<<目次へ 団通信1171号(7月21日)
山崎 徹 | 韓国民弁総会に参加して | |
森 信雄 | 借地借家法改悪問題の現段階 | |
伊藤 和子 | 五月、ニューヨークでイラク戦争を語る | |
上山 勤 | 戦争の起こし方(英国政府の極秘メモ) | |
牛久保 秀樹 | EU憲法批准拒否についての一つの視点 | |
影山 秀人 | こころざしは時を超えて 〜九・一〇坂本集会のお知らせ〜 | |
内藤 功 | 書評 川田忠明著「それぞれの戦争論」(有限会社唯学書房) |
埼玉支部 山 崎 徹
五月二八日、二九日、韓国の光州広域市において行われた韓国民弁(民主主義社会をめざす弁護士の集まり)のシンポジウム・総会に参加した。民弁の会員数は約五〇〇名であり、韓国の弁護士数の一割弱であるという。この総会には、自由法曹団が民弁から公式に招待を受けおり、団からの参加は、吉田幹事長、泉澤事務局次長、笹本団員、山本団員、をふくめて五名であった。
光州は、一九八〇年のいわゆる光州事件で知られている韓国民主化運動の聖地ともいえる場所だ。八〇年五月、軍事政権下の全国非常戒厳令に反対した全南大学学生は、市民の先頭に立って示威行為を展開した。これに対し、戒厳軍は「華麗な休暇」と名付けられた軍の作戦によって、市民に対して無差別銃撃を加えた。数多くの死傷者を出した一〇日間の民衆抗争は、まさに民主主義が展開し、圧殺された瞬間であった。軍事政権下では封印されていた出来事であったが、いまでは韓国民主化運動の求心点として政府によって記念事業が推進されている。
シンポジウムは、二八日の午後二時から午後五時までの日程で行われた。テーマは、「東北アジア平和定着の課題と対案の模索」。パネリストは、民弁側からは五名、団側から二名。民弁側を代表して李鉄基氏(東国大学・国際関係学科教授)が総論的な報告をされた。団からは私と泉澤団員がパネリストとしての報告をした。私から、日米同盟の性格変化と憲法改悪の問題を説明し、泉澤団員からは歴史認識の問題と憲法改悪の関連を報告した。
米国のグローバル戦略のもとで日米同盟と韓米同盟がそれぞれ侵略的に強化されており、これに対して平和定着のための対案を模索していく必要があることは、シンポジウムを通じての共通認識であったが、民弁側の議論で特徴的なのは次のような点であろうか。
例えば、米国の戦略に関して言えば、彼らは米国のアジア政策の根本に中国包囲政策があるという点を明確に押さえている。
李教授の報告では、『米国の北東アジア政策は、日本の軍事大国化を支援し、日本と連合して中国を封鎖し牽制することだ。また、一方主義政策の名分のためには暴政の前哨基地である北朝鮮と朝鮮半島に緊張が必要だ。米国のこのような政策の目標と基調にしたがって、第二期ブッシュの北東アジアの情勢は、もっとも葛藤と対立の形を帯びるようになるだろうと予想される。米国の中国に対する封鎖戦略はもっと具体化され強化されるだろう。中国に対する軍事的な態勢を強化するために、いわゆる「戦略的な柔軟性」と「軍事変革」という名によって、アジアに駐軍する米軍の改編と再配置を急いでいる。在韓米軍と在日米軍など、アジア太平洋に配置した既存の米軍の改編と再配置を通して、中国の包囲を強化していくだろう』『日本との軍事同盟を強化し中国を牽制しようとする米国の政策は北東アジアに葛藤をもたらす主な要因だ』と述べている。
他方で、北朝鮮問題の関しては、『米国の目的が本当に核兵器拡散の防止ならば、北朝鮮の核問題の解法はあまりにも簡単である。北朝鮮の核の廃棄と、北朝鮮の体制に対する安全保障及び経済支援を交換すればよい。北朝鮮に補償を行い、北朝鮮の核を買ってしまえばいいことだ。米国がその気になれば、すぐにでも簡単に解決することができる。しかし、米国の目的は、単純に北朝鮮の核の除去だけにあるのではない。米国にとって「北朝鮮脅威論」は、自分の推進している一方主義政策と中国包囲政策の名分を確保し持続するために必要だ。「北朝鮮の核の脅威」は、先制攻撃戦略を支える口実になっている。「北朝鮮のミサイルの脅威」がなくなれば、政権が運命をかけて推進しているMD計画の名分が消える。したがって、「暴政の前哨基地としての北朝鮮」「ならず者国家としての北朝鮮」「テロ支援国家としての北朝鮮」「WMD拡散の主犯である北朝鮮」が継続し、存続しなければならない。』と述べて、北朝鮮問題は、米国覇権主義の口実であるとの位置づけをはっきりさせている。
さらには、北東アジア危機の構造に関して、米国も悪いが北朝鮮も悪いというような言い方はしない。北朝鮮も核問題に関しても、北の核は、米国の北朝鮮敵視政策に対する抑止的なものなので、ある程度はやむえないと考える。イラク戦争の経緯をみれば北朝鮮がそう簡単に核を手放すことができないことは理解できる。韓半島に緊張関係をもたらしているのは北朝鮮ではなく、あくまでも米国の北朝鮮敵視政策なのである。
韓国国民の北朝鮮に対する認識は二〇〇〇年の南北共同宣言以来、大きく変わったと言われている。韓国国民にとって北朝鮮はもはや敵対する相手ではなく、宥和の対象なのである。彼らにとっては、むしろ北朝鮮よりも日本のほうが危険な存在なのかもしれない。日本は米国の覇権主義に「便乗」して軍国主義を復活させようとしているからだ。日本は中国に軍事力で対抗するためには米国と手を組むしかないと考えている。
こうした議論は、そこまで割り切って考えることができるかという問題はあるが、米国の世界戦略の理解するうえで極めて示唆的である。
韓国民弁と自由法曹団の交流はまだ始まったばかりであるが、歴史認識や領土の問題を要因として日本と中国、韓国との関係が悪化しつつあるいまこそ、市民社会における交流と相互理解が求められているのだと思う。団としても、北東アジアの平和構築のために、韓国民弁との様々な連帯のかたちを考えていくべき時期にきている。 (埼玉支部通信用の原稿を転載しました)
大阪支部 森 信 雄
一 これまでの経緯
二〇〇三年一二月に公表された「総合規制改革会議 第三次答申」では、借地借家法の見直しにつき、次のように指摘されていた。
第一は、定期借家制度の見直しでり、具体的に挙げられていたのは、(1)契約時の書面による説明手続を廃止または簡素化する、(2)現行法で認められている「居住用建物」の賃借人の中途解約権を廃止する、あるいは、解約の場合でも賃貸人は違約金を請求できるようにする、(3)当事者の合意があれば、従前の普通借家から定期借家への切り替えを認める、というものであった。
第二は、正当事由制度の見直しであり、具体的に挙げられていたのは、(1)借地借家法上の正当事由について、建物の使用目的、建て替えや再開発等、付近の土地の利用状況の変化を適切に反映した客観的な要件とすること、(2)正当事由に関する賃貸人からの立退料の位置づけ、ありかたの検討、であった。
それを受けて、二〇〇四年一月、自民党は「定期借家権等特別委員会」(委員長 保岡興二)を開き、定期借家制度の見直しを中心とした借地借家法「改正」案を議員立法で国会に提出する方針を確認した。
以後現在に至るまで、法案提出はなされていないが、未だに火種はくすぶり、いつ提出されてもおかしくない状況で情勢は推移している。
二 定期借家権推進協議会の提言
定期借家権推進協議会は、二二の住宅・不動産業界団体、個別企業(たとえば、森ビル)、個人を構成員とする団体であるが、二〇〇五年四月、借地借家法見直しに対する提言をとりまとめた。
基本的には、前記「総合規制改革会議第三次答申」に沿ったものであるが、注目されるのは、次の点である。
(1)正当事由につき、金銭支払いに関する客観的基準(現在家賃の一定倍等)を策定し、その支払いのみでも正当事由が具備するものとすべきである。
(2)定期借家につき、賃貸人と賃借人が合意すれば、更新手続きだけで契約を延長できる「更新型制度」を創設すべきである。
このうち、(1)については、「総合規制改革会議第三次答申」で指摘されていたことを具体化したものと言える。
他方、(2)については、新しい提言である。具体的内容は不明であるが、たとえば、一〇年の定期借家契約を締結する際に、合意により更新することができる旨の特約を定め、一〇年経過時に簡便な更新書面を取り交わすことにより、さらに一〇年延長するというようなことが想定されているもの思われる。現在の定期借家制度においても、期間満了時に再契約することは妨げられないが、再契約であれば手間がかかるというのがその理由である。
三 協議会の提言がめざすもの
「更新型制度」は、不動産の証券化(不動産の運用益を投資家に分配することを約した契約書=証券と引き換えに投資を募る仕組み)を推進するための一手法と考えてよい。
すなわち、証券化に当たって重要なのは、長期にわたる運用益の予測可能性である。この点、定期借家は、賃料改定特約が有効とされているから(法三八条七項)、期間中の賃料を決めておきさえすれば、投資家にとって運用益の計算は容易である。そして、簡単に更新ができるようにしておけば、長期的な運用益確保にとって有意義というわけである。
そして、従来からの提言と今回の「更新型制度」とを併せ考えれば、自ずと協議会が目指すものは明らかとなる。
運用益が見込めない物件については、正当事由の緩和や定期借家への切り替えにより、既存の賃借人に明け渡しを迫り、開発用地を確保する。
他方、運用益が見込まれる物件については、既存のものであれば定期借家への切り替えにより、新たに建設された物件であれば新規契約により、定期借家としたうえで、賃料増額特約や「更新型制度」を活用することによって、証券化を進めていく。
協議会の提言がもたらすのは、不動産市場の選別化と市場原理の貫徹に他ならない。
東京支部 伊 藤 和 子
五月、国連で開催されるNPT再検討会議にあわせて世界から多くの市民・NGOが核廃絶を求めてニューヨークに集まる。ニューヨーク留学中の私は、ロースクールのカリキュラムがひと段落するこの時期、渡米するNGO、ジャーナリスト、市民などの友人たちと一緒に「イラク戦争は何をもたらしたのか」をアメリカ市民に伝える機会を設けることにした。
発端は、イラク・ホープネットの細井明美さんから年明け早々に「NYでイラク戦争の写真展をやりたい」との提案。五月にNY入りする高遠菜穂子さん、森住卓さん(フォト・ジャーナリスト)、鎌仲ひとみさん(映画「ヒバクシャ」監督)、佐藤真紀さん(JVC)などと相談し、森住さんをはじめとする日本のジャーナリスト、NGOの人々などの撮影したイラク戦争・劣化ウラン弾被害の写真展を開催することになった。幸い、この間知り合った、元司法長官ラムゼー・クラーク氏の設立した平和団体インターナショナル・アクション・センター(IAC)の方々、そしてニューヨーク郊外の大学を中心にイラク戦争の写真展を続ける女性たちの市民グループ、二〇〇三年に「イラク戦争を止めよう」と森住卓さんの写真展開催などの活動をはじめた西海岸の市民グループ、第一次・第二次イラク戦争帰還兵の方々、私が国連代表をさせていただいているIADL(国際民主法律家協会)などの協力を得て、五月にイラク戦争を問う写真展やシンポジウム、ワークショップなどを開催することになった。私たちの視点は「空爆される側の視点からの事実の提供」「あなたたちの国の武力行使はイラクで何を引き起こしたのか」を映像で伝え、アメリカの市民と語り合いたい、ということだった。
声をあげはじめた兵士たち
私は写真展の準備をする過程でさまざまな人と出会った。特に帰還兵たちとの出会いが印象に残る。昨年八月、ニューヨークの共和党大会の時期にプロテストを理由に逮捕されたデニス・ケイン氏は第一次湾岸帰還兵で劣化ウラン被害者でもあり、全米で帰還後様々な戦争後遺症被害に苦しんでいる帰還兵と結び付けている。また、同じく第一次湾岸帰還兵で、インターナショナル・アクション・センターで帰還兵たちのサポートにあたっているダスティン氏は帰還兵たちの苦しみを教えてくれた。まるで悪徳商法の勧誘のようにしつこい手口で、就職先がなくて苦しむ貧困層やマイノリティの若者たちを兵士として登録させ、戦争に動員している状況、「良心をストップして命令のままにどんな作戦でも遂行する」存在になることを至上命題としている兵士の訓練、劣化ウランの影響と思われる流産を経験した女性兵士、帰還しても何の就職口もなく、ホームレス化していく帰還兵たち。「若い兵士が戦場に送られてある日突然、上司から今日は市街での作戦だ、と言われ、命令に従うしかなく、市街でたくさんの民間人を殺さなければならない地獄絵のような状況に置かれた。帰ってきてからも、ショックで毎日悪夢にうなされ、ひどい精神的後遺症に苦しんでいる」という話も聞いた。
彼らの紹介で、私はニューヨーク在住の九人の劣化ウラン被害者たちと連絡を取り始めた。「ニューヨーク・デイリーニュース」のゴンザレス記者が民間の科学者に検査を依頼し、彼ら九名の劣化ウラン陽性反応を確認したのだ。そのうちの一人ハーバート・リード氏は、二〇〇三年九月、サマワ(自衛隊駐留地)で一ヶ月刑務所管理業務を行なっていただけで劣化ウラン被爆し、深刻な体調不良に苦しんでいる。同じ時期に三ヶ月、クウェート・イラク間のトラック運送に従事していたジェラルド・マシュー氏は、高濃度の劣化ウラン汚染が検出されているが、帰還後誕生した娘のビクトリアちゃんには右手の指がない。マシュー氏の妻は、「マシューは彼女の夢はなんでも実現したいというけれど、右手の指がなければバレーもピアノもできない。これから大きくなってどんな障害が出現するか、とても心配」と私に語った。第一次湾岸帰還兵のメリッサ・スチュワート氏も約一五年間、体中の痛みに耐え続ける生活を送っている。軍は彼らに適切な診断・治療を一切行なっていない。この国では兵士たちが「使い捨て」にされているのだ。
帰還兵たちは、今、自分たちの経験をコミュニティで、街頭で、そしてメディアに語り始めている。アメリカ全土の高校・カレッジでは、生徒に対する執拗な軍へのリクルートが拡大し、通学路での待ち伏せ作戦だけでなく、校長の許可を得て構内に立ち入り、勧誘を行なう動きも強まっている。生徒たちの中にはリクルートに反対してデモンストレーションを企画、実行する動きも広がっているが、校長がこれを許可せずに(軍の入校は認めるにも関わらず)生徒たちが弾圧される、という動きも頻発している。帰還兵たちはリクルートの対象となっている生徒たちに軍での経験を伝える活動を開始している。同じ悲劇を若者たちにもたらさないように、そして平和な国をつくるために。
同じ被害を受けている
五月三日午後、IADL・劣化ウラン廃絶キャンペーンの共催で、ワークショップ「劣化ウラン被害者の声を聞くーイラク、アメリカそして日本」をUNチャーチ・センターで開催した。
帰還兵のハーバート、ジェラルド、メリッサたちが劣化ウランの放射能被爆により彼らに何が起きたのかを語り、日本側からは、イラクの市民・子どもたちに起きている劣化ウラン汚染などの深刻な被害を報告し、イラク戦争の残骸を告発した。会場に集まった国連・NGO関係者も劣化ウラン被害をほとんど知らず、子どもたちの写真は大きな衝撃を生み、医療支援に寄付金が寄せられた。帰還兵たちから「この企画をしてくれてありがとう。自分たちに起こったことは知っていたが、イラクでこれだけのひどい被害が発生していることを知らなかった」と言われたのが印象に残った。彼らは「イラクに自由をもたらすための戦争」と信じてイラクに行った兵士たちだ。彼らが被害に苦しみ、そしてそれ以上の深刻な被害がイラクの未来にもたらされたことを理解しあえたことが嬉しかった。
同日夜、IACと劣化ウラン廃絶キャンペーンの共催でレセプションを開催した。上記ワークショップの出演者のほか、ラムゼー・クラーク氏の講演や被爆者の方のスピーチに日米市民二〇〇人以上が参加し交流の機会になった。IACの皆さんは本当に今回の成功のために奔走してくれた。会場では、たくさんの心あるアメリカ人たちの良心の声に接し「この国の心ある人たちは決して眠ってはいないのだ」と再認識した。
アメリカ人と語る
五月一八日からは、高遠菜穂子さんら「イラク・ホープ・ネットワーク」をNYに迎えて、ニューヨークの中心地に位置するニュースクール・ユニバーシティ、そしてニューヨークの街頭(ユニオン・スクエア、タイムズ・スクエア、グラウンドゼロ付近)で写真・ビデオ展を行なった。高遠さんは、知り合いから託された昨年一〇、一一月のファルージャでの無差別攻撃を克明に撮影したビデオを持ち込み会場で上映した。イラク市民からのメッセージー未だに米軍による理不尽な殺害や破壊が続いていることを訴え「これ以上あなたたちの家族・友人を殺人者にしないように、すぐに兵士を自分の国・家族のもとに帰してほしい」と訴えるものーを会場にきた市民に配布した。
会場、とくに街頭では多くの普通の市民が足を止めて、写真を食い入るように眺めていた。空爆で家を破壊されて途方にくれる民間人、戦争前学校で楽しそうに遊ぶ少女たち、劣化ウラン弾の被害で顔が歪み目が腫れあがって苦しむ末期小児癌の子どもたち、どれも、主要メディアでは一切報道されない映像ばかりだ。日本では、関わりたくないとばかりに顔を背け、足早に通り過ぎる人たちが多いが、ニューヨークは違う。どんな意見の人も近寄って質問をし、議論がはじまる。中には「イランの子どもたちか? 核開発の影響だろう。本当にひどいことをするものだ」と話しかける人もいて「湾岸戦争でアメリカが使用した劣化ウランの被害です」と答えると、非常にショックを受けていた(中には「アメリカは違法な兵器を絶対に使用しない」と頑なに言う人たちもいたが)。何度も、「私たちはこの戦争に反対した。でも戦争で何が起きたのか、私たちは知らなかった。真実を本当に知りたいと思っていた。貴重なことを教えてくれてありがとう」と言われた。「メディアが完全にコントロールされているから私たちは真実から遠ざけられている」という声もしばしば聞いた。会場に来たあるジャーナリストによれば、彼女の友人(ジャーナリスト)は一一月にファルージャに入って虐殺の一部始終をビデオで撮影したが、米国に帰国したとたん、空港でCIAと思われる人間に全てのビデオカメラを暴力的に没収され、結局公開できなかったという。「こうやって情報が国内に入らないように、私たちは監視されている」という。
写真に目をうるませて「僕たちは戦争に反対した。でも止められなかった」と言う若者たちもいた(事実、NY市民の多くはイラク戦争に反対していた)。私は「この国を変える力を持っているのはあなたたちアメリカ人だ。世界中の人たちがアメリカを平和な国にしてほしいと願っている」と答えた。メディアや政権により「テロとの闘い」に人心を動員する世論操作は続いている。しかし、私たちにできることは、こうしてひとりひとりに事実を伝え、戦争の被害者の痛みを伝え、語り合っていくことなのだと思う。
最後に、もうひとつ忘れられないことがある。私はNPT再検討会議のさなかに国際司法裁判所のウェラマントリー元判事(核兵器使用が国際法に違反するという勧告的意見を出した)におあいする機会があった。その際に託された言葉と判事の献身的行動は心に深く残っている。判事は「是非憲法九条を大切にしてください。私は今世界各地で講演をし、紛争のあった地域などでは声を大にして九条を紹介し、是非あなた方の国もこの素晴らしい憲法にならってほしい、と訴えています。この九条がなくなってしまうようなことが絶対にないようにしてください」と真摯に私たちに訴えた。
大阪支部 上 山 勤
一 イラク戦争は当初、フセインの体制が大量破壊兵器を保持していて近隣諸国に脅威を与えていること、テロリストと名指しされているアルカイダと繋がりがあること、核兵器の開発までももくろんでいることなどを根拠に正当化されると宣伝された。いまやこれらの開戦の理由とされた事柄がいずれも根拠のないものであったことは世界に明らかとなった。イラクの民衆は一〇万人が死亡したとされる現在に至ってである。
二 開戦に先立つ二〇〇二年七月二三日、イギリス政府は極秘の会合を開き、イラク情勢について討議し、政府として行うべき準備を検討している。この会合の記録が極秘扱いのはずだったのもかかわらず、今年の五月一日に、突然イギリスの新聞サンディタイムスに暴露された。総選挙のさなか、国民の関心は内政問題中心であったところこの記事の影響でにわかにイラク問題が重要な選挙の争点となりブレヤーの労働党は大きく議席を減らす結果となった。
会合はブレヤー首相のほか国防大臣・外務大臣・司法長官・情報機関職員(JIC)らが参加し、ワシントンからも二名が参加して行われている。「The secret Downing Street memo」と題するその極秘メモによれば開戦の八ヶ月前から、武力行使は不可避であると認識されている。情報機関が、フセインを打倒するには圧倒的な軍事行動しかないとの認識を報告し、ブッシュが開戦の腹をくくったようだとワシントンの官僚が報告し、具体的に米国の取りうる作戦を指摘した上でイギリスのなしうる協力は何なのかが検討されている。そして、戦争行為を正当化するためにはテロリズムと大量破壊兵器が両方必要だとされ、条件整備に向けた入念な準備が必要だとされている(メモの原文を入手し、翻訳をしたので資料として末尾に添付する)。メモの衝撃は大きく、米国でも今年の六月に入って民主党議員が公聴会の開催を要求し、市民の署名も集まっている。
三 資料にもあるように、七月の時点では「イラクの大量破壊兵器の脅威は北朝鮮やリビヤ・イランなどより低いのでどのような形で最後通牒を突きつけるか、じっくりと計画を練り上げる必要がある」とされている。イギリスはどんな計画を立てて実行したのか。これが私の述べたいところである。
二ヵ月後の九月、イギリス政府は「イラクの大量破壊兵器」と題する五〇ページの報告書を作成し、世界に公表した(私はインターネットで入手した)。
副題が「イギリス政府の評価」と記されている。中味を全部紹介はできないが脅威は低いと認識していたはずのフセインの「脅威」を最大限誇張し、不安をあおる内容となっている(ちなみに、この報告書は後に生物化学兵器の専門家であったディビッド・ケリー博士が死亡したことにより、自殺か他殺かの論争が生じたいわく付きの物である)。報告書の冒頭にブレヤー首相が巻頭言を載せている。それによればまず、この報告書はイギリスのJIC(三つの情報機関の合同委員会)の報告に基づいているとされている。そして、このような秘密事項を公表することは前代未聞のことであるが分析の結果、サダムの脅威はイギリス国家に対して現実的で深刻なものであり、この点についての認識を国民と共有したいので公表するのだと勿体をつけている。そしてずる賢くも、サダム体制は凶暴なので情報源や根拠についてすべてを明示できないことへの国民の理解を求めている。根拠は教えられんけれども信頼してくれ!という訳である。そしてブレヤーとしてはサダムが科学兵器と生物兵器、そして核兵器の開発を進めており、それはすでに疑いの域を超えて確信できることだ、それらは近隣諸国に現実のダメージをあたえ世界の安定を損ないうると確信している、とアジっている。
極めつけは「フセインの軍事計画では四五分間で大量破壊兵器を使用に供することができる」とまで断定していることである。経済制裁や監視によってはサダムの大量破壊兵器開発をうまく阻止できなかった。サダムは大量破壊兵器開発を進化させ脅威は現実かつ深刻なものであることは疑いがない、それらは断固阻止されなければならない。このようにしてブレヤー首相自身の言葉で、武力行使の正当化へむけて国民を煽ったのである。政府内部の秘密の会合では、フセインの脅威がいまだ低く、内容が乏しいと報告されそれが一致した認識であったのにまるで反対の報告書となっているのである。これこそがまさに入念に準備され実行に移されたイギリス政府の計画であったのである。報告書の本体は情報機関合同委員会JICの委員長であるジュン・スカーレットが書いている。この人物は添付の資料の極秘メモにも登場している。未だ法的正当性を打ち立てるには内容が乏しいという認識を共有したはずの人物が、二ヵ月後、断定的に誇張した報告書をまとめたのである。
四 戦争はいつも嘘と謀略で準備される。イギリス政府のやり方はひとつの典型である。自分たちは信じていなくても米国に歩調をあわせるために大きな嘘をついたのである。日本が中国に侵略していったきっかけとなった柳條湖事件も謀略であったし、日本国内では嘘宣伝がまかり通った。
戦後六〇年を迎えて戦争を起す側はいつもいっしょなのだという思いを強くする。
資 料
The secret Downing Street memo (秘密のイギリス政府メモ)
――取りはずしてはならない。秘密であり厳格に限定された人物にのみ(知らされる)。
デービット・マニング 出所 Matthew Rycroft
日付 二〇〇二年七月二三日 S195/02
合同委員会:国防大臣、外務大臣、司法長官、リチャード・ウィルソン、ジョンスカーレット、フランシス・リチャード、CDS、C、ジョナサン・パウエル、サリーモーガン、アルスター・キャンベル、による
イラク:首相による会合 七月二三日
コピーが配布されイラクについて討議をするために七月二三日首相と会合を持った。
この記録は微妙であり取り扱いに注意を要する。新たなコピーをしてはならない。実際に内容を知ることが必要な者にのみ示されるべきである。
ジョンスカーレットは情報機関の情報と最新の合同情報委員会(JIC)の評価を要約した。サダム体制は強固であり極度の恐怖に立脚している。打倒する唯一の方法は圧倒的な軍事行動によって可能である。サダムはおそらくは空と陸からの攻撃を予想し、心配している。しかしそれが直ちに行われるとか大部隊による軍事行動になるだろうとは考えていない。彼の体制は近隣の国々が米国と歩調を合わせるだろうと予想している。サダムは常備軍のモラルが低いことも知っている。民衆の中で本当にサダムを支持する勢力はわずかである。
Cはワシントンにおける最近の話合を報告した。態度の変化が認められた。軍事行動は今や不可避のように見受けられる。ブッシュはサダムを(政権から)引き降ろしたがっているが、軍事行動はテロリズムと大量破壊兵器を一緒にすることで正当化される。しかし情報と事実は政治的政策のあれこれに向けられている。NSC(国家安全保障会議)は、国連を介した方法にこれ以上の忍耐を持ち合わせておらずイラクの体制に関わる情報を公表することにもはや関心を持っていない。ワシントンでは軍事行動の後の顛末についてはほとんど議論されていない。
CDSは、軍事作戦の考案者は八月一か二日に、ラムズフェルドは八月三日に、ブッシュは八月四日に米軍中央司令部に対して説明をする予定であると述べた。
米国の二つの選択肢の概略は、(a)スタートを準備する。ゆっくりとした二五万人の米軍の構築。短期の(七二時間)空からの攻撃、その上で南からバグダッドに侵攻。九〇日間を要する(三〇日間は準備であり、あと六〇日間はクウェートへの部隊配置)。(b)急速な開戦。使用する軍はすでに準備できている(三×六〇〇〇)、空からの攻撃を続けてイラク側の宣戦布告の口実となるような行為によって開戦をする。早くから空からの攻撃を開始したとしても全体として六〇日を要する。危険な選択である。
米国は英国(とクウェート)をディエゴガルシエとキプロスに基地を有しており、心須の存在と見ている。トルコと他の湾岸諸国も同様に重要である。しかし(英国のように)不可欠という程ではない。
英国を巻き込む主に三つのオプションは、(1)ディエゴガルシカとキプロスに駐留することと加えて三飛行中隊を求める、(2)上に加えて、海と空からの支援、(3)上に加えて、四万の兵力による陸上での貢献、おそらくトルコから北部イラクに侵入しイラクの二つの地域をつなぐ別の役割を担う。
国防大臣は米国がすでに体制にプレッシャーを与えるための前駆的な活動を始めていると述べた。何の決定もまだ行われていないが軍事行動を始める決断を米国がするのは一月が最もあり得るタイミングと考えている。米国議会選挙の三〇日前である。
外務大臣は、この問題について今週、コリン・パウエルと討議をする予定だと述べた。タイミングは未だに決まっていないとしてもブッシュは軍事行動を起こす腹をくくったことは明らかだと思える。しかし、ケースとしては内容が乏しいのだ。サダムは近隣諸国を脅かしていないし、彼の大量破壊兵器の能力はリビヤや北朝鮮、イランなどに較べて劣っている。我々はサダムに対し国連の査察委員会を受け入れさせる最後通牒を突きつけるために入念に計画を練る必要がある。このことは同時に武力行使に法的正当性を与えることになる。
司法長官は体制変革の要求では軍事行動の法的根拠にならないと述べた。ありうる三つの根拠としては、自衛、人権の侵害、あるいは国連安保理による権威づけである。今回のケースでは一番目と二番目は根拠とならない。三年前の安保理一二〇五号決議に依拠することも困難である。勿論、状況は変化するかもしれない。
首相は、サダムが国連の査察委員の受け入れを拒めば、政治的にも法的にも大きな違いが生じるだろうといった。体制の変更と大量破壊兵器とはある意味で関連している。大量破壊兵器を生み出しているのが体制なのだ。リビヤやイランに対する場合は別の戦略がある。もしも政治的に前後の脈絡が正しければ人々は体制の変革を支持するだろう。重要な二つの論点は軍事作戦が功を奏するか否かと我々が軍事作戦を介在させうる余地を政治的戦略として持ちうるか否かである。
最初にCDSが、我々は米国の軍事作戦が功を奏するかどうかを知らないと述べた。軍の方は多くの質問をしてきている。例えば、もしもサダムがある日大量破壊兵器を使ったらどうなるのか、もしもバグダッドが陥落しないで市街戦が始まったら結果はどうなるのか?サダムはクェートに対しても大量破壊兵器を行使しうると言われている。イスラエルに対しても使用しうる、と国防大臣が付け加えた。
外務大臣は、米国は勝算のある戦略だと確信しない限り軍事作戦を前に進めることはないだろうと発言した。この点に関し、米国と英国の利益は同一である。しかし政治的戦略に関しては違いがある。米国の抵抗にも関わらず我々は厳格に最後通牒を検討する必要がある。サダムは国連との間で攻勢的な姿勢を演じ続けるだろう。
ジョンスカーレットは、サダムが軍事行動を現実の脅威と考えた時にのみ査察委員の再度の受け入れを認めるであろうと見通しを口にした。
国防大臣は、首相が英国軍も参加させたいと考えるなら、早めにその決断をする必要があると述べた。彼は、米国の中では多くが、最後通牒を行うことに意味があると考えていない、と注意を促した。首相がブッシュ大統領に対し、政治的な論点を提供することが重要となる。
結 論
(a) 我々は英国が如何なる軍事行動にも参加をするという見通しのもとに行動する必要がある。しかし我々は断固たる決断をする前に米国の計画の全部を知る必要がある。CDSは米国に対し、我々が幅のあるオプションを考えていることを伝えなければならない。
(b) 首相は、この作戦の準備のために、予算が使えるか否かということに思いを巡らせた。
(c) CDSは週末までに展開しうる軍事行動と英国のなしうることのすべての詳細を首相に報告することを約した。
(d) 外務大臣は国連の査察委員の背景を首相に報告しサダムに対する最後通牒を慎重に行うと約した。彼は同じく、首相に対し地域の国々の態度について特にトルコとEUの主要国のそれについてアドバイスをすることも約束をした。
(E) ジョンスカーレットは首相に対し最近の情報機関の情報を提供する事を約束した。
(F) 私たちは法的な論点を無視すべきではない。司法長官はFCO/MODの法的助言者と伴に法的な助言の検討を約束した。(私はこの書記の仕事を任命されて独自に書記をつとめた)
MATTHEW RYCROFT マシュー・リークロフト
(リークロフトは英国政府外務省の補佐官である。)
東京支部 牛久保 秀 樹
団通信をいつも愛読しています。孤軍か、多軍かは別にして、永尾団員の奮闘に頭が下がります。私も、多面的な情報源の団通信に一報します。
EU憲法のフランス批准拒否に落胆していたところ、フランスからきたミホ・シボーさんとあいました。彼女は、赤旗新聞七月一二日にある原水爆禁止世界大会に若者八〇人を含む一三〇人を組織して来日しています。彼女からフランスでのEU憲法批准拒否の運動の話がありました。なお、私が寡聞なために、旧聞に属する場合は容赦下さい。
「フランスでは、このままのEU憲法批准は、問題があるということで、良心的な左翼陣営が反対運動を展開した。その際に、『EU憲法ではヨーロッパの軍備増強が義務付けられており、フランスの軍備拡張につながる。』『新自由主義経済路線が一層増強されて民営化が強行される。』『これまでの女性の人権保護の蓄積が後退させられる。』といった多様な批判がなされた。社会党、緑の党ともに、上部は批准に賛成したが、社会党党員の六割、緑の党党員の八割が批准に反対投票をしている。共産党は反対の立場で地域集会を開催してきている。若者の六割が反対したのが大きかった。マスコミが殆ど問題点を報道しない中で勝ち取った成果と自信を深めている。日本のマスコミは、このような動きを全然報道していない。」
複雑な情勢のようです。私としては、少なくとも、EU憲法の条文を検討してこなかった不明を感じているところです。
神奈川支部 影 山 秀 人
自由法曹団のみなさま、こんにちは。神奈川支部の影山秀人です。ごぶさたしておりました。
さて、今年は、坂本弁護士一家三人の遺体が発見された一九九五年九月からちょうど一〇年にあたります。また、仏教でいえば、三人が命を奪われた一九八九年一一月から数えて一七回忌にあたります。
そこで、私たち、坂本弁護士と家族を救う全国弁護士の会は、日本弁護士連合会、関東弁護士会連合会そして横浜弁護士会と共に、次のとおり、坂本弁護士一家を追悼するとともに、坂本事件を振り返り、オウム裁判の一〇年、弁護士業務妨害事件の実態と対策、犯罪被害者支援問題などを検討するために、集会を開くことといたしました。
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日時・二〇〇五年九月一〇日(土)午後二時開会
(午後一時半開場)
場所・横浜市教育文化センター(横浜市中区万代町一ー一
電話〇四五ー六七一ー三七一七)
JR関内駅の磯子寄り改札口を降りて磯子方向へ向かって右側へ大通を渡るとそこにあります。迷わなければ一分かかりません。
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集会は三部構成で行われます。第一部は「坂本弁護士一家を偲んで」というテーマで、坂本一家のスライドを背景に弦楽四重奏の演奏があり、坂本堤、都子さんの友人に思い出を語って貰います。また、都子さんの詩に曲をつけ、坂本弁護士と同期の中村裕二弁護士が歌います。第二部は「オウム裁判、業務妨害、犯罪被害者…この一〇年」ということで、まず朝日新聞編集委員降旗賢一さんにオウム裁判の一〇年を語っていただきます。続いて、業務妨害、犯罪被害者問題の見地から、中村裕二弁護士と木村晋介弁護士に対談をしてもらいます。第三部は、坂本さちよさん、大山友之・やいさんのお話をうかがい、最後に主催者を代表して梶谷剛日弁連会長にごあいさつをいただく予定となっています。
全部で三時間あまりの長丁場の集会ですが、ぜひいらして下さい。
それから、主催団体の一つである「坂本弁護士と家族を救う全国弁護士の会」について、まだあったのか、と思われた方もいらっしゃるかもしれませんが、まだあります。勿論、救出活動を行っていたころのような活動は行っておりませんが、三現地に日弁連や地元弁護士会と共同で設置したメモリアルの保守・管理に携わるほか、毎年遺体が発見された前後には、救う会の有志で、三現地を巡る慰霊の旅をおこなっています。今回の集会ついて、日弁連・関弁連・横浜弁護士会の共催をいただき費用も分担していただくことにはなりましたが、財政的には厳しい状況です。事件から長期間経過したこの時期に心苦しいお願いではありますが、若干の財政援助をしていただければと思い、最後にお願いいたします。もしご賛同いただけるようでしたら、次の懐かしい救う会の口座にご送金いただければ幸いです。(もっとも昔はみずほではなく第一勧業でしたが)
みずほ銀行 横浜支店 普通 一六八七五八四
口座名義 「救う会小島周一」(スクウカイコジマシュウイチ)
東京支部 内 藤 功
著者川田忠明氏は、世界三〇カ国以上を訪れ各国の平和団体などと交流し、戦争と平和問題で高校生大学生はじめ若い人たちへのレクチャーなどに積極的に取り組んでいる。
この本を書いた著者の思いは何か。「いま多数の日本人に戦争の実体験はない。ある高校生は『被爆を体験してないお前に何がわかるか』と言われた。だが想像はできる。この本で試みたのは、若い世代に、戦争を想像するきっかけを提供することだ。殺戮の現場を想像することは心地よいものではない。しかし人間として生きる営みは、人間の殺戮への嫌悪感や拒否感を忘れたところには存在しない」。
一九三七年南京事件にはじまり、ナチスのユダヤ人虐殺、日本人としての忘れることのできない広島、長崎、沖縄、ベトナム戦争、イスラエルによるパレスチナ占領、そして、いまのイラク戦争に及ぶ、文献の豊富な引用と、実体験者からの直接の聞き取りには、迫真力がある。
虚飾の「栄光」、隠蔽、虚構、偽りの一切を剥ぎとってみれば、「戦争とは、人を殺すことである」そして「誰もが最初から人殺しができるわけではない。訓練されて初めて人を殺すことをいとわなくなるのです」(ベトナム帰還兵アレン・ネルソン氏)。
青年を、その殺人の目的、任務、要求に適応するために、軍隊の中でどのような教育訓練するか、普通の青年が、なぜ、捕虜や、女性、子供、老人まで殺せるようになるのか、誰のために、何のために殺し、殺されると観念するのか。
南京虐殺とベトナム戦争の実体験は「軍隊の仲間意識は仲間(戦友や同郷の者)が殺された場合には強い復讐心や憎しみを生み出して殺人へのためらいをとりはらう。しかも相手を『劣った生き物』と思うと、殺すことへの抵抗感は薄れる」「軍隊というシステムがあってはじめて、普通の人間が殺人できる兵士となる、殺人者となった兵士は、戦争の大義名分と無関係に、歯止めのない人殺しの坂をころげ落ちていく」ことを証明する。
本書は、あくまでも結論や理屈からではなく、歴史、事実から材料を提起する。読むほどに、歴史教科書、靖国、愛国心、君が代、日の丸、憲法九条改悪の狙いの奥底が見えてくる。イラクに派遣された米軍兵士のあいだで、自殺する者がふえている。「民家に押し入って捜索活動をした兵士のなかには、目の前の村人たちの悲しい叫び声を聞いて、なぜこんな辛い思いをさせねばならないのか、という思いがこみあげて、大声で泣き崩れてしまう兵士もいた」「誰がテロリストかわからない。一瞬のためらいが自分の命取りになるかもしれない。一方、罪のない人間の命を奪った過ちは心理的な傷として残る」。
大義のまったくない戦争と軍隊は、いかに強力に見えても、将兵の心の中から崩壊する要因をはらんでいることを、この本は示唆している。