者活動の真っ最中で、とても余裕がありませんでした。そのため、総選挙後、すなわち私が落選してフリーになった後に急遽組んだ企画となってしまい、広島や大阪の嘉手納弁護団のみなさんには、大変ご迷惑をかけてしまいました。
ハインズ氏とは、私が破産管財人をした事件で、一九九八年に破産会社の売掛金回収の依頼をしたことがあります。九八年の国際法律家協会の訪米団にのっかりながら、ペンシルバニアの田舎まで一緒に交渉に出向いた事があり、今回の案内でお返しができたと思っています。
広島は、ハインズ氏の希望で日程を入れました。私も実務修習で配属されていた土地でしたので、平和記念資料館、原爆ドーム、平和公園などを一通り案内をしました。また、彼が日本の法廷を見学したいと述べたので、広島地裁での刑事法廷を少しだけ傍聴しました。事件名をみると暴力行為等処罰に関する法律違反とあり、傍聴していた多数の人の人相風体からしても暴力団がらみの事件のようでしたが、法廷の雰囲気がわかればいいとのことであったので、少しの間入ってもらいました。彼は、裁判所の入口と法廷の入口での金属探知器もなく、平和な雰囲気であることと、証拠の同意および証人採否をめぐるやりとりについて、速記が入らないことに驚いていて、アメリカでは、裁判官はこれほど信用されていないと感想を述べていました。
資料館などや原爆ドームを見学した後、広島の弁護士会の平和問題についての取り組みについて、廣島敦隆、坂本宏一、池上忍、下中奈美の各弁護士と交流し、廣島・下中弁護士とは夕食もともにして、陪審制や法曹養成にまで幅広く懇談することができました。
大阪では、嘉手納基地訴訟の弁護団会議が行われている機会でしたので、同弁護団の佐井孝和、長岡麻寿恵両弁護士の通訳でアメリカ政府の主権免除の主張を越えて応訴せざるを得ないように法律構成する途はないかの検討をしました。ハインズ氏は、この問題の検討については乗り気で、アメリカでの訴訟の可能性、軍隊の行動であっても不法行為の損害賠償責任を負わせる制定法の調査をすることについて積極的な提案をしています。彼は、グレナダ侵略問題で、一部の連邦議会議員の代理人となって、アメリカ政府が議会の同意無く戦争行為を行ったことについての差止請求を手がけたこともあり、今後平和関連の法律問題について、日米で具体的な検討をする際には有力なブレーンとなってもらえることでしょう。一一月にはNLG大会もあります。アメリカの進歩的弁護士との交流をさらに広げたいと思います。
北陸支部 菅 野 昭 夫
団通信の本年七月二一日号に、志田なや子さんが、「アメリカの公設弁護人について」と題して、昨今のアメリカでDNA鑑定の結果死刑事件について冤罪が次々と明らかになっていること、冤罪を生み出した原因のひとつに公設弁護人(公費選任弁護人)の不適切で不十分な弁護活動が指摘されていることを述べられている。私も、たまたま、インターネットを通して、最近のニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポストなどの新聞報道から、死刑事件について、以下の様な疑問が最近提起されていることを知ったので、補足したい。
その第一は、イリノイ州で、死刑の執行が全面的に停止されたことである。即ち、全米でDNA鑑定の結果多数の死刑事件の有罪認定が覆る中で、イリノイ州でも、死刑を言い渡された一三人もの死刑囚が、新証拠によって次々と有罪を破棄され無罪となった。
そのため、同州のジョージ・リアン知事(共和党員)は本年三月に死刑執行についてモラトリアムを発し、死刑執行を全面的に停止することにしたのである。
この動きは、保守的なことで有名なニューハンプシャー州に飛び火し、本年五月に州議会は死刑を廃止する法案を可決した。しかし、ジャンヌ・シャーレン知事(民主党員)は拒否権を発動している。
その第二は、テキサス州のゲイリー・グレイハム死刑囚の死刑が、世論の反対を押し切って六月二二日に執行されたことである。グレイハムはスーパーマーケットに押し入って白人男性を射殺したとして、一九八一年五月に逮捕され、陪審裁判により有罪となり、死刑を宣告された。当時彼は一七才で、精神病院の入退院を繰り返していた。有罪認定の唯一の証拠は、彼が現場から逃走した犯人に間違いない旨の、一人の女性によるいわゆる同一性識別証言であった。しかし、彼女は走っている犯人を三〇〜四〇フィート離れた自動車の窓越しに夜間見たにすぎず、彼を識別するためのラインアップは不公正に誘導的に行われていたことが後に判明した。加えて、当時現場付近にいた他の二人の目撃者は、逃走した犯人はもっと背丈が高い人物であり、グレイハムではないといっていた。また、弾道学的証拠によれば、逮捕の際にグレイハムが所持していた拳銃は、被害者を殺害した拳銃ではないことも明らかであった。
このように、全証拠を総合すれば、彼を有罪とすることには合理的な疑問が残ると言うべきであるが、陪審裁判でグレイハムの弁護人(当該の郡は公設弁護人の制度を持っていなかったため、ある弁護士が裁判官の任命によって公費で弁護人となった)は、驚くべきことに、文字どおり何の実質的な防御活動も行わず、同一性識別証人の信憑性の弾劾や無罪証拠の申請を一切しなかったのである。
こうして、グレイハムの死刑が確定したのであるが、彼にとって、もうひとつ不幸なことは、死刑執行の権限を有するテキサス州知事が、アメリカ大統領候補のジョージ・W・ブッシュであったことである。ジョージ・W・ブッシュは、アメリカの州知事の中でも誰よりも死刑の執行に熱心な人物であり、テキサス州はアメリカで最も多くの死刑執行がなされている州のひとつである。全米のマスコミは、グレイハムが当時少年で精神能力にも疑問があったこと、彼を有罪とした陪審員の評決には前述の瑕疵があることから、死刑執行は正義に反するとして、この事件を大きく報道した。しかし、これらのごうごうたる批判にも関わらず、ジョージ・W・ブッシュは断固として死刑を執行し、その日の記者会見で「グレイハム氏は既にアメリカ憲法上の権利を十分に行使する機会を与えられた。氏に神の祝福のあらんことを」と述べたのである。
第三の動きは、死刑事件について大規模で説得的な研究が公表されたことである。即ち、コロンビア大学のジェイムズ・リーブマン教授らによる調査・研究である。同教授らは、一九七三年から一九九五年までに死刑が言い渡された四五七八件の刑事事件を追跡調査し、その結果を六月一二日に発表している。これによると、これらの事件は上訴の結果、州裁判所の上訴審または連邦裁判所によって、原審の審理に何らかの瑕疵があったことが認められ、その六八%もの事件が破棄された。そして、再審理においては、その七%が無罪となっている他に、実に七五%もの事件が司法取引や裁判官の命令により死刑を減刑され、より軽い刑を科されている。残りの一八%は有罪となり再び死刑を言い渡されたが、再度の上訴の過程でその少なからざる事件が有罪を破棄されている。要するに、死刑を宣告された事件の大多数は、有罪認定においてか量刑において、変更を余儀なくされているのである。
同調査は、上訴審によって認定された原審の瑕疵を分類しているが、それによると、原審弁護人の不適切不十分な弁護は三七%にも昇っている。警察官または検察官が無罪証拠を隠すなどの違法行為を行ったのは一九%、裁判官または陪審員の偏見は五%、裁判官の陪審員に対する違法な教示が二〇%、他の一九%は陪審員の構成が人種的に不公正に行われたとか、警察官が証拠を捏造したなどであった。これらは、無罪を非難する人がよく言う「たんなる技術的理由」などでは決してないと、同教授は言っている。
同調査は、死刑が多く言い渡されていたり執行されている州の殺人事件の発生率は、他のそうでない州のそれと何ら変わらず、他の各種の統計からも、死刑と殺人の発生率には何らの相関関係も認められなかったとしている。
同調査が公表されてから、その論評が紙面を賑わしているが、そのひとつとして、これだけ多くの頻度で瑕疵が発見されているにもかかわらず、上訴審が原審の瑕疵のすべてを発見出来ているわけではなく、むしろ見逃している事件も相当数あるという点は、識者の多くが指摘していることである。その例証となるのが、イリノイ州のアンソニー・ポーターの事件であった。彼は有罪認定を受け死刑を宣告されてから、上訴して争ったが、原審の審理過程には瑕疵はなかったとして斥けられ、死刑が確定し、四八時間後に執行という段階で、彼の知能指数が五〇に過ぎないという心理学的調査で死刑の執行が停止され、新たな調査で無罪証拠が見つかったばかりか、真犯人も判明して、彼の無実が明らかとなった。この事件は、前述のイリノイ州ジョージ・リアン知事にモラトリウムを発せさせた一三の冤罪事件のひとつである。
リーブマン教授らの調査は、一見多数の冤罪が州または連邦裁判所の上訴審で救済されているような印象を与えるかもしれない。しかしながら、同調査は前述のとおり一九九五年までに死刑が言い渡された事件に限定されており、今日のアメリカでは、これらの上訴審で原審の有罪認定を破棄し再審理を勝ち取る事は、著しく困難となっている。
アメリカの刑事手続きでは、州レベルの原審で陪審員または裁判官により有罪と認定されると、まず州の上級裁判所に上訴することとなるが、州裁判所の上訴審が不成功に終わり、州裁判所における上訴手続きを使い果たした後、連邦裁判所に対し人身保護令状の請求をなすことが出来る。この手続きは、一九五〇年代から六〇年代の公民権運動の中で確立した方法であるが、要するに被告人の憲法上の権利を侵害して州裁判所の有罪認定が行われ身柄が違法に拘束されている旨主張する手続きであり、もっぱら原審審理手続きの憲法的瑕疵を争点とする。そして、一九九六年にクリントン政権は効果的死刑法という名の新法を制定し、これによると、死刑を言い渡された被告人は連邦裁判所への上訴期間を一八〇日と制限され、連邦裁判所は州裁判所における事実認定を真実と推定することが義務づけられ、原審に憲法的瑕疵があってもそれが不合理でない限りは不問としなければならないなどの制限を科した。これによって、死刑事件が連邦裁判所で勝訴することは困難となり、今や、弁護人は州の上級裁判所での上訴に望みをかけざるをえないが、もともと州の上級裁判所の裁判官は原審の事実認定に介入することに非常に消極的である。
死刑制度についての最新の世論調査の結果は、今だなお支持が圧倒的多数であるとはいえ、絶頂時(一九九四年 八〇%)より顕著に下がって六六%と、一九七八年以後最も低い数値となっている。死刑事件についてのこうした最近の動きは、この国の刑事司法のダイナミズムを象徴し反映している。(この小文は、NYタイムズ 6/10,6/12,6/19,6/30号及びワシントンポスト6/12号によっている。)
幹事長 鈴 木 亜 英
国際問題委員会委員長 菅 野 昭 夫
ナショナル・ロイヤーズ・ギルド(NLG)は自国の経済・軍事の対外侵略と闘い、国内にあっては様々な人権侵害や経済的圧迫と取り組んでいます。自由法曹団とはすでに一〇年に亘って深められた法律家の国際連帯を通じて日米間の諸問題についても協議・共闘する関係になっています。
このNLGの総会が今年はマサチューセッツ州ボストンで開かれます。自由法曹団は今年もこの総会に参加して交流を深め、共通の課題を探ろうとかんがえています。
そして、この折りに陪審法廷を傍聴し、アメリカの法律家が自国の司法制度をどうみているのか、具体的な例を通して話し合う企画を作りました。
陪審制度は国民の司法参加のあり方をめぐって司法改革論議のひとつの焦点となっています。陪審の是非をこの眼で確かめ、刑事弁護を闘う弁護士の眼にアメリカの陪審や公設弁護人制度がどう映っているかを聞きたいと思います。陪審法廷はボストンのほかもう一州の都市のなかから選ぼうと考えています。
日程は一〇月三〇日(月)成田空港出発、一一月七日(火)帰国予定です(関西空港利用の方が多い場合には別便出発もあり得ると思います)。
また、同地はアメリカ独立戦争当時の史跡の豊富なところであり、楽しい観光地も日程に取り入れる予定です。
この企画に参加し、是非一緒にアメリカに行きましょう。
参加資格、人数制限は一切ありません。英語能力も気にしないでください。どしどし御応募ください。今から手帳に日程をご記入ください。
費用はできるだけ安くするよう格安チケット購入を含め検討中です。従って添乗員はおりません。参加するみなさんで旅を作りましょう。
東京支部 今 村 幸 次 郎
東京都は来る本年九月三日に陸海空三自衛隊と合同して総合防災訓練「ビッグレスキュー東京二〇〇〇〜首都を救え」なるものを行うことを計画している。本年四月に公表された計画概要によれば、自衛隊員が数千名規模で参加し、未開通の都営地下鉄線による部隊進出訓練や自衛艦による進出・上陸訓練等を行うとのことであり、自衛隊の活動が異常に突出したものとなっていた。ご承知のとおり、石原知事は本計画発表に先立つ四月一二日陸上自衛隊の記念式典において、いわゆる「三国人」発言をしており、騒擾等に対して軍隊としての自衛隊を積極的に活用する考えを明らかにしていた(知事は「三国人」発言の中で自衛隊を「国家の軍隊」と呼んでおり、六月の定例議会の施政方針演説の中でも、原稿では陸海空の「三自衛隊」となっていたのを敢えて「三軍」と読み替えている)。
本訓練の真の目的が自衛隊の軍事プレゼンスを広く内外にアピールすることにあるのは明らかで、石原知事の日頃の国家主義的、改憲論的言動をもあわせ考えると非常に危険な動きであると言わざるを得ない。東京支部としては、このような「三軍統合演習」に待ったをかけるため、六月二七日知事宛に公開質問状を出して、本訓練における自衛隊の活動の実態、本訓練の真の狙い等について回答を迫った。東京都の回答は予想どおり、大規模直下型地震発生時の人命救助訓練が目的であるという「建前」論に終始するものであったが、訓練内容については、本訓練が住民不在の「自衛隊による自衛隊のためのもの」であることが一層明らかとなった(戦闘機による偵察訓練、二五〇メートル規模の架橋訓練、銀座における部隊の行進等が企画されていることが明らかとなったほか、航空自衛隊による空挺降下訓練等市街地における実戦的演習項目が広く検討されていたという)。
東京支部は右回答を踏まえて七月二四日東京都に対し、@三国人発言の撤回及び謝罪、A9・3統合演習の中止、B震災予防条例「中間まとめ」の見直しを求める要望意見書を提出し、さらに、八月一日には都内の民主団体及び労組(合計三八団体)と共同して「三軍統合演習」の中止を要請した。
右要請に対して東京都は、本訓練の計画を見直す考えはないことを既に明らかにしており、東京支部としては、前述の民主団体等と連携して、九月三日当日の監視行動を企画している。国政に関しても積極的に発言し最近何かと注目を集める石原知事の国家改造・改憲策動に歯止めをかける意味からも、当日の監視行動を大きく盛り上げていきたいと考えている。近隣の団員の皆様も是非ご参加下さるようお願いする次第である。
東京支部 中 野 直 樹
福岡支部 椛 島 敏 雅
愛知支部 尾 関 闘 士 雄
東京支部 萩 尾 健 太
「なぜあのとき、胸ぐらをつかんで罵倒してやらなかったのか。」
慚悔の思いが胸を塞ぐ。
昨年一〇月の自由法曹団総会のおり、国労副委員長の上村氏が、壇上から来賓として挨拶の辞を述べた。彼はその後も、総会に参加していた。
既に国労執行部は、今日の事態につながる運輸省案での「人道的解決」へ向けて動き出していた。上村副委員長がその推進役の一人だと言うことを、知っていながら、私はなぜ、彼を放置してしまったのか。
国鉄闘争は、独り国労のみのものではない。当該には全動労もあるし、支援共闘始め多くの支援者・支援団体に支えられてきたものである。
のみならず、今日、産業再生法、会社分割法制で政府がリストラ「合理化」を後押しし、「国鉄方式」によるリストラ合理化が中小企業にまで持ち込まれてきているのである。
国労が「国鉄方式」を適法と認めることの影響は、極めて甚大である。
さきの全労連大会では、JRに法的責任があることが明瞭に宣言された。
しかし、当事者である闘争団の反対を切り捨ててまでして、国労は八月二六日の臨時大会続開大会で「四党合意」の受入を決めようとしている。
まがりなりにも戦闘的労働組合とされてきた国労が労働官僚どもの手によって御用組合へと醜く転落していくのを私たちは黙認するのか。自由法曹団は、黙認するのか。
JRに、不当労働行為による法的責任があることは明らかである。
しかし、そのとき、自由法曹団には、責任はないのか。