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鷲見賢一郎 工場再開と雇用確保を求める二十二名の労働者のたたかい
鳴尾 節夫 墨田共立診療所・稲見事件報告
伊藤 和子 アフガニスタン国際戦犯民衆法廷が始まる
中野 直樹 リレールポ憲法調査会(6) 憲法解釈をめぐる政治と最高裁の交差
庄司 捷彦 弁護士布施辰治没後五〇年記念集会のご案内
後藤富士子 弁護士報酬と「弁護士自治」
坂 勇一郎 白熱、敗訴者負担問題〜署名、パブリック・コメントへの取り組みを
笹田 参三 ブックレット「変えてはいけない!教育基本法」を市民の中に



工場再開と雇用確保を求める

二十二名の労働者のたたかい

東京支部  鷲 見 賢 一 郎

1 生産の海外移転と会社解散・従業員全員解雇
 協和町は、茨城県の中西部にある人口約一万五千人の町です。東京金属(株)は、オリンパス光学工業(株)の子会社で、同社の製品の部品製造を主要な業務とする会社です。東京金属(株)とその一〇〇%子会社の(株)東京金属協和工場は、昭和四十五年四月から三十三年間にわたって、協和町にある協和工場で主としてオリンパス製品の部品製造をおこなってきました。労働組合は、それぞれの会社に、全日本金属情報機器労働組合(JMIU)茨城地方本部東京金属支部と同東京金属協和支部があります。
 東京金属両社は、平成十五年一月十四日、JMIU両支部に対して、三月三十一日をもって会社を解散し、従業員約一四〇名を全員解雇することを申し入れてきました。オリンパスは、フィリピンのセブ島に一〇〇%出資の子会社を設立し、製品の組立拠点の海外移転を推し進め、それに伴い部品も現地のメーカーから調達することにし、東京金属両社を解散することにしたのです。また、JMIU協和支部は平成十三年十一月に結成された組合ですが、(株)東京金属協和工場に組合が結成されたことも、オリンパスが会社解散を企てるにいたった大きな動機です。

2 仮処分申立と不当労働行為救済申立
 両社は、不誠実団交を続けながら、三月九日夜、協和工場から工作機械三台と三四一型の金型を搬出しました。これは、「会社と組合は、労働協約にもとづき誠実に協議し、合意なしに生産設備等の搬出をしないことを確認する。」との二〇〇三年一月二十二日付議事録確認に違反する行為でした。そして両社は、三月三十一日には会社解散と約一四〇名の従業員全員解雇もしくは退職を強行してしまいました。
 この両社の攻撃に対して、組合と組合員は、仮処分申立と不当労働行為救済申立をして闘いました。その概略は、次のとおりです。
(1)組合は、三月十二日水戸地裁下妻支部に、生産設備等搬出禁止仮処分申立をし、同日茨城地労委に、不誠実団交についての不当労働行為救済申立と「両社は会社解散手続と組合員全員解雇を行ってはならない」等との勧告を求める審査の実効確保の措置の勧告申立をしました。
 この勧告申立に対して、茨城地労委の三者委員は、三月二十四日、両社に対して、「会社の解散手続と申立人組合員らの解雇について、速やかに誠意をもって話合いを行うように」との要望書を出しました。
(2)組合員二十七名は、四月十一日水戸地裁下妻支部に、両社を相手にして地位保全及び賃金仮払い仮処分申立をし、組合は、同日茨城地労委に、組合員全員解雇撤回を求める不当労働行為救済申立をしました。
 なお、仮処分決定が出るまでに、五名の組合員が仮処分申立を取下げるにいたりました。

3 二十一名の労働者に地位保全及び賃金仮払い仮処分決定
 下妻支部は、六月十六日、二十一名の組合員に対して地位保全及び賃金仮払いを認める仮処分決定を出しました。待ちに待ち望んだ勝利決定です。仮払いの月額は満額認められましたが、期間は一年間分でした。また、生活困難のため五月八日から他社に再就職していた一名は、保全の必要性がないとして申立を却下されました。
 仮処分決定が解雇を無効とする理由は、会社と組合との間の事業の閉鎖等についての事前協議約款(実質的には会社解散・従業員全員解雇についての事前協議約款)違反ですが、あわせてオリンパスの責任も鋭く指摘しています。以下に、その特徴的な点を紹介します。
 「債務者らは、組合に対し解散、解雇という方針を既定のものとして、それを前提とした解雇条件、再就職支援といった内容の協議に応じるのみで、大前提である解散、解雇という問題に組合側の意向を反映しようという姿勢は認められない。」、「本件解散は、親会社であるオリンパスの提案がその直接的な動機となっているのみならず、オリンパスの経営戦略の一環として位置付けられており、その意向を色濃く反映したものであって、それは、実質的にオリンパスの一部門の閉鎖に過ぎないとみる余地もある。‥‥‥‥本件解散、解雇につきオリンパスの意向が強く反映されている以上、団体交渉にオリンパスの関係者を出席させるとまではいわないにせよ、債務者らとしては、従業員の雇用確保という観点から、再就職先等につきオリンパスに対し強い態度に出ても何らおかしくはないというべきである。しかるに、債務者らがそのような観点から最大限の努力を行ったとは到底言い難い。」

4 両社所有の生産設備等について搬出禁止仮処分決定
 下妻支部は、六月十九日には、「両社は、組合と事前に協議し、その合意なしに、別紙目録記載の両社所有の生産設備等を協和工場から搬出してはならない。」との生産設備等搬出禁止仮処分決定を出しました。なお、第三者の所有物件については、申立を却下されました。決定の特徴的な点は、次のとおりです。
 「本件議事録確認及び本件確認書における、債権者らの合意なしに生産設備等の搬出をしない旨の事項については、‥‥債務者会社と債権者らの間の契約として債務的効力が生ずるといえる。したがって、債務者会社は、契約当事者として、合意内容を遵守し、履行すべき義務(不作為義務)を負うといえる。他面、債権者らは、債務者会社に対しその履行を請求する権利を有するものであり、債務者会社が不作為義務に違反して、債権者らの同意なしに生産設備等を搬出しようとする場合、これの差止めを請求することができると認められる。」

5 協和工場再開と雇用確保を求めて
 二十一歳から五十六歳までの争議団

 両社は、地位保全及び賃金仮払い仮処分決定を守ろうとせず、賃金の仮払いをしません。それどころか、両社は、六月二十四日水戸地裁下妻支部に、JMIU両支部を相手にして、協和工場内にある二つの組合事務所の明渡しを求める建物明渡断行仮処分申立をしてきました。
 争議団の二十二名は、二十代が十三人、三十代が一人、四十代が五人、五十代が三人です。昨平成十四年四月入社の労働者も二人おり、最年少は二十一歳、最年長は五十六歳です。不況下で再就職が困難ななかで、協和工場を再開させ、雇用を確保することが皆の願いです。
 協和町長も、会社解散発表後の二月十八日には、両社に対して、「協和工場は町内でも雇用人数が最も多く従業員の家族を含めると約一五〇人以上にもおよび、地域にも大きな打撃を与えることは必須と思われます。つきましては、‥‥事業の存続について、特段のご配慮を賜りますようよろしくお願いいたします。」と申し入れています。
 厳しい闘いはまだまだ続きそうですが、協和工場再開と雇用確保を求める二十二名のたたかいを是非とも勝利させたいと思っています(弁護団は、私と同じ事務所の横山聡団員、八坂玄功団員等で組んでいます)。



墨田共立診療所・稲見事件報告 

東京支部  鳴 尾 節 夫

1、事件の発生
 今年の一斉地方選挙後半投票日直前の四月二四日のこと。いつものように事務所で執務していたところ、午後三時過ぎ事務局に電話連絡があった。
 東京都墨田区の民医連加盟墨田共立診療所前で、公明党の候補者カーの悪質な民医連を攻撃する大音量による宣伝があり、その業務妨害に対し、注意をした老人(稲見朝吉さん、七七歳)が選挙自由妨害の現行犯で警視庁向島署に逮捕されたとのことであった。
 関係者に問い合わせると、パトカー八台、覆面パトカー二台、ワゴン車一台、警察官一〇数名という物々しい大捕り物劇を演じたらしい。
 誰か対応できないかとのことで、急遽(運悪く?)その場にいた加藤弁護士と私とが警視庁向島署に赴いた。
 午後三時二〇分ごろ警察署につき、直ちに責任者に面会を求め、接見要求をしたが、応対に出た組織犯罪対策部責任者なる人物が、同席した副署長を差し置いてすべてを取り仕切っていた。端緒は一一〇番通報によるとのお定まりの説明に終始、われわれは、年寄りなので身柄拘束中に何か健康上の問題が起きたときにはどうする?診療所に対する業務妨害で刑事告訴するかもしれない旨通告したが、ラチあかず、われわれは現行犯逮捕の現場近くの、問題の墨田共立診療所に向かった。

2、状況把握(被害者が加害者に逆転)
 弁護団が診療所で関係者から事情聴取をし、その日の午後七時過ぎに本人に接見した結果、判明した事実は次の通りであった(なお稲見さんが自宅前でセットしていたテープに貴重な情報が録音されていた)。
 選挙告示日四月二〇日の翌日から公明党候補者カーが連日診療所前を一日に何回も通過するたびに、大音量で次のような誹謗中傷を行いその業務を著しく妨害した。
 「共産系民医連では、弱い立場の患者を利用して政治カンパを強要している」「川崎協同病院、京都民医連中央病院での手抜き検査で何と二二四三人もの人々が死亡している」「共産系民医連病院には命を預けられません、公明党の実績を横取りするハイエナ共産党だけには負けるわけにはいきません」など。
 診療所から四軒隣の稲見さんは、診療所患者友の会の副会長の立場にあって患者から何とかして欲しいと要望されたり、自身が高血圧で診療所に通院している身には、この大音量は確かこたえる行為ではあったので、二四日には二回目にまわってきた昼の〇時三〇分ごろ、車中のウグイス嬢に音量を下げるように注意した。この時の相手方の対応は「はい、分かりました」というものだった。
 ところが三回目にまわってきた午後二時前後には、あいも変わらず共産党と民医連の悪口を大音量でしゃべっていたので、赤信号で停止した候補者カー内のウグイス嬢に向かって、「診療所前でボリュームを上げて病院の悪口を言うのは営業妨害になるのでやめなさい」と静かに注意したところ、相手側から「真実だ、証拠は新聞記事にも書かれている」などと反撃し、その時に稲見さんを遮るようにウグイス嬢が右手を車の外の稲見さんにむけて突き出してきたので、稲見さんは右の手の平で押し戻した。そのときウグイス嬢がことさら騒ぎ立て、「何で手を掴むんだ」などと言いがかりをつけてきたという。さらに車から降りてきて、稲見さんは、車に乗っていた二名の女性を含む四ないし五名の公明党の関係者と思しき人物らに取り囲まれて、やりとりをした後、もう終わったと思って自宅に引き上げてきた。そのとき自宅前で、先にも述べたような物々しい態勢で臨んだ向島署によって、連行されたということであった。
 このように本件はむしろ被害者が加害者に仕立てあげられたというのがことの真相であった。

3、緒戦での弁護団の対処
 弁護団は、診断書、公選法条文拡大コピー、現場地図の拡大コピーの三点セットをフルに活用し、捜査側を追い込み、裁判官の説得に使った。
 診断書は診療所でのうち合わせの際にもらった。内容は「高血圧、上記疾患にて・・・・・を服薬中です。興奮しますと、脳血管障害など起こされる危険性があります」この診断書をこの日夜の接見後に向島署責任者に渡した上、十分留意するように警告しておいた。
さらに公選法一四〇条の二第2項の条文の写しと現場の地図の拡大コピーも渡した。
 診断書は警察も相当気にしたもようで、二箇所の病院に診せた上、診断書記載の薬と同様のものを投薬する手配をしている。
 因みに公選法一四〇条の二第2項は、次の通り。
 「前項ただし書の規定により選挙運動のための連呼行為をする者は、学校及び病院、診療所その他の療養施設の周辺においては、静穏を保持するように努めなければならない」。
 地図は、一瞥するだけで、診療所と赤信号で停止した場所、稲見さんの自宅、候補者カーが動いた状況がたちどころに分かる形になっている。

4 公明党関係者の「告発」および新聞報道と事態の本質
(1)公明党は選挙自由妨害を口実として警察に告発、公明新聞の日曜版(四月二七日付)では事件は次のとおり捻じ曲げられていた。
 「公明党・・・・候補の遊説カーに対し、稲見容疑者が二回にわたり、『お前らウソつくな』などと難クセをつけ、手を振っていた運動員の腕にしがみつくなどの暴行を加え、選挙運動を実力で妨害したもの。」一回目は暴行を受けた運動員は上腕三頭筋打撲の診断を受けていること、二回目は三〇分以上妨害などと書きたい放題の記事となっている。
(2)朝日、毎日、読売の三大紙はいずれも警察発表を鵜呑みにした報道で、特に毎日は問題で、四月二五日朝刊は次の内容であった。
 稲見さんを実名で報道した上で、「自宅近くの路上で、信号待ちで停車していた候補者の選挙カーに同乗していた運動員の女性に対し、『うるさい』などとやじったうえ、女性の右手をつかんで車から引きずりおろそうとするなどして選挙運動を妨害した疑い。容疑は認めているという=選挙違反取締本部調べ」
 何たる偏向した一方的な報道か!!
(3)被害者を加害者に仕立て上げる画策?
 捜査の端緒が一一〇番通報で現行犯逮捕だというにしては、パトカー八台、覆面パトカー二台、ワゴン車一台という大掛かりな体制を向島署が手回しよく組み、即座に対応していることに事態の本質が如実に表れているのではなかろうか。
 候補者カーの運転手が携帯で何度もいずこかに電話連絡をしており、候補者カーのすぐ後に乗用車が追尾していて、背広姿の運転手が降りてきて稲見さんを取り囲む、さらに偶然(!!)通り過ぎたにしてはタイミングが良すぎる通行人の婦人がこれもまた稲見さんを取り囲む、これも後にではあるがウグイス嬢が上腕三頭筋打撲の診断書を提出するなど、すべてに亘って公明党と警察とが密接に連絡を取って大掛かりな現行犯逮捕に踏み切った疑いが濃厚といわれても仕方がないのではないか。
 現に逮捕現場の近くで事前にパトカーが二〜三台待機していたとの情報すら寄せられている。これらすべてが今回の逮捕劇が被害者を加害者に仕立てるシナリオの問題性を浮き彫りにしているとも言えよう。

5 弁護活動および支援運動の展開と勾留請求却下、身柄釈放
 逮捕翌日四月二五日(金)には午前、午後と二回弁護人接見。いずれも多くの支援者たちによるシュプレヒコールが向島署前にこだまし、稲見さんにも聞こえたという。
 送検日の四月二六日(土)弁護団、支援者たちで東京地検に行き、担当検察官との面会を求め、朝から夕方五時三〇分まで待機し、ついに検察官と面会、弁護団作成の厳しい意見書、民医連パンフレット、自由法曹団と救援会編集の二年前の公明党・創価学会の謀略を描くパンフレット、さらに先の三点セットなどを手渡す。
 検査官による四月二六日付の勾留請求を受けて、翌日四月二七日(日)早朝より東京地裁令状部につめて、担当裁判官と面会し、先の三点セットを手渡しつつ、要点を説明、勾留の却下を求めた。裁判所地下で本人に接見。書記官に知らせておいた私の携帯番号が、その書記官からの連絡で鳴ったのは午後四時半ごろのこと、身柄が出ることに備えて裁判所まで来て、待機して欲しい由、私は「ヤッタ」と心の中で叫んでいた。
 東京地裁は私に身柄引受書を出させてから勾留請求を却下、加藤弁護士と私は東京地検に準抗告をしないことを確認、そして稲見さんは午後八時過ぎに向島署から釈放されたのである。フラッシュが次々にたかれる中、大勢の支援者が見守るなか向島署前に稲見さんが姿を現したときの感激は、言葉では表現できない。

6 不起訴と勝因
(1)本件は早期に身柄を釈放させたこともあって、検察官の取調べが緩慢であったが、不起訴要請行動が全国的に取り組まれ、一一〇〇以上の団体署名と九〇〇〇名近くの個人署名が寄せられ、このうち団体署名が担当検察官の机に山のように積まれる中、六月一九日についに不起訴決定を勝ち取った。
(2)勝因は、まず第一に何よりも正当な行為に対する確信に基づく揺ぎ無い本人の頑張りである。警察は診療所への捜査を狙っていたものと推測されるが、これを打ち砕いた。
 第二に、緒戦での弁護団の機敏な行動、これが特にあの東京地裁令状部裁判官による勾留請求却下を生み出し、その後の展開を極めて有利に進めることができたこと。
 第三は、診療所、救援会、弁護団などが力と心を合わせて弾圧事件に取り組み、全国的な、不起訴要請の団体署名、激励の個人署名を集め、これらの運動が大きく東京地検を包囲し、圧倒したこと。

7 教訓
 何事も教訓に満ちていることを前提にすると、本件も例外ではない。
 すなわち、
 第1、創価学会・公明党が構えて攻撃を仕掛けてきていることへの警戒心を十分持って対処することである。例えば彼らは常に携帯で連絡を取りながら行動し、一点に直ちに集中し取り囲み弾圧事件に仕組む体制を取っていること、それも警察との連係プレイに長けており、診断書などもすぐ取寄せることなどに注意を払わなければならない。従って単独行動はご法度であろう。
 第2、民主勢力側も、いわゆる採証活動を怠らないことである。
 テープ、ビデオ、カメラによる写真等々。

8 最後に
 それにしても本件は早期に釈放させて闘いの展望を切り開き、不起訴を勝ち取ったが、特に勾留請求却下で身柄が出た時の感激とその晩事務所の仲間たちと痛飲した酒の旨かったことはいうまでもない(担当弁護団 加藤芳文・鳴尾節夫・大森浩一・大江京子)。



アフガニスタン国際戦犯民衆法廷が始まる

東京支部  伊 藤 和 子

 いよいよ七月二一日、米大統領ジョージ・W・ブッシュの戦争犯罪を問う「アフガニスタン国際戦犯民衆法廷」(ICTA)の第一回法廷が開催される。
 土屋公献検事団長をはじめとする私たちICTA検事団は、ブッシュの戦争犯罪を告発する起訴状を完成させ、ホワイトハウスに送達を行った。ブッシュに対する起訴事実は、国際法を無視して他国を侵略した「侵略の罪」、アフガン全土への無差別攻撃で四〇〇〇人以上の民間人を殺傷し、幾多の民間施設を攻撃し、さらに捕虜虐待・捕虜虐殺を行った「戦争犯罪」、既に貧困と飢餓にあえいでいたアフガンの人々を祖国から迫害して難民にし、死に追いやった「人道に対する罪」である。水島朝穂教授、新倉修教授、ピーター・アーリンダー氏と、イギリス、インドの法律家の計五名の判事団がこの戦争犯罪を裁く予定である。
 アメリカの「報復戦争」は、人類が戦争の悲惨な惨禍の中から作り上げた、紛争の平和的解決のための国際法秩序を完全に無視した違法な侵略行為である。そしてこの戦争は、世界で最も貧しく孤立した国の人々に、大量の最新鋭兵器を落とし、毎日何の罪もない多くの人々を殺戮し続ける、というものだった。
 私は昨年一月に、団のパキスタン調査で、空爆の被害者の話をじかに聞き、メディアでは伝えられない想像を絶する被害に接して言葉を失った。核兵器に次ぐ大量殺戮兵器―デイジーカッター爆弾が民間人の居住地に落とされ、爆心地周辺に一〇〇〇人くらいの死体が転がっていた、という難民の証言。「何の軍事施設もないのに、アメリカの空爆によって村ごと破壊された」という被害がアフガン全土で繰り広げられた事実。罪もない市民のうえに公然と大量殺戮兵器を投下し、虫けらのように殺戮するーこのようなことを黙って見過ごしていいのか、と思った。超大国アメリカの戦争犯罪にメディアや国連が沈黙する中、この戦争犯罪を告発するのは、アフガンの人々と同じ時代、同じ地球に生きる私たち市民の責任ではないだろうか。
 国際民衆法廷は、ベトナム戦争の際に、作家サルトルらの呼びかけた「ラッセル法廷」から始まり、ベトナム反戦の世論がアメリカを包囲するのに大きな役割を果したという。その後も、湾岸戦争を裁くクラーク法廷、第二次世界大戦における日本の性奴隷制を裁く「女性国際戦犯法廷」等の歴史を重ねてきた。しかし、今ほど民衆法廷の真価が問われる時はないと思う。アメリカは報復戦争の犠牲について何の反省もないまま再びイラク戦争を強行し、イラクで罪のない多数の人々を一方的に殺戮して何ら恥じない。ひとたびアメリカが意図すれば、地球上のいかなる人をも、根拠もなく、いかなる国際法秩序も無視して、一方的に殺戮できる、そして民衆はそれに甘んじるほかないーそんな暴挙がまかりとおり、不正義が横行する世界をこれ以上容認できるだろうか。
 ブッシュ政権の犯した最初の戦争犯罪であるアフガンでの殺戮・侵略を民衆の側から裁くことは、二一世紀に平和と公正な世界秩序を作り出すための第一歩だと思う。
 法廷では、これまで隠されてきたアフガンでの民間人殺戮の実態、クラスター爆弾による被害の残虐性や劣化ウラン弾被害について立証予定である。
 検事団には上山勤団員と私のほか多数の若手団員が参加し、法的主張を整理するアミカス・キュリエに大久保賢一団員が参加しているが、まだ人手不足である。何より、この運動が国内的にも国際的にも大きな影響力を持ち米政権に打撃を与えるためには大きな運動の発展が必要であろう。さらに、イラク戦争の責任を問い、世界の市民と連帯してアメリカの横暴を包囲し止める運動も見据えていく必要がある。
 アメリカによる残虐な殺戮と戦争を二度と繰り返させないために、是非この活動へのご参加、ご協力、ご支援をお願いします。また、当日は誰でも参加可能なので皆様の参加をお待ちしています。

[法廷のご案内]
 第一回法廷  七月二一日 10:30〜17:00 場所:日本教育会館
 第二回法廷 一二月一三日 10:30〜17:00 場所:九段会館にて
 第三回法廷 一二月一四日 10:30〜17:00 場所:九段会館にて
 参加費二〇〇〇円(高校生以下一〇〇〇円)



リレールポ憲法調査会 (6)

憲法解釈をめぐる政治と最高裁の交差

東京支部  中 野 直 樹

 五月一五日午後二時、衆議院面会所内のテレビが、衆院本会議の有事三法案採決の模様を映し出していた。賛成九割。いったい民主党は一〇のハードルのいくつを飛び越したのだろうか。ここの説明責任が尽くされていない。憲法九条のもとで戦時法体系をつくりだすことを認めるのかどうかという根本規範にかかわることのはずなのに、「政権担当能力を示す」という政局の取引として片づけてしまう。一九九九年、それまで反対を表明していた「野党」の公明党が周辺事態法賛成、盗聴法賛成…と右カーブを切っていったことも思い返された。
 この日は、衆議院憲法調査会の「統治機構のあり方に関する調査小委員会」傍聴のためにやってきた。本会議が終わらないと国会内入場の手続きがとれない。憲法会議の川村さんが抗議集会のはじまりを告げるのを聞きながら、中に入った。本会議場から議員がぞろぞろ戻ってくる。これで山を越えた、と石破防衛庁長官の甲高い声が耳に飛び込んできた。

 案内されて入った委員会室には、楕円形に机が並んでいる。一五名の委員が着席していた。中山憲法調査会会長の席が特別に設けられている。この時のテーマは「司法制度及び憲法裁判所」で、すでに前内閣法制局長官で現在は弁護士の肩書きの津野修氏の発言が始まっていた。傍聴者も委員と同じ資料をもらえる。
 内閣法制局の組織について説明を受けるのは初めてである。七七名のスタッフをかかえ、第二部から四部で省庁を分けて、法律案・政令案の審査を行う。第一部は、いわゆる法令の解釈に関する内閣の統一見解を陳述する部署であるが、現在は、ここに憲法資料調査室(憲法調査会の報告書及び関係資料の整理等)と司法制度改革法制室が付設されている。
 主たるテーマは憲法裁判所の可否であったが、それよりも、自民・自由さらには民主の委員から、さかんに憲法解釈と現実との乖離の解消、集団的自衛権についての質問がなされていた。津野氏は、さすがに集団的自衛権についての法制局見解は間違いではないといいつつも、一番よいのは憲法を改正するであり、そのことにちゅうちょすべきではない、と言い切っていた。山口富男委員(共産)から、憲法九条に関する政府見解と公法学会の多数説とがかけはなれているのではないかとの質問がなされたことに対し、津野氏は、かつてはそうであったが、現時点では公法学会も政府見解に近くなっているのではないか、と回答しており、え?という思いであった。

 二人めの参考人は、山口繁前最高裁長官である。前職であるが、最高裁からの数名のスタッフ付きである。山口氏は、最高裁が法令の違憲判断をしたものは五種六件であり、司法消極主義だとの批判を受けているとしたうえで、直接の民主的基盤をもたない裁判所は、原則として立法府の判断を尊重するのだとその姿勢を正当化した。さらに山口氏は、「しかし」として、表現の自由や精神的な自由など民主主義の基盤に関するものについては裁判所は慎重な検討が必要だとの見解も表明した。
 この「しかし」以降の発言について、最高裁が本当に役割を果たしているかについてつっこんだ質問がなく、残念であった。ちょうど私は、国民救援会会長の山田善二郎氏から、救援会とともに歩んだ五〇年を回顧する著書の校正作業を頼まれていた。その中に国家公務員労働者の政治活動の自由、選挙運動の自由の獲得をめぐる苦闘の歴史が叙述されている。昭和四〇年代、全国で刑事裁判闘争がたたかわれ、自由法曹団員が弁護人として奮闘し、下級審で無罪判決を積み上げた。その中には、堂々とした違憲判決も少なからず出された。裁判所が、国民の基本的人権、特に民主主義の基盤にかかわる表現の自由・精神的自由の救済という本来の役割を発揮し始めたのである。ところが最高裁は、ことごとく無罪を有罪に変更し、合憲判断を乱発した。山田会長は、一九六一年の参議院選挙の際の戸別訪問事件について、最高裁が昭和三年大審院判例を引用して無罪判決を破棄したことについて、国民主権を認めず、言論・表現の自由を奪い、集会・結社の自由をほしいままに弾圧した明治憲法下の判例を、「一切の表現の自由はこれを認める」と明記されている現憲法下の裁判にひきづり出してくる最高裁の反動的・反国民的思想の根深さを示していると痛烈に批判している。同感である。最高裁は、政治から身を引いているのではなく、支配政党の「政治」を支える役割を果たしているのではないか、この追及がほしかった。

 山口富男委員が、ポツダム宣言受諾後に治安維持法違反の有罪判決を受けた横浜事件の再審開始を認める判決を引用して、司法の場合、明治憲法と日本国憲法とで、主権の存在も基本的人権もまったく異なる、同じ裁判官がこの違う司法を担ったが、この違いをどのように把握して戦後の司法をつくっていったのか、との趣旨の質問をした。
 これに対し、山口前長官は、質問の趣旨を「裁判官の戦争責任」の問題ととらえて説明し始めた。山口前長官は、戦前の司法研究報告書を読むと、ナチズムを批判した若い裁判官もいた、明治憲法下の裁判官も人権や国民に対する考え方をしっかりもって対処した方が多いだろうと推察している、裁判官も新憲法を熱心に意気込みをもって勉強した、と弁明した。答えになっていない。
 上田誠吉先生が「司法官の戦争責任」(一九九七年花伝社)で侵略に加担した裁判官が「なにごともなかったかのように、法服を着換えて戦後司法の法廷に座ったのでした。そのことは戦後司法のありようを、どこかで強く規定していたに違いありません」と指摘されたこの問題は、山口前長官をぐさりと刺したように感じられた。
 わずか数メートルのところに腰かける前最高裁長官の後ろ姿は落ちつかないように小刻みに揺れていた。



弁護士布施辰治

没後五〇年記念集会のご案内

宮城県支部 庄 司 捷 彦

 自由法曹団の創設メンバーの一人、弁護士布施辰治は一八八〇(明治一三)年一一月一三日に石巻市蛇田(当時の蛇田村)に生まれ、一九五三(昭和二八)年九月一三日に没しました。明治・大正・昭和の激動の時代を駆け抜けたその生涯は、そのまま、日本人の基本的人権獲得の闘争の歴史と言えるものです。普通選挙の実現運動を担い、自由法曹団や日本国民救援会などの創設に参加し、朝鮮・台湾など植民地人民の闘争へも積極的に関わり、自ら獄に下ること二回など、全身全霊を人民の権利擁護のために捧げたと評すことが出来ると思います。東北でも、岩手軽米での入会権を巡っての長い裁判や、宮城県での小作争議(前谷地事件)での活躍も歴史に記録されています。
 弁護士布施辰治の事績については、石巻市向陽町に設置されている顕彰碑に、簡潔に刻まれています。また、韓国では、テレビで特別番組が放映されましたが、そこで弁護士布施辰治は「アジアのシンドラー」と謳われています。さらに〇一年秋、ソウルで「布施辰治先生記念国際学術大会」が催されており、韓国での顕彰運動も展開されはじめています。
 目を、現在の日本に転じますと、有事立法が成立し、北朝鮮有事を口実にしたアメリカの先制攻撃を端緒とする戦争、日本を戦場とする戦争が、現実のものとなる危険が迫ってきています。まるで弁護士布施辰治が生きていた時代へタイムスリップするかのような情勢ではないでしょうか。このような状況であればこそ、私たちは、弁護士布施辰治の生涯に学ぶことが大切なことではないかと考えました。
 私たちは、没後五〇年を記念して、弁護士布施辰治が、どのような思想に依拠して生きたのか、どのような闘争を弁護したのか、現在その事績から何を学ぶべきか、を考え、議論する機会を持つことが必要ではないかと考えた次第です。地元の関係団体と実行委員会を結成し、別項の記念企画を準備いたしました。
 何かと御多忙な毎日をお過ごしのこととは存じますが、私たちの趣旨をご理解の上、この企画へ皆様のご参集とご協力を頂けますよう、心からお願い申し上げます。

記念集会の内容
一、日時 二〇〇三年九月六日(土)午後一時三〇分〜四時まで
  場所 仙台弁護士会館 四階講堂
二、集会の内容
  (1)スライド上映
     (弁護士布施辰治の生涯を辿った貴重な映像です)
  (2)記念講演
    (1)弁護士布施辰治の生涯から学ぶもの
      名古屋市立大学名誉教授・森正氏
    (2)東北と弁護士布施辰治(入会権訴訟での軌跡を中心にして)
      弁護士・竹澤哲夫氏
    (3)遺族から見た弁護士布施辰治の実像
      遺族・大石進氏
三、その他
 I 岩波新書「ある弁護士の生涯」は、今年八月にリバイバル出版が決定しました。
 II 未来社刊「布施辰治外伝」は、再刊を交渉中です。
 III 今回の記念集会も、記録として残す予定です。
尚、今回の記念集会について、次の方々から、呼びかけ人としての賛同を頂きました。厚く御礼申し上げます。
【記念企画呼びかけ人】渡辺大司(仙台弁護士会)、勅使河原安夫(仙台弁護士会)、松尾良風(仙台弁護士会)、青木正芳(仙台弁護士会)、杉山茂雅(仙台弁護士会)、遠藤孝夫(仙台弁護士会)、安田純治(福島弁護士会)、中田直人(茨城県弁護士会)、上田誠吉(東京弁護士会)、松本善明(東京弁護士会)、大塚一男(東京弁護士会)、豊田誠(東京弁護士会)、竹澤哲夫(東京弁護士会)、宇賀神直(大阪弁護士会)、石川元也(大阪弁護士会)、森正(名古屋市立大学名誉教授)、山田善二郎(日本国民救援会)
【事務局団体】自由法曹団宮城県支部・日本国民救援会宮城県本部・宮城県労働組合総連合/【連絡先】庄司法律事務所 庄司捷彦
〒986-0832石巻市泉町四丁目一番二〇号(TEL 0225-96-5131)



弁護士報酬と「弁護士自治」

東京支部  後 藤 富 士 子

1 「訴訟費用」とされている国選弁護人報酬

 刑事訴訟法第一八一条は「被告人の訴訟費用負担」について、「刑の言渡をしたときは、被告人に訴訟費用の全部又は一部を負担させなければならない。但し、被告人が貧困のため訴訟費用を納付することのできないことが明らかであるときは、この限りでない。」(同条1項)と定めている。そして、「訴訟費用の範囲」については、「刑事訴訟費用等に関する法律」第二条3号に「国選弁護人に支給すべき旅費、日当、宿泊料及び報酬」と規定されているから、国選弁護人の報酬は訴訟費用として有罪判決を受けた被告人に負担させられる。これに対し、無罪判決が確定したときは、「訴訟費用」ではない私選弁護人報酬も「裁判に要した費用」として一定基準により補償される(刑事訴訟法第一八八条の2)。
 すなわち、現行法上、刑事弁護報酬でも国選弁護人の報酬は「訴訟費用」とされているのに対し、私選弁護人の報酬は「訴訟費用」ではなく、無罪判決が確定した場合でも私選弁護人の報酬実額全部が補償されるわけではない。
 かように、同じ刑事弁護でありながら、私選の場合と国選の場合とで報酬が「訴訟費用」であるか否か差があるという制度は、本質的に公正でない。というのは、被告人と弁護人との関係は、私選・国選の別を問わず、「依頼者―弁護士」としての信頼関係がなければならないし、弁護の質も差があっていいはずがないからである。殊に、国選の場合にも報酬を被告人が負担させられることを考えると、被告人からすると報酬だけ負担させられて人選できないし、弁護士からすると同じ役務を提供しながら国選というだけで著しく低額の報酬を押し付けられるうえ、弁護活動そのものも裁判所の管理下におかれるのだから、全く以って酷い話である。これでは、裁判所が「安かろう悪かろう」の刑事弁護を体制化し、それによって「有罪率九九%」を維持しているのではないかと疑われる。
 私は、これまで国選弁護報酬等は国庫負担であり、最終的に被告人に負担されるものとは知らなかったので、その報酬が低額であることについて不満をもったことはなかった。しかし、法律上「被告人負担」とされていることを知ってみれば、日本の弁護士の「お人よし」ぶりに今更ながら呆れる。貧困な刑事被告人に弁護を受けさせるために、なぜ弁護士に身銭を切らせるようなことを当然視するのか。結局、日本の弁護士が、「公益的使命」と言われて安価な報酬に甘んじてきたことは、被告人のためには何も益するところはなく、刑事弁護の質の低下と弁護士に対する非難を生み出しただけである。

2 給付制の扶助が実現しない原因
 国選弁護報酬の現実は、弁護士がこれに誠実に対応すればするほど、報酬が上がらないことを示している。法律上「被告人負担」とされ、これに対するリーガルエイドがないのだから「訴訟費用」として裁判所予算から支弁する額を抑制するのは当然である。健全なあり方を考えると「当事者に対する裁判を受ける権利の経済的援助」であるべきであり、弁護士も正当な報酬を取得できなければならないはずである。
 刑事事件は、交渉はなく、訴訟だけであり、かつ起訴権限は検察官が独占しているのだから、市民たる被告人にとっては、「司法アクセス」とは「裁判を受ける権利」にほかならない。そして、日本の現実は、その「裁判を受ける権利」を実質的に保障するための、当事者に対する給付としての経済援助を講じていないのであり、この現状を抜本的に変革しないで何が「法の支配」か。
 刑事裁判においてさえこうなのだから、民事法律扶助が狂っているのも当然であろう。

3 「弁護士の職責」として「敗訴者負担」と闘うべき
 弁護士報酬の「敗訴者負担」制は、弁護士報酬を「訴訟費用」に取り込むことを意味する。しかし、民事弁護については「国選」ということはなく全て「私選」であり、そうであれば刑事弁護の場合ですら弁護士報酬は「訴訟費用」とされていないのに、これを「訴訟費用」化しようというのは狂気の沙汰である。しかも、民事弁護は、刑事と異なり、訴訟事件だけではないし、原告として提訴する側にも立つのだから、これらの弁護士報酬全体の中で、「敗訴者負担」という異質のものを突出させることは目障りこのうえない。
 前述したように、刑事弁護における「報酬」と「訴訟費用」の関係に照らせば「敗訴者負担」制は、市民のアクセスを阻害するという以上に、弁護士業務のあり方について根本的な打撃を与えることが見て取れる。
 日本の弁護士は、これまで「敗訴者負担」反対運動を「市民のため」に請負ってきた。しかしながら、「アクセスを阻害する」という理由で反対運動をする主体は、あくまで市民である。これに対し、弁護士報酬の国家統制という側面こそ弁護士が問題にしなければならないことである。「法の支配」の担い手たる弁護士は、自らの職業の浮沈がかかっている「敗訴者負担」問題を、主体的に闘わなければならないと思う。

〔二〇〇三年六月一〇日〕



白熱、敗訴者負担問題

〜署名、パブリック・コメントへの取り組みを

担当事務局次長  坂  勇 一 郎

1 六月二〇日司法アクセス検討会の状況
 六月二〇日、第一六回司法アクセス検討会が開催された。
 この日の議論は、五月三〇日の議論に引き続き、具体的訴訟類型に即して敗訴者負担導入の可否について検討が行われた。この日検討が行われたのは、まず交通事故・公害事件について。さまざまな意見が出されたなかで、新日鐵の西川常務からは公害事件についても導入すべきであるという意見が出された。次に消費者事件について。消費者事件については司法アクセスの観点から導入すべきでないという意見、業者と消費者間に力の格差があるので導入すべきでないという意見が出された。
 この間事務局は七月二三日の検討会で制度導入の目処をつけることを目指してきたが、この間の取り組みによりこれを許す状況とはなっていない。しかし、検討会委員の多数が導入論者によってしめられている状況にかわりはなく、状況は依然厳しい。次回検討会(七月二三日)では市民間訴訟について意見交換されることになると思われるが、ここが最も意見が対立するところであり、ここに司法アクセスの旗を立てることが肝要である。今後の日程としてはかねてより予定されている次回検討会の後敗訴者負担問題についてパブリックコメントを求めること、九月から一一月にかけてさらに四回の検討会を開催することが予定されている。

2 この間の取り組みと敗訴者負担を巡る状況
 この間、日弁連は、六月一一日に敗訴者負担問題研究討論会を開催した。パネラーとして参加した吉岡初子元司法審委員(主婦連会長)は、現在の司法アクセス検討会の議論は、審議会意見書の誤った読み方に基づいて進められていると、検討会の現状を批判した。日弁連が呼びかけた六月一九日の全国統一行動デーには二九単位弁護士会から取り組みの報告が行われている。
 六月二〇日には、日本司法書士会連合会が敗訴者負担制度導入反対の決議をあげた。また、六月末までに全国のすべての単位弁護士会にて敗訴者負担反対の決議があげられた。
 日弁連・全国連絡会等が集めている反対署名は、六月末までに合計で八〇万筆を超えている。

3 反対運動に取り組んでいる市民の声
 反対運動には、さまざまな市民団体が取り組んでおり、次のような声が寄せられている。

 全労連総合組織局・組織局長 中 山 益 則

 国民に開かれた司法制度とするのか、否かをめぐって司法アクセス検討会での「敗訴者負担制度」導入問題が、大きな山場を迎えています。全労連は、司法改革推進本部の十一検討会のなかで、特に労働検討会と司法アクセス検討会の動向を注目しています。
 意見書の趣旨にも反し、司法アクセス検討会で、敗訴者負担制度の原則導入と例外討議に入っています。五月三〇日の検討会では、京大教授の山本克巳委員が、労働関係は、「敗訴者負担導入でいくべき」と主張しました。この理由は、労使の力関係は格差がないということです。とんでもないことです。労働者の力が弱いからこそ、労働組合法があり労働者・労組の権利を保障しているのです。このようなことすら無認識の委員の無責任な発言に組合員からは憤りがあがっています。
 全労連は、すでに直接全単産本部へ運動強化を要請。さらに、二回にわたって『全労連新聞』で特集を組み、危険な内容と運動方向を知らせています。司法総行動とリンクし『司法改革シンポ』も開催。今後は、少なくとも高裁八管区で、共同を広げるよう方針を提起しています。法曹界の中でも自覚的組織である自由法曹団が、八管区のみならず全国的に大きな共同の中枢として奮闘されることを期待するものです。

4 署名の取り組みの強化と八月パブリックコメントに向けての取り組みを
 検討会内の状況は厳しいが、検討会の外では反対の声が広がっている。この反対の声をより大きく広げて、検討会内の議論を励ましていくことが重要である。
(1) 署名の取り組みの強化を
 個人署名は八〇万筆を超えたが、一〇〇万人署名達成まであとひとがんばり、ふたがんばりが必要である。是非各事務所において、事務所ニュースの発送に折り込む等、依頼者・つながりのある団体への働きかけを強めて欲しい。
(2) パブリック・コメントへの準備を
 前記のとおり、パブリック・コメントが八月にも行われる可能性が高い。八月は休暇の時期であり、七月中に対応の準備を行っておく必要がある。弁護士報酬の敗訴者負担に反対する全国連絡会と司法総行動実行委員会は、共催で左記のとおり集会を開催する。東京近郊の団員は是非多くの市民団体に対して、集会への参加を呼びかけて欲しい。また、各地方においても是非パブリック・コメント対応のための集まりを、弁護士会や市民団体間で企画する等、パブリック・コメント対応に向けての準備をして欲しい。
  「弁護士報酬の敗訴者負担反対二〇〇三夏の陣
    徹底検証 司法アクセス検討会
    〜パブリックコメント(意見募集)への準備のために〜」
  日  時:七月二八日(月)午後六時三〇分〜午後八時
  場  所:第一東京弁護士会講堂(予定)

(3) 全国統一行動デー(七月二二日)の取り組みを
 日弁連は七月二二日を全国統一行動デーとして、全国の単位弁護士会に署名運動や宣伝行動の取り組みを呼びかけている。東京弁護士会は「敗訴者負担反対うちわ」を市民とともに配布することを計画している。是非、全国で多様な取り組みを呼びかける。



ブックレット

「変えてはいけない!教育基本法」を市民の中に

岐阜支部  笹 田 参 三

 教育の分野は専門の人がやっているので関係がない、とお思いの諸兄にお勧めする。労働、刑事、消費者などの他分野に関心のある団員に是非一読をお勧めします。
 「変えてはいけない!教育基本法」は、自由法曹団が編集し、唯学書房から発行されたブックレットです。まず、コンパクトであり、読み易いこと、電車の中で一気に読んでしまう。
 その導入部分は、小学生の次の詩からはじまる。
  「こんなんだったら いいな 
  私が 教室の前に 立って 
  『ここが わからないから 教えて』というとね 
  先生たちが ハイハイって 手をあげて
  教えてくれるの
  それで 私がわかったら
  『よくできました』って ほめてあげる」(小四女子A)

 教育の専門でない多数の団員が「熱い思い」で書いている。
 現在進んでいる教育基本法改悪問題は、教育分野プロパーでなく、憲法・平和の問題と密接に関連しており、同時に、労働法制改悪などと同じ経済的な結びつきを持っている。どこにも「入り口」があります。それぞれの入り口から入りながら、新国家主義と新自由主義を克服する、二一世紀の課題を問うことになります。
 「戦争」と「心」の問題が現在の焦眉の課題です。「戦争ができる国」を作っていくことを権力者は精力的に進めています。有事法制などでその法律的体制ができたとしても、国民の「心」を捉えることが不可欠となります。
 その結節点となるのが、教育基本法改悪であり、「心のノート」による愛国心教育です。
 「心のノート」は、二〇〇二年四月に全国の小中学生一二〇〇万人全員に配布された国定の道徳副読本です。福岡県ほか全国で進められようとしている通知表で愛国心を評価しようとする動きも紹介しています。
 ブックレットは、この「有事法制」と「教育基本法」問題を結びつけて、熱く語っています。同時に、中央教育審議会答申では、教育基本法による教育を進めた結果、現在の深刻な教育危機があると述べている。教育基本法に基づく教育行政を実施せず、過度な競争主義的な教育をしてきた文部科学省の責任を教育基本法に押し付けている。
 最近、教育基本法制定当時の立法者が作成した「教育基本法の解説」、「新制中学校 新制高等学校 望ましい運営の指針」が民主教育研究所から復刻されている。正に、当初の「解説」と「運営の指針」がないがしろにして運営されてきた結果、現在の教育の危機がある。いまこそ教育基本法の精神を活かした教育の復興が必要です。

 何はともあれ、このブックレットを団員に読んで欲しい。そして、団員の回りの人全てに読んで貰いたい。
 今国会への教育基本法改悪法案の提出は避けられました。戦いのエネルギーを蓄える時間を持つことが出来る。
 しかし、教育基本法改悪は、戦争ができる国作りには欠くことができない「心」の問題であり、憲法改悪の前哨戦となるものです。権力者があきらめることはない。
 ところが、教育基本法について、約一〇%の人しか知りません。これでは、教育基本法改悪反対と言っても通じません。この人たちの中に持ち込んで行きましょう。岐阜の地域にも、監視される社会を拒否し、住基ネットに反対する人、三〇人以下学級を目指して取り組んでいる人、労働法制の改悪に怒りを持っている人など多くの人たちが、暮らしの改善を求めて動いています。最近では、小学生を子どもに持つお母さんたちが、「まずい、食育になっていない」給食の改善を求めて運動に立ち上がっています。それらの現場に、このブックレットを持ち込みましょう。暮らしの改善を阻止する根底にあるもの、新国家主義、新自由主義を告発しましょう。
 注文は、FAXで自由法曹団本部まで。