一、下諏訪ダム建設に関して住民訴訟(公金支出差止損害賠償請求)を提起して反対して来ました。
ところがこの二月二〇日、田中県知事は下諏訪ダムについて建設を中止することを決め、発表しました。
田中知事は、下諏訪ダムのみならず他のダムについても本体工事に着手していないもの全てを中止することを決め、その理由として、日本の背骨にあたる長野県においてダムによらない災害防止策をとることを全国に向けて発信したいと極めて格調高く「脱ダム宣言」を発しました。
二、下諏訪ダム訴訟は、一昨年五月一三日提訴以来一一回の公判を重ねてきました。
住民訴訟ですので、違法な財務行為は何かをめぐってすったもんだしておりました。これをクリアして実体審理に入ったかと思うと、また新たな法律問題を投げつけられ、思うように実体に突き進むことができませんでした。
昨年一〇月の第一〇回裁判でようやく裁判所も被告側に実体に関する主張についての認否・反論するように指示しました。
ところが、「ダム建設見直し」を公約にした田中知事が誕生すると、被告代理人は、新知事のスタンスが決まらないとして延期を求め、認否さえしません。裁判所もこれに乗って次回を三か月後に進行協議期日として指定してしまいました。
三、私たちは、県側の情報公開と県民との意見交換を掲げ実践する田中知事に対して直接メッセージを届けるように工夫しました。
去る一月二三日田中知事による現地調査と対話集会が開かれました。私もこれに参加し、冒頭知事に周りを取り囲む県職員の間をくぐり抜け、県側の一方的な説明の直後に田中知事に大声で地図を指し示しながら問題点をまくし立てました。これに田中知事もじっと聞いてくれ、そのうち質問をして来ました。あとは各現場で県側と住民側の討論会となりました。
私は、車で移動する知事の後を追って数百メートルの坂を駆け上って説明しました。これが大きくテレビや新聞で報道され、冷やかされもしました。
夜の対話集会も四時間にわたり、両派が言い合いました。私も毛利弁護士も裁判で明らかになったことを発言しました。
そのときは、田中知事は、「下諏訪ダムは、中止にした大仏・浅川ダムと異なって利水面もあるし、用地買収交渉も進められているので、直ちに結論を出せない」としめくくりました。これをめぐって、両派有利に解釈していました。
四、私たちは、知事に対して、直接裁判延期を容認しているのか、裁判外でも県側の主張を堂々と明らかにすべきではないかと問いかけました。
その一方、知事選直前の用地賠償価格協定調印は、何ら県側に賠償責任が生じないという法的根拠を解明した書面も届けました。
今回の発表前夜までいろいろな書面を書いては届けました。
五、知事に対する県議会・県庁ぐるみの妨害などで田中知事も「柔軟路線転換」が危惧されていた矢先、今回の発表で、まことに立派という以外にありません。
それにしても、裁判において、被告側が主張もしないのに、あれこれの法律的関門を設けてなかなか実体審理に入ろうとしない裁判所の姿勢を改革することは緊急の課題です。
もっとも、私たちも、当事者照会を駆使して、県側の資料を公開するなど工夫もしました。
今後県内各地の問題を田中知事に届け、協力しあって解決したいという意欲が湧き起ってくる今回の発表でした。
一 事案の概要
1 二月七日、縦貫道汚職事件(三田工業事件)の高裁判決が言渡された。本件は、川崎高速縦貫道用地買収に絡む汚職事件で、被告三田工業が、当時の用地部長に賄賂を贈って不当に払下げを受けた土地を川崎市に返還するよう求めた、かわさき市民オンブズマンが取組んでいる住民代位訴訟である。我々が横浜地裁で完全勝訴した後被告が控訴した。昨年七月一九日に予定されていた判決言渡がここまで延びたものである。
2 返還を求めた土地は自宅・事務所用の川崎区大島の土地と、事業用の大師河原の土地の二か所。
大島の土地は、払下げ前に三田工業が使用していた土地とほぼ同じ面積であり、払下げ価格もほぼ妥当なものであった。現在、三階建の自宅兼事務所の建設がほぼ完了している。
これに対し、大師河原の土地は、川崎高速縦貫道大師ジャンクション建設予定地の直近で、面積は払下げ前の土地の五倍、価格は時価より一億五〇〇〇万円も安く払い下げられている。
3 一審の横浜地裁では、両方の土地とも公序良俗違反で契約は無効として、売買代金と引換に川崎市へ返還すること(所有権移転登記の抹消)を命じた。
二 高裁判決の内容
1 大島の土地については、原判決を取消して三田工業の保有を認め、大師河原の土地については、控訴を棄却して川崎市への返還を命じた。我々の主要な標的は大師河原の土地であったから、基本目標は達成できたと評価できる。
2 判決は、大師河原の土地に関しては、賄賂の授受と払下げの間に明確に因果関係を認め、公序良俗違反に準じて無効と評価した。
ところが大島の土地に関しては、非常に苦しい無理な事実認定をした。すなわち、借家人に代替地を提供したこと、行政財産として管理されていたものを普通財産に管理替えしたことなど、極めて異例な契約であると認定しながら、賄賂の授受があった日が、代替地委員会の決済を得、川崎市が売買契約を締結する旨の覚書を締結した一か月ほど後であることをもって、贈収賄行為との因果関係を否定したのである。
その上、次のような言い訳までこじつけた。「飯塚(用地部長)は、知人から控訴人への代替地の提供を頼まれた際、代替地を提供してやれば、田村(三田工業の代表者)からそれなりの見返りがあるのではないかと期待しており、このような期待のもとに、大島の土地を代替地として提供する手続をしたこと、及び田村も、飯塚に代替地の払下げを申し入れた際、その後の交渉において代替地の払下げを受けるために、飯塚に飲食等の接待や金銭を提供しようと考えたことが認められるが、これらはいずれも、各人が内心で考えたにとどまるのであるから、右の事実は前記の認定判断を左右するものではない。」
これでは、事後収賄罪は全く成立しなくなってしまう。対象地の面積・金額が妥当なものであること、住宅地域で、既に自宅兼事務所の建築がほぼ完了していることなどを勘案した多分に政策的な判断であると考えられるが、それにしても社会常識に反する余りにも粗雑な論理構成である。
三 全国への影響
本件判決は、全国の市民オンブズマン活動にとっても、次の二点で画期的な判決である。
1 住民訴訟において、オンブズマンに原告適格を認めた。
弁論終結にあたり、裁判所は、オンブズマンの原告適格を認めた判例が存在するのかなどとたいそう気にしていた。調べてみると、情報公開請求訴訟に関しては判例もあり、法令上も問題はないが、住民訴訟に関しては原告適格を認めた判例が存在していなかった。しかし弁護団が膨大な意見書を提出した結果、今回の判決には原告適格に関してただの一行も言及されていなかった。これは裏を返せば、東京高裁が、判決で言及する必要もないほど、オンブズマンの原告適格に関しては何の問題もないというお墨付きを与えたことになる。
住民訴訟を闘う全国のオンブズマンにとって、間口論争で消耗する必要がなくなったことは大いなる成果である。
2 全国で初めて、財産的損害の発生は、住民訴訟の訴訟要件ではないと明確に判断した。
判決は、「住民監査請求及び住民訴訟の目的に鑑みると、地方自治法は、…当該普通地方公共団体が被った損害を填補するためのみならず、当該違法な行為を防止若しくは是正し又は当該怠る事実を改めるためにも、必要な措置を講ずべき旨の監査請求及びこれを前提とする住民訴訟を提起する権能を与えていると解される。」とした上で、「法律関係不存在確認請求と原状回復請求については、民法上も損害ないし損失の発生は要件とされていないから、住民訴訟においても同様に損害ないし損失の発生は要しないものと考えられる。」と判示した。結論は地方自治法二四二条の二第一項「四号後段の現状回復請求については、地方公共団体において現実に損害が発生したことを要件としない、地方公共団体の財務会計活動の適正確保を直接の目的とする制度であると解するのが相当である。」と明快である。
損害の発生の有無にかかわらず、行政の行なう財務会計行為についてその違法性、不当性を追求して闘うオンブズマンの実践活動にかなうもので、この実践的意義は大きい。
四 今後の闘い
本件判決が、大島の土地払下げについて賄賂との因果関係を認めなかった点は、大いに不満であるが、我々は敢えて上告しない道を選んだ。今、最も重要なことは、行政当局の時間の引き延ばしにより、本件事件の社会的問題性が薄まる前に本件事件を確定させ、
@犯罪行為に基づく、公序良俗違反の払下契約を法治国家の名において適正に糺すこと
A本件事件の徹底究明と再発防止の具体的方策を確立させること
Bそれを通じて川崎市と川崎市議会の民主化、活性化を図らせることだと考えたからである。控訴人(被告)三田工業も上告を断念したため、本件判決は確定した。
今後私たちかわさき市民オンブズマンは、川崎市に対しては、高裁の判決内容の早期履行とそれと連動する川崎市・いすゞ間の密約の全面撤回を、川崎市議会に対しては、自浄能力を失った川崎市行政につき本件事件の真相究明と再発防止の具体化を求めて、引続き奮闘する決意である。
リレー特集 各地でひろがる憲法運動 |
一、徳島では一九九三(平成五)年「憲法改悪に反対する徳島県民懇談会」(略して徳島憲法懇)を結成しました。
かつては憲法会議がつくられ活発に活動していた時期もあったのですが事務局の中心メンバーが病気で倒れるなどの事情があって、長く活動不在が続いていました。しかし強まる改憲の動きのなかで、全県民を対象にした超党派の草の根憲法運動をすすめる必要があるとの思いで結成に至りました。現在代表世話人は私を含め三名ですが、他のおひとりは、吉成さんといって、元自民党県会議員で、三木首相の秘書をしたこともあり、いまは民主党仙谷由人衆議院議員の後援会長でもあるというユニークな立場にある方です。もう一人は小川さんという女性ですが、小川さんは同時に「憲法を学ぶ徳島女性の会」の代表でもあります。世話人には共産党の書記長や新社会党の重鎮もいる一方、歌人やキリスト教の牧師も参加しているという具合で大変賑やかな顔ぶれが揃っています。
組織的には会員制や、団体加盟など、とはせずに会の趣旨に賛同する署名を求めていくようにしています。
二、設立後、八年目になろうとしていますが毎春五月三日の憲法記念日の前後、秋には一一月三日の憲法発布の文化の日、ないし一二月八日の太平洋戦争開戦記念日前後に記念行事を行ってきました。圧巻は一九九五年一二月一六日に開催した「戦後五〇年平和ミュージアムとくしま」であったと思います。これは実行委員会形式で実施しましたが中心になったのは憲法懇でした。県下最大五〇〇〇人収容の大ホールで中国から一〇〇万円かけて取り寄せた戦争被害描写の大絵巻をはじめ、戦争の実相をリアルに展示し、県民に大きな感銘を与えることができました。参加者も五〇〇〇人近くを数え、大成功でした。
財政的には失敗間違いなしとの前評判もありましたが、数百万円の黒字を生み、その後の運動の貴重な財産となっています。
三、さて最後に二〇〇〇年の取り組みを報告します。五月三日の憲法記念日には作家の早坂暁氏を招き「国民を守るとはどういうことか」と題する講演会を開催しました。従来も憲法を学ぶ女性の会とは度々共催してきましたが、今回は新社会党の方々が中心となっている「反核・憲法フォーラム徳島」の三者ではじめて共催し、三〇〇人の参加を得ました。今後毎年一回は 三者の共催企画を続けていこうと合意しています。一二月九日には日弁連人権大会でおなじみとなった辛淑玉さんをお呼びし「日本国憲法と三国人発言」というテーマで憲法講演会を開きました。辛さんの三時間近くにわたる縦横な話に満員の聴衆は最初から最後まで熱心に聞き(聞き惚れたと言ってもよい)入っていたのが印象的です。二〇〇一年からは「私は憲法九条改正に反対します」の一点に絞った署名運動を展開し、有権者の過半数以上を集めようと意気高くはじめています。
一、司法制度改革審議会が一月三〇日に行った国民の司法参加の議論によれば、次の点は決まったがその他の点はまだ未定とのことである。その意味で、朝日・読売等の参審制導入との報道は不正確で、陪審か参審かまだ明確ではないとする日経の記事が最も良く実際の議論状況を伝えるものである。当日の議論で決まった点は、
1、裁判員は、無作為抽出で、事件毎に選任されること
2、評決権を持ち、量刑にも関与すること
3、刑事の重大な事件に導入し、被告人には選択権はなく、争わない事件も含めること
4、判決理由は書くこと
等である。裁判官と裁判員の人数、具体的選任方法、選定手続を行うか否か、裁判官が事実認定に関与するか否か、訴訟手続の在り方等はまだ議論が詰められておらず、佐藤会長は、陪審を排除したものではないと、記者会見で述べている。審議会で次に司法参加を議論するのは、三月一三日が最終の予定で、そこで議論が詰められることになる。
二、ところで、この裁判員制が参審型のものであれば、任期制の参審よりも悪い制度になる可能性がある。問題点は、事実認定の問題と、訴訟手続の在り方の二点である。
まず、事実認定である。大阪弁護士会では、二月二・三日に「一二人の優しい日本人」という陪審映画の上映会を開催し、約八〇〇人の観客が詰め掛けた。この映画は、陪審員達が、最初は自分が何に疑問を感じているのか良く分からず、「何となくおかしい」、「フィーリング」等と述べていたのが、議論が進むにしたがって自分たちが何を考え、何に疑問を持っているのかが徐々に分かり、やがて全員一致に至る、という姿を描いている。素人の人が無作為抽出で選ばれれば、おそらく陪審の評議は、このように議論を続けていく中で徐々に自分の考えがまとまって行く、という形になると思われる。ところが、もしそこに裁判官が最初から関与したら、どのようになるであろうか。裁判員は、何となくおかしいと感じていても、それを最初から明確な言葉にして表現することはできない。これに対して、裁判官は、最初から明確な言葉で自分の意見を語る。これでは、裁判員が、裁判官の考え方に引きずられてしまうことは目に見えている。
従来、任期制の参審制についてさえ、裁判官と参審員では議論にならない、裁判官の意見に引きずられてしまうと議論をしてきた。ところで、任期制であれば、参審員はある程度裁判官との議論に慣れて自分の意見を早くから形成できる可能性がある。
しかし、それでも裁判官の意見に逆らうことは非常に困難であると思われる。ところが、それが、無作為抽出で事件毎に選ばれる裁判員であれば、裁判官との間で議論にすらならない可能性がある。無作為抽出で事件毎というと、一見陪審の一部を取り入れたかのように見えるが、実は事実認定上重要な問題があると考える。
三、次に、訴訟手続であるが、問題は、証拠能力のテスト、つまり伝聞例外のテストと自白の任意性のテストをどのように処理するのかである。
伝聞証拠についてみると、具体的な刑事手続の流れとしては、まず証人が証言し、弁護人の反対尋問によって検面調書と異なった証言が引き出される。すると検察官は、検面調書を伝聞例外として証拠申請し、特信状況の証拠調べが行われる。特信状況の有無について、かなりの時間を取って証拠調べが行われる。
自白調書については、弁護側が任意性を争えば、最初から取調べ状況についての証拠調べが行なわれる。これにはかなりの時間を要することとなる。
これらのテストを、裁判員は、裁判官と一緒になってするのであろうか。もしそうだとすると、裁判員をかなりの長期間審理に関与させることになり、裁判員の負担は非常に大きいものとなる。陪審であれば、証拠能力のテストは陪審公判前の準備手続段階で行い、陪審員は、証拠能力をクリアーした証拠のみについて証拠調べを見て評議する。集中審理が可能で、拘束期間はそれほど長くない。捜査全体の可視化が行われ、事前全面証拠開示が保障されればまだ弊害は少ないかもしれないが、それらがない現在の刑事手続を前提に考えると、裁判員の負担はかなりのものとなり、この負担の問題から、市民参加が見送られる危険も指摘せざるを得ない。
四、これらの問題点について早急に団内の議論をまとめ、公表していく必要がある。また、一部には、参審型の裁判員制を受け入れ、それをできるだけ良いものにしようとの意見もあるようであるが、審議会後の国会立法闘争をも展望すれば、今私達は、軽軽に妥協すべきではない。あくまでも陪審を主張し、参審型裁判員制の問題点を指摘し続けるべきである。
二〇〇一年二月五日の市民問題委員会の報告です。
一 終身借家契約創設の動きについて
国土交通省は、六〇才以上の高齢者を対象とする「高齢者の居住の安定確保法案」をまとめそのなかで終身建物賃貸借制度を創設することを発表しました。今国会に法案を提出したいとしています。
これによると、都道府県知事が認定した高齢者向けバリアフリー化優良住宅に限り死亡時に終了するという契約を締結することを認めるというものです。他方、同時に公的機関が一定の期間高齢者賃借人の保証をするという制度もつくり、高齢者が借りやすくするということも述べられています。高齢者の居住の確保という面では評価できる点がありますが、問題も少なくありません。
案では、終身契約なので家賃を一括前払いするという例が想定されていますが、中途解約等の場合の清算が不明確です。明確な清算規定をもうけるべきでしょう。
最も問題となりうるのは同居親族の承継の可否です。同居配偶者及び六〇才以上の高齢親族同居人については承継の道も認められてはいますが賃借人の死亡を知った後一ヶ月以内に居住の継続を申し出なければならないとされています。しかし、これは短期間に過ぎます。また承継できない場合の明け渡し猶予期間の定めも必要です。
さらに、このような終身賃貸借契約が高齢者の居住の確保を離れて歩き出さないように警戒しなければなりません。
二 定期借家制度の動向
定期借家制度が導入されて約一年が経過しました。しかしその利用状況は、首都圏でも一〇%程度にとどまっているとのことです。その理由として、更新がないので期限に出なければならないということが浸透し、借り主の不安感が強くなっており、他方市況が悪いことから家主は家賃が下がることを恐れていることなどがあげられています。
反対運動、定期借家制度の問題点を広めた成果があらわれているといえるでしょう。同時に、これは、この制度の導入が一般の貸し主側の要求からなされたわけではなかったことを示しています。
しかし、推進側は、定期借家制度は「家賃をきちんと支払っていれば問題のない契約であると説明すれば普及できる」などと述べていますので、今後、通常借家との違いを不明確にした説明がなされる恐れがあります。引き続き監視が必要です。
三 コンビニ・フランチャイズ問題弁護士連絡会設立
二月一三日にコンビニ・フランチャイズの弁護士連絡会が設立されました。連絡会の責任者は神田高団員です。今後いっそう各地でコンビニ問題が裁判所に持ち込まれることになると推測されますが、そのノウハウや情報はここに集まることになるはずです。