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柴田 五郎 布川(ふかわ)事件再審開始決定について
上山 勤 自民党の草案は徴兵制を可能にする
毛利 正道 ベネズエラ革命の前進とアメリカの武力侵攻計画
齋藤 裕 捜査手法は秘匿されるべきか?
松島 暁 退任にあたって
大崎 潤一 退任あいさつ
齋田 求 事務局次長を退任して
笹山 尚人 これがホントの「離婚弁護士」
 ―平山知子著『家裁弁護士 ミモザの花言葉のように』を読んでー
中野 和子 男女共同参画社会基本法及び女性の人権に対する攻撃




 布川(ふかわ)事件再審開始決定について

東京支部  柴 田 五 郎

一 はじめに

 去る〇五年九月二一日、水戸地方裁判所土浦支部(彦坂孝孔裁判長・林史高裁判官・行方美和裁判官)は、請求人桜井昌司・同杉山卓男両氏(以下敬称を略して単に桜井・杉山と言う)が、確定一審第一回公判以来三八年間無実を訴えていた布川事件について、再審開始の決定をした。

 本人と家族の不屈の闘いに敬意を表し、守る会会員始め自由法曹団内外の皆さんのご支援に心から感謝申し上げます。また再審の道を切り開いてこられた白鳥事件を始め多くの先輩再審事件のご本人・支援者、司法関係者の皆さんに心から感謝申し上げ、今後とも変わらぬご指導とご鞭撻を御願いします。

 検察庁は、本件決定に対し、締め切り日の同月二六日即時抗告をしました。舞台は東京高裁第四刑事部(仙波厚裁判長、嶋原文雄裁判官、秋山敬裁判官)に移りました。

二 確定判決の要旨と証拠構造

(1) 要旨

 請求人ら(桜井昌司・同杉山卓男)は、一九六七(昭和四二)年八月二八日午後九時頃茨城県利根町大字布川で、一人暮らしの男性(六二歳)の両足を布で縛り、口の中に布を押し込み、頸を両手でしめて扼殺し、一〇万七〇〇〇円を強取した。

(2) 証拠構造

 請求人らと犯行を結びつける直接証拠は、請求人らの自白調書であり、相互に自白を補強しあっている(注1)。犯行に近接した時間帯・場所で請求人らを目撃したとする六人の目撃供述は、自白の信用性を担保する補強証拠であるとともに、自白を離れて有罪を認定しうる状況証拠でもあり、またアリバイを排斥する証拠でもある。

三 再審開始決定要旨

(1) 目撃供述は、目撃日時・場所と犯行日時・場所との隔たりの関係から、自白を直接補強するものではなく、かつ自白をはなれた状況証拠としての証拠価値も限定的である。従って、請求人らの自白の信用性が動揺すれば確定審の有罪認定も動揺する関係にある。

(2) 新旧両証拠を総合評価した結果、罪体の中心部分で自白の枢要部分たる「殺害方法と順序に関する自白」が、死体の客観的状況と矛盾し(注2)、信用性が動揺するに至ったので、自白全体の信用性を再検討する必要が生じた。

(3) 目撃供述は、月日・対象者の識別の双方について疑問があり、状況証拠・補強証拠としての価値を失い、減殺された。

(4) 自白は①虚偽の自白を誘発しやすい状況下でなされた疑い、②変遷、誘導に対する迎合供述、③客観的事実に符合しない不自然・不合理な内容、有るべき説明の欠落、請求人ら相互或いは関係者供述との不一致、④客観的事実の裏付けなく、秘密の暴露もない、⑤録音テープも自白を補強するものではない、⑥その他自白の信用性を著しく増強させる証拠もない。

 結局自白は、それだけで請求人らを犯人と認めるだけの証明力はない。

(5) 新旧両証拠を総合的に評価すれば有罪認定に合理的な疑いが生じ、無罪を言い渡すべき新規明白な証拠を発見したときに該当する。

四 今次再審開始決定の意義

(1) 本件再審開始決定の意義は、まず確定審の証拠構造を分析して、直接証拠は自白のみであること、目撃証拠の証拠価値は限定的であること、自白の枢要部分の信用性に疑いが出てくれば自白全体の信用性を吟味すべき関係にあることを確定し、すすんで新旧両証拠の隅々まで丁寧に目配りしながら自白全体を綿密に分析して、自白作成時及び自白自体の上記①〜⑥のような特徴から自白の信用性を否定したことにある。

 その手法は白鳥・財田川決定のいわゆる「総合評価」「疑わしきは被告人の利益に」の判例に忠実に従い、且つ健全な市民感覚にのっとったものとして、高く評価されよう。

(2) 中でも、自白の信用性判断に際し、「虚偽の自白を誘発しやすい状況下でなされた疑い」「誘導に対する迎合的供述」を明白に認定したことは、特筆に値するのではなかろうか。明言してはいないが、その内容は員面・検面の双方について任意性を否定したに等しいものである。

 それは一人布川事件にとってだけではなく、広く再審事件全体、無罪を争う事件全体にに大きな影響を与えることになるであろう。

五 無期懲役確定から第一次再審棄却まで

 私と佐伯剛(現在横浜支部)・故土生照子(東京支部)団員の三人は、一九七〇(昭和四五)年の確定二審から本件の杉山卓男君の弁護人であった(相被告人桜井昌司君の弁護人は石井錦樹氏─二弁)。三人の平均年齢三四歳、平均経験年数六年、意欲はあれども何せ若年・経験不足、強殺・無期のえん罪事件で、検察庁と裁判所の連合軍(?)に立ち向かうには、荷が重すぎたのかも知れない。

 一九七三年確定二審に敗れ、一九七八年確定三審にも敗れた(注3)。万策尽きた私は、日弁連に救済を求めた。日弁連は慎重審議の上、「本件はえん罪の疑い有り」として、翌一九七九年人権擁護委員会内に「布川事件委員会」を立ち上げ、私も特別委員に加えてもらった(注4)。一九八一年春弁護士登録したばかりの若手弁護士が、「布川事件研究会」(座長原希世巳─東京支部)を立ち上げ、布川事件委員会をバックアップしてくれた(注5)。

 一九八三年、布川事件委員会委員と研究会会員が弁護団を組んで、第一次再審を申し立てた(注5)。木村康千葉大医学部教授の「死後経過時間に関する意見書」等を新証拠として提出し「犯行時刻が数時間後ろにずれるので、請求人らにはアリバイがある」などの主張をしたが、土浦支部は木村教授の証人尋問を実施した上、一九八七年「木村意見書・証言と確定判決の犯行時間は矛盾しない、その他の新証拠にも新規性・明白性はない」として請求を棄却した。ついで一九八八年即時抗告、一九九二年特別抗告も棄却された。

 このように第一次再審請求が、一・二・三審とも相次いで棄却されたにもかかわらず、日弁連は事件委員会を解散することもなく、物心両面から変わらぬ支援を続けた。これが今次再審開始を勝ち取る大きな力の一つであった。

六 確定審からの弁護人としての些かの感懐

 再審とは再弁護である。それはまず確定審の弁護の誤りや足らざる所を探求するところから始まる。誤りはなかったと思うが、不十分さ・足らざるところが次々と明らかになり、私としては正に針の筵に座る心地の日々であった。記録の読み込み・分析の不十分さ、裁判所を論理のみによって説得しようとすることの誤り、弁護側証拠の不十分さなどなど、今にしてみれば汗顔の至りである。

七 第二次再審弁護団体制と弁護内容

(1) 再審開始決定時の弁護団は、所属弁護士会六つ、老・壮・青、男女、などバランスのとれた三〇人で構成された(自由法曹団員とそうでない人が半々くらい)。平均年齢五三歳、平均経験年数二二年(注6)。経歴もさまざまであるが、そこには先輩も後輩もない、弁護人としてみな平等である。ちなみに我が弁護団内では「先生」は禁句であって、みんな「さん」づけである。

 この体制の下、法医・心理・建築・指紋など各分野の専門家の再現実験に基づく意見書や鑑定書、自白に関する司法界の先達の研究成果などを踏まえて、確定審判断の「論理や常識」の誤りを立証した(弁護側の提出した新証拠は、検察からの開示証拠を弁護側が提出したものを含め、最終的には一〇〇余点に及んだ)。

(2) 事実調べ

 〇三年九月から〇四年三月までに弁護側証人木村康(殺害方法と順序)、同じく河合直人(ガラス戸破損)、検察側証人三澤章吾(殺害方法と順序)の証人尋問が請求人らの立ち会いの下で行われた。

 このうち、今次再審請求開始決定の突破口となった「罪体の中心部分で自白の枢要部分たる殺害方法と順序」に関する木村証人の主尋問は、〇三年九月二四日に行われた。担当の山川豊弁護人は病身をも顧みず、暑い盛りに千葉で何度も行われた証人との打ち合わせに参加し、尋問直前は病院の待合室で最後の打ち合わせを行い、尋問当日は東京の病院から奥さんの運転する車で土浦支部に駆けつけ主尋問を担当した。彼は病状悪化のため、翌月一〇月二一日の木村証人の反対尋問には立ち会いかなわず、「反対尋問は成功裏に終了」との山本裕夫弁護人からの報告を聞いた二日後の一〇月二三日に亡くなられた。正に壮絶な弁護活動、命を賭しての戦いであった。

(3) また、この間二〇余年の長きにわたって日弁連布川事件委員会委員長兼弁護団長を勤めてこられた小高丑松弁護士(千葉支部)が、〇三年高齢を理由に「長」の辞任を申し出られた。確定二審以来五連敗の責任をとり、いわば「罪」の償いとして、私(柴田五郎)が後任を仰せつかった。

(4) 弁護団が繰り返し、しつっこく検察庁に対し未提出証拠の開示を迫った結果、不十分ながらもある程度の証拠を開示させた。その中には三〇数年ぶりに開示され、再審開始決定の決め手になった物が少なくない。

①被害者の首に巻かれていたパンツ、口の中に押し込まれていたパンツなど、現場に残された物証ー殺害方法や順序の解明に大いに役立った。

②当時の解剖医が作成した死体検案書─死因欄に「絞頸(の疑い)」と明記してある。

③毛髪鑑定書─現場に被害者のものとも請求人らのものとも一致しない第三者の毛髪が五本落ちていたこと(他に真犯人が居ることを疑わせる)を証明するもの。

④目撃証人やアリバイ関係人の多数の供述証拠─これらの初期供述は、目撃月日時が曖昧であったこと、アリバイ月日時が正確であったこと、自白が信用出来ないことを立証した。

八 今後

 とまれ再審の扉はまだ半分開いたに過ぎない。地裁の開始決定が高裁で取り消された福島地裁いわき支部の日産サニー事件(仙台高裁で取り消され特別抗告せずで確定)、鹿児島地裁の大崎事件(福岡高裁宮崎支部で取り消され、現在最高裁に特別抗告中)等の例もあり、もとより油断は禁物であるが、我が弁護団は意気軒昂である。単に地裁の開始決定を守るのではなく、検察を追撃し、自白偏重の捜査の誤り、これを見逃し・追認した確定審の誤り更に明らかにし、早期の開始決定の確定、再審公判での完全無罪判決の獲得を目指したい。

 最後に、今回の成果を見ることなく途中で亡くなられた石井錦樹・関谷信夫・土生照子・山川豊の四弁護士の霊に、謹んで本開始決定を捧げるものである。

(注1)ちなみに自白調書は「請求人らは我孫子から成田線の電車に乗り、午後七時過ぎ布佐駅に降り立ち、徒歩で被害者宅を訪問し借金を申し入れたが断られ、一旦利根川土手まで引き返したものの、再度被害者宅を訪問して借金を申し込んだところ、激しく拒絶されたので、午後九時頃扼殺の上現金を強取して、午後九時五〇分過ぎ布佐駅発の電車に乗って東京中野区に逃げ帰った」とされている。

(注2)確定三審決定は、自白に依拠して「口に布きれを押し込んだ後、手で扼頸して殺害した」と認定したが、新証拠(木村第二次意見書と証言)によれば「原鑑定の死体所見を吟味すれば、紐様のもので絞頸した後、口に布きれを押し込んだと見るべきこと」が証明された。 

(注3)桜井・杉山両名についての 確定三審弁護団

荒川晶彦、飯田幸光、榎本武光、大塚一男、故土生照子、柴田五郎(以上東京)。

杉山についての確定三審弁護人は故石井錦樹弁護士(二弁)

(注4)布川事件委員会発足時の委員小高丑松委員長(千葉)委員谷村正太郎(二弁)委員石井正二(千葉)同柴田五郎(東京)

(注5)第一次再審弁護団は以下の二二名である。

                    ※○印は研究会会員

荒川晶彦、飯田幸光、榎本武光、○小寺貴夫、○佐鳥和郎、柴田五郎、○清水洋、竹澤哲夫、○塚越豊、○原希世巳、故土生照子、○山本裕夫(以上東京)、○佐藤米生(一弁)、○青木和子、谷村正太郎(二弁)、佐伯剛(横浜)、石井正二、○蒲田孝代、小高丑松(以上千葉)、鈴木敏夫、故関谷信夫(以上茨城)、○林秀信(岡山)

(注6)第二次再審弁護団は以下の三〇名である。

                 ○印は布川事件委員会委員

相川裕、秋山賢三、荒川晶彦、井浦謙二、飯田美弥子、上野格、清水洋、清水誠、○柴田五郎、竹澤哲夫、塚越豊、内藤眞理子、原希世巳、松江頼篤、松田雄紀、○山本裕夫(以上東京)、佐藤文彦、佐藤米生、土地順子(以上一弁)、青木和子、洪美絵、○谷村正太郎(以上二弁)、佐伯剛(横浜)、○秋元理匡、蒲田孝代、小高丑松、○福富美穂子(以上千葉)、○阿部良二、中田直人、○谷萩陽一(以上茨城)。平均年齢五三歳、平均経験年数二二年

(注7) なお二次再審弁護の内容については、自由と正義一一月号参照                           (追記)過日(一〇月二三日、二四日)の徳島総会では、請求人桜井君を囲む会に多数の方々のご出席を頂き、また東京高裁宛の要請ハガキとカンパのお願いには二〇〇枚のハガキと一〇万円を超えるカンパのご協力を頂きまして、有り難うございました。厚く御礼申し上げます。

 なお、うっかりしてハガキを持ち帰られた方は、是非ご住所・ご氏名を自署の上投函して下さいますよう、重ねてお願い申し上げます。



自民党の草案は徴兵制を可能にする

大阪支部  上  山  勤


一、自民党の憲法改正草案が発表された。十一月の党大会で正式に決定する運びになるという。いろんな問題点と議論があるが、私はこの草案では徴兵制が可能になると考える。無論のこと、国会などで審議をしたり国民に説明をするときに、彼らは決してそのような意図はないと強く否定するだろう。しかし、その気になれば国会の立法だけで徴兵制が可能になる、そのような枠組みがつくられようとしているのだということは是非とも国民に知らせて警鐘を乱打する必要があると考える。

二、そもそも、中曽根氏を座長とする前文の小委員会が一〇月七日に案を発表したときからこの疑念は生じた。大阪弁護士九条の会の会合で学習会をしたのだが何名かの弁護士からこのような疑問が提示されたのである。もしも可能だとすればことは重大だし、これまでの議論は九条二項に関わって集団的自衛権の議論に集中していた。それ自体大変な問題ではあるが身内に自衛隊員がいないので私には関係ない!などという人もありえたのだが、徴兵制が可能だとなれば話は全く異なってくる。本当に他人事ではないのである。

 徴兵制については、最近の軍事技術の発達で、もはや意味を持たないという議論もある。しかし、現実にドイツや韓国では制度として機能している。仮に、進化した兵器を扱う立場にならなくても、ドイツのように兵役と社会奉仕の選択的な義務化なども可能であり、登録手続き自体が社会の若者に対して国防義務を強制し、思想的傾向としてこの社会を強烈に右傾化させるねじ巻き機能を発揮するに違いない。そうなれば世の中一遍に変わってしまう。会合では早急に検討して場合によっては意見を表明しようということになった。

三、徴兵制が可能であるという根拠は何か。一つは国の基本法が「自衛軍」という名前の軍隊の存在を肯定し、その存在を前提とした規定を有することとなるからである。そして、前文で「日本国民は、帰属する国や社会を愛情と責任感と気概を持って自ら支え守る責務を共有し」とうたうことで国防の義務を明確化していることである。

 有斐閣の法律辞典で「徴兵制」という言葉を引くと、現行憲法は軍隊の保持を禁じた平和憲法を持っているので日本国では認められない、とある。これは九条そのものが変えられてしまえば吹き飛んでしまう論拠である。他方で、内閣法制局は、徴兵制は憲法十八条「意に反する苦役の禁止」の条項によって実施できないと言う見解を取っている。そして、この憲法十八条は自民党の草案でも残っているので内閣法制局の見解ではやっぱり無理だということになるのだろうか。そのように考える説もあるようだ。しかし、私はそうは思わない。諸外国の制度と見比べてみればおのずと結論が出てくるのである。徴兵制が存在している国といえば誰でも韓国やドイツを連想するのではないか。しかし、これらの国は憲法上明文で徴兵制が肯定されており、比較するまでもなく草案の立場とは別物である。

四、米国の憲法。この憲法は明文では徴兵制を定めておらず、他方で軍隊の存在を前提に議会にはそれぞれの軍部を設立する権限を認め、大統領にはその指揮権をみとめることなどが定められている。前文を読んでも国防の義務などは定められていない。他方で日本国憲法の十八条に当る条項が修正憲法十三条として定められている。具体的には「奴隷制及び意に反する労役は、犯罪に対する処罰として当事者が適法に有罪宣告を受けた場合を除いて、合衆国又はその管轄に服するいかなる地域においても存在してはならない。」と定められている。日本国憲法が意に反する苦役といい、合衆国憲法が意に反する労役というものは全く同じものである。(念のため英文の日本国憲法を調べると、インボランティヤーサービスと表現されており、合衆国憲法修正十三条を調べると同じく「インボランティヤーサービス」となっていて違いがないことが確認できた)。さて、ところが合衆国には徴兵制があるのである。ベトナム戦争はその下で戦われ、国民の反戦運動の結果一九七三年に中止状態となっただけで法は生きている。もともと、独立戦争をみんなで闘った歴史があり、徴兵の歴史は旧いが、一応、戦時でないのに徴兵を実施するという形で一九四〇年にスタートしている。 MILITARY SELECTIVE SERVICE ACT という法律であり、二〇〇三年七月に修正されたものの現在も機能しており、米国市民は一八歳になれば、近くの郵便局に出向くかインターネットや郵便を利用して徴兵の前提としての登録手続きをしなければならない。これを故意に怠ると五年以下の懲役、もしくは罰金二五〇〇〇ドルまでの処罰を受け又は併科されることとなっている。

 つまるところ、意に反する苦役を禁じる条項があったとしても、憲法自身が軍隊の存在を前提にしておれば、国民の義務という形で徴兵をすることが可能なのである。まして、自民党草案のように、国防の責務を前文でうたうとなれば疑いもなく可能という判断になるだろう。ちなみに、合衆国でも徴兵制が修正憲法一三条に違反するという訴訟が起こされたことがあるが最高裁判所はこれを合憲としている。このような合衆国の事情が、将来の日本国政府の青写真の中に組み込まれていないはずがないのである。

五、合衆国はイラクでの予想に反した泥沼化により、予定どおり兵を引けない現状である。人数が足らなくて任意で集めた兵の契約期間を延長するなどして、急場をしのいでいる。しかし、ストップ・ロス・オーダーといわれる大統領の政策は法に違反するという批判がされている。破綻を避けるためにはイラク情勢の好転か徴兵制の再開しかない。そのような危険な状況にある。現に二〇〇三年米国議会では、イラク戦争などで傷つき死亡する兵士の多くが黒人に偏っているとして、アーネストホーリングス上院議員とチャーレスレンジ下院議員が、公平な負担を叫んで男女両者の徴兵制の復活を訴え、二〇〇四年に議会で投票までされている(一応大差で否決された)。

 現在の米国の状態が一〇年後の日本でないと誰が言えるだろう。私は自民党の草案がこのような形で憲法に替わってしまえば、いつでも立法によって徴兵制が可能となる、そんな枠組みが秘められていると信じる。そして、そのことを国民に知らせることは法律家の責任だと考える。



ベネズエラ革命の前進とアメリカの武力侵攻計画

長野県支部  毛 利 正 道


ボリーバル革命七年の到達点

 九八年にベネズエラでチャベスが大統領に当選して以来、これまでの七年間に実施された八回の全国規模の国政・地方選挙すべてでチャベス派が圧倒的な勢いで勝利した。チャベスは、この変革の過程を二〇〇年前の対スペイン独立戦争の指導者の名を取り、「ボリーバル革命」と呼んでいる。

 ベネズエラは世界第四位の原油輸出国でその多くがアメリカに輸出されており、それがアメリカの全石油消費量の一五%を占めるという、アメリカにとっても重要な位置を占める国だが、国民の八割が貧困にあえぎ、四割が一日一ドル以下の極貧生活を強いられていた。アメリカに忠実な二大政党制の下で、四〇年間に一万人が行方不明になってもいる。その大半が、権力側によって拉致誘拐・殺害されたのではないか。

 この国で大統領になったチャベスは、新憲法を制定し、資本主義の枠内で公正・民主・国民主権・社会保障を柱とする抜本的改革法を次々と制定・実施し、国民の支持をますます強固にしている。一〇万人の教師を配置して一五〇万人の文盲をこれまでにほとんど解消した「ロビンソン計画」、キューバと契約してキューバ人医師三万人が全国に入り、これまでに一七〇〇万人の貧困層に医療を提供した「居住に入ろう計画」、女性起業家を援助するための「女性のための銀行」の設立。これらを、アメリカと結ぶ財界と四民放テレビ局の反チャベスキャンペーンのなかで、国営テレビで日曜日の一一時から一七時の「こんにちは大統領」に出演して対話の中で国民に訴え、更に今年に入って全南米向けにアメリカに対抗する民衆のためのテレビ局「テレスル」を開局するなどメディアを効果的に活用して推進している。

 チャベスの基本戦略は、資本主義では民衆にふりかかる諸矛盾を解決することはできないとし、国民の支持を得つつベネズエラ独自の市場経済と結合させた社会主義を多数者で建設するとの方向を国民に明示しつつ、当面資本主義の枠内で国が関与すべき分野における民営化の否定・社会保障の確立・共同経営など多様な所有制を進めている。そして、今年七月までに、行政・立法・司法・選挙権力・軍隊の五権を掌握した。

 この基本戦略の下で、ボリーバル革命を推進する与党のひとつ、第五共和国運動が二六〇〇万人の人口の中で一二〇万人の党員を擁し、国会で一六五議席中の七六議席(与党連合全体では九八議席)を占めており、知事選挙でも二二人のうち二〇人をチャベス派が占めるなど大きく前進している。現在でも国民の半数が社会主義政権となることを支持しているが、チャベスは今後二〇〇七年の大統領選挙で勝利して、社会主義の道に具体的に踏み出す意向である。

 このボリーバル革命は、中南米全体の反米・反グローバリズムの左翼勢力の前進のなかで生まれ、誕生後はその勢い・連携を強めることに大きく貢献している。チャベスは、第五回世界社会フォーラムで、「アメリカこそ世界で最大の否定的勢力」と述べるなど、各種国際会議でアメリカの世界支配に強く反対する姿勢・発言を貫いている。

民族自決権を踏みにじるアメリカ

 このように、アメリカの世界支配に明確に対抗する方向でボリーバル革命が大きく前進し、世界の民衆を鼓舞しているが故に、アメリカの対ベネズエラ干渉がますます露骨になってきている。

 アメリカは、二〇〇二年四月のクーデター「既遂」事件においても、事前の資金提供や頻繁な高官レベルの会議などで強い影を及ぼしており、世界にさきがけて新政権を認めると発表するなど深い関与が疑われている。二〇〇五年に入っても、一月にライス国務長官が就任前の議会聴聞会でベネズエラを「近隣諸国に悪影響を及ぼす否定的勢力」と決めつけ、三月にはアメリカのロジャー国防次官補が、「チャベスが地域を不安定化させているので、対ベネズエラ政策の変更を準備している」旨述べるなど干渉発言を強めているが、七月にはチャベスがアメリカに対ベネズエラ侵攻作戦「バルボア計画」があると公表した。そこでは、爆撃回数・爆弾の種類・攻撃航空機数まで計算されているとのことである。アメリカは、過去、中南米政権に対する幾多の軍事侵攻を行っている。そのアメリカでこのような作戦が立てられていること自体、重大な民族自決権侵害である。警戒を強め、このような策動を断固打ち破らなければならない。

 折りしも、沖縄県出身の父・山梨県出身の母を持つ日系二世の「青年」石川成幸氏が新しいベネズエラ大使として来日した。新大使との交流を強めることから始めたいものである。



捜査手法は秘匿されるべきか?

新潟支部  齋 藤   裕


 弁護士活動の中で、特に、保釈などの場面で、捜査手法を秘匿する必要性があるという議論は良く耳にするところである。ここ最近、二つの問題を巡って、この捜査手法の秘匿の必要性ということについて考える機会があったので、考えたことについて書いてみたい。

一 出所情報の提供問題

 奈良女児誘拐殺人事件をきっかけに、性犯罪者の再犯防止策が議論されるようになった。本年六月一日には、一定の性犯罪を犯して受刑していた者が出所した場合に、法務省が警察に対してその者の居住地などの情報を提供する制度が開始した。本年九月一日には、重大あるいは再犯性の高い罪種を犯したということで 受刑していた者について、法務省が警察にその者が出所したという情報を提供する制度が開始している。

 私自身は、右のような制度については、再犯防止や捜査の上で、さほど効果的ではないし、警察からのプライバシー流出→出所者の更生阻害という結果を招きかねないと考えている。この点については色々意見はあるだろうが、問題は、法務省・警察庁とも、本年九月一日に開始した性犯罪者以外の出所者の出所情報提供制度について、どの罪種が対象となるかについて公にしていないし、関係文書の開示請求を行った場合には罪種情報が非開示とされるということである。私が開示請求した件については、「出所情報ファイルへの記録対象となる者の罪名、出所事由が記載されており、公にすることにより、出所者において、自己の入所罪名及び出所事由と照合することで自己が出所情報ファイルの記録対象者であるか否かが明らかとなり、記録対象者が犯罪を企図するにおいて、自己に対する警察捜査の存在を前提とした対抗措置を講じられるなど、犯罪の捜査に支障を及ぼすおそれがあると認めるため」と非開示とされている。

 確かに、具体的な出所者が何らかの事件の被疑者になっているときに、その事件についてどのような捜査手法がとられているかという情報が秘匿すべき情報だという議論は分からなくはない。しかし、出所者が、出所後に犯罪をするに当たって、捜査に対する対抗措置を講ずるかもしれないから捜査に支障を及ぼすおそれがある、という議論にいくばくかでも説得力があるのであろうか?出所者については特別なデータベースを活用した捜査がなされるとしたら、自己がデータベースに登載されていることを知っている出所者=被疑者は、自己の身元がばれないように犯罪を行なうのかもしれない。しかし、ある程度用心深い犯罪者であれば、自己がデータベースに掲載されているか否かを問わず、いずれにしても自己の身元がばれないように犯罪を行なうはずなのであって、データベースへの掲載 について知っているかどうかで犯罪者の行動に変化があるとは考えにくい。

 これまで出所情報の提供が行われて来なかったのは、出所者の更生を図るなどそれなりの理屈があってのことであろう。犯罪被害者の人権(犯罪被害に会わない権利)の主張が強く行われている昨今、このような姿勢が妥当かどうかについては疑問の声が出てくるのは当然である。しかし、出所者の更生という見地から行われてきた従前の扱いを変え、出所者のプライバシー権、更生を阻害するかもしれない情報提供制度を開始するに当たって、少なくともどのような制度を開始するのか(どのような人が対象となっているのか)についての情報を国民に明らかにし、その上で議論を尽くすのが最低限の民主主義的要請なのではないだろうか?

 出所情報の提供制度については、自民党などにおいて、学校などを情報の提供先に加えるべきだという議論もなされている。元の制度の中身さえ明らかでないのに、それをグレードアップした制度についてまともな議論が可能なのかどうか重大な疑念を持っている。

二 開示証拠の複製等の交付等に関する規程(案)について

 本年八月三一日付で、日弁連から各単位会などに対して、「『開示証拠の複製等の交付等に関する規程(案)』について」の意見照会がなされた。この案については、そもそも規程策定に反対であるという意見も多数述べられているようであるが、やはり捜査情報についての配慮のなさが問題の一つであろう。

 同案においては、「秘密」という概念が複数の条文で使用されている。例えば三条では、「弁護士は、開示証拠について、複製等を被告人等に交付等するときは、秘密及びプライバシーの取扱いに配慮するように注意を与えなければならない」とされているし、他の条項においても「秘密」情報についての慎重な取扱いが要請されている。

 問題は、この「秘密」概念には捜査上の秘密が含まれ得るということである。捜査上の秘密と言えば、通常は現に捜査中の事件についての捜査上の事項に限るということになろう。しかし、一で述べたように、法務省・警察庁は、現に捜査中の事件についての情報に限定せず、極めて広く捜査上の秘密という概念をとらえている。 

 「規程」(案)について、日弁連は、「行為規範」であるということを強調している。しかし、「評価規範」としての意味を持たない「行為規範」は「行為規範」としてさえも機能しないであろうし、「規程」(案)が懲戒処分の際の指針となることは明白である。法務省=検察官が、上記の広い捜査上の秘密概念を振りかざし、懲戒申立をしてこないとどうして言えるのだろうか?懲戒委員会で懲戒の判断をしないという結果になったとしても、懲戒請求をされること自体が与える萎縮的効果は大きいのではないだろうか?そもそも、捜査上の秘密概念の広狭は別としても、弁護士会が捜査上の秘密の擁護者である必要があるのだろうか?

 「開示証拠の複製等の交付等に関する規程」については、最低限、「秘密」概念を限定し、捜査上の秘密が「秘密」に含まれないことを明確化し、弁護人などによる法廷外での違法捜査に対する批判活動などに対する不必要な規制を取り除くべきである(別に、そこさえ直せば「規程」(案)に賛成という意味ではないが・・・)。

三 最後に

 捜査の秘匿の要請という言葉はそれなりの説得力を持っていると言わなくてはならない。

 しかし、捜査こそ最大の人権侵害となり得るものであるし、その適否は慎重にチェックされなければならない。違法収集証拠排除も極めて限定的にしか機能しないわけであり、違法捜査の抑制は法廷活動を離れた場面での批判活動に委ねざるを得ないし、捜査手法の公開はそのような批判活動の大前提である。

 ますます厳しい治安対策が取られ、かつ、捜査のハイテク化が進む今日、捜査の秘匿の要請というマジック・ワードを打ち崩していく活動、「取調べの可視化」だけでなく「捜査一般の可視化」を求める日々の活動が益々必要になっているのではないかと考えている。



退任にあたって

東京支部  松 島  暁


 総会で退任し、団本部の事務局長用PCのメールやファイルを消去し、机のまわりの書類を整理・廃棄し、さしあたり必要なものを自宅と事務所に送り出し、ようやく「終わった」という気分にひたれるようになりました。

 この二年間に見聞きしたことを書きはじめると長文になってしまい、小賀坂さんがかつて団通信に連載した「極私的自由法曹団物語」になりかねません。別の機会にとして、感想をいくつか。

 ちょうど五年前、今世紀が九・一一で幕を開けたことに、象徴的意味を感じました。「非難する気持ちになれない」と団通信上で「つぶやいた」とたん、きびしい批判をもらいました。「手段が正しかったか、有効だったか」とは別に、九・一一が提起した問題は今も解決されずに続いています。

 今年の九・一一。郵政民営化を「構造改革の本丸」と位置付け、それ一本でたたかった小泉・自民党は大勝しました。「構造改革」の是非を問い、「国民」はそれを信任しました。構造改革の意味を明らかにし、それと正面からたたかってこなかったことのツケが回ってきたのでしょう。

 反テロリズムを口実とする平和の破壊と構造改革という名の生活破壊、その双方と対決することが、今後の団の活動に求められていると思います。

 昨年退任した、坂、杉島、平井、村田、渡辺の各次長、本年度再任の飯田、泉澤次長、新事務局長に就任の今村さん、そして二年間ともに執行部を支えてくれた大崎、斎田、瀬野の各次長にあらためてお礼申し上げます。

 坂さんは事務所に戻り事務所運営の中心を担っています。杉島さんは大阪支部の事務局長を兼任されながら先々月無事退任されました。平井さんには異例ながら再度次長を受けていただき感謝しています。村田さんからは度々クレームをいただきましたがそのパワーで教育の対策本部の牽引車として活躍されています。渡辺さんは大事故に遭いながらも驚異的回復をみせ改憲対策本部に顔を出してもらっています。

 今村さんには新事務局長の要請を受けていただき感謝しています。飯田、泉澤両次長には、いろいろ注文を出しましたが、今村新事務局長のもとでの奮闘を期待しています。

 大崎さんは重要課題の中心的役割を果たしてもらいましたし、斎田さんは自らを「機敏なデブ」と称しながらフットワークのよさで実務を切り回してくれました。瀬野さんからは病気を抱えながらも様々なサポートを受けました。

 島田・吉田両幹事長、そしておしゃべりな坂本団長、個性的な人々に囲まれて幸せな二年間を過ごすことができました。ありがとうございました。



退任あいさつ

東京支部  大 崎 潤 一


 多くの人に憲法のことを考えてもらいたい。だが普段は憲法のことを考えていない人には難しい話と思われそうだ。

 私たちは日常いろんな人と接している。お客さん(利用者)と接する時間もあれば、私たちの方が(広い意味で)『お客さん』『利用者』となる場合もある。まずはこうした私たち自身が接する人に憲法の良さを知ってほしい。楽しい催しの際に憲法に接してもらう機会等ができないか。

 法律に無縁の人がいつしか憲法に熱中したり、これまでの十年、十五年と打って変わって外の世界に飛込んでいったり。去年と今年で見違える人もいる。人生が変わったと思う。

 団通信の退任の挨拶では、自分の就任時の挨拶を思い出し、両方の表題を対応させて書くこともあるが、私は、総会の挨拶で言わなかった本当の私を書かせてもらうことにした。憲法に力を注いだ前任者を引き継ぎ、恥ずかしくないよう、顔向けできるよう精一杯がんばったつもりである。

 最後に、団本部専従事務局のみなさま、いろいろお世話になりました。また代々木総合法律事務所のみなさまにも多大なご迷惑をおかけしました。心より感謝申し上げます。

 そして昼食にはおにぎりを持たしてくれたわが配偶者は、二人の時間が多くなって喜んでおります。



事務局次長を退任して

埼玉支部  齋 田   求


 徳島総会が終わり、肩の荷がスーッとおりた気がしております。最も仕事をしない次長だったのに、不思議です。

 ところで、総会の挨拶でも述べましたが、次長になって体験したことをいくつかあげて退任挨拶にしたいと思います。

 次長になり、団本部(DIKマンション小石川二〇一号室)に初めていきました。外壁補修のため建物全体がシートで覆われている上、通路も養生された状態で、怪しげな組織のアジトに足を踏み入れるような恐ろしさを感じました。なお、今は補修も終わりきれいな建物になっています。

 次長になり、常任幹事会に初めて出席しました。顔は知らないものの名前はどこかで聞いたことのある大先輩たちが、全国から集まって本気になって議論していました。重大問題を議論していることは十分わかりますが、「こんな人たちがいるのだなぁ!」というのが正直な感想でした。また、情報や問題提起が早く、とても興味深く議論をきくことができました。

 恥ずかしい話ですが、次長になり初めて国会要請にいきました。選挙で頭を下げながらニコニコしていた候補者は、大先生になっていました。そのうちの何人かは先の総選挙で普通の人になってしまったようです。

 数は少ないのですが、意見書、声明を起案しました。できの悪い起案に皆さんから配慮あるご意見をいただきました。そして、まわりの人たちの意見を全て取り入れることは不可能であると悟りました。

 次長に就任する前、五月集会、総会には、夕方までに到着すればOKだと思っていました。任期中はプレ企画から閉会まで出席しましたが、通しで出席すると、いろいろと得るものがあるということを知りました。次回北海道の五月集会では空港で引っかからないよう、固い誓いを立てています。また、〇四年の沖縄総会では前日の「袋詰め」も体験しました。会議成功のため、陰で働いてくれている人たちの苦労を知りました。

 次長になって、議案書を起案しました。誰が起案しているかという長年の疑問が解けました。来年からはちょっとは目を通そうと思います。

 次長になって……、きりがありません。

 団長をはじめ幹事長、事務局長、同僚次長のみなさん。また、専従のみなさん。お世話になりました。次長になって皆さんとお知り合いになれました。



これがホントの「離婚弁護士」

ー平山知子著『家裁弁護士 ミモザの花言葉のように』を読んでー

東京支部  笹 山 尚 人


 天海祐希主演、フジテレビ系で放送された、「離婚弁護士」というドラマをご存じですか。大手渉外のやり手女流弁護士が、一念発起して独立したものの、顧問先に裏切られ、仕方なく離婚などの家族問題を手がける弁護士になるが、その弁護士が、様々な家族紛争を、持ち前の度胸と行動力、弁護士らしい緻密な組み立てと証拠収集で解決していく、というドラマ。韓流に毒されている私は、日本のドラマは底が浅くて基本的にはダメなのですが、中には面白いものがあります。「離婚弁護士」もそうでした。しかしドラマはドラマ。私たちの業界の現実とはほど遠いものでした。

 平山知子団員が先頃出版された「家裁弁護士」を読みました。平山団員がここ数年関わった家裁管轄事件が読み物風に書かれたもので、そこに平山団員が最近創設したあかしあ法律事務所の立ち上がっていく過程が織り交ぜられています。

 面白くて一気に読みました。私の最初の感想は、「これがホントの『離婚弁護士』だ!!」、というものでした。

 以下に、思いつくまま、本書をみなさんに推薦する理由を書いていきます。

 とりわけ、新入団員のみなさん。平山団員といえば、知る人ぞ知る家族問題のエキスパート。自分で言っておられるが、日に何度も家裁の建物を出入りすることもあるそうです。こんな人はたぶんほかにはいない。家族法の実務の神髄やノウハウもわかります。これだけでも読む気になること請け合いです(笑)。

 ドラマ「離婚弁護士」は、天海さん扮する弁護士たちが、知恵を絞り、自らの足を使って証拠を集め、大変格好いいのです。その一方で、わが業界の図式を「勝ち組=渉外」「負け組=町弁」と位置づけており、世間に多大な誤解を与えるもので、その点は大変気に入りませんでした。これでは、自由法曹団は、負け組になってしまうではないですか。冗談じゃない!我々こそ弁護士の王道だ!

 しかし、それが世間にあまり知られていないことにも問題があるのかもしれません。平山団員のこの本は、離婚や相続、親子という誰もが経験する(少なくとも可能性のある)問題に、弁護士がどのように取り組んでいるのか、その実像が六つの小編を通して紹介されています。それが物語風ですから大変読みやすく読めるのです。

 世間に私たち団員の仕事の神髄を伝えるのには、格好の好著といえましょう。ただし、その場合紹介した団員は、平山団員が著書の中で活躍しているような辣腕ぶりに比肩すべき仕事をしなければならないことになります。読者は、弁護士とはこのぐらいがんばってくれるんだと思いますので(笑)。

 とりわけ、新人団員のみなさん。ここには、団の古き良き伝統が充ち満ちています。困難があっても、事実にこだわり抜いて、徹底的にそれを明らかにする。依頼者の要求がどこにあるのか、その要求にこだわって仕事をする。事件の現場を大事にする。

 平山団員が、六〇歳を超えてなお、このような仕事をされていることには敬服のほかありません。私も反省しました。みなさん、こぞって真似ましょう(笑)。

 あかしあ法律事務所の立ち上がっていく過程が織り交ぜられている点も見過ごすことはできません。同じ事務所の笹本潤団員や生駒亜紀子団員も実名で登場、事務局のみなさんもその仕事ぶりも含めて紹介されます。

 私は、ここにも団のよき伝統があらわれていると思います。とりわけ、私たち団員がたまには世間で耳目を集めるような仕事をすることができるのも、世間には知られなくても依頼者の満足いく仕事をすることができるのも、団の理念の実現に私たちと共にがんばってくれ、下支えをしてくれる、事務所の事務局員がいればこそです。私たちが彼らに常に支えられているということを忘れず、事務所を事務局員と一緒にどう作っていくか。そういった視点も、大変重要なものと思いますし、好感が持てました。とりわけ、アルバイト君の活躍の記載はうれしかったですね。そうです、世間では、アルバイトだろうが、青年労働者は一生懸命働いているのです。非正規雇用労働者の権利擁護に働きたい私にとって、うれしい記載でした。

 本書を貫くテーマは、ミモザの花言葉に託して、弁護士は、人間らしい真実の愛、友情、豊かな感受性、それに平和という人間が人間らしくあるための社会環境を、取り戻し創っていく職業だ、私たちはそのために奮闘したい、というものです。これには大変心洗われました。それはたぶん、私たち団員全員の初心。そして仕事を遂行する心の支え。「離婚弁護士」というドラマが素晴らしかったのも、結局弁護士たちが、勧善懲悪というより、結局当事者たちの人間らしい生き方の回復に貢献していたからだと思います。だからこそ、この本は、ホントの「離婚弁護士」が描かれていると思うのです。

 私自身、何となく日々の業務の多忙さに、重苦しさに、情勢の困難さに、ふさぎ込むような気持ちでしたけれど、おかげで大変勇気づけられました。これも平山団員の優しげな筆のタッチのなせるわざでしょうか。

 ということで、団員が読めばこそ面白い、素晴らしい著作です。平山団員ありがとうございました。

 ただ一つ、蛇足をつけ加えれば。貸金業者に対する過払いがあったとき、ゼロ和解はないと思いますよ(笑)。私なら、一円たりともまけません(笑)。まあ依頼者が了解しているし、額が小さいから、いいんでしょうけど。

 新日本出版社 税込み一四七〇円 

 問い合わせ先 あかしあ法律事務所

               電話〇三ー五三六九ー〇七九〇



男女共同参画社会基本法及び女性の人権に対する攻撃

東京支部 中 野 和 子


 先の総会の直前の一〇月一七日、徳島県議会では男女共同参画社会基本法や同基本計画の廃止を求める請願が採択されなかったものの継続審議になりました。また、同議会では、同趣旨の意見書が県議会に提案され採択されてしまいました。

 男女共同参画社会基本法とは、女子差別撤廃条約で締約国が約束した国内行動計画を立法化したものであり、同基本計画は国と地方自治体が同法に基づき策定した女性に対するあらゆる差別を解消するためのプログラムです。その中には、当然、伝統や慣習による男女差別も解消されなければならないものとして盛り込まれています。

 ところが、特に教育の現場において、社会的・歴史的に形成された性であるジェンダーを解消しようという試みが批判されています。

 男女混合名簿や家庭科男女共修は意識の根底に染み付いた序列や役割分担を取り壊すすばらしい取り組みだと思いますが、これが性教育だけでなく攻撃されています。この攻撃は家族を最も小さな公共であり女性の個人の尊厳より重きに置こうとする攻撃であるので、これに反撃しようと決議案を総会において提起しました。

 しかし、総会では、検討の時間が足りなかったこともあり、藤木団員の全体会発言に一言入るだけになってしまいました。

 そこで、次の常任幹事会で決議をあげていただきたいと思い、事前に決議案を事務局長に提出し、同時に全団員に検討していただければと思い、投稿しました。紙面には省きますが、是非、女子差別撤廃条約の前文を合わせてお読みください。

 地方議会からの女性差別容認の「伝統・慣習」を復活させる動きを批判し、雇用をはじめとしてあらゆる社会的・経済的関係において男女平等の社会をめざす決議(案)

 第二次大戦後はじめて、日本国の女性は参政権を得、既婚女性は家制度から脱して民事上の無能力者から成人男性と同等の法的立場を獲得し、離婚の自由を得た。

 日本国憲法は、第一三条で個人の尊厳及び幸福追求権を男女問わず保証し、第一四条で性別にかかわらぬ平等を、第二四条では家庭内でも男女平等であることを宣言し、日本はこの六〇年間、日本国憲法の歴史とともに女性差別解消の道を徐々に歩んできた。その過程では、結婚退職制度や定年差別、賃金差別、セクシャルハラスメントなどの違法性を問う裁判が行われ女性の権利を獲得してきた。

 同時に、国連では国連憲章前文に個人の尊厳と男女の平等を人類普遍の原理として掲げ、一九六七年国際人権規約でも経済的社会的および文化的権利の享有について男女に同等の権利を確保することが明文化された。一九七五年を国際婦人年とし、翌年から一〇年間を「国連婦人の一〇年」と定め、女性差別の撤廃を国際レベルでの行動指針を示し現実の政治課題として提起した。その最終年である一九八五年、日本国政府は女子差別撤廃条約を批准するとともに雇用機会均等法を制定し、女性の権利の発展が国内での政治課題であることを認めた。さらに一九九五年第四回世界女性会議が北京で開催され、優先行動分野を定めた「行動綱領」及び「北京宣言」を採択した。生来の生物的性差ではなく社会的・文化的に形成された性である「ジェンダー」を解消するためのプログラムが各国で検討され実践に移された。日本でも男女共同参画社会基本法が制定され、地方自治体で基本計画が策定され、女性差別の実態調査も定期的に行われて女性差別の解消に役立ってきた。

 そして、二〇〇五年、改正均等法を検討し、より一層の男女差別解消に向かおうとしている一方で、地方議会において、女性は結婚して家庭に入り子どもを産むべきだ、長になるのは女性より男性だ、女性は自己主張するなという伝統や慣習を否定すべきではない、などの「伝統的」価値観を維持すべきだとの請願や、意見書が提出されている。徳島県議会においては、先の定例会議で、男女共同参画社会は「日本固有の伝統と文化の伝承、それに基づく礼節を備え得ることのできる教育を付与する責務がある」といった趣旨の請願が継続審議とされ、同趣旨の意見書が採択されるに至った。

 このような伝統や慣習を主張して女性差別を固定化する差別思想は、女性の幸福追求権を侵害し、女性への人権侵害を助長するものであり、女子差別撤廃条約第一条記載の「差別」であって、同条約第一条にあるように「女子に対する差別となるいかなる行為又は慣行も差し控え、かつ、公の当局及び機関がこの義務に従って行動することを確保すること」を締約国である日本は世界に約束しているものである。

 ところが、自民党新憲法案の基となった同党の憲法改正プロジェクトチームの二〇〇四年六月「論点整理(案)」には、憲法第二四条を削除すべきであるという女性の人権を制限する方針が表明されており、かつ「つくる会」教科書も女性差別を固定化・助長する内容がある。自民党の性教育攻撃は、科学的性教育に対する無知無理解の域を越えて激しくなっており、自民党議員によるジェンダー・フリー攻撃はジェンダー・フリーをフリー・セックスの思想だと国際的な定義を歪めるという極めて愚劣な形で行われている。

 近々の世論調査でも、憲法九条を守る意識は女性が男性に比べ圧倒的に高く、男女平等を求める女性へのこれらの攻撃は、軍隊を復活し物言わぬ国民づくりを求める民主主義攻撃につながっている。

 一〇月二八日、自民党改憲案が発表されたが、軍隊復活・平和的生存権削除の内容となっているが、多くの女性は、このような戦争をするための改憲案を支持しないであろう。平和憲法を守るためにも、女性の人権が一層保障され堂々と意見を表明できることが重要になっている。

 しかるに、東京都の七生養護学校の性教育攻撃、「日の丸君が代」教師大量処分事件など、思想・良心の自由が徐々に切り崩されており、ジェンダー・フリー攻撃はその一環と見なければならない。

 「日本古来の男女差別の伝統・慣習」「愛国心」などを復活させようとする地方自治体における女性差別固定化の動きに機敏に反対し、日本国憲法に保障された個人の尊厳及び両性の本質的平等に鑑み、真の男女平等を実現し民主主義の発展する社会とするために、自由法曹団は、賃金差別もジェンダーに基づく差別意識を利用したものであることを念頭に、ジェンダーに基づく一切の差別の解消こそが急務であり、各地方自治体への「伝統的」な女性差別を復活する要請が男女平等を切り崩し民主主義に反する行動であることを広く国民に訴え、愛国心を強調し女性の個人の尊厳を軽視する動きと断固闘う決意をここに表明する。