<<目次へ 団通信1173号(8月11日)
坂本 修 | 残暑お見舞い申し上げます。 | |
山本 真一 | 改憲問題の当面の特徴、とくに歴史認識問題について | |
鈴木 亜英 | 大分・大石公選法事件傍聴記 ─ エリザベス・エヴァットさんを証人に迎えて ─ |
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萩尾 健太 | 弁護士は「郵政民営化反対」の声をあげよう | |
中野 和子 | 女性部韓国総会のご報告 |
団 長 坂 本 修
新任専従事務局の渡島さんから、「いまからではもう残暑見舞いになりますが、至急書いてください」と言われ、あわててこの筆をとっています(キィボードにあらず)。
憲法や平和、民主主義、人権をめぐる〃せめぎ合い〃は、刻々にヒートアップしています。様々にこの渦中にあって生きる団員のみなさんは、今年もまた、あるいは例年以上に、〃暑い夏〃を迎えておられることと思います。本当にご苦労様です。
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仕事は山積しているでしょうが、酷暑の八月は、できるだけ時間をとって御家族ともどもリフレッシュしてください。憲法闘争を中心に、少なくともこの数年にわたって続く、かってない〃せめぎ合い〃の渦中に、私たちは生きることになるでしょう。じっくりと腰をすえて、荷を分かち、共同を広げて行動したい。忙しさのために心が燃え尽きたり、健康を損ねたりしたら、私たちの運動は勝てない。だからこそ、この夏は心身を大いにリフレッシュしたいものだと思うのです。正直に言えば、手を抜くところは少し抜いてでもです。「急がば回れ」という諺もあるし、張りつめた弓の弦はきれやすいと言うではありませんか。
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そう書きながら、私の目の前の事務所の一室にある共用の大机は、数十冊の本や諸資料の「夢の島」(一昔前のです)。所員の「いつまで一人で占有しているんですか」というきびしい批判に頭を下げながら、憲法問題について出版社との約束に追われて、「一本の鉛筆」を走らせている毎日です。
学習会にも出歩いていますが、先日、学習会でいただいた二〇代の女性の感想文のなかに「坂本さんのように『余命いくばくもない人』の言うことは、真剣にきかなければならないと思いました」というのがありました。もう七二歳。昨年のキャンドル・ナイトのときにも「私のローソクの残りの長さは何センチか」という思いはありましたが、他人にこう書かれるといささかショックです。だがしょげません。二〇代の人が「真剣に聞かなければ」と書いてくれたことは有り難いと感謝しています。
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七月三〇日、九条の会の有明コロシアムでの集会に参加。私より年上の呼びかけ人のお話しを聞き、心を打たれました。一年前の発足のときも参加しましたが、あのときは一〇〇〇人、今回は九五〇〇人。各地九条の会は三〇〇〇を越えたとのことです。自民党は郵政民営化問題で党内大混乱ですが、改憲についてはさらに一歩を進めて条文化した改憲案を発表しました。憲法をめぐる彼我の〃せめぎ合い〃は、まぎれもなく新たな段階に入ったと実感しています。
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六〇年前の八月一五日、その前夜まで、「小国民の一人として、少なくとも二人の『鬼畜米英』を殺さなければならない」と言う先生の教えをおろかにも信じて、毎夜、出刃包丁を研いでいた私は、「玉音」放送を聞き、敗戦を知りました。
五八年間、憲法とともに生きてきて、その憲法を護り、憲法を生かして「もう一つの日本」を実現するための〃せめぎ合い〃の渦中に生き、みなさんとともに活動できることを幸せだと思っています。
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『団通信』『支部ニュース』『団憲法メール』、そして『しんぶん赤旗』などで、各地でみなさんが活動していることを知り、励まされています。一〇月の徳島総会でみなさんの豊かな活動報告、そして活発な討論を聞けることを楽しみにしています。
では、団員と御家族のみなさん。リフレッシュできる楽しい八月でありますように。お元気で。
東京支部 山 本 真 一
本年七月七日に自民党の「新憲法起案委員会要綱 第一次試案」が発表されました。この中で「前文作成の指針」について説明した部分の結語に「明治憲法(大日本帝国憲法)・昭和憲法(現行日本国憲法)の歴史的意義を踏まえ、日本史上、初めて国民みずから主体的に憲法を定める時期に到来した」という文章があります。今回の自民党試案は現行憲法と明治憲法(大日本帝国憲法)の「歴史的意義」を並列にならべているわけです。今年四月に出された「小委員会要綱」でも同じ文章がありました。私はここに自民党の改憲イデオロギーの本音が最もよく現われていると思います。端的に言えば、自民党の改憲イデオロギーの根底には限りなく「明治憲法(大日本帝国憲法)の下の日本」へと日本を「再改造」してゆこうという意図があるということです。
現在日本と韓国・中国の間でいわゆる「歴史認識」問題が深刻になっています。小泉首相の靖国神社参拝や扶桑社発行の「新しい歴史教科書」の採択をめぐって激しく論争されています。ところでこの論争では「戦争を引き起こした日本の責任」について、日本政府の立場は「もう遠い過去の話だ。水に流して未来だけを見よう」という立場であり、中国・韓国は「日本の責任」に関して徹底的にこだわる立場だと解説されているように思います。しかし前記の自民党の「新憲法要綱試案」の立場は大日本帝国憲法の「歴史的意義」を高く掲げています。「未来だけ見よう」という立場からさらに進んで「戦争を引き起こした日本の責任は認めない」と宣言しているに事実上等しいと思います。つまり自民党の狙う改憲とはここまで踏み込んできている。この政党が二一世紀の日本の国の舵取りを続けるとすれば世界とアジアは再び大変危険な場所になることを意味していると思います。
この七月始めに最近渡辺治教授が「憲法改正」という小冊子を出されました。一四七ページで定価一〇〇〇円です。薄い本ですが中身が大変濃い本です。とくに「七.改憲を阻止するために」(一一二ページから一四二ページ)の部分は、昨年の自由法曹団の憲法合宿の際に教授が話された「改憲阻止闘争の戦略論」にその後の「九条の会」の事務局として経験された運動の成果等を加えたものだと思われますが、我々の憲法闘争にも大変参考になる多くの論点を網羅していると思います。是非皆さんにもお読みいただき、多いに論議したいと思います。
ところで、この中に憲法闘争と歴史認識問題の関係についてお書きになった(と私が解釈した)部分(一一二ページから一二三ページ)があります。内容はお読みいただくとして私はこの教授の提起に大賛成です。一九世紀後半から二〇世紀前半までの一〇〇年間の日本帝国主義の「誤り」を正面から認めつつ、二〇世紀後半に「日本が軍隊を(アジア等の海外に)派兵しなかったことによってもたらされた事実、教授の表現によれば「私達は少なくともアジア諸国に対する最低限の責任は果たしました」という部分です。もちろんいろいろな意見はあると思いますが、この観点で日本の現代史を見ることが大事だという教授の提起に私は大変感動しました。さらに議論を深めたいと思っています。
もう一冊、歴史認識問題を考える場合に大変大きな「武器」ないしは「材料」となる本が今年の五月末に出ました。日本・中国・韓国の共同編集になる「未来をひらく歴史・・東アジア三国の近現代史」という「歴史教材」です(高文研。一六〇〇円)。約一ケ月半ですでに六万部を越えたそうです。
私は現在の日本での歴史認識問題とは、論点は当然いろいろありますが、最も基本的な事は日本人自身、特に一九四五年以降に生まれた人々が「日本の近現代史」そのものをほとんど知らないという点にあると思っています。上記の三国共同編集委員会のメンバーの一人である笠原教授の言によれば、「戦後の日本、特に自民党政府が、日本の戦争を侵略戦争と教えてこなかった、より正確に言えば教えさせなかった」ことが大きく影響しているようです(笠原十九司・都留文化大学教授の「なぜ中国で「反日・嫌日」感情が広がるのか」。前衛二〇〇五年七月号一一五ページ)。従って日本で歴史認識問題を議論しようとしてもその前提たる事実認識がほとんどないから議論がどうしても前進しない。結局「いつまで謝ればいいのだ」などという感情論になってしまって生産的な議論にならないと悩みがあります。しかしこれではまともな議論、特に世界やアジア、そして日本という国のあり方等の政策論議は成立しません。上記の本はこの悩みを解消してくれる最高の材料になってくれそうです。
私は全ての日本の人々にまずこの本を手に取って読んでいただきたいと思っています。一八五三年の「開国」以来日本とアジアに何が起きたのか、この事実そのものが共有されればその後の論議は次の論点を除けばそう難しくないだろうと思います。
最後の、そして最も困難な論点は、「日本人の責任」をどう考えるのかという最も基本的な論点です。渡辺教授に言わせれば「殴る側の大国」としての責任をどう考えるのかという点です。この点について前掲の渡辺教授の本では、「日本帝国主義がなければアジアでの二〇世紀前半の戦争はほとんどなかったのです。「つくる会」の教科書や・・・小林よしのり氏らは、この時代は帝国主義の時代であり、英米の帝国主義こそが悪く、日本はそれにやむなく対抗しただけだなどと言っています。・・・英米の植民地支配の責任は重大ですが、「日本だって同じだ」といって日本帝国の責任をまぬがれることはできないばかりか、日本帝国の暴力性は他の帝国主義と比べても際立っています。」(P一一三〜P一一五)と指摘されています。
私もこの限りでは異論はないのですが、それでも多くの日本人に真に納得してもらうには、この点をしっかり解明しないと、ここでも結局「何時まで謝ればいいんだ」という感情的な反発が国民意識の主流を占めることになりかねないことをどうしたらよいのかと考えざるをえないのです。
いうまでもなくほとんど全ての日本人にとって「あの悲惨な戦争を繰り返さない」という戦後の日本の平和運動の原点(「憲法改正」一一九ページ)そのものについては依存はないはずです。しかしそれだけでは解決しないところにこの問題の難しさがあると思います。やはり「あの悲惨な戦争が何故起きてしまったのか。どうすれば起こさないですんだのか。その道はあったのか。」という点にまで踏み込んだ解明がどうしても必要なのだと思います。端的に言えば、明治維新から昭和二〇年代までは帝国主義の時代であった。どうしてそうなってしまったのか、それを避ける道はなかったのか。少なくともそれを二度と繰り返さないようにするにはどうしたらいいのかという問題です。
以前だったらこの答えは「社会主義・共産主義の理想」ということで自明のことだといわれたのかもしれません。しかし「冷戦の終了後」は混迷している。答えとしては「国連」とか「人間の安全保障」とか「地球的な連帯」とかいろいろ考えられるのかもしれない。「憲法九条」もその一つの答えとして期待されているという面が現在の「九条の会」の広がりを支えているような気がします。率直に言って現在私はまだこの点に関する確固とした意見には到達していません。しかし結局は答えは世界の歴史の中にあるのだと思います。皆さんとともに考えつづけていきたいと思っています。
この点で前記の笠原教授の論稿の中に参考になると思われる指摘があります。今のところはこれを引用させていただいて本稿を閉めたいと思います。
笠原教授の紹介によりますと、この本の共同編集に携わった三ケ国の歴史学者の「共同編集作業の中で大きな問題になったのが「東アジアの歴史をどうとらえるか」という点です。」として次のように述べられています(前掲論稿・一一七ページ)
記
「日本の場合は世界史の流れのなかで東アジア史を見ます。これに対して、中国の場合は日本の侵略史ということが大前提になる。韓国の場合も日本の植民地支配の側面からだけで捉えようとする。つまり明治維新の国際環境があり、第一次世界大戦がありという世界史の展開過程のなかで日本の侵略が行われたと構造的に捉えようとする見方が、中国や韓国にとっては「それは日本の侵略性や帝国主義性の弁護だ、言い訳だ」となるのです。やはり立場の違いによって歴史全体のとらえ方が違うということを感じました。」
この指摘はたいへん大事だと思います。良い悪いは別にして明らかにこのような立場の違いがあります。それを踏まえた上で事実に基づいた真の共通の歴史認識を形成することは可能かどうか。上記の本が完成したのはその一つの回答でしょう。今私達にさらに深く具体的にこの作業を継続することが大事なのだと思っています。
東京支部 鈴 木 亜 英
六月二七日、私は大分地裁で大石忠雄氏の公選法弾圧事件の裁判を傍聴をしました。弁護人でもない私がわざわざ大分まで飛んだのは訳がありました。オーストラリアのエリザベス・エヴァットさんが証言席に立ったことと通訳を私の事務所の鈴木麗加弁護士にお願いしたからでした。九州だけでなく、関西、中国、四国から詰め掛けた傍聴者は二二〇人にも達しました。勿論八〇席余りの傍聴席には入り切れませんので、二交替になりましが席は未だ足りませんでした。私はエヴァットさんを証人として採用させた弁護団の努力と採用した裁判所の見識を高く評価します。全国的な快挙といっても過言ではありません。
エヴァットさんにとって一九九四年一二月に来日して以来一〇年ぶり二回目の公式訪日でした。国連規約人権委員会の専門委員を八年間つとめられたエヴァットさんは一九九三年一〇月自由権規約の第三回日本政府報告の審査に当たって具体的な事例を上げながら、特に電話盗聴事件や選挙弾圧事件等での胸の空くような切り口の追及は審査を傍聴した私たちに強い印象を残しました。エヴァットさんを日本に呼ぼうという運動が起り、それが実現したのが翌年一二月のことでした。その三ケ月前の緒方盗聴事件の一審裁判の勝利がこの訪日を大きく盛り上げ、東京、名古屋、京都、大阪での講演会はいずれも大きな成功を収めました。「人権後進国日本」を改めて実感させられたのもこのときでした。
九三年第三回日本政府報告審査の際に問題になった人権課題は、公共の福祉と規約の矛盾、選択議定書批准、死刑制度運用、代用監獄、警察の盗聴、選挙運動制限、職場の思想・男女差別、教科書検定、消防士の団結権などでした。その五年後の九八年第四回審査でも状況は変わらず、この分野でのおおきな前進はありませんでした。こうした状況を打開するために、規約の国内活用、とりわけ裁判で国際人権規約の適用を求めることと国連への個人通報を可能にする選択議定書の早期批准が不可欠とされてきました。広島の祝、山口の中村両公選法弾圧事件では服部融憲団員らは規約の適用を求めて大胆な試みを展開して最高裁まで攻め昇りました。規約の適用を真面目に考えない裁判所の大きな壁の前に涙を飲まされた無念は忘れがたいところです。今回のエヴァット証人申請は祝・中村事件の雪辱を期するものでした。証言は公選法の個別訪問・文書販布禁止が規約違反というだけ出なく、規約に適合するように憲法二一条を解釈すれば公選法のこの禁止規定は違憲であり、大石起訴は違法であることを見事に論証したものでした。人権の実現を登山に例えれば私たちの登頂に至るルートは誠に厳しいものを覚悟しなければなりません。公共の福祉論もいつどこで起こるか分からない雪崩や落石のようなものです。
ところが、エヴァットさんの証言を聞いていると人権とはかくもシンプルなものなのかという感動さえ覚えました。常識的な感覚を久しぶりに呼び覚まされた思いでした。勾配の緩やかなルートを選んでも楽に頂上に到達できるという驚きが人権状況に閉塞感を抱く傍聴者にとってひとつの確信に変わるのに時間はいりませんでした。ここで展開された規約の解釈基準、なかでも「比例の原則」は国際人権の今日の到達点を示しています。この基準を使えば私たちの人権課題の大半が氷解するに違いないという展望を抱かせるものでした。私は大石事件の弁護団が河野善一郎団員を中心にエヴァット証言実現に向けて大きな努力をされたことを知っています。この証言が傍聴人に与えた無罪の確信が全国に広がるだろうことを考えると、日本の人権史にこのことが一行記されてよいという思いが募ります。
エヴァットさんが大分に発つ前夜、私たち堀越事件の弁護団や国民救援会のメンバーは東京でエヴァットさんと懇談しました。国家公務員の政治活動の一律・全面禁止を知ったエヴァットさんが「まだそんな事件があるのですか。一〇年前に日本に連れて来たうちの娘はもう二児の母親です。うちの家族がこんなに変わったのに日本の人権は相変わらずですね」と言いました。小泉首相の靖国参拝を四割近くの国民が支持している今日、国民の意識が戦後補償問題解決の厚い壁を支えているのだという認識は人権全般に通じるものです。私たちの人権努力がまだまだ足りないことを痛感させられた丸一日の傍聴でした。一週間後にジュネーヴ国連人権小委員会に出発することになった大石さんがこうした状況を切り開く国際人権活動の担い手の一人になっていただけることを願うばかりです。
東京支部 萩 尾 健 太
一 「消費者金融と手を組む銀行」「審査で融資だめならプロミスへどうぞ」
衝撃的な見出しが舞うのは、本年七月一一日付全国商工新聞。
UFJ銀行・三井住友銀行・東京三菱銀行など大手都市銀行が、プロミス・アプラス・アコムなどの消費者金融と提携した銀行系ローン三社(モビット、アットローン、DCキャッシュワン)のローン残高は〇五年三月末で三六〇〇億円を超えた。
銀行は消費者金融を政略的パートナーと位置づけ、双方のノウハウを最大限生かすとして銀行内部でもすさまじい「改革」を進めている。リスク商品(投資信託、変額保険、外貨預金など)を販売し、運用結果の損得は顧客に帰着し、銀行には確実に手数料が入るようにしている。相続関係にも力を入れ、信託銀行に紹介するだけで一件一〇〇万円の手数料をとるという(これは弁護士の職域を侵しているものと思われる)。窓口業務をどんどん減らし、もともと銀行が行っていたことにも手数料を取るようになった。中小業者で相手にするのは優良企業だけである。
銀行法では、銀行の目的に公共性を謳っており、銀行の役割は中小業者にも資金を回すことで経済発展を促すこととされてきた。しかし、現在銀行は公共性を放棄し、合併で人減らしをし、手数料を増額し、庶民に対しては消費者ローンでの儲けを追及するようになっている。
二 では、消費者金融についてはどうか
金融庁は現在、「貸金業制度等に関する懇談会」を設置し、上限金利や見なし弁済期邸を含めた貸金業を取り巻く現行法の見直し作業を進めている。そこには、消費者金融の代表者も参加している。本年六月二九日には、アコム、オリックス、三井住友カード、GEコンシューマー・ファイナンスの各社長がプレゼンテーションを行い、それぞれ貸金業法四三条の見なし弁済規定が貸金業者に不当に厳しく、一七条書面、一八条書面などのコストがかかるのこと不当性を訴えた。とりわけ、GEコンシューマー・ファイナンス社長は、在日米国商工会議所意見書「貸金業法の改正を」を資料として提出して説明した。その中には、一七条、一八条の要件を満たさない場合、過払い金返還請求をされることについて、「このような不公平な責任を貸金業者に課すことによって、消費者金融業における貸付供与が制限され、消費者需要が縮小され(同時にデフレ効果がもたらされ)ることになり、又この消費者需要の大きな部分が、免許を有する合法的な貸金業者から違法な貸金業者へと転換し、様々な社会問題を併発する可能性がある。さらには、消費者金融債権の法的な有効性に関する不透明感から、債権の証券化に不必要な弊害が発生し、よって秩序ある不良債権の整理および当該貸付金の資金調達が阻止されることになる。」
私は依頼者には、借金などせずに済むよう自分の稼ぎの範囲で慎ましく生活するようにお話ししているのだが、アメリカではそうは考えられていないようである」具体的には、破産の要件がある場合以外は見なし弁済を有効とするべきと提案しているようである。
この他、貸金業者は利息制限法の上限金利の撤廃を求めていることは周知の通りである。
三 そこで、郵政民営化である。
政府の方針は、今の郵政公社の行っている事業を(1)四つの会社(窓口ネットワーク会社、郵便事業会社、郵便貯金会社、郵便保険会社)に分割して行わせる、(2)これらの会社の株式を保有する持ち株会社を作る、(3)持ち株会社の株式は、当初は国が一〇〇%保有するが、ゆくゆくは民間会社に売却していく(三分の一強は政府が保有する)、(4)持ち株会社の保有する郵便貯金会社、郵便保険会社の株式は民間に売却し、二〇一七年には、この二社は完全な民間会社とする、(5)現時の郵政公社が預かっている貯金、生命保険については公社承継法人を設立してそこに引き継がせる、と言うものである。
政府は、郵政民営化最大の利益は「経営自由度の拡大を通じて良質で多様なサービスが安い料金で提供が可能となり、国民の利便性を最大限に向上させる」点にあるとしている(〇四年九月閣議決定)。
しかし、外国の事例にも顕著に表れているが、郵政事業の民営化によって国民へのサービスは確実に低下する。〇一年に郵便事業を民営化したイギリスでは、多くの郵便局が廃止され、配達サービスが低下するなどの問題が生じている。九〇年に公社化、九五年には株式会社化したドイツでは、郵便局数は九〇年から一〇年も経たない間に半減したという。
日本でも過疎地域住民への郵便サービスは低下が予想される。国鉄から民営化されたJRの地方路線の廃止の例がある。
いま全国の郵便局の数は二万四七〇〇局で、全国に二万五〇〇〇校ある小学校のほぼ一学区ごとに一局の郵便局が置かれており、歩いて郵便局に行けるが、民営化されると政府の基準では、維持される郵便局が七〜八〇〇〇にしかならない。小泉純一郎首相自身、「いまの郵便局が全部なくならないとはいわない。統廃合もある。全部維持しろということではない」と答弁している。
少額なたくわえしか持たない人々への貯金サービスも低下が予想される。前述の通り、近年の銀行の小口預金社への手数料の引き上げなどの対応の例がある。分社化によって、郵貯銀行や郵便保険会社は窓口会社に対して業務の委託費を手数料で七〇〇億円も支払うことになり、この手数料発生に対して消費者が負担すべき税金である消費税が発生する。民営化で郵便貯金には預金保険料が四〇〇億円発生し、郵便保険会社には負担金が一〇億円発生する。これらのコストは郵便貯金の手数料値上げに転化されるだろう。
こうした新コストの結果、政府が民営化後の会社の経営見通しとして出した「骨格経営試算」によれば、完全民営化される二〇一六年度の利益が、民営化会社では六百億円の赤字となる一方、公社のままなら一三八三億円の黒字になる見込みである。
赤字になれば法人税も国に入らないが、公社のままなら利益の半分を国庫納付金として納めた後でも六九二億円の利益が残るのである。
さらに郵政民営化関連法案では職員が新会社に引き継がれることは示されているが、各社は何人の職員で発足するのか明示されていない。四〇万人にのぼる郵政労働者の配置基準も示さずに、各社の経営基盤を判断することはできないはずだし、労働者の配置時にJR同様の配属差別の不当労働行為もなされるだろう。現在も過労死者が出る職場なのに、一層の合理化によりさらに労働者に犠牲が押しつけられることは明らかである。
そもそも、郵政公社化の方針を決めた九八年の中央省庁等基本法の中で、郵政公社については「民営化等の見直しは行わない」と明記している。郵政民営化はその法的義務に反する。
四 では、何のための郵政民営化か。
「簡保は、競争をゆがめ、市場機能に打撃を与え、民間企業から仕事を奪っている」。アメリカのキーティング生命保険協会会長は昨年三月にこう発言した。このとき同協会は「拡大する日本の簡易保険事業」と題する報告書を公表し「(アメリカの保険会社も)民営化に関する議論に意義ある参加を認められるべきである」と述べた。
この圧力の下、米国政府の日本への規制緩和要求である「日本政府への米国政府の年次改革要望書」は〇三年一〇月、「郵便金融機関と民間競合会社間の公正な競争確保」を名目に、郵政事業と民間への「同一ルール適用」=民営化を提言し、〇四年一〇月に出された「要望書」でも、「民営化が日本経済に最大限に経済的利益をもたらすためには、意欲的かつ市場原理に基づいて行われるべきである」「日本郵政公社の民営化という小泉首相の意欲的な取り組みに特に関心をもっている」と郵政民営化を督促した。なお、アメリカでは〇三年に「ユニバーサルサービス維持は国営でしかできない」と言う報告書が出され、郵便事業は国営で維持されているにもかかわらず、日本には民営化を押しつけているのである。
全国銀行協会は、〇四年七月に出した「郵政民営化に関する私どもの考え方」という冊子で、郵便貯金事業について、もはや国営で維持する理由はないとして廃止を求めている。
全国銀行協会の前田晃伸会長(みずほフィナンシャルグループ社長)は四月一九日の就任会見で、「現在、郵貯が行っている業務については、かなりの部分を民間金融機関で代替することが可能」と述べて、民間銀行に「郵貯を渡せ」と要求した。
郵政公社が郵便貯金・簡易保険などで集め、現在財務省資金運用部への預託金や国債で安全運用している四〇四兆円の資金について、米日の銀行や保険会社が運用を請け負い、自らの資金にしたり、手数料で儲けようというのがこれらの要求のねらいである。
小泉首相の所属する三塚・森派は、銀行族として知られ、まさに小泉首相は米日金融資本の意を受け、その利益のために郵政を民営化しようとしているのである。
五 こうした郵政民営化がもたらすものは何か。
現在、郵政民営化を巡って行われている自民党の内紛について茶番劇などと醒めた見方があるが、そうではない。自民党を米日金融資本の代弁者に純化しようとする小泉首相ら主流派と、旧来の業界・地域利権自民党を守る側との熾烈な抗争である。それが「自民党をぶっ壊す」との小泉のスローガンの内実である。それは「古い自民党政治の危機の現れ」などではない。だからこそ小泉は、党内の反対を押し切ってまで郵政民営化を強行するのである。郵政民営化の実現は、米日金融資本による政治の完全掌握・財閥解体以来復活の道をたどってきた金融寡頭制の完全復活を意味する。それは日本国家の重大な変容である。しかも現在の金融独占資本の姿は、冒頭に述べたように公共性を投げ捨て日本経済を後退させる腐敗したものである。まさに、レーニンが「帝国主義論」で指摘した「停滞し腐朽する資本主義」そのものである。
他の帝国主義の指標=資本輸出と海外市場獲得は進行している。七月二二日には、日米共同運用となり違憲性が指摘されるミサイル防衛システムを盛り込んだ自衛隊法改悪も成立した。憲法九条が改悪され、日本の軍隊が海外で戦争ができるようになれば、日本はますます対米従属を深めながら帝国主義として完全復活を遂げることができるようになる。
この金融独占資本の支配は、重大な弊害をもたらす。郵政民営化で反対派を切り捨て、前述のように消費者金融と一体化した銀行資本の意志が政治の世界で貫徹されるようになれば、貸金業法は改悪され、利息制限法の金利制限が撤廃される危険すらある。それは、多くの消費者をサラ金地獄に陥らせ、利息制限法による引き直し・過払い金返還請求でそれらの人々を救済してきた多くの弁護士の業務に甚大な打撃を与えることになるだろう。
そのような事態が実現する前に、私たち弁護士から「郵政民営化反対!」の声をあげていこう。
東京支部 中 野 和 子
七月一日から三日、世界女性行進の一環として韓国を訪問し、総勢二六名、部員二三名が集まり総会を開きました。世界女性行進は、今回で二回目です。
第一回は、カナダのケベック州の女性団体の呼びかけに全世界の女性たちが賛同して、ニューヨークまでの行進をつなぎました。
今回は、世界の女性たちがキルトをリレーして、女性の地位向上と平和を実現するために、世界最貧国と言われるアフリカのブルキナファソまで行進します。オーストラリアから日本、そして韓国へとキルトは手渡されました。
女性部は、毎年の総会を、日頃の激務の疲れを癒し、明日の課題の確認と課題への気力を充実させる交流会として位置付けてきました。今回は、部員同士の交流だけでなく、日韓の厳しい政治情勢を民間交流の広がりにより打開する希望をもって、ナヌムの家を訪れ日本軍「慰安婦」歴史館を見学し、「従軍慰安婦」とされた被害者のハルモニと懇談しました。そして、大森典子部員の長年の友人である韓国国会議員の趙培淑氏とともに韓国女性弁護士一〇名と昼食会を開催しました。韓国の国会は一院制であり、内五〇名が比例代表選出ですが、比例代表の名簿は女性が五割以上でなければならないという法律ができ、その結果飛躍的に女性の国会議員が増えたということでした。また、韓国は買春行為をした男性が処罰され、女性は被害者として推定されるという法律が制定されています。そして、「つくる会」の歴史教科書問題は、一部の国民が怒っているということではなく全国民が怒っていること、いろいろな日韓の問題はあっても女性同士という点で共通した理解のもとに交流することができると励ましていただきました。個別の女性弁護士からは、日本のアニメ(宮崎駿)が好きだとか、日本語を勉強しているという方がいたり、DVの問題が韓国でも大きな問題であるという話題が出ました。三日の総会では、憲法学習運動が最重要課題であり、これまで憲法にふれていなかった層へ平易な言葉で憲法の話をしていくことが必要だということ、憲法パンフの改定はせずに憲法の話をする上で各部員が工夫して様々な資料をもっているので、それらを女性部として集約して提供していくことが決まりました。そして、均等法改正問題についても今後取り組んでいくことが決まりました。また、杉井静子前部長が関弁連理事長に就任されたことを受け、これまでの各地の弁護士会会長・副会長選任過程に見られるような、弁護士会内での女性弁護士に対する差別意識解消のための活動もすることで一致しました。会計方針も了承され、三五周年記念誌の印刷も無事に行われていることも報告されました。人事は、倉内節子部長、事務局長は私、運営委員は西田美樹、長尾詩子、太田啓子各部員です。今後の女性部は九月二六日に改正均等法日弁連意見書学習会、一〇月二二日(団総会の前日、鳴門で)に「憲法学習の広め方についての交流会(仮題)」を予定しておりますのでご参加ください。
なお、女性部のメーリングリストに至急ご登録ください。メーリングリストの管理は本部ではできないと断られたため横浜合同法律事務所の太田啓子部員が運営委員として管理しています。負担軽減のためにも、新たに運営委員をお引受けくださる部員を募集しております。