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工藤 勇治 福岡総会の感想(2) 福岡総会の感想
田場 暁生 福岡総会の感想
川口  創 福岡総会に参加して(二年目弁護士の雑感)
秋山 健司 団総会に参加して
西   晃 福岡総会に参加して
今村幸次郎 福岡総会に参加して
後藤 景子 福岡総会の感想
谷脇 和仁 子どもと一緒に有明海を考える―福岡総会後の一泊旅行より
谷脇まほろ 「有明海」
坂本  修 新旧役員挨拶(2) 変わらぬ“思い”で、できるだけのことを
山崎  徹 次長退任のご挨拶
瀬野 俊之 事務局次長に就任して
齋田  求 事務局次長就任にあたって
加藤 健次 JR採用差別事件 最高裁宛アピールを広げよう!
河村  学 大阪での派遣・偽装請負に関する取り組みについて
諌山  博 角銅立身団員著「男はたのしく たんこたろ弁護士」をすすめる
黒岩 哲彦 教育基本法改悪反対!一二・二三全国集会に賛同をお願いします




福岡総会の感想(2)

福岡総会の感想

東京支部  工 藤 勇 治

 二〇〇三年の福岡総会で、他の一一名の仲間とともに、古稀団員として表彰をいただきました。
 私は、団員としては殆ど活動がありません。光栄には存じますが申し訳けなく、ほんとうにありがとうございました。
 久し振りに総会に出席し、自由法曹団のあたたかさを強く感じました。
 宇賀神前団長からいただいた表彰状には、それぞれの団員の活動があたたかく豊かに、そして適確な筆致で表現されていました。私自身のことについても、行き届いたお励ましをいただき面映ゆい思いです。
 懇親会になってからも、多くの方から、おめでとうと言われました。このあたたかい思いやりは何だろうと考えました。もちろん、家族間のものとは違いますし、ギルドの閉鎖的なものでもありません。やはり大きな共同の目的に向かっている、抑圧され、権利を侵害されている人達と共に闘っているという連帯感なのだと感じました。
 ご承知のように、私たち古稀を迎えた人たちが生まれた一九三三年は、ナチスが政権を掌握し、日本が国際連盟を脱退して戦争へつき進んで行くことになった歴史的な年です。
 そのほぼ一〇年後、ルイ・アラゴンは、自らのナチスドイツ軍に対するレジスタンスの経験をもとに多くの詩をつくりましたが、私は懇親会で、その中の「フランスの起床ラッパ」の有名な詩句「神を信じた者も、信じなかった者も…あの美しきものをともに讃えた」を、想い出していたのでした。この自由法曹団のあたたかさは、思想、信条などの違いを越えて共に闘っている連帯感なのだと思いました。
 お礼の挨拶に、私は次のようなことを述べました。
 今地球は、温暖化の影響で、表面に予想だにしないさまざまな変化が恐ろしい速さで起こっています。目を弁護士層全体に転じ、これを球体になぞらえていうなら、その表層部がどんどん剥がれて行っているといえるでしょう。企業の経営に関与したり、弁護士のまま事実上企業に雇われている人たちがものすごく増えているではありませんか。
 まだ球体の核となる部分は、ゆらいでません。しかし、二万人の数が三万人になり五万人にもなって、経済界の求める企業弁護士が量産されて行く暁には、このままだと、核の部分が相対的に小さくなっていきます。
 どうしたらいいのか、われらが自由法曹団の課題の一つです、と。
 もう年をとったのだからと、遊び呆けてもいられない思いで、総会から帰ってきました。

(二〇〇三・一一・一四)



福岡総会の感想

東京支部  田 場 暁 生

 私は、弁護士登録後、前から取り組んでいるアフガニスタン国際戦犯民衆法廷の証拠収集のため、アフガニスタンに調査旅行に出かけ、団総会は、初日懇親会からの参加となった。

1 懇親会 
 正直、このようにたくさんの弁護士・事務局の方が参加するとは思っていなかった。大きな会場がたくさんの人で埋まる様子は、圧巻であった。多くの先輩方とご挨拶をしたいと思っていたが、結局、今まで知り合えた先輩弁護士と同期以外は、数人の(大)先輩弁護士と名刺交換が出来ただけだった。
 懇親会では、壇上で、五六期の新人の紹介がなされた。五六期内の「上席」で福岡でも、今後その権力を振るうであろう岩橋団員から五六期について「正直言いまして、私達はバカです・・・」と五六期を代表する挨拶があった・・・
 成田から福岡に直行した私と同期の久保木は、民族衣装をまとい、アフガンで見、感じたことを交え、ご挨拶をさせていただいた。
 夜は、福岡の鍋・ラーメンを堪能した。「温泉がないことから長らく総会の場所から外されていた」というのは実にもったいない!福岡初上陸の私にとっては、なおさらの感想であった。

2 二日目
 先輩方も、どうせ遅くまで飲んでいるのであろうに、よくあんなに早くから会議で出られるものだ…。と思いながら、二日目の分散会に参加した。
 アフガンから帰ってきたばかりということもあり、私が、各地における取り組みの報告の中でアフガニスタン国際戦犯民衆法廷の紹介をすることになった。
 各地からの報告の中で、自分が報告をすると、改めて、情勢の中で運動を位置づけること、それが決定的に重要であることを認識した。また、全国の取り組みを相互に関連づけ、互いにヒントを得、今後につなげること、また、自分達の運動のどこが足りないか、を認識する重要な場となることを確認した。
  現在の政治情勢の中、ともすれば、厳しい現実に肩を落とすことがあるかもしれない。改憲勢力が伸張した今回の衆議院選の結果からも、今後の活動はより一層厳しいものがあるだろう。その中で、全国で共通の要求・思いを持ちながら活動している団員の姿に触れることにより、また明日への活力を得る。これから数十年、団総会は私にとって、そんな場になるのであろう。



福岡総会に参加して

(二年目弁護士の雑感)

愛知支部  川 口  創

1、今年の団総会は、去年より数段緊張感があり、やる気になれる総会でした(弁護士二年目の五五期の私が言うのは非常に僭越ですが…)。具体的な議論が多く、議論が白熱し、耳を傾ける側も皆真剣でした。掛け値なしに参加して良かったと強く思いました。
 思えば、この一年で、アメリカがイラクを武力征服し、国内では有事法制が成立し、憲法改悪のレールが引かれるなど、この国と世界の情勢ははっきりと悪い方向へ進みました。こういった危機意識が、全国の自由法曹団員の意欲をかき立てたのだと思います。
 去年はまだ「北東アジアの平和」は一部の団員から発言があっただけでしたが、今年は分散会の一つのテーマになるなど、情勢を的確に把握した前向きな議論がなされました。
 進行も、全体としてよく練られており、飽きることがありませんでした。

2、全体企画の「福岡シンポ」では、水俣訴訟で有名な馬奈木先生から集団訴訟の意義の話があり、一つの時代を切り開いてきた蓄積を実感しました。また、同期の五五期の後藤さんが活き活きと仕事をされている姿を見て、とても触発され、元気が出ました。 
 一日目の分散会では、教育、労働現場で起きている憲法破壊の実態とそれをはね返す闘い等について、二日目の分散会では、北東アジアの平和のために何をなすべきかについて、それそれ活発な議論がなされました。後者では、五五期の団員から在日コリアンへの嫌がらせ問題(三つの分散会で五五期が分担して報告)や、長野の毛利先生から「コリア・日本二億人国際共同署名行動 平和のための署名活動」の話がなされたり、アフガンから帰ってきたばかりの五六期からの報告などがなされました。現在の情勢に対する危機感が会場全体にみなぎり、とても緊張感がある分散会でした。
 再開された全体会では、泉澤団員からの戦後補償の報告など、とても刺激になる話が多くなされました。

3、イラクへの自衛隊派兵が目前に迫り、この衆院選挙では護憲勢力が大きく後退してしまいました。日本は、まさに「戦争をする国」に具体的に進もうとしています。今こそ、我々弁護士が「市民に根を張った憲法の番人」として、声を挙げ、知恵と力を出し合う時ではないでしょうか。おそらく、戦後何度も「今こそ」と言われてきたかもしれませんが、本当に憲法が捨て去られる危険な地点に、今、我々は立たされていることに間違いはありません。今から戦前を振り返った時、「なぜ戦争を止められなかったのか、その時代の人たちはいったい何をやっていたのか」と思っていました。
 しかし、後の世代から今の時代を振り返った時、果たしてどう評価されるのでしょうか。後の世代に胸を張って時代のバトンをつなげるよう、出来る限りの取り組みをしていきたいと思います。
 今回の総会では、全国の多くの弁護士が頑張っていることを実感でき、憲法を守るために頑張ろうという意欲がさらに沸きました。本当に参加して良かったです。
 坂本修新体制に期待し、私も自由法曹団の末席から微力ながら団の活動を支え、憲法を守るたたかいに全力を注いでいくつもりです。



団総会に参加して

京都支部  秋 山 健 司

 京都第一法律事務所にこの秋から勤務している秋山健司と申します。先日団総会に参加させて頂きました。盛大な歓迎会をしていただきありがとうございました。
 新人団員を最初に迎えてくださったのは、自由の守護神という感じのした宇賀神先生からのご挨拶でした。戦前の暗黒時代からたたかいぬいてこられたのではないかと思わせられる、筋金いりという雰囲気に、「あぁ、なんかすげーところにきてしまったのかなぁ、」と圧倒され気味になってしまいました(笑)。
 ですが、五五期の団員でおられる先輩方による、有明海を守る戦い、在日朝鮮人の方の人権を守る戦いのお話や、分散会でのNTTによる不当配転問題のお話を聞き、自分の母親を有明海の漁民、在日朝鮮の人々、不当な扱いを受けるNTT社員に置き換えて考えてみたところ、「そんなひどい話があるか!」という怒りや悲しみに似た気持ちがわき起こってくるのを感じました。虐げられた人々に心を寄せ、その人々の人権を守るために果敢に立ち向かう団の尊さに、しばし感じ入っておりました。
 団総会に出席して、「虐げられた人間のいるところ、常に新しい人権を勝ち取るためのたたかいが始まる、人権は、憲法一五条以下に定められた権利に尽きるものではない、新しい人権の守り手となることが弁護士としての大事な使命なのだ。」ということを強く感じるようになりました。
 しかし、最近段々仕事が増えてくるに従い、「あー、忙しいなぁ、こんなに忙しくちゃ、落ち着いて人権救済活動できないよぉ、…ちゃんと締め切りまでにできるかなぁ…。」と思うこともしばしばです(まぁ、もっとも、こだわらなくてよい問題にこだわっていたり、やるべきことをはっきりさせることがうまくできていないために忙しく感じているだけかもしれませんが…(苦笑))。虐げられた人々を、自分の母をはじめとする、自分にとっての大切な人に置き換えてみて、常にその痛みに心をよせつづけることによってモチベーションを保っていかなければならない、仕事に早く慣れて、もっとスピーディにこなしていかなければならない、と思っております。
 というわけでして、仕事上の悩みは尽きませんが、団総会に出席したことによって、人権擁護活動の原点を確認できたような気がしております。どうもありがとうございました。今後とも宜しくお願い致します。



福岡総会に参加して

大阪支部  西   晃

一、今回の総会は、わが大阪から三年間団長として先頭に立って団を率いてこられた宇賀神団長が退任となる総会として、同期(四〇期)の松島さんが新事務局長に就任する総会として、そしてついでに阪神タイガースが目と鼻の先の福岡ドームで一八年ぶりに日本一になるはずの総会として(これは残念でした)、特別な思いで参加しました。平和と民主主義がかつてなく危機に直面している状況を踏まえ、全国の団員・事務局の皆さんと認識を一致させ、決意を固めるべく参加いたしました。

二、いろんな意味で極めて有益な総会でした。一日目の福岡企画は本当に刺激的でした。私自身大阪支部の事務局長を二年間務め、先日の大阪支部総会で退任しましたが、新人団員に対する取組や、支部の活動を如何に活性化させるかという問題意識の点で、大阪支部としても大いに学び、参考にするべき点があったと思いました。分散会(私は第三分散会)の議論については、両日とも発言(教育基本法改悪阻止と憲法改悪阻止について)をさせていただきました。両日とも、それぞれの論点について示唆に富む発言が多くなされ有益でした。特に印象に残った(感心したといった方がいいのでしょうが)ことは、ついこの間登録したばかりの新人弁護士(五六期)が、堂々と自分の意見を述べていることです。ひたすら先輩達の議論を聞いていただけの自身の一六年前とは大違いです。平和の課題については、私たちの運動が「加害者として殴ることをためらわない風潮に厳しく対処できてこなかった」ことの問題点、過去の日本の加害者としての側面を真摯に反省する点において不十分なものがあったことを指摘するご意見には、改めてそのとおりであり、今後に生かしていかなければならないと感じました。分散会二日目の最後の方で発言された先輩団員(大変失礼ながらお名前忘れました)のご発言、「運動を組織される側の視点に立つことの重要性」、肝に銘じて今後の運動を続けたいと思います。「偉そうに天下・国家を議論する側の人間もただの人間、綺麗な女性を見れば如何わしい想いも持つ。法があり、刑罰が怖いから止まれる。それを実行に移すか否かは紙一重。」この戒めの言葉、冗談ではなく隣の席の篠原俊一さん(大阪)と「ほんまやなー」と納得しあっていました。

三、今回の総会、議論の中身だけではなく、豪華ホテルも懇親会の食事も、そして夜の博多の街も大いに堪能しました。中洲の屋台のおでんも、長浜ラーメン(固めん)も、ギョーザもおいしかったです。強いて欲を言えば、深夜一時頃ホテルに帰った時に、「ああ、ゆったりつかれる温泉がほしい」と思ったことはありますが、これはないものねだりでしょうね。最後になりますが、団本部の皆さん、福岡支部の皆さん、本当にありがとうございました。宇賀神(前)団長、三年間本当にご苦労様でした。中野(前)事務局長はじめ退任された次長の皆さん、お疲れ様でした。そして全国の団員・事務局の皆さん、これからもご一緒に頑張りましょう。



福岡総会に参加して

東京支部  今 村 幸 次 郎

1 去る一〇月二四日及び二五日、福岡で団総会が開催された。参加者は、総会としての過去最高に並ぶ四九三名とのことで、憲法改悪が現実的政治日程に上ってきているという緊迫した情勢を反映し、団員の熱気が溢れるような総会であった。

2 第一日目には、議案の提起等に続いて、福岡支部の活動に関するシンポジウムが行われた。団事務所の地域への展開、集団訴訟における若手の元気な取り組み等、大変示唆に富んだ内容であった。東京においても、若手の活性化、地域の隅々への我々の運動の浸透等の観点から、福岡の実践に学ぶところが大であろう。

3 分散会では、一日目は、教育、労働、司法の分野における闘いと共同の取り組みについて、二日目は、北東アジアの平和問題、改憲策動に対峙する運動の構築等について討論がなされた。政府・財界による「構造改革」攻撃が国民生活のあらゆる分野に対してトータルな形で加えられている状況の中で、我々の側が、いかにして、各課題における運動の力を結集しトータルな形で反撃していくかについて、掘り下げた討論ができたのではないかと思う。
 今回の総会には、NTTリストラと闘う通信労組の岩崎委員長に二日間を通して参加していただいたが、同委員長は、団が広範な課題に取り組んでいることに感心されるとともに、実践的運動の面では、より日常的に労働組合との情報交換、意見交換の場があるといいのではないかとの感想を述べられていた。

4 財界は、二〇二五年までの二〇年間を見据えて、「明確な将来ビジョン」を打ち出している。それは、グローバル経済の中で企業競争力を強化し、今後二〇年間にわたり平均二%の経済成長を確保する一方で、国民を、「多様な生き方」、「多様な選択」、「結果の平等は求めない」というスローガンの下、一部のリーダー層とそうでない層とに意図的に分化していく社会変革ビジョンである。財界は、このような経済界の考えに共鳴し行動する政治家・政党に対して資金協力をすると宣言した。「『真の国益』に向けて政治を動かす」というのである(日本経団連「活力と魅力溢れる日本をめざして」一〇八頁)。

5 しかしながら、企業が過去最高の収益を記録する一方で(二〇〇三年九月上場企業中間決算集計)、三五〇万人が失業し、年間二一万人が自己破産をし、三万二〇〇〇人もが自殺するような社会(いずれも二〇〇二年度)のあり方が、「真の国益」に適うものでないことはいうまでもない。
 我々は、財界の政治買収による「構造改革」攻撃に負けることなく、平和・人権・自由が本当に大切にされる社会、すなわち、「真の国民の利益」が実現される社会をめざして運動を強化していかねばなるまい。



福岡総会の感想

福岡支部  後 藤 景 子

 初めての自由法曹団総会への参加の日を迎えました。分散会という言葉も初めて聞くものであり、いきなり散会してしまうのか・・?などとおかしなことを考えながら会場へ向かいました。
 多くの団員から次々と発言があり、活発な議論へと展開される雰囲気に圧倒された。その内容は、憲法改悪、教育基本法改悪、裁判員制度、労働問題等多岐にわたり、しかも各団員の発言により、日常生活の中では気がつかなかった視点、角度から問題点を考える契機を得ることができました。ただ、その場で議論されている問題意識が広く国民の間に浸透していない実態との乖離に複雑な思いもありました。そのような思いを抱く中で、小澤清實先生の発言は私にとって特に印象的でした。小澤先生は、ご自身が体験された戦争当時の心境を語られ、そして、再び戦争をしたくはないという発言をされました。私はそのお話を伺った瞬間に、レジュメを追いかけていた目が止まり、激しい議論について行こうとフル回転していた思考が停止しました。戦争を経験された小澤先生が二度と戦争をしたくないと切々と語られているお姿そのものが、平和憲法の重要性を何よりも象徴しているように感じられたのであります。同時に、日本国民が戦後五八年間にわたって戦争について考え続けてきた意味はどこにあったのか、ここにきて再び戦争を経験する方向へ自ら選択して進むのかという素朴な疑問を正面から国民に問いかけることも意味のあるものではないかと思いました。
 「異常な対米従属」ということがよく言われます。しかしそのことは、日本が積極的に自己主張してこなかったために主張の仕方さえ分からなくなってしまったと言い換えることができると思います。今、司法、教育、あらゆる分野が大変革の時期を迎えていますが、国民一人一人が主体的に日本のあり方を考え、意見を持ち、発信していく必要があることを訴えて行かなければならない…。
 福岡総会に参加して、そのような思いが一層強くなりました。



子どもと一緒に有明海を考える

―福岡総会後の一泊旅行より

四国総支部  谷 脇 和 仁

 福岡総会後の一泊旅行に参加しました。七〜八年前まではよく参加していたのですが、最近は、総会や五月集会のあとは一人で山に登ることが多く、しばらくご無沙汰していました。今年は「福岡にはあまり登りたい山もないし、どうしようか」と思っているところへ届いた案内をみると、柳川・有明海・吉野ヶ里遺跡のコース。「よみがえれ有明海訴訟」は私も弁護団に入っているし、吉野ヶ里も見てみたい。これは行かない手はない。それに子どもも連れて行こう。父親が取り組んでいるのが「かんこう問題」ではなく「かんきょう問題」であることを教える絶好の機会だ。というわけで、小学六年生の長男・飛鳥と五年生の長女・まほろを連れて参加しました。
 旅行を終えた日、夜九時前に帰宅すると、まほろが原稿用紙を取り出して、なにやら黙々と書いています。炊事をしながら「なに書きゆうが」と聞くと「旅行の感想」と言います。「出来たら、自由法曹団のニュースにのせてもえい?」「ええ?誰が読むが?」というような会話の末、まほろのOKが出ましたので、投稿します。



「有明海」

鴨田小五年  谷 脇 ま ほ ろ

 お父さんに連れられて、有明海の船の上で初めて「ムツゴロウ」を食べました。
 味は、私の味覚ではあまりおいしくありませんでした。
 のりの養殖を初めて目の前で生でみました。棒がなん本もたくさん立っていて、その間にアミがはってありました。アミの間で、黒いのりがゆれていました。こののりは、今年の一一月ごろに取り入れられるそうです。漁師さんたちは、自分のアミがどれかわかるのでしょうか?
 有明海のすみに「いさ早湾」という所があります。
 そのいさ早湾がうめ立てられかけています。うめ立てられると、ムツゴロウの住む所がなくなったり、のりができなくなったりしています。
 私は、実際に有明海の海を見てなぜ、うめ立てをするのだろう?ムツゴロウやのりのことは、考えないのだろうか?と不思議に思いました。
 農地を作りたいなら、あまっている所を使えばいいし、水害は、もっと別の方法で防ぐようにしたらいいと思う。
 うめ立てをすると、有明海にとって大切なものがなくなってしまいます。
 うめ立てをしない様に、お父さんたちにこれからもがんばってもらいたいです。



新旧役員挨拶(2)

変わらぬ“思い”で、できるだけのことを

団長  坂 本   修

 前日の一一月一〇日、総選挙結果の発表を見た後に、団新旧執行部のひきづぎ会議を終えて、今日、この一文の筆をとっています。
 七一才という団史上最高年齢での団長就任のあいさつは先日、総会でいたしました。今回は、昨夜のひきつぎ会議の懇親会で久しぶりに禁を破って、赤、白のワイングラスを重ねたあとでの五分間のあいさつを以下引用して、団通信紙上での全団員への就任のあいさつに代えます。
 政治制度としては小選挙区制を利用し、「二大政党による政権交代」という大合唱のもとで行われた総選挙は、日本共産党の二〇議席から九議席、社民党の一八議席から六議席への後退という重大な結果になりました。大幅に議席を増やした民主党が「九条をも対象とする創憲」の立場を公にした状況のもとで、改憲策動はいっそう拍車がかかるとみなければなりません。団総会でも話したように、「自由法曹団は短い数年という時間のなかで、九条の抹殺を中心目的とする憲法典の改悪に国民とともに力をあわせて対決する」ことになります。戦争で肉親を失い、憲法を宝として生きていた世代の一人として、「風雨強まるべき時代」に入ったという身の引き締まる思いをつよくしています。
 事態は重大ですが、その反面、逆風に抗して前途を切り開く条件が生まれてきているのも確かです。実は団長就任とほぼ決まってから、私はこの一〇有余年労働法制問題という課題に埋没していたのをあらため、東アジアでの平和実現、教育基本法問題など多様な運動を学ぶためにあちこち足を運びました。そしてそこで、私がほとんど知らなかった新たな運動が始まり“光”が点々と灯されてきていることを知りました。
 さらに、こうしたさまざまな多彩な運動の一翼をになって、新旧の世代をこえて各地で団員が積極的な役割を果たしていること、たとえば、数多くの「戦争を知らない子どもたち」ならぬ「孫」たちの世代の団員がアジア人民への戦争責任問題で、宇賀神さんや私の世代がとりくめなかったたたかいに立ち上がっていることを学びました。
 風雨はつよまるでしょうが、平和に、人間らしく、世界の人々と連帯して生きようという人間の要求はけっして消えない。要求を自らのものとし、多様なネットワークで共同を広げる“生きた環”となって、団と団員は重要な役割を果たすことができるに違いないー短い期間の新たな経験でそのことを私はあらためて確信します。
 「団員は梁山泊に集まった面々のように、実に多様な得手に恵まれ、大きなエネルギーを持っている。今夜、ここに集まった団員、専従事務局員だけではなく、全団員、全国団関係事務所事務局員が持っているにちがいない一人ひとりの『力』を巾広く、そして柔軟に結集すれば『大事』をなすことができるはずだ、おそらく、団内外でのこうした草の根の力を結集することによって、私たちは政治の新たな転機をも必ずつかむことになるであろう」と私は希望をこめてそう語ったのです。
 でも、「団長としてお前になにが出来るのか?」と自問すれば、今、あれこれ「公約」できるものはなにもありません。言えるのは、団の活動と組織の発展のために私にできるだけのことはしたいということだけです。懇親会でのあいさつの最後に、私は「東京支部ソフトボール大会出場のため、バッティングセンターに二回行って合計一四〇回スイングしたが、ヒット性は一〇回位しかなく、視力はともかくとして、筋力・反射神経のすべてが衰えていることを知った。だが、私の入団の“志”は衰えていない。みなさんと共有する“志”を大切にして、欠点だらけの人間だが、できるだけの努力をするつもりなので、よろしくお願いします」と語りました。
 酔って放言をしたのではありません。ワインから醒めた今日も、同じ言葉で、同じ“思い”を伝えて、全国の団員、事務局労働者のみなさんへの就任のあいさつとします。



次長退任のご挨拶

埼玉支部  山 崎  徹

 福岡総会をもって、二年の任期を終え、事務局次長を退任することになりました。次長になる前は埼玉支部の活動にもほとんど参加しておらず、いきなり本部の次長が務まるのだろうかという不安もありましたが、周囲の方々にいろいろご迷惑をお掛けしながら、なんとか退任の挨拶に漕ぎ着けました。
 私の担当分野は、一年目がNTT問題と改憲対策と有事法制。二年目は、有事法制と改憲対策ということでしたが、イラク戦争のときにはイラク問題を担当し、北朝鮮問題が焦点になると今度はそれを担当するということで、正直なところ、ついていくのが精一杯という感じでした。
 しかし、それにしても、この二年間は、多くの人と出会いがあり新鮮で充実した日々でした。少し大げさに言えば、この二年間がそれまでの七年分に相当するようにも思えます。
 NTT弁護団には、弁護団の立ち上げ当初から関わり、愛媛地裁における配転無効の仮処分に参加しました。北朝鮮問題を担当したことで、国法協主催の韓国民弁・参与連帯との交流の旅行にも参加しました。一○月四日の国際シンポでは、パネラーの朝鮮大学校の教授と知り合い、今度はその先生の話をじっくり聞く機会を持ちます。有事法制阻止闘争本部には、理論水準の高い歴戦の強者、しかも声の大きい団員が揃っており、本来、私など入り込む余地もなかったのですが、担当次長の肩書きがそれを許してくれました。 
 退任後は、事件活動を中心とする従来の弁護士スタイルに戻どることになりますが、しばらくは前次長の肩書きで団本部に出入りしたいと思っています。
 最後になりましたが、二年間、団本部の専従事務局の方々には大変お世話になりました。この場を借りてお礼を申し上げ、退任の挨拶といたします。



事務局次長に就任して

東京支部  瀬 野 俊 之

 「二〇世紀の三大芸術は、ピカソのゲルニカ、ブルーズ、そして憲法九条。」一〇年くらい前の、たぶんデイブ・スペクターの言葉。ブルーズは、淡谷のり子や青江美奈の謳うブルースではない。ブルーズは黒人音楽。奴隷制度から解放された彼ら・彼女らが夢を抱いて都市にくり出し、挫折を繰り返す中で生まれた。
 ブルーズは、悲哀に満ちている。けれど、決して暗くはなく、力強い。幾多の苦難と闘い続ける、希望を感じさせる音楽だ。
 ブルーズは一二小節で構成され、これが繰り返される。単純なコード進行にのせて、個性が発揮され、個性の衝突が発展を生む。一二小節を一円環とし、らせん状に発展する。繰り返しにより生まれる安心感と発展により生じる確信。ジャズのようなしゃれたコードは使わず、あくまでも素朴。
 ブルーズにあこがれて、一人でアメリカ南部に行く。テキサス州オースティン。ギターを弾いていると、じいさんがやってくる。僕のギターを奪い取り、「こういうの知っているか」と得意顔で、フレーズを弾きはじめる。なんて太い音。琵琶法師のようだ。彼らは、正式な音楽教育を受けていない。楽譜も音符も知らない。見よう見まねの伝統と革新が息づいている。
 ルールは、ブルーズのように単純に。その中で、たくさんの個性や知恵が生まれる。楽譜に囚われることなく、多くの隣人とセッションしてみたい。
 のびのびと初心に返ってやってみようと思います。よろしくお願いします。



事務局次長就任にあたって

埼玉支部  齋 田  求

 事務局次長に就任した齋田求です。埼玉支部の埼玉総合法律事務所所属で修習期は五一期となります。これまで私は支部外であまり活動をしておりませんでしたので、「お前は誰だ?」とお思いの方や「何でお前が事務局次長なのだ?」という同期もいるかとも思いますが、埼玉も人材不足であり、ご容赦願いますようお願い致します。
 さて、このような私が事務局次長になろうと決意をしたにはいくつかの理由があるのですが、「情勢が緊迫し、課題が山積みの中、何もしなくてよいのか」という気持ちと、二〇〇一年八月三一日に急逝した事務所の先輩である大久保和明弁護士から「お前に団の事務局次長にいってもらおうと思っている。」と常々いわれていたことが大きいと思います。
 さて、先日、第一回の事務局会議が開かれましたが、その中で私の担当が司法と将来委員会ときまりました。司法については私自身もともと興味をもっていたところですが、情報がきちんと整理できておらず、情報の整理から取りかかっていこうかと思っております。また、将来委員会については、これまで五年にわたり続けてきた中央大学法職講座講師の経験とネットワークを生かし、人権課題に積極的に取り組む法曹の育成という観点から、効果的な方策を探っていけたらと考えております。特に団の将来という点では、司法試験合格者が増加する一方で、新入団員は微増にすぎず、このままでは全法曹に対する団員の比率が年々低くなるばかりという状況にあります。そして、結局のところ、将来問題対策としては学生・修習生支援を通じて人権課題に興味を持ってもらう、団に対する理解を深めてもらうということに尽きますが、効果がでるまでは相当の時間が必要になり、中長期の計画と地道な活動が必要となると思われます。この点、人権課題に取り組むことも重要ですが、人権課題に取り組む意欲をもった法曹を養成することもそれと同じように重要であることを再認識する必要があると個人的には考えています。
 いろいろな意味で厳しい時期に事務局次長の職務を十分果たせるかはとても心配ですが、事務局長や他の次長の足を引っ張らぬよう精一杯つとめさせて頂きますので、よろしくお願いいたします。



JR採用差別事件

最高裁宛アピールを広げよう!

東京支部  加 藤 健 次

 国鉄の分割民営化から一六年余が経過しました。国鉄の分割・民営化に際して、国労・全動労の組合員らは、組合所属を理由にして、JRへの採用を拒否され、うち一〇四七名は、その後国鉄清算事業団からも解雇され、今なおJRへの採用を求めてたたかい続けています。
 この間、中労委命令を取り消す不当判決が相次いだうえ、解決交渉に先立って国労に「JRの法的責任を追及しないこと」の確認を求めるいわゆる「四党合意」をめぐる見解の対立などもあって、一〇四七名の解雇問題の解決は大変困難な状況が続いていました。この状況にやきもきされていた団員も多いことと思います。
 しかし、この間、一〇四七名問題の解決のための共同の闘争を進めるうえでの重要な情勢の変化がありました。
 第一に、昨年一〇月二四日の全動労事件東京高裁判決は、JRの使用者性を認めました。もちろん、この判決の結論は、JRの職員選定の過程で分割民営化に反対した全動労組合員が差別されたとしてもそれは「国是」というべき国鉄改革のためにはやむをえないもので不当労働行為にはならないという、不当きわまりないのですが、裁判所がはじめてJRの使用者性を認める判断を下したことには大きな意味があります。この結果、JRの使用者性について全く相反する判断を示した国労事件と全動労事件が最高裁第一小法廷に同時に係属することになりました。
 第二に、昨年一二月、与党三党は、国労に対してJRの法的責任の追及を放棄することなどを求めるいわゆる「四党合意」からの離脱を通告しました。この間、「四党合意」を認めるか否かということが、協力・共同の大きな妨げになっていましたが、その前提自体がなくなったのです。
 第三に、本年六月二〇日、ILOは、以上の情勢の変化を踏まえた勧告を出しました。勧告は、採用差別事件について、「委員会は、本件が結社の自由原則、すなわち、採用における差別待遇の点から極めて重大な問題であり、政府によって取り組まれるべきであることを強調する」と述べたうえで、「政府と関係当事者が可能な限り最大多数の労働者に受け容れられる公正な解決を見いだす方向で努力を追求する」ことを強く求めています。一〇四七名の解雇問題は、国際的にもあらためて注目されることになりました。
 このような中で、一〇四七名の解雇問題の解決のために、共同の運動に全力を尽くすことが求められています。とくに、国労と全動労の事件が係属している最高裁に対する働きかけを強めることが大変重要です。その一環として、今年の五月三〇日に国労弁護団・全動労弁護団の有志がよびかけて『最高裁の焦点』と題した討論集会を開催しました。そして、この度、学者も加えた一五名(※)が呼びかけ人となり、最高裁に対して、弁論の開催とJRの請求を棄却する判断を求めるアピールに取り組むことになりました。
 すでに団員の皆さんのお手元にはアピールへの賛同をお願いする文書が届いていると思います。ぜひ、ご自身はもちろん、賛同を広げていただくようお願いします。

(※)アピールの呼びかけ人(五〇音順)

・大森鋼三郎(弁護士)・岡田尚(弁護士)・片岡?(京都大学名誉教授)・加藤健次(弁護士)・坂本修(弁護士・自由法曹団団長)・佐藤太勝(弁護士)・清水敏(早稲田大学社会学部教授)・戸木田嘉久(立命館大学名誉教授)・戸塚秀夫(東京大学名誉教授)・中山和久(早稲田大学名誉教授)・早川征一郎(法政大学大原社会問題研究所教授)・福田護(弁護士)・宮里邦雄(弁護士・日本労働弁護団会長)・山口孝(明治大学名誉教授)・萬井隆令(龍谷大学法学部教授)



大阪での派遣・偽装請負に関する取り組みについて

大阪支部  河 村  学

 大阪では、団員がその中核を担う民主法律協会の派遣労働研究会において、派遣・偽装請負等を中心とする非正規雇用労働者の権利擁護のための活動を継続的に行ってきた。本稿では、その活動を紹介するとともに、運動のあり方について若干の意見を述べる。

2 大阪派遣労働研究会

 派遣労働研究会は、一九八五年の派遣法制定の二年前に法制定に反対する運動を行う組織として発足した。その後、派遣を含む非正規労働者の権利・生活を守る活動を継続的に続け、現在は、弁護士、学者、労働組合幹部、派遣労働者のほか、労働基準監督官やWWNの活動家など多様な分野の方が会員として活動に参加している。定例会は月一回行われているが、常時一〇名前後の参加で研究会がもたれている。

3 研究会の日常活動

 派遣労働研究会の活動は、月一回の定例会を軸に行われている。定例会では、派遣・偽装請負にかかる法的問題の検討や、派遣労働者からの相談に対する取り組み、研究会の具体的活動方針について話し合っている。また、メーリングリストでは、情報・意見の交流を行っている。
 恒常的な活動としては、月一回の定例会のほか、月一回の電話相談会、メールでの相談に対する回答を行なっている。メール相談については、龍谷大学の脇田教授が開設しているホームページに寄せられたメール相談を研究会員(但しほとんどが弁護士)が分担して回答しているが、ときには月八〇件くらいの相談が寄せられることもあり対応が困難な事態にもなった。現在は、脇田教授のホームページ内に掲示板を立ち上げてもらった関係で、派遣労働者の相談・回答が掲示板を通じて行われる割合が多くなっている。
 その他、近時の取組みとしては、年一回の大阪労働局との懇談会を八月に行った。懇談会では、近時問題が大きくなっている中途解約の問題、事前面接や二重派遣、直用労働者の派遣への切替等の問題について取り上げた。
 今年の派遣法改定に対しては、法改定に関する意見書を研究会として国会に提出し、また、共産党の推薦で衆議院での参考人としても研究会の会員が出席し意見を述べた。さらに改定法成立後は、付帯決議に基づき定めるべき指針についての意見をまとめ全労連に提出するなどの活動を行った。
 今年、全労連が派遣プロジェクトチームを作ったので、その場にも参加させてもらっている。

4 研究会の事件活動

 以上のような活動の中で、事件として取り上げる必要が生じた場合には、弁護団を配置して、事件活動を行っている。現在、研究会が取り上げている事件のうち主なものは次のとおりである。

(1)ヨドバシカメラ・パソナ事件。大手家電量販店のヨドバシカメラが、新規店舗の開業に際し、大手派遣会社パソナを通じて、一五七名の労働者の供給を受けたが、就業二日前になって、ヨドバシカメラによりその全員の就労を拒否した事例。両社間では業務委託契約を締結していたとされる(但し契約書は存しない)が、実際は労働者供給であった(派遣という形式をとっていないのは、おそらくは派遣法の一年ルールを潜脱する意図があったため)。労働者の一人が原告となり賃金相当損害金の損害賠償を求めて提訴。裁判において、ヨドバシカメラは、原告の主張自体が失当であると繰り返し、ヨドバシカメラ社長の証人尋問について裁判所が証拠決定したことについても、それでも出頭しないとその場で明言するなど、供給先の間接雇用労働者に対する無責任な意識を露呈する事件である。

(2)日建設計事件。日建設計が直用し働かせていた労働者について、約一〇年間就労後に派遣会社からの派遣という形式をとるようになり、その後も約一〇年間同様に就労を継続させていたが、今年になって何の理由もなく解雇(雇い止め)を行ったという事例。日建設計に対する地位確認・賃金支払を求め提訴。職安法四四条違反で労基局への是正申告も併せて行った。

(3)藤沢薬品・スタッフサービス事件。スタッフサービスから藤沢薬品に派遣された労働者が、就労直後に、薬品により労災にあった事例。藤沢薬品とはすでに相当な額で示談が成立。スタッフサービスは、労働者が労災の申出をした際、「派遣先とたたかうことになる」という理由でその申請に協力せず、かえって退職させて失業保険を受給させた。この点についてスタッフサービスはろくに調査もせず、就業前の安全教育など現実にはできないなどと高言したため、労基局への是正申告を行う。

(4)富士通(子会社)事件。三年間という約束で派遣契約をし派遣就労したが、派遣先が八か月で解雇した事例。当初の契約書をめぐるトラブルで労働者が会社を辞めるといった際は、契約期間は三年であるといって足止めしたにもかかわらず、必要がなくなると契約期間の残期間について何の手当もしないまま解雇した悪質な事例。また、派遣先でのセクハラ行為もあった。賃金相当損害金の支払いを求め提訴。

(5)毎日放送事件。一〇数年にわたり一〇〇%子会社社員として毎日放送の業務に従事していた事例。毎日放送は労働者の採用にも深く関わっていた。毎日放送に対する地位確認・賃金支払を求め提訴。

(6)川重原動機事件。昔の口入れ屋といえるような実体のない請負人に大阪で雇われ、川重原動機が受注している北海道の現場で就労させていた事例。契約期間が一年だったにもかかわらず四か月で解雇したため、残期間の賃金請求を請求。現在、川重原動機と示談交渉中。

(7)下水道事業団・マンパワー事件。派遣就労していた労働者に対して、一年の更新の意向を示したにもかかわらず、結局更新が拒絶された事例。当該労働者が新聞等に事実を公表したこともあって、将来の一年間分の賃金相当額の解決金支払い及び謝罪により示談成立。

(8)他に、事前面接により採用拒否された事例についての損害賠償請求などがある。また、派遣労働研究会でも取り上げ、会員が事件に携わっているものとして、偽装請負等について供給先の使用者責任を追及するJR西日本・大誠電機事件、関西航業事件、朝日放送事件等がある。

5 研究会の今後の取組み

(1) 研究会では、現在、中途解約問題に関するプロジェクトを行おうと考えている。中途解約問題とは、派遣先が派遣労働者がいらなくなったときに、派遣労働契約を中途解約し、派遣元事業主はそれを理由に契約期間が残っているにもかかわらず、派遣労働者をお払い箱にするというものである。プロジェクトの理由は、近時この問題での相談が多く寄せられること、中には、契約書の書換を強制したりする悪質な事例もあること、残期間の賃金額は一から三か月分程度が多く労働者の多くが泣き寝入りしていること、大阪労働局民間需給調整室では中途解約により派遣元が労働者を解雇した場合には休業手当支払の指導はできないと明言していることなど事情があるためである。少なくとも契約期間の残期間については、就労の機会を確保するか、期間全額の賃金を支払うかのいずれかが必要であるとの意識を派遣先・派遣元・労働者すべての理解にする必要がある。
 そこで、研究会では、中途解約問題に関する法的な検討を行うとともに、労働者が簡単に利用できる内容証明・是正申告書・訴状のひな形及び解説をホームページにアップすること、悪質な事案に対しては積極的に訴訟を提起していくこととしている。

(2) また、派遣労働者の実態調査についても、ホームページでアップし、当初は簡単な調査から行う予定でいる。それは、派遣元事業者側からの調査、正規の労働組合側からの調査はある程度行われているが、派遣労働者の立場にたって問題をみる視点での調査が圧倒的に不足しているからである。

6 非正規雇用労働者の権利擁護とその組織化について

 非正規雇用労働者の問題については、その法制上の問題を指摘したり、その組織化が重要であることを確認したりすることには熱心だが、非正規雇用労働者(特に派遣・偽装請負等の間接雇用労働者)の個々の権利・生活のためのたたかいについてはほとんど目に見える活動が行われていないのが実態である。
 その理由はいろいろあると思われるが、他のどのような問題とも同様で、個々の具体的な権利擁護の闘いを積み重ねなければ展望は開けないのであるから、あれこれ大上段に方針やあるべき姿を論ずるのではなく、個々の派遣労働者に接しその悩みを理解する活動を今多くの労働弁護士が行うことが求められていると思う。
 また、非正規雇用労働者の組織化についても、対象となる非正規雇用労働者が、直接雇用か間接雇用か、間接雇用といっても派遣か偽装請負か、パートや派遣といっても常用的かそうでないか等々さまざまな雇用形態を含んでいるのであって、それを例えば一律に一般労組に組織するのだとかいう方針が誤りなのは明らかである。この点も実情に応じた経験とその情報交換の中で新しい組織形態を作っていかなければならないのである(アメリカのような同じビルに勤務するという共通項で組織する組合やサイバーユニオンの構想なども一つの形態である。また、派遣については雇用形態を共通項にして人材派遣協会に対置するような横断的組織を作るという形態もあり得ると思う)。
 今必要なのは、むしろ個々の非正規労働者の権利・生活のたたかいやその組織化について、さまざまな実践を仕掛け、情報を交流するセンターであると思う。今後、各地で派遣労働研究会のような組織が作られ、全国的な経験交流の場ができるように努力していきたいと思う。



角銅立身団員著「男はたのしく

たんこたろ弁護士」をすすめる

福岡支部  諌 山  博

 多くの人から待ち望まれていた角銅立身さんの自伝が刊行されました。標題にみられるように、角銅さんの本領が見事に発揮された愉快な著作です。秋田鉱山専門学校卒の炭鉱技術者が、どういう動機から畑違いの法律家の道に転身し、弁護士としてどのような活動をしてきたかは、多くの人が知りたいことでした。この経過が、飾らないペンさばきで率直に語られています。
 エネルギー革命時代の炭鉱の労働争議として、古河大峰炭鉱のロックアウトは、三井三池の大争議についで有名な闘争でした。あの大峰闘争のとき、私は炭労の顧問弁護士として、古河大峰の現地にしばしば足を運びました。そのとき角銅さんは会社側の職制として、労働者と敵対する側に身を置いていました。警察官のピケ排除の実力行使が始まろうとするとき、私はピケを組んだ数千名の労働者に、激励のアジ演説を行いました。「皆さんの右左を見てください。知らないものがいたら警察官です。すぐつまみ出してください」などといったらしいですね。角銅さんはその演説をスクラムの向こう側で聞いていたのでしょう。「うらやましいな。俺もあんな労働者の弁護士になろう」と決意し、まもなく炭鉱をやめ、法律の勉強をはじめたといっています。なんとなく弁護士の資格を取りたいという気持ちからではなく、はじめから自由法曹団の弁護士になるぞという決意のもとに、受験勉強をはじめたのです。
 角銅さんの勉強ぶりは感動的です。まず二年分の生活費を貯めよう、その間月給の三分の二を本代にあてようと決意したと書かれています。自由法曹団の弁護士になるという確固たる目的があったので、勉強にも力が入っていました。そして、難関とされていた司法試験に合格し、第一七期司法修習生として革新弁護士の道を歩み始めたのです。
 角銅さんは福岡第一法律事務所で弁護士の仕事を始めました。そのころ炭鉱裁判が頻発しました。角銅さんは弁護士のなかで、唯一の炭鉱問題の専門家でした。当然のこととして、弁護団のなかでかけがえのない役割を果たしました。その経過が詳細に述べられています。
 角銅さんはそのほか、カネミ油症事件、じん肺訴訟をはじめ、多くの公害裁判を担当し、技術者としての知識と経験を、法廷で十二分に活用してきました。
 最近、団員の著作が数多く刊行されています。嬉しいことです。上条貞夫さんの「司法と人権」や、藤本正団員(故人)の「労働運動と労働者の権利」などは、自由法曹団の理論的、実務的水準の高さを示す記念碑的な著書といってよいでしょう。そういうなかで、肌合いの違いはあるものの、角銅さんの「たんこたろ弁護士」は、一風変わった自由法曹団物語として、後世に残るでしょう。一読をすすめます。
(発行は福岡県田川市(有)松枝総合印刷所、発注は田川市栄町二―一、角銅法律事務所。定価一五〇〇円のところ、団員には一〇〇〇円で頒布します。送料は著者持ち。TEL 〇九四七・四二・二二六六/FAX 〇九四七・四二・二九八八)



教育基本法改悪反対!

一二・二三全国集会に賛同をお願いします

教育基本法改悪阻止対策本部  黒 岩 哲 彦

 教育基本法改悪問題について、自由法曹団は二〇〇三年総会で、改悪阻止のために全力をあげることを確認しました。教育基本法を守ろうとの運動はかつてない展開となっています。教育基本法改悪阻止の一点での共同の原則のもとに、一二月二三日に東京・日比谷公会堂で一二・二三集会が行われます。集会の呼びかけ人は、大内裕和氏(松山大学)、小森陽一氏(東京支部)、高橋哲哉氏(東京大学)、三宅晶子氏(千葉大学)です。
 集会の趣旨は自由法曹団の見解とも一致するもので、大変に意義深いとりくみです。一一月六日開催の対策本部会議でも、全面的に協力することが確認されました。
 団員の先生方にご協力をお願いする次第です。
 具体的なお願いは次のとおりです。

(1) 集会に多くの方が参加していただきますように、お願いします。
(2) 募金にご協力をお願いします。