<<目次へ 団通信1011号(02月11日)

改革審に向けた運動を全国で早急に展開しよう

司法民主化推進本部事務局長  野 澤 裕 昭

大詰めを迎える改革審の審議
 司法制度改革審議会(改革審)は、今年六月に最終報告を出しますが、実質的な審議は四月中旬までに終わるといわれています。しかも、個別のテーマについては審議の途中で「とりまとめ」が行われるので、さらに早い段階で方向性が決ってしまう可能性があります。改革審は、中間報告後、一二月に「労働裁判のあり方」(一回)、「司法の行政に対するチェック機能のあり方」(二回)、今年一月に「国民の司法参加」(二回)、「弁護士改革」(一回)の審議を行い、二月に「弁護士改革」(二日)、「裁判官制度改革」(一三、一九、二七日)、三月「国民の司法参加」(二日)を行う予定になっています。そのため、二月中旬から三月上旬頃までに法曹一元、陪審制、裁判官改革などについての方向性が事実上決まる公算が大となっています。審議の内容は、国民世論をバックにした日弁連などの改革要求に対し、自民党、財界、最高裁がこれを抑えるという構図となっています。
 一月三〇日の「国民の司法参加」の審議で井上委員から参審制が提案されました。しかし、陪審制ではないこと(しかも、民間の裁判員と裁判官の数が未定)、刑事の重大事件に対象を限定していることなど国民の要求水準に達していません。また、労働裁判、行政事件、違憲法令審査権等のこの間高木、吉岡両委員が提起した問題についての審議日程は未定であり、見送りの可能性もあります。他方、「弁護士費用の敗訴者負担」は「基本的に導入する」(中間報告)となったままで、このままでは導入することになりかねません。国民のための司法改革をどこまで実現させることができるか、最初の正念場を迎えています。

議論とともに運動を
 団は、司法改革や改革審について団内討議を重ね、昨年一〇月の団総会で司法改革審への意見書と運動方針をまとめました。一二月には中間報告に対する評価などで徹底討論を行い(約五〇名参加)、中間報告に対する意見書を発表しました(一二月二六日)。団のスタンスはすでにここにまとめられています。今後の当面の課題は改革審の最終報告に向けた運動です。この間、情勢に見合った運動を構築するために、一月二一日緊急に全国活動者会議を行いました。参加者は残念ながら二二名と少数でしたが、会議で以下のとおり当面の運動方針の具体化がされ、団として運動の一歩を踏み出しました(方針は一月常幹で承認済み)。

最終報告に向けた当面の方針
1 改革審に対する司法改革要求書運動
 労働組合、大衆団体、事件の原告団、弁護団などを主体として、それぞれの団体が取り組んでいる問題(例えば、憲法問題、労働問題、公害問題、市民問題など)と結びつけて改革審への要求項目を立てた要求書を作成し、申し入れる。宮城県支部で実施しマスコミが報道しています。
2 ハガキやファクシミリ、インターネットで個人としての改革要求をぶつける。
3 宣伝、学習活動、集会の開催
 裁判の現状、改革審の動向、あるべき司法改革など積極的に地域や関係団体に知らせ、国民世論に訴える。また、司法改革をテーマとした集会の開催も追求する(東京支部では四月四日一〇〇〇人集会を予定)。
4 行動月間、全国一斉行動日を設ける
 @ 二月中旬〜 草の根宣伝学習月間
       学習会、要請書、ハガキ行動などの呼びかけ。
 A 三月中旬  全国一斉行動
       各支部の実情に応じた取り組みを全国で一斉に行う。
 B 四月    全国統一宣伝行動
       全国各地の駅頭、街頭で宣伝行動を行う
5 運動の武器の製作
 ハガキ、要求書のヒナ型、申し入れ書のヒナ型、司法改革タブロイドニュース(二月中旬完成)を本部で作成する。
 なお、ハガキ、要求書、申し入れ書はすでに完成しています。団本部に注文してください。
6 要求の重点
 法曹一元、陪審制の実現を中心にかかげる。同時に、裁判官人事制度の改革、弁護士費用敗訴者負担反対も重視する。大阪では弁護士費用敗訴者負担に反対する会が結成されています。

急ぎつつ、腰を据えた運動を
 情勢は急速に動いています。改革審に合わせた運動のテンポをつくらなければなりません。同時に、その後の国会審議をにらんだ運動母体の構築も必要です。急ぎつつ、先をにらんだ腰を据えた取り組みが求められています。すでに、東京、大阪、宮城、埼玉などで取り組みが進んでいます。全国の支部、団員の運動への参加をお願いします。

*以下要望が多いので、各分野別要請書のひな型を添付します。編集してご利用下さい。


                                要 請 書
〒105-0001
東京都港区虎ノ門1-18-1
虎ノ門10森ビル(FAX03-3519-7508)
司法制度改革審議会  御  中

                                  2001年  月  日
                                  〔住 所〕
                                  
                                  
                                  〔団体名〕
 労働事件は五三〇〇万人もの労働者の利害に関わるものであり、その在り方は国民生活に重大な影響を与えます。私たちは、現在の労働裁判には数々の重大な問題点があり、その改革はもはや放置することはできないと考えます。
貴審議会が今年六月に予定する最終報告において、労働事件に関して少なくとも以下の改革を盛り込むことを強く要請します。

〈要 請 項 目〉
  1. 陪審制度を採用すること。現在の裁判所は、労働者の置かれた状況や職場の実態、労働者やその家族の生活、労使間の証拠の偏在を理解せず、使用者側に一方的に偏した判断を行う傾向にあるため、労働裁判に国民の良識を反映させることが必要である。
  2. 最高裁による統制を受ける官僚裁判官が裁判を担当する現状を改め、すべての裁判官を社会経験豊かな弁護士などの多様な人材から選任し、かつ、その選任手続を民主的かつ透明なものとすること。
  3. 労使間の証拠の偏在を考慮した特別の手当てを行うこと。具体的には、文書提出命令の範囲の大幅な拡大、訴え提起前の証拠保全手続の要件や範囲・効力の拡充強化、労働者側に立証困難な事項についての立証責任転換や推定規定の新設。
  4. 多くの労働者が泣き寝入りをしている現状を改革するため、比較的事案が簡明な事件について簡易迅速な労働訴訟制度を導入すること。
  5. 裁判所・裁判官制度や司法行政制度を改革すること。具体的には、最高裁判事の人選や国民審査の改革、最高裁事務総局の廃止と裁判官会議の権限回復、裁判官に対する差別的・恣意的人事の改革など。
  6. 裁判官会同・協議会を廃止し、これまでの資料をすべて公開すること。
  7. 裁判官やその他の裁判所職員を大幅増員すること。
  8. 労働者・労働組合の提訴を困難にする弁護士費用敗訴者負担制度は絶対に採用しないこと。
  9. 不当労働行為からの迅速な救済のため、労働委員会の救済命令に対する司法審査に実質的証拠法則を採用し、労働委員会の判断を裁判所ができる限り尊重するようにすること。
  10. 地労委・中労委・東京地裁・東京高裁・最高裁と事実上五審制となっている現状の改革のため、中労委命令に対する取消訴訟の管轄を東京高裁とすること。
  11. 公益委員や労働者委員の選任の在り方を改革し、とりわけ中労委や多くの地労委における連合系労働組合による労働者委員独占を改めること。

              要  請  書 −憲法裁判を国民のものに−
〒105-0001
東京都港区虎ノ門1-18-1
虎ノ門10森ビル(FAX03-3519-7508)
司法制度改革審議会 御 中

                                  2001年  月  日
                                  〔住 所〕
                                  
                                  
                                  〔団体名〕
私たちは、憲法判断を通じて権利の救済をはかる事件に関する裁判(以下「憲法裁判」と呼ぶことにします)の判断や審理の進め方について、大きな不満を持っています。
 憲法裁判は、憲法の平和原則に関わる基地関係の訴訟や戦後補償裁判、生存権に関わる裁判、平等権に関わる議員定数不均衡などの裁判、環境権に関わる裁判、政教分離原則に関わる裁判など多岐にわたります。憲法裁判のありようは、国民の権利を擁護する上で決定的に重要な意味を持っています。
 ところが、本来憲法の番人であり、多数者におもねることなく国民の権利を擁護すべき裁判所は、立法府や行政府の意思に従属し、憲法判断を回避したり、合憲判断をするなど、事実上司法権と違憲立法審査権を放棄したに等しい実態となっています。例えば、最高裁がこの53年間に違憲と判断した法律はわずか6件しかありません。これでは、私たち国民の権利を擁護することはできません。
 こうした実態の原因として、差別的・恣意的裁判官人事による統制などの構造的問題を指摘せざる得ません。貴審議会は、こうした構造的問題に大胆にメスを入れ、陪審制の導入などの抜本的改革をすべきです。また、貴審議会は、違憲立法審査権の強化や司法の行政に対するチェック機能の強化に関し、「中間報告」では何ら具体的な検討をしていませんが、真摯かつ具体的な検討をすべきです。
 私たちは、貴審議会に対し、以下のとおり要請します。

〈要 請 項 目〉
  1. 裁判所が、立法、行政に従属することなく、これに対するチェックをしっかりと行う機関となる改革をすること
  2. 裁判所が、憲法を守る最後の砦として、違憲立法審査権を積極的に行使する機関となる改革をすること
  3. 裁判所が、行政事件の窓口を広げ、実質的審理をしっかりと行う機関となる改革をすること
  4. あらゆる権力機関が、裁判官の独立を尊重し、裁判官への干渉を一切行わない改革をすること
  5. 最高裁判所が、差別的・恣意的人事及び裁判官会同などによる統制を一切排し、個々の裁判官の独立を尊重する機関となる改革をすること
  6. 司法への国民参加を実現する陪審制を広く実現すること
  7. すべての裁判官を、社会経験豊かな弁護士等多様な人材から国民が選任すること
  8. 立法、行政に対する情報公開請求を認める改革をすること、とりわけ裁判において、行政に対する強力な開示制度を設けること
  9. 法曹養成制度の改革にあたり、憲法の修習を必須とすること
  10. 裁判から市民を遠ざける弁護士費用の敗訴者負担は、絶対に導入しないこと

          要 請 書 −市民のための司法を−
〒105-0001
東京都港区虎ノ門1-18-1
虎ノ門10森ビル(FAX03-3519-7508)
司法制度改革審議会  御 中

                                  2001年  月  日
                                  〔住 所〕
                                  
                                  
                                  〔団体名〕
 現在の裁判は、国民に対して不信感をもった官僚的な裁判官のもとで大きくゆがめられていると言わざるを得ません。税金裁判では、税務署員が人権侵害にあたるようなことをするはずがないから、原告の納税者が主張するような強権的税務調査の事実は認定できない、帳簿の一部にでも誤記があればその帳簿はすべて信用できないなどという全く不当な理由で納税者の訴えを排斥している「判決」さえあります。大きな銀行や生命保険会社が被告になった「変額保険の裁判」でも銀行や生命保険会社の言うことは正しいはずだといった偏見に基づいて判断しているとしか思えない「判決」が続いています。これらは、裁判官が一般庶民の生活の実情を知らず、他方判検交流(裁判官が法務省に出向して国の指定代理人などの経験をし、再度裁判所に戻ること)などにより、国民を統治しようという行政官的意識を抱き、さらに最高裁判所の意向を常に意識しながら仕事をしていることから起こるものです。
 また、庶民にとって自らの主張を裏付けるための証拠の収集は容易なことではなく、証拠が集められないということで敗訴することも往々にしてあります。もとより訴訟を進めること自体の負担も大変なものです。もし弁護士費用が敗訴者負担になると、たとえ権利侵害にあっても、提訴時に完全な証拠のそろえられない市民は裁判により救済を求めることを躊躇することとなり、裁判はいっそう国民から離れたものになってしまいます。
 私たちは、裁判が国民にとって安心して利用できるものにするために次のことを要求します。

〈要 請 項 目〉
  1. 陪審制を導入して国民が参加する裁判制度に改めること。
  2. 裁判所が、裁判官の差別的な人事・採用を止め、また裁判官会同などを通じて裁判官の統制をすることを直ちにやめること。
  3. 法曹一元を導入することを決め、できるだけ速やかな実現を図ること
  4. 訴訟を躊躇させる「弁護士費用敗訴者負担」の導入は絶対にしないこと。
  5. 弁護士とともに裁判官の増員(少なくとも現在の倍以上)を実現させ、いまよりも丁寧な審理が出来るようにすること。
  6. 立法行政に対する情報公開を認め、証拠提出を義務づけるような訴訟制度改革をすること。
  7. 訟務検事と裁判官の人事交流を止め、行政訴訟の公正を図ること。
  8. 行政訴訟の窓口での厳しい制限を取り払い、国民の行政からの被害の訴えをきちんと聞く制度に改めること。

                                要 請 書
〒105-0001
東京都港区虎ノ門1-18-1
虎ノ門10森ビル(FAX03-3519-7508)
司法制度改革審議会 御 中

                                  2001年  月  日
                                  〔住 所〕
                                  
                                  
                                  〔団体名〕
 2000年11月20日、司法制度改革審議会は1昨年7月以降の討議を踏まえて「中間報告」を発表した。
 私たちは、刑事手続における適正手続を厳格に保障し、被疑者・被告人の人権保障を徹底し、誤判・冤罪の発生を防ぐための取り組みを続けてきた。また冤罪被害者の支援の活動も積極的に行っている。
 こうした活動を通じ、日本の刑事司法には、自白中心主義・人質司法・調書裁判と言われる実態があり、こうした実態が憲法で保障された被疑者・被告人の人権を著しく制約し、誤判・冤罪を生み出す構造的問題であることを目の当たりにしてきた。また、刑事裁判官が捜査機関を過度に信頼・依拠する結果、市民感覚から遊離した非常識な事実認定が後を絶たない。
 このような刑事司法における病理は、国内の批判にとどまらず、国際的な批判の的にもなっている。「中間報告」にも、公的被疑者弁護制度の導入を打ち出すなど見るべきものもあるが、現在の刑事司法の病理を抜本的に改革する内容とはなっていない。
 私たちは、憲法で保障された被疑者・被告人の人権を護り、誤判・冤罪を根絶するために、以下のとおり要請する。

〈要 請 項 目〉
  1. 国民の常識を裁判に反映させるため、広く陪審制度を導入する。
  2. 裁判官の選任は、法曹一元制度に基づき行う。
  3. 冤罪の温床である代用監獄を直ちに廃止する。
  4. 取調状況の録画・録音を義務づけ、取調への弁護人の立会権を保障する。
  5. 接見妨害をなくすための実効ある措置を導入する。
  6. 起訴前保釈制度を導入し、権利保釈の除外事由から罪障隠滅のおそれを削除する。
  7. 検察官手持ち証拠の事前全面開示を法令で明確にする。
  8. 伝聞法則を厳格に貫き、特信性・任意性の立証は、取調状況の録画・録音等の客観証拠に基づかなければならいことを明確にする。
  9. 公的被疑者弁護制度を導入し、その運営は弁護士会が中心となって行う。
  10. 国選弁護費用を大幅に引き上げる。
  11. 裁判官の選任、選任後の人事権の行使は民主的手続にのっとり、公平かつ平等に行う。
  12. 裁判官会議の権限を回復し、裁判官に市民的自由を保障する。
  13. 裁判統制につながる裁判官会同・協議会を中止する。

                                要 請 書
〒105-0001
東京都港区虎ノ門1-18-1
虎ノ門10森ビル(FAX03-3519-7508)
司法制度改革審議会  御 中

                                  2001年  月  日
                                  〔住 所〕
                                  
                                  
                                  〔団体名〕
 2000年11月20日、司法改革審議会は一昨年7月以降の討議をふまえて「中間報告」を発表した。
 私たちは、加害責任の追及と被害者の救済、公害の根絶と環境の保全、環境の再生とまちづくりを柱として、公害環境裁判を中心にこの取組みを進めてきた。
 私たちは、公害裁判をつうじ、とりわけ@国・公共事業を被告とした裁判、A差止裁判、B「カネと時間のかかる」裁判に関し、司法の欠陥を眼のあたりにした。
 公害発生のメカニズムに係る証拠資料の偏在、科学的諸資料、知見の集約についての人的、物的格差の存在、公共事業相手の裁判・差止裁判での司法消極主義、行政追随主義の実態、長期裁判に途を開く裁判所の訴訟指揮の実態、証拠収集費用、裁判追行費用をはじめとする「カネのかかりすぎる」裁判の実態、人事権を掌握した最高裁のもとでの裁判官会同・協議会を通じての裁判統制、「判検交流」の名における裁判官と検察官の入替え人事等は、健全な国民の理解から遠く離れたものであった。
 被害者の声、国民の切実な要求とかけ離れた裁判の実態は、社会の常識から到底容認できないところに達している。
 私たちは、「司法に国民の風を吹かせよう」を合い言葉に、「社会の常識」と「司法の常識」の乖離を批判し、その根本的改善を求めて以下のとおり要請する。

〈要 請 項 目〉
  1. 国民の常識を裁判に反映させるため、陪審制度を導入する。
  2. 裁判官の選任は、法曹一元制度に基づき行う。
  3. 裁判官の選任、選任後の人事権の行使は、民主的手続にのっとり、公正、かつ平等に行う。
  4. 裁判官会議の権限を回復し、裁判官に市民的自由を保証する。
  5. 裁判統制につながる裁判官合同・協議会は中止する。
  6. 判事と検事の入替え人事である判検交流制度を廃止する。
  7. 証拠の偏在の是正と迅速・公正な裁判を実現するため証拠開示制度の導入、情報開示義務の法定化、文書提示義務の範囲の拡大、公務文書の文書提出命令の拡充、証拠保全の要件緩和を図る。
    立証責任の転換や因果関係の推定など実体法規の改善を図る。
  8. 迅速な裁判を目指して、早期かつ柔軟な審理計画の策定、集中証拠調べ、大量原告の個別立証の工夫を行う。
    迅速な裁判を阻害する頻繁な裁判官・訟務検事の移動を改善する。
  9. 低廉な裁判を保証するため、法律扶助制度の充実、提訴手数料の引下げ、法律扶助の基準額の引上げを行う。
  10. 国民の裁判を受ける権利を侵害する弁護士費用敗訴者負担制度には反対する。

名古屋南部大気汚染公害訴訟・判決

愛知支部  森 田  茂

一 これまでの経過
 昨年一一月二七日、名古屋地方裁判所において、名古屋南部大気汚染公害訴訟(通称「あおぞら裁判」)の一次訴訟判決がありました。
 あおぞら裁判一次訴訟は、一九八九年、名古屋南部地域と東海市の公害病患者及びその遺族合計一四五名が、名古屋南部地域に工場等をもつ企業一一社(その後、一社は破産)と国道一号・二三号線等の設置・管理者である国を相手取り、大気汚染物質の一定量以上の排出差止と損害賠償を求めて提訴したものです。その後、二次訴訟と三次訴訟も提訴され、現在も係属中です。

二 判決の内容  判決は、まず国に対して、国道二三号線が全線開通した一九七二年以降の浮遊粒子状物質による沿道汚染と国道二三号沿道二〇メートル以内に居住する(あるいは、居住していた)住民三名の気管支喘息との因果関係を認め、総額一八〇九万円の損害賠償と、浮遊粒子状物質の濃度が一日平均値一立方メートルあたり〇・一五九rを超える汚染を排出してはならないとの差し止めを命じました。
 また、被告企業らに対しては、一九六一年から七八年までの本件地域の硫黄酸化物による大気汚染と住民の呼吸器疾患との因果関係を認め、被告企業一〇社に対して総額二億八九六二万円の連帯での支払いを命じました(ただし、国と企業は連帯せず)。

三 本判決の意義
本判決は、川崎、西淀川、倉敷、尼崎といった全国各地の大気汚染訴訟判決の流れを引き継いだ内容と言えますが、その中でも注目すべきは、尼崎判決に続いて自動車排ガスの差止請求まで認めた点です。特に、名古屋の判決は、差止の基準に該当する原告が一人のみであるにもかかわらず差止請求を認め、道路の公共性よりも人間の生命・身体が優先することをより明確に示しています。加えて、本判決は、国の公害防止対策の怠慢を厳しく指摘しました。これも異例のことです。

四 本判決の問題点
 一方で、本判決には、被告企業の工場等及び道路から排出される窒素酸化物と健康被害の因果関係を認めなかったこと、道路からの排ガスと健康被害の因果関係を認める範囲も沿道二〇メートルと限定されたこと(尼崎判決は五〇メートル)、当該地域の大気汚染に対する被告企業の寄与割合について被告企業の主張をほぼ全面的に認めていること等、問題点もあります。

五 その後
 本判決については、双方控訴しました。ただ、「生きているうちに解決を」という原告らの願いを実現するためは、和解による早期解決が望まれます。


メレスグリオ配転拒否解雇事件
東京高裁で逆転勝訴判決

東京支部  伊 藤 和 子

一、外資系レーザー等製造会社であるキノ・メレスグリオ(現在メレスグリオ)株式会社は渋谷営業本部に勤務していた黒田久子さんに対し、平成五年二月、業績悪化を理由とする退職勧奨を突然行い、二月一五日に黒田さんが退職勧奨を断ると、その翌日に、通勤時間が二時間半もかかる埼玉県比企郡の「玉川工場」(最寄り駅からいくつも山を越えた場所に位置し、駅からの公共交通手段は皆無)への配転を指示し、本人がこれを拒否しているにも関わらず、業務上の必要性や通勤方法について何らの説明もしないまま四月一日からの玉川勤務を命ずる配転命令を強行し、これに従わずに渋谷で勤務し続けた黒田さんを四月一五日に懲戒解雇した。黒田さんが会社との話し合いを求めて団交を申し入れてやっと実現した団交(四月一四日)が、会社側の極めて不誠実な対応で終わった翌朝の懲戒解雇であった。

二、以来、約八年間に渡り、「不当な配転・解雇は認められない」と仮処分・本訴を闘った。本訴一審(東京地裁労働部萩尾裁判官)は、東亜ペイント最高裁判決を踏襲した配転有効・懲戒解雇有効とする原告敗訴の不当判決を出した。
 しかし、敗訴後も諦めず、控訴審で三年半もの実質審理を行った結果、去る一一月二九日、東京高等裁判所(民事第一部江見弘武裁判長)で「配転自体は有効だが懲戒解雇は無効」として、会社側に地位確認・バックペイ全額の支払いを命ずる逆転勝訴の判決を得ることが出来た。
 従前、配転有効ならこれに従わない労働者に対する懲戒解雇は当然有効、と考えられてきたが、高裁判決は以下のとおり、配転有効としつつ懲戒解雇無効とした。
 即ち判決は、「被控訴人は、本件配転により控訴人の居住地から玉川工場まで通勤に二時間と従前の約二倍を要することとなるにもかかわらず、通勤所要時間、方法等について内示前に確認しておらず、本件配転の内示を受け、控訴人が、通勤の困難性を主張して配転を拒む姿勢を示していたのに対しても、本件配転を命じた事情、通勤所要時間、方法等について説明した形跡が見あたらず、高坂駅(最寄り駅)と玉川工場間に従業員のために運行させている通勤バスについて説明したのも、本件配転発令後の四月二日が初めてである。右事情の下では、本件配転は、被控訴人が、内示後本件懲戒解雇に至るまでの間、本件配転を受け入れるかどうかを控訴人が判断するのに必要な情報を提供せず、バスの発車時刻の調整等による用意に採用しうる通勤緩和策も検討しないまま発令されたと評しうる」とした。
 そして「本件配転命令は控訴人の職務内容に変更を生じるものでもなく、通勤所要時間が約二倍となる等の不利益をもたらすものの、権利濫用と評すべきものではない」としつつ、「被控訴人は、控訴人に対し、本件配転後の通勤所要時間、経路等控訴人において本件配転に伴う利害得失を考慮して合理的な決断をするのに必要な情報を提供しておらず、必要な手順を尽くしていないと評することができる。このように生じる利益得失について控訴人が判断するのに必要な情報を提供することなくしてなされた本件配転命令に従わなかったことを理由とする懲戒解雇は、性急に過ぎ、生活の糧を職場に依存しながらも、職場を離れればそれぞれ尊重されるべき私的な生活を営む労働者が配転により受ける影響等に対する配慮を著しく欠くもので、権利の濫用として無効と評価すべきである」としたのである。
 東亜ペイント最高裁判決後、ケンウッド事件に見られるように、配転事件には困難がつきまとい、企業のいかなる配転命令にも従わざるをえないという状況であった。
 しかし、今回の判決は、配転命令が仮に有効としても、企業は配転命令権の行使にあたり労働者の生活への配慮が必要であることを明記した点で画期的である。今後の闘いと判例の積み重ねによっては、配慮義務の定式化等により配転命令権行使に歯止めをかけていくことも展望できるであろう。

三、高裁で、本人と弁護団は、配転の有効性・懲戒解雇の有効性それぞれにつき、徹底して論陣を張った。弁護団が配転の有効性についての一審判決の論理の薄弱さを指摘した結果、裁判所は会社側に対し業務上の必要性の追加立証を促すに至った。そして会社が追加立証の書証を出すたびに原告と一緒に徹底して分析し、出された書証が無意味であることを主張し、釈明・資料提出要求を行うという応酬を半年以上も繰り返した。最後には会社側は「工場の倉庫を全部探しましたがこれ以上追加して出せる書証はありません」と回答するに至った。また、高裁では本人尋問の他、元同僚の尋問も採用させ、配転先の工場への配転打診が叱責やいやがらせの際に使われていたことを証言してもらった。
 さらに、最寄り駅から工場までの道程は埼玉県のハイキングコースになっており、ハイキングマップや地図等も証拠提出して、いかに通勤困難かを視覚的にアピールした。
 判決は懲戒解雇でこちらを勝たせたが、そこに至るには、懲戒解雇のみならず配転の有効性についても徹底した論陣を張ったことが非常に大きな功を奏したと思う。

四、本件は女性の一人解雇事件である。女性の一人解雇事件が周囲に無理解に晒されることが多く争議の継続がいかに困難かを私はこの件を通して痛感させられた。特に、一審敗訴後は、職場復帰を願う本人の意向に対して「支援するなら金銭解決、こちらの交渉に任せること」という条件をつける労組もあり、折り合いをつけるのは困難であった。
 一審敗訴後は当然のことながら和解解決が模索されたが、裁判所が熱心に審理に臨む姿勢を見てきた本人は「勝っても負けてもこの裁判自体に結論を委ねたい」と「人生で初めて腹をくくり」判決を求めると決めたが、判決を求めることへの批判も多かった。
 しかし、最後まで闘い抜いて判決を求めた結果、逆転勝訴判決を勝ち取ることができたのであり、これは貴重な先例として労働者の今後の闘いを励ますものだと思う。
 女性の一人争議への理解や支援の至らなさに伴う闘いの困難性は、本件を通して知った他の事件でも共通する悩みであり、今後もっと女性の一人争議が闘いやすくなるよう支援のあり方を考え直す必要があると痛感している。
 本件は、会社側が上告したが、支援体制も確立し直し、職場復帰を求める解決交渉を今後展開していく予定である。


森健先生米寿の賀

愛知支部  花 田 啓 一

 二一世紀新春の一月一〇日、愛知支部新年会は、支部(当時は東海支部)創始以来の団員で八八歳を迎えられた森健先生の賀宴を兼ねた。
 新世紀にふさわしく、修習生との懇談会もあわせておこなわれた。
参加者三〇余名、普段一同に顔を合わせることの少ない老壮青男女の団員が、文字どおり温故知新の一夕を持ったのである。先生のお話で印象深かった一、二を記し、蛇足の感想を付け加えたい。

弁護士冬の時代
 昭和一四(一九三九)年に弁護士登録されてから一九四五年敗戦まで、一口に言えば弁護士の冬の時代と表現された。満州事変から太平洋戦争、戦争の時代として、司法界では司法試験委員であった美濃部博士の天皇機関説への攻撃と退陣、司法官試補と弁護士試補の差別、弁護士試補は無給であったこと(先生も一時月給五〇円の代用教員をやられたという)。
 戦争統制下の経済事犯、軍用資源秘密保護法事犯での弁護の実情と当時の弁護士会ー報国会と勤労奉仕=稲刈りなど。

戦後の東海支部(当時)結成と大須事件など
 故天野末治、桜井紀、白井俊介団員らとの東海支部結成と四名での一九五二年大須事件を始めとする弾圧事件の弁護活動と辛酸のごく一端について語られた。

そして今
 愛知支部として多数の団員が労働ーとくにリストラや過労死事件など、さらに公害や消費者問題など多様な法廷内外のたたかいや弁護士会・市民活動に取り組んで今昔の感があると結ばれた。
 戦中の判検弁の差別構造、とくに弁護士の生態は国民のための司法改革問題が焦点となっている今日、なお示唆するところが多く、米寿を迎えられた森健団員のかくしゃくとした姿勢と一貫した庶民性は、支部でも当然多数派となっている戦後生まれの団員にも、大きな感銘をもたらしたものと思われる。


東京合同法律事務所創立五〇周年を祝して

団長  宇 賀 神  直

 去る一月二〇日、東京合同法律事務所は創立五〇周年記念のレセプションを全日空ホテルにおいて行いました。団員を含む各界の方々八〇〇余名が集い、和やかな雰囲気の中で参会者は懇談し、楽しいひと時を過ごしました。
 レセプションの初めに上田誠吉さんが主催者を代表して挨拶し、来賓として久保井一匡日弁連会長と自由法曹団団長の私がお祝いの言葉を述べました。
 私は要旨次のことを話しました。

 複数の弁護士の法律事務所が五〇年も続いていること自体大変な事ですが、創立者の一人の上田誠吉先生が現役で弁護士の仕事をしていることも立派です。一つの法律事務所が五〇年も連続して存在し活動出来るのは創立者の後に事務所に入る弁護士がいるからです。 弁護士の出入りはありますが事務所創立の理念は連綿として生き続けています。古い又は中堅の弁護士は自分等の後継者として新人弁護士を迎え入れ、新人弁護士は理念を持つ事務所の一員として弁護士活動を行う。それをやり遂げて来たところに東京合同法律事務所創立五〇年の意義があると思います。
 次は東京合同法律事務所創立の理念、国民大衆の人権と自由をそれらの人々と共に闘い、それを護り発展させる弁護活動のあり方が全国各地の人権派弁護士に拡がり受け継がれている事です。北は北海道合同法律事務所から南は沖縄合同法律事務所まで、その間にも関西合同法律事務所など多くの合同法律事務所が在ります。東京合同法律事務所の五〇年の時間的發展はその創立の理念の日本各地への空間的拡がりを示しています。
 東京合同法律事務所創立五〇周年記念レセプションの案内を受けて、又今年は自由法曹団創立八〇周年にも当たるので弁護活動を含めた人権派弁護士の活動を調べて見ました。松川裁判などの弁護活動は話題になりますが、その他数多くの裁判闘争、法律闘争、悪法阻止の闘いなど極めて多方面の活動をし、戦後日本の広い意味での国民、市民の人権擁護闘争に貢献したことを学びました。
 私たちはこのことに確信と誇りを持ち、二一世紀の活動をしていきたいと思います。
 自由法曹団は創立八〇周年を迎えますが、東京合同法律事務所はそのうち五〇年を占めます。その間この事務所は自由法曹団の維持発展に大きく貢献して来ました。そのことに感謝し、これからも自由法曹団に対するご協力を御願いします。

 レセプション参加者に東京合同法律事務所が作成した『世紀をこえて ひとつの戦後小史』と言う分厚い本が配られました。これは、東京合同法律事務所の弁護士のみの活動ではない事、及び時代と事件と事務所の仕事を明らかしたいと思い東京合同法律事務所五〇年史にしなかった、ということです。この本に纏められた活動は自由法曹団物語でもあり、多くの団員にお薦めします。
 少し解説しますと、第一弾圧の嵐に抗して、第二上潮に向かつて、第三視野を広げて、第四保守的再編との闘い、第五市民・労働者と共に、の五章からなり、第一は岡林・小沢・青柳の再出発、自由法曹団解散論と事務所の創立、そして三鷹・松川事件など戦後の第一反動期の弾圧事件の裁判闘争、第二は労働運動の支援、民商などに対する弾圧事件、解雇事件、青梅・八海・白鳥・狭山事件、第三は一九七〇年代の情勢、司法反動に対する闘いと辰野事件。第四は拘禁二法・国家秘密法などの悪法阻止。第五は坂本、オウム、サリン事件、変額保険事件訴訟、労働事件・労働運動、市民の権利、再開発・住民運動、さまざまな悪法阻止の運動などこの五〇年間の時代の動きと弁護活動、大衆闘争、弁護士会などが綴られています。
 感想を言いますと、この間に独立した、又は他の合同法律事務所を創立したOBの弁護士の活動も紹介されており、東京合同法律事務所の全体の活動が時代の変化と併せて読みとることが出来ます。 又OB弁護士の発言、著作からの引用もあり、理解を深めさせてくれます。大塚一男さんの『私記松川事件弁護団史』柴田睦夫さんの『松川事件と私』など。柴田さんは「心ある弁護士よ。集団活動のなかでは、心して自らの徳を発揮せよ。これも松川の教訓である。」と書いています。
 この本の[はじめ]に三鷹、松川などの厳しい弾圧反対運動を経験して来たが、最近の変額保険事件など昔日には考えも及ばない活動をしています。このような多くの変化にもかかわらず、変わらぬ筋のようなものを求め続けて来た、と記されています。その変わらぬ筋とは何でしょうか。不正や不合理なものは許せないという人間としての良心ではないかと思います。最後に、『五〇周年によせて』という文集も頂きました。その中でも、OBの大塚一男さんと竹沢哲夫さんの文章は印象的でした。大塚さんは松川地裁判決の後の東京合同法律事務所なかりせば、闘いは一層困難をきわめたことは疑いない、と言い「合同とは心をひとつにし、力を結集して困難な闘いに立ち向かう原動力の別名である。」と言っています。竹沢さんは東京合同時代での活動を振りかえり、「往時茫々の中で、東京合同で培われた弁護士としての原点だけは見失うことなく、回遊のあとの鮭のように母川源流をめざしたいものと思います。」と書いています。(書籍については東京合同法律事務所までお問い合わせ下さい。電話〇三・三五八六・三六五一)


弁護士自治の危機にあたり、全団員に訴える

愛知支部  森 山 文 昭

一 去る一月二三日、司法審は、@懲戒請求が弁護士会に退けられた場合、懲戒請求人は市民代表からなる機関に不服申立することができる、A綱紀・懲戒委員会の外部委員の割合を増やす、B綱紀委員会の参与員にも議決権を与える、等を最終答申に盛り込む方向を決定したと報じられている。
 右@の制度が導入されれば、戦後初めて、弁護士以外の団体が弁護士の懲戒に関する決定をすることが認められることになる。また、右Aも、懲戒委員会の外部委員の割合を今より少しでも増やせば、外部委員が過半数になり(現在は、弁護士の委員が一人だけ多い)、外部委員の意向によって懲戒処分が決められることになってしまう。いずれにしても、弁護士に対する監督・指導・懲戒は、弁護士自身の手によって行ない、いかなる権力・外部勢力からの監督・干渉も受けないという、戦後打ち立てられた弁護士自治の原則が根底から覆されかねない緊急事態となっている。

二 右のような方向は、綱紀・懲戒手続にも国民の意見を反映させなければならないという理由で推進されている。しかし、市民代表といっても、どのように選出されるのか全く不透明である。そこに、権力や財界等の社会的強者の意向が強く反映しないという保障は全くない。
 また、そもそも弁護士は、多数者の意向に逆らってでも少数者の権利を守らなければならない使命を帯びている。刑事弁護活動などはそのよい例である。そのために、弁護士は他から一切の干渉を受けず、独立して職務を遂行しなければならない。これを保障するのが弁護士自治である。弁護士自治が侵されれば、弁護士の権利擁護活動が陰に陽にその影響を受け、その結果被害を被ることになるのは国民である。したがって、国民のためにこそ、弁護士自治の制度は守られなければならない。国民の声を反映させることは必要であるが、それはあくまでも弁護士自治の制度的枠組みの中で反映させるようにすることが肝要である。

三 ところで、昨年の一二月一二日に規制改革委員会が発表した「規制改革についての見解」は、弁護士会の懲戒に関する決定に不服のある懲戒請求人は裁判所に不服申立できるという制度を提案していた。ところが、司法審は、裁判所ではなく、市民代表からなる外部審査機関に不服申立できる制度を提唱した。このように変わったのは、日弁連会長が司法審におけるプレゼンテーションで、市民代表からなる「懲戒審査会」を設置して弁護士会の決定に対して是正勧告をする権限を与えるべきであるという提案を行なったことに基づいている。
 右提案にあたって会内では、司法審当日まで極秘裏にことが進められていた。すなわち、一月一一日、司法改革推進センターと司法改革実現本部の合同会議が開かれ、委員から「一月二三日の司法審における会長プレゼンテーションの内容を報告してほしい」との要請が行なわれた。これに対して、出席していた副会長は「微妙な問題があるので、今は明らかにできない。理事会には報告するので、執行部に一任してほしい」と述べ、委員からは相当不満の声も出たのであるが、これを押し切って報告を回避した。そして、一月一九日の理事会には、岡本浩副会長名による「会長ヒヤリングと審議の件」と題する書面が配布された。しかし、そこには、@綱紀委員会の参与員に議決権を与えるということは積極的に表明する、A綱紀・懲戒委員会の構成について弁護士を半数以下にするとか、弁護士会が懲戒せずとの処分を行ったことに対して不服のある懲戒請求人が訴訟提起することを認める等については、弁護士自治と相容れないものとして、質問があれば明確に否定する、という記載があるだけであり、「懲戒審査会」の提案については、会長の口頭説明を含めて一切秘匿されていたのである。
 このような弁護士自治の根幹にかかわる重大な提案が、会内における一切の討議もなく、だまし討ちとも言うべきやり方で、一方的に司法審で発表されるということは、極めて悲しい出来事である。弁護士会の自治能力すら疑われるであろう。

四 しかし、悲しんでばかりいるわけにはいかない。弁護士自治を根底から掘り崩しかねない右のような制度改悪は、断固として阻止しなければならない。あらゆる迫害をはねのけ、人民の権利を擁護して闘い抜いてきた自由法曹団の誇りと伝統にかけて、弁護士自治はどうしても守りぬかなければならない。
 司法審の最終答申は、今年の六月に出される予定である。そして、必要な立法化作業は、極めて短期間に行なわれることが予想されている。今この瞬間に、我々が総力を結集した闘いを行なわなければ、本当に弁護士自治が危ういところまで事態は進んでいる。まさしく、「弁抜き法案」以来、最大の危機である。
 名古屋弁護士会では、この緊急事態にあたって、一月二九日、わずか一晩の呼びかけで三〇人近い会員有志が集まり、熱のこもった議論が展開された。そして、二月二六日に「弁護士自治を守る会(準)」として会合を開くことが決められた。二月上旬発行予定の会報には緊急記事も掲載される。
 外部審査制の導入や外部委員過半数化等、弁護士自治の精神に反するあらゆる企てに反対し、強力な運動で必ずこれを阻止しよう。全ての単位会で大運動を展開し、日弁連を動かしていこう。そのために、全ての団員の総決起を訴えるものである。


憲法改悪、徴兵制に結びつく教育基本法の改悪、「奉仕活動」の導入を絶対に許さない

東京支部  萩 尾 健 太

 二〇〇〇年一二月二二日、森総理大臣の私的諮問機関である「教育改革国民会議」は森総理大臣に最終報告文書を提出した。そこでは、「新しい時代を生きる日本人をどう育てるか」の観点から、教育基本法には「伝統、国家、愛国心が欠けているので、その見直しを図る」として見直しの必要性を明記した。また、一八歳以上の適当な時期に実施することを検討するとして「奉仕活動」も記載した。更に、「大学入学年齢制限の撤廃」など、全部で一七項目にもわたる提案をしている。
 森総理大臣は、この報告を受けて、現在開会中の通常国会を「教育改革国会」とする旨、表明している。
 更に、二月二日に行われた記者団との懇談で、町村信孝文部科学相は、右の青少年の奉仕活動について大学入学の時期を秋に設定し、三月の高校卒業から半年間を奉仕活動に充てればいいとの見解を表明した。また「しっかり奉仕活動をした人には投票権を一八歳まで引き下げることもいい」と述べて奉仕活動を選挙権の条件とすることまで主張した。加えて、昔は滝つぼに飛び込んだり、軍隊に入隊するなど若者を鍛える儀式があったが、現在はそのようなものがないまま大人になり、個人の自由の名の下に子どもに好き勝手にやらせていることが不登校などの弊害をもたらしている、との見解を示したのである。

 これらの発言から、政府が意図する「教育改革」が、いかなる建前に立ち、いかなる方向に向かうのか、は容易に推測できる。
 即ち、現在の少年の非行や不登校などの原因は、憲法や教育基本法に明記された人権や個人の自由の尊重、いわゆる戦後民主主義のためであり、子供たちの国家意識を強固にし「奉仕活動」を行うことによって、現在の問題を解決できる、として教育基本法の改定と青少年を自衛隊に入隊させる等の「奉仕活動」の義務化を指向するものである。

 しかし、右の考えは、何重にも誤っている。
 まず、現在の少年の非行や不登校などの原因には、経済社会の規制緩和と競争至上主義が教育現場にも持ち込まれ、個人を尊重しない競争の教育で子供たちの精神がすり減らされることがある。さらに、規制緩和に起因する長引く不況のもとで、人権が軽視され、リストラ、過労自殺、ホームレスの増加等がおこり、競争に勝っても展望がないとの閉塞感が子どもの社会にも蔓延していることがある。また、国家の最高権力者や政府関係者の破廉恥行為や違法行為があとをたたず、モラルの崩壊と退廃が明白となっていることがある。即ち、暴力団と高級料理店で会食して全く問題とも感じていない森首相、国家の公金を横領し、或いは買収の手段とする外交機密費、違法献金によって国政をねじ曲げる腐敗が指摘されるKSD疑惑などである。
 この現状は、教育基本法が明記する「人格の完成を目指し、平和な国家及び社会の形成者として、真理と正義を愛し、個人の価値を尊び、勤労と責任を重んじ、自主的精神に満ちた心身共に健康な国民の育成」が、総理大臣の育成をはじめとしてなされていないことを示している。
 現在の少年の問題を解決するには、教育基本法の厳正完全実施こそが必要なのである。
 国家への忠誠心の喚起を意図して既に導入された「日の丸・君が代」の強制が、教育現場に無力感と不信感を蔓延させるだけであることや、非行や不祥事の温床が、暴走族や暴力団、警察、軍隊など滅私奉公型組織であることから、個人を押しつぶす「奉仕活動」の義務付けは、不要どころか逆効果であることはあきらかである。
 また、「大学入学年齢制限の撤廃」はいっそうの競争の激化と落ちこぼれた少年の無気力化を生むだけである。

 さらに、前述の「教育改革」の建前は、「教育改革」の真の狙いを意図的に隠蔽するものとして不当である。
 即ち、「教育改革」は、右に述べたように理由にならない理由で教育基本法や憲法の人権や個人の尊重といった理念を攻撃している。そのことからも、「教育改革」の第一の狙いは教育基本法・憲法の改悪そのものにあることは容易に推測できるのである。
 明治政府のもと、「教育は国家の基」とされ、その基本理念は帝国議会すら関与できないよう、天皇の「勅語」とされた。この「教育勅語」に基づき天皇への忠誠を子どもに徹底的にたたき込むことにより、日本は天皇制国家として形成され、天皇の命によりアジア各国への侵略への道を踏み出していったのである。
 現在の「教育改革」の真の狙いは、この「教育勅語」さながらに、教育基本法の改定と奉仕活動の義務化で青少年に国家への忠誠心を植え付けるとともに自由や人権についての感覚を摩滅させ、憲法を改悪して、日米軍事同盟のもと、アメリカとともに日本が世界各地で戦争に参加できる体制を完成させることにある。「奉仕活動」は、その時の「徴兵制」への露払いに他ならない。

 私は自由法曹団員として、憲法改悪と日本の戦争が出来る国への変質、徴兵制へ結びつく「教育改革」は絶対に容認できない。
 また、私の悩み多き少年時代の経験からも、不登校などの少年の悩み、苦しみを出汁に使い、教育基本法・憲法改悪へと誘導するという腐りきった「教育改革」のやり口は、絶対に許すことが出来ない。満腔の怒りを込めてこれを糾弾する。
 それとともに、現在の「教育改革」を必ず粉砕するための行動に立ち上がられることを、多くの皆さんに呼びかけるものである。
 なお、同趣旨の決議を青年法律家協会弁護士学者合同部会の三月の常任委員会に提案するつもりです。


新世紀の現実的課題としての核兵器廃絶

埼玉支部  大 久 保 賢 一

はじめに
 人間は、自然環境の中での生命体であり、社会的諸関係の中で生息する、自らを実現したいと欲求している個体である。私たちが、人間としての尊厳を保持しながら、個人としての可能性を追い求めようとすれば、その大前提として、自然環境の保全と、個人の自由と平等を承認する社会的システムが必要となる。逆にいえば、自然環境が破壊されたり、神聖にして侵すべからざる者による支配の下では、私たちの人間としての自己実現は不可能になる。私たちが、人間と人間社会の可能性を信じ、人間の人間に対する一切の暴力や、理不尽な利益誘導や、不条理な心の支配などの廃絶を求めるのならば、人間の命と自由と幸福追求権を侵害するあらゆる動きに対抗しなければならない。自然環境を保全し、人類社会の持続可能性を確保すること。自由と平等と自治の理念に基づく民主主義を徹底すること。人間が生まれてから土に返るまでの間、その生存と生活と発達の可能性が保障されること。これらのために私たちがしなければならない課題は山積している。

障害物としての核兵器
 そして、これらの課題を実現していく上で、もっとも大きな障害になっているのが核兵器の存在だ、と私は思う。核兵器は、人間とその社会的営みを、人為的に大規模に抵抗する方法がないままに根底から破壊する方法手段である。核兵器の使用によって多くの命が失われることはもとより、次世代以降の命と環境への負荷も無視することはできない。これらの失われるものの替わりに、核兵器の使用者たちは何を手に入れるというのだろうか。それがどのような美辞麗句に飾られていようとも、私はそれを承認しない。また仮に、核兵器は使用されることはなく、その存在自体が国際社会の平和と安定に役立っているのだとしてみよう。使用されることのないものに、膨大な人的・物的資源が投入されることになるのだ。壮大な無駄である。しかしその無駄の一方で、巨万の富を入手する軍事産業があるのだ。その資源と富が振り向けられるべき対象がないのだろうか。今地球上には、推定八億四一〇〇万人の人々が慢性的飢餓状態にあり、毎日一万九〇〇〇人の子どもたちが栄養不良などで死亡しているという(九六年MHO統計)。これらの事態を放置したままでの国際社会の秩序と安定とは何を意味するのだろうか。私は、このような形での秩序と安定を座視することはできない。核兵器の廃絶と使用禁止に向けて私たちは急がなくてはならない。

核兵器廃絶の可能性と核兵器条約
 核兵器の廃絶のためには、その意思と運動と体制が必要である。ただし、その前提として廃絶の可能性を確認しておかなければならない。ある識者は、五万発の核弾頭からウラン235やプルトニウム239を抜き取って一箇所に集めたとしても、約五〇トン、二・五‰の金属塊だとしている(「核廃絶は可能か」岩波新書)。放射能の危険性も使用済み核燃料より低いというのだ(このことは原発の危険性を浮き彫りにすることになるけれど、ここではそのことを度外視しておく)。
 核兵器の廃絶は物理的には困難なことではないのだ。そうすると、核兵器の廃絶のためにはその政治的意思決定がなされればいいことになる。その政治的意思決定とは、核兵器使用禁止と核兵器の廃絶を各国に義務付ける核兵器条約の制定である。その作業はいうまでもなく各主権国家によってなされることになる。各主権国家の国家意思の形成は、国民主権国家においては、国民の多数派によってコントロールされることになる。核兵器の廃絶あるいは「核の傘」からの脱却を求めようとする国民の意思が多数となるためには、核兵器を絶対悪とする人々だけではなく、平和と安全のためには必要であるとする人々の支持を得ることが不可欠である。自国の平和と安全への関心は、当然重視されるべきであろう。そうすると、核兵器の廃絶を願う私たちは、核兵器に依存しない安全保障体制を提案しなければいけないことになる。言葉の本来の意味での「集団安全保障体制」をアジア・太平洋地域に確立することが要請されるであろう。

北東アジアでの核兵器使用禁止
 けれども、この「集団安全保障体制」が確立されることと、核兵器の使用禁止とは、別の問題でもある。日米安保条約を存続させることと「集団安全保障体制」との並存は矛盾であるとしても、日米安保の下でも核兵器の使用を禁止することは政策選択として不可能ではないからである。例えば、北東アジア地域における核兵器の使用を制約する条約を締結すればいいのである。この地域での核保有国は、アメリカ、中国、ロシアである。これらの国の核兵器の使用を禁止する条件を作り出すことが緊急の課題であろう。そのために必要なことは、日本政府が「核抑止論」から脱却することである。私たちは「核抑止論」の理論的破綻を指摘するだけでなく、政府の政策変更を可能とする運動を作り出さなければならない。

非軍事平和思想と核兵器の廃絶
 ところで、核兵器の相互使用によって人類社会が滅亡してしまうとすれば、自国の平和とか安全は無意味になってしまう。けれども、自国が核兵器を使用することは可能だが、他国の使用を不可能にすることができれば、自国の平和と安全は保全することができることになる。他国の民衆を殲滅した上で確保される自国の平和と安全とは何なのかは問われるべきことではあるにしても、自国の生き残りは可能になる。国益のためには、殺戮も破壊も辞さないとする選択は、最も強力な軍事力を保持しつづけることによってのみ可能となる。そして、そのアメリカ政府と格下の同盟者としてのわが国政府はその政策を実行しているのである。
 私たちの政策提言はこれとの対抗関係の中で展開されなければならない。私たちの対案の基礎に据えられるべきは、日本国憲法の非軍事平和主義である。戦争と軍事力と交戦権を否定し、全世界の民衆の平和的生存権を承認する徹底した平和主義は、ただ核兵器の使用やその廃絶を要請するだけでなく、あらゆる戦争と軍事力の廃棄を展望しているのである。

国際会議の開催を
 私たちが、「非軍事平和思想を国際規範に」と世界に発信したのは、九九年五月のハーグ平和市民会議であった。東北アジア非核地帯の実現、核兵器条約と核兵器廃絶への道、そして非軍事平和思想を国際規範とするための方法などについて、私たちは継続的に研究し、行動していかなくてはならないであろう。
 日本反核法律家協会は、早稲田大学や国際反核法律家協会と協力して、今年八月上旬、これらのテーマでの国際シンポジウムと国際反核法律家協会の総会(八月五日・広島)を予定している。
 詳細についてはその都度お知らせすることとして、皆さんの物心両面にわたるご協力をあらかじめお願いする次第です。


ホームページ広報委員会からのお知らせ

支部活動をホームページへ

担当事務局次長  小 賀 坂  徹

1、ホームページのリニューアル
団のホームページへのアクセス件数は、二〇〇一年一月二五日現在で二四二〇六件を数えています。ところで、現在の検索サイトは「団の意見書」「団の声明」「団の決議」等という内容ですので、これを分野別にも検索できるよう四月をめどに改善する予定です。とともに団のホームページサイトのデザインを斬新かつ美麗なものに大胆に刷新する作業を進めています。団員・事務局の方からの公募を受けつけますので、腕に自信のある方、こんなん作っちゃったけどどうかなあという方は、三月中旬までにPDFファイルで団本部までお送り下さい。

2、リンクの充実
現在団のホームページにリンクしている団支部・事務所・団員は、埼玉支部、下関中央法律事務所・けやき総合法律事務所・名古屋法律事務所・富山中央法律事務所、前川団員(東京支部)・毛利団員(長野県支部)・中西団員(大阪支部)の一支部、四事務所、三団員です。ホームページを持っている支部・事務所・団員は少なくないと思いますので、どんどんリンクしてください。団本部までご連絡下さい。

3、支部活動の紹介
支部のホームページとのリンクの他に、本部のホームページに支部活動を紹介するサイトを作ろうと計画しています。二〇〇字程度の支部の紹介文をメールかフロッピィでお寄せ下さい。

 この他、団事務所の弁護士の求人情報をホームページにアップすることも考えていますので、詳細が決まりましたらあらためてお知らせします。
 ご意見等ありましたら、本部ホームページ広報委員会まで。