<<目次へ 団通信1087号(3月21日)
井上 洋子 | イギリスの一都市リーズから見たイラク問題 | |
毛利 正道 | 再び、核兵器開発断念と米朝不可侵条約締結の同時解決を求める | |
山本 真一 | 北朝鮮の核兵器開発問題について! | |
笹本 潤 | 三・一一イラク問題・国際法学習会の報告 | |
山崎 徹 | 「有事法制・国民保護法制 だれのため?なんのため?」のご紹介と普及のお願い | |
鈴木 寿夫 | もう一つの「司法制度改革」 | |
島田 修一 | 千代田区安全快適条例の危険性 | |
渡辺登代美 | お願い |
大阪支部(イギリス滞在中) 井 上 洋 子
昨年の九月からイギリス中部のリーズに来ています。英語力の限界のため情報量と正確度に大いに不安はありますが、聞きとり読み書きが不自由な者なりに感じたことを書いてみました。
1 新聞
我が家では新聞はインデペンデントを取っていますが、インデペンデントは戦争反対の立場で報道、評論ともに積極的な紙面を作っています。そのため、戦争反対の世論は決して小さくない、という印象を受けています(Broadsheetsといわれるページ数が多い日刊紙はインデペンデント紙〈独立系〉、ガーデアン紙〈左翼系〉、タイム紙〈保守系〉の三紙です。デイリーテレグラフ紙がそれに次ぐ保守系紙です)。
2 二月一五日の世界各国一斉デモと反対運動
私の住むリーズからもロンドンで行われるデモ参加者のための日帰りバスが出ていて、申し込めば誰でも参加できました。英語学校の先生がイラク問題の新聞記事を教材にしたり、自分もデモに参加するといったり、クラスでも「誰か週末にデモに行きましたか。」という会話があったり、とデモに参加することがとても自然な雰囲気があります。
私たち夫婦も行きたかったのですが、ずっと以前から他家からのお招きを受けていたのでキャンセルは申し訳ないと思い、残念ながらデモ参加を諦めました。
このデモは、ロンドンでは一〇〇万規模でしたが、マドリッドとローマではその約二倍の規模だったことが報道され、ロンドンに大きく水をあけているのでとても驚きました。ローマンカソリックの首長であるローマ法王が戦争に反対しているからかしら、と思っています。イギリスはカソリックよりも英国国教会が主流です。その英国国教会も戦争反対で行動していますが(昨年クリスマスには一斉に戦争反対の説教がなされ、その後もカンタベリーの司教の戦争反対の説教などが報道されています)、私の偏見によれば、英国国教会はその成り立ち(ローマンカトリックからの政治的影響を排除し、かつ、国家の経済的独立を強化し、かつ、ヘンリー八世が離婚する必要があったため、など)からして世俗的ですから、信者の熱心さではローマンカトリックに軍配が上がるのかしら、なんて思っています。
ニュースではブレア首相やストロー外務大臣の動向が報道されますが、彼らの行く先々では必ず戦争反対のデモがなされ、参加者がプラカードをもって叫んでいる場面が写っており、頑張って反対運動をしているなあと感じさせられます。
3 テレビー市民参加の討論番組
BBCテレビでは、政治家、有識者四、五名と約一五〇人の一般市民とがスタジオに会し、市民が質問し、意見を言い、それに五名が答えるという討論番組を毎週やっています。テーマはその週ごとに違うのですが、以前からイラク問題が時々登場しています。
また、BBCが特別番組としてブレア首相と市民の討論会を開いたこともあります。ブレア首相の討論ですから、この番組の内容、要点などは新聞でも報道されました。
こういった市民参加番組が多いためイギリスでは市民が政府要人に直接意見を言う機会に恵まれているという印象を受けています。
また、先日はヨルダンのアンマン市民とニューヨーク市民との二元中継討論番組をしておりました。ニューヨーク市民は(1)サダム・フセインは世界にとって危険だし、国内で人権侵害もしているから早急に排除する必要がある、テロの報復をするのは当然だ、などという戦争賛成派、(2)戦争で解決する時代は過ぎた、テロは警察、裁判という手続きを経て処理すべきであって戦争で報復したいとは思わないという戦争反対派に分かれていました。一方、アンマン市民は戦争反対一色で、サダム・フセインとテロの関係は証明されていない、アメリカは石油の利権が欲しいというのが本音で大量殺戮兵器や国内人権侵害は二番目の理由だと感じる、アメリカは遠くにいるから戦争が人ごとのように安易に思えるのだろうが戦争被害をどう考えるのか、といった意見を言っていました。
4 テレビーニュース報道など
アメリカについての報道の中心は国連安全保障理事会のコリン・パウエルです。ブッシュは演説場面のごく一部しか報道されず、「イラクは悪の元凶だ、悪い国だ。」と言っている場面だけが写るので、およそ説得力を感じず、パウエルの真摯なイメージに比してむしろ滑稽に写ります。
ハンス・ブリックス報告の報道は、当然ながらもっとも注目されて報道されています。一月末は「大量殺戮兵器を保有している証拠はない。が、調査には協力的でない。」といったものでしたし、二月に入ってからの報告も「一部ミサイルを壊した。」といった内容なので、イラクが危険であるという切迫した危機感、政府主張論の説得力がなかなかうまれません。
英国国会では、二月に「テロとイラクとの関係は薄い」という諜報機関の内部文書が漏れ、国会で話題にされました。
また、二月二六日には英国下院でイラク問題への対応について採決があり、「英国政府を支持し国連を通じてイラクの武装解除を求めることに賛成四三四、反対一二四、しかしイラクの武装が証明されていないので軍事行動しない、に賛成一九九、反対三九三」でした。戦争反対は議員の多数派ではありませんが(労働党の一部と自由民主党)、およそ一枚岩ではありません。
諜報機関の内部文書を機会にごうごうと非難が巻き起こるといった劇的な動きがなかったのは私にとっては意外でした。しかし、与党労働党にも戦争反対者が多く、そのことを堂々と表明したり、国会で投票を行ったりしているのとあわせ見ると、感情の安定した国だなあと思います。こういった国会の姿勢は、国民を戦争一色にせず自由な討議を許していると大いに評価できます。
フランス、ドイツが戦争反対歩調を取っていることはイギリスの市民を勇気づけていると思います。トルコ議会がアメリカ軍の基地使用を拒否したことも反対する市民には追い風のように思います。
しかし、英国の軍隊はすでに湾岸地域に派遣されており、哀しい家族の別れも報道されています。ヒースロー空港が厳戒態勢に入っていること、あちこちでテロ関連の逮捕があり手榴弾やライシン(毒)が発見されたこと、なども報道されており、テロの危険の臭いを嗅がされています。イラクが戦争の準備をしていることも報道されています。
ブレア首相は「戦争に反対する心情は理解できるが、イラクを放置できない。」とその姿勢が変わる兆しは見えません。
5 日本に関する報道
こういった動きの中で、日本に関するテレビ報道は、(1)東京でデモがあったこと、(2)イラクの炭疽菌化学兵器の関連で、日本が第二次世界大戦中、中国で炭疽菌を使用して市民が苦しみいまだに後遺症のある人のいること、の二つ以外はほとんど見ていません。
新聞の一面に世界地図がのり、軍事行動予定が矢印で示されていましたが、日本から中東へ米軍が移動することが太い線で書かれており、やっぱり日本はアメリカの支配下にあるなあと感じました。
イギリスから見えるイラクは、イギリスから見た第二次世界大戦前の日本のようなものなのだろうか、と感じます。化学兵器を使った国として日本が報道されるのを見ると本当に不名誉です。戦争準備のためにバクダッドで塹壕を掘っている人々の報道を見ると、日本が防空壕をあちこちに掘ったことを思い、国連に写るイラク代表を見ると国際連盟の席を蹴って脱退した日本代表もこんな表情であったのだろうかと考えます。先日ドキュメンタリー番組で日本の端正なゼロ戦が連合軍に打ち落とされ、元イギリス兵士がインタビューでジャップと言っているのを聞くと哀しくなりました。
6 雑感
今回の軍事行動予定図をみていると、良いとか悪いとかでなく、その土地の場所が国家の運命に大きく影響してくることは避けられないと感じます。アメリカが中東の石油を狙い、中国を牽制するために、日本、韓国の拠点を諦めることはあり得ないと思いますし、トルコ、中東は今回の戦争の影響をとても強く受けるだろうと想像します。また、英連邦各国は各地にちらばって米英の政治軍事の拠点となっており、イギリス帝国主義の遺産が今に息づいていることを感じます。アメリカはイラクからは遠く、また、その面積も大きく、地理的には今回の紛争の茅の外にいると感じます。
イギリスで普通に暮らしていて得られる情報はテレビのニュースと新聞です。情報は主として国内のもので、世界情勢は動きや大きい事件があったときだけ報じられます。日本にいても日本の国内情報が中心なのと同じです。それゆえ、どこに暮らしても世間は狭く、結局世界は小さな田舎の集まりに過ぎない、とつくづく感じます。そして、田舎であることを認識し、努めて広く外を見るようにしなければ、日々の生活と情報に埋没した認識しかできなくなる、と感じます。小国の国民なら田舎者でも構いませんが、世界の大国であるアメリカの政治姿勢を決定するアメリカの国民が田舎者で狭い視野しかもたない場合、その弊害は大です。アメリカ国民に対して、他地域の人がどんなことを考え、どんな暮らしをしているのかを知らせ、働きかけていくことの重要性をつくづくと感じます。
私がこれを書いている三月九日時点では状況は予断を許さず戦争回避の可能性も低いように感じられます。アメリカを世界の世論が包囲できれば、と望んでいます。
(二〇〇三年三月九日記)
長野県支部 毛 利 正 道
第一 問題意識
1 私は、自由法曹団通信本年一月二一日号所収の拙文「北朝鮮核兵器開発・拉致問題への視点」(http://www1.ocn.ne.jp/~mourima/kakuheiki.htmlぜひ本稿とともにお読みいただきたい)の末尾で、一九八五年以来の経過を踏まえつつ、北朝鮮の核兵器開発断念・米朝不可侵条約の締結・一九九四年米朝枠組み合意の遵守の三点を一体とする米朝合意が得られるよう緊急の働きかけをすることを訴えた。北朝鮮が、昨年一二月に核関連施設の再稼動を宣言・実行しはじめたことにより、一気に朝鮮半島を巡る緊張が激化し、しかもそれが日本政府によって有事法制制定の有力な口実にされはじめていたためである。
この緊張激化は、今年に入って、一月一〇日に北朝鮮がNPT(核拡散防止条約)からの脱退を正式に表明、IAEA(国際原子力機関)による国連安保理への北朝鮮核兵器開発問題の付託、ヨンビョンの黒鉛型実験原子炉を再稼動させる中(米国発表)でますます進行し、米国によると、ごく近い将来、これまでの使用済み核燃料棒から核兵器五〜六個分のプルトニウムを抽出できる再処理施設「放射化学研究所」を稼動させる見通しであり、そうなると一触即発的雰囲気になってくる。
2 もっとも、三月上旬の現在は、アメリカが、武力行使されたことに対する自衛としてしか国連憲章で認められていない戦争行為をイラクに対して違法無法におこなおうとしており、これに対する国内外の反対世論が燃え上がっている状況にある。ここでは、対イラク戦争を阻止する課題が中心であり、有事法制との関係でも、「このひどいアメリカがおこす戦争に日本の自衛隊と国民を強制動員しようとするもの」との批判が効果的である。米国が頼りにしている日本政府の支援を断ち切らせることは、対イラク戦争への最大のブレーキであり、特別の責務を帯びた日本国民の闘いとして、小泉内閣打倒まで視野に入れるなかで一層奮闘しなければならない。
3 ただし、この二月下旬以降、「政府は次第にイラクと北朝鮮を絡める方向へとかじを切っている」(朝日新聞三月四日)。「北朝鮮情勢が緊迫した時に、頼れるのは米国だけ、イラク問題で米国に刃向かってどうするのか」「イラクを許すと、北朝鮮の核兵器保有を認めることにつながる」「北朝鮮の核問題をよく考えないから、イラク攻撃反対の世論が強くなる」「日本には北朝鮮問題があるというと、イラク攻撃を支持する政府の態度をみんな分かってくれる」などとする発言が、安倍官房副長官・麻生自民党政調会長・高村正彦元外相・小泉首相などから一斉といっていいくらい出ている。
その点では、二月下旬から三月上旬にかけておこなわれた毎日新聞と長野県世論調査会の世論調査結果を無視できない。イラク攻撃反対は、どちらも八四%の高率であるが、毎日新聞では、北朝鮮の核開発問題について、「経済制裁などの強硬措置が必要だ」が一ヶ月前から一二%も増えて三七%となり、長野県世論調査会では、「日朝交渉で優先して取り組むべき懸案は」との問に対し、「ミサイル・核問題」が五ヶ月前から倍増して五九%となった。実際、私の経験でも、北朝鮮問題への考えを聞かれることが時々ある。
このように、北朝鮮核兵器開発問題に国民の多くが不安を強く感じていることは確かであり、かつ、この問題と絡められると、イラク攻撃反対の声が急速にしぼんでいく恐れがある。むろん、北朝鮮核兵器開発問題が有事法制を与党単独ででも採決する呼び水になり得ることは従前から指摘しているとおりである。
そうであれば、イラク・北朝鮮・有事法制という戦争と平和の課題に共通してかかわる北朝鮮核兵器開発問題について、国民にわかりやすい解明と提起を行うことが強く求められている情勢にあるとみなければならない(その場合、単に「北朝鮮が攻めてくることはありえない」といっても何ら説得力を持たない)。
第二 ブッシュ政権の北朝鮮に対する見方
1 共和党ギルマンレポート
北朝鮮との対話を重視すべきとする一九九九年九月一四日のペリー報告に対抗して、同年一一月三日に米下院のギルマン外交委員長を座長とする共和党九議員が出した調査報告書は、概略以下のように述べている(松谷俊史「アメリカの対北朝鮮政策―クリントン政権と議会共和党の対峙―」HP掲載)。
――(1) 北朝鮮は一九九四年の「枠組み合意」後も秘密裏に核兵器開発を続け、大量破壊兵器や米国を直接攻撃できるミサイルを開発するなど、脅威はこの五年で著しく増大した。
(2) 北朝鮮は短射程弾道ミサイルなどを開発し、生物化学兵器とあわせて、在韓米軍、韓国軍、市民らに多数の死傷者を与える能力を持つ。
(3) 北朝鮮はミサイルやその技術を南アジアや中東に輸出し、アジア・中東をはじめとして、世界の安定に対する脅威は増大している。
(4) 米国は北朝鮮に対する主要援助国となり、年二億七〇〇〇万ドル以上の援助をしているが、十分に監視されていない。こうした援助もあって、北朝鮮は他の資源を大量破壊兵器開発などに回している。北朝鮮は改革を拒みつづける一方で、米国などから援助をさらに引き出そうとしている。
(5) 金正日体制は圧政に依存し、人々は身体的、政治的に最悪の状態に置かれている。九四年以降少なくとも一〇〇万人が餓死し、飢餓児童が投獄されるなど、人権侵害も最悪といえる。――
ここでは、ペリー報告への対案は出していないが、翌二〇〇〇年に共和党から大統領選挙に出馬したブッシュ大統領とその政権がこのような認識を基礎としていることはその後の事態を見れば明らかであろう。
2 二〇〇二年一月ブッシュ一般教書
北朝鮮を「悪の枢軸」のトップに(抜粋)
――われわれの第二の目的は、テロを支援する政権が、大量破壊兵器によって米国や友好・同盟国を脅かすのを阻止することである。これらの政権の中には、九月一一日以後、沈黙を保つ政権もある。しかし、われわれには、彼らの正体が分かっている。北朝鮮は、自国民を飢えさせる一方で、ミサイルや大量破壊兵器で武装している政権である。――
――このような国々と、そのテロリスト協力者は、世界平和を脅かすために武装した、悪の枢軸である。大量破壊兵器を入手しようとするこれらの政権がもたらす危険は重大であり、また増大しつつある。彼らが、テロリストに大量破壊兵器を供与する恐れもあり、そうなれば、その兵器はテロリストが自分たちの憎悪をはらす手段になるのである。彼らが、わが国の同盟国を攻撃したり、米国を脅そうとすることもありうる。いずれの場合も、無関心の代償は破滅的なものになる。――
――あらゆる国が、「米国は国家の安全を確保するために、必要なことをおこなう」ことを認識するべきである。私は、危険が高まっているのに、何か事が起こるのを座視するようなことはしない。私は、危機が近づくなかで、傍観するようなことはしない。米国は、世界で最も危険な政権が、世界で最も破壊的な兵器により、われわれを脅かすことを許さない。――
3 つづく同年九月の「合衆国の国家安全保障戦略」並びに同年一二月の「大量破壊兵器とたたかうための国家戦略」において、アメリカは、「ならず者国家」北朝鮮から大量破壊兵器による急迫する脅威が放たれる前に、核兵器によるものを含む先制攻撃をする能力・選択肢を保持すると明言した。
第三 北朝鮮から見たアメリカ・日本
1 一九九九年七月二七日付朝鮮新報の目
――米国や南朝鮮、日本では、共和国の「ミサイル」などを口実に「北の脅威」を煽っているが、東アジア・太平洋地域における真の脅威は米軍の存在である。
現在、同地域には約一〇万人(南朝鮮に約三万七〇〇〇人、日本には約四万六〇〇〇人)の米軍が駐屯している。約一〇万人の米軍と、約六三万の南朝鮮軍(予備兵力は四五〇万人)、そして約二四万人の日本自衛隊が一体化して、人口二千数百万人足らずの共和国に対し、軍事的威嚇と圧力をかけているのだ。
とくに南に駐屯する米陸軍第八軍(二万七五〇〇人)は、核計画・作戦部隊を保有している。この事実は、朝鮮半島ではいつでも核戦争が起こりうる条件があることを示している。
また横須賀を母港とする第七艦隊所属の巡洋艦モービル・ベイや駆逐艦カーリス・ウィルバーなどには、射程一三〇〇キロの巡航ミサイル、トマホークが搭載されており、共和国全土を射程圏内に入れている。交戦状態にある米国のミサイルが共和国を狙っているのに、自衛のために共和国がミサイルを開発して配備できない理由はない。
さらに米軍は最近、第二の北侵戦争計画である「作戦計画五〇二七」を「作戦計画五〇二七―九八」に改定した。この新計画は、共和国の軍事的動きに対する「兆候判断」を先制攻撃の重要な条件に上げ、そうした「兆候」があっただけで、即時先制攻撃を行うようになっている。
有事に日本の港湾、空港、医療など民間施設を強制使用することなどを盛り込んだ新ガイドライン関連法案の成立は、新計画を後押しするものとなる。
また昨年一一月初から中旬にかけて、新計画に投入される沖縄・嘉手納基地のB1爆撃機、第七艦隊所属の空母キティーホークなどが参加して、米・南朝鮮合同軍事演習九八フォール・イーグル、米・日合同統合訓練キーン・ソード九九が朝鮮半島周辺海域で実施された。米、南朝鮮、日本による対共和国攻撃態勢は、まさに発動直前にある。このように朝鮮半島は、米軍が存在するがゆえに常に戦争の危険にさらされている。
――――米軍は、これまで半世紀以上も居座ってきた。朝鮮停戦協定には、停戦協定調印後三ヵ月以内より、朝鮮からすべての外国軍隊を撤収させる問題などを協議することになっていたが、米国側が五三年一二月一二日、一方的に会談打ち切りを通告してきたため、政治会談は実現しなかった。米軍撤退の根拠は停戦協定にも明記されているのだ。米軍が撤収してこそ朝鮮半島の緊張は緩和される。
停戦状態が四六年も続いているのはまさに異例である。そのため朝鮮半島では一触即発という不安定状態が続き、様々な問題が生じている。共和国が朝米協議にこだわるのは、米国が停戦協定調印の当事者であり、かつ南朝鮮に軍を駐屯させ政治・軍事・安保問題の実権を握っているからだ。朝鮮半島で強固な平和を保障するには、朝米間で平和協定が締結されなければならない。朝米が関係正常化のプロセスまでも明記した基本合意文を調印(九四年一〇月)した条件のもとで、交戦関係を規定した停戦協定を平和協定へと転換させ、敵対関係を解消することは至極当然なことだろう。米軍が撤退して朝米間で平和協定が締結されれば、それは朝鮮半島の緊張を緩和し、アジア・太平洋地域の平和と安定を促進するとともに、敵対関係にある朝米関係を不信・対決から信頼に基づいた新たな関係へと発展させることになる。(この部分要約多し)――
2 朝鮮外務省代弁人談話(二〇〇二年一〇月二五日朝鮮中央通信)
――一九九四年一〇月の朝米基本合意文第三条「米国による核兵器の脅威とその使用がないよう米国は北朝鮮に公式の保証を与える」の代わりに、ブッシュ政権は我々を「悪の枢軸」と規定し、核先制攻撃対象に含めた。これは、我々に対する明らかな宣戦布告であり、朝米共同声明と朝米基本合意文を完全に無効化したものだ。
ブッシュ政府は、われわれに対する核先制攻撃を政策化することで、核拡散防止条約(NPT)の基本精神を踏みにじり、(一九九二年の)北南非核化共同宣言を白紙化した。ブッシュ政府の無謀な政治、経済、軍事的圧力策動により、われわれの生存権は史上最悪の脅威を受けており、朝鮮半島には深刻な事態が到来することになった。
こうした状況下で、われわれが座視していると思えば、これほど単純な考えはないだろう。われわれは米大統領特使に、増大する米国の核圧殺脅威に対処し自主権と生存権を守るため、核兵器はもちろんそれ以上のものも持つことになるであろうことを明白に述べた。自主権を生命より大事にするわれわれにとって、米国の傲慢無礼な行動に対する答えとしてこれ以上妥当なものはない。
われわれが武装解除しなければ攻撃するという米国に、なんら事実を解明する必要はなく、その義務はなおさらない。しかし、われわれは最大の雅量をもって、米国が第一にわれわれの自主権を認め、第二に不可侵を確約し、第三にわれわれの経済発展に障害をもたらさないという条件で、この問題を交渉を通じて解決する用意があることを明らかにした。
朝鮮半島に醸成された深刻な事態を打開するために、われわれは朝米間で不可侵条約を締結することが、核問題解決のための合理的かつ現実的な方途になると認める。米国が、不可侵条約を通じてわれわれに対する核不使用を含む不可侵を法的に確約するのであれば、われわれも米国の安保上の憂慮を解消する用意がある。
小国であるわが国にとって、すべての問題解決方式の基準は、自主権と生存権に対する脅威の除去である。この基準を満たすためには協商の方法もありえるし抑止力の方法もありうるが、我々はできる限り前者を望んでいる。――
第四 最悪のシナリオ
1 北朝鮮に核兵器を開発保有する意思があるか。これについては、冒頭に掲げた拙文でも述べた昨年一〇月二五日の「核兵器はもちろんそれ以上のものを持つことになるであろうことを明確に述べた」とのスポークスマン談話、昨年暮れの使用済み核燃料棒八〇〇〇本の封印解除・再処理施設「放射化学研究所」の再稼動宣言に続き、今年一月一〇日にNPTからの脱退宣言がなされたことによって、その意思があることを否定する根拠はなく、少なくともその意思がある場合のことを念頭において対応を考えるべき段階にきていると言える。その気があるか、単なる交渉カードかと論争する段階ではなくなった。
脱退宣言では、「NPTから脱退するが、核兵器を製造する意思はなく、現段階において我々の核活動は、唯一、電力生産をはじめ平和的目的に限られるであろう」と述べているが、「核兵器廃絶に向かおうとする国際社会に挑戦するもの」との批判を世界から浴びること必定のNPTからの脱退を敢えて行う狙いが、核兵器製造に対する国際的封印を解くことにあるとしか見れないことが常識的であるし、「現段階」「あろう」などの曖昧な表現にも留意すべきである。
今の情勢が続く下で北朝鮮が核兵器を保有することは、それを他国への攻撃に用いる選択肢がなくもっぱら米国からの武力攻撃を防いで現体制の存続を図ることに目的があるものであるとしても、米国からの先制攻撃とこれに対する北朝鮮からの米軍基地がある韓国・日本への報復攻撃につながる、文字どおり「一触即発」状態をつくるものであり、到底認めることはできない。
2 この点で、北朝鮮・米国どちらから先に攻撃を開始するとしても、「第二次朝鮮戦争」が起きたらどのような事態になるかをリアルに見ておくことが必要である。この三月三日朝日新聞の「対北交渉の選択肢」と題する慶応大学教授小此木政夫氏の論説によると、次のとおりである。
―――「第二次朝鮮戦争」の意味するものは、日本人と朝鮮半島の住民にとって、あまりに重大である。ソウルが「火の海」になるのは避けられないし、在日米軍基地や人口密集地を標的に、日本にも数十発のノドン・ミサイルが撃ち込まれる。まさしく「日本有事」である。
米軍の準機関紙『星条旗』が報じたシナリオでは、休戦ラインの北側に密集する大砲とミサイル三〇万〜四〇万発がソウルに降りかかり、二四時間以内に約一〇〇万人が死傷する。釜山、浦項、大邱を襲うスカッド・ミサイルには生物化学兵器が搭載されるかもしれない。戦争が九〇日を超えることはないが、その間に北朝鮮は瓦礫の山となる。
戦火による犠牲だけではない。危機が差し迫っただけで、韓国では大規模な資本逃避が発生し、先般の通貨危機を上回る経済危機が到来するだろう。産業施設が大きく破壊されれば、経済破綻の長期化は避けられない。そのうえに廃墟と化した北朝鮮の占領と復興という新しい任務が生じる。
一〇〇万を超える北朝鮮難民という深刻な問題も発生する。多くは中国や韓国に向かうとみられるが、日本にも隠された難民問題があることを忘れてはならない。北朝鮮に帰国した約一〇万人の在日朝鮮人と日本人配偶者は、子孫や孫を含めてその何倍かに膨れ上がっており、日本への帰還を熱望するに違いない。在日韓国朝鮮人社会の協力を得て、受け入れ態勢を緊急に整備しなければならなくなる。―――
3 我々は、このような事態になることをなんとしても阻止しなければならない。そのためには、世界中の核兵器を廃絶することを求める分厚い国際世論を背景に、北朝鮮に対して核兵器開発の断念を迫っていくことは当然であるが、それだけで成算があるとは言い難い。そこで私は、北朝鮮が強く求めている米朝不可侵条約の締結と北朝鮮の核兵器開発断念(当然これに伴う検証体制や一九九四年合意を発展させた枠組み合意が必要である)の同時合意を目指すことを改めて主張したい。
第5 米朝不可侵条約の締結を
1 不可侵条約とは
相互に相手国に対して武力行使しないことを約束する条約であり、日本にとっては、一九三九年八月の独ソ不可侵条約や一九四一年四月の日ソ中立条約が有名である。近くでは一九八二年に南アフリカとスワジランドの間で締結しており、また、一九九七年九月に、パキスタンがインドに対して不可侵条約の交渉開始を提案している。不可侵条約には、「他の国が条約当事国と交戦状態になっても、他の条約当事国は、その他国を援助しない」ことを併せ定めることが多いが、これは、不可侵条約の必須要件ではない。
2 北朝鮮の姿勢
北朝鮮は、従来からもそうであったが、とりわけ昨年一〇月二五日の外務省スポークスマン談話などにおいて、九四年一〇月の米朝基本合意で米国は北朝鮮に核兵器による脅威・使用がないように公式の保証を与えたにもかかわらず、〇二年一月以来、核兵器で先制攻撃すると脅している、したがって、単なる宣言や書簡のように大統領が代わったり、その気が変わることによって簡単に破られる危険性があるものではなく、法的拘束力がある条約とすることが必要と明言している。これ自体納得がいく。
それ以降、再三にわたり、最も近くは、第一三回非同盟諸国首脳会議においてこの二月二五日に、一〇〇ヶ国以上の首脳・政府代表を前にして、米国が不可侵条約を締結するなら核兵器開発を検証可能な方法で断念・放棄する旨述べている。この自らの世界に向けた前言を翻すことは容易にできることではない。
3 米国の姿勢
米国のアーミテ―ジ国務副長官(東アジア担当)は、この一月一七日に、記者会見で「米国が北朝鮮を侵略しないことを書簡の交換や公式声明など何らかの形で文書化する方法がある」と述べ、続いて、二月四日には上院公聴会において「北朝鮮と直接対話を行わなければならない」と述べた。また、二月六日には、上院情報委員会のロックフェラー議員など主要議員らが、「米議会が北朝鮮不可侵の決議を採択する可能性がある」と述べた。米国は、今年一月三日の国務省スポークスマン発言までは、北朝鮮が核兵器開発を断念したことを検証することが先決として、不可侵条約の締結や北朝鮮との直接対話を拒否してきたが、その後、このように変化の兆しが出ている。
4 北朝鮮への一方的譲歩ではない
これまで述べてきたとおり、昨年一月「悪の枢軸」発言以来のブッシュ政権の先制攻撃がありうるとの方針は、国連憲章に反し、イラク攻撃をはじめ一九世紀のような戦争に明け暮れる世界を作り出すものであり、盛り上がるイラク攻撃反対の国際世論に裏打ちされているとおり、到底認められるものではない。また、これまでの北朝鮮による、米国が日本と一体となって北朝鮮に対して不当に軍事的圧力をかけてきたとの見方が一方に偏したものと一蹴する根拠もない。これまで、米国の世界戦略の問題性が大いに批判されているのに、北朝鮮問題となると、なぜかその視点が遠のくように見える。不可侵条約の締結を求めることは決して米国に不当な譲歩を迫るものではない。
この条約が締結されると、北朝鮮が韓国を攻めたときに米軍が韓国に加担できないとする論調があるが、この項の冒頭に述べたとおり、そんなことはない。そのような条項は不可侵条約の要件ではない。心配なら、米国は韓国・日本と安全保障条約を結んでいるのであるから、これら条約上の規定に基づく米国の義務履行の場合を除くと規定すればよい。
5 この課題は、日本政府として、米国とは独自に、日朝平壌宣言に基づいて北朝鮮・米国と交渉するにふさわしいものである。既にいろいろな角度から接触・交渉が始まっている米朝間とは別に、この課題を持って両国・韓国と交渉していってはどうか。そうすれば、いつもとは違った、日本自身の頭で考えた外交として注目も浴びるであろう。北朝鮮としては、日本が味方をしてくれるのであるから、その交渉の中で、拉致問題で進展姿勢を示すこともありうる。今、没交渉となっている拉致問題の前進にも寄与し得るのである。
北朝鮮にとっては更に、核兵器を持てば日本とも国交正常化がますます遠のき、日本からの経済協力も不可能となる。日本独自の姿勢を北朝鮮に対して示すことはこの面からも価値あることである。
日本としては、北朝鮮のTOPが誰であろうと、北朝鮮との平和共存をあくまで追求すべきである。人・物・情報・技術・資金の交流が盛んになる中で北朝鮮の人々が全体として幸せな方向に向かうことを期待しつつ。
6 北東アジア不可侵条約への発展も
米朝間で不可侵条約が締結できれば、在韓米軍を少なくとも大幅に削減させることができるであろうし、北朝鮮も民政に国家資金を回せることになる。在日米軍基地についても一定の連動はありうる。北東アジア四ヶ国相互間での不可侵条約も見えてくる。北東アジア非核地帯条約は、アメリカ・中国の核政策もかかわってくるから直ちには難しいであろうが、不可侵条約が先行する形なら米国としても韓国・日本に核兵器を持ち込む必要性が乏しくなってくるから、この条約も見えてくることになろう。
7 日本政府にこの政策を採らせる民衆の闘いを
日本政府にこの米朝不可侵条約と核兵器開発断念との同時解決を米朝に対して迫る姿勢に立たせる必要がある。日本の民衆の闘いによって。できることなら、私の提起を各方面においてご検討いただきたい。
東京支部 山 本 真 一
「北朝鮮の核兵器開発問題について、国民のみなさんにわかりやすい解明と提起を行うことが強く求められている情勢にある」という長野の毛利正道団員の提起に賛成です。
以下は、東京憲法会議第三八回総会への報告として私の書いた論考です。ご参考にしていただければ幸いです。
=アメリカのイラク攻撃を阻止し、朝鮮半島の平和を実現し、有事三法案の廃案をかちとる課題=
帝国と化したアメリカの一方的なイラク先制攻撃がこの二〜三月にも実現するかもしれないといわれていました。しかしこの国連憲章も国際法も無視した米英の行動に対して全世界から「戦争ノー」の声が巻き起こりました。二月一五日にはロンドンの二〇〇万人のデモをはじめ、六〇〇以上の都市で二〇〇〇万人近い人々が反対の行動に立ち上がりました。日本でも七八%の人がイラク攻撃に反対です(二月二五日朝日)。数千人の若者たちも次々と銀座や渋谷での反対行動に立ち上がっています。二月一四日の明治公園の反対集会には二万五〇〇〇人の人々が決集しました。
米英の政府はこの世界の世論を無視できなくなり、武力行使を容認する国連安保理の新たな決議を求めはじめました。世界の歴史上はじめて一人一人の市民の声が、超大国の戦争政策の実現を押し止めつつあります。まさに日本国憲法九条の精神が世界を覆いはじめています。
しかし日本政府は圧倒的な反対の世論を無視して、早々とイージス艦等をインド洋に派遣してアメリカへの支援行動を開始しています。二月一八〜一九日の国連安保理での公開協議では、六二ケ国中五二ケ国がイラクに対する査察の継続を求めたにもかかわらず、日本は米英の武力攻撃の方針に賛成することを表明しました。世界を戦争に導く三悪人はアメリカ・イギリス・日本だという評価をされるようにさえなっています。
一方、朝鮮半島でも戦争の危機が高まっています。アメリカのブッシュ政権は北朝鮮を「悪の枢軸」の一員と規定して、九四年の米朝合意を意識的に無効化しようとしました。
さらにアメリカは昨年一〇月一六日、北朝鮮の核開発問題を意図的に暴露して、日本・韓国等の北朝鮮への平和的な接近はアメリカの歓迎しないところとの態度を示唆しました。そしてアメリカは北朝鮮が執拗に求めている米朝間の直接対話を拒否し続けています。これらのアメリカの挑発に対して北朝鮮はNPT(核拡散防止)条約からの脱退を宣言する等の行動を開始し、「核保有だけが北朝鮮の安全保障だ」という姿勢を見せはじめています。マスコミ各紙は、現在のところは、これらの北朝鮮の行動はアメリカを交渉のテーブルにつけるための脅しの政策(瀬戸際政策)だと評価していますが、最近は北朝鮮が本気で核兵器の抑止力による安全保障を考えているかもしれないとの意見も出はじめています。
いずれにせよ、北朝鮮が核兵器の保有や運搬手段である弾道ミサイルの保有にむけた動きを強めれば、いずれアメリカが北朝鮮に対する武力行使に踏み切る可能性は極めて大きくなります。第二次朝鮮戦争にまで至るおそれも否定できません。
他方、韓国では金大中大統領の太陽政策の継続を掲げた盧武鉉大統領が当選し、二月二五日から正式に大統領としての執務を開始しました。盧武鉉大統領も、彼を当選させた韓国民衆も、朝鮮半島に二度と戦火を起こさせないとの決意の下にアメリカと北朝鮮との間を調停する動きを強めています。韓国国民が北朝鮮に対する武力行使を容認する可能性は極めて小さくなっていると思われますので、アメリカが武力行使に踏み切ることはできないという意見もありますが、楽観的すぎると思われます。九・一一以後のアメリカの凶暴さは全世界が反対しても武力行使に踏み切ろうとしているイラクの例をみれば、過少評価はできません。この事態を踏まえて、中国・ロシア等も朝鮮半島の非核化や核問題の平和的な解決を求めて、北朝鮮の説得に動きはじめていますが、「アメリカからの体制存続の保障」を求める北朝鮮は、アメリカとの直接二国間交渉を求めて譲ろうとはしていません。
一方、昨年九月一七日に日本の小泉政権は日朝平壌宣言を締結して、東アジアの平和と安全に向けた大きな一歩を踏み出しました。しかしこの積極的な姿勢も、アメリカの「日本に勝手なまねはさせない」という抵抗に合うと、途端に腰砕けになり、その後はアメリカのいうがままの「属国」路線に再び回帰してしまいました。しかも小泉首相はこの外交方針の転換を国民の目からそらすために、「国の政策として」一時帰国した拉致被害者は北朝鮮には返さないという外交政策としては無責任極まりない強硬姿勢を取ったり、韓国・中国の最も嫌がっている靖国神社への三回目の参拝を行ったりしています。さらに北朝鮮の不正常な行動に対する日本国民の不安を梃子として、有事法制三法案の成立を狙っています。
しかし小泉政権のこのアメリカべったりの戦争追随路線も、本年二月一八日のイラク攻撃に関する国連安保理での公開協議で武力行使を容認する安保理決議に賛成する態度を明確にしたことで国民の目にもはっきりしはじめています。八割近い国民が反対しているイラク攻撃を積極的に容認するという小泉内閣の無責任極まりないアメリカの戦争への追随路線に対して、もはや国政をこのような内閣にまかせてはおけないという声も次第に大きくなり始めています。いまこそ日本の平和と民主主義を護り発展させる全ての勢力を結集することが急務になっています。 (三月一日記)
東京支部 笹 本 潤
1 アメリカによるイラク攻撃が行われようとしてる最中の三月一一日(火)、参議院議員会館・第一会議室において名古屋大学の松井芳郎教授(国際法)によるイラク問題の学習会が開かれました。
主催は法律家六団体(日民協・自由法曹団・国法協など)で国会議員、弁護士など約七〇人が参加しました。国会議員は出席議員一二名、秘書三名でした。
学習会の最後には、民主党の広中和歌子議員から女性議員による小泉首相への要請の説明、衆参議長宛の請願書の集約(共産党松本善明議員に手渡す)がありました。
2 松井教授の講義の要点は、
イラク攻撃に関しては、手続的規定は国連憲章の四二条(五一条は問題にもされなかった)ですが、
(1)なぜ査察違反が平和に対する脅威かの説明義務が尽くされていない、
(2)イラクが大量破壊兵器で攻撃する緊急の脅威がないのになぜ武力行使が必要なのかの説明がアメリカからされていない、などの点で四二条の要件が満たされていない。
(3)イラクへの攻撃は、武力行使禁止原則の例外にあたるのだから決議にも明記されなければならない、などの点で問題がある、とのことでした。そして世界の国際法学者も今のアメリカの動きには危機感を抱いているとの指摘も新鮮でした。
3 学習会の後半二〇分は「週刊イラQ」編集・発行人の川崎哲氏から、イラクをめぐる国連決議と査察スケジュールについ説明がありました。三月一一日現在は国連1441決議の適用が修了し、1284決議(三月末に継続した監視と検証が完全に機能した後、一二〇日間イラクが完全に協力すれば制裁を一時解除するという決議)が適用されている時期だから、アメリカらの決議案、修正案を出すこと自体が安保理決議の流れに反している、むしろ撤回を迫るべきとの指摘がありました。
4 主催者の方から松井教授の講義録が今後正式に発行されるかもしれませんが、とりあえず私の講義メモを参考にして以下に内容を講義内容の要旨を報告します。
「新安保理決議を論じるに際しての国際法学の基礎」
1 イラク危機をめぐる議論の状況
*国際法の構造を踏まえていない議論が多い
・「選択肢を広く」「同盟国支持は国益」という議論→あらゆる選択肢があるわけではない、日米安保も国連憲章に従わないといけない
・「査察違反があれば」→すぐ武力行使とはなるわけではない
・「安保理決議がない武力には反対」→決議があればすべての武力行使が合法かという問題がある
国際法学者は危機感を感じている。イギリス、フランスでも国際法学者の声明が出ている。日本の著名な学者も「日本でもイギリス・フランスのようなことができないだろうか」と私に電話があった。
2 国際法の歴史
1) 正戦論 =正当原因を持つ戦争だけを正しいものと見る考え方
キリスト教神学の影響、懲罰戦争観
主権国家はそれぞれ平等であり両者の主張を認めざるを得ないから、正戦論は実定法にはならなかった。
実際上も、戦闘の残虐化を招くことになる。また中立が不可能になるから戦争を拡大することになるという結果を招いた。
2) 無差別戦争観 =戦争に訴えることは規制しない。起きた戦争の行為だけを規制をする考え方(いわば紳士間の決闘ルールのようなもの)
国は、(1)戦争原因の自由、(2)戦争決定の自由を有する。戦争決定、戦争手続をルール化したものだが、戦争自体を合理化することにもなり戦争は野放しになる。また、ヨーロッパの国同士のみ適用され、アフリカなど植民地などの植民地戦争などには適用されず不平等な適用の結果にもなった。
3 国際連盟規約と戦争の制限
1) 伝統的国際法への批判
武力行使違法化への運動が世界各地で起こった。
・ラテンアメリカ 債務回収のための武力行使禁止→仲裁裁判などの国際法
・ヨーロッパ 第二インターナショナルの貢献
2) 国際連盟規約
戦争の「モラトリアム」 全ての戦争を禁止したわけではなかった
・連盟理事会の採択できない場合は戦争可能
・裁判に従う国には武力行使できない。
・宣戦布告すれば戦争始まるが、戦意の表明しなければ、連盟規約に違反しない。満州事変など
しかし、「戦争決定の自由」を目指す一九二四ジュネーブ議定書(平和的解決をめざすもの)や一九二八年の不戦条約においてはすべての侵略戦争が禁止された。一九三三年「侵略の定義」に関する条約(ソ連)では、攻撃進入を先にやったものが侵略、経済的原因では正当化できないことが定められた。
国際連盟規約には二つの側面があった。
(1)ベルサイユ体制の維持(戦勝国に有利)
→現状の国際法に満足している国に有利になる。国際連盟の多数派、大国に有利
(2)ソ連成立による体制対立 ex日本のシベリア出兵vsソ連の革命戦争論
→原因の規制は不可能になる
4 国連憲章と武力行使の違法化
1) 国連憲章では、武力行使禁止原則の確立と集団安全保障の強化が定められた。
武力行使禁止原則の例外
(1)武力行使がある場合の集団的・個別的自衛権(五一条)
(2)七章に定められた場合「平和に対する脅威、平和の破壊、侵略行為」の場合(四二条など)
イギリス、フランスの国際法学者の書簡では、二つの例外について「個別・集団的自衛権、安保理決議による集団的措置にイラク攻撃はあてはまらない」と明確に指摘された。
2) 集団的安全保障の決定を安保理決議に委ねた
軍事的強制措置を安保理の権限にした。〈ほえるだけ(国際連盟)→噛みつくことができる(国際連合)〉とたとえられた。
しかし、安保理への集権化が問題である。二四条の規定のみで、裁量権が広い。しかし、すべて決議が正当とは保障されていない。このことは、手続が正当化されると内容まで正当化される恐れがあるという点で危険性がある。
そこで安保理決定に対する恣意的な権限の規制が必要になる。
・「戦争原因の自由」に対する規制→国連総会の決議「侵略の定義」など
→戦争の正当原因の当否については、結局は手続正義の枠内に収められた。実質的正義は貫かれなかった
・「戦争決定の自由」に対する規制→国連総会、国際司法裁判所によるチェック。
イラク問題においても「安保理の決定がなければ武力行使には反対」という意見はそれ自体正しいが、安保理が「戦争決定の自由」を掌握することによって、「戦争原因の自由」の操作が可能であることに注意すべきである。
3) イラク問題
1441決議 三カ国決議案。同修正案→武力を使っていいとは書いていない。
米英の論拠は、「湾岸戦争の武力行使容認決議が678決議。停戦決議が687決議。これにより軍縮義務をイラクに課した。停戦はイラクの義務履行が前提。そしてイラクの義務違反を認定→だから、687決議から678決議が生き返るという論理。」というもの。
しかし、なぜ査察違反が平和への脅威となるかの説明がなされていない。また、違反認定だけが安保理の権限のはずであり、武力行使まで1441決議には書かれていない。国連憲章の例外なら明確に書かれる必要がある。イラクが大量破壊兵器で攻撃する緊急の脅威がないのになぜ武力行使が必要なのかなどなぜ武力行使でないとだめなのかの説明もない。また、集団的措置は安保理に監視されなければならないはずである。
他の軍縮条約では、NPTはIAEAの査察制度あり、化学兵器禁止条約では、査察制度があり、細菌兵器禁止条約では安保理の調査制度あるが、これらの条約には査察違反で武力行使とは書かれていない。武力行使をするには決議で明文化する必要がある。
国連の強制措置はあるが、少なくとも個別国家が武力行使をするとは国連憲章は夢にも考えていない。平和への脅威が明白にならない限り、武力行使論は二重にも三重にもスキップした議論である。
5 むすび
この間の、コソボ(人道的干渉論)、アフガン(対テロ戦争)、そしてイラクの流れは、「戦争原因の自由」のレベルの正戦論が復活してきたと言ってよい。かつては「戦争決定の自由」の手続的規制が議論されてきたが、現在は実質的な戦争正当化原因の議論になってきている。
ベルサイユ体制で戦争違法化が始まったが、当時のカールシュミット(ナチス)によるベルサイユ体制への批判は現代にもあてはまる。カールシュミットは、「(1)戦争の原則的禁止は武力行使合法化のためのもの(2)戦争原因正当化の押しつけによる戦争拡大、(3)敵は絶対的敵となる」とベルサイユ体制を批判した。
しかし、(1)のような正戦論は今声高に叫ばれ、(2)はブッシュによる二分論(テロに賛成するのか否か)に見られる押しつけとなって表れ、(3)は核兵器などの非人間的兵器が使われようとしていることに表れている。
提言としては
1) 手続的規制の強化の必要
正当原因に基づいた規制だと大国の価値観に基づいてしまう
そこで手続を守らせることが重要になってくる
2) しかし武力を使わないでいかに国際協力で対処していくかという代替手段を呈示していく必要がある。そうしないと大量兵器保有などの現状維持を肯定してしまうことになってしまう。
担当事務局次長 山 崎 徹
イラク情勢は緊迫した局面を迎えています。国連加盟国の圧倒的多数が国連の査察による平和的解決を求めるなかで、米国は、「アメリカの安全保障にかかわることに誰の許可もいらない」などとして、安保理決議なしでもイラクへの先制攻撃に踏み切ることを言明しています。国際法や国連憲章を蹂躙し、無法な戦争に突き進もうとする米国・ブッシュ政権。そして、日米同盟を理由に、米国の戦争政策に対して無批判に追随する日本の小泉政権。政府は今通常国会でも引き続き「有事三法案」の成立を狙っていますが、「有事三法案」が米国の世界戦略のためにあることは日々明らかになっています。
団の有事法制阻止闘争本部では、有事法制阻止のための活動として、今般、学習の友社からブックレット「有事法制・国民保護法制 だれのため?なんのため?」を出版しました。昨年三月に出版した「有事法制 だれのため?なんのため?」の第二弾です。今回のブックレットは、昨年の国会論戦で明らかになった「有事法制の本質」、昨年九月に発表された「ブッシュ・ドクトリン」、政府が法案準備を進めている「国民保護法制」など、今後の運動に必要と思われるテーマを分かりやすく説明しています。
とりわけ「国民保護法制」に関しては、「国民保護」を口実に、後方社会でどのような「戦争協力システム」が作られ、国民が統制・動員されていくのかをできるだけ具体的に解説しました。
政府は、昨年一一月、「国民保護法制」の「輪郭」を作成し、今年に入ってからは地方自治体、業界団体などに対する説明会を実施しています。そして、「有事法制」への国民的な批判を意識して、ことさら「国民保護法制」を強調し、まるで有事法制が「国民保護」のためにあるかのように見せかけようとしています。
今後、有事法制阻止の運動を進めていくうえでは、有事法制の「攻撃的」な本質を明らかにするとともに、「国民保護法制」の虚構とねらいを暴露していくことが不可欠です。
是非、多くの団員の方にブックレットをご購読いただき、普及についてもご協力をお願いしたいと思います。
東京合同法律事務所事務局員 鈴 木 寿 夫
二年ほど前、ちょっと変わった事案なので一緒に聞いて欲しいと弁護士に求められ、ある執行事件の債務者の相談に同席したことがある。その債務者は建物の一室を借りて会社の事務所として使用していたが、ある日突然執行官が訪れ、明渡しの催告をされたので相談に来たとのこと。ところがどういうわけかその時の執行調書は交付されておらず、その前にも裁判所からは特に通知はなかったのだという。その一年ほど前に裁判所から賃貸借関係の問い合わせがあり、やはり執行官が来たとのことなので、建物が競売されて引渡命令による執行がなされているのだと想像はついたが、引渡命令時の審尋もなく、執行調書も交付されていないと言うのはどうも納得がいかない。とりあえず委任状を貰い記録の閲覧をすることとした。
翌日、早速建物の占有者の代理人として競売記録と執行記録の閲覧謄写をしてがく然とした。競売記録の現況調査では、確かに賃借権の存在自体について疑問視され、買受人に対抗できない旨は記載してあるが、建物の一室をその会社が使用し占有していることは明記されている。しかし、引渡命令の債務者にはなっておらず(債務者は建物の所有者のみ)、明渡しの強制執行事件ではなんと占有補助者にされているではないか。登記された会社が看板を掲げ事務所として実際に営業しているにもかかわらず、独立した占有を認定されていないのである。建物所有者にだまされ多額の保証金を払って一室を使用していたこの善意の債務者は、なんと執行妨害の占有屋と誤解され、その予断に基づきかなり乱暴な強制執行手続きが行われようとしているのだとようやく事態が認識できた。
この事件の顛末は省略するが、そんな経験もあり「担保・執行法制の見直し」についての論議に注目していたが、二月五日法制審議会で決定された「担保・執行法制の見直しに関する要綱」の内容には強く疑問を感じる。短期賃借権の保護を見直し、占有屋等の執行妨害対策を理由として明渡強制執行手続きのさらなる簡素化を行うのだという。また、債務名義上の債務者に対し、裁判所で財産の開示を求める手続きを新設するという。これらの点につき弁護士会や法律家団体(団も含め)から今のところあまり大きな反対の声が上がっていないようで、私には少し意外な気がする。
この改正がなされれば、要するに抵当権のついたアパートを借りるときはいつでも追い出される覚悟をしなさいということになり(普通抵当権者にまで賃借権を認めさせる契約はできないでしょうから)、建物や部屋を借りていれば、いきなり強制執行の債務者になり簡単な手続きで明渡しの強制執行を受ける可能性も容認しなさいということになり(承継執行文も不要、仮処分時の占有者の特定も不要、動産の引き渡しができない場合には即売却が可能)、さらに債務名義を取られるような債務者は強制執行の対象物を自ら申告しなさいということになる(この発想は弁護士報酬の敗訴者負担の発想とよく似ているのでは?なお、私が幹事を務めている全国法律関連労組連絡協議会は、二〇〇一年に発表した『司法制度改革の提言』の中で、弁護士法二三条の二の照会手続きを真に実効性のあるものにすること、債務名義の所持者による執行裁判所を通じた新たな照会制度を新設することを提案している)。
確かに債権者側の立場での実務を考えると、このような執行制度は便利で楽だろう。実際に実務に携わる立場でその効率だけを考えれば大歓迎ということになる。しかし司法の現場で働く一人の労働者として、強制執行のある意味では生存権そのものにも直結する場面をいくつも見てきた経験から、そんな楽や手抜きは絶対にするべきではないと思う。
たとえば、賃料滞納で明渡の訴訟を起こし判決が出され強制執行に行く。債務者は子供を抱えた病気がちの母親で、働く場所もないし追い出されたら住むところもない。もちろん、家賃を払わなかった債務者が悪い、しかしこのような場面でもあくまでも迅速な明渡手続きをすることが正しいのであろうか?弁護士に依頼者を説得してもらい、福祉事務所や病院とも相談し、債務者の最低限の生存権を確保しつつ手続きを行うのが、私たちの常識的な対応であるし、それが正しいことだと考える。
司法制度改革全体の流れにも通じることではあるが、改革の名の下に「迅速」「大量処理」という強者の論理と裁判所の都合を優先し、債務者や力の弱い者の権利、そして適正手続の確保という本来司法が大切にしなければならないものを軽視し切り捨ててゆく、そんな大きな流れがこの改正要綱の根底にもあるように思われる。
司法制度改革は、司法制度改革推進本部の検討会だけが舞台ではない。この「担保・執行法制」だけでなく、法制審議会で次々と出されている「要綱」、今後法案化される予定の様々な司法改革関連の法改正についても、もっともっと注意深く検討するとともに、自由法曹団の弁護士とその事務所で働く事務労働者は、現実に実務の上で先取りされている、様々な場面での「迅速」「大量処理」についても、社会的弱者の権利保護や適正手続きの確保の視点で一つ一つ点検してゆくことが必要なのではないだろうか。
東京支部 島 田 修 一
1 まちがきれいになった!
“歩きたばこ禁止―全国初の罰則つき条例”と報道された本条例が〇二年一〇月一日施行された。タバコや空き缶のポイ捨て、歩きタバコ、置き看板などの路上障害物がまちの環境を悪化させており、もはやモラルを期待した生活環境の改善は限界があるからルールを定めて防犯・防災その他安全で快適に暮らせるまちづくりを実現するというのである。そのルールは、本来マナーで解決すべき行動を罰則の威圧で禁止し、違反者に厳しい制裁を課している。歩きタバコ、廃棄物のポイ捨て、落書、チラシの散乱、風俗チラシ配付、のぼり旗や貼り札の放置、看板類や商品類の放置、自転車放置、犬糞放置などを禁止。違反者には区長が改善命令を出し、従わなければ氏名公表。区が指定した「環境美化浄化推進モデル地区」「路上禁煙地区」内での違反には過料(二万円以下)、前者の地区内で違反し改善命令に従わなければ罰金(五万円以下)である。
施行後、番町麹町、有楽町、水道橋駅周辺、靖国通り、お茶の水駅周辺、秋葉原駅周辺、神田駅周辺、富士見の八地域を「地区」に指定(このほかに「違法駐車防止重点地区」)。それら「地区」を四名一組の指導員が一日三交替、ユニフォーム着用、携帯電話・告知書・弁明書・過料処分通知書・誓約書・改善措置命令書・違法駐車警告ステッカー・放置自転車警告札・ごみ袋・携帯灰皿を所持して巡回。質問、書類作成、相手の動向監視、相手との間合い確保という役割分担で、八時から二一時まで(土日祝は一〇時から一七時)毎日巡回し、違反者に注意・指導を行い、すでにタバコ一七五九人、置き看板二〇件の過料徴収の?成果?をあげ(本年一月三一日時点)、広報『千代田』(〇三年一月二〇日号)は、「JR秋葉原駅付近四ケ所の定点観測によると、条例施行前の九月末には吸い殻の数が九九五本ありましたが、一二月末には三三本となり、確実にまちがきれいになっています」と効果を絶賛。ほかにも、ポイ捨て者には吸い殻を清掃させ、氏名黙秘者に対しては特徴を記入した報告書提出である。
2 自主・協力・連帯
しかし、本条例の眼目は規制を強化して行政主導でまちづくりをはかるものではない。「区民等は、相互扶助の精神に基づき、地域社会における連帯意識を高めるとともに、相互に協力して、安全で快適なまちづくりの自主的な活動を推進するよう努めなければならない。区民等は、区及び関係行政機関(警察を含む)が実施する施策に協力しなければならない」を区民の責務とし、その責務を事業者(個人を含む)と公共的団体にも課し(公共的団体とは、町会・商店会・自治会・管理組合・長寿会・婦人会・母の会・社会福祉協議会・障害者団体・NPO・PTA・同窓会・商工会議所・青色申告会・医師会など組織性がある団体すべて)、マンション、デパート、劇場、駅その他の公共施設の所有者や建築主に対しては、防犯カメラや警報装置の設置義務まで求めている。
自主・協力・連帯。これをキーワードとして安全活動を展開する。つまり、?自分たちのまちは自分たちで安全にする、自分たちできれいにする?。区民(区内勤務、在学、滞在、通過者を含む)にさまざまな義務を課し、区民の自主性を涵養し、地区組織への参加による協力体制を拡充する、これが本条例の基本的視点である。
すでに、上記八地区では、区民・事業者・公共的団体が参加した「生活環境改善推進連絡会」が結成され、会長、副会長らの役員体制(概ね六〜九名)を敷き、「路上に置き看板、のぼり旗は置かない」「違法駐車はしない」「路上でタバコは吸わない、吸わせない」「ピンクチラシの配付は禁止する、そのための場所は提供しない」「定められた場所と時間以外ゴミは出さない」などの遵守事項を定め、自主活動の巡回パトロールを随時おこない、区・警察との合同パトロールも月二回実施している。自主・協力・連帯の活動は始まったのである。
3 割れ窓理論
本条例は警察主導で制定された。千代田区の『逐条解説』は、「防犯協会や警察から区に対して、各地で制定が進んでいる生活安全条例を千代田区でも制定してほしい、という要請があります。そこには、まちを荒れた状態にしておくと犯罪増加につながるといった趣旨が含まれています」と制定経過を明らかにした。警視庁が「ビルの割れた窓を放置しておくと、監視の目が届かないと見て無法者が次々の窓を割り、やがて大きな犯罪につながる」という誰もしらないけど(島田も不知)、もっともそうな『割れ窓理論』を持ち出してきたので、区はそれに応えたというのである。
これと警視庁出向者が条例案を起案した事実に加え、区と警察の密接な連携、区民・事業者・公共的団体の警察への協力義務、防犯カメラは警察と協議して設置、警察と協力して路上障害物の除去、違法駐車防止重点地区・環境美化推進モデル地区・路上禁煙地区は警察と協議して指定、協力体制の中心組織「千代田区生活環境改善連絡協議会」に警察参加など、全二八条の体系的な内容の随所に警察が深く関与する構造となっていること、設置する権限のない場所にのぼり旗などを設置したときは「放置」として違反者(団体を含む)に罰則を課し、言論活動抑圧のカラクリも潜めていること(その後の議会攻めで区長は「継続的設置」に限定すると答弁したが、あいまいさは残る)、これらは警察の地域社会への浸透、さらには自治体と市民を警察に一体化させた新しい治安体制をつくりだすことを示している。
4 隣組思想
マナーからルールへの転換、ルール違反は制裁、多数の監視カメラ設置、清掃・見回り・防犯活動の相互協力、地域の安全を守る連帯意識の向上と一体感の涵養。本条例が抱くこの思想や相互監視体制は、市民の言論活動やプライバシーなどの人権を?安全で快適なまちづくり?の名において侵害し、非協力者を排除する新たな社会統治を目論むものである。個人の自由打破=「横並び価値観」による隣組思想が何をもたらしたか。市民を戦争に強制動員する策動が強まる今日、本条例にみる思想と構造に強い警戒が必要である。
【東京支部二〇〇三年総会特別報告集「私たちが取り組んだ諸活動」より転載】
事務局次長 渡 辺 登 代 美
「生活安全条例」に関する各地の情報をお寄せ下さい
1 「生活安全条例」をご存知ですか
東京都千代田区の条例が「たばこポイ捨て禁止条例」として有名になりましたが、今、全国各地でさまざまなタイプの生活安全条例を制定する動きが強まっています。二〇〇二年一〇月現在で全国三二五三自治体のうち、三六%にあたる一一七一自治体で制定されています。
公安委員会・警察が主体となり、防犯協会と協働して、「安全で快適なまちづくり」など、一見反対しづらいものを前面に押し出してくるのが特徴です。「警察の手による安全・治安」を突出させた拡声器規制条例や迷惑防止条例と異なり、住民取り込み型の重層構造をもっています。
2 条例名は、「生活安全条例」そのもののほか、「安全で住みよい町づくりに関する条例」「コミュニティの安全と市民の安心を高める条例」「明るく住みよいまちづくり条例」「交通安全と防犯に関する基本条例」「生活安全推進条例」「やすらぎとうるおいのある牧場の朝のまち地域安全条例」「良好な環境の確保に関する条例」「福祉のまちづくり条例」「防犯条例」など、さまざまです。
3 生活安全条例は、犯罪の増加や社会不安の拡大を背景に、住民の安全意識の高揚や自主的な防犯等の施策・活動を求めるものです。「警察に守ってもらうだけでなく、自ら地域を守る」「官民一体となった強い地域コミュニティの形成」などを基調にすえているため、程度の差はありますが、「安全確保の責務」「住民・業者の責務」が導かれています。
生活安全条例は、(1)地域社会が共同防犯責任に組み込まれるとともに、警察や行政の責任が相対化される、(2)生活安全警察の拡大・強化とあいまって、住民自身の相互監視が警察のネットワークに組み込まれる、(3)自由や人権への介入・干渉の糸口となるなど、大変危険な性格をもっています。
4 本部では、このような生活安全条例の危険性の認識を共有し、各地の議会に対し問題点を指摘し、廃案修正を求める闘いを展開できるよう、五月集会の分科会でこの問題をとりあげ、討論を深める予定です。各地での生活安全条例の制定の状況を調査し、至急団本部にお寄せ下さい。
市町村合併をはじめとした、地方自治体に関する取り組みの経験をお寄せ下さい
市町村合併支援本部は、昨年八月三〇日、市町村合併支援プランをとりまとめ、全国に三二二三ある自治体数を「一〇〇〇」に減らすことを目標とする与党の方針にのっとり、市町村合併を強力に押し付けようとしています。三一府県・七二地域・三二四市町村が合併重点支援地域に指定され、六二・九%にあたる二〇二六市町村に合併協議会が設置されています。
最近では、東京都田無市・保谷市の合併による西東京市、埼玉県浦和市・大宮市・与野市の合併によるさいたま市の誕生などが注目されます。合併の強行、特区政策、無計画な再開発などによる地方自治の破壊が進行しています。これらの動きに対し、弁護士がどのような関わりができるのか、一度意見交換をしたいと考えています。
そこで本部では、五月集会で「市町村合併や構造改革特区などもとりあげた地方自治破壊と地方・周辺の切捨てと住民運動」をテーマとした分科会の開催を計画しています。
ただし、団本部には地方自治を研究する委員会もなく、蓄積がありません。そこで、その準備として意見を募集します。
地方自治をめぐる問題について、各地の状況、問題点の指摘など、何でも結構ですので是非ご意見をお寄せ下さい。