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後藤 富和 よみがえれ!有明海訴訟
谷 智恵子 住友金属男女差別事件で勝利判決
平井 哲史 労働契約法制「中間とりまとめ」の問題点
菊池 紘 「改革」の虚像を暴く――
「ウイと言えない『ゴーン改革』」阿部芳郎著
神田 高 『軍縮問題資料』と「戦争ホーキ」




よみがえれ!有明海訴訟

福岡支部  後 藤 富 和


 よみがえれ!有明海訴訟とは(立ち上がった漁民と市民)

 有明海は、かつて「宝の海」と呼ばれ、豊かな魚介類が生息し多数の渡り鳥が飛来する生き物達の楽園であった。また、全国シェア四割の海苔養殖を誇る「豊饒の海」であった。

 ところが、一九八六年、農地造成を目的とした「国営諫早湾干拓事業」が始まり、一九九七年の潮受堤防の締め切りによって、諫早湾干潟は有明海と完全に切り離されてしまった。

 潮受堤防の締め切りにより諫早湾干潟は失われ、魚介類の産卵養育の場は消滅し、干潟の浄化機能の喪失による水質の悪化、潮流、潮汐の変化による大規模な赤潮の発生を招き、「有明異変」と呼ばれるほど有明海の環境は激変した。まず、産卵養育の場を奪われた貝や魚が激減し、海苔の養殖にいたっても二〇〇〇年度の大凶作を皮切りに現在まで不作が継続している。そして、漁業の場を奪われた漁民達の破産や廃業が相次ぎ、現在、生きる希望を失った漁民達の自殺が地域の大きな問題となっている。

 このような中、「宝の海」を取り戻そうと、漁民と市民が立ち上がり、二〇〇二年一一月二六日、工事差止めを求める本訴と仮処分を佐賀地方裁判所に提起した。現在、原告数は八五〇人を超えるまでに膨らんでいる。

 また、二〇〇三年四月一六日には、東京の公害等調整委員会に、漁業被害と諫早湾干拓事業の因果関係を明らかにするための原因裁定を申し立てた。

 しかし、この間も、国は急ピッチで工事を進め、二〇〇四年八月の段階で、工事の約九四%が完成した。

 仮処分決定(佐賀地裁の画期的勝利決定と福岡高裁不当判決)

 二〇〇五年五月一六日、福岡高裁は、諫干の工事続行禁止を命じた昨年八月二六日の佐賀地裁による仮処分命令を覆した。

 昨年八月二六日の佐賀地裁の仮処分命令は、廃業が相次ぎ、自殺者さえもあとを絶たないという有明海漁民の深刻な被害を直視し、「すでに完成した部分及び現に工事進行中ないし工事予定の部分を含めた本件事業全体を様々な点から精緻に再検討し、その必要に応じた修正を施すことが肝要」と述べた。さらに本年一月一二日の保全異議決定では、「漁業被害を将来的に防ぐためには、工事の差し止めが、現時点でとりうる唯一の最終的な手段」ときっぱり述べた。

 それだけに、今回の福岡高裁の決定は、有明海漁民の深刻な被害に眼を閉ざし、世論に背を向けた不当な決定であると言わざるをえない。

 ただ、今回の決定は、諫干は有明海の漁業被害と無関係とする国の言い分を受け入れたものではなく、諫干は有明海異変と漁業被害の犯人ではなく、シロだ、とされたものではない。それどころか、福岡高裁決定は、諫干と漁業環境の悪化の関係を認め、国には中・長期開門調査の義務があることまでも認めている。

 福岡高裁が漁民側を負けさせた理由は、まったく不合理といわざるを得ない。

 すなわち、福岡高裁は、「本件事業と有明海の漁業環境の変化、特に、赤潮や貧酸素水塊の発生、底質の泥化などという漁業環境の悪化との関連性は、これを否定できない」などと述べて、むしろ因果関係を肯定していながら、漁民側の因果関係の証明には「一般の場合に比べて高いものが要求される」として、高いハードルを設定した。その上で、諫干が有明海の漁業環境の悪化の何割くらいの原因をなしていて、その程度が量的にはっきりしないと因果関係は認められないと判断した。

 しかし、この福岡高裁の判断は全く不当である。もともと、有明海異変の原因は諫干にあると想定されるとして、それを科学的により明確にするために開門調査を求めたノリ第三者委員会の提言を無視し、中・長期開門調査をサボタージュし、より科学的な関連性の認定を困難にしているのは国の方である。福岡高裁の判断は、その国の責任のツケを漁民側に負わせるものに他ならない。

 この点について、佐賀地裁は、逆に、そもそも漁民側と国の間には「人的にも物的にも資料収集能力に差が存する」、そのような漁民側と国の間にある能力差を全く無視し、漁民側にばかり「自然科学的証明にも近い高度の立証を求めるのは(中略)公平の見地からは到底是認し得えない」と述べ、中・長期開門調査が行われないことによって事実上生じた「より高度の疎明が困難となる不利益」を漁民側のみに負担させるのは、およそ公平とはいいがたい、と述べた。この佐賀地裁の判断と比べて、福岡高裁の判断は、あまりにも国に肩入れしすぎた不当なものといわざるをえない。

 有明海再生の今後

 因果関係については、まもなく漁業被害の原因は諫干であると明確に認定する公害等調整委員会の原因裁定の結論が出ようとしている。

 これによって、因果関係は最終的に法的決着がつくこととなる。

 そして、弁護団は、国に対して、潮受堤防排水門の開門せよとの義務付け訴訟を提起する予定である。 

 佐賀地裁の仮処分命令や仮処分異議決定はもとより、今回の福岡高裁の決定も、有明海の漁業環境の悪化と諫干の関連性を認めている。福岡高裁は中・長期開門調査を行う義務があるということまで認めている。また、原因裁定によって、漁業被害の真犯人は諫干であるという最終的な判断が下されると、いよいよ有明海再生のために開門して再生に必要な調査をすることが日程にのぼってくる。工事の中止は、その闘いの中で、あらたな状況下で求めていくことが可能で、原因裁定によって法的因果関係の存在についての判断が下されると、それを踏まえた新たな仮処分の提起も可能となる。

 今回の不当決定によって、わたしたちの前にもたらされた「困難」は、決して乗り越えることのできないものではない。

 これを機に、漁民と市民は、更に結束を固め、弁護団も、有明海再生の最後の目標に向かって、いっそう気力を充実させて戦う決意である。



住友金属男女差別事件で勝利判決

大阪支部  谷  智恵子


 去る本年三月二八日、大阪地方裁判所民事五部は、住友金属男女差別事件について、違法な男女差別があったとして、原告四名について、住友金属に対し計六三一一万二〇〇〇円の損害賠償支払いの判決を言い渡した。

 被告住友金属は、近時の男女差別事件と同様、男女について「『採用区分』が異なるので、格差は当然」との主張をしていたが、判決は、「男女格差が、会社の人事内部資料による差別的取り扱いによる(これを私達は「闇の人事制度」と名付けた。)ものであり、『コース別取り扱い』とは関連性がなく、不合理な差別的取り扱いとして違法」と断じ、原告主張時期の昭和六一年からの差額賃金相当損害金(他に慰謝料も)を認めた。この点、判決が、被告の「コース別」主張に惑わされることなく、原告が主張した男女差別の構造を正面から認めた点において、画期的な判決と評価することができる。

事件の概要

原告らは、主位的請求として、入社時から事務技術職掌である高卒男性を比較対象に差額賃金相当損害金と慰謝料を、予備的請求として、入社時は技能職掌として採用され、その後、事務技術職掌に転換した高卒男性(BH・LCと称されいる)を比較対象に慰謝料を請求していた。

 住友金属での男女差別の実態・・・・徹底した女性差別の労務政策・大きな格差

住友金属は、女性を「安上がり(低賃金・低評価)」で「短期」の労働者として位置づけ、その枠からはみ出した長期勤続の女性、結婚・出産後も働き続ける女性は徹底的に嫌がらせし(事実上の「結婚退職制」)、処遇上も男性と差別してきた。女性が仕事を獲得し、男性と同等以上の仕事をしても、位置づけはあくまで「安上がり」の労働者であり、低評価・低賃金が是正されることはなかった。例えば、原告北川さんは男性と同等の仕事をし、部長賞二回・役員賞一回を授賞したが、その年にも評価は「C」(五段階評価の1か2)。アシスタント業務の男性(入社は八年後)と年収で二三〇万円の格差があった。人事室長は、「女性はほとんどC評価だよ」と発言した。

高卒男性(事務技術職掌)は年功序列的に「一般執務職↓専門執務職↓企画総括職↓管理補佐職」と一定の勤続年数毎に順調に昇進、勤続二一年目までにほぼ三分の一が管理補佐職(管理職の一歩手前の職分)に昇進し、勤続二三年目までに約九割が管理補佐職に昇進するが、一方女性は勤続三〇年でも専門執務職のままである。

 こうして、男女の年収格差は、平均して二五〇万円にも及んだ。また、入社時は技能職掌として採用され、その後、事務技術職掌に転換した高卒男性(BH・LCと称されいる)と比較しても、昇進・賃金とも、明らかに下回っている。

判決は、男女の昇進昇給及び賃金の格差について、ほぼ原告主張通りの事実を認定して、「この格差の程度は、顕著なものであるといわねばならない。」と認め、格差について、「合理的な理由が認められない限り、被告会社が性別による差別的取り扱いをしていることが推認される」とした。

 被告住友金属の主張と判決の判断

 被告住友金属は、近時の事件と同様、「事務技術職掌の高卒男性と高卒女性では『採用区分』が異なる」「男性は将来の幹部候補生である『本社採用者』、女性は事業所における一般事務業務への従事を目的にして採用した『事業所採用者』」と主張していた。

 しかし、就業規則・労働協約に一切の規定はなく、又、男性と女性との仕事に「客観的・合理的」な違いがあるともいえないず、会社の主張は違法、不当であることを、原告は主張・立証した。

 更に、裁判の中で、技能職掌(作業職掌)から事務技術職掌に職掌転換した男性が大量に存在していることがわかった。この男性達は被告も「事業所採用」と認めているが、その男性(BHないしLCと呼称)らと原告ら女性との間にも昇進・賃金上の格差がある。このような格差は、被告の「採用区分」論では説明し得ないものとなっていた。

 判決は、会社の規程を検討し、「本社採用」「事業所採用」という採用区分を否定した。一方判決は、原告らの入社当時男女が別々に採用され採用後の配置業務・採用等も別々のものとされていたことを認定した。(判決はこれを「本件コース別取り扱い」と呼称している。)

 判決は、「本件格差が本件コース別取り扱いに基づくものか。」との項目を立て、「コース別取り扱い」による差異は限定的なものと認定し、「この差異だけでは、本件格差を到底合理的に根拠づけることはできないことは明らかである」とした。

 そして、判決は、被告が「人事内部資料」(後に「闇の人事制度」の項で説明)にもとづいて、能力に関わらず、「男女間において明らかに差別的取り扱いをし、それに基づき、昇級・昇進等の運用をしていたというべきであり、このような運用は、本件コース別取り扱いと合理性を有するとは到底認めがたい。」この運用の「結果、大きな差異が生ずることとなった。」とした。いわゆる「男女別コース制」の存在を認めながらも、それが、現在までに発生した男女格差を正当化する根拠にならないと判断したのである。

 「闇の人事制度」

 判決は、被告住金が人事内部の資料を作成(判決は「本件人事資料」としている。)し、事務職社員をイないしホに分類、この区分ごとに同一の集団として取り扱い、その結果、「男女間で差別的取り扱いをし、昇給昇進の運用をしていた」と認定した。原告の主張していたいわゆる「闇の人事制度」により男女差別が行われていたと判断したのである。

 この「闇の人事制度」とは、裁判の経過の中で明らかになったもので、住友金属の従業員(労働組合にも)には、全く知らされておらず、労働協約・就業規則等にも一切記載されていない。事務職の従業員をイ・ロ・ハ・ニ・ホの五段階の区分に分け、「イ=大卒・大学院卒男性、ロ=高卒男性、ハ=BH(職掌転換者・男性)、ニ=LC(職掌転換者・男性)、ホ=女性」として、昇進や賃金、能力評価の基準を定めている。女性は学歴にも関係なく、一括して最下位の「ホ」に押し込められて処遇、管理されている。本件では「闇の人事制度」の発覚により、女性が組織的・「制度的」に「最低」として位置づけられ、差別されてきたことがより明白になった。

 原告は、訴訟の中で、全力を挙げて、この「闇の人事制度」の実態を明るみに出すべく、手を尽くした。会社人事担当者の証人尋問、いくつもの文書提出命令申し立て、それに関わるいくつもの求釈明申し立て等々。又、比較対象男性の賃金台帳、履歴台帳を被告に提出させ、分析した。この結果、その昇進・賃金の実態は、上記「人事内部資料」と見事に一致した。つまり、昇進、賃金の実態が、人事資料の「ロ」「ハ」「ニ」「ホ」と完璧に一致したのである。判決は、この数値および昇進経過の一致を重視し、本件男女の処遇の格差が「闇に人事制度」として実質的に機能したことによるものであると認定したのである。本件差別の本質がこの「闇の人事制度」によるものであることを正面から認定した点において、本件判決は高く評価すべきである。

 損害について

 差別により発生した損害について、判決は、原告らと職掌転換者のうち、「LC」(=「ニ」)の男性との差額賃金(・退職金)相当を損害とし、一九八九(昭和六一年(原告請求時点)以降現在までの差額賃金相当損害金を積算して認めた。

 また、判決は、(職掌転換者の)「BH」(=「ハ」)登用の機会を喪失したことを含め、本件人事資料に基づく差別的取り扱い(つまり「闇のに人事制度」による差別的取り扱い)を受けたことによる慰謝料として一五〇〜三〇〇万円を認めた。

 被告が「コース別」を主張する男女差別裁判において、原告請求が認容された場合でも慰謝料としてのみの認容であったことからすれば、差額賃金相当損害金を積算して認めた本判決は大きく評価できると考える。

 裁判所の命令に反した被告住友金属の証拠隠し

 ところで、被告住友金属は、訴訟の中で、「闇の人事制度」の実態を隠すために前代未聞の証拠隠しを行った。経過は次のようなものであった。

 比較対象となる職掌転換者(LC《前述の「ニ」》ないしBH《前述の「ハ」》とされる男性)の賃金台帳につき、裁判所から文書提出命令を受け、被告は、八三七名分の賃金台帳を裁判所に提出した。これを、原告が精査、未提出があることを指摘したところ、なんと三一二名(全数の四分の一)もの対象男性の賃金台帳を、裁判所の文書提出命令に反して隠していたことが分かった。同時に申し立てた履歴台帳については任意に提出していたが、これも当該三一二名分を隠していた。

 そして、この三一二名分のデータを分析により、被告住友金属が差別を隠蔽するため、計画的に証拠を隠し、裁判所に提出しなかったことが明らかになった。

 この職歴転換者一一四九名のデータ分析は、上記のように、「人事内部資料」と見事に一致し、「闇の人事制度」の実態が更に明確になったのである。仮にこの証拠が隠されたままであったら、上記「ロ」「ハ」「ニ」「ホ」の格差の実態がこれほど明白になっていなかったのであり、この点から被告の証拠隠しはきわめて悪質であった。

 法廷での闘いと法廷外の闘い

(1) 原告は、この裁判の特徴を次のように位置づけた。

1) 第一には、明確な男女の大きな格差。住友金属における男女差別の歴史

2) 第二には、男女格差を作り出した「闇の人事制度」

3) 第三には、「闇の人事制度」を隠すための前代未聞の「証拠隠し」

 法廷でも、法廷外でも、この住金男女差別事件「三つの特徴」を押し出して闘った。裁判で明らかになった事実を法廷の外で宣伝し、支援の輪が広がるにつれて、裁判の立証上重要な事実(証人も含めて)にたどり着くということにもなり、まさしく、裁判と運動が有機的に絡まり合って発展していった。

(2) 法廷で

 提訴時、裁判提起はしたものの、昇進、賃金についてのシステムやその実際の運用はほとんどわかっておらず、事実の圧倒的部分は被告の手の内にあった。 いくつもの求釈明申立て、文書提出命令申立(五件)、証人尋問などによって、ようやく前述の「制度」や取り扱い、実態を徐々に明らかにすることができた。

 また、女性差別の実態については、提訴後、ひとつひとつ聞き取りや資料の収集、陳述書の作成、証人尋問などによって、住金の女性差別を歴史的に明らかにすることができた。

 例えば、上司に結婚を告げた日から、毎日呼び出しを受け、「とにかく辞めてほしい」「どうして働かないといけないのか」「新居近くで(新しい)仕事を探してあげる」などと退職勧奨を受け、挙げ句の果て、新婚旅行から帰って出勤すると、事務机が地下の廃棄物倉庫に捨てられていた女性。また、結婚を上司に告げつげると、上司は、「改姓しないで働く気はないか」と説得、「女性は(職場の)華がいい。壁のシミはいらない」と侮辱、「(妻を働かせて)冷たい旦那やな」と中傷した例など。更に、出産して働き続ける女性に対して、あからさまな退職勧奨があった。原告北川さんは、「犬や猫でも母親の手で子供を育てているのに、君は子どもを保育所に預けて、犬畜生にも劣る。君は人間を生産する機械か」という暴言を上司から浴びせられた。こうした結婚・出産に対する攻撃などを、一つひとつ明らかにした。

 住友金属では、過去に、いくつもの女性差別に対する闘いがあった。その埋もれていた時々の闘いの記録(記憶)を掘り起こし、裁判所に示した。こうして立証した事実は、判決書にはそのままは現れてはいないが、丹念に明らかにした女性差別の歴史的事実が、裁判官の心に響いたと確信している。

(3) 運動について

 原告四人で出発した裁判であったが、「証拠隠し」が明るみに出た二〇〇二年以降、被告住友金属本社の最寄り駅である「淀屋橋」でもビラまきができるようになった。二〇〇四年四月には、支援の「住友金属男女差別裁判を勝たせる会」(会長・森岡孝二教授)が結成され、運動は、一気に大きくなっていった。「勝たせる会」は本当に多様に活動を繰り広げた。大法廷に入れないほどの法廷傍聴。また、法廷ごとに裁判所前・淀屋橋でビラを撒き、東京の本社前、住金製鋼所(此花区)、住金和歌山での駅頭でもビラ撒き。一〇〇名を超える交流会。結審前と判決前には、住金周辺、裁判所周辺の二回のパレード。結審に際して裁判所への会員二二二名の「声」(一人A4版一枚に意見を書いて)を提出、結審後は、「ジャンボはがき」運動(きれいな絵を描いた大きなA3版「はがき」にサポーターが寄せ書き)等々、創意あふれる運動を展開した。どれも手作りの丁寧な運動で、一つひとつ成功させていった。

 また、昨年六月の株主総会には、原告北川さん、森岡「勝たせる会」会長、弁護団四人が出席、差別の実態と「闇の人事制度」「証拠隠し」をアピールした。

 また、国会質問でも、住友金属の差別の実態が取り上げられ、これに答えて、南野法相が「耳を疑った」とコメント、「闇の人事制度」については、尾辻厚生労働相が「(住友金属は)言っているとこととやっていることが違うのはまずい」と答えた。

 こうした裁判所や会社に向けての運動の広がりが勝利判決を引き寄せた力であると確信している。

 早期解決に向けて

 原告勝利の判決は、大きな関心を呼び、沢山のマスコミに取り上げられ、「朝日新聞」社説は、「『格差は採用コースの違い』と主張する会社の反論は退けられ、女性を差別する人事制度の存在が認定された。当然の判決として歓迎したい。」「北川さんらの後ろには、無念な思いを抱えて職場を去った無数の北川さんがいる。住友金属は『闇の人事制度は存在しない』と控訴した。賢明なことだろうか。目前に迫る労働力不足の時代に備えて、人事制度を公正なものに改め、女性を活用する。そうしなければ人材は集まらない。」「企業の競争は国境を越えて、厳しさを増す一方だ。不公正なことを続ければ、国際的な評価や株価にも大きく響くことを知るべきである。」とコメントしている。

 判決後、「勝たせる会」の運動は、一層輪が広がっている。被告は控訴したが、原告と「勝たせる会」は、更に、早期解決に向けて闘いを展開している。



労働契約法制「中間とりまとめ」の問題点

東京支部  平 井 哲 史(労働問題委員会事務局長)


 厚生労働省「今後の労働契約法制の在り方に関する研究会」(以下「研究会」)は四月六日、「中間とりまとめ」を発表しました。 一〇月には最終報告が出され、その後法案化検討作業に入る予定となっています。そして、この「中間とりまとめ」の中で、同研究会の課題ではないにもかかわらず「労働時間法制の見直し」が提言され、すでに労働政策審議会労働条件分科会では検討作業に入っています。今国会では「時短」を投げ捨てる「時短促進法」改定案や使用者の健康管理義務を後退させる内容を含んだ労働安全衛生法改定案などが提出されています。改憲の動きと並んで急ピッチで進む労働法制の動きについて警鐘を鳴らす必要があるので、以下、レジュメ風にまとめてみました。

 「もうけの自由」に奉仕する政府の狙い

 今年三月二五日に閣議決定された「規制改革・民間開放推進三か年計画(改定)」はいろいろなことを述べているが、労働の分野では次の方針を打ち出している。

(1) 有料職業紹介の拡大
(すでに年収七〇〇万円まで引き下げられてきているが)

(2) 派遣の事前面接の解禁
(すでに紹介予定派遣については解禁されているが)

(3) 労働時間規制の撤廃
a 企画業務型裁量労働制の拡大
・労使協定だけで導入できるようにする
・対象は労使の自主的決定に委ねる
b ホワイトカラーイグゼンプション
c 管理監督者についての深夜業規制の撤廃

(4) 「金で首切り」の実現

 「中間とりまとめ」の問題点

 内容としては、「透明なルール」「ルールの明示」を打ち出し、判例法理を立法化しようという部分も多いが、以下の看過しがたい問題点があり、「オブラート」に包んで財界の積年の要求を飲ませようとするもの

 労働時間規制撤廃の方向を打ち出す

(1) 昨年六月の「仕事と生活の調和に関する研究会」報告書に続き、労使の合意により労働時間規制を外す方向を打ち出すもので、労基法三二条、三七条、さらには一三条を意味なくさせてしまう

(2) 長きに渡る労働運動の成果を無にする(抵抗のすべを奪う)

(3) もともとこの研究会における討議対象とはなっていないものをヒアリングも終わった段階で急遽持ち出してきて強引にねじ込んだ越権行為

(4) 「自主性」を強調し、過労死等の弊害に目をつむり、近年の厚労省の方針にも逆行し、世論に背を向ける

 「金で首切り」の再登場

 ※ 金で違法行為が許されてしまうこの制度本来の問題点の詳細については「解雇立法の法案化に反対する意見書」(二〇〇三年一月)参照。以下は「中間とりまとめ」において講じられている「工夫」に対する筆者のコメント。

 <使用者側からの申立について>

(1) 公序良俗に反する解雇の場合を除外することはもとより、「使用者の故意又は過失によらない事情であって労働者の職場復帰が困難と認められる特別な事情がある場合に限る」とするが、実際には裏で使用者が糸を引くのであり歯止めにはならない。

(2) 個別企業における事前の集団的な労使合意がなされていることを要件とするとしているが、労使委員会や多数組合の同意でもよいことになり、実際はフリーハンドに近い。

(3) 唯一、使用者からの申し立てには下限を設けるというのは意味があるが、これが低水準ではやはり意味がない。そして、中小零細企業の支払能力を云々していることからして低水準に抑える(たとえば月給半年分)ことは十分予想できる。

 <解決金の金額について>

 労使間で予め集団的に取り決めた解決金の額の基準によるとするが、就業規則に規定をおくことで足りるとするのは論外としても、労使委員会で決定したり、使用者の意向に従う組合が定めたものでもよいとするのでは、やはり低水準にとどまり違法解雇の歯止めにはならない。

 変更解約告知の制度化

 労働条件変更の申し出と解雇の意思のあることを同時に行い、解雇の脅威により労働条件の低下を実現しようとするもの。労働者に異議申立権を付与して雇用を継続したまま争える手段を講じる、就業規則の変更等他の方法により対応することができない場合に限るとしているが、その問題性については「『金銭解決制度』及び『変更解約告知』に関する意見書」で指摘。

 労使委員会の同意で就業規則の不利益変更の合理性を推定する

(1) 手続の形式を整えて内容の合理性を認めようという乱暴な発想。事実上の主張・立証責任の転換。

(2) 実際の不利益変更裁判の多くは小数派労働者のたたかいとなっている。労働者代表の選出手続の現状も考慮すると、就業規則の不利益変更裁判の封殺になる。

 首を切りやすくする試用雇用期間制度

(1) 有期雇用にすることで使用者による「使い捨て」を拡大するもの。お試し期間が終わればそこで雇用を打ち切ることができ、試用期間中の解雇についての判例法理は及ばないから、無限定に導入すればまともに試用期間を設けるところはなくなる。

(2) 事実上、長期にわたる試用を許すことになる。

 仲裁合意の復活を企図

 実体法上だけでなく、司法手続上も抵抗手段を奪おうとするもの

三 情勢と団の役割

 労働契約法制、労働時間規制はずしのための労基法改定とも二〇〇六年度通常国会に出て来る可能性が高い状況です。法案化は「まだ先」のように見えますが、法案が出てからでは結局国会の場面でのたたかいということになってしまい、国会内の力関係で押し切られてしまい増す。研究会最終報告から「毒」をこそぎ落とし、法案化をさせない取組みが必要です。

 団は、二〇〇三年の労働法制改悪反対の際には、相次いで意見書を出し、厚生労働省要請、国会請願を重ね、労働諸団体と連携し、ともに「金で首切り」の撤回、解雇制限規定の実現に大きな役割を果たしました。当時私は事務局次長をしてましたが、このときも法案化の前の迅速な動きが成果につながりました。今度も団に期待される役割は大きいと思います。

 五月集会でも問題提起がなされることになりますが、労働問題委員会では、次の要領で今度の労働法制改悪の動きにどう立ち向かうかの戦略&実務討議を行うことにしています。全国の団員は改憲問題をはじめ諸課題をかかえ大変かとは思いますが、是非この会議に各地からご参集いただきますようお願いします。

【日時】 六月七日(火)午後四時から

【場所】 団本部会議室

【議題】 労働法制の取り組みについて(仮題)

    (1) 情勢(研究会での審議状況、各団体の動き)
    (2) 「中間とりまとめ」の評価
    (3) 獲得目標
    (4) 当面の課題(意見書づくり、諸団体への働きかけ等)
    (5) その他関連事項



「改革」の虚像を暴く――

「ウイと言えない『ゴーン改革』」阿部芳郎著

東京支部 菊 池   紘


 冒頭に書かれているように、天までもちあげられた「ゴーン改革」にたいする素朴な疑問、そして、つつましい生活をしている庶民でも、「ブルーバード」ー「幸せの青い鳥」が飛んできて、新車が買える世の中になって欲しいという気持ちから書かれた本です。著者は、かつて赤旗記者として自由法曹団の活動も取材され、私たちも親しい阿部芳郎さん。

 売上不振と膨大な有利子負債を抱え危機に陥った日産が救いを求めたのが、フランスのルノー社でした。一九九九年一〇月、送り込まれたカルロス・ゴーン氏の「日産リバイバルプラン」が発表されました。日産村山工場、日産車体京都工場などの生産中止、取引メーカー一一四五社を六〇〇社以下にするなどを内容にするものでした。自由法曹団は対策本部を立ち上げ、労働者の法律相談、意見書の発表、シンポジウム、全労連などの現地対策本部の活動などに加わりました。

 日産村山工場の二九六三人は、一〇一〇人が栃木へ、七一〇人が追浜へ配転、三〇〇人がいわき工場その他へ振り分けられました。

 栃木工場では三つの独身寮があてがわれましたが、それは六畳の和室一間に小さな押入れがついただけのものでした。トイレ、洗面所、風呂はすべて共用。もともと七〇年代に高卒で千名単位で採用された若者を二人一室で収容した部屋が、四〇代、五〇代の労働者にあてがわれたのでした。

 阿部さんは、武蔵村山市から消えた工場と変わる街、そして栃木工場など異動先での労働者の状態、さらには関連会社・下請けの衝撃について、ルポルタージュの手法で追っています。この手法は、マスコミあげて賞賛するゴーン改革の虚像を的確に暴いていきます。そして、こうした「改革」はヨーロッパでは許されないことを、労働運動の抵抗と労働者保護の法制、さらには裁判所の積極的な姿勢から、明らかにしていきます。ここでは、ベルギーのビルボールド工場の閉鎖についての自由法曹団調査団(団長・鈴木亜英団員)の調査が大きな役割を果たしています。

 ゴーン改革は、一方で人件費の削減と、固定資本、過剰・遊休設備の廃棄・処分、部品購入費の大幅削減による損益分岐点の引き下げにより利益を生み出すものでした。他方で保有株式の売却と所有不動産の売却により負債を返済し、財務状態を改善したのでした。 すなわち、日産で働いてきた人びとが蓄積してきた資産を利用して利益をあげたのであって、ゴーン氏の個人的手腕で達成された「再生」と見ることはできないのです。

 そして、この「改革」は、ゴーン氏があらたに独創的に作り上げたものではなく、座間工場閉鎖以来、既定の方向として定められていたものでした。新しいところは、いわゆる「日本型」の経営システムや取引慣行、日産独特の労使関係からくるしがらみなどを、外国人のゴーン氏が、なんの係累もないなかで、むき出しの資本の論理で、経済的合理性を追求したところにありました。

 二〇〇一年の「父の日」にメンズファッション協会は、ゴーン氏を「良き家族をつくる」父親に贈る「ベストファーザー」に選びました。ゴーン氏は、この受賞について「日本に移るときには『家族を最優先する』との約束を私自身がしました。こうして家族は引越しをポジティブな気持ちでとらえることができました」と述べています。ある日産関係者は「単身赴任を強いられて、家族を呼び寄せようにもできない多数の従業員にとって『いい父親』になりたくてもなれない。将来を約束された転勤と、リストラによる転勤は、根本的に違う」と言っています。

 巻末には、吉田敬一教授による「ゴーン改革」の分析と、鈴木亜英団員のベルギー調査をふまえた「リストラ」と今後の課題についての論考が付されています。

 この国で働く者の労働と生活に関心を持ち、その苦難の克服の道筋を考えるひとに、一読を勧めます。

  ルポルタージュ「ウイと言えない『ゴーン改革』」
            阿部芳郎著 株式会社本の泉社



『軍縮問題資料』と「戦争ホーキ」

東京支部  神 田   高


 愛読していた月刊『軍縮問題資料』(宇都宮軍縮研究室)が四月号をもって休刊となった。B5より小ぶりで八〇ページ前後、夕方のちょっとした時間に茶店で読むにちょうどよかった。掲載論文は雑誌『世界』並の水準だが簡明で分かりやすい。創設者宇都宮徳馬の人脈で内外の一級の幅広い論者が筆をふるっていた。今年一月号には八〇年一〇月創刊号の宇都宮「私の軍備縮小論」が再掲されている。二〇年以上前の論文だが今に通じる貴重な指摘がある。「日本の周辺の平和を維持すること、かつてのような愚かな戦争をしてはいけない」これが日本外交の努力目標だとした上で、「ある意味で日本は一番弱い国です。都市国家になって産業と人口が大阪や東京に集中しているため、核兵器ならずとも、攻撃兵器が与える打撃は甚大です。戦争では非戦闘員が大量に殺傷されます。・・国民の国を守る危機意識が最高に高まり、軍事費を最も余計に使って民生を圧迫した時に戦争の災禍を受け、広島、長崎とむごたらしい非戦闘員の死を最後に見たのです。」と言う。

 最近号でも、アメリカのイラク攻撃の要因を鋭くかつ簡明に分析したC・ジョンソンの論文(〇三年三月号)、「戦後、今日にいたるまで、日本の平和に対する最大の脅威は、米国の戦争にわが国を引きずり込もうとする米国の圧力です」と喝破した元防衛庁研究室長の前田寿夫「日米同盟」を考える〜砂上に築かれた楼閣(〇四年六月号)など印象に残る論考は多い。

 冒頭に掲げた「朝鮮人あまた殺され その血百里の間に連なれり われ怒りて視る、何の惨虐ぞー萩原朔太郎」に対して、「あれから八〇年、今に至っても、この大規模で、朔太郎をして「何の惨虐ぞ」といわせた「人道への罪」そのようなものとして追求されていない。」と言う「戦争への起点としての関東大震災」(〇三年九月号西田勝)も強い印象を受けた。

 〇四年二月号「迷走する日本・知の巨人おおいに語る」の寺島実郎との新春対談では、加藤周一が今われわれが何をなすべきかを鋭く問うていたー「知的活動を先へ進める、ある方角へ進めていく力は、知的能力じゃない。目の前で子どもが殺されたら怒る能力がなければならない、それは、人間の本質、人間の尊厳の問題だ」。暉峻淑子も「自発的に声をかけあって積極的な行動をとることが、なぜか私たちには苦手である。傍観者として長いものに巻かれて、他人任せになり、権力が上から崩していくものに抵抗できない。しかもそれは、十分に説明されない情報の下での世論調査のように、みせかけの民主主義をとることが多いので、あたかも国民の多数意見によってきめられているかのような外観を呈する。」「自発的な市民の連帯と自分たちにとって真の公共の場をつくりあげようとする市民運動こそが憲法再生の契機となりうる」と言うー「希望を拓く社会の底流」(同年一月号)。これは、まさに草の根の「九条の会」運動に結びつく。〇五年二月号には、三木睦子「八七歳の怒れる私〜気ばかりあせるの、昨今の政情には」、奥平康弘「大義なければ国益なし〜いまあらためて九条を選び直そう」が花を飾っている。なんとか間に合った。『資料』はその橋渡しとなった。

 先日、ピンチヒッターで岩波などが加盟する出版労連の中央執行委員会の学習会に派遣された。私の場合、紙芝居ならぬー写真から入る。米軍基地の中、脇(?)にある沖縄の読谷村役場の建物の前にはデイゴの花をあしらった「九条モニュメント」がある(役場の正面のサトウキビ畑越しには「象のオリ」がみえる)。沖縄・安保VS憲法九条から入るわけである。その後、戦後史を視る視点として、評論家の石垣綾子さんの「女性からみた憲法」(絶版となっている日本ペンクラブ編のの論文集文庫所収)のポイントを紹介する。それで言いたいことは終わり。あとは補足と、「ではどうするの?」の話。

 出版労連では、二一条と九条の会をつくるそうだ。マスコミ九条の会もできて、頼もしい限りだ。最後に「組合員に分かりやすい国民投票法の資料などほしい」と要望がでたので、「はい」と答えて、ついでに「三鷹九条の会」作成の九条カンバッヂを三〇個買ってもらった。デザインもよく好評である。

 「三鷹九条の会」では、四月九日に「知ろう生かそう育てようー憲法九条・トーク集会」を開催した。知らなかったが、地元でミニチュアの「戦争ホーキ(箒)」を普及している人に発言してもらった。全国で五〜六〇〇〇本広まっているそうだ。「へぇー」と思った。『資料』は橋わたされていた。その方も、「三鷹九条の会」に入会された。

 PS 今日机の上を見たら、『軍縮問題資料・復刊予告号』が置いてあった。よかった。