<<目次へ 団通信1122号(3月11日)
土井 香苗 | 東京アフガン難民について「不認定処分無効」判決を得ました | |
尾林 芳匡 | 京王電鉄助役解雇事件の勝利和解 | |
鈴木 亜英 | NGOの役割と平和の創造 | |
笹本 潤 | 青法協・人権研究交流集会のお知らせ | |
第12回 青年法律家協会・人権研究交流集会全体会 「いま平和の創造力を! 」〜みんなで世界をつなげよう〜 |
東京支部 土 井 香 苗
1 二〇〇四年二月二六日判決
二〇〇四年二月二六日、東京地方裁判所民事第三部(藤山雅行裁判長)で、一連の東京・アフガン難民訴訟の第一事件の判決(原告D)の言渡しがあり、原告Dが難民条約及び難民議定書上の難民に該当することを認め、法務大臣の難民不認定処分が「無効」であることを確認した上で、アフガニスタンへの退去強制令書の発付処分は取消すとの画期的判決を得たので、報告する。
2 事件の概要
九・一一の同時多発テロ直後の二〇〇一年一〇月三日に、難民申請中であるにもかかわらず、突然九名のアフガニスタン人難民申請者が、収容され、大きく報道された。「アフガン人=テロリスト」視して、よりによって難民を収容するという無法行為に怒った弁護士たちがすぐに弁護団を結成した。
さらに、この九名に関する収容令書発付処分取消訴訟に伴う執行停止申立の結果が、東京地方裁判所民事第二部(却下)、同民事第三部(執行停止決定)と異なり、九名のうち五名だけが収容を解かれるという結果となったことからも、注目をあびた。
その前後に成田空港に庇護を求めて到着後、即収容されていた難民申請者を加え、総勢三〇名弱のアフガニスタン難民が東京アフガン難民弁護団の依頼者となっている(そのほかに、弁護士個人への依頼者の事件が、若干数存在する)。
弁護団依頼者は、全員がアフガニスタン国籍で、イスラム教シーア派の少数民族のハザラ人である。
シーア派のハザラ人は、多数派のスンニ派ではなくシーア派信徒であり、かつ、民族的にも少数者であるという理由で、長年にわたり抑圧されてきた。一九九三年二月に西カブールで、一九九八年八月にはマザリシャリフで、二〇〇〇年一二月にはヤカオランにおいて、ハザラ人の虐殺が行われたことが明らかになっている。
3 難民を取り巻く世界状況
地球上では、まだ飢えで死ぬ人も多い。そして、武力によって大勢の人が死傷している。地球上で不正義がはびこっている。絶望した人々の自爆テロも後を絶たない。こうした状況に日本の責任はないのか。日本人としてやるべきことは何か。
この不正義の中で、罪なき難民たちが、自分の身をもって、犠牲を払うことを求められている。難民は、生命や自由を奪われるという恐れから逃れ、家も財産も家族も祖国も、すべてを失い、トラウマを抱え、見知らぬ土地で、明日をも知れない暮らしを強いられている。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の資料によると、こうした難民たちに庇護を与えるため、二〇〇一年、米国は二万八三〇〇人の難民を受入れ、ドイツは二万二七二〇人、カナダは一万三三四〇人、イギリスは一万九一〇〇人、フランスは九七〇〇人の難民に庇護を与えた。難民たちは、こうした庇護国を第二の故郷として、迫害や戦争のトラウマから立ち直り、人生を再スタートすることができるのだ。
残念ながら、日本が二〇〇三年に難民として庇護を与えたのは、わずか一〇人に過ぎない。
日本政府は、世論の反発を受けながらも、自衛隊をイラクに派遣した。しかし、日本の行くべき道は、平和の道ではなかったか。不正義の犠牲者たる難民の受入れこそ、日本の取るべき道である。また、難民認定において、出身国の迫害を認定することは、平和的な手段によって、普遍的な人権・人道の価値を、世界中にあまねく実現する一助となろう。難民を排除し、拘禁し、強制送還する一方、イラク復興支援と称して自衛隊を派遣するのは、明らかな欺瞞である。
本判決は、日本政府の難民庇護に対する消極姿勢を批判し、難民条約を国際基準に沿って解釈して、難民に庇護を与える道を開いた画期的判決である。
4 訴訟の係属状況
現段階で全員につき、難民不認定処分【1】取消請求訴訟と、法務大臣裁決【2】+退去強制令書発付処分【3】取消請求訴訟のいずれか又は両方を提起している(それぞれ処分者が被告となる。【1】【2】は法務大臣<当時は森山真弓>、【3】は東京入管又は東京入管成田支局の主任審査官)。
訴訟は、東京地裁の行政部、すなわち、民事第二部、民事第三部、民事第三八部に機械的に分けて配点され、それぞれに数件〜一〇件程度ずつ係属している。
事件内容としては、難民不認定等の処分が、タリバン政権崩壊前であるか、後であるか、によって若干争点が異なるため(訴訟は原則として処分時点における判断の当否が対象)、進行も各部において崩壊前後に分けてなされている状況にある。
5 本件判決の位置づけ
本判決は、民事第三部による「タリバン政権崩壊前」のものであるが、上記の三つの部を通じて初めての判決であり、かつ、崩壊前後通じて初めての判決であり、重要である。
6 判決の内容と評価
(1)原告・被告らの主張
難民不認定処分は、原告が難民に該当することを看過してされた処分であるから無効あるいは取り消されるべきであり、退去強制令書発付処分は、難民を迫害のおそれのある国に送還することを禁じた難民条約三三条1項、入管法五三条3項のノン・ルフールマン原則に違反し、取り消されるべきであると主張した。
被告らは、「アフガン人=テロリスト」視が誤りであったことから、訴訟においては、「就労目的の組織的不法入国事案」であったからと摘発理由をすり替えた。
(2)判決の内容
判決は、原告が、シーア派ハザラ人であることを理由として(宗教・人種を理由として)、タリバンによって迫害を受けたとする供述は十分信用することができるし、そのことを前提とすると、通常人が原告の立場に置かれたとしても、本国に帰国すればいつ何時同様の事態に遭遇するかも知れないと考えるのが相当であるから、迫害の恐怖を抱くような客観的事情も存在するものと認められると判示して、原告が難民条約上の難民に該当するとした。
判決は、続けて、「原告が難民条約上の難民であるにもかかわらず、この点を看過してされた本件不認定処分には、少なくとも重大な瑕疵があるというべきであり、難民認定処分が難民該当性を有する者に対してもたらす結果の重大性にかんがみれば、本件不認定処分は当然に無効なものであるというべきである」と判示した。
(3)判決の評価
ア 不認定処分の「無効」
判決は、難民不認定処分とこれに伴う出身国への強制送還が、難民にとって、死刑判決にも等しい重大な人権侵害を引き起こす可能性があることを直視して、誤った難民不認定処分は無効とした。生命への権利はもちろん、個人の尊厳・平等権を尊重したヒューマニティーに溢れる判決である。従来、こうした難民認定処分の重大性が社会で適切に認識されてきただろうか。
イ 迫害の理由
また、判決は、アフガニスタンの歴史的沿革やハザラ人の状況について、証拠に基づき実に詳細な検討と事実認定を行っている。
これに基づき、被告ら(法務大臣及び主任審査官)が、ハザラ人に対する人権侵害の理由が、宗教的又は民族的特性によるものとはいえず、タリバンとの対立による報復としてもたらされたに過ぎないとの主張を退けた。
ウ 供述の信ぴょう性
さらに、被告らは、原告の供述には信ぴょう性がなく、迫害のおそれは認められないとも主張していた。ちなみに、国は、ほぼすべての難民関係裁判で、通訳の正確性は不問に付した上で、日本人的感覚での合理性・経験則を基礎として、信ぴょう性を争っている。
この点、判決は、UNHCRの研修マニュアル「難民申請者を面接する」を引用した上で、「自らが迫害を受けた時期やその態様、その後の逃走の経緯等は、非日常的な体験であるために、記憶の中で強調されて鮮明に印象づけられることもあれば、逆に少なからぬ精神的苦痛を与えるが故に思い出すことが困難になり、あるいは断片的で歪んだものになる場合もあることもまた経験則上明らかである」などと判示した上で、「原告の供述は、その内容において概ね自然であって、合理性を有するものである。特に、二度にわたりタリバンに監禁されたとする点については、迫真性に富む具体的供述がされているということができる」とした。
出身国での迫害という極限状態における人間の記憶やその供述の困難について、UNHCRなどで明らかにされている経験則を適切に取り入れた、国際水準に依った判決である。
7 日本の難民庇護に対する消極姿勢の批判
先進諸国では、アフガニスタン難民申請者の数は、一九九八年には比較的少なく、翌一九九九年及び二〇〇〇年には飛躍的に倍増している。
一方で、日本では、アフガニスタン人に対する査証発給数を、一九九九年には一一一八件発給したのに対し、二〇〇〇年には五八四件、二〇〇一年の一〜一〇月の間はたった二四件に激減させている。しかも、一九九八年から二〇〇一年一一月三〇日までのアフガニスタン人の難民申請者は一四九人であるが、このうち難民認定を受けた者はわずか六名に過ぎない。
それにもかかわらず、真実は迫害を受けた事実が存在しないにもかかわらず、日本での経済活動(中古車部品の買い付け)を目的として、原告Dは、難民であるかのごとく偽装して難民認定申請をした(偽装難民)、と被告らは主張していた。
判決は、難民申請をする際にその国で生活していく必要があることから、難民認定をうける希望と就業の希望が併存するのは「人間の自然な感情である」とした。
その上で、上記のような日本の厳しい入国管理・難民認定に対する消極姿勢について、「これらのことをアフガニスタン人からみれば、我が国は以前からアフガニスタン人を保護しようという姿勢に欠けたばかりか、この時期はさらにその傾向を強めて入国すら拒否しようとしているものと理解できるのであって、そのような国で難民として認定されることは期待できないと考えるのが通常であると考えられる。・・・原告が難民であるかの偽装をしたとしても本邦に在留して事業を継続することができる見込みがあったとは考えがたい」と判示した。
難民排除国である日本の現状を正しく認定し、ひいては、そうした日本の姿勢を直裁に批判するという意味で、今後の日本のあり方に疑問を投げかける意義ある判決である。
実際、筆者の経験からしても、欧米の先進諸国に逃れる難民たちの多くが、「人道的で難民を助ける国だから」という理由でそれらの国を選んでいるのに対し、日本を選ぶ難民たちは、もともと日本になじみのあった者か、日本の冷たさを知らないでだまされて来日した者がほとんどである。もちろん、その絶対数も少ない。
同じアジアに位置する一番の先進国でありながら、同じアジアの同胞を見捨てる政策が、恥ずかしい。
8 おわりに
日本が戦争ができる国に向けて歩みを進める中で、教科書問題や、靖国神社参拝、石原都知事の三国人発言や中国人DNA発言、そして北朝鮮バッシングなど、排外主義が高まりを見せている。
日本国内の外国人に対しても、入管が、「不法滞在等の外国人情報」を匿名でも受付けるというホームページを開設し「違反者と思われる人」を確たる証拠がないままに通報することを奨励している。
また、外国人犯罪が「急増」し「凶悪化」しているとの、事実に反するメディア報道が繰り返し行われ、二〇〇三年一〇月には、法務省・警察庁・東京入国管理局・警視庁が、推定で東京に一二万人以上いる在留資格のない外国人を今後五年間で半減させる(六万人以上を退去強制させる)ことを目標にするという「首都東京における不法滞在外国人対策の強化に関する共同宣言」が出された。いたずらに外国人一般に対する漠然とした不安感・反感・嫌悪感などを煽る政策が、矢継ぎ早に打ち出されている。
日本の過去の侵略戦争の歴史でも明らかなとおり、外で戦争を遂行すれば、内では外国人が排除され、抑圧され、スケープゴートにされる。
政府の難民排除姿勢、そして、近年の政府による「偽装難民」宣伝も、こうした背景を持っている。
本判決は、こうした日本の歩みに対してもくさびを打ち込むものとして、意義深いものであると考える。
東京支部 尾 林 芳 匡
一月二〇日、東京高等裁判所第九民事部において、一九九九年一一月に発生した京王電鉄助役解雇事件について和解が成立した。事情聴取の際に書かされた「自認書」の信用性を否定して労働者側を勝訴させた一審判決に沿って労働者の権利を救済した勝利和解である。
京王電鉄では二〇〇〇年四月以降バス部門の分社化リストラ問題が起きて争議となっている。助役解雇事件はこれに先行する時期の紛争である。
一 事案の概要
京王電鉄は私鉄大手のひとつで、鉄道・自動車等の運輸事業等を営み、本件の発生した一九九九年当時、バス路線は東京都区内、多摩地区及び神奈川県にわたり二〇〇以上の路線の営業をしていた。解雇された労働者は多摩地区の営業所の助役で、営業所の所管内で年間百件以上発生している事故の処理等にあたっていた。
一九九九年七月、助役は事故処理に関する現金と帳簿の差が発生していたことについて調査を命じられた。使途不明として三十数万円が指摘されていたところ、助役はそのうち二〇万円以上について使途を説明したが、それでもなおその場では説明できない金額が十数万円残った。会社は、助役の上司にあたる者が数名で「事情聴取」にあたり、その席上で使途を説明できなければ着服だなどと決めつけ、助役に「着服」した旨の「自認書」を書かせた上で、助役を懲戒解雇した。
二 一審の経過と判決
労働契約上の地位の確認等を求める本訴を二〇〇〇年五月に提起し、一〇回の口頭弁論を経て、二〇〇三年六月九日、東京地方裁判所八王子支部(小林敬子・中山節子・栗田正紀)は、原告労働者の主張をほぼ全面的に認め、労働契約上の地位を確認し解雇期間中の賃金の支払いを会社に命じる労働者側の勝訴判決を下した(労働判例八六一号五六頁)。
判決は、本件の懲戒解雇事由は「着服横領したこと」であるから、「本件懲戒解雇の当否は、原告に着服横領ないし不法領得の意思があったかどうかに焦点を置いて判断」するとした上で、次のように判断した。
(1)助役になって間がなく要領をつかめていなかった原告が金銭の使途を十分に説明できなかったとしても不法に領得したと決めつけることはできない。
(2)自認書は「説明できなければ着服である」と決めつけられ、孤立無援の状態で作成したもので、記載内容もただちには信用できない。
(3)使途不明金は業務に関して支出した可能性を否定できない。
(4)したがって、着服横領したことを認めるに足りる合理的な証拠はないから、本件懲戒解雇処分は具体的な懲戒事由なくしてなされたものであって、無効である。
自認書は本件懲戒解雇の重要な証拠であった。判決は、「使途の説明がなければ着服である」と決めつけて書かせ、着服の態様や時期や動機に関する事情を解明しようとしていなかったという作成過程における会社の態度や、具体的な事実経過を説明することなく「着服した」とのみ書かれているという自認書の記載内容などについて、会社側担当者に対する反対尋問の結果に沿って丹念に認定し、結論として労働者本人の書いた自認書の信用性を否定した。この結果、労働者の主張をほぼ全面的に認める判決となった。
三 会社側の控訴
一審判決に対し被告京王電鉄は控訴し、二〇〇三年九月から東京高裁における控訴審が始まった。
控訴審において会社は、原判決が多数の事故処理の中で一定の使途不明金が発生したとしてもただちに着服・横領があったとはいえないとした点について、会社における事故処理システムの不理解によると主張し、また懲戒解雇が有効とされた裁判例を多数引用して法律解釈論も展開した。
これに対し労働者側は、懲戒解雇はあくまで具体的な着服・横領行為を理由としてなされており、助役が所属していた京王電鉄労働組合の同意手続も着服・横領行為を前提になされている以上、システムの理解は懲戒解雇を正当化しないこと、裁判例においても抽象的に「着服した」とのみ記載された自認書は着服・横領行為の証拠として重視されていないこと等を主張した。
四 東京高裁における和解
東京高裁は一審判決と労働者側の主張に理解を示しつつ和解勧告をし、数回の和解期日を重ね、二〇〇四年一月二〇日に訴訟上の和解が成立した。その骨子は、(1)控訴人は被控訴人に対して解決金(非公開)を支払う(2)被控訴人の退職を確認する、というものであった。
原職復帰は実現しなかったものの、一審判決が懲戒解雇を無効と判断した枠組みに基本的に沿った内容であり、大企業の乱暴な労務政策に対して歯止めをかけた、労働者の勝利和解であった。
(弁護団は尾林と岸本努団員)
東京支部 鈴 木 亜 英
1.国連NGO資格の取得
自由法曹団もその一員である国際人権活動日本委員会が今年二月四日国連経済社会理事会(「経社理」という)のNGO協議資格を取得しました。
取得したのはスペシャル・コンサルタティブ・ステータス(特別協議資格)というもので、
(1)正式な権限を付与された代表を経社理及びその補助機関としての公開会議にオブザーバーとして出席させることができる
(2)資格付与のNGOが特別な能力をもつテーマに関して経社理の業務に関する意見書を提出することができる
などが認められています。
国際人権活動日本委員会は労働組合や争議団などを中心に、その前身時代を含めれば一〇年余にわたって、国際人権の社会権及び自由権の各規約の実施について、国連の人権促進保護小委員会・社会権規約委員会・自由権規約委員会・ILOなどに訴えてきました。最近では労働以外の社会権・自由権関連の参加も増えています。全国の団員もさまざまな立場からこれまで随分この活動に従事してきたのです。
2.「国連NGOの役割と平和の創造」シンポ
この資格を得たことで私たちは一層力強い国際活動ができることになりました。とはいえ、この資格を有効に活用するにはどうしたらいいか、これからの会の発展をどこに求めるか、そのためには何をやればいいのか、それを改めて模索しはじめたところでした。そこへタイムリーな集会が飛び込んできました。日弁連と三弁護士会の企画「東北アジアにおける国連NGOの役割と市民による平和構築を考える」シンポジウムです。
私は昨年暮、NGO資格取得のためニューヨーク国連本部を訪ね、経社理NGO委員会に参加しました。八一もの新規資格申請が世界各地から出されていましたが、その審査を議場でテキパキ裁いていたのが、経社理事務局NGO部長のアニファ・メズーイさんでした。
このメズーイさんが、このシンポで「国連NGOはどうやって平和を創っていけるか」を講演するというので、一も二もなく駆けつけました。平和構築のため世界市民の世論こそ大切と強調、そのスキームとプログラムを具体的に示したメズーイ講演に、砂に水が染みこむような思いで聞き入りました。東北アジアでは国連協議資格をもつNGOが少ないということもはじめて知りました。会場には五〇〇人もの参加者がありました。世界平和を自分たちの手で作りたいという願いで人々が何かを模索しているのだと強く感じる集会でした。
3.治安維持同盟の「生き生き国連人権活動」
この一〇年余り、国際人権活動に携わる人は非常に増えてきました。人権の閉塞状況のなかで、様々な困難を抱えた人々が、国際的な人権水準に触れて、改めて確信を持ち、或いは元気を取り戻す姿を私はしばしばみてきました。治安維持法犠牲者国家賠償要求同盟の活動もそのひとつです。
侵略戦争に反対し、投獄され拷問された治安維持法犠牲者は多く二〇年間に数十万人の逮捕者を出し、虐殺・獄死は二千人近くに達したといいます。ドイツもイタリアもこうした犠牲者に謝罪し、年金支給のかたちで賠償していますが、歴代日本政府には反省のかけらもありません。無念は晴らされることなく、被害が償われることもありませんでした。犠牲者とその家族の痛恨はいかばかりであったか、想像に難くありません。当然様々な活路が追求されてきました。国連に働きかけて、世界の戦後補償を要求する運動と連携する活動もそのひとつです。国連人権促進保護小委員会への要請は昨年で七回目を迎えました。そんななかでパンフ「いきいき国連人権活動」が発行されました。この小委員会が何をやっているか、人権に関心をもつ団体がどのようなかかわりを持てるのか、昨年の委員会の模様がリアルに語られています。展望のもてる活動を歩みはじめた国賠同盟の国際的な取り組みには学ぶべきものが多いといえます。パンフ冒頭の新倉修教授の「国際人権五段活用法」は短文ですが国際人権活動の基礎を知るうえで興味深いものがあります。
NGOの連帯が世界の平和をリードするだろうという予感はますます強まるこの頃です。
東京支部 笹 本 潤
来る三月二〇日、二一日に青法協の第一二回人権研究交流集会が早稲田大学で開催されます。三月二〇日に「いま平和の創造力を!」というテーマで全体会が開かれます。三月二〇日は世界国際反戦デーで、日比谷公園や芝公園で各種集会が開かれ、それらと重なってしまうのですが、どの集会も成功させるつもりで気がむいた方は人権研究交流集会の方にも参加してください。
二月七日には、日弁連の東北アジアシンポが開かれ、そこでは、市民とNGOの役割が強調され、特に核問題や拉致問題を抱える東北アジアにおける、平和構築の必要性が強調されました。三月二〇日の全体会では東北アジアの問題にとどまらず、イラクやアフガンなどの問題も含めた大きいテーマで平和構築の討論をしていく予定です。パネル・ディスカッションのテーマ「Another World is Possi-ble!!」はワールドソーシャルフォーラムのテーマと同じで、その日本版です。日弁連シンポの際のパネラーである吉岡氏も今回パネラーになっていただきました。
当日は他の集会に参加される方も、次の二一日は様々な人権課題の一四の分科会が開かれますので、そちらの方も合わせてご参加下さい。
◆第1部
基調講演「ポスト九・一一時代の世界と日本をどう見るか」
水島朝穂(早稲田大学教授・憲法学)
* 水島教授が、九・一一以降の世界と日本の支配的な潮流の問題点を指摘し、その流れに対抗する必要性と可能性性を訴えます!
日本の改憲問題の焦点についてもお話されます!
◆第2部
映像で見る過去の戦争・現代の戦争
* 日中戦争やアフガン戦争の被害者の証言、裁判への想いなどが語られます!
◆第3部
パネル・ディスカッション「Another World is Possible!!」
* 各分野の専門家が、現在とは異なるもう1つの未来創造を語るディスカッションです。イラクや北朝鮮問題について、現在の対応とは異なるアプローチを提唱します!
パネリスト
水島朝穂(早稲田大学教授・憲法学)/吉岡達也(ピースボート共同代表)/土井香苗(弁護士)/李正姫・韓国弁護士(民弁所属)コーディネーター 猿田佐世(弁護士)
◆日時 三月二〇日(土)一四時〜一七時(一三時半開場)
◆会場 早稲田大学国際会議場
(東西線早稲田駅または都営バス早稲田リーガロイヤル下車)
http://www.waseda.ac.jp/koho/guide/nisiw.html
◆参加費 五〇〇円
◆問合せ先:青年法律家協会 電話 〇三・五三三六・一一三一
http://www.seihokyo.jp/
◆全体会の企画趣旨
九・一一後、アメリカによるアフガニスタンやイラクへの侵攻や、それに対抗するかのようなテロの頻発など、世界ではますます「暴力の連鎖」が深まりを増しているかのように見受けられます。また、日本でも、「有事」関連三法や対テロ特措法、イラク特措法などを制定させ、こうしたアメリカ政府のブッシュ・ドクトリンに象徴されるような単独行動主義に追従する姿勢を明らかにしています。しかし、こうした傾向がますます顕著になるなかで、世界では、反グローバリズムやイラク戦争反対の声も高まり、一〇〇〇万人を超える取り組みも行われてきました。そうした取り組みは、「Another World is Possible!!」(もう一つの世界は可能だ!!)をスローガンに掲げ、アメリカの「力による支配」とは異なる対抗軸を模索し、世界の市民に示そうと試みています。
そこで、全体会では「今こそ平和の創造力を!」と題して、こうした二つの大きな潮流のなかにあって、私たちは九・一一後の世界をどのように見たらよいのか、とくにイラクや北朝鮮の問題にどう向き合ったらよいのか、そして日本に住む私たちは何ができるのかといったことなどを考えたいと思います。あわせて、法律家・NGO・市民が、どのように連携できるのかについても意見を交換したいと考えています。どうぞ奮ってご参加ください!!
◆パネリスト・コーディネーターの横顔
○水島朝穂(Asaho MIZUSHIMA)
早稲田大学法学部教授。法学博士。憲法学/法政策論。
『現代軍事法制の研究』(日本評論社、1995年)、『武力なき平和』
(岩波書店、1997年)、『世界の「有事法制」を診る』(法律文化社、2003年)、『未来創造としての「戦後補償」』(現代人文社、2003年)、『同時代への直言』(高文研、2003年)など著書多数。新聞紙上や全国での講演でも活躍している。
水島教授のサイト: http://www.asaho.com
○吉岡達也(Tatuya YOSHIOKA)
ピースボート共同代表。ピースボート創立メンバーの一人。世界各地の紛争地を訪問しながら、人道援助活動を展開している。
ピースボートのサイト: http://www.peaceboat.org/index_j.html
○土井香苗(Kanae Doi)
弁護士(五三期)。エリトリア法務省で調査員として法整備支援プロジェクトに係わった経験をもつ。現在、アフガニスタン難民弁護団などで活躍している。
○李正姫 (Lee Jeong Hee)
韓国の民主社会のための弁護士集団(民弁)所属の弁護士。米軍問題委員会幹事。
この間、韓国でのイラク派兵反対行動に中心的に関わっている。
○猿田佐世(Sayo SARUTA)
弁護士(五五期)。アムネスティインターナショナルなどで国際人権活動に携わっている。現在、受刑者問題やフジモリ問題、都知事女性蔑視発言、難民事件などで活躍している。