<<目次へ 団通信1139号(9月1日)
松島 暁 | 集まろう「命こそ宝」の沖縄総会に | |
仲山 忠克 | ウチナー(沖縄)総会へメンソーレ | |
吉田 健一 | 平和への結集を広く訴え改憲阻止へ全力を 二泊三日の夏合宿に各地から一二〇名 |
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笹山 尚人 | 歴史的大事件ー国公法弾圧堀越事件 第一回公判の報告 |
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小笠原忠彦 | 認識を一変させた全国弁護団会議 | |
中野 直樹 | 五月集会のあとさき(三) |
事務局長 松 島 暁
改憲日程の現実化が取りざたされる中、去る八月二〇〜二二日、熱海において改憲阻止の自由法曹団夏合宿に全国から一二〇名の団員が集まりました。詳細は吉田団員の別稿に譲りますが、二泊三日という日程にもかかわらず、多数の団員の参加をえました。憲法の危機と平和への熱意の反映だと思われます。
アメリカがイラク戦争の口実とした大量破壊兵器はもともと存在しなかったばかりか、ブッシュ政権は、最初からイラクを叩くと決めた上で、ひたすら戦争に突入していったことも明らかとなっています。戦闘は泥沼化し解決の展望はまったく見えていません。集団的自衛権の呪縛から脱却し、このアメリカと共同軍事作戦をより実効的に展開するために憲法の「改正」を行おうとしているのです。
本年四月の『憲法特別論集』では、憲法九条の価値と護憲の道筋について多くの団員の意見が寄せられ、滋賀の五月集会では小林正弥千葉大教授の講演において、「平和への結集」が語られました。先の夏合宿においては各地域での具体的実践活動も含む自由法曹団の改憲阻止運動について議論が交わされました。来る沖縄総会は改憲阻止に向けた自由法曹団の総決起の場として位置付けられます。
開催地沖縄では、戦争と平和、憲法と日米同盟の矛盾を目の当たりにします。軍用ヘリが大学構内に墜落・炎上するのです。また海上基地建設に反対する辺野古住民の座り込みが続けられ、環境の象徴ジュゴンの訴訟も提起されています。
総会前日(二三日)には韓国・沖縄・日本の三者によるプレ企画、「基地被害の現状と基地撤去実現の課題 東アジアの平和構築に向けて」と題するシンポジウムを開催します。沖縄はアメリカにとっての戦略的拠点であるとともに平和の要石でもあるのです。
ぜひ多くの団員が沖縄に集まり、憲法と平和を語りましょう。
沖縄支部 仲 山 忠 克
全国的に猛暑が続いているようですが、ここ南国沖縄の猛暑はごく自然な現象です。しかし一〇月下旬ともなれば、亜熱帯の日射しもゆるみパイカジ(南風)が心地よさを運ぶ季節となります。このような時季に、今年の団総会が沖縄で開催されます。一九八五年五月集会以来、一九年ぶりの全国規模の集会です。
今、全国的に沖縄ブームだそうです。沖縄を代表する食材・ゴーヤー(苦瓜)が共通語としての地位を獲得し、都内で沖縄料理店を経営する我が友人は引きも切らぬ顧客に忙殺され、うれしい悲鳴をあげています。念仏踊りを起源とするエイサーは、全国の学校で運動会の集団演舞として踊られているようです。地元の中学生との対話から生まれた「島人の宝」や「涙ソーソー」等の沖縄音楽もヒットしています。
団総会は、このような沖縄ブームを現地で体感しうる絶好の機会です。
しかし文化面における沖縄ブームは、この国の基本的矛盾を背負わされた沖縄の現状と真相を意識的におおい隠す役割を果たしている、との地元識者の警告もあります。去る八月一三日に発生した沖縄国際大学内への米軍ヘリコプターの墜落・炎上は、その矛盾の現出のひとつの事象にすぎません。
「集団的自衛権を禁止した日本国憲法は、日米同盟の障害」だと米国高官は高言していますが、その「日米同盟」の真の姿と役割が沖縄では目に見えるのです。それは逆に、戦争消滅化へ一歩を踏み出した人類の偉大なる勇気と良識の結晶である憲法九条の輝きを再確認しうるとともに、急速化する改憲策動阻止運動への決意を改めて固めることにもつながるものと確信します。そして我が国の平和と安全にとって、アジアにおける平和確立は緊急の課題でありますが、アジアの十字路としての地理的位置に存する沖縄において、総会前のプレ企画として、「東アジアの平和構築に向けて」のテーマでシンポがもたれることは、その苦難の歴史的体験を通じて「平和の十字路」となるべき歴史的使命を担っている沖縄にとって、最もふさわしいテーマです。
戦後五九年が、「戦前X年」であったと後世の歴史に言わせないためにも、全国の団員が今こそ団結と連帯を深め、親睦と明日への英気を養うために、沖縄総会へ集おうではありませんか。
グスーヨー、ウチナーカイ、メンソーレ(皆様、どうか沖縄へいらっしゃって下さい)。沖縄支部一同、心から皆さま方の御参加をお待ちしています。
改憲阻止対策本部事務局長 吉 田 健 一
[活発な討論]
八月二〇日から二泊三日、熱海市において改憲阻止夏合宿が開かれ、各地から一二〇名近い団員(含・法律事務所事務局若干名)が参加して、熱心な討論が行われた。
一日目は、坂本団長の挨拶に始まり、「国民意識をどう見るか」、「護憲を担う勢力」、「マスコミの評価と展望」という各テーマごとに、団員側から問題提起し、それぞれについて渡辺治一橋大教授から発言してもらったうえ、参加者からの質疑と渡辺教授の応答という形で討論が進められた。二日目・三日目は、「改憲要因とその性格」、「アジアから見た九条改憲の意味」、「各地の活動の交流」、「運動の基本戦略」、「団の役割と課題・体制」について、活発な討論が続けられ、島田幹事長のまとめで終了した。
[各地で多様な取り組み]
各地からは、多様な取り組みが報告された。
○ イラク派兵反対の訴訟や写真展、学習会などの取り組みを通じて悲惨な戦争の事実を訴え、一般市民や若者にも改憲のねらいを広く訴えている。
○ 様々な違いを超え、平和を求める多くの人たちと共同して集会づくりや署名・宣伝などを始めている。
○ 地域で九条の会を発足させたり、法律事務所で九条の会をつくって依頼者に訴えるなど、アピールへの賛同を広く呼びかけている。
○ 法律家の間で共同の集会を呼びかけたり、弁護士会でイラク派兵や有事法制に反対する集会やシンポジウムを行っている。
[明らかになったこと]
討論で明らかになったことを私なりに要約してみる。
◇ 改憲の動きをどう見るか
改憲の焦点が憲法九条にあてられており、それは日米同盟のもとでアメリカの戦争に積極的に参加するためである。改憲によって目指そうとしているのは、このような海外派兵を実現する軍事大国化とともに、アメリカの進めるグローバリズムのもとで具体化される弱肉強食の社会である。海外で「殴る側」に立とうとすることと、国民に対する犠牲(雇用不安や賃金減額、年金改悪や消費税増税など)とが、一体のものとして実現されようとしているのであり、九条改憲とともに、内閣総理大臣の権限強化や国会意思をスピーディな決定、国家の安全や公共性を人権に優越させる仕組みなどが、提示されている改憲案の中にも反映している。
◇ 改憲を許さないために団・法律家の役割は
「イラク派兵問題は改憲派のアキレス腱」という指摘があったように、アメリカによるイラク戦争や自衛隊派兵に象徴されている問題をはじめ改憲のねらいを広く明らかにし、改憲を許さない国民の多数世論を形成することである。自衛隊や安保条約を容認する立場の人々からも、経済的なしわ寄せを受ける国民からも、改憲反対の声をあげる条件は十分ある。
改憲を阻止するためには、様々な違いを超えて広く呼びかけ、平和を求める声を結集することが不可欠である。そのために自由法曹団が全力をあげる必要がある。法律家・知識人としての役割も発揮して従来の枠を超えた共同づくりとともに、これまでの枠を超えて呼びかけをしている「九条の会」も重視して幅広い結集をはかる取り組みを進めることが重要である。
団員の皆さん一人ひとりがいまできることから足を踏み出し、それぞれの取り組みを団総会に持ちよって、改憲を阻止するために、いっそう大きな運動を作り上げていきましょう。
東京支部 笹 山 尚 人
一 昨年の衆院選の際休日にマンションなどに日本共産党の機関紙赤旗の号外等を配布したとの事実で、社会保険庁職員堀越明男さんが逮捕されたのは三月三日のこと。三月五日には、検察は彼を国家公務員法違反で起訴した。このほど、七月二〇日に、その第一回公判が開かれたのでそのことを報告する。
二 本件は国家公務員が政治的行為をしたとして刑罰に問うものであり、猿払事件と同じ組立である。猿払事件最高裁判決ほど学説の支持を受けぬ判例も珍しい(これは憲法学者が言っているのである)。 ゆえに、三三年間もの長きにわたって、猿払事件以来、公務員の政治活動を理由に起訴された事例はなかったのである。今回、検察庁はあえてその禁を破った。憲法の表現の自由に対する重大な挑戦であると言わなければならない。
今回のこの事件の意味はそれにとどまらない。有事法制が法制度として制定された現在、この国を戦争する国へと変貌させたい支配勢力は、公務員が戦争に反対する政党を支持し、また、有事法制発動の際、スムーズに公権力の発動に協力しないのは困る。そこで、戦争に反対する政党への支持活動を弾圧し、公務員に萎縮の効果を与えることを狙ったものが本件である。
こうしてみると、本件が表現の自由にとどまらず、憲法の平和主義や結社、思想の自由にまでふみこんだ大弾圧事件であることがわかる。
この歴史的闘争のために、石崎和彦団員を主任に、加藤健次団員を事務局長にして、多くの団事務所から、実に二九名もの団員が参加して大弁護団が結成された(まだまだ大募集中です。我と思わん方、立候補して下さい!!)。
三 本件の被告人、堀越明男さんは、何とも、味わいのある依頼人である。
普段はぼくとつとしたしゃべりで、公訴棄却の意見陳述に胸を打たれた傍聴の人も多いのではないだろうか。
しかし、今の日本を心から心配し、民衆のための政治の実現を心からのぞんでいる信念の人である。私の妻長尾詩子団員が彼と同郷の茨城出身と聞いて親しみをもってくれたらしい。私に彼の考えをとうとうと話してくれた。それはそれは、たいしたもの。彼と無罪をかちとりたい!!
四 さて、第一回公判の様子である。裁判所、検察官をまじえて度重なる進行協議の結果、第一回公判は、人定質問、起訴状朗読の後、弁護側の公訴棄却申立の途中までを行うこととされ、結果としては予定通り進行した。
一つだけ、検察官の「予定」を狂わせ、「ざまをみろ」(下品で失礼)、と思ったことは、求釈明である。国家公務員法違反の罰条が不明確だったので、荒井団員が起訴状に対する求釈明をしたのだが、これには検事があたふたした。「立証で明らかにします。」君らは、それしか言えんのか(またまた失礼)。鶴見団員の追及のすごいことと言ったら(私もかくありたい)。その後進行した公訴棄却の手続にはいるとき、検察が「公訴棄却は理由がない、早く実体の審理を」と発言したのに対し、藤本団員が「起訴状の釈明にも答えられず、不明確なものを出しておいて、実体審理に入れはないだろう」と迫って、満員の傍聴席がどっと湧く一幕も。
しかし、なんといってもこの日のメインは公訴棄却の弁論である。この日は、本件起訴が公訴権の濫用であることを石崎、鶴見、石井、山本、須藤、加藤の各団員が朗々と弁論した。それぞれが持ち味を発揮して、とても面白かった。休憩のとき、救援会の人が、「みんな面白いといって、交代で待っている人と替わってくれないんだ」と嘆いていたことに、そのおもしろさはよく現れているといえよう。
五 もう一つ、この日は歴史に残ることがあった。
第一回公判で、未だ罪状認否もなされていない段階で、裁判所が証拠開示決定をしたのである。
(1)全ての刑事事件で、弁護人は、検察官手持ち証拠を入手したいと思う。まして、本件では、開示された証拠は、すべて、ほかの証拠の分析結果の集大成の報告書などであった。損益計算書や貸借対照表だけでは、本当にそのような内実かはわからず、企業の経営分析には明細書が必要なように、捜査報告書の真実性を検討するには、その元ネタであるビデオテープやビデオ解析書などが必要であることは明らかだった。
進行協議の席上、私たちは開示を迫ったが、検察はこれを拒否。そんなとき、裁判所が言い出したのだ。「新刑訴の趣旨にのっとって、進めませんか?」と。
そう、本件の証拠開示決定は、一年以上も施行が先の新刑訴の先取りをしたものだったのである。
(2)新刑訴法三一六の二六は「裁判所は、検察官が、‥‥の規定による開示をすべき証拠を開示していないと認めるとき、‥‥相手方の請求により、決定で当該証拠の開示を命じなければならない。」と定める。
これは、第一回公判前の争点及び証拠の整理の手続上の規定である。事前に争点整理をし、その際に必要な証拠の開示を進め、審理を計画的かつ迅速にするという趣旨である。
裁判所は、この規定の趣旨にのっとり、結論的には計二九通の書証の開示を命じた。検事は異議を述べたが、特別抗告をしなかったので、結果としてはこの決定が確定した。
(3)この証拠開示決定は、検察官の手持ち証拠を、弁護側に開示させたということを、第一回の公判時、罪状認否の前という異例の早い段階で実現させたということで極めて画期的である。翌日の新聞各紙が「初公判で証拠開示命令」(東京新聞)などと、大きく報道したところである。弁護団としては、このこと自体は、大きな成果であると評価している。これは、ひとえに進行協議の席上、いかに、本件の審理において検察官手持ち証拠が必要なのか、その内容を次々と明らかにして開示を迫った弁護団の努力のたまものである(いや、ホントに)。
(4)しかし、喜んでばかりはいられない。
(1) 裁判所は本件について改正刑訴の趣旨にのっとる取扱いを進んで提示してきた。第一回公判当日は、用意した決定要旨を、長々と読み上げた。明らかに、改正刑訴の先取りした運用を「実績」としたいという狙いが見てとれた。
また、本件では、弁護側としても、開示を求める証拠について、また争点が何か、そして検察官にどんな証拠があるかを、特定することが比較的容易であったという事情もある。
本件はこれらの事情がうまくかみ合った結果、開示にこぎつけたという事情もある。
(2) しかも、開示された証拠はわずかに二九通。裁判所としては、出血大サービスのつもりだろうが、こちらが求めた一〇分の一にも満たない量である。あまりに新法が適用できる範囲はせまい。
(3) さらに開示命令には、「目的外使用禁止」がしっかりついている。早速私たちは困難にぶつかったわけだ。「目的外ってどんなこと?」
(4) 以上を考えてみると、新刑訴の問題点を肌で感じたようにも思う。審理を進める中で、次第に争点が明らかになっていき、又、検察官の手持ち証拠の内容や、その意味がわかってくることも多いのが、普通の刑事事件というものであろう。また、「目的外」が運動阻止につながるとしたら、世論に訴えてそれを一つのテコにして解決を求める事件では辛いことになる。
六 第二回は九月一四日。次回は憲法違反を理由とした公訴棄却論の弁論である。私も起案に参加している。
今後毎月「計画的」に審理は進む。
改正刑訴の先取りをする裁判所で歴史的な弾圧事件を闘う。今後も面白いことになりそうである。たいへんです。助けて下さい。でも面白いです。がんばりますので、ひきつづきご注目下さい。
山梨県支部 小 笠 原 忠 彦
私は極度の筆不精のためこれまで一度も団通信に投稿していません。しかし今回あえて初投稿させていただきます。それは、私の認識が一変するような重要な弁護団会議が札幌で開かれたからです。
去る八月一〇日、一一日に札幌で第一回のイラク派兵阻止訴訟全国弁護団連絡会議が開かれ、山梨弁護団から私が原告二名とともに参加しました。参加者は弁護士四五名(北海道から一八名、その他全国から一八名、研究者三名、原告七名、北大大学院生二名)でした。澤藤統一郎先生が平成三年から平成八年まで闘った市民平和訴訟の経験を基に基調報告をした後、内藤功先生の長沼・恵庭・百里訴訟の経験と教訓の報告があり、各地の弁護団の現状報告の後、北海道訴訟の原告の箕輪登さん、元レバノン大使で愛知訴訟の原告である天木直人さん、愛知の原告の池住さん、大阪の原告の田中洋子さんの発言がありました。山梨訴訟原告からも事務局長の久松さん外一人が参加しました。
何がどう私の認識を一変させたのか。それは、この訴訟が勝てる訴訟であり、なんとしても勝たなければならない訴訟だということでした。すでに先行している札幌や愛知のイラク派兵差止訴訟では、当たり前で「何をいまさら」ということかもしれませんが、私のそれ以前の認識は多くの一般団員の認識に近いと思うので敢えて言わせてもらいます。
弁護団会議で分かったのは、原告らに具体的な被侵害利益があるということ、また具体的な被侵害利益があるといえなければ不合理であることに確信を持てたことです。澤藤統一郎先生から、過去の市民平和訴訟の成果として、市民の側に具体的な被侵害利益さえあれば、裁判に勝てるという展望が勝ち取れたという話がありました。それを踏まえて、討論し、イラクで拉致されて開放された渡辺修孝さんやレバノン大使を辞めさせられた天木直人さんがそれぞれ東京と愛知で原告になっており、渡辺さんや天木さんは具体的な被侵害利益があり、勝利の展望があることが確認されました。そしてなによりこのような、特別な利害関係は無くとも、日本国民であること日本に居住していることで具体的な被侵害利益があることを認めさせなければならないことが確認され、それは可能であることの展望が開かれました。これまでと決定的に異なるのは日本が初めて「殺される側」から「殺す」側になっていること、現実に「殺す側」に立ったために一般市民がテロの報復の危険にさらされていることです。すなわち、これまでの状況と異なり、アメリカの起こした侵略戦争に現実に自衛隊が参加しているのです。報復のテロの危険性は現実のもになっています。現に、九・一一で三〇〇〇人もの市民がテロで殺されています。イラク開戦後もスペインでも列車が爆破されて二〇〇人以上の死者を出し、それ以外にも枚挙にいとまが無いほど世界中で多くの、アメリカの支配やイラク戦争に反対するテロが起きています。現に日本人が四人も殺されています。拉致された日本人五人が危うく殺されそうになりました。ブッシュ大統領自身がテロは「戦争だ」といっているのですから、明日にも、戦争の反撃反攻で、新宿の高層ビルが破壊されたり、日本の地下鉄や新幹線が爆破されても少しもおかしくない状況なのです。もちろんサマワで自衛隊員が殺害され、逆に自衛隊員がイラクの国民を殺傷する可能性はもっともっと高いわけです。一見して明白に違憲・違法のイラク派兵によって、明日にも何千人という国民(あるいは日本に居住する外国人)が殺される可能性が具体的にあるのに「具体的な被侵害利益が無いから違憲・違法なイラク派兵が差止できない」ということはあってはならないことです。裁判所は実際にテロで数千人の日本人の命が失われたらどう責任をとるのか。これを差し止めないでどうして憲法の番人といえるのか。どうして国民の権利を守る裁判所といえるのかということです。
会議では、これからイラク派兵阻止訴訟を全国各地に広げて行くことを確認し、その外、東京訴訟は現状でいいのか、弁護団の連絡や情報交換、理論研究と学者との協力などどうするかが話し合われました。その中で、仙台と京都で提訴の準備を進めているということ、岡山で訴訟をしたいという要望があるが引き受けてくれる弁護士がいないという状況、熊本で訴訟が提起される予定との各地の動きが報告されました。
団員の皆さんに訴えたい。具体的な被侵害利益が認められれば、イラク派兵は一見明白に違憲・違法ですから、最高裁の統治行為論でも違憲判断に踏み込まざるを得ないはずです。私は札幌の全国弁護団会議で、勝つこと、勝たなければならないことを確信しましたが、これまでの裁判の状況や裁判官の意識からすれば一般市民について具体的な被侵害利益侵害を認めさせるのは楽ではありません。全国で何千、何万という市民が次々と訴えを提起すれば、裁判所も普遍的に平和的生存権の侵害があることを認めざるを得なくなります。山梨という人口八八万人という田舎の小さな県で、しかも保守的で、闘う労働組合が圧倒的に不足している県で二二五人の原告が訴えを起こし、二次提訴にも応募がある状況からすれば、弁護士の消極姿勢さえなければ、全国いたるところで訴えを提起でき、何万という原告が訴訟を提起できる状況にあると思います。憲法九条改悪を目前に控えて今闘わなくて何時闘うのか。まさにイラク戦争は改憲勢力のアキレス腱です。国際貢献必要論も日米同盟必要論も、訴訟でイラクでの「国際貢献」の実態を暴露し、アメリカの侵略性を暴露し、イラク戦争の実体を暴露してアメリカとの同盟がいかに危険かを訴えれば、これらの改憲論の根拠は吹っ飛びます。何より、イラク派兵で日本が殺される側から殺す側に転換したことなど明らかにしていくことが改憲阻止への具体的な運動そのものではないかと思います。
ちなみに山梨弁護団は私の力量不足から弁護士は七人しかいません。困難で歴史的な裁判を勝ち抜くには最低でも二〇人の弁護団が必要です。
ぜひ団員の皆さんのイラク派兵阻止訴訟への支援と弁護団への参加(山梨に限らず各地の弁護団への)を希望します。
(山梨イラク派兵阻止訴訟弁護団事務局)
東京支部 中 野 直 樹
二号でおえる予定であったが、総合法律支援法についてもう少しふれておきたいことがあるので、今号に連載させていただく。
一 団の声明に寄せられた批判
法案に対する声明案の第一次案は「総合法律支援法案に重大な疑問あり」であった。四月一七日の常幹での討議と四月二二日の司法の委員会を経て、「総合法律支援法案に反対する」となった。四月二七日に衆院法務委員会で採決ときき、二六日に完成させ法務委員会委員に送信した。このことを同日付け司法FAXニュースに載せた。
その後、埼玉支部の会議で、いまごろになって団が「反対声明」を出したことにとまどいの声があがったこと、すでに単位会では法律を前提として、支援センターづくりに主体的にコミットしていく実践的な課題に直面しているのに、団の「反対声明」は冷や水をかけるようなものだとの趣旨の意見であった。本部では地方の実情がわかっているのかとの意見も伝わってきた。
裁判員法・刑事訴訟法改正法案に対する声明作成と異なり、弁護士会で活動する団員との意見交換をする機会をもてなかったことは気にかかっていたが、このような波紋が生ずることは予想外であった。
委員会内で対応を検討し、五月集会の分科会に、団の声明をあえて配り、正面からの意見をもらおうと決めた。
分科会では、予想したとおり、声明に対する厳しい意見が相次いだ。声明中「これまでは国選弁護人の選出は実質的には弁護士会の自治が担っていた」との記載には、そのような実態がないのではないか、との意見が幾人から出された。実は、この問題は、日常的な国選弁護人の選任方法の実態(人的体制のとれない単位会では、弁護士会の推薦なしで裁判所が選任)と、特別案件の国選弁護人の選出についての弁護士会の主体的関与との二つのレベルがある。声明の記述はこの区分けをしていない点で不明瞭であったが、後者を念頭においたものであった。この後者の論点については、渡辺脩団員の七月二一日号団通信論文でも触れられている。
より根本的な批判は、団は反対声明を出せば足りると考えているのか、現場では団の指摘する危険性をはらんだ制度の内装づくりが進行しているのであるから、問題点の指摘をしつつ、ここを勝ち取るために力を注ごうというスタンスと方向が示されることが待たれているという趣旨のものであった。ネガティブキャンペーンだけで自分たちの力が湧き出るのか、という問いかけもあった。司会をしながら、率直にいって、今の団の委員会の現状では、ポジティブに行動するに必要な情報も体制もないなー、とため息をつかざるをえなかった。
二 学習会
七月七日、団では、日弁連で活動している団員を招いて制度構想浮上の経過、法案骨格作りをめぐる攻防、今後の支援センターづくりに向けた動きと当面の焦点などについて説明を受け、意見交換した。
1 この構想は当初から政官レベルの折衝でスタートし、「トップダウンの意思決定」「効率・スリム化」という行政の「トレンド」が前面に出てきた。これに対し、日弁連が昨年夏に、基本賛成の方針のもとに政治折衝の過程に身を投じたことにより、独立行政法人の組織原則を一部修正させ、審査委員会の設置、民事扶助に自主的事業の道を残したこと、契約弁護士の職務の独立性規定をもうけることができたことは認識できた。
2 そのうえで、やはり支援法自体のもつ本質的な危険性(権力介入の道、弁護士会の主体的な位置づけがない等)があることも再認識した。
(1)法律には骨組しか書いてなく、今後の政官の思惑・かけひきによる肉付け、色づけの幅が大きい。
(2)理事会などの民主的な意思決定機関がないなかで、権力から距離をおいた人権擁護機関としての機能を十全に果たせる機構としてつくりあげることができるか。
(3)契約弁護士との基本契約の「解除」を通じて、「弁護活動の適正評価」が問われる。ここの評価基準がどのようになっていくか。
(4)国選弁護人の推薦について弁護士会の主体的な位置づけがなされていない。特別案件の弁護人の選任について、弁護士会の主体的な関与がどうなるか。
3 この危険性を押さえ込んでいくためにも、取りくまなければならない焦眉の課題として指摘されたことを私なりに整理すると次のとおりである。
(1)来年の夏までが肉付けの勝負
司法書士会が、支部運営への参画を期して政治攻勢をかけている。法務省準備室(日弁連からも二人がスタッフとして参加)が各単位弁護士会ごとに実情と要求調査に入る。これに対し、積極的に地域の要求を汲み上げてぶつけていく必要がある。
(2)総務省の本音は、理事長・支部長に権限を集中させて、意思決定過程をトップダウンにすること。それを阻み、運用において弁護士会が運営にコミットできる肉付けを勝ち取る必要がある。そのためにも、支部長に、団員を含めて、権力との関係にきちんとしたスタンスをもち、要求の組み上げと構想力と民主的な討議を組織することのできる力量ある人を配置していくことが肝要である。
(3)支援センターのスタッフ弁護士(フルタイム・非常勤)は全国で一〇〇名〜三〇〇名との案が出ているそうである。スタッフ弁護士は、「経営」問題というより、「効率化」(数をこなす)の圧力のもとで事件活動を行うことになる。困難な刑事事件などについてはスタッフ弁護士だけに任せるのではなく、非スタッフ弁護士も共同受任して相互研鑽をするとともに、この「効率化」に抗した適正手続き、充実した審理を求めていくたたかいも必要となる。
三 支援センターは〇六年四月にスタートする。今年内に各都道府県に準備室がつくられる。
懐疑に足をとどめていると、官側が自分たちの都合に合わせた「調査」と内装づくりしか行わないであろう。全国に、切実な悩みの渦中にある団員が多いと思う。団本部としても本格的な実践的討議が必要であろうと思う。