過去のページ―自由法曹団通信:1091号        

<<目次へ 団通信1091号(5月1日)



菅野 昭夫 アカデミー賞授賞式でのマイケル・ムーア監督のスピーチと
彼のNLGへのEメール
郷路 征記 統一協会によって作出された、正常な判断のできない状況で自由な意志決定が妨げられた
山下  潔 陪審裁判で無罪評決となったシドニー事件
森  卓爾 学習の友ブックレット「解雇自由はゆるさない」を使って学習会を
坂 勇一郎 「短時間だったが伯仲した議論」
四・一五司法アクセス検討会〜弁護士報酬の敗訴者負担問題
中野 直樹 告知板
村田 智子 「教育基本法改悪阻止・問題提起週間」の提起
花田 啓一 故森健団員を偲ぶ会のお知らせ



アカデミー賞授賞式でのマイケル・ムーア監督の
スピーチと彼のNLGへのEメール


北陸支部  菅 野 昭 夫

 世界中にイラク戦争反対のデモンストレーションが渦巻く中で、戦争開始後間もなくハリウッドで行われたアカデミー賞授賞式でのマイケル・ムーア監督の反戦スピーチは大胆不敵ともいうべきものであった。彼のスピーチの前に、アメリカのウェスタン・カントリー・ミュージックのトップ女性シンガーグループであるディキシー・チックスのリーダー歌手が、開戦の決断に対し、「大統領と同じテキサス州出身であることを恥じ入るばかりです」と発言したことに対し、メディアが「戦争時に最高司令官の大統領を侮辱するのは非国民」と非難し、不買運動が開始され、彼女は謝罪を余儀なくされた。
 しかし、マイケル・ムーアの反戦スピーチは、歯に衣を着せない内容であった。彼は正装した映画関係者を前にしてこう述べたのである。
 「私は、この映画のプロデューサーであるキャサリーン・グリンとマイケル・ドウリアンとともにオスカーの受賞に心から感謝します。私は他のドキュメンタリー部門のオスカー候補者にもこの壇上に並んでもらいました。というのも、私達全員はノン・フィクション(真実)をこのなく大切にしている点で連帯しているからです。そして私達がノン・フィクションを愛する理由は、今の時代があまりにもフィクションに満ち溢れているというためです。たとえば私達は、インチキの選挙で選ばれたフィクション好きの大統領が統治する時代に生きているのです。アメリカは今、フィクション(作り事)の理由で戦争を戦っています。政府はアメリカ本土への化学兵器には窓にダクトテープを貼って防禦せよとか、オレンジ・アラート(注 政府の発するテロ危険度二位の警戒警報)のフィクションを濫発していますが、この壇上の上の私達はこの戦争に断固反対します。
 ブッシュ大統領よ恥を知れ!恥を知れ、ブッシュ大統領!そしてあなたがローマ法皇やディキシー・チックスを敵に廻しているようではあなたの命運は尽きている・・・・・・。」
 マイケル・ムーアがこのスピーチを始めるや、会場ではこれを支持する歓声が聞こえたが、やがてブーイングが始まり、進行係のディレクターはあわてて「音楽、音楽」と叫んで、マイケル・ムーアのスピーチは楽団員の音楽で中断し終了した。ハリウッドの映画産業は保守的なユダヤ人富豪により支配されているから、イラク戦争反対を率直に話すことは映画人が映画から締め出しを食らうことを覚悟しなければならない。従って、このマイケル・ムーア監督のスピーチは、実に勇気に満ち溢れているものであった。
 四月一〇日このマイケル・ムーアがNLGを含む各方面に送ったEメールが、NLGのメーリングリストを通じて私にも転送されてきた。この彼のEメールは、アメリカ中のメディアからごうごうたる非難を受けていることについて、次のように述べている。
 「オスカー受賞後の二週間、右翼の連中とメディアはまるで、私の首をはねろとばかりに叫び続けている。しかし、そんなことで私や良心的なアメリカ人が沈黙することなどあり得ない。例えば、私のスピーチが行われてから私のオスカー受賞作品である゛Bowling for Columbine゛(注 アメリカの銃社会の暴力性、アメリカの他国に対する好戦性などをドキュメンタリーで描写した映画)の観客動員数はうなぎのぼりで、三〇〇%増加してアメリカでは二六週間好調を維持し、ドキュメンタリーとしては記録的ロングランを続けている。また、私の゛アホでマヌケなアメリカ白人゛という著書は、ニューヨークタイムズなどでベスト・セラーリストに五〇週間連続して登場し、そのうち八つの誌紙では第一位を維持している。またアマゾン.コムには映画ビデオの注文が殺到し、予約待ちの状態である。そして、オスカー受賞式以来、私のウェブサイトには一〇〇〇万人〜二〇〇〇万人のアクセスがあり、日によっては、ホワイトハウスのそれを上回り、圧倒的に私を励ます内容なのである。
 CDをトラクターで踏み潰されたディキシー・チックスをみてみよう。リーダーの発言後、メディアはまるで彼女達のアルバムの売れ行きがボイコットで急激に落ち込んだかのように報道している。しかしそれは真っ赤な嘘である。ビルボード・カントリー・チャートで彼女達のアルバムは依然として一位を保ち、エンターテイメント・ウィークリーによれば、ポップチャートでも六位から四位に上昇した。ニューヨークタイムズのフランク・リッチ記者は、最近彼女達のコンサートのチケットを何でも良いから得ようとしたが、全て売れ切れのため全く手に入らなかったと書いている。彼女達の反戦歌「Traveling soldier」は先週インターネットでのリクエスト第一位であった。
 マイケル・ムーアは「実は何百万人ものアメリカ人は密かに私達に共感しているのである。アメリカの『イラク戦争勝利』や『七〇%の高い支持』などに脅かされたり、惑わされてはならない。七〇%の支持を表明した国民でさえ実は、イラク戦争に招集された彼等の、または知人の子ども達の無事な帰還を待ち望んでいる。我々が声を大にすべき時はむしろこれからである。」と、メールを結んでいる。
 このEメールを受けたNLGはマイケル・ムーアの不屈の精神を見習おうと呼びかけ、彼のメールをNLGのメーリングリストに転送してきた。侵略戦争の震源地で戦っている彼の不屈の闘志を紹介する次第である。





統一協会によって作出された、正常な判断のできない状況で自由な意志決定が妨げられた

北海道支部  郷 路 征 記

1 はじめに
 札幌高等裁判所は平成一五年三月一四日、いわゆる札幌「青春を返せ訴訟」について、統一協会の控訴を棄却すると判決して、被害者の請求を認めた原審札幌地方裁判所の判決を維持した。この結論自体は、統一協会の証人申請をすべて却下して終結した経過や、原審札幌地裁の判決後、それが基準となり同種の訴訟で統一協会の敗訴が連続していたということから、予想可能な範囲のことであった。
 しかし、控訴審判決は、その内容において優れた判断を示した。我々の期待に応えて、札幌地裁の判決を更に押し進めた判決だったのである。

2 勧誘方法・正常な判断のできない状況の作出
 注目すべきなのは、二回にわたり勧誘方法について「正常な判断ができない状況を作出し」という評価がされていることである。
・原告主張との関係
 統一協会の布教過程で被勧誘者に求められる重要な意志決定(同意)は、ビデオセンター・2ディズの受講決定、ライフトレ・4ディズの受講決定、4ディズにおける献身の内面的決定、新生トレ・実践トレの受講決定、献身の実行であり、公式7年路程に従い経済活動に身を投ずるという決定である。
 統一協会は、それらの同意が自主的になされたものであるから、統一協会への参加は自発的になされているのであり、統一協会の勧誘行為に何らの違法性もないと主張しているのであるし、一般的にも「詐欺強迫があったわけでもないし、自分で選択したのだから仕方がないではないか?」と思われているところなのである。
 被勧誘者らは、その意志決定のそれぞれにおいて「宗教性の秘匿」、「教育過程の次の段階を明らかにしないこと」、「勧誘の真の目的を隠すこと」、「情緒高揚による操作」、「恐怖の植え込み」のいずれかあるいはその複数の事由の影響下での意志決定(同意)を余儀なくされるようになっており、被勧誘者の各意志決定(同意)は「歪められている」と主張してきた。
 そのことを控訴審判決は、被勧誘者は統一協会により「作出された」「正常な判断ができない状態」によって「同意」させられたのであり、したがって、その同意は統一協会の行為の違法性を阻却しないと判断したのである。
 また、控訴審判決は「正常な判断ができない状況を作出して、教義に傾倒させ、これを断ち切りがたい状態にまで強めさせようとするもの」と判断している。その記述から考えれば、真理と信じさせる技術として原告らが主張した、例えば、「社会的証明のルールの利用」、「一貫性のルールの利用」、「権威のルールの利用」、「集団への順応のルールの利用」、「判断基準の働きを弱める」、「判断基準の入れ替え」等々についても、控訴審判決は否定的ではないのだと思われる。
・判例上初めてではないか
 「正常な判断ができない状況を作出し」という認定は、伝道の違法を問う訴訟における判例は勿論、献金に関する判例にも今まで表れていない認定であり、初めての認定であると思われる。今までの判例の認定の主流は、因縁話などによる勧誘の手法が被勧誘者を畏怖困惑させ、そのことが社会的相当性を欠いているというものであった。「畏怖困惑させた」というのは「正常な判断ができない状況を作出した」ことの一つであり、「正常な判断ができない状況を作出させた」ことよりも下位の概念である。この概念は、我々が統一協会の「マインド・コントロール」として主張・立証してきた具体的事実をすべて包摂した概念であるし、それ以外の様々な悪徳商法についても応用することができる概念であると思われる。
 したがって、この認定が被害者救済のために持つ意味は、大きいのだと思われる。

3 結果について
・自由な意志決定が妨げられたと認定
 高裁判決の地裁判決との大きな相違は、統一協会の勧誘行為の結果、被勧誘者は「同意」を与えたり、「献金」をしたりしているが、それは被勧誘者が自由な意志決定を妨げられた結果に過ぎず、「同意」があったとしても「(勧誘行為の)違法性が阻却されることにはなら」ず、「献金等の出捐」があったとしても「(統一協会が)財産を収受することが正当化される根拠はない。」という評価である。
 統一協会が本件訴訟において自己の勧誘行為などの正当性を被勧誘者の「自由な意志」による同意があるからだと主張していたことに鑑みれば、控訴審判決が本件において被勧誘者の「自由な意志決定が妨げられた」と認定したことの意味は大きい。統一協会のよってたつ論拠が真正面から否定されているからである。
・意思表示の瑕疵と自由な意志決定の妨害
 民法上、意思表示の瑕疵が問題となるのは、錯誤、詐欺、強迫である。そのような瑕疵ある意思表示は、無効或いは取り消しうるものとなる。被勧誘者が統一協会に対して与えた「同意」や「献金等の出捐」が上記の、意思表示の瑕疵の直接的対象ではないことは明らかである。統一協会の勧誘行為は「錯誤、詐欺、強迫」という概念で把握しきれるものではないし、そこで、被勧誘者が迫られているのは「錯誤、詐欺、強迫」が通常対象としている一回的な意思表示ではない。
 それは、「錯誤、詐欺、強迫」行為よりも違法性の低い、それだけを取り出せば違法とは評価できないような行為を何回も何回も多様に繰り返して意志決定への影響力を強め、宗教的要素を利用した害悪の告知を行い、最終目的である公式七年路程を信じて経済活動を行うことへの同意を直ちには求めず、そこに至るまで何段階にもわたって分解した段階的な意志決定をさせ、その決定によって各段階の教化を継続して価値観の変換を進めるなど、「錯誤、詐欺、強迫」よりはるかに複雑で、狡知で、その手段を総合すれば、意志決定への不当な影響力が詐欺、強迫よりもはるかにはるかに強い行為なのである。
 控訴審判決は、以上のような統一協会の布教過程の特質を考慮して、それによる結果を「自由な意志決定を妨げられた」と評価したのだと考えられる。そのように考えれば、「自由な意志決定を妨げられた」という概念は、伝統的な「錯誤、詐欺、恐喝」という概念では捉えきれなくなってきている複雑な現代の取引社会等への法的対応として、加害行為の違法性判断や契約の有効性判断の基準として大きな意味を持つものとして成長する可能性があるのではないかと考えられる。

4 総括
 以上のとおり札幌高裁判決は、画期的と評価された札幌地裁判決を基礎に、より実態に即した認定判断を行い、統一協会の「マインド・コントロール」についても「正常な判断ができない状況を作出して」とその存在を肯定したものと思われ、その結果被勧誘者の自由意志が妨げられたから統一協会の行為は被勧誘者の信仰の自由を侵害した不法行為であると認定したのだと考えられ、統一協会の問題のみならず、他の諸問題についても活用の可能性がある判決ではないかと考えられる。





陪審裁判で無罪評決となったシドニー事件


大阪支部  山 下  潔

 メルボルン事件弁護団は、メルボルン事件という国際刑事事件をとりくんで今日まで四年になる。本年三月、シドニー事件を本格的にとりくみ、無罪評決を獲得した。この国際刑事事件の概要を紹介しておきたい。

2 シドニー事件とは
 タイ国バンコクに住む日本人が、アルバイトでオーストラリアのシドニーで働いているタイ人の労働者の実態調査を依頼された。このため、この日本人は、二〇〇二年七月一日、一瓶の日本酒と煙草一ケースをお土産に持参したところ、シドニー空港の入管においてこの酒の中にスピードという濃縮麻薬が入っていた。このため、勾留された上、取調には素直に応じたが、起訴された。

 二〇〇三年三月三日、法廷を傍聴したシドニー在住の支援の日本人保坂氏は、次のように述べた。
 「三月三日、月曜日、シドニー市内、ダウニング・センター地階のLG1法廷には、いつもの通り正面壇上に判事、フロア左側に検事とアシスタント、右側に弁護人とアシスタント、右手の一段高い仕切りに囲まれた被告席にS氏が通訳に付き添われて座っている。
 先週、金曜日の午後から評決に入った陪審員はその日は評決に至らず、月曜日に持ち越された。私は、廊下に待機していた皆に声を掛けて、傍聴席に付く。女子学生が四人、日本人のケアネットのメンバー一一人は、右席に座りきれず、左側にも別れて席を取る。
 コツ、コツ、コツとドアをノックする音がして、陪審員が入廷してきた。被告S氏は、起立をしていつものように陪審員を迎える。
 一二名の陪審員は、席の前に起立をしたまま判事と向かい合う。
書記席の法衣にカツラの男が、紙を一枚取り出して、両手で捧げると陪審員に向かって読み出した。
 「二〇〇二年七月一日、キングスフォード・シドニー国際空港において・・」淡々と起訴状が読み上げられる。
 「・・陪審員に評決の結果をお尋ねします。評決はGuiltyですか、それともNot Guiltyですか」
 法廷の中を、凍り付いたような静寂が覆う。傍聴席に並ぶケアネットと支援のオーストラリア人、合計一二人の頭が、評決を聞き漏らすまいとジワッと前に乗り出した。陪審員の前列右端にいた中年の蝶ネクタイの男性が、立ち並ぶ陪審員を振り返る。判事に向き直ると、静かな、しかしはっきりした口調で答えた。「Not Guilty」
 私は、拝みたい気持ちで、陪審員を見渡した。二週間、毎日見た顔なじみの面々である。年も、背景も異なる一二人のシドニー市民が、冷静に、フェアな判断をしてくれた。私も同じシドニー市民の一人として、シドニーに住む事をこれほど嬉しく思った事はなかった。傍聴席に悦びの声が満ちた。「Well Done!!」私は、堅い握手を交わす。被告S氏は、移民省の係官に伴われて、法廷を出てきた。廊下に出てきた被告S氏、オゼン弁護士、と肩を抱き合って、握手を交わす。私は電話ボックスに向かった。大阪のメルボルン事件弁護団に電話を入れる。「評決は無罪だ」と。」

 平成一四年一一月、日本人の被告S氏から、メルボルン事件の団長をしていた私宛てに手紙がきた。「弁護士から、認めれば八年、否認すれば一二年、この事件は助からない、有罪確実なので認めた方がよいとの意見」と言われているとのことであった。しかも、S氏は、「弁護士費用がなく、リーガルエイド(法律扶助)の弁護士であること、私選の弁護士を依頼できないから、有罪として認めたい、しかし自分は無実だから助けてもらえないか」という。
 このため、メルボルン事件弁護団三名(私、正木幸博、湯原裕子)がこれを担当することとした。

 陪審裁判は、本年二月一七日から一〇日間開かれた。裁判官は、シドニー一の検察官寄りの人で、忌避が多い裁判官であった。陪審員の評決に依拠するしかなかった。検察官は、証人一五人をたて、二月一八日から二月二一日まで四日間にわたった。この間に、検察官はビデオにより被告人の取調も証拠として明らかにされた。
 弁護人側は、証人二人を用意するよう言ったが、日本の弁護団は、四人用意した。三人は、日本から(うち一人は正木弁護士)、一人はバンコクの日本人である。証人尋問は、被告S氏の友人で送金もしていることから、S氏の生活が不安定ではないことが立証された。あとは、被告S氏が証人台に立って、無実であることを証言した。日本弁護団は、被告S氏に依頼したツーリスト会社のナットという女性の調査、被告S氏の手紙や戸籍謄本を含め日本の会社や生活状況の調査、証人になる予定の人の証言書(四人)、バンコクでの調査(新聞など)、外国人登録の実態に基づく書証など、シドニーの弁護人に提出した。重要なことは、ほとんど連日にわたる日豪弁護士のディスカッションと、立証の準備に集中したことである。法廷傍聴は、シドニー在住の日本人(外国人と結婚している)のケアネット(責任者=保坂氏)が毎日約一〇人傍聴した(弁護団はオーストラリア在住の日本人にこの事件を訴えて傍聴参加を求めた)。
 新聞記者二名(シドニー支局の共同通信と読売)が傍聴した。

6 成果と教訓
 英米刑事手続法の下に日本の弁護団がシドニーのリーガルエイドの弁護士と共同作業で今回の無罪評決を獲得した意義は大きい。
 今後、外国において日本人が無実の罪に問われた時の、日本の弁護士の弁護形態の一つを切り開いたと言える。
 第二は、英米法等の刑事手続と日本の刑事手続の比較において、陪審裁判は直接主義口頭主義の下で迫力のある審理がなされたことである。日本の、書面審理主義の陳腐さが目につく。
 第三に、陪審員一二人の評決というのは一二人の人間の壁、市民の壁によって誰にも影響されない。職業的裁判官の影響下は、せいぜい五人と考えられることから如何に偏った訴訟指揮をする裁判官といえども、陪審員の目は確かであることが保障された裁判である。
 第四に、法廷の傍聴に日本人が毎日約一〇人出席していたことなど含めて、無罪の評決は奇跡といわれたこの種の事件において「総合力」の結果獲得できたことである。




学習の友ブックレット
「解雇自由はゆるさない」を使って学習会を


神奈川支部  森  卓 爾

 二〇〇二年一二月二六日、労働政策審議会は、「今後の労働条件に係る制度の在り方について」という答申(建議)を厚生労働大臣に提出した。
 マスコミ各紙は、「解雇のルール労基法に」(読売)、「解雇条件 法に明記」(日経)などと報じたが、建議の内容は、まさに「解雇自由化法」そのものである。建議を受けて二〇〇三年二月一三日に発表された法案要綱は、「使用者は、この法律又は他の法律の規定によりその使用する労働者の解雇に関する権利が制限されている場合を除き、労働者を解雇することができる」と労働者を解雇する自由があることを明記している。
 審議会で議論されていた「『カネ』で首切り」は、法案要綱では消えていたが、発表された法案要綱が「解雇自由化法」であることに変わりはない。
 この法案要綱の発表を受けて、急遽出版されたのが、学習の友ブックレット「解雇自由はゆるさない」(労働法制中央連絡会・自由法曹団編)である。
 内容は、四つのパートにわかれており、一、解雇自由化法―リストラ・首切り拡大のための労基法改悪、二、労働法制改悪の総仕上げ立法―その狙いと内容、三、労働法制改悪とどうたたかうか、四、企業再編リストラとどうたたかうか、となっている。
 私は、憲法や有事法制についての学習会の講師は数多くやってきたが、労働法制改悪反対の学習会の講師については、やった記憶がない程である。今回、顧問をしている労働組合(地区労)から春闘の学習決起集会を開くので、労働法制改悪について話をして欲しいと依頼された。そこで、教材としたのがこのブックレットである。
 学習会では、このブックレットの構成に従って、前記の四つのパートについて、具体的な裁判例を紹介しながら話をした。特に、解雇自由化や裁量労働制の問題については、その狙いがどこにあるかを含めて詳し、労働者保護のための労基法に労働者の解雇を原則として自由とするような労基法改悪は絶対に認められないと強調した。
 労働者の反応としては、大変分かりやすかったと好評であった。神奈川では、解雇事件を含め多くの労働争議を経験しており、またリストラ・企業再編も進んでいることから、法案要綱の持つ危険性が充分に理解できたとの感想が述べられた。春闘のたたかいとともに、解雇自由化立法に反対する運動(署名)にも取り組んでいくことも確認された。
 このブックレットは、非常に分かりやすく書かれており、学習会の教材として最適である。これを活用して、多く学習会が開かれ、運動が広がることが期待される。





「短時間だったが伯仲した議論」
四・一五司法アクセス検討会
〜弁護士報酬の敗訴者負担問題

担当事務局次長  坂  勇 一 郎

 四月一五日の司法アクセス検討会当日は、小雨の降りしきる空模様。司法改革推進本部前では、検討会開催前の小一時間、敗訴者負担反対の市民団体・原告団・労働組合約四〇名がビラを配り、リレートークで「私たちの声を聞いて下さい。」と呼びかけた。
 この日の検討会では、事務局から「弁護士報酬の敗訴者負の取扱いについて」というペーパーが配布された。これは、(敗訴者負担導入を前提として)(1)敗訴者に負担させる金額、(2)敗訴者負担を導入しない範囲、を議論しようというものである。
 昨秋以降敗訴者負担については三回の議論が行われてきた。この間、主に導入反対の委員から、司法アクセスという観点から制度導入はいかに根拠づけられるのかという問題提起がされてきたが、導入論の委員より正面からの回答は出されずにきた。この最も根本的疑問が解消できないことから具体的制度内容についての各論議論に入れない状態が続いてきたのであるが、それを何とか(この根本問題を回避したまま)制度内容の各論議論に持ち込もうというのが、この間の高橋宏志座長(東大教授)と事務局がめざしてきた議事運営である。また、反対運動が広がってきていることから、低額の金額設定を打ち出して反対運動を押さえ込むことも目論まれたようである。こうして出されてきたのが前記の事務局のペーパーであった。
 議論は、導入の論拠から検討をすべきという亀井時子委員(弁護士)の正論から始まった。これに対して西川元啓(新日鐵(株))・始関正光(法務省)両委員が金額の議論に持ち込もうとするが、藤原まり子委員(博報堂)が二一世紀の裁判のあり方という観点から検討すべき等と意見を述べ、金額論には流れなかった。
 山本克己委員(京大教授)から(1)応訴強制を受ける被告の立場を保護すべき(被告のアクセス論)、(2)弁護士費用は裁判所の利用に必要な費用であり、一部を敗訴者に負担させることが公平、(3)対等な市民間には敗訴者負担を入れるべき、との意見が出された。これに対しては、飛田恵理子委員(東京地婦連)が、(1)「二割司法」といわれる現状を踏まえ、裁判所の利用の促進を図ることが重要、(2)司法制度はまだまだ頼りがいのあるものになっていない、(3)司法アクセス検討会が設けられている存在理由をよく考えて欲しい、と展開した(この発言はずいぶん迫力があったとのこと。その迫力の何分の一かは私たちの運動の成果と思う)。その後の論戦の中で注目すべき意見としては、長谷川逸子委員(建築家)から、リアリティのある生活者の意見を聞きたいとの意見、亀井委員から(1)弁護士費用を誰が負担するのが司法アクセスに資するかの政策的判断が必要、(2)制度導入の基準は司法アクセスであり公平は基準とならないとの意見、藤原委員から(1)裁判が多い社会がいい社会であるとは限らない、(2)裁判以外にも社会を変えるチャンネルはできてきている、(3)片面的敗訴者負担の議論は後に回すべきという意見、が出された。
 最後に、高橋座長が「次回は、各論の議論を行う」と宣言してこの日の検討会を終了した。「短時間だったが伯仲した議論」というのがこの日の議論の評である。司法アクセスという観点については、山本委員から被告のアクセス論が述べられたが、この論の実質は、原告の提訴を抑制すべきとの議論であり、その他の委員の発言からも、司法アクセスの促進からどのように敗訴者負担が根拠づけられるかは結局明らかにされていない。「伯仲した議論」の中から対立点が明確になってきた。
 率直に言って当初は劣勢にあったが、検討会の回を重ねる間に運動の広がりが反対の立場の委員を励まし、多少は押し返してきているとものと思う。この力をさらに大きなものにするため、五月三〇日の日弁連パレードは是非とも成功させたい。




告知板

事務局長 中 野 直 樹

1 裁判員制度意見募集
 前号団通信(一〇九〇・四月二一日号)で、伊藤和子団員が裁判員制度について意見募集が、五月三一日〆切で行われていることを伝えている。ここに個人としてたくさんの意見を集中することを提起する。具体的な意見は、五月集会特別報告集に石川元也団員が寄稿している「裁判員制度について検討会の議論に監視を」が参考となる。葉書一枚でもよい。たくさんの意見を送ろう。以下送り先。

100-0014 東京都千代田区永田町1-11-39 永田町合同庁舎三階
  司法制度改革推進本部事務局裁判員制度意見募集係

2 参議院憲法調査会公聴会   
 参議院公聴会が、「平和主義と安全保障」というそのものズバリのテーマで、左記日程で公聴会を設定し、公述人を募集しています。
 アメリカがイラクに無法な予防的戦争を起こし、有事法制制定、教育基本法改悪に向けた動きが激しくなるこの時期、私たち団員は積極的に公述人に応募しようではありませんか。
●日時 六月四日 午前九時〜一二時/午後二時〜五時 一五分意見陳述後質疑
●申込み方法
 意見を述べたい方は、参議院憲法調査会公聴会で公述したい旨を明記の上、(1)意見を述べたい理由、(2)意見の要旨(八〇〇字程度)、(3)住所及び郵便番号、(4)氏名(ふりがな)、(5)年齢、(6)性別、(7)職業、(8)電話番号(FAXをお持ちの方は併記)、(9)Eメールアドレスを記入の上文書、FAXまたはEメールにてお申し込みください。
●申込期限 平成一五年五月八日(木)午後五時 必着
郵送先〒100-0014 東京都千代田区永田町1-11-6参議院第二別館
    参議院憲法調査会事務局気付 憲法調査会会長
              FAX〇三・五五一二・三九二五




「教育基本法改悪阻止・問題提起週間」の提起


担当事務局次長  村 田 智 子

 イラク攻撃、有事法制、労働法、司法改革と課題が山積みのこのごろですが、教育基本法「改正」法案も六月には国会に提出されるのではないかと予想されます。
 そこで、教育基本法改悪阻止対策会議は、五月一二日(月)から一八日(日)の一週間を教育基本法改悪阻止の問題提起をするための一週間とすることを提起します。本部での活動は次のとおりです。

マリオン前宣伝活動
 問題提起週間に先だって、四月三〇日に、全教と一緒に、マリオン前宣伝行動を行います。時間は午後四時三〇分から午後六時までです。

議員要請行動
 教育基本法問題でははじめての議員要請を行います。
 日時は、五月一三日(金)午前一〇時〜一二時。
 場所は、衆議院第一議員会館の第二会議室を確保しています。
 この日、午後一時から有事法制の議員要請も行われます。一緒に(ついでに?)参加いただければ幸いです。

文部科学省前宣伝行動
 五月一五日(木)午後五時〜六時に、全教と一緒に行います。
 いずれも、参加いただける方は、団本部までご連絡ください。
 また、各地で、街頭宣伝活動など、できるところから取り組んでいただけますようお願いいたします。

 ところで、教育基本法改悪阻止のブックレットですが、四月末の刊行予定は延びましたが、五月二〇日前後には刊行される予定です。
 また、六月一三日午後六時からは、全教ほかの団体と一緒に大集会を開く予定です。場所は、団本部からも近い文京シビックホールの大ホールです。なんと、一八〇〇人収容ということです。がんばりましょう!詳細が決まったら改めてお知らせします。
* 団教育のメーリングリストをたちあげました。団内での会議や運動の状況はもちろん、全教や日教組、教科書ネットからのメール情報なども適宜紹介されています。参加希望の方は、お名前、事務所名、メールアドレスを書いて、私まで、左記のメールないしはFaxで御申込みください。私が多忙なときなどは、加入までに数日程度いただくことがありので、ご了承ください。
 メール dzb00474@nifty.ne.jp
 Fax 〇三・三八八一・七四七一




故森健団員を偲ぶ会のお知らせ

愛知支部  花 田 啓 一

 さる一月七日、団東海支部(当時愛知、三重、岐阜の三県在住の団員により一九四七年=昭和二二年発足した)発足に参加した最後の一人であった森健団員が逝去されました。九〇歳でした。
 ご本人と遺族のご意志で、私たちも知らぬまま密葬は終了し、遠隔地のご遺族から、くれぐれも大げさなことや、発表自体も謹んでほしい旨、質素で表立ったことを嫌われた森先生のことばそのままの申し入れがありました。
 しかし、平和運動、救援運動にも長い間参加され、一九七四年(昭和四九年)には名古屋弁護士会会長として刑法改悪反対の弁護士デモの先頭に立たれたりもした先生への思いを語り合い、皆でそれを今日にいかしていきたいという弁護士の世界をこえた多くの人々の声が集まり、来る五月三〇日(金)午後六時から、別記のとおり、偲ぶ会開催の運びとなりました。前記のようなご意志もあり、知人の呼びかけ人方式をとりましたが、事務方は団愛知支部(事務局長・名古屋第一法律事務所福井悦子弁護士)です。
 団本部と団員諸氏には、このような事情でお知らせが遅れたことをお詫びすると同時に、有事三法案、労働法制、教育基本法の改悪など緊迫した情勢の中での五月集会直後の日程ですが、ご参加頂けるならば大変ありがたいと思います。
 とりあえず、本部・団員各位にお知らせとご案内まで。
 追記 四月一九日、名古屋弁護士会主催で緊急企画「いま平和を語るー有事法制を許さない市民の集いー」を開催。終了後、約三〇年ぶりで森会長時以来のデモ行進(パレード)をし、弁護士、家族、事務局、市民約三〇〇名が参加し盛り上がりました(別に報告されるはず)。勿論団員はその中心で奮闘。(四月二一日記)

              記
 日時 二〇〇三年五月三〇日(金)午後六時〜八時
 場所 愛知労働会館本館
 会費 五〇〇〇円(軽食、飲み物を用意します)
 ご参加頂ける場合は、準備の都合上、お手数ですが、福井悦子団員宛にFAXでご連絡ください。
          (FAX番号・〇五二―二一一―二二三七)