二一世紀あけましておめでとうございます
新年のあいさつ
団長 宇 賀 神 直
団員の皆様、二〇〇一年明けましておめでとうございます。
いよいよ二一世紀を迎えました。団員の皆様には新たな感慨で新年を迎えたことと思います。二一世紀までにということで追求した課題が多くありました。しかし、日本と世界の平和、核廃絶の課題を含め、日本の政治、経済、社会、文化などあらゆる分野で二一世紀に持ち越されました。これらを二一世紀の早い時期に解決して平和で明るい世の中をつくるためお互いに努力をしたいと思います。
今年は司法の民主化「司法改革」と憲法問題、現実の裁判事件の勝利に向けての闘いなど、わが自由法曹団として取り組まなければならない課題があります。
衆議院、参議院の憲法調査会の調査審議が進んでおり、第九条を中心にして具体的な改悪の意見が出ています。それに対応するわれわれ側の取り組みが弱いのが現状です。憲法会議などの団体や個人と共に憲法問題を各地で取り組むことが求められています。国会の調査会の審議情況の学習会や憲法に照らして平和、国民の人権、国の政治のあり方がどのようになっているか、その実態を告発し、憲法を守る無数の集会を全国で開きたいと思います。
司法改革は本年六月に司法改革審議会の最終答申が出されますが、昨年一一月の中間報告に対し、われわれが批判した問題点が改善され、最終答申に書き込まれるように司法改革審議会に向けて世論を高める必要があります。また、最終答申の実現のための法案の国会提出と審議に向けたわれわれの側の取り組みも大切です。自由法曹団と団員は今年の最重要課題として司法の民主化、司法改革に力を注ぎましょう。団内の討議が進み、司法改革審議会をどうみるか、中間答申の評価出来る点は何か、何が問題か、どの方向で検討が必要か、それを踏まえて今後最終答申に向けて何を司法改革審議会に訴えていくか、その世論の盛り上げなどについて、大きな点で団内の意思統一が出来たと思います。あとは昨年の総会、一二月の常任幹事会で決められた行動方針・運動方針を全国的に実践することです。この問題については日弁連の役割は特段に大きいものがあります。団員は日弁連、各地の弁護士会の中で活動して私たちの目指す司法改革の実現のために努力しましょう。
労働事件裁判は勝利したのもありますが、敗訴事件が増加しています。裁判所が悪いのは間違いありません。だから、司法の民主化「司法改革」を実現しなければなりませんが、それを待っているわけにはいかない。勝訴と敗訴の原因を分析して勝訴するためにはどのような裁判闘争を展開するか、その集団的討議が必要です。団本部としては早い時期にその研究・討論の集いを行いたいと思います。
法曹人口の大量増員を迎える二一世紀です。人権と自由、平和と民主主義を守る弁護士、即ち、私達の後継者をつくり育てる役割は極めて大切です。大変ですがこの面でも大いに努力しましょう。
今年は団創立八〇周年を迎え記念すべき年です。老、中、青、各地の団員が力を合わせて団員が担うそれぞれの課題をやりましょう。
最後になりますが、忙しい中にも文化的とまでは行かなくてもそんな雰囲気も持ちたいですね。団通信の最後のページは文化欄として詩、短歌、エッセイを載せることにしたらと思いますが如何ですか。団には多くの詩人歌人がおります。進んで投稿して下さい。
皆さん、健康にも注意しましょう。煙草、お酒はほどほどに。それでは、お元気で今年も楽しく愉快にやりましょう。
明けましておめでとうございます。
一 前途多難の森改造内閣が発足しました。短期政権必至のこの内閣でも、そしてそれをひき次ぐ新政権でも国民無視の政治と悪法の策動はつづくのでしょう。私たちが取組むべき課題は山積するでしょう。
一〇月の二〇〇〇年富山総会での討議を経て一一月常幹でこの一年の主要な課題を次のように整理し、確認しました。
- 国民とともに司法の民主化を実現する課題
- 憲法の明文改悪、新ガイドライン具体化・有事法制反対の課題
- 大衆的裁判闘争の実践の課題
- 労働問題の課題、リストラ、職場での人権侵害の問題
- 介護・年金等国民の福祉の増進のためのたたかい
- 国際活動の引き続きの発展、強化の課題
- 自由法曹団八〇周年記念事業
- 団員の拡大強化に組織的に取り組む課題
これら諸課題に「闘う団体」としての自覚のもとに団結を強めて実践的追求をしてゆきたいものです。
二 昨年一一月二〇日、司法改革審は「中間報告」を発表しました。そして、本年六月一二日を目途に最終取りまとめを行うことを予定しています。団の立場は、団長声明、団意見書に集約されていますが、それを基本にこの半年間は国民のなかに入り、国民とともに要求をねりあげ、官僚主義的裁判を改革し、真に国民に役立つ民主的司法の実現をめざして大運動に猛進する必要があるのでしょう。
司法に国民の風を吹かせよう。各戦線分野の仲間と共同して、中央レベルで、そして地方レベルでも司法の民主化の風を大きく吹かせてゆくことが重要となっています。
一方、憲法をめぐる情勢も緊迫してくるでしょう。道筋が明瞭であると思っていた憲法論議もにわかに複雑化してきています。多様な議論が出てくることが予想されます。大いに議論し、そして何よりも大いに運動する必要があるのでしょう。闘いとこれに依拠した国民的議論の深まりのなかで正しい方向性が示されてくるのでしう。
国民的討議に基盤をおいた団内での民主的討議の積み重ねの重要性が痛感されます。
今年は、憲法問題でも司法の民主化問題に劣らず壮大な国民的運動の構築が期待されています。
のんびりと正月を、という気分ではないのでしょう。また、今年一年、大いに頑張りましょう。
一 湾岸戦争の指導者チェイニー氏、パウエル氏が米新政権に登場した。ブッシュ政権の動向は注目を要する。だが一〇年前と違うのは、アジアと世界の反核、平和、対話の流れである。平和の流れに逆行する改憲策動や沖縄基地。河野外相は「緊張緩和の動きはあるが、不透明性がまだ残っている」「朝鮮半島でノドンの配備や兵力が変わってない。敵対意思は減ってるかも知れぬが、不透明で、現実に見えない。アメリカ・韓国の態勢、陣形も変わってない。」(一一・二八参院外交・防衛委員会)という。平和外交の意欲もない。九条改憲や沖縄新基地の説明にもならない。改憲推進論は大きな弱点を包蔵している。
二 参院選を前に、各党は、憲法問題の態度表明を避けられない。自民党のほか、野党の一部でも時代逆行の改憲論・集団自衛権論が叫ばれる。その対極に立って、二一世紀にむけ、憲法九条完全実施、自衛隊段階的解消の大筋を練りあげた日本共産党大会の提起と討論は鮮明で力強い。ことしは憲法問題の関心が広がる。
三 沖縄反戦地主弁護団(沖縄、東京、大阪、福岡の弁護士で構成)は、ここ二年来、安保条約違憲論の再構築の作業を積み重ねている。一九五九年一二月一六日砂川事件大法廷判決の壁を打破る理論構築である。大法廷の安保合憲論は「@在日米軍は日本の防衛力を補うもの。A在日米軍は集団自衛権を濫用することはない」という。四一年前のアジア情勢や米軍・自衛隊の姿を前提にしている。脆弱な前提にたつ判例を、今なお平気で援用する政府の立論は見逃すわけにいかない。
四 司法制度改革審は、一月から弁護士制度、裁判官制度の討議に入るが、この機会に六九年の長沼裁判への介入干渉をよく調べ、このようなことを将来の日本の司法で絶対に繰り返させないことを確認すべきだと思う。長沼裁判では、地裁所長が裁判長へ直接干渉した。そのことを公表した裁判長に対して最高裁が注意処分を科した。国会の裁判官訴追委員会は裁判長を呼び出して自民党議員らが尋問した。政府(法務省指定代理人)は裁判官の忌避を申し立てた。裁判長は異常な圧力に屈せず国民の共感のもと七四年九月自衛隊違憲判決を下した。その後、裁判長に対して差別的人事。権力総動員の執拗な裁判干渉と、跳ね返して裁判独立を守った闘いの歴史は司法制度改革の中で大いに論じられてよい。
あけましておめでとうございます。
昨年は、司法改革をめぐる激しい論議の年となりました。団内でも、渡辺治教授が指摘する「司法改革をめぐる民主的運動内部の分岐」(法律時報七二巻一二号)がみられたことは事実です。
しかし、一〇月常幹での意見書採択、富山総会での行動方針の決定、法曹人口・ロースクールをめぐる一二月の徹底討論、一二月常幹での司法改革審議会中間報告についての意見書の採択などを経て、団内での活溌な討議のなかで、団としての意見は、大筋においてまとまってきたといってよいでしょう。
第一は、中間報告の「司法制度改革の基本的理念とその方向」は、資本のグローバル化に即した政策として、政治・行政改革など一連の諸改革の根底に流れる基本的な考え方を受け継ぐ最後の要として司法改革を位置づけています。これは、自由と人権の確立を目指す団にとっては、到底是認しうるものでありません。中間報告にちりばめられている美辞と、理解不能の表現に惑わされることなく、改革審の理念と方向を徹底して批判していかなければならないでしょう。この点では、正に主権者たる国民が「国のかたち」をどう構築していくのかという政治課題と切り離しがたく結びついているものです。
第二は、司法制度の改革の方向を定めるにあたって、中間報告は、日本の司法の実態、裁判の現状に関し、事実に基づく論証を全く欠落させていることについて、徹底的に現場からの事実に基づく批判を集中していくことです。民事でも、刑事でも、どんなに多くの国民が司法に失望し、落胆させられてきたことでありましょうか。司法が国民に信頼されていない根源的理由は、違憲立法審査権を持ちながら司法判断が行政に追随し、裁判官の独立が保障されていながら官僚的統制の鎖で裁判官を従属させていることにあるのです。
裁判の現場からの実証的批判と、そこから生まれてくる制度要求の組織化は、団と団員にとって最も得意とする分野であるはずです。宣伝、集会などあらゆる活動形態を通して、この春まで改革審に向けて批判を集中していこうではありませんか。
第三は、法曹人口とロースクールの問題については、観念的論争を続けるかぎり、賛否両論の溝は埋まらないでしょう。年間三〇〇〇人程度の新規法曹の確保を目指すという中間報告には、吟味検討しなければならない多くの課題が未解決のままとなっています。ロースクールにしても同様です。中間報告の余りにも不完全なシミュレーションを徹底的に批判するという点では、賛成・反対の両者を包含した共同の作業として当面進めていくことができるのです。中間報告のごとくに「まず結論ありき」という姿勢では、二一世紀の司法に禍根を残すことになるでしょう。
中間報告の提言の積極的部分は確実に実現しなければならないし、到底受け入れられない提言部分は断固反対していかなければなりません。司法の改革の推進と改悪の阻止という、二刀流を使っての行動に向けて、決意を固めなおすときです。
この春までに、司法改革審を大きな国民的世論で包み込む運動を巻き起こす、すべての団員がこの先頭に立つことを心から訴えるものです。
街に人びとの声が溢れ
長野も日本も変わろうとしている
それは豊かな伏流水が
地の底から吹き出すようなものか
一〇〇年の時をかけて
押し止められない程の流れとなり
水門を破り堤防を越え
見る見る広野に向け拡がって行く
もの言えない人びとも
自由に言葉を選び語り出したのだ
身を切る空を正面にし
自ら思い決意し進んで選んだのだ
その声は風の中で翻り
私たちを遙かな未来へといざなう
消えて行く世紀の中に
胸高鳴る感動の日々もあったろう
人間のその尊厳を賭け
最も純粋に常に不屈に闘った人々
私たちは彼らの偉業を
歴史の頁に刻んで決して忘れまい
だが新しい世紀の扉は
私たちの前に広々と開かれている
若者たちは群をなして
声高に臆することもなく前進する
何処までかは知らぬが
歩ける限りは一緒に歩き続けよう
最後は大地に横たわり
轟く足音に耳を傾けるだけでよい
街に人びとの声が溢れ
昨日でも今日でもない明日がある
企業再編型リストラとの闘い その@
「企業再編型リストラとの闘い」経験交流会の報告
担当事務局次長 財 前 昌 和
一、一二月二日大阪で、大阪民法協との共催で「企業再編型リストラとの闘い」経験交流会を行いました(参加者は約四〇名)。テーマは、最近横行している営業譲渡や分社化といった企業組織の再編を使ったリストラ事案に絞りました。参加層は弁護士と争議を抱える労働者や労働組合員が半々でしたが、本多淳亮元大阪市立大学教授、萬井隆令龍谷大学教授、中島正雄京都府立大学教授(当日の助言者)の三人の学者の方々にも参加していただきました。個々の報告についてはそれぞれ原稿をお願いしているので、私の方は要点のみを報告します。
二、基調報告の一つ目は、不動信用金庫事件弁護団の杉島幸生団員(大阪)から営業譲渡と雇用承継についての報告と問題提起。その概要は以下の通り。
- 不動信用金庫事件は、一七億円の債務超過と認定された不動信用金庫の各支店を一二に分割して九つの信用金庫に分割して事業譲渡したケースで、しかも譲渡契約書に「従業員は不動信用金庫において全員解雇する」「譲受信用金庫は雇用を承継しない」との特約がある。
- これまでの裁判例は、営業譲渡の実態を分析して新・旧営業の「実質的同一性」があるかどうか、労働者を排除すべき合理的理由があるかどうかなどを判断した上で、営業譲渡に伴い当然に雇用も譲受人に承継されるとし、または黙示の合意を認定して雇用承継を認め労働者を保護してきた。この点で不動信用金庫のケースは、営業全体が分割して複数の相手に譲渡されている点、一部の労働者を排除したのではなく全員排除である点、雇用不承継特約があり雇用承継の合意を認定することができない点などで厳しい闘いを強いられている。
- 何とか営業譲渡を止めたいと考え営業譲渡禁止仮処分を申し立て(その後取り下げ)、また、譲受信用金庫による団交拒否と組合嫌悪による雇用不承継が不当労働行為に当たるとして、地労委に救済命令申立、地裁に地位確認・損害賠償請求をしている。
- 審理を通じて、不動信用金庫には闘う労働組合があるため他の信用金庫が事業承継を嫌がり、そのため分割譲渡・雇用全員不承継となったこと、雇用全員不承継は預金保険機構の指導によること、一部の譲受信用金庫が秘密裏に元従業員(非組合員)を新規採用していたことなどが明らかになってきた。
- 雇用が承継される理論的構成としては、事業譲渡の前後で事業の実態には連続性があること、従って譲受側は事業に従事していた従業員の雇用を承継すべきである、今回の一連の事態を全体として捉えた場合、雇用不承継特約は整理解雇制限法理を潜脱するものであり公序良俗に反し無効であると主張している。
- しかし裁判所は、どのような事業譲渡契約を結ぶかは契約の自由の問題であり、雇用不承継特約も違法とはいえない、仮に特約が無効でも、譲受側が雇用不承継と明言している以上それと全く反対の雇用承継の意思を認定することは出来ないとし、厳しい状況にある。ここをいかに突破するかが理論的課題になっている。
- 弁護団は、有期契約の更新拒否に関する日立メディコ事件最高裁判決などに見られるように、契約がなくとも法解釈によって雇用関係が成立することもある、法人格濫用によって法人格が否認されなくとも、整理解雇制限法理に違反する無効な特約の成立に深く関与している譲受側は「条理上別法人であることを主張し得ない」(参照―宝塚映像事件・神戸地裁伊丹支部一九八四年一〇月三日判決・労働判例四四一号二七頁)という主張を展開している。
三、営業譲渡と雇用承継の理論的課題に関して、杉島団員から以下のような問題提起がありました。解雇制限法理や整理解雇四要件は、使用者に雇用契約上の付随義務として雇用存続に配慮すべき義務を負わせるものではないか。従って営業譲渡にあたってもできるだけ従業員の雇用が維持されるよう努力すべき義務があると言えないか。そして雇用不承継特約はこの義務違反により無効と構成できないか。譲受側も、雇用の基盤となる営業を取得するものはその一部となっている雇用関係も承継すべき義務を負うと言えないか。例えば借家の所有者が変った場合、家主としての地位を承継する合意がなくても(承継しない合意があっても)、賃貸借関係は一種の状態債務として新しい所有者に当然に移転するとされている。同じような理論構成は営業譲渡と雇用承継での言えるのではないか。
四、杉島団員の問題提起をめぐって、当日参加した学者の方々も交えて議論になりました。中島正雄京都府立大学教授から、会社分割法・労働者雇用承継法の国会審議の際、営業譲渡の際の労働者保護が問題となったが、営業譲渡と雇用承継についての判例が確立しているとの説明がされ規制が見送られた。また、衆院労働委員会や参院労働・社会政策委員会の附帯決議の中に、「企業組織の再編のみを理由として労働者を解雇することができないとする確立した判例法理の周知徹底を図ること。」と入っている。従って営業譲渡の場合にもこれまでの労働法が築いてきた解雇制限法理、整理解雇四要件でふるいにかけることが必要だろうとの指摘がされました。
また萬井隆令龍谷大学教授からは、営業譲渡に伴い当然に雇用が承継されるという考え方が正しいと考えるが、その理論構成である有機的一体性の理論は、昭和二〇年代から裁判所が個別的事案の判断に即して作ってきたものであり、その後学者はそれに乗っかってしまってその理論的進化を怠ってきた。今後はより力強い当然承継説を作らなければならないという問題提起がされました。また、営業譲渡をめぐっては、労働法学会での議論と商法学会での議論とに齟齬がある。商法学会での議論は株主の利益は考慮するが従業員のことが視野に入っておらず、そこでの議論が雇用承継にとって障害になっている。これを何とか克服しないといけないとの指摘もありました。
解雇制限法理、整理解雇制限法理を掘り崩そうという動きが東京地裁などや一部学者の中にあるが、それに対する理論的反撃として、これらの法理の理論的根拠として使用者の雇用継続配慮義務を明確にしようという提起が学者・弁護士の中にもあります。また、経営法曹会議が今年六月に出版した『解雇・退職の判例と実務』(第一法規)の中でも、営業譲渡と雇用承継についての当然承継説に対して「実定法上の根拠について問題がある」との攻撃がされており、当然承継説の理論的進化は必要だと思われます。
五、二つ目の基調報告が、関西航業事件弁護団の鎌田幸夫団員(大阪)からの、親会社や背景資本の使用者性(団交応諾義務、労働契約、損害賠償責任)についての具体的事件を素材にした理論的課題の提起でした。
- 関西航業は全日空の子会社であるOASに専属的に労働者を派遣している会社だが(形式上は下請け)、もともとOASが労働組合対策に元従業員を使って設立した会社であり完全にOASの子会社である。ところがOAS労働組合が関西航業に分会を作ったため、それを嫌悪したOASが、関西航業との下請契約を解除し、それを受けて関西航業は事業閉鎖と従業員七五名の全員解雇を行ってきた。
これに対して、全日空の団交拒否とOASの契約解除が不当労働行為に当たるとして、地労委に申し立て、また、関西航業に対して従業員としての地位確認を求める裁判を提起した。ところが今年五月二六日に地労委は申立を却下し、九月二〇日裁判所も請求を棄却した。
- 地労委は、全日空に対する労組法七条二号の使用者性について、全日空のOAS従業員の業務遂行に対する具体的指揮統率は認めたがそれを越えて労働条件に関わる支配を及ぼしていたとは認められない、全日空がOAS労組などの労働組合からの統一要求に対応して会合を持ったことはあるが団交申入れに応じたことはないなどとして、その実態をあえて無視して否定した。
またOASに対する労組法七条一号・三号の使用者性についても、OASによる関西航業分会に対する脱退工作などの様々な不当労働行為や関西航業に対する経営面や労務提供面における強い影響力・支配力を認定しながら、「この影響力の行使は労働条件の決定までには至っていない」として否定した。
労組法七条の使用者性は、形式的な雇用契約の相手方だけではなく、不当労働行為の原状回復及び将来の正常な集団的労使関係の形成を図るべき義務を負うものが誰であるのかとの観点から拡大されてきたが、この地労委命令は、「労働条件を現実的かつ具体的に支配・決定できる地位」というメルクマールを非常に狭く解釈している。
- 地裁も、OASの関西航業との契約解除の主たる目的を「業務減少が直接の原因である」としつつも「OAS労組及び分会に対する嫌悪が無関係であったとまではいい切れない」と認定したが、「従来の方針を貫いたことに多少の不当労働行為意思が存在しているとしても業務量の増減自体は契約関係の問題であって、法人格濫用の問題ではない」「OASが下請企業に対する優越的地位を利用して業務量を減少させ、そのため下請企業が倒産に至ったとしてもこれは優越した地位を利用したといえても法人格を濫用したものとはいえない」として、法人格否認によるOASとの雇用関係を否定した。
この地裁判決は法人格否認の法理の適用を非常に狭く解釈しているが、単なる形骸化事例と異なり、法人格濫用目的と支配の実態がある本件のような濫用事例ではより広く適用を認めるべきではないか。今後営業譲渡、分社化、会社分割などを利用した不当労働行為やリストラなどの事案で、形式的には別法人に対して責任追及をせざるを得ないケースも増えてくるが、そのような場合に対応し得る解釈が求められる。
六、以上二つの基調報告を受け、同様の事件を抱える弁護団を中心に討論を行いました。
京王バス事件弁護団の尾林芳匡団員(東京)から、京王電鉄が全従業員約三九〇〇人のうち約一三〇〇人が所属する自動車事業部門を分社化して別会社としそこに営業譲渡する、新しい会社に雇用してほしければ労働条件引き下げに応じろ、応じなくても元の事業部門はないので整理解雇だと言う形で労働条件引き下げに悪用されているという事例が報告された。また同弁護団の金竜介団員(東京)からは、このような事例で元の会社に残った場合整理解雇は認められないのではないかと思うがどうかという問題提起がありました。
また同じように工場を閉鎖し営業を別の関連会社に移す、関連会社に雇用して欲しければ労働条件引き下げに応じろという形の攻撃がされた西神テトラパック弁護団の本上博丈団員(兵庫)から、会社に工場閉鎖を断念させ、過去の不当労働行為を謝罪させた完全勝利の事例について報告してもらいました。また職場の労働者から、全労連所属のJMIU支部と連合所属の別の組合とが、最初は過去の対立へのわだかまりから共闘できなかったがその後これでは会社と闘えないと乗り越えたこと、闘いを通じて家族の理解を得ていったことなど感動的な報告がありました。改めて、職場の多数派を組織して闘うことができれば工場閉鎖という困難に思える攻撃にも勝利できると元気が出ました。
その他、日本チバガイギ弁護団の白倉典武(大阪、非団員)や南海観光バス事件弁護団の小林徹也団員(大阪)から事件報告がありました。
七、リストラ事案に限らない労働事件における弁護士の姿勢に関わる発言も相次ぎました。
本上団員からは、弁護団としては仮処分申立などの法的手続を考えたが、それをすると組合が法廷内闘争に手を取られて職場の闘いがおろそかになるのであえてしなかった、団体交渉を最大限に重視し団交でどういう点を追及するのか、団交要求事項をどうするのかについて弁護団も入って一緒になって検討した経験が報告されました。
他方杉島団員からは、不動信用金庫では、なんとか営業譲渡を止めたいと考え、そのための話し合いの場を作ることを狙って営業譲渡禁止の仮処分を申し立てた。結果的には審尋中に譲渡日が来たため取り下げたが、理論的には難しくても運動のために法的手続を取ることはありうるのではないか。また、不動信用金庫では事業譲渡の当事者だけでなく、その背後にいて事業譲渡を指導した大阪府信用金庫協会や預金保険機構までも被告として損害賠償請求をした。紛争解決能力のある相手を相手に闘わないと意味がないので、そのための法的手続を考えて提訴した。その意味では、大胆に法的手続を取ることも必要ではないかとの問題提起もありました。
また尾林団員からは、団東京支部が会社の進めようとしているリストラに対する法的見解を述べた意見書をマスコミに発表し、会社にも申入れを行い、外からプレッシャーをかける闘いを組んだ経験が報告されました。また労働者を対象に何度も学習会をしている経験も話され、大変だがリストラが強行されて後から裁判を起して闘う苦労を考えたら今苦労した方がいい、紛争を予防するためにもっと労働弁護士も関わっていくべきだという問題提起がありました。
それを受けて城塚健之団員(大阪)からも、自治労連弁護団も、職場で問題が起こると直ぐに意見書を作成して当局に申入れをし紛争を未然に防ぐことを重視している、こういう活動スタイルも重要ではないかという指摘がされました。
一連の発言は、弁護士の中に、法的手続を中心に紛争解決を考え職場での闘いについては労働組合任せにして弁護団は関与しないという傾向がないか、判例や実務の現状の枠内で問題を捉えがちになり運動のために大胆に法的手続を活用するという姿勢が弱くなっていないかという問題提起として貴重でした。
また松井繁明団員(団労働問題委員会委員長)から、過去には団は差別事件で数回にわたって経験交流のための会議を持ったが今後もこのような機会を設けて理論的運動的に深めていこうとの提起がありました。また大阪民法協の河村武信副会長(団員)から、どういう裁判を起すのか、起さないで闘うのかは古くて新しい問題。労働者と弁護士が腹をくくって本当にやり切れるかを議論しなければならない。学者などいろいろな力も結集しなければならない。運動の前進との関わりの中でしか展望は開けない。裁判闘争という言葉がいまはやるかどうかは別にして、今の裁判所のあり方を裁判の中で問うていくことと裁判の外でやっていくことをやりきらなければならない。とまとめの発言がありました。今回の取り組みを今後どう発展させていくかについては労働問題委員会で検討していきたいと思いますが、ご意見やご要望がありましたら本部までお寄せ下さい。
─関西航業事件を題材として
大阪支部 鎌 田 幸 夫
一 はじめに
会社分割法施行下で、A社が不採算部門を別会社(B社)化し、その後、A社の経営上の指示でB社がリストラ(雇用調整や賃金切り下げ)を押しすすめたり、B社を廃止し会社解散・全員解雇したような場合に、別会社(B社)に移行された従業員が、元の会社であるA社に対して@団体交渉を求めたり、A従業員としての地位を求めることができるかは、今後予想される重要で深刻な問題である。法的闘争としては、さしずめ@労働委員会闘争での労組法七条の使用者概念の拡張、A裁判闘争で法人格否認の法理等が問題になろう。
そして、先般、私が担当したOAS労組・関西航業事件の地労委決定(平成一二・五・二六)地裁判決(平成一二・九・二〇)は、まさにこれを争点としたものであるが、今後の闘いに大きな課題を残すことになったので、簡単に紹介したい。
二 事件の概要
1 OASは、全日空の大阪以西の地上ハンドリング業務を担当する会社であるが、OAS労組のストのスキャブ要員の確保のために臨時従業員松田陸男に働きかけて、OASの専属の人出し稼業として関西航業を設立させた。ところが、関西航業にもOAS労組の分会ができたため、OASは、関西航業を通じて様々な不当労働行為を働き、平成三年以降は、分会に対してOAS労組から脱退するよう工作を行い、平成七年にはOASの社長以下が関西航業の社長を通じて分会が単組になることが資金援助の条件であるなどと脱退工作を行ったが、分会がこれを拒否したために、OASは、関西航業もろとも分会を壊滅する目的で、全日空に指示された規制緩和・リストラを口実に、平成八年一〇月一八日、平成九年三月末をもって関西航業との契約解除し、平成九年五月二〇日、関西航業は事業閉鎖と従業員全員を解雇したという事案である。
三 地労委闘争について
1 平成九年二月三日、OAS労組は、全日空に対して今回の雇用調整、契約解除の原因となった全日空の合理化計画についての団交拒否、OASに対する関西航業分会員三二名をOASの従業員として取り扱うことを求める内容の不当労働行為申立を行った。
2 争点としては、@全日空、OASの労組法七条の使用者性A契約解除の不当労働行為性である。
この労組法七条の使用者概念については、対外的拡張、すなわち労働契約上の使用者に限定せず、@「親会社と子会社従業員」A「元請・派遣会社と下請・派遣労働」B「取引先と専属的請負契約従業員」などの類型で労組法上の「使用者」性を認める法理が労働委員会命令の積み重ねで定着しており、最近では朝日放送最高裁判決は、Aの元請・派遣会社と下請・派遣労働の類型の事案において「雇用主以外の事業主であっても、雇用主から労働者の派遣を受けて自己の業務に従事させ、その労働者の基本的な労働条件等について雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、その限りにおいて、右事業主は同条の使用者にあたる」(平成七・二・二八、部分的使用者概念)と判示していることは周知の通りである。
ここで、問題となるのは、この最高裁判決の射程距離をどう考えるか、各類型ごとに事案に即した妥当な解決をどう導くかである。
三 前記大阪地労委地労委は、次の理由で全日空とOASの使用者性を否定した。
(一)全日空の労組法七条二号の使用者性については、全日空のOASの株式保有や役員関係、OAS従業員の業務遂行について全日空担当者の具体的指揮統率が存すること、全日空はOAS労組を含めた全日空関連労組連絡会の統一要求に対応して「会合」をもったことはあるなどと認めながら、全日空が合理化施策で関連会社に対する委託費を圧縮し、OASへの発注が削減された事実があっても、規制緩和、競争促進の経営環境の下では、企業経営に許される裁量の範囲内に存し、この措置が「直接に」下請け企業の従業員の雇用や労働条件を決定するものであるとは言えないとした。
この決定の問題点は、全日空のOAS従業員の業務上の指揮監督関係を安全運航のための具体的「指揮統率」などと誤魔化し、関連労組連絡会を通じての集団的労使関係の存在を「会合」などと矮小化していることもさることながら、全日空の合理化プラン(指示)に従ってOASは賃金体系の変更、諸手当を削減、大量の希望退職や転籍を募集に踏み切らざるえず、そのことによってOAS従業員の雇用や労働条件に大幅な影響を与えた事実を全く無視していることである。
そもそも、全日空とOASの関係は、前記「親会社と子会社従業員」の類型であり、親会社が支配株主としての地位ないし役員派遣を通じて、あるいは専属的下請関係を通じて子会社の経営方針を支配決定し、それを介して「間接的」に労働条件を支配したものであり、企業と企業外労働者の直接の使用関係が問題となった朝日放送事件とは事案を異にしているのであって、同様の意味で直接の支配・決定を要求すべきでない。すなわち、親会社が株主としての地位を逸脱して子会社の従業員の労働条件を実質的に決定していると言えるほどの強度の支配力を有している場合は、「雇用主と同視できる程度の現実的、具体的支配・決定」にあたるとして、団交上の使用者性を認めるべきなのである(同旨土田道夫、「企業再編と雇用関係」自由と正義二〇〇〇年一二月号)。
このように考えなければ、会社分割後、背景資本がリストラの方針のみを決定し、分割後の会社がそれに忠実に直接の決定、実行を行った場合、背景資本の団交応諾義務が肯定できなくなるであろう。
(二)OASの使用者性(労組法七条一号・三号)については、決定は、関西航業の設立当初の社長はOASの元臨時従業員であり、OASの専属下請けであり、空港管理規則からすると関西航業の設立はOASの強い関与、指導によること、関西航業の経費のうち九〇%を人件費が占めること、OASは関西航業の借入に際して保証をするなど取引上の優位な立場を利用して関西航業の経営面に強い影響力支配力を有してきたこと、関西航業の従業員がOAS管理者の指示のもと、時としては混在して作業を行い、作業時間・作業内容で画然とした区別のないままに相補って作業を遂行しており、関西航業が業務遂行のための器材を所有せず、職安から派遣法違反で改善勧告をなされたことなどから、関西航業従業員の労務提供がOASの業務の中に組み込まれていることなどは認めながら、他方、「採用、退職、休暇の申請、時間外労働の命令等にはOASの関与がなく、賃金などの労働条件を決定していたと認める疎明もなく」「一時金についてはOASが関西航業を指導し、算出根拠を変更したとの言明があるが、具体的金額への言及がないから、一時金決定に関与したとまで見なし得ない」とした。更に、昭和五八年、関西航業と同様のOASの専属の人だし稼業であるアトラスの従業員と作業を関西航業に移行させた際、OASとOAS労組と間で、関西航業への移行後の労働条件を議事録確認で合意している点について「OASがアトラス従業員の処遇を巡り、関西航業への採用および当初の労働条件を決定したと見なしうる可能性は否定できない」としながら、「それはアトラスから引き継がれる従業員に限定した措置であって、それ以降は関西航業従業員の労働条件についてOASの関与は一切なかった」とし、結論として「OASは取引上の立場から関西航業の経営面に強い影響力を有しているものの、この影響力の行使は労働条件の決定までには至っていない」とした。
この決定の問題点は、団体応諾ではなく、「従業員としての取扱い」を命じる場合には、支配会社が、被支配会社の従業員の「全ての労働条件」について、具体的、現実的に支配・決定すること要求している点である。しかし、このような厳密な主張立証を要求すれば、労組法の「使用者性」は、非常に狭まってしまうであろう。
ここで注意すべきは、OASと関西航業との関係は、前記「元請・受入会社と下請・派遣労働者」の類型と「取引先と専属的請負会社従業員」の類型のいずれにも当てはまることであり、この事案に即した解決が求められることである。すなわち朝日放送事件での下請会社は、専属ではなく、かつ独立した法人であったが、関西航業は、OASの専属下請であり、しかも業務的・組織的にも、その一部門とでも言える存在であったのであるから、OASの関西航業に対する支配は構造的かつ決定的であった。そして、関西航業従業員はOASの指揮監督下あり、委託代金は実質的なマンアワー料金であることを考えると、OASは、専属下請+指揮監督関係で関西航業の従業員の労働条件を実質的に支配・決定しており、OASによる関西航業との契約解除が支配介入の不当労働行為として認められるならば、後は原状回復としての従業員取扱いを命じることができるのではなかろうか。
四 裁判闘争について
1 争点としては、原告がOASの雇用責任を追及する法的構成とした@法人格否認の法理A雇用保障協定の成立B黙示の労働契約の成立の有無である。前記大阪地裁判決は、いずれもの構成でもOASの雇用責任は認められないとした。このうち、会社分割法施行後の問題として、特に@の法人格否認(法人格の形骸化、濫用)について、取り上げたい。
2 法人格否認の法理について
前記判決は、法人格形骸化(実質的同一性)の要件について、関西航業の従業員がOASの指示を受けて、混在して作業をしており労働者派遣法に違反していたこと、OASが独自の営業権や器材を有していないこと、関西航業はOASの協力がなければ設立、存続は困難であり、OASが専属下請け関係、営業免許、資金関係等において、関西航業に対してはるかに優越した関係にあるから、OASが関西航業に事実上大きな影響力を行使し得たことは否めないこと、関西航業はOASの専属下請であり、他社から請負うことは困難であり、営業免許の関係、借入金の保証を受けていた関係などから関西航業の人事やその他関西航業が独自に決しうる事柄についても事実上大きな影響力を行使できることができ、現に労使問題についても指導力を行使してきたことは認められるとしながら、他方、「関西航業は従業員の採用、配置、懲戒、解雇などの人事管理を行い賃金を支払っており、経理関係の帳簿も整え、独自の決算を行ってきたこと、財産関係も所有に混同はなかったこと、OASと関西航業との間に出資関係はなく、役員についても交流はなかったこと」からOASと関西航業の実質的同一性、支配は認められないとした。
また、判決は、法人格濫用の要件である「濫用目的」についてもOASの関西航業との契約解除の主たる目的は、「業務減少が直接の原因である」としながらも、「OAS労組及び分会に対する嫌悪が無関係であったとまではいい切れない」としてOASの不当労働行為意思を一部認定しているが、結局「従来の方針を貫いたことに多少の不当労働行為意思が存在しているとしても業務量の増減自体は契約関係の問題であって、法人格濫用の問題ではない」「OASが下請企業に対する優越的地位を利用して業務量を減少させ、そのため下請企業が倒産に至ったとしてもこれは優越した地位を利用したといえても法人格を濫用したものとはいえない 」とした。
この判決の問題は、@法人格形骸化の実質的同一性の要件について、財産の混同、会計区分の欠如などを絶対的な要件としている点である。しかし、使用者側の「学習」も進んでいる今どきに、形式的な財産混同や会計区分が欠如した会社など見当たらないであろう。これらの要件を絶対化すると、この法理の適用場面がほとんどないことになる。むしろ、これらの事実は単なる間接事実であって、実質的支配力の存在および行使こそが重要であり、労働関係において、業務面、人事、労務面における支配こそ重視すべきではなかろうか。
また、A判決が法人格濫用の濫用目的について、本件契約解除の目的が、多少なりとも不当労働行為意思があったとしても、主たる目的ではないとしている点は、大問題である。今後、会社分割法下でリストラの名目での会社解散が行われる場合にも、濫用が主目的であることの立証をどうするかは大きな課題である。しかし、少なくとも、本件のように不当労働行為目的で作った会社を、分会潰しの目的で閉鎖解散に追い込んだ事案は、まさに濫用事例の典型であろう。
五 今後の闘い
争議団は「このままでは終われない」「何のために三年間闘ってきたのか」というのが偽らざる心境である。弁護団は、地労委、地裁の不当決定、判決に強く抗議するとともに、中労委、高裁で、新たな闘いを構築していくべく理論面と事実認定双方から見直しをすすめている。その中で、官僚裁判官の限界、「司法改革」の必要性を痛感している。
いずれにせよ、今回の大阪地労委決定や大阪地裁判決の理屈のように採用、人事管理、賃金台帳、出退勤帳簿などの形式面さえ区別しておけば、「仮に、組合潰しの意図が介在していた場合であっても」背景資本は、雇用責任の追及を免れるという結論を許してはならない。 今後、自由法曹団でも、会社分割法施行を見据えて、使用者概念の拡大、法人格否認など古くて新しい問題の理論的、実践的検討を是非お願いしたい。
(弁護団は、豊川義明・梅田章二・藤木邦顕・森信雄・豊島達哉・白倉典武、鎌田幸夫)
大阪で開かれた「企業再編型リストラ交流会」に参加した。京王電鉄のバス部門分社リストラに関わっていたため、地元八王子での「三多摩労働フォーラム」の予定をキャンセルした。
京王電鉄は、約四千人のうち一二六〇名のバス部門を新しく作る子会社に営業譲渡し、大幅な労働条件切り下げを承諾する者のみ子会社に転籍させ、承諾しない者は退職させるという「バス事業再生・勝ち残り策」を組合に提案した。京王電鉄は空前の黒字であり、この手法が許されるならどんな黒字企業でも恣意的に「赤字部門」を作って営業譲渡することによりいくらでも労働条件を引き下げられることになり、他への悪影響ははかり知れない。団東京支部で法的に許されない旨の意見書を出し、労働者有志の学習会に出るなどしている(団通信九八八号田中隆団員「要請記」参照)。京王の問題を考えながら交流会に参加しての感想を書きたい。
一 不動信金
営業譲渡の際置き去りにされ、雇用の承継を求めて現実に裁判となっている。営業譲渡契約に「雇用は承継しない」「譲渡する側で全員解雇する」旨の特約が入っている。最近の裁判例が営業譲渡の際の雇用承継を認める論理は「黙示の合意」を認定するもので、明示の特約がある場合について先例はないようだ。
資産は雇用された労働者によって築かれたものであり、資産のみ譲り受け雇用を引き継がないことはいかにも正義に反する。これも通用するなら各地でひどいことになる。大阪のたたかいには敬服する。
京王でも強行しようとすれば置き去りにした上で残った者は「バス部門はなくなった」として解雇されるおそれがある。ただ、京王では譲受側が百%子会社である点で会社の不当性が強いだろう。
二 OAS関西航業
全日空とOASの子会社で事業場内専属下請け契約の解除による大量解雇がなされた事案で、親会社の使用者性を否定する労働委員会命令が出ているという。きわめて不当な命令である。企業再編で分社化されると労働者が親会社の雇用責任を追及できるかが問題となる。持株会社でも同じ問題が出てくる。親会社の使用者性が狭く限定されれば、親会社は分社化によりいくらでも雇用責任を免れることができることになってしまう。この事件も波及的影響がはかり知れない程大きい。
この事件で親会社の使用者性が否定されるなら、京王で子会社設立とともに転籍してしまえば、もはや親会社である京王電鉄に対しては何の責任追及もできないことになってしまいそうである。およそどんな子会社も、人事や労働条件について実質的には親会社の指示にしたがっていても、形式的にはあくまで子会社自身がこれらを決定しているからである。
京王のようなケースでは資力のある電鉄本体にしがみつくのが最良の戦術だということか。
三 西神テトラパック
西神(せいしん)テトラパックは食品用紙容器を作っており、製造部門の別会社を一工場とする計画が示され、新会社の労働条件は大幅にダウンするとされ、転籍しない人は、西神本体が事業活動を予定していないのでいずれ解雇になるとの説明であった。
事業形態の変更そのものを止める法的措置を検討したが、結局とらずに終わった。連合の組合とも事実上の共闘をし、計画を撤回させた。
組合関係者から、勝利の要因は「あきらめないでみんなでがんばること」だとの報告があり、感動と勇気を与えた。
担当の弁護団からは、雪印問題が起きて他メーカーの増産に対応する必要上解決したかのごとき謙虚な報告があった。しかし、一工場化計画を撤回しなければ商機を逃すと経営者に判断させたのは、やはりそれだけの労働者と組合のたたかいがあったのだと思うし、それを支えた弁護団の活動があったのだろう。
グループ企業内で既存の二社を統合する方法として合併ではなく新会社を作り営業譲渡をするもののようである。京王と似ているが、遠隔地異動の問題もある。たたかう組合組織が職場に存在することはやはり大きい。
四 南海電鉄
分社化提案に対し数名の労働者が別組合を作り反対を表明した。譲り受け会社が労使紛争をかかえた会社は譲り受けられないと判断し頓挫したという。詳しく聞きたいと思った。
五 今後に向けて
企業再編型リストラは猛威をふるいつつある。初めて京王の相談を受けた時は、あまりのおそろしさに呆然とした。しかし、五月集会や団東京支部の取り組みを通じ、多くの団員の助言や援助や激励を受けて、時代を象徴するたたかいだと感じるようになった。
今回の交流会でも、その思いを強くした。関西の団員や労働者の奮闘には強い刺激を受けた。交流会を設けていただいた団執行部に感謝したい。
ひとつひとつのたたかいにはそれぞれの困難さがある。しかし、あきらめないで知恵と力を振り絞ってたたかうことだ。その中で活路が開ける場合もある。仮に個別事案としては開けなくても、他の企業が怖じ気づいて追随できなくなる。地域や産業あるいは労働者階級のためのたたかいになる。
西神テトラパックや南海のように未然に止めた経験について、労働運動とそれを支えた団員弁護士の活動を交流して学べる場が欲しい。全労連などと共同で持つべきかも知れないが。