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水野 幹男 団体傷害保険金請求訴訟
大阪高裁で逆転勝利判決
宮地 光子 住友電工男女賃金差別訴訟
勝利和解が実現
上山  勤 イラクへの出兵とウラニュウム汚染
船尾  徹 「構造改革」とたたかう労働裁判 その2
(日本航空 勤務基準不利益変更裁判から)下
菅野 昭夫 愛国者法(九月一一日事件後のアメリカ合衆国における治安立法、治安政策)(3)
鈴木 亜英 アメリカロースクール調査報告
公益的活動に従事する法律家をいかに育てるか その二
大久保賢一 首相施政方針演説の詭弁
島田 修一
内藤  功
三・六改憲を許さないための全国会議−参加のお願い
松島  暁 名古屋で小野さんの話を聞こう!!ーイラク現地からの報告ー




団体傷害保険金請求訴訟

大阪高裁で逆転勝利判決

愛知支部  水 野 幹 男

 大阪高裁は、昨年一一月二七日、団体傷害保険死亡保険金の帰属を巡る訴訟において、一審の敗訴判決を取り消して逆転勝利の判決を言い渡した。
 事件は運送会社のトラックの運転手が西名阪自動車道で大型トレーラーに追突して死亡した死亡保険金の帰属を巡る訴訟である。運送会社は、保険契約者兼保険金受取人となって日本火災との間において、亡くなった運転手を被保険者として死亡保険金五〇〇〇万円の団体傷害保険契約を締結していた。団体傷害保険契約は団体定期保険契約と同様、他人の生命の保険契約として商法六七四条により被保険者の同意を要すると解されるが、運送会社は、被保険者の個別的な同意を得ることなく、災害補償規程を作成して、死亡保険金五〇〇〇万円は遺族に支払う旨定めて日本火災に提出していた。ところが、遺族の代理人弁護士の問い合わせに対して、運送会社も日本火災も保険金額すら明らかにしない状況であったことから、運送会社と日本火災を被告として訴訟を提起し、訴訟の中で死亡保険金額や前記の災害補償規程の存在が明らかとなった経過がある。
 一審において運送会社は、災害補償規程の存在は認めたものの、規程は、保険会社に契約の添付書類として提出する目的で作成したものであり、死亡保険金を遺族に引き渡すことを予定していない。また、保険金は、運送会社の損害補填にあてるためのもので、被保険者の同意も得ていないと主張してきた。一審の大阪地裁は、被保険者の同意がないことから、団体傷害保険契約自体が無効であり、死亡保険金を受け取った運送会社は、支払った保険料と引き換えに保険金を日本火災に返還すべきであるとして、原告の請求を棄却した。団体定期保険金訴訟を巡って争われた文化シャッター事件判決と同様の論理である。
 ところが、控訴審の大阪高裁は、運送会社が災害補償規程を提出して日本火災との間で保険契約を締結したことにより、日本火災から保険金を受領したときは、災害補償規程に基づき死亡保険金の中から災害補償金を支払う旨の意思表示をしたものとして団体傷害保険契約は「第三者のためにする契約」(民法五三七条1項)であると認定した。このような場合には、特段の事情のない限り被保険者は付保に同意することが推認されるから個別的な同意がなくとも有効であるとしている。団体定期保険では、名古屋地裁、名古屋高裁において第三者のためにする契約を認めた判決があり、現在上告審で闘われている。本判決は団体傷害保険で第三者のためにする契約を認めた初めての判決である。最近では、団体傷害保険の死亡保険金を巡る紛争が増加する傾向にある。この判決が確定したことにより団体定期保険を巡る最高裁の闘いは大きな援軍を得たことになる(弁護団は池田直樹弁護士、松丸正弁護士と筆者)。



住友電工男女賃金差別訴訟

勝利和解が実現

大阪支部  宮 地 光 子

 住友電工男女賃金差別訴訟は、二〇〇三年一二月二四日、大阪高等裁判所第一四民事部(井垣敏生裁判長)のもとで、被告会社および国との和解が成立し一審の全面敗訴判決を乗り越える成果を獲得することができた。

一、世論の批判を浴びた一審判決と控訴審での取組み

 一九九五年八月八日に提訴された本件は、昭和四〇年代に採用された原告ら(女性二名)が受けてきた、男女別採用にはじまる企業の男女別雇用管理の違法性を争点としたものであった。また訴訟に先だって原告らは、旧均等法一五条に基づいて調停申立てを行なったが、当時の大阪婦人少年室長が、均等法の指針に基づき、原告と同期の高卒男性とは採用区分が異なることを理由として不開始決定を行なっていた。本件訴訟では、この大阪婦人少年室長の不開始決定が違法であるとして、国に対して慰謝料請求も行なっていた。
 しかし二〇〇〇年七月三一日に、大阪地方裁判所第五民事部(松本哲泓裁判長)が行なった判決は、男女別雇用管理を憲法一四条の趣旨に反するものとしながら、昭和四〇年代においては公序良俗に反しないとし、また均等法も女性差別撤廃条約も過去には遡らないから、企業には均等法施行後も是正義務はなく、当時の大阪婦人少年室長が調停を不開始としたのも違法でないという、原告全面敗訴の結論であった(「労働法律旬報」一四九一号・労働判例七九二号)
 判決には、三〇〇名を超す市民が大阪地裁を「人間の鎖」で取り囲んで抗議の意思を示す行動が取り組まれ、マスコミにおいても「働く女性に冷たい判決」と報道された。さらには一〇〇名を超える女性達が「陳述書」を寄せて、自らの体験から一審判決に怒りの声をあげた。
 そして控訴審では、国際法学の観点から阿部浩己教授、労働法学の観点から西谷敏教授、山田省三教授、林弘子教授、植野妙実子教授、憲法学の観点から樋口陽一教授、差別禁止法学の観点から、Emily A.Spiler教授、女性学の立場から上野千鶴子教授らの意見書や論文を提出し、一審判決の誤まりを論証した。
 また裁判の外では、原告らと原告らを支えるワーキング・ウィメンズ・ネットワーク(WWN)が、粘り強く日本企業における性差別の根強さとその不当性を国内外の世論に訴え、その成果は、二〇〇三年七月に開催された国連女性差別撤廃委員会による日本政府に対する最終コメント(二〇〇三年八月)の中で、均等法の指針が、コース別雇用管理による間接差別の慣行についての理解の欠如を示すものとして指摘され、同指針の改正が日本政府に要請されたことにも結実した。

二、大阪高裁における和解の内容とその意義

 このような本件訴訟の審理経過と国際社会の動向を踏まえて、大阪高等裁判所第一四民事部(井垣敏生裁判長)は、二〇〇三年一二月一日に、文書による和解勧告を行なった。勧告は、前文と具体的な和解条項案からなるものであったが、高裁は前文において、国際社会における男女平等実現に向けた着実な取組みに触れ「男女が共に力を合わせて社会を発展させていける社会こそが真に求められている平等社会であることが、既に世界の共通認識となっている」とうたっている。そしてさらに女性差別撤廃条約の批准や均等法改正などのわが国における改革について触れ、「このような改革は、男女差別の根絶を目指す運動の中で一歩一歩前進してきたものであり、すべての女性がその成果を享受する権利を有するもの」と明言した。このくだりは、均等法も女性差別撤廃条約も、その施行前や批准前には遡らないとして、均等法施行前に採用された女性たちを、均等法や条約の適用対象外とした本件一審判決に対する明らかな批判と言える。
 また私達が、一審判決の論旨は、男女別雇用管理が現在もなお続いている状態をそのまま容認するものであると批判してきたのに対し、高裁は前文において「過去の社会意識を前提とする差別の残滓を容認することは社会の進歩に背を向ける結果となる」と指摘し、一審判決とは異なる立場をとることを明らかにした。そしてさらに「現在においては、直接的な差別のみならず、間接的な差別に対しても十分な配慮が求められる」と言及した。
 そして高裁から示された和解条項案の内容は、会社との関係においては、(1)コース別雇用管理が実質的に性別による雇用管理にならないように、コース別雇用管理の必要性や処遇の合理性について、労使協議により必要な取組みを続けていくこと、(2)原告らを二〇〇四年一月一六日づけで昇格させること(原告西村については主席―課長相当、原告白藤については主査―係長相当)、(3)解決金の支払い(一人当たり五〇〇万円)を内容とするものであった。そして、裁判所の強い勧告により、会社はこれら和解条項案をほぼ原案通り受諾した。
 本件訴訟は、提訴段階の決定的な証拠不足により、昇格請求(地位確認)を請求の趣旨であげていなかったから、この昇格の実現は、勝訴判決によっても実現できないものであった。
 また国との関係で高裁から示された和解条項案は、雇用管理区分が異なる場合であっても、それが実質的に性別による雇用管理となっていないかについて、厚生労働省は十分な注意を払い、調停の積極的かつ適正な運用に努めることを内容とするものであったが、国も、ほぼ原案どおりの内容で受諾した。
 一審の全面敗訴判決を乗り越えてこのような勝利和解が実現したのは、一審判決に対する世論の批判の強さと、国内外の世論に敏感な人権感覚の優れた裁判長の強力なリーダーシップによるところが大きかった(成立した和解調書には前文も和解条項とともに掲載されている)。
 本件一審判決は、他の男女賃金差別訴訟において、企業側の主張の根拠として好んで使われる判決であっただけに、この一審判決を覆すに足る内容の控訴審での和解が実現したことの意義は大きい。また和解によって原告らの昇格が実現したばかりでなく、会社は原告らの昇格と同時に、他の女性四名についても主席に昇格させる措置をとった。

三、裁判基金の設立

 原告らは和解によって獲得した解決金の一部を「働く女性の平等への挑戦・裁判基金」設立の資金とした。この基金は、これから職場の性差別を裁判によって是正したいと考える女性達が、経済的な事情から、裁判費用の負担が困難な場合に活用してもらうことを願って、今回の和解解決を契機に設立されたものである。団員の先生方が、そのような女性達から相談を受けておられる場合には、是非、ご活用下さい(問い合わせは宮地まで)。
 なお本件の和解調書、弁護団声明、原告声明などは、ワーキング・ウィメンズ・ネットワーク(WWN)のホームページ(http://www.ne.jp/asahi/wwn/wwin/)に掲載されている(弁護団は、筆者のほかに、吉岡良治・渡辺和恵・長岡麻寿恵・小林徹也・有村とく子・真継寛子の各弁護士)。



イラクへの出兵とウラニュウム汚染

大阪支部  上 山  勤

一、日本の自衛隊がついにイラクへ入った。国際貢献だという政府の説明だが、占領支援ではないか、国連の要請もないのにという声も強い。戦後の六十年を経て初めて憲法が脳死の宣告を受けようという時、いま法律家として声を上げなければどうする!という思いが強い。自衛隊の出兵先はイラクの南部アル・ムサンナ州の州都「サマーワ」である。防衛庁の職員や公明党の議員が下見に行って比較的安全だ、つまり戦闘地域ではないという。果たしてそうだろうか。

二、サマーワというところは、バスラからバクダットへ向かうチグリス川の上流約二百キロのところにある。橋の奪取に丸一日を要し、一週間をかけて平定された場所。一一二名の市民が巻き添えで死亡した激戦地であった。日本に先立ち、一一〇〇名のオランダ軍が現地に滞在している。しかし、じつはオランダでは、サマーワで使用された劣化ウラン弾による汚染を懸念する声が強く、軍人の労働組合が強い不安を訴えていた。これに対してオランダ政府は「米国政府が(サマーワでは劣化ウラン弾を)使っていないといっているのでつかわれていない」大丈夫だとして派兵を繰り返したのであった。ところが、昨年の一二月二七日、オランダ国防省は「イラク南部のアル・ムサンナ州に駐留中のオランダ軍が劣化ウラン弾の三〇ミリ砲弾を発見した」と発表した。現地で「破壊場」と呼ばれているところで発見されたのだが、オランダ国防省のスポークスマンは、砲弾は破壊されていないので劣化ウランが飛散しておらず安全だとコメントした。当然の事として軍人組合の議長J・クレイアンは強く抗議をしたが国防大臣は、七月の時点で劣化ウラン弾が使われていないといったことが間違いであったことを認め、米国を非難しつつも現在イラクでの劣化ウラン弾の発射場所についての評価を(米国が)している途中であるから調査を待ちたい、と述べたと報道されている。オランダでは政府が軍人や国会をだましたのではないかということで大問題になっているようだが、公明党の神崎議員は現地のオランダ軍人からこのようなことについても事情を聴いた上で安全だと述べているのであろうか。

三、何が問題なのか

(1)サマーワは汚染されている

 昨年の三月二六日、米中央軍のブルックス准将は、カタールの前線司令部での会見で、このたびのイラク空爆での劣化ウラン使用を認めた。少量で健康への悪影響はないというコメントつきであったが。そのうえで、サマーワでは使用していないので安全だと米政府が言っていたのである。しかし、現実に砲弾が発見されれば嘘をつき通すことはできない。日本の写真家である森住卓さんも現地で劣化ウラン弾で破壊された装甲車両を見たと報告している。米国は湾岸戦争の際に劣化ウラン三二〇tを使用したことを公式に認めている。しかし、今回の作戦でどの程度の量の劣化ウランを使用したのかについての公式の発表はない。しかし、例えば昨年五月五日、ジェイ・シャフトというジャーナリストが米軍特殊作戦司令部の大佐に行ったインタビューで、その米軍大佐はバンカーバスター爆弾を含めて約五〇〇tの劣化ウラン弾を用いたと認めていてこのインタビューは全文がインターネットで公開されている。(この記者には公表直後から多くの嫌がらせメールが殺到したらしく、後日「私はこれらを公表する時点でその後に起きる糞のような事態にまったく気づいていなかった」と述べている。)現地には放射能物質が散乱しており、放射線で汚染されているのである。

(2)アフガニスタン民衆法廷で学んだこと

 実はアフガンでも劣化ウランは使用された。その関係で琉球大学の矢ケ崎教授に劣化ウランによる被爆の仕組みと恐ろしさを証言していただいた。衝撃的な内容であった。
(1)劣化ウランは大部分がウラン238であり、その重くて硬い性格から砲弾の貫通体に使われる。これが戦車のような硬い装甲を貫くと、同時に三〇〇〇度ぐらいに発熱しウランはエアロゾル化して粒子状の物質に姿を変える。粒子は〇・〇〇一〜五μmの粒径で平均は〇・〇一μmである。一mgのウラン酸化物はこの平均〇・〇一μmの粒子であれば一〇の一三乗個作られることになる(ちなみに、通称アパッチと呼ばれる米軍ヘリコプターやA-10戦闘機は一秒間に七〇発の機関銃弾を撃ち出す。この一発の銃弾は約三〇〇gのウラン貫通体である)。
(2)ウランはより安定な状態を求めて、エネルギーを吐き出し核崩壊して最終的には低エネルギーの安定した状態となる。エネルギーはα線、β線、γ線などである。このうち、α線は相互作用が強くて大気中だと約四、五cm位進行すると作用してエネルギーを失う(従って、広島や長崎で被爆した多くの人は、γ線や中性子線といった放射線を浴びて被爆した人が多い。核分裂をしなくて降下した放射能物質に接して被爆した人もいるが。体の外から放射線に照射されて被曝する態様を「体外被曝」という。放射線による危険を避けるためのさまざまな基準はこのような体外被曝を想定している)。他方で粒子状となったウラン物質は呼吸や食物を通じ、あるいは接触によって人体に取り込まれる。微細な粒子は肺胞から血流に入り、腎臓・肝臓・骨髄・生殖器などにも堆積される。粒子状となったウランも核種崩壊をする。五μmの粒径だと一日に一回、一μmだと一年に四〜五回の崩壊があり、そのつどα粒子を吐き出す。α粒子は人体組織内では水中と同じで約四〇μm進むうちに組織と相互作用し、エネルギーを失う。これが「体内被曝」である。一μmの粒径の劣化ウラン粒子はひとつの粒子だけでガンを引き起こす能力を持っている。
(3)DNAは互いに結合している組織であるが、α線のような放射線はそのエネルギーによって細胞を損傷したり分子組織をイオン化させ結合を切り離してしまう。イオン化に要するエネルギーは三二・五eV(電子ボルト)であるが一度のα線照射のエネルギーは四・二MeV(四二〇万電子ボルト)である。DNAは自己修復能力をもっていて一箇所を切断されても修復するが何箇所も切断されると誤って異常再結合がなされたり、細胞の死滅が生じる。かくして体内被曝は生物の死亡や臓器の深刻な障害、遺伝的な欠損などを招来する。
(4)矢ケ崎教授はこのようなウラン粒子一個を取り込むことは、それだけでガンになることを可能にするとされ、核種崩壊一回につき一回放出されるα線は市民の年間許容被曝量の五〇倍である五〇mSVに相当するとされている。
 広島に落とされた原爆のウラン重量は約五六キログラムであった。約五〇〇トンの劣化ウランが使用されたのであれば、広島に用いられたウランの実に八九〇〇倍のウランがイラクにばら撒かれた計算となる(一台の戦車を目がけて前記のアパッチヘリが三秒間引き金を引き続ければ、二一〇発の銃弾が撃ち出されることになり、これだけで広島型原爆のウラン総量を超えるウランを環境中に放出したことになる)。

(3)自衛隊員は被曝する

(1)以上のことから容易に推測できるように、サマーワに出兵する陸上自衛隊員は必ず被曝するのである。派遣に先立ち防衛庁は北海道で自衛隊員の家族などに対し説明会を持った。その中で現地での放射能物質による被曝の不安を取り除くために、自衛隊員は胸と腰の二箇所にボールペン様の簡易の放射線測定器を携帯することで不安はないと説明をしている。しかし、そんなもの体外被曝を避けるためには有益だが、体内被曝の場合は役には立たない。たとえ防弾チョッキを装着していたとしても三時間半滞在した神崎国会議員だってウラン粒子を吸入した可能性はあるのである。まして半年とか一年といった期間での滞在であれば必ず被曝する。米軍は、劣化ウランの健康影響を否定しながら他方ではその訓練マニュアルの中で、□a汚染された場所からはできるだけ離れろ。□bやむなくそのような地域に入る場合、防護服、少なくとも呼吸防護マスクと手袋・ゴム靴を使用しろ、と教えている。
(2)ウラン238の半減期は四四億年とされている。かの地は人為的にクリーンアップされなければ永遠に危険な土地なのだ。砂塵と一緒に舞い上がったウラン粒子を吸入する危険は常にあることになる。体内に吸収されたウラン238は人体から徐々に尿などと一緒に排泄される。その生物学的な半減期は三〇〇日とされている。一年経っても半分は人体内に留まっているのである。従って具体的に障害が人体に発生するのは三年後五年後ということだってありうる。
 出兵から五年後にガンで死亡したような場合、政府はそれでも戦死と認めて一億円の功労金を出すのだろうか。(政府は科学的な因果関係の証明がないという見解を取っており、おそらく見殺しであろう)
(3)湾岸戦争で米国は三二〇tもの劣化ウラン弾を使用した。これは米国政府も認めている。従軍した兵士は六九万七〇〇〇名。このうち半数が深刻な疾病に罹患しており、二五万一〇〇〇人が退役軍人省に治療を求め、一八万二〇〇〇人が慢性疾患などを理由に不具者基金の支給を申請している。これらの被害者は主に三〇代、最も健康であるべきはずの世代である。そして、この退役軍人に身体的な欠損を有した子どもも多く生まれていて、ミッシシッピーのある民間団体の調査では帰還兵の新生児の六〇%が奇形児であるという(実情は中国新聞の連載ルポに詳しい)。
 そして現在、イラクに駐留する米軍兵士の中に深刻な肺炎様の症状を呈するものが三月以来約一〇〇名も発生し、二名が死亡・ベンチレーターにつながなければ呼吸困難なもの、やむなくドイツにある軍事病院まで搬送したものも出ている。米国政府は原因の調査のために専門家スタッフをイラクに急遽派遣した(七月三一日に米軍外科医がドイツの軍病院で記者会見)。軍医は肺炎であると説明をしたがウラン粒子を吸入した場合に肺炎様の症状を呈することはよく知られた事実である。米国の戦争遂行勢力にとって米軍人までも実は使い捨てなのである。

(4)いましなければいけないこと

 イラクに多くの劣化ウラン弾が残留し、またウラン粒子がばら撒かれたことは疑いようがない。イラクの人々はその環境のなかで今生きているのである。多くの人が放射線測定器をもって現地の汚染を測定しており、バクダットの人民広場の環境濃度がバックグラウンド濃度の一九〇〇倍であったとか路端で野菜が売られ子ども達が遊んでいるその環境が一〇〇〇倍であったりという報告は多数ある。イラクの復興を口にし、国際貢献というのであれば戦車は要らない。むしろ廃棄されたままの薬きょうや地中に埋まったままの劣化ウラン弾の除去こそがなされるべきである。目標を外れた劣化ウラン弾はエアロゾルにはならないが、地中約二メートルのところに埋まっているといわれている。ウラン弾は水溶性である。地域の水を汚染し、ウランは植物を介して人の口に入り連鎖は広がるのである。地元ではガン患者が急増している。
 イラク南部の地域では、一九八八年、三四人がガンで死亡であったが一九九八年には四五〇人が、二〇〇一年には六〇三人がガンで死亡というように急増しており障害児の出生割合も急激に増加している。この逃げられない人たちの環境を改善することこそが本当の復興支援ではないか。
 イラク暫定内閣のアッバス保健相は米国を訪問し『(劣化ウラン弾について)イラクの子ども達にガン患者が増えていることと関連があるのか調査すべきだ』と訴えている。しかし、暫定内閣は勿論地方の役所も住民に対し劣化ウランの汚染に対する適切な指示は行っていない。汚染の除去のために、米英は使用した劣化ウラン弾の数量・場所などを開示すべきである。イギリス政府は国連と現地のNGOに対し、劣化ウラン弾を使用した場所についての情報は開示した。しかし、米国は全ての情報の開示を拒否しておりあまつさえ国連環境計画委員会の立ち入りも拒否している(UNEPと略称されるこの委員会はバルカン半島での劣化ウラン汚染の調査も行っており、イラクへも調査を希望しているが米軍が拒否しているのである)。

四、日本が自衛隊を出兵させることはイラクの復興に何の寄与もしない。石破防衛庁長官は米国が劣化ウラン弾を使用したという報に接していないといい、また劣化ウランと健康影響については科学的に証明されていないと述べている。まるで米国の意のままに弁をふるうオランダ政府と同じである。サマーワへの出兵は、政府にとって自国の軍人の犠牲は意に介せず米軍との共同作戦の遂行という形でのアメリカ貢献以外の何物でもない。そんなことのために広島・長崎・ビキニに続いて新しい被爆者を出すことはない。銃はいらない。被爆をしないような十分な装備をもってイラクの劣化ウランの除去にこそ貢献すべきである。



「構造改革」とたたかう労働裁判 その2

(日本航空 勤務基準不利益変更裁判から)下

東京支部  船 尾  徹

3 安全運航確保の観点からの検討に対する判断

 ただ、「労使間の交渉によって調整が図られるべき労働条件をめぐる紛争」だとして、原審の如く、安全運航の観点から「内容自体の合理性」を判断することはしなかったからといって、この観点からの合理性の検討が、高裁判決から完全に消失してしてしまったというわけではない。改定勤務基準(「労働条件」)の相当性の判断の基底に流れていることは否定できない。
 高裁判決は、「労働条件は、科学的、専門技術的研究の成果のみによって決定されるものではない」、「長距離運航による運航乗務員の疲労や仮眠等に関するこれまでの科学的研究の成果は貴重であって、これを軽視することができるものではなく、十分に考慮に値するものと考えられるが」、「各国政府や各航空会社の基準には様々の基準が存在し、科学的研究の成果が、そのまま広く受け入れられているとまでは認められず」「本件訴訟に提出された限られた科学的研究の成果のみに基づいて直ちに勤務基準の相当性を判断することには躊躇を感ずるし、疑問がある」と指摘して、科学的研究に基づく勧告等に照らしての合理性検討に躊躇し、その妥当領域を狭く限定しまう。
 しかし、「外国の公的機関に所属する研究者が行った実証的科学的な研究の結果として、改定された本件就業規程が定める勤務基準に関連する疲労や睡眠等について指摘がされていることは無視すべきではない」、「飛行時間等の制限の基準設定にあたっては、科学的研究の成果が重要な考慮要素のひとつであることは決して否定できない」、「実証的科学的な研究の結果として、改定された本件就業規程の定める勤務基準を下回る乗務時間や飛行勤務時間の提言ないし検討の必要性を公表していること自体無視することはできない」として、科学的研究に基づく客観的な事実を無視することはできず、最終的には「改定された本件就業規程の定める勤務基準が科学的な検討から、何らの問題もないとされているものとは到底いえない」と指摘して、「労働条件としてその内容の相当性には疑問が残る」と判断するに至っている。

4 「新たな地平」を切り開いた「必要性」判断

 判決は、改定当時の日本航空の経営状況が、「倒産の危機に瀕していたということはできないとしても」、「経営者として危機意識を持ち、早急に何らかの対策をとる必要のある経営状況にあった」としながらも、そのことをもって直ちに「変更の必要性」を肯定せず、「経営状況悪化の原因」や「収支構造の問題点」について検討したうえ、本件変更が「人件費効率向上を図るという目的との関係で有効なものであった否か」を問題にしている。
 こうして、判決は、「国際コスト競争力の強化を最重要課題とし」、「経営状況悪化の原因に対応した、経営状況を改善するための全般的な構造改革施策の実行に順次着手し、構造改革施策が一定の効果を上げていたと認められる」として、「構造改革施策を実行する必要性」を肯定はするものの、「勤務基準の変更によって人件費効率の向上という効果があったか」という「目的効果説」ともいうべき視点から、「変更の有効性」を厳密に検証することを要求している。それは、就業規則変更の必要性について、企業側の提起する必要性を深く検討もせずに、いとも容易に追随して認めてしまうこれまでの司法の対応と比し、「新たな地平」を求める画期的な視点となるものである。
しかも、判決は、本件改定による勤務基準の変更が、「運航乗務員の直接的削減、機長の大量退職により問題となる運航維持能力対策、路線や便数の拡大があっても増員することなしの運航維持能力対策等、具体的な課題の達成を目標とする」ものではなく、「経営状態の改善という大まかな効果を目標」としたものであって、「具体的にどの程度人員効率を向上させ、コストを削減することができるのか、ATKあたりの人件費の削減の具体的目標にどの程度寄与するのか、を試算し、他の改定案と比較検討することなく、大づかみに定められたものとみるほかない」とした。
 「変更目的」と「変更による効果」との関係(変更の有効性)を、具体的に予測・確定することを必要としている。
 こうして、判決は、本件改定によるマンニング削減効果により、「具体的にいくらコストを削減することができ、それにより、ATK当たりの人件費削減の数値目標の達成のためにどの程度寄与したのか、しなかったのかを認めるに足りる的確な証拠はなく、それらの効果の程度や内容は明らかではない」ので、「その効果が大きいものであると評価することはできない」として、「運航乗務員に大幅な不利益を与えてまでその勤務基準を変更する高度の必要性があったということはできない」としたのである。
 控訴審に入って、「変更の有効性」を検証すべきであるとして、乗員組合の調査資料に基づいて、本件改定によるマンニング削減効果を検証する詳細な分析(特に、路線や便数の拡大があっても乗員を増加させずに運航を維持することの可能な状況についての分析)に基づいた立証作業が、ここに結実していった。
 このような「目的効果説」に照らした「必要性」の検討は、「構造改革」の一環として行われるさまざまなリストラの際に、使用者側がふりまわす「必要性」の批判に有効な武器となるものと思われる。

5 勤務基準比較論争

 日本航空は、一審敗訴判決後巻き返しを図るべく、改定勤務基準と同じレベルの勤務基準で運航している路線を各国の航空会社の路線から、都合よくピックアップしてきて、改定の合理性を擁護しようとした。こうして勤務基準をめぐる膨大な国際比較論争が、双方で激しく行われた(その比較の観点・方法についての論戦もあったが省略する)。
 判決は、国の基準は「その国が置かれた経済状況や国土、地理的条件、国内企業の成熟度、国際関係等の諸要素の考慮の上で決せられるものと考えられ、定められた基準の前提条件が同一ではなく、また労働条件そのものではないので、比較することが必ずしも有用であるとまではいえないが、後記の航空各社の基準を理解する上で参考になるとともに、改定された本件就業規程が定める勤務基準の内容の相当性を判断するうえで一応参考になる」として、「改定された本件就業規程が定める勤務基準の内容の相当性の判断は、乗務時間および勤務時間の制限等についての勤務基準の内容が主に国際線における労働条件に関するものであるから、諸外国政府の定める基準や他の国内外の航空会社の基準、主に労使の協議の結果として実施されていて合理性があると考えられる他の航空会社の勤務基準と比較して検討するのが相当である」といった立場に立った。
 双方から提出された比較資料によれば、改定された最大乗務時間制限一一時間については、主要欧米航空各社よりも「いづれも緩やか」であり、勤務時間制限一五時間については「他のどの国よりも緩やか」であり、日本航空の基準は他の多くの航空会社よりも、「かなり緩やかな基準」であることは否定できない突出した基準であることが明白となった。こうして判決は、改定勤務基準の「相当性には疑問」が残るとした。

4 運動の勝利

 本件改定に反対する世論を職場に組織する運動により、運航乗務員のほぼ全員が加入している乗員組合、管理職と扱われている機長および先任航空機関士の約九割が加入している機長組合、先任航空機関士組合がこぞって反対し、長時間運航乗務の実態を明らかにする陳述書が大量に提出され、本件訴訟の争点の解明に大きな力を発揮した。また、客乗組合や地上職員の日航労組も反対した。
 判決は、「改定された本件就業規程による勤務基準の内容について運航乗務員の大半が反対し、他の従業員も同意するに至っていないのであるから、労働者の同意の面から同勤務基準の内容を合理的なものと推定することはできない」とした。運動によって掴んだ勝利である。

(〇四年一月一日記)



愛国者法(九月一一日事件後のアメリカ合衆国における治安立法、治安政策)(3)

北陸支部  菅 野 昭 夫

〈愛国者法発動の具体例〉

 愛国者法の実態を知っていただくために、ここに三つの具体例を紹介する。

ラビン・ハダドのケース

 以下は、私達が二〇〇一年に訪米したときに、マスメディアの報道により知ったケースである。
 九月一一日事件後多数の移民が勾留されていることは前述のとおりであるが、レバノン系移民のラビン・ハダド氏に対する不当な身柄拘束は、愛国者法の危険性と九月一一日事件後のアラブ系移民の苦境を象徴している。
 ミシガン州に長年在住しその地で教育を受けたラビン・ハダドは、アメリカにおける最大のムスリム系慈善団体であるグローバル・レリーフ・ファウンデーションの創始者の一人であり、尊敬されてきた宗教的指導者であったが、二〇〇一年一二月一四日に、家族とともにラマダンの終了を祝う準備をしているとき、INS(移民帰化局)によって逮捕され身柄を拘束された。彼に対する容疑事実は一切明らかにされず、かつ何の刑事訴追も行われなかった。ただ、財務省は、彼と彼の属するグローバル・レリーフ・ファウンデーションがオサマ・ビンラーデン及びアルカイダと関係を有しているのではと疑っている旨を説明した。しかし、その疑いを裏付ける証拠は全く明らかにされず、その疑いに関しても何の刑事手続も進行していない。グローバル・レリーフ・ファウンデーションの資産は財務省によって凍結され、FBIは本部事務所の捜索によりコンピューターやビデオなど一切の装置や記録を押収した。同時に他の支部や役員に対しても捜索差押が行われた。ラビン・ハダドは独房に拘禁され、支援者や家族との面会なども厳しく制限された。逮捕から一〇週間たって、政府が得た犯罪容疑は通常なら身柄拘束されることなどありえないごく軽微なビザに関する手続違反のみであった。
 その事件で法廷が開かれたが、驚くべきことに全てが非公開とされ、ラビン・ハダド自身も出席を許されず、審理を独房からビデオで傍聴する有り様であった。このラビン・ハダドに対する不当な勾留の継続は、ミシガン州の三五万人のアラブ系住民の怒りを買い、彼の妻を先頭にした釈放要求のデモが組織されている。ラビン・ハダドの弁護人によれば、彼の組織はまだテロリスト組織には指定されていないが、政府は新法によりとりあえずその資産を凍結し、これからゆっくり事件をこしらえるつもりのようだとのことである。

リン・スチュアートのケース

 私たちは二〇〇二年NLG総会(カリフォルニア州パディナ市)出席の際に、以下の事件の当事者であるリン・スチュアート弁護士の総会での訴えを聞き、この事件を知ることができた。   
 彼女は、ニューヨーク市で刑事弁護士をしているNLGの会員である。彼女は、約三〇年間にわたり、社会的な非難を浴びる被告人や誰もが弁護を嫌がる被告人の刑事事件を引き受けてきた。その意味で、そのような事件を受任することを義務と定めているABA(アメリカ法曹協会)の「弁護士の義務に関するモデル・ルール」の実践者である。彼女は、著名な刑事弁護士であリ、一九九五年には、マスメディアによって、ニューヨーク市の刑事弁護士ベストテンの一人にも選ばれた。
 そのリン・スチュアート弁護士が、FBIによって、二〇〇二年四月九日に、愛国者法に基づき逮捕され、彼女の自宅と法律事務所が一二時間に渡って捜索された。その日、ジョン・アシュクロフト司法長官は記者会見し、彼女の逮捕がテロリストの弁護人としての活動に由来していること、及び、FBIは彼女と依頼人との拘置所における面会の会話を三年間盗聴することによって容疑事実を把握したことを明らかにし、彼女の逮捕はテロとの戦いにおける重要な勝利であり、今後テロリストの弁護を引き受けた弁護士は同様に逮捕されることがありえる旨を宣言したのである。
 このリン・スチュアートの容疑事実とは、彼女が、ニューヨーク市の複数の歴史的な建物を爆破することを共謀したとの事実で終身刑(及び懲役六五年)を言い渡された被告人シェイク・オマール・アブデル・ラーマンの公費選任弁護人を裁判所の任命によって行っていた際に、(1)二〇〇〇年五月、シェイクとの面会の中で「英語による無関係なコメント」を発言して看守の注意をそらし、その間に同行したアラビア語の通訳(共犯として逮捕)がシェイクと秘密の会話をすることを援助した、(2)依頼人との面会で得た情報が犯罪を容易にする内容の場合は、それを外部に公表しないとの誓約書を拘置所当局に提出していたのに、二〇〇〇年六月にシェイクと面会した後に、そこで得た、イスラエル・パレスチナ間の一九九八年休戦協定をもはや支持しないとのシェイク自身の見解をロイター通信に開示した、(3)同じくシェイクとの面会後、シェイクが必要としている医療行為を受けていないことを主張すれば政府は反論できない旨を「何者かに」告げることにより、愛国者法の禁止している「テロリストに対し物質的な援助を与える」行為を行った等というものである。
 よく知られているとおり、アメリカ合衆国においては、attorney-client privilege(弁護士・依頼者間の秘密特権)が確立されており、法律上の助言を求めるに際して弁護士と依頼人との間で交わされたコミュニケーションは秘密性が保障され、弁護士および依頼者は、それに関する証拠提出や証拠開示を拒否できるとされてきた。この特権は、アメリカ憲法(権利の章典)の、言論の自由(第一修正)、不合理な捜索押収の禁止(第四修正)、適正手続きの保障及び自己負罪禁止の特権(第五修正)、防御のために弁護人の効果的な援助を受ける権利(第六修正)などに裏付けられており、判例によってたびたび確認されてきた権利である(例えば、連邦最高裁は、一九七四年に、ある殺人事件の弁護人が、依頼人からその事件以外に三人の被害者に対する殺人とそれら死体の所在を打ち明けられた後に、依頼人が死亡したケースで、依頼人から聞いた内容を官憲に述べることはこの特権に反し、弁護士倫理に反すると主張した事件に関し、この特権は依頼人が死亡した後にも存続するとして、この弁護士の主張を肯定している)。
 しかしながら、世界貿易センター爆破事件以降、連邦政府は特定の連邦法違反事件の被拘置者の処遇について規制を強め、九月一一日事件前に既に、弁護士と依頼人の拘置所における面会の会話を一定の条件(合理性及び犯罪を行う相当の理由、裁判官による司法的チェック)の下にモニター(盗聴)することを許容した。ところが、九月一一日事件に制定された行政規則は、さらに、司法長官が独自のルールで(相当の理由を要せず司法的チェックなしに)盗聴することを可能とした。
 リン・スチュアートに対する盗聴は、この司法長官による判断で実施されてきたものであるが、このことは、連邦拘置所では、弁護士はいつでも政府によって盗聴されていることを覚悟しなければならないことになる。これでは、前述の憲法上の諸権利は画餅に帰することになる。
 そのため、リン・スチュアート事件は、マスメディアによっても大きく報道され、アメリカ自由人権協会(ACLU)、NLG、アメリカ法曹協会(ABA)、全米刑事弁護士協会などが、リン・スチュアートに対する処罰に反対する意思表示を行っている。
 リン・スチュアートは、容疑事実を否定し、無罪を主張して、現在も刑事裁判を闘っている。

(つづく)



アメリカロースクール調査報告

公益的活動に従事する法律家をいかに育てるか その二

東京支部 鈴 木 亜 英

1、私たちが次に訪ねたのはセントポールにあるウィリアム・ミッチェルロースクールである。ここは法科専門大学で学生だけで約一一〇〇名もいるという。専任の教員が四〇名、パートタイマー教員一二〇名、ミネソタ州の裁判官と弁護士の半数はここの出身である。大学の内部をいろいろ案内して貰ったが図書館機能をはじめ設備の充実した立派なものである。
 NLGの影響も大きく、学内の掲示板に「NLG」というコーナーがあって驚いた。ピーターアーリンダー教授もここで教鞭をとっている。「働く人たちのためのロースクール」をモットーとし、夜間の授業も多いらしい。
 私たちは法廷技術を担当するデボラ・シュメッドマン学部長と統一的商法を担当するクリスチーナ・クンツ両教授から、授業科目などの説明を受けたが、ここは実際の社会に生起する問題を取り上げるなかで法律の機能と役割を学生に教えてゆくのが校風なのだそうだ。見学させてもらった「契約法」の授業も大家と店子の家賃をめぐるトラブルを問題としていた。目をひいたのは選択科目のなかにあるポバティーロー(貧困者法)。別に貧困者法という固有の法があるわけではなく、低所得者と貧困者が権利実現をしていくうえで法律家が払わなければならない法律上の特別の配慮を体系化しているといい、この大学で作られたテキストは全米のロースクールで使用されていると誇らしげに説明してくれた。一方で乱暴な「愛国者法」がまかり通るアメリカ。他方で「貧困者法」を学んでコツコツ貧者のために働く法律家もいるアメリカ。どちらもいまのアメリカなのだ。私もこのテキストを是非読ませて欲しいと申し込んだ。

2、この大学にはNLGの学生支部がある。午後のひととき、八名の学生に集まって貰い、率直な心境を聞かせて貰った。半数以上が社会経験をもった人たちで、法曹に第二の人生をかけているといった感じである。元の職場に性差別があって矛盾を感じてロイヤーを目指したという女性が二、三人いた。私は前の仕事は収入もあってそこそこによい仕事だったのではないかと思ったが「ロイヤーは何といってもパワーがある」、「人助けをしたい」という純粋な気持ちが彼らをして別の道を歩ませたらしいのである。
 恵まれた環境に育ったから恵まれない人のために働くのが自分の使命だと思うと語った女子学生。教育のない移民の両親が自分をここまで育ててくれたことを無駄にしてはいけないという思いがあり、このことを誰かに返さなくてはいけないと語った男子学生。脈打つピューリタニズム。
 しかし、ロースクールに入って、「世のため、人のため」の初心は困難に遭うという。
 ロイヤーへの期待は心中高まる一方で、もの凄い量の予習・復習、学生同士の激しい勉学競争、教育ローンの負担感は相当のプレッシャーだという。そして、ロースクール時代を通して垣間見る法曹の社会も、思い描いた理想とはちょっと違ったものらしい。ビジネス・ロイヤーになれるかどうかがロースクール学生の大方の関心であるというなかにあって、ローファームは男性が仕切っているし、男性が上ランクの、女性が下ランクの仕事に従事している。元の職場で体験したあのグラスシーリングはここにも厳然と存在しているという思いである。
 アメリカのロースクールは上位の八割に入っていれば法曹になれるというが、残りの二割は素質がないかというとそうではないらしい。仕事などの理由から勉強に集中できずに失敗することが多いから、集中さえ出来れば次の試験を通過できるという。放校処分は五パーセントくらいらしい。二、三年で合格率が二、三割程度に落ちてしまう日本とは大分事情が違うようだ。この大学ではロースクール合格率が五割、そのうち三分の一が入学し、八割が法曹として巣立ってゆくというからそれはそれで健全というべきなのか。

3、アート関係の仕事で六年間働いた後に、反核法律家協会でパラリーガルを四年間つとめたという男子学生。「両親はワーキングクラス。母が私を助けてくれている。一〇〇〇万円の教育ローンは卒業したら返さなくてはならない。親は私が親の期待にそった法律家になってくれることを願っている。しかし私は改めて反核ロイヤーの世界に入って働きたい」。親の期待を“裏切る”心苦しさ。教育ローンをどうしたら返してゆけるかの悩み。心は右に揺れ左に揺れの状態だという。
 バイオケミカルの仕事で研究職にあったという女子学生。「法律に対する興味が強く、研究者よりこの世界が向いていると志した」。「パテントローの仕事をするつもり。しかし半分は人々のために働けたらいいなと思う。プライベート(生計を立てること)とパブリック(社会に奉仕すること)をどうしても分けて考えてしまう」。
 ここでこれまでじっと学生の話に耳を傾けていたピーター・アーリンダー教授が口を開いた。「プライベートとパブリック、専門とプロボノ、二者択一の必要はない。ここにいる日本の弁護士を見なさい。両方やっているではないか。」
 帰国後、この懇談会の通訳を引き受けてくれたそこの学生の吉田正子さんから手紙が届いた。「弱い立場の人々の弁護をされている日本の弁護士にお会いできたのははじめて。新鮮であるとともに目のさめる思いがしました」とあった。
 社会のために尽くしたいという学生の初心を支えるのは授業における「社会体験」であり、仲間や先生との交流である、と改めてその思いを強くしたのが今回の訪問である。(完)

 (その一は1112号に掲載されています。)



首相施政方針演説の詭弁

埼玉支部  大 久 保 賢 一

 一五九通常国会の首相施政方針演説に、「イラク復興支援とテロとの戦い」の部分がある。その中で、首相は「世界の平和と安定の中に、日本の発展と安定があります。イラクの復興に我が国は積極的に貢献してまいります。…自衛隊は、すでに現地において人道復興支援活動に着手していますが、今後、現地の情勢や治安状況を注視しつつ、本格的な支援活動を行ってまいります。」と述べている。
 そして、「むすび」では、憲法前文の「われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならのであって、政治道徳の原則は、普遍的なものであり、…。日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。」を引用し、また、墨子を引きながら、「われわれが、世のためになることを行うのは、悪口を恐れたり、人から誉められるためではない。」といっている。結論として、世界の平和のため、苦しんでいる人々や国々のため、困難を乗り越えて行動することは、国家として当然のことであり、そうした姿勢こそが憲法前文にある「国際社会において名誉ある地位」を実現することになる、としている。
 要するに、首相は、イラクに自衛隊を派遣することは、世界の平和と、苦しんでいる人々のための行動であり、憲法の理想を実現する道だといっているのである。何と彼は、自衛隊のイラクへの派遣を、憲法前文で正当化しようというのである。
 もし、この論理が成り立つならば、イラク派兵は憲法違反だなどといえなくなってしまうであろう。そこで、彼の論理を検討してみることにしよう。
 まず第一に、彼の論理では、アメリカのイラク攻撃の違法性や非人道性が何ら問題にされていないということである。イラク国土が破壊され、イラク国民が人道支援を待っているということは強調されるが、誰が破壊したのか、誰が非人道的事態を引き起こしたのかが全部抜け落ちているのである。劣化ウラン弾などの非人道的兵器も含め、圧倒的軍事力でイラク人を殺傷し、イラク国土を破壊したのは、アメリカに他ならないではないか。そして、殺傷と破壊の上に、軍事占領が続いている現実が隠蔽されているのである。
 第二に、彼は、自衛隊の活動は、人道復興支援活動だということばかりを言って、占領軍のための支援活動については触れようとしていないことである。イラク特措法に基づく基本計画では、復興支援活動だけではなく安全確保支援活動(占領軍の支援)も自衛隊の任務とされている。彼はそれを隠しているのである。首相の論理は、殺人者は誰なのか、破壊者は誰なのか、無法者は誰であるのかをごまかして、その無法者への支援をも人道復興支援活動であるとしているのである。
 第三に、彼は、憲法が戦争と軍事力を否定し、諸国民の公正と信義に信頼して、安全と生存を保持しようとしていることを無視して、戦場に軍隊を送ることが憲法の要請だとしているのである。彼は、憲法など何も判っていないのだ。そして彼はそれを詭弁とは思わないで、本心から言っているのだろうと思う。これは恐ろしいことである。人を殺すことは悪いことだと思って殺す人間と、正しいことだと思って殺す人間と比べれば後者のほうにより危険性が認められるであろう。首相の演説は、こういう危険性を持った確信に基づくものであろう。彼は、このような確信に基づいて、重要な事実を隠蔽し、憲法前文の意味を正反対に引用し、絶叫型煽動を駆使して、この国を戦争へと導いているのである。
 ついでにいえば、墨子の引用も適切とはいえないであろう。墨子はぼくの乏しい知識によっても「人はそれぞれ意見を異にするから、そのままでは平和な社会は成立しない。だから、天は最も賢い人を君主とする。」と説き、また「人々が自分の国・家・身を愛すると同様に他の人の国・家・身を愛するならば、世は平和になり、天はこれを賞する。」として「兼愛」を説いている。そして、彼は、侵略戦争を戒め、「墨守」の語源となっている。小泉首相が忠誠を誓うブッシュ大統領とは対極にある思想家である。
 ブッシュ大統領は、〇一年一一月、ブラジルのカルドーゾ大統領と会談したときに「あなたの国には黒人がいるのか」(ブラジル人の半分以上は黒人である)ときいたり、九・一一事件の直後に「私たちは十字軍だ」(十字軍は惨憺たる結末となっている)と叫ぶほどの愚か者であり、気に入らない国は武力で打倒してしまう好戦家である。ブッシュ大統領と小泉首相の頭の構造は似たり寄ったりのものなのであろう。その国の宰相を見ればその国民の民度が分かるという。こんな首相にいつまでも振り回されるわけにはいかないと心から思う。この国とアメリカを何とかしなければならないであろう。



三・六改憲を許さないための全国会議

ー参加のお願い

幹   事   長  島 田 修 一
改憲対策本部本部長  内 藤   功

 政府は、平和憲法を踏みにじって、イラクへの自衛隊派兵を強行しています。海外派兵、そしてアメリカの要請にもとづく本格的な戦争に踏み切る動きに対応して、明文改憲を現実のものとする危険な事態が生まれています。昨年九月、小泉首相が自民党に改憲案作成を指示したのに続き、民主党も改憲案作りを進める態度を明らかにしています。国会の憲法調査会も改憲の方向を明らかにした最終報告をまとめようとしていますが、他方で、今通常国会には、改憲のための国民投票法案が提出されようとしています。
 イラク派兵反対の声が全国で広がっていますが、あわせて改憲をゆるさない力を大きくしていくことも急務です。団としても、学習・宣伝活動、署名、ポスター、集会など共同の取り組みを各地で積極的に進めていく必要があります。
 そのために、自由法曹団としては、後期の通り、全国会議を開催します。ぜひ、全国各地から多数ご参加くださいますようお願いします。

 日 時 三月六日(土) 午後一時〜五時
 場 所 団本部会議室
 議 題 今日の改憲策動をどうみるか
     改憲を許さないためのたたかいをどう広げるか
     学習会・講師活動にどう取り組むか
     共同の取り組みを進めるために など
     国民投票法案の問題点と取り組み



名古屋で小野さんの話を聞こう!!

ーイラク現地からの報告ー

一団員の見たイラクの実情ー

事務局長  松 島  暁

 二月常幹は名古屋で開催することになりました。
 会場は地下鉄丸の内駅すぐの「名古屋丸の内東急イン」です。
この名古屋常幹の機会に、愛知支部の小野万里子団員から、イラク訪問の話、「セイブ・イラクチルドレン・名古屋」の活動の話をしていただけることになりました。
 常幹の方々も、常幹以外のみなさんも自由にご参加ください。
 自衛隊がイラクに派兵されていく今、イラクに本当に必要な支援は何かをもう一度考え、私たちの運動の原動力にもしたいと思います。

日 時  二月二一日(土) 午後一時〜