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鷲見 賢一郎 労働者の尊厳を守れ!
オリエンタルモーター・佐藤人権裁判で勝利判決
長尾 宜行 不誠実団交に対し慰謝料五〇万円の支払を命ずる
…根岸病院損害賠償請求事件・東京地裁八王子支部判決
笹本  潤 「憲法九条は東北アジアNGOの会議でいかに話されているか 〜GPPAC東北アジア地域協議会in金剛山(北朝鮮)より」
渡辺 登代美 団長・坂本修があなたに語りかける
「憲法 その真実―光をどこにみるか」
松本 恵美子 リーフ・署名用紙を活用して代用監獄廃止運動を!




労働者の尊厳を守れ!

オリエンタルモーター・佐藤人権裁判で勝利判決

東京支部  鷲 見 賢 一 郎

一 減額した賃金額全額と慰謝料の支払いを命ずる

 東京地裁民事第三六部は、平成一八年一月二〇日、被告オリエンタルモーター(株)に対して、原告佐藤武幸さんに下記の金員を支払うように命ずる判決を出しました。

(1) 金四八二万九七八一円及びこれに対する各起算日から支払済みまで年六分の割合による金員

(2) 平成一七年一一月以降本案判決確定の日まで毎月二五日限り、各金一三万七一七二円

(3) 金一五〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年五分の割合による金員

 右(1)は、会社が佐藤さんの賃金及び一時金から今までに減額した金額を全額支払えという意味です。右(2)は、会社が佐藤さんの賃金から今後減額すると言っている金額を全額支払えという意味です。

二 組合を敵視し、社内清掃の仕事を強要し、賃金を四三%減額

 佐藤さんは、茨城県の土浦事業所で精密小型モーターの部品の加工、洗浄、塗装等の業務に従事していましたが、目の病気(黄斑変性症)で物がゆがんで見えるようになり、二〇〇二年一二月六日、マタギ歯厚測定で測定違いの不良品を出したので、会社に業務換えを申し出ました。佐藤さんは、黄斑変性症で物がゆがんで見えても、高周波焼き入れ機による加工作業、超音波洗浄機による洗浄作業等の業務は十分やることが可能でした。

 ところが、会社は、二〇〇三年二月末から四月末まで佐藤さんから仕事を取り上げた上、五月から社内清掃の仕事をやるように業務換えを命じ、あわせて、基準内賃金(職能給、本人給、家族手当、住宅手当)を、三一万八四八四円から一八万一六八〇円へと、一三万六八〇四円も減額しました。実に四三%にのぼる賃金減額です。

 会社の管理職等は、佐藤さんに対して、「給料ドロボウ」等と罵声を浴びせながら、社内清掃への業務換えと賃金減額を強行しました。佐藤さんは、異議をとどめて清掃業務に従事しながら、二〇〇四年五月、東京地裁に、未払賃金及び慰謝料請求事件を提訴しました。

 会社が佐藤さんに対して上記のような過酷な処遇をする背景・動機には、会社の長年にわたるJMIU(全日本金属情報機器労働組合)敵視政策があります。オリエンタルモーター(株)では、一九七四年一二月全国金属労働組合オリエンタルモーター支部が結成され、その後同支部は一九八九年二月JMIUに加盟していますが、佐藤さんは全金支部結成当初からの組合員です。会社は、全金支部結成以来、組合脱退工作、仕事差別、賃金差別、集団での組合員のつるし上げ等の不当労働行為をかさね、現在も最高裁に賃金差別事件が係属しています。

三 労働者の働く権利を尊重し、賃金減額を無効と認定

1 会社の主張―根拠は「合意」のみ

 会社は、清掃業務への業務換え及び賃金減額の根拠として、就業規則上の根拠等は一切主張せず、「本件配置換え及び本件賃金変更は、いずれも原告と被告間の合意によるものである。このことが本件の出発点であり、ゴールである。」と主張しています。もちろん、佐藤さんは、そのような合意の存在は否定しています。

2 賃金減額「合意」は存在しても不当労働行為と公序良俗違反で無効

 判決は、次のように、賃金減額「合意」は存在しても不当労働行為と公序良俗違反で無効と認定しています。

 「被告は、平成一五年三月二七日に提案した清掃業務について原告が月当たり約一八万円の給与で担当することを同月二八日に口頭で了承し、その後同年四月九日に本件書面で被告と正式に合意していることをもって有効に労働条件が変更された旨主張している。この点は、被告と支部ないしその組合員との間の従前の対立関係から窺われる被告の労務政策、原告が担当業務の変更を申し出て以降の被告の対応、被告の原告に対する配置転換の申し出に至る経緯及び本件書面に原告が署名して以降の原告ないし支部への対応状況からすると、被告の原告に対する不当労働行為を認定することができること、原告の早く仕事に就きたいが一心での心理状況・場面を利用した公序良俗に反する合意経緯及び合意内容であることから、原告と被告との間では本件書面による平成一五年五月以降の賃金内容での労働条件の変更は有効にはなされていないものと考えられる。」

3 「原告の技能、経歴、貢献実績、継続勤務度合い」無視は不当

 判決は、上記不当労働行為と公序良俗違反を認定する理由を幾つかあげていますが、以下にはその二〜三を引用しておきます。

(1) 「被告は、原告の技能及び眼の負担等を考慮した新たな担当業務を検討することとしたというが、これに沿った原告の技能、経歴及び被告に雇用されて積み上げてきた会社への貢献実績に見合う被告からの提案なり対応が証拠上認められない。」

(2) 「被告事業所の経営事情が良くないとしても、ワークシェアリングという形で工夫した雇用の確保や維持が社会的に要請されていたり、あるいは従業員規模に応じた身体障害者の一定割合の雇用が法によって要請されている今日の社会情勢‥‥‥‥からすると、‥‥‥‥仕事が作業場で見つからないという被告の対応はいかにも不自然である。」

(3) 「しかも、能力給制度を被告が採っている会社であるとしても、被告は、被告が原告に二回にわたり提示した新たな業務(一回目は梱包・発送業務、二回目は社内清掃業務)の条件を外注に請負で出したら支払うべき月一九万円あるいは月一八万円としている。これは原告の現状給与が、被告の基幹従業員としてこれまで長年にわたって貢献・従事してきた結果、継続勤務度合いに応じて上昇してきたところを一切無視するものである。」

四 「差別待遇としての不当労働行為、人格権及び財産的利益の侵害」による不法行為について一五〇万円の慰謝料を認める

 判決は、次のように認定して、会社に一五〇万円の慰謝料の支払を命じました。

 「原告が平成一四年一二月に担当作業の変更を申し出て以降、原告は被告から平成一五年二月二七日に突然に担当から外された上で、被告は支部の組合員である原告に具体的な業務指示を与えずに一か月間にわたり不当に仕事をさせなかった経緯があり、その間、原告は被告からそれまでの会社への功労に報いられない業務内容及び給与支給額の提示を受け、原告がこれを断ると被告は再び業務指示を与えず、心理的に原告を追い込んで悪条件による処遇を受けざるを得ない状況に陥らせた。その結果、被告は組合員である原告に一か月間具体的業務指示もなく職場で待機させられるという心理的苦痛と不安を与え、その後同年五月以降は、従来の被告における勤労者としての知識、経験及び技量を十分には生かすことのできない構内の清掃業務に就かざるを得なくされた上に、生活の糧である賃金を不当に減らされて経済的に困窮した原告に、家族である娘の学費も捻出できず留学を途中であきらめさせざるを得なくなるなどの不都合を生じさせているものである。このような被告の対応は、原告に対する関係で、使用者による組合員に対する差別待遇としての不当労働行為並びに原告の人格権及び財産的利益の侵害による不法行為を構成する。これにより被った原告の精神的損害を慰謝するには諸般の事情を総合考慮して一五〇万円の支払いを被告が負担するのが相当と思料する。」

五 「正しさが認められた。胸をはって会社に行ける」

 原告の佐藤さんや、JMIUオリエンタルモーター支部の組合員らの感想は、次のとおりです。

(1) 原告の佐藤さんの感想

 「自分の主張の正しさが認められた。胸をはって会社に行ける。」

(2) JMIUオリエンタルモーター支部の組合員の感想

 「会社の不当労働行為が認められたのは、これまでの三〇年間の闘いの成果だ。また、労働者の働く権利を認めた点も、素晴らしい判決だ。」

(3) 支援の労働者の感想

 「差別の中で闘っている労働者と労働組合に、大きな励ましを与える画期的な判決だ。」

 会社、佐藤さんとも、東京高裁に控訴しました。佐藤さんは、東京地裁では慰謝料を三〇〇万円請求していましたので、認められなかった一五〇万円分を控訴しました。

 これからの取組では、会社に、減額賃金額と慰謝料を支払わせる取組とあわせて、佐藤さんの技能、経歴、貢献実績に見合う仕事を提供させる取組が重要です。

 常任の弁護団は、八坂玄功団員(東京支部)、鍛治利秀団員(東京支部)、藤野善夫団員(千葉支部)、私の四名です。



不誠実団交に対し慰謝料五〇万円の支払を命ずる

…根岸病院損害賠償請求事件・東京地裁八王子支部判決

東京支部  長 尾 宜 行

 経営役員ではないが、そのすぐ下ではたらいている事務部長と労働組合との間でなされていた事務折衝での労使間合意につき、これを後になって経営者が反古にしたというケースについて、これが不誠実団交として不当労働行為であると断定し、経営者に、組合に対する慰謝料五〇万円の支払を命ずる判決がなされた(本年二月九日東京地裁八王子支部民事第三部)。

一 経緯

 東京都府中市にある精神科主体の根岸病院は、医療法人組織ではあるものの、実際にはオーナー一族による経営支配がなされており、一方で、かねてより病院職員で組織され、東京医労連に加盟する労働組合を敵視し、嫌悪していた。 そのため一九九六年以来、都労委にいくつもの不当労働行為救済申し立てがなされていたが、二〇〇〇年三月嘱託職員の雇い止めや組合の定年延長要求についての団体交渉拒否事件について、一部救済命令が発せられた。このような事態を受け、都労委側からの提案により、係争事件の全部の解決を視野に入れた労使間での事務折衝が行なわれることになった。

 この事務折衝は、二〇〇〇年七月から組合役員と病院の事務部長との間で継続的かつ精力的に行なわれ、回数を重ねるうちに実質上団体交渉の性格をもつようになっていった。そして、この事務折衝のなかで、二〇〇一年四月定年延長の問題の解決に向け、年度をおって段階的に定年延長を実施していく旨合意がなされたのである。もとより、合意内容を明確にする議事録が作成され、さらには、この間断続的に行なわれていた都労委の調査期日においても、経営側理事者や代理人弁護士が事務折衝経過のあらましや一定の合意がなされたこと等については了解をしている旨明言していたのであった。また、その後においても、そのような合意の存在を確認する議事録が何度か作成された。

 ところが、二〇〇一年の秋ころから経営側理事者はこのような合意を反古にするような対応をみせはじめたのである。

二 提訴と判決内容

 組合と事務部長間での事務折衝は通算では三〇回近くにも及んだが、経営側は、その到達点を一挙に葬り去ることにより、組合の弱体化をねらったものだということは明白であった。このような事態に対し、組合は、裁判所に損害賠償(慰謝料)請求訴訟を提起することにより、そのような経営側の姿勢を端的に断罪するという途を選んだのである。

 提訴後三年余を経てなされた判決は、経営側の責任を、事前の予想をはるかに超えて厳しく問うものであった。判決は、事態について支配介入とは認められないとしたが、不誠実団交としての不当労働行為の存在を明確に認定したうえ、経営側の組合に対する慰謝料支払義務が発生しているとしたのである。

 判決は、事務折衝ではあるものの実質上団体交渉に準ずるものとしての性格があり、事務折衝上の合意は一定の限度において労使双方を拘束するものとした。そのうえで、合意については理事会の承認がないのであるから合意は経営側を拘束しないとする経営側の主張について、「労働組合は、事務折衝における合意を前提として、内部的に今後の対応を協議したりするのであるから、(経営側としては、)事務折衝から近接した日に理事会の了承が得られなかったことを通知するなど特段の事情がない限りは、理事会の了承の有無にかかわらず、合意に拘束されるものと解すべきである」として、これを一蹴したのであった。

三 判決の意味など

 結局のところ、経営側は、組合と事務部長との間で交渉をやらせるだけやらせておき、一定の問題に関し本当に解決がつきそうになるや、これをぶち壊したということなのであり、そうした経営側の対応が判決によって厳しく批判されたということにほかならないであろう。その点では、経営側の組合弱体化という意図を実質上断罪したに等しい判決だと言いうる。

 また、不当労働行為と認定されたとしても、果たして慰謝料の支払義務の存在を肯定するか、また金額はどうなるかというところも問題点であったが、五〇万円という慰謝料金額も予想以上の高額であった。

 経営側は控訴したが、この判決を維持し、さらに明確に経営側の責任を明らかにする内容の高裁判決を獲得すべく頑張っていきたい。


「憲法九条は東北アジアNGOの会議でいかに話されているか

〜GPPAC東北アジア地域協議会in金剛山(北朝鮮)より」

東京支部  笹 本   潤

 国連が提唱したGPPAC(武力紛争予防のためのグローバルパートナーシップ)の東北アジアNGO会議が三月二日〜五日に北朝鮮の金剛山で開かれた。金剛山が選ばれたのは、東北アジア地域で焦眉の課題となっている南北朝鮮の統一にとって象徴的な場所だからだった。金剛山は、九〇年代から韓国の現代アサンという企業(ヒュンダイの系列会社)が北朝鮮政府と共同で南北共同開発の観光地事業にしようとしてきたところである。実際、金剛山は、険しい岩山があったり、仙台の松島のような点在する島があったりでここが日本海かと思わせるほどの絶景地だった。ソウルからバスで約六時間かけて、非武装地帯(DMZ)を超え、北朝鮮の憲兵が道ばたに点在する中、会議は開かれた。

 さて、会議の方は、日中韓、台湾、モンゴル、ロシアの六カ国の地域から代表が出席して、昨年七月にニューヨークで採択されたGPPAC「武力紛争予防のためのNGO世界提言」を受けて今後五年間の具体的計画を話しあった。(日本からは、ピースボート、君島、児玉教授、私が参加。日韓のマスコミも参加した)

 テーマとしては、朝鮮半島の統一の問題、日本憲法九条の問題、東北アジア非核地帯構想、日朝国交正常化問題、中台問題、ON-LINE FORUMの創設などが取り上げられた。

 会議の前日の三月一日はちょうど盧武鉉大統領が三・一独立運動記念日の演説を行った。その中で大統領が日本の憲法改正を警戒する旨の演説をしたことを、私は三月一日夜のNHK―BSで確認し、会議でそのことも伝えた。

 私の発言の趣旨は、「韓国でも憲法改正に警戒するくらいだから、ましてや北朝鮮が過剰に反応することは容易に想像できる。そうすれば朝鮮半島の統一の事業もうまく進まなくなる。中台問題においても軍事的な緊張が大きくなり東北アジア地域は不安定になる。九条改正はアジアで進んでいる米軍再編の流れの一環であり、日韓の米軍は対中国を想定しており、沖縄の海兵隊がフィリピンに移転することに日本政府は経済的援助を与えている。」というものだった。

韓国や台湾では昨年九条改正反対の集会を開いた経験から、「まだ九条の問題が自国では広く知られていないこと」や、「『九条世界会議』でなく自国の憲法に平和条項を取り入れていく運動を結集する場として『平和憲法世界会議』にしたらどうか」という発言があった。

 しかし、一方中国やモンゴルなどのNGOからは、やはり「アジアにおいて憲法九条は特別の意味がある」「九条が変えられようとしている緊急性もある」、韓国のNGOからも「アジアに対する約束としての九条は日本だけの問題ではない」「朝鮮半島統一後の指針としても九条の非武装理念は必要」などの発言も相次ぎ、結局名称は「九条世界会議」にするが、将来的に大きく東北アジア全体が平和憲法を持てるような運動を展開していくという大まかな合意が得られた。また米軍再編についてはフィリピンのNGOから「今の段階でもフィリピンの港は米軍が自由に使えるようなところまで進んでいる」との報告もあった。

 そして、九条に関する具体的行動として、今年一一月三日に公布六〇周年を記念して東北アジアNGOで一斉に記念イベントを開くことと、二〇〇八年に九条世界会議を東京で開くことが合意された。昨年取り組んだ意見広告については日本に持ち帰り協議して再提案することになった。

 まだまだ一般の市民にまでは九条の問題が知られていないことがわかったが、九条の問題をアジア全体の問題ととらえていることは参加者の共通認識になっていることもはっきりした。これから国際的世論を形成していく上では、もっとアジア各国に行って知らせていく必要があろう。

 その他、結局この会議には、北朝鮮のNGOの参加がなく、まだ北との溝の深さを感じさせられたが、「次回からは参加したい」との前向きの連絡もあり希望も感じられた。中国と台湾のNGOも同席したが、台湾を一つの国であることを前提とした発言には、中国のNGOが「Taiwan is not a coutry !」と間髪入れずに発言するなど緊迫した場面にも遭遇した。しかし、中国のNGOは会議終了後に「台湾のNGOと交流できたことは成果だった」と民間交流の大切さも語っていた。

 このように見てみると、九条を守り発展させていく上で、「北朝鮮脅威論」「中国脅威論」などの口実を与えさせないアジアの国際環境の整備がより重要であり、そのためにはアジア各国の法律家・市民の協力が不可欠であることもよりはっきりしてきたのではないか、と思う。

 グローバル九条キャンペーンのヨーロッパ訪問(三/一八〜二六、主催・国法協)についても帰国したら報告する予定。また、GPPAC東北アジア地域協議会の報告会は四月二二日(土)の予定。詳細はGPPAC JAPANのホームページで。


団長・坂本修があなたに語りかける

「憲法 その真実―光をどこにみるか」

神奈川支部  渡 辺 登 代 美

 編集者がいてくれて本当に良かった。誰かが、「先生、もうだめですよ。書き直しも追加もできません。」と厳しく言ってくれなければ、この本はまだ日の目を見られなかったかもしれない。一年前から「出るぞ」「出るぞ」と言いながらちっとも出なかった本。狼少年ならず「狼じいさん」などと呼ばれながらも、情勢が変わるたびに練り直し書き綴った、坂本さんからあなたへの長い手紙である。

 うちの事務所川崎合同では、「ともに闘う仲間同士が『先生』と呼び合うのはけしからん。」ということになっている。大先輩に対して恐縮ではあるが、私も改憲阻止闘争の一員に数えてもらうべく、あえて「坂本さん」と呼ばせてもらおう。

 「あなたへの手紙」というはしがきで始まる本書は、四つのパートに分かれている。

 パートT 渦巻く改憲策動―その到達点と国民世論

 パートU 自民党「新憲法草案」の徹底解明―改憲国家≠ヘ

      禍の大国

 パートV 憲法とは何か―私たちの宝=A輝く憲法

 パートW 光≠どこにみるか―未来は私たちで決めたい

 頭から読んでもいいし、興味のあるパートから読んでもいい。そして読んだ人、それぞれがそれぞれの受け止め方をすればいい。

 団員にとっては、学習会のレジュメをつくるときの参考資料として役に立つ。改憲策動の経過等、資料を引用しつつ、年月日もきちんと押えてある。この一冊から話したい部分を拾えばそれだけで学習会の講師ができる。これは実用的に役に立つ。

 改憲阻止闘争のためにがんばっている人には光を与える。坂本さんのすごいところは、この情勢の中で「光」を確信していることだ。運動を元気づけるため、というのではない。本当に書いた本人が、「ひとりひとりの大きな力」を確信し、「もうひとつの日本」をつくるというとてつもない夢を(失礼)真剣に夢見ているのだ(変な日本語だけど)。坂本さんは、「みんなが立ち上がり、声をあげ、力を合わせれば、夢≠ヘ必ず現実になるのです。」という。こんなことを堂々と文章にできるのは、坂本さんくらいしかいない。

改憲賛成だといっている人には、今めざされている「改憲」が、本当は「壊憲」であることを訴える。自分の住む、この国を悪くしようと思って「改憲」に賛成する人はいない。皆、憲法を変えれば現在の閉塞状況も変わるかもしれない、もっと暮らし易くなるかもしれない、と考えて「改憲」に賛成しているのである。坂本さんは、あなたが賛成しているのはこのような「壊憲」なのですよ、是非本当のことを知って下さい、そして考え直して下さいと訴える。

 この団通信を手にしている皆さん、少なくともパートWは読んで下さい。そして、坂本さんのいう「光」を、「夢」を、一緒にみて下さい。

 要するに、どのような人にも読んでもらいたい、坂本さんからの熱い熱いメッセージなのだ。

三 「余命いくばくもない私が・・・」いつもの口調で坂本さんが話し出す。会場は笑いに包まれつつも、参加者は真剣に耳を傾ける。 二月二八日の川崎市内「九条の会」、「春の学習と交流のつどい」でのこと。坂本さんの講演の後の会場発言。「私は、老人施設に入っています。施設の中で憲法改悪反対の署名を集めています。」という女性。なんと、九二歳>たかだか七三歳の坂本さんは、この後「余命」の話をするのをやめたとか。

 この人がこの時期に自由法曹団の団長であってくれて本当によかった、と思える本である。坂本さんじゃあないけど、もっとあれもこれも紹介して書きたくなってしまうのに書き切れない。でも坂本さん、この原稿は添削しちゃあダメですよ。


リーフ・署名用紙を活用して代用監獄廃止運動を!

警察問題委員会担当次長  松 本 恵 美 子

 未決拘禁法案が三月一三日、国会に提出されました。この法案は、代用監獄(警察留置場)で被疑者・被告人の拘禁を続けることを正面から認める内容となっており、代用監獄廃止の運動をただちに強めなければなりません。しかし、代用監獄がえん罪や人権侵害の温床であることさえ、多くの国民には知られていません。

 そこで、代用監獄の問題点を知ってもらったうえで早急に反対運動を広めるために、自由法曹団は、国民救援会、全労連と共に、わかりやすいリーフレットと署名用紙を作成しました。リーフレットと署名用紙は、団のホームページにも掲載します。今すぐ、代用監獄廃止の運動に取り組みましょう。

 また、代用監獄の実態についての調査も行い、代用監獄廃止運動に反映させることになりました。問題事例を経験された団員は、団のホームページに掲載されている「代用監獄実態調査票」を使用して、ぜひ団本部宛にご報告ください。